ギルド内。時間は夕刻。ガヤガヤと冒険者達の喧騒が木霊する。俺はギルドのテーブルでいつも通り、物思いに耽っていた。早めに冒険者としての仕事を切り上げ、今日は休もうとしていた矢先、後ろから声をかけられる。
「アンタがムーンライター?」
鈴を転がすような声。声の主のほうへ振り返ると、フードを被った野伏が腕を組みながら俺の言葉を待っている。緑を基調とした軽装で身を包み、声からして女性だと推察できた。
「そうだけど、あなたは?」
「私はこういうものよ!」
バッとフード脱ぐと、長い耳と翠色の頭髪に整った顔立ち、瞬時にエルフだと察する。
エルフなんて、長いこと冒険者やってきて、初めてみたな。
「エルフさんが俺になにか用ですか?」
「オルクボルグ達からアンタのことを聞いてね! 1つ挨拶しとこうと思って」
これはこれはご丁寧に。
「ゴブリンスレイヤー達の知り合いですか」
「知り合いじゃないわ! 仲間よ!」
仲間? もしかして、新たなパーティーメンバーなのか? 俺がそう聞くと、そうよ! と彼女は強く断言するのだった。
「アンタも一党メンバーなんでしょ? なら、挨拶をと思ってね!」
「これこれ、耳長娘。初対面でそんなに強くいうものじゃないわい」
「まぁまぁ、野伏殿らしいではありませぬか」
次から次へとなんだ?
白を基調とした服装に身を包み、髭をたんまりと蓄えた恰幅の老人。かたや、肌色の僧侶服に身にまとう鱗の男性。2人とも首には銀等級の証がかけられてある。エルフさんもだな。
エルフさんにドワーフさんにリザードマンさん。
なんとまぁ、珍しい組み合わせ。この人達がゴブリンスレイヤー達の一党なのか?俺の疑問は尽きなかったが、成り行きに身を任せることにした。
「一党メンバーってわけじゃないですよ」
「嘘ね! だって1度組んでたんでしょ?」
「それは、まぁ」
「なら、それは仲間っていうの! 宜しくね!」
なんか、強引なエルフさんだな……。
バッと右手を差し出す。握手を求めてるみたいだ。否定する必要はないな。
「よ、よろしく」
ブンブン! と握手を交わし、俺の隣へドカッと座り込んでくる。どこまでも強引な人のようだ。
「相席よろしいですかな?」
リザードマンさんが同意を求めてくる。
「それは構わないですけど……」
「それじゃ、失礼」
俺の真ん前にドワーフさん、エルフさんの前にリザードマンさん。なんともはや、端から見たら異様な光景だろう。こういう種族が居るとは聞いていたけど、あまりここでは見かけないから、どうしても緊張してしまうな。
軽く食事をと、リザードマンさんが料理を頼む。あれやこれやとあっという間に、俺の息抜きが飲み会へと様変わり。続々と料理が運び込まれ、肉料理、チーズやら酒やら、酒池肉林とまではいかないものの、豪華な食卓となった。
そこでお互いの自己紹介を軽く済ませた。どうやら、ドワーフさんは珍しく呪文遣いらしい。大抵は近接タイプの戦士が多いんだとか。リザードマンさんは見た目通りの僧侶で、将来は龍?になりたいそうだ。エルフさんはエルフはエルフでも上森人という種族らしい。なんでも、老衰で死ぬことがないとのこと。
羨ましいと同時に退屈しそうだなとも、葡萄ジュースを口にしながら、話を聞いていた。
「それで? ムーンライターっていうからには別の職業と兼任してるんでしょ?」
「そうですけど」
「何の職業してるの?」
ドワーフさんの前であんま言いたくはないけど、これも仕方ないと割り切るか。俺は包み隠さず、職業を明かすことにした。
「鍛冶屋です」
「なんと!」
「ドワーフの前で堂々明かすとは……。お主、なかなか肝が据わっとるのぉ」
「ええ……。鍛冶屋なのぉ?」
リアクションも三者三様。ここまで反応変わるもんかね。
「それじゃなにか? その兜や甲冑もお前さんの手作りちゅーことか?」
そうですと返す。
「ふーん、器用なものね」
「いやはや、見事なお手前で」
素直に感心された。なかなか嬉しいものだな。
鉱人道士さんがちょっと見せてくれというので、手甲を貸してあげることに。
本物の鉱人道士さんに見てもらうのは初めてだ。なんか緊張するなぁ。どんな評価が下されるのか……。自分の心の奥底で、心配ゲージがドンドン上がって行く。
「ほい、ありがとうな」
「で、どうだったのよ? アンタも気になるんでしょ?」
「それは、まあ……」
「若造にしては良く出来てるわい」
「ほ、本当ですか?」
鉱人道士さんの一言に、ホッと胸を撫で下ろした。
「嘘言ってるんじゃないわよね?」
「バカもん。嘘で誤魔化してもしゃーないわい」
「然り、然り」
鉱人道士さんに見せてくれと言われた時は何事かと思ったよ。無事に済んで何より。
「荒削りではあるが、問題はなかろうて」
「ドワーフさんからそう言って頂けるなんて、光栄です」
俺の鍛冶の腕も上がったってことで良いのかな。いや、慢心はダメか。このまま続けよう。
「給仕殿! チーズを1つ!」
「はーい! ただいまー」
蜥蜴僧侶さんはチーズを口にしては「甘露!」と震えている。そんなに美味しいのだろうか? 俺も嫌いではないが、あそこまで露骨に反応はしない。相当、チーズがお気に入りのようだ。
「そういや、お前さん。好物はなにかあるのか?」
「俺は……肉料理が好きですね」
「肉ぅ!? 野菜とか食べなさいよ!」
「野菜も好きですけど、それよりかは肉です」
「ガッハッハ! 細っこい見た目で肉が好きとはのぉ!」
あの柔らかな食感と、噛みしめた瞬間に溢れ出る旨味、それが堪らなく好きなんだ。
「チーズと一緒に食べるといいですぞ」
ほほう。それはまだ試していなかったな。
「なら、今度試しますね」
「お試しあれですぞ」
一頻り、食事を楽しんだ後、俺は3人と惜しみそうに別れるのだった。あそこまで楽しい食事は久し振り。また食卓を囲めるといいな。
◇◇◇◇◇
あれから、数日が経ったある日。
今日はあいにくの曇り空。
太陽が恋しい日に、俺はクエストへ赴いていた。
巻物探しと魔法の腕輪のため、それらしきクエストを受けていたのだが……。
「今日も空振りかぁ……」
ガクッと肩を落とす。
あれから何度かクエストに出てはいるものの、成果はなし。やはり、巻物のは貴重品らしく滅多なことでは見つからないらしい。
「成果はこれだけか」
握られている手のひらには銀貨数十枚と鉄鉱石数個。しょっぱい……。
俺が受けたのは未探索の塔の調査クエストであった。しかし、行ってみたらとんだ拍子抜け。見事にもぬけの殻。しかも、荒らされてた痕跡ありと来たもんだ。
既に荒らされてたってことは推察するに、十中八九、山賊かゴブリンの仕業だろう。
ちくしょう! お宝を奪っていきやがって! ギルド側が無報酬の調査をさせるとも思えないし……。
はぁ……。落ち込んでても仕方ない。さくっとギルドへ報告に行こう。俺は近くの農村へ歩みを進めた。畑が並ぶ田舎の村。そこが中継地点であった。
目的地には馬車で向かっていたからか、近くの農村に迎えが到着している。時間ぴったりだな。しかし、迎えの馬車なら一台のはず。なのに、村にはもう一台の馬車が……。
ん?なにやら、荷物も運び込まれている。
「あれは人か?」
その荷台には女性ばかりが乗っている。フードを被り、体育座りで外のことなど我関せずという状態だ。
なるほど。そういうことか。あれは……ゴブリンの被害者か。この村の出身者なのだろう。こうして被害者を間近で見ると、キツいもんがあるな。異様に生々しい……。しかし、俺にはどうすることも出来ない。強いて言えば、彼女らの今後の多幸を祈るばかりだった……。
俺は重い足取りで馬車へ乗り込んだ。
数時間馬車に揺られ、我が拠点へ帰還する。
報告がてら、ギルドへ。
冒険者の喧騒の絶えないギルドだなぁ。いや、賑やかなのは良いことなんだけどさ。
さてと、報告報告っと。受付へ向かい、今日のクエストを報告することに。いつもの受付嬢さんとのやり取り。代わり映えしないやり取りに、落ち着きを感じてしまう。「ご苦労様~」と労いの言葉を賜り、クエストの道中で暗い気持ちが嘘のように晴れやかになる。
これが受付嬢さんの力なのだろう。これがあるから冒険者は頑張れるというもの。報告を終らせ、窓際の丸テーブルへ向かうと、一人の男性が立ち尽くしている。
俺はその男に話しかけた。
「よっ!」
その男は油で汚したであろう甲冑に身を包み、最低限の装備だけで整えた銀等級の冒険者。誰が見ても新人と言うだろう。そんな風貌だ。
「ああ、お前か」
男はぶっきらぼうにそう呟いてみせた。
「それだけかよ。久し振りに会ったってのに」
男はゴブリンスレイヤー。雑魚狩り専門と他の冒険者からはレッテルを張られ、嘲笑されている銀等級の冒険者。
ゴブリンスレイヤーと会うのは遺跡調査クエスト以来。ともかく無事で何よりだ。
「仕方あるまい。他にどう言えばいい」
「久し振りとか、元気だったか、とか」
「ふむ……」
今日は女神官さんとは一緒じゃないのだろうか?
「あー! オルクボルグ! 来てるなら挨拶ぐらいしなさいってば!」
なにやら、騒がしい声が耳に届く。この前会ったエルフさんの声だ。
彼女が颯爽と現れ、トコトコとこちらへ歩み寄る。
「ムーンライターも一緒じゃない! 珍しいわねぇ」
「なんだ、知っているのか」
「そうよ! 私たち一党の仲間なんだもの。当たり前でしょ?」
「そうなのか?」
と、俺にゴブリンスレイヤーが顔を向ける。
「俺に聞かないでくれ」
「だって、ムーンライターとパーティー組んだことあるのよね?」
「ああ」
「なら、この子もパーティーの一員よ」
野伏さんが俺の腕を自分に寄せてアピールする。
「ふむ……」
珍しく、ゴブリンスレイヤーが押されている。意外に女性に弱いんだろうか?
「ムーンライターもいいわね!」
「構わないですけど、鍛冶もあるんで常にとは難しいかもしれせんよ?」
「私は別にいいわ」
「野伏さんはいいかもしれないですけど……」
こういうのは一人で決めていい問題じゃないと思うんだが……。
「ゴブリンスレイヤーはどう思ってるんだ?」
俺の質問にゴブリンスレイヤーは沈黙してしまった。彼はきっと考え込んでいるのだろう。どうすればいいかを、彼なりに。
「こういうのは、他の連中にも聞かんとダメだろう」
「なら、明日ね! 朝にここに集合よ! 他のメンバーには私から伝えておくから」
「ああ」
「そういうことだから。明日、遅れずに来るのよ!」
そういうと、エルフさんはそそくさと何処かへ行ってしまった。
まるで猫みたいなエルフさんだな。
「まあ、なんだ……よろしく頼む」
「こちらこそ、宜しく。ゴブリンスレイヤー」