ムーンライター 辺境の鍛冶屋   作:紅河

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第21話 決着とその後

 ぶち込んでやった。

 これで流石に生きてはないだろ……。

 

 うわぁ、自分でやっといてなんだけど…ドロドロに鎧が熔けてる。焼け死んでる感じかなこれ。それにしても火耐性のない重装装備だったんかな。だとしたら御愁傷様だな。人から奪ってきた報いだ。あの世で懺悔しとけ。

 

「やったか?」

「多分な」

「多分では困る」

 

 ゴブリンスレイヤーのその言い分は最もだ。

 

「確認するか?」

「……そうだな」

「確認はお二人に任せてよろしいですかな?」

 

 と言って、蜥蜴僧侶さんは捕虜の死体へ向かっていった。弔いの準備をしてくれるらしい。助かります。

 さて俺とゴブリンスレイヤーはゴブリンジェネラルの死体を確認だ。死んでるとは思うが念には念をってな。

 

 うわぁ…鉄が熔け赤く光っている。いつも仕事で見ている光景ではあるが…今回ばかりは綺麗とは思えない。嫌な感じだ。

 

 再びクナイを携え、ゴブリンジェネラルの首に刃を押し込んだ。これで息の根は止まっただろう。

 

「死んだか」

「ああ」

 

 2人で死体を確認し終えると、聞き慣れた声が飛んできた。

 

「どう? ゴブリンジェネラルちゃんと死んでる?」

 

 2階で援護していた妖精弓手さん達だ。

 

「ああ」

「なら良かった」

 

 やっと終わったと言わんばかりのポーズを取る妖精弓手さん。この人が居なければ俺は死んでいたかもしれない。

 あとで何かお礼をしなければ。

 

「先程は助かりました」

「気にしなくていいのよ? 仲間じゃない」

 

 そう返す妖精弓手さんの顔は綺麗な笑顔だった。

 

「街に帰ったらなにかお礼をさせてください」

「フフッ、楽しみにしておくわね」

「無茶な要求はしないようにするのじゃぞ? 耳長娘……」

「アンタは私をなんだと思ってるのよ!」

 

 フフッ、いつもの問答だ。なんか安心するな。この2人を見ていると。

 あれ? 女神官さんの姿がない? ああ、蜥蜴僧侶さんを手伝っているのか。あの子は優しい子だものな。

 

 砦にあった布で捕虜の死体を包みこみ、これ以上の傷が付かぬよう丁寧に仕事をしているようだ。俺には彼女らにしてあげることはなにもない。せめて安らかな眠りを願ってやることだけだ。

 

 程なくして、2人が戻ってきた。

 

「……最低限の準備はしておきました」

「あとは領地の方にお願いするしかありますまい」

「そうですね」

 

 特に女神官さんの顔は優れない。遠目ではあるが捕虜の人達はかなりいたぶられていたようだったしな……。無理もない。

 せめて祈りだけは済ませようと女神官さんが、不意に切り出し俺たちはそれに同意した。軽く死者への祈りを済ませるのだった。

 

「帰還するぞ」

 

 ゴブリンスレイヤーが真っ先に入り口へ向かい、それに女神官さん、妖精弓手さんが続く形となった。残った俺たちは殿を勤めつつ、遅れないように3人を追った。

 

 ああ…気分が優れない。

 ゴブリン退治は夜間に行うのが常識。そのためか、完徹は必至なんだよな……。今すぐにでも仮眠を取りたい…。依頼主の彼女に頼んでみるかな。

 

 今後の予定を考えながら、俺は屋敷への歩みを早めるのだった。

 

 しばらくして、何事もなく屋敷へと到着。依頼主の彼女へことの顛末を話さなくてはな。

 厳つい門番へ話を通し、依頼主さんの元へ。ここに到着時と同様に、彼女は奥から優雅に姿を現した。俺達を見るや否や彼女は「無事でよかった」とホッと胸を撫で下ろした様子だ。

 俺達はそのまま客間へと通され、砦であったことを報告。

 砦はゴブリンジェネラルの巣であったこと。

 捕虜が死亡していたこと。

 もろもろをそのままに。

 

 彼女はゴブリンの所業に、一瞬青ざめながらも最後まで耳を傾けていた。ゴブリンの名なんて冒険者以来聞いてないだろうし、今後の人生にも関わってほしくない名前筆頭だ。彼女には幸福に過ごしてもらいたい。幸せを願うばかりだ。

 

 捕虜の話になり、蜥蜴僧侶さんが弔いについての話を切り出した。葬儀を受け持ってくれないかと。彼女は快く承諾。領民たちと協力して事に当たるそうだ。向かうのなら付き合いましょうか? と女神官さんが提案するも。

 

「提案はありがたいですがお断りさせていただきますわ」

 

 彼女はキッパリと断った。彼女が手で叩くとどこからともなく執事さんが颯爽と現れた。あ、この前の…。以前、辺境の街に来られたときにお会いした方だ。

 

「ハッ!」

「すぐに人を集めて。砦に向かってください」

「畏まりました」

 

 早速、執事と領民に指示を出し砦へと向かわせた。執事さんがそういうといそいそと客間を出ていってしまった。既に準備させていたみたいだな。相変わらず用意がいい。

 それから、程なくしてメイドさんが客間に入ってきた。何か袋を台車で運びながら。あの台車は料理などを運ぶときに使用するものだろうと察せられた。

 

「こちらが報酬金になりますわ」

 

 彼女が俺たちの前に報酬金とおぼしき袋を6つ差し出した。

 大きさは中くらいの袋だ。触ってみるとずっしりと重い。中身を確認すると金貨は入っていないものの、銅貨と銀貨がたんまりと入っているようだ。ゴブリン退治としては破格の報酬金と言えるだろう。

 

「こんなに良いんですか?」

 

 と、俺が問うと彼女はこう告げた。

 

「構いませんわ。あなた方は全うに仕事をしてくれたました。その対価を支払ったまでですわ」

 

 なんて気前の良い人なんだ。

 そこまでする必要はないって思うんだが…。貴族だからか? にしても凄い量だけど…。6人分の報酬にしても多いほうだ。

 

「それじゃ、有り難く受け取っておきます」

「そうして下さいな」

 

 付け加えるように彼女は俺たちにこう告げた。

 

「生憎、馬車は切らしておりますのでしばらくの間屋敷で休んでいってくださいまし」

 

 彼女は元冒険者。俺たちが完徹してボロボロであることを見抜いているからこそ、このようなことを提案しているのだろう。

 

「…有り難くそのご厚意に甘えるとしよう」

 

 ゴブリンスレイヤーが彼女へ伝えた。

 その答えに対し、依頼者の彼女は賑やかな笑顔で受け入れた。俺たちはメイドさんに連れられ、客専用の寝室へ案内された。

 メイドさんの説明では男女別に部屋を用意しているらしい。そのため男子と女子に別れ、それぞれの部屋で過ごすことになった。

 

 部屋はやや広く、4人で過ごすにはちょうどいい広さだ。壁紙は明るい朱色で床も壁紙に合わせ、違和感がないように作られている。他の装飾品は壁に風景画が飾られているくらい。ベッドの脇に小さなテーブル。その上にキャンドル。といった具合だ。ベッドはちょうど4つづつ。

 俺は窓際の奥のベッドにした。鎧を脱いで、一張羅になったところで柔らかいベッドに飛び込んだ。

 

 1時間半後。俺は蜥蜴僧侶さんに叩かれ起こされた。どうやらベッドに入るや否や、俺は睡魔に襲われたらしい。ぐっすりだった。家に帰ったら寝直そう。

 蜥蜴僧侶さんが起こした理由としては、街に帰る馬車が到着したようだ。

 寝ていたのは俺が最後らしく、すぐさま帰る準備をしみんなの待つ入口へと急いだ。いや、面目ない。

 

 依頼主である女性神官さんに最後の挨拶を済ませ、俺たちは拠点である辺境の街へ帰還した。

 

 

 

 数日が経った昼下がり。いつものように息抜きがてらギルドの椅子に座り、冒険者たちの日常風景を眺めていた。が、それは不意に訪れた。

 何者からか肩を叩かれた。俺が振り向くと自分の頬に指を押し付けられているようだ。

 

「あっ引っ掛かった~」

 

 イタズラの主は陽気な声で賑やかな笑顔を振り撒いている。長髪のギルド嬢さんだった。

 

「……なにか用です?」

「普通の反応だねぇ」

 

 なんか勝手にイタズラしてきて、つまんなそうな顔された……。なんなんだよ、もう。

 

「普通はうひゃ! とか奇声あげるものじゃない?」

「逆に誰があげるんです? それ」

「あの子」

 

 そういうと受付のほうに指を刺す。そこにはゴブリンスレイヤー担当と言うべき、お団子頭の受付嬢さんが仕事をしている。あの人か。なんか納得してしまった。

 

「それで、イタズラをしたいから俺のところへ?」

「半分はそうだけど、これを渡したくて」

 

 半分はそうなのかよ。

 って、手紙?

 

「手紙ですか」

「うん」

 

 宛先はあの女性神官さんのようだ。この前の依頼主さんだ。

 

「わざわざありがとうございます」

「ところでその差出人は…」

「前の依頼者です。筆跡が間違ってなければ」

 

 俺がそう告げると彼女は「なるほど。そういう」とだけ言った。受付嬢を長くやっているとこういうことは日常茶飯事なのだろう。慣れてるな。

 

「なら、帰って読みますかね」

 

 俺はスッと椅子から立ち上がる。

 

「もう行くの?」

 

 ちょっと残念そうな長髪の受付嬢さん。

 

「ええ。鍛冶屋の仕事も片付けなきゃいけないので」

「そっか。…それじゃまたね」

「また」

 

 軽い別れの挨拶を済ませ、俺は帰路に立つ。その足取りは意外にも早いように感じていた。それはきっと、手紙を貰ったからだろう。

 なんの変哲もない手紙。他の冒険者でも良くあることだ。村娘を助けてお礼の気持ちとして手紙を受け取るなんて、良くある話。今回もそれに過ぎない。けれど、昔憧れていた人物から手紙を貰ったとなれば、嬉しくなって当然と言えた。

 

 そんなことを考えていたらあっという間に自宅前に到着していた。

 ドアノブを回し慣れ親しんだ自宅に踏み入れる。いつもの匂い。嗅ぐと落ち着く気がする。これが帰ってくる場所なんだなと改めて認識していた。

 そういえば、あれから女性神官さんの領地はどうなったのだろう。砦の管理なんかは進んでいるのだろうか。もしかしたら、この手紙に進捗状況が書いてあるかもな。早速、読んでみるか。

 

 俺はいそいそと寝室へ向かった。机に座り雑嚢から手紙を取り出す。

 封を開け手紙の内容を確認すると……。

 

「拝啓 ムーンライター様 

 初夏が目覚ましい季節となりましたが、いかがお過ごしですか? きっと、鍛冶に冒険に活躍中でございましょう。領地の砦の小鬼を仕留めていただき、誠にありがとうございました。あなた様とご一行様が依頼を受けてくださらなければ、もっと悲惨な状況になっていたことでしょう。心よりお礼申し上げます。あれからは小鬼の姿もなく、こちらは平和なものにございます。

 以前、話しました通り遺族の方々に連絡を致しました。すぐ来られるそうです。この手紙があなた様に届く頃には、お墓参りは済んでいることでしょう…。

 今度、あなた様にお依頼をするときは明るい依頼でありたいものです。

 

 それではまた…あなた様とゴブリンスレイヤー様ご一行にお会いできる日を楽しみしておりますね。                 

                    敬具」

 

 そうか。ご遺族の方は家族に会えたのか。なら良かった。依頼達成後もそれだけが気がかりだったからな。何よりだ。

 俺も手紙を書いてみるかな。けど、彼女に書くわけにはいかない。相手は人妻だぞ。せめて、友人の人にだな。友人……友人……。遠くにいる友人が居ないな…。はぁ、なら今は諦めるか。

 

 さてと! 仕事に向かうか!

 今日の仕事は小太刀数本仕上げること! 売れてたみたいだからな。補充しておかないと。

 クローゼットから作業着を取り出し、それに着替える。着替えをささっと済ませ、陽気な足取りで仕事場へ俺は向かう。そんなこんなで俺は工房に足を踏み入れ、嗅ぎ慣れた炭の匂いが鼻腔を抜ける。

 これだよこれ。仕事に取りかかろう。俺にしか出来ないことを

 俺の仕事は鍛冶屋と冒険稼業。それを両立してこそ、真の仕事人というもの。さあ、やるぞぉー! 俺は気合いを入れてパチンと頬を叩いたのだった。

 

  

 

 




今回で一端の終幕です。読んでくださりありがとうございました!
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