松明をつけ、地下へと進む。
前衛はゴブリンスレイヤー、中央が女神官さん、殿が俺といった布陣だ。地下へと進む仮定で、松明も壁に飾ってあった。ちょうど良い、それに火を付けつつ、着々と深い闇へ降りていく。
「この先にゴブリンがいるのでしょうか?」
「おそらくそうだろう。いつでも戦えるよう準備をしておけ」
「はい」
女神官さんは強く杖を握る。やはり、新米とはいえこういう雰囲気は恐怖でしかないのだろう。体が震えていた。
「大丈夫だよ、俺達もいる。君は自分の出来ることだけに意識するんだ」
「分かりました」
俺の言葉に安心したのか、少し震えが止まったようだ。
時間はどれほど経っただろう? 少なくとも体内時間、7分くらいだろうか?長いようで短い。そんな気分だ。
暗さに目が慣れてきたのか、部屋に通ずる道をやっとこさ、視認することが出来た。遺跡内の入口が顔を覗かせる。
「もうすぐ到着だ。おい、お前の奇跡の中に、なんと言ったか…」
「式神のことか?」
「それだ。用意してくれ」
「式神?」
女神官さんが聞き慣れない単語に疑問を浮かべている。
「式神っていって、まぁ見せたほうが早いか。ちょっと待ってな」
俺達は入口から少しばかり離れ、俺は術の準備を始める。
雑嚢から一枚の紋様の札を取り出し、人差し指と中指で挟み込み、顔の前へと持ってくる。そして、呪文を口にする。
「《我らを照らす、偉大なる神よ。どうか我に、紙の分身を与えたもう…》」
と、口にすると紙から俺と瓜二つの人間が姿を現した。額に札を付けると、式神がじっと俺のほうを見つめてくる。
「凄い。これが式神」
「だろ? で、これでなにをするんだ?」
「コイツを持たせて、突っ込ませる」
ゴブリンスレイヤーの手には一本の松明。その意図に何となく察しがついた。囮ということか。
「了解。あとは武器でも持たせるか?」
「頼む。それからこの札は後ろに付けることは出来るか?」
「それは可能だが……」
「なるべく、人に見せたい。札は邪魔だ」
ゴブリンスレイヤーの指示に従い、前から見えない位置にお札を張り直し、式神へ命令を送る。武器を持たせるのも忘れずに。
「よし」
「あの、私は?」
「お前はまだ温存だ。とっておけ」
「分かりました」
こくりと女神官さんが頷いた。
俺は兜を外し入口前にゆっくりと近づき、耳を当てると、愚痴のような喋り声がドア越しに聞こえてくる。やはり、ここに来る時同様、ゴブリンが門番をしているようだ。
「ゴブリンだ。二匹ほどいるみたいだな」
「俺が二匹とも潰す」
「いけるのか?」
「ああ」
「危なくなったらフォローはする」
「気を付けてくださいね」
「分かっている。なるべく息を潜めろ」
ゴブリンスレイヤーがそう言い、俺達は頷きで返す。女神官さんもゴブリンスレイヤーの作戦に察しがついたみたいだった。
俺は指示通り、式神に命令する。
式神がドアノブに手を掛け、ゆっくりと回していく。その異変にゴブリンども気付いたのだろうか?
緊張感が俺達一行にほとばしる。胸が高鳴りつつ、顔には汗が滴っている。
キィィィィ…と、木製ドアの軋む音が不気味に響く。それに乗じて、ゴブリンどもの声も俺達の耳へ届くのだった。
「GOROB?」
「GBOOR!GBROO!」
獲物だ! 獲物が来たぞ!とでも言っているのだろうか? ゴブリンどもの顔が目に浮かぶようだ。
完全にドアが開かれ、ゴブリンどもが武器を持って式神へ襲いかかってくる!
「GROOB!」
と、ゴブリンが意気がっていると、ゴブリンスレイヤーが走り出し、今度はゴブリンに目掛けて小剣を突き刺そうとする。
意表をつかれたのか、油断していたゴブリンへ命中。ゴブリンの頭にぶっ刺さったのが見えた。
「GORRBOOO!?」
醜い悲鳴とともに片割れは絶命。
「三つ」
ゴブリンスレイヤーがそう呟き、報復しようと、もう一匹のゴブリンが棍棒を頭目掛けて、振りかざそうとしてくる。
ドカッ! ドンッ!と衝撃音と頭が潰れたような鈍い音が聞こえる。襲ってきたゴブリンを返り討ちにしたのか?
「これで四つ。終わったぞ」
ゴブリンスレイヤーが俺達へ合図し、彼の元へ。そこには二匹のゴブリンが横たわり、片っ方は壁にぶっ飛ばされ、頭を潰されている。見事なお手前で。
「やるもんだな」
「不意をついただけだ。誰でも出来る」
「そうかよ」
「お前、奇跡はあと何回使える?」
今後の確認をしたいのだろう。そう聞いてきたゴブリンスレイヤーにあと二回と返したのだった。
「そうか。分かった」
またもや、シンプルに返すだけ。つまらない返しだが、ここは戦場だ。そのほうがやり易くはあった。
「式神、凄いですね。普段でも便利そう」
「使用するには札っていう媒体がいるけどね」
俺は落ちた札を拾い、雑嚢へしまう。
「ゴブリンスレイヤー、この後はどうする? 奥へ行ってみるか?」
「もちろんだ。ゴブリンどもを殲滅させなければならん」
周りを見やると階段同様、松明が置いてある。俺達は火を付け、周囲の確認を図る。
すると、この部屋は奥へと続く繋ぎのような場所だった。ゴブリンの巣は扉の向こうのようで、扉を開け、奥へと進んでいく。
まず、広がってきたのは石畳で造られた部屋部屋だ。奥へ続く廊下に向かい合いながら、部屋が備わっていた。俺達は二手に別れて部屋を潰して行くことにした。
ゴブリンスレイヤーと女神官さん、そして俺は一人。向かい部屋はゴブリンスレイヤー達、俺は左手の部屋を潰すことに。木造の扉を開け、中へ恐る恐る足を踏み入れる。
埃まみれの部屋。辺りには本や資料などが散在されている。
部屋には本棚、研究机とおぼしき物が置いてある。どうやらここは、魔法使いが生前使っていたであろう書斎のようだ。遺跡の調査でもしていたか?
期待していた俺は何か手懸かりがないか探りはじめた。決してクエストのことを忘れた訳じゃない。遺跡の地図とかあるかもしれないからと、自分に言い訳をしつつ、部屋中をくまなく探すことにしたのだった。
机に突っ伏しているマントを広げると、人の骸骨が顔を出す。住んでいた魔法使いだろう。見事に死んでいる。生きていたら化け物か。ん? 来た時には見えなかったが、羽ペンが握られている。なにかを書いていたのか?
「これは…!」
魔法使いの手を退けると、1枚の紙が隠されていた。
ん? 紙の下に何かあるぞ。これは古ぼけた押し花……? しかも花は水仙みたいだな。確か、腕輪を見つけた近くにも水仙が咲いていたような……。この人、そこから来たのか? もしかするともしかするかも知れないな、これ。
中身を読んでみると……。
そこに書かれていたのは水晶玉を腕輪にはめ込むことで、腕輪が完成するというものだった。それ以外にも巻物食いや腕輪らしき絵柄も発見できる。
やっとの思いで見つけた手懸かりに思わず、俺は握り拳を作ってしまう。
諦めずに付近の探索を続けると、机の引き出しの奥からコロコロと、丸い物が二つ転がってくる。それらは小ぶりな赤い色のした水晶玉と、同じ大きさの無地の水晶玉だった。
「綺麗な水晶玉だな」
これは一体……?
大きさは腕輪の窪みくらいあるけど……。
まさか!?
「これをはめ込むのか?」
好奇心が抑えられず、腕装備を外し赤い方の水晶玉を腕輪の穴にはめ込んでみると、ガチャン! と綺麗にハマったではないか。
思った通り、腕輪の残り部分のだったようだ。テンションが上がり、心の内ではまるでパーティーが開催されているかのようなそんな状態になる。
他にも何かないか調べていると、一つの地図を別の引き出しから見つけることが出来た。
「これは遺跡の地図?」
俺は部屋の探索を進める。ところが、見つかるのは魔法の研究資料ばかり。
ふむ。これ以上は何もなさそうだな。俺は探索を終わらせ、急ぎ装備を整えて二人の元へ向かうことにした。
目の前の部屋を探索している二人。運が良いのかほぼ同時に部屋から出てくるのだった。
「そっちは終わったのかい?」
「はい。なにやら仕掛けのようなものがここにあるらしくて」
「仕掛け?」
ゴブリンスレイヤーが見せてくれたのは、大きな罠部屋の設計図だった。しかも間取りは俺達のいるこの廊下にそっくりだ。
「ここってこの廊下だよな?」
「多分、そうだと思います」
「この設計図が本当なら、この下に針の山がある」
「んで、入口には罠を起動させる鎖があると」
「そうみたいです。そちらには何があったんですか?」
女神官さんが結果を聞いてくる。
「地図と水晶玉が2つあった」
「地図と水晶玉?」
「地図は遺跡の地図だと思う。ここを見てくれ」
「ここは私たちのいる廊下で、そっちは入ってきたところですね」
「そうか。朗報だな」
3人で地図を確認し、場所を把握する。廊下の奥の部屋は食堂のようだ。間取りも広い。ゴブリンスレイヤーがいうには、おそらくここでゴブリンどもは宴をしているだろうとのことだ。
「その水晶玉というのは?」
「多分、俺が以前から探してたものかな」
と、俺が報告するとパァッと女神官さんの表情が明るくなる。
「おめでとうございます!良かったですね!」
「ありがとう。手がかりが見つかってなによりだよ」
喜び合いながら、俺達はさっそく、一旦来た道を戻ることに。
右奥の壁に鎖の束が置いてある。これが起動スイッチのようだ。さっきは暗すぎて見えていなかったみたいだ。
「これですね」
「にしてもなにに使うんだろうな、この罠」
「さぁな。検討もつかん」
「ゴブリンはなぜ、これに気付かなかったんでしょう?」
それもそうだ。なにか罠をはっててもおかしくはないが…。
「ゴブリンはここの巣に来たばかりだとは話したな」
「というと?」
「この遺跡? にゴブリンが住み慣れたならば、鳴子が置かれているはずだ」
そういや、道中はそんなもの見かけなかったな。
「ありませんでしたね」
「来たばかりで鳴子を設置する余裕がなかったってことか」
ゴブリンスレイヤーがこくりと頷く。ゴブリンスレイヤーはこうも続ける。
「それにアイツらは児戯で四肢を切断した死体を罠に使ったりはするが、あくまでも自分達で弄びたいのだろう。こういったものは、誰かに教わん限り使わん」
「………っ」
「そんなことやってんのかよ、アイツら…」
女神官さんの表情を見なくても分かる。きっと、ゴブリン達の行為にドン引きをしているのだ。かくいう俺もそうだ。
「やっぱ、ゴブリンは駆逐せんとまずいな」
「そうだ」
俺達はゴブリンへの殺意を押し殺し、残りの部屋を調べ尽くすことに。残りの部屋は4ヶ所。きっちり調べないとな。
1ヶ所はゴブリンの便所と化していた。酷い臭いでたまったものじゃない。鼻がひん曲がりそうだ……。しかし、ここには何もない。
2ヶ所目も空振り。いくつかベッドが置かれ、まるで宿屋のような部屋だった。しかし、ここにもゴブリンはいない。
3ヶ所目は倉庫らしき部屋であった。そこには武器やら日用品が置いてある。壁をよく見ると鍵がかけてある。これは部屋の鍵だろうか?試しに魔法使いの部屋で試してみると、どうやらそのようだ。全て試してみるとマスターキーのようで、扉を閉めることが出来た。これは思わぬ収穫だ。
4ヶ所目にはなんと、一人の女性が鎖で繋がれていた。部屋は質素な作りの部屋で、前の拠点から連れてきた孕み袋だろうとゴブリンスレイヤーが言う。 彼女の身体にはさんざんゴブリンに弄ばれたであろう傷が、たんまりと付いてあった。言葉はかろうじて通じるようで、俺達が助けに来た冒険者であることを知ると、「助けて!ここから出して!」と懇願してきた。
女神官さんがヒールを使用し彼女の傷を癒し、書留を式神に持たせ、近くの農村を彼女を送ることにした。
正直、ゴブリン退治がこんなにキツイとは露程思ってはいなかった。自分の考えが甘かったと痛感させられる。そんな俺の心情とは裏腹に、クライマックスは着々と歩み寄ってくる。
そして、俺達は本陣へと乗り込むことになるのだった。