ムーンライター 辺境の鍛冶屋   作:紅河

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第8話 新たな依頼

 そろそろ行くか。

 準備はいつもの通り。兜、甲冑、手甲、佩楯と脛当、足は防具と干渉しない靴。んで、小太刀と雑嚢に式神用の札。そんでもって等級証っと。

 これでよし。行くか!

 俺は取り急ぎ、ギルドへ向かう。

 

 徒でゆっくりと目指す。市場へ差し掛かると、朝のラッシュも終え、落ち着きを取り戻していた。やっぱこれくらいが丁度いい。

 ギルドへ向かう最中、運良く女神官さんと市場で鉢合わせする。

 

「お、神官さん」

「あ、ムーンライターさん」

 

 お互いに朝の挨拶を交わす。

 この子も妖精弓手さんに呼ばれているはず。

 

「君もギルドで用でしょ?」

 

 俺の言葉に察したのか、「はい」と返してくれた。

 

「それじゃ、一緒にどうだい?」

「いいですよ」

 

 女神官さんと他愛のない会話で、一頻り盛り上がると、彼女について一つ分かったことがある。どうやら白磁から黒曜へ昇格したらしい。めでたい。祝福の声を掛けると、にこやかな可愛らしい笑顔を向けてくれた。

 初めての昇格で、余程嬉しかったのだろう。俺にもこんな時期があったなぁと懐かしみを感じてしまう。

 程なくしてギルドが顔を出した。

 今日はいつもより早めに来ちゃったからなぁ。人は多いだろうな……。

 俺は人混みが苦手だ。揉みくちゃのしわくちゃにされるからな……。どうか、空いていますように!

 ガチャリ。俺はドアノブに手を掛け、ゆっくりとひねり、ギルドへ踏み入れる。

 

 俺の望みはことごとく打ち砕かれ、ギルドは盛大に賑わい、人の声が耳の奥まで響いてくる。

 

 クエストに期待する声。

 パーティーと相談する声。

 世間話の声など……。冒険者がいるだけ、三者三様だった。

 

 いやー、キッツい……。

 

「どうかしました?」

 

 女神官さんに心配されてしまう。黒曜等級の子に心配されてどうするんだよ! しっかりしろ!

 

「だ、大丈夫だよ。さぁ行こうか」

「そ、そうですか?」

 

 女神官さんの心配をよそにテーブルへ直行。すると、蜥蜴僧侶さんと鉱人道士さんが既に席を取ってくれていた。こちらに気づくと「おーい! こっちじゃあー」と手招きをしてくれている。

 それに従い、導かれるままにそのテーブルへ。俺が鉱人道士さんの前に、自分の隣へ女神官さんがそれぞれ席へついた。

 

「昨日はよく眠れたかのう?」

「はい! お二人もお元気そうで良かったです」

「ハッハッハッ。健康を維持することこそ、冒険者の務めですからなぁ」

 

 席に到着するやいなや、仲良く3人が世間話をし始めた。

 そうか。俺より早く、この子は鉱人道士さん達と会ってたのか。となると、冒険にも一緒に……?

 

「既に彼らとお知り合いだったんだね」

「この前、クエストをご一緒したんですよ!」

 

 女神官さんが両手をグッと握る。

 地下の遺跡でゴブリン退治をしたと、赤裸々に語ってくれた。

 

「神官殿はオーガ戦で大活躍だったのですぞ」

「娘っ子がおらんかったら、わしらは既に死んでおったかもしれんのぉ」

 

 と、銀等級である彼らが女神官さんを称賛した。相当な活躍だったのだろうと推察できた。

 

「凄いじゃないか、女神官さん」

「い、いえ! 地母神様が奇跡を起こしてくださったからです……。私はなにも……」

「そんな謙遜することはありませぬぞ」

「なんじゃ、月の字。娘っ子と知り合いじゃったんか」

 

 つ、月の字? それって、俺のことか?

 別にいいけども……。

 

「まあ、はい。先日、ゴブリン退治で一緒に」

「なるほどの。合点がいったわい」

 

 と、カランコロン。ギルドのドアが開かれる。誰だ?あれだけ騒いでいた冒険者の声もピタリと止んだ。相当な人が入ってきただろう。

 

「おーい! かみきり丸!」

 

 かみきり丸? 今度は誰のことだ?

 その視線の先には、見慣れた奴がこちらへズカズカと歩み寄ってくる。

 

「なんだ、もう来ていたのか」

 

 油を塗りたくった銀色の兜に甲冑。安いガントレットに最低限の装備に身を包んだ、銀等級の男。

 

「小鬼殺し殿、息災でありましたかな?」

「ああ」

 

 かみきり丸はゴブリンスレイヤーのことだったのか。この鉱人道士さん、もしや、あだ名とか付けるのが好きなのかな。

 

「お前もか……早いな」

「それはお互い様だって」

「ん? あいつはどうした?」

「野伏殿ですかな? まだ就寝中ですぞ」

「耳長娘め……。自分で誘っておきながら、体たらくよのぉ……」

 

 そういえば、今日妖精弓手さんを見かけてないな。

 

「野伏殿は朝が弱いみたいでしてなぁ」

「気持ちは分からなくはないがの」

 

 そうこう話をしていると、大きな欠伸が俺達の耳を撫でる。

 

「おはよう……」

 

 声のほうへ向けると、ようやっと、本命の子が姿を現した。

 

「重役出勤じゃの、耳長娘」

「一言うるさいのよ。私たちにとっては昼が朝なの」

「そんなわけあるかい!」

 

 鉱人道士さんが妖精弓手さんを叱りつける。この季節に眠りたくなる気持ちも分からなくはないけど……。遅刻するのはな。

 妖精弓手さんは自然な流れで、女神官さんの右隣へ。その向かいにゴブリンスレイヤーが座ることとなった。

 テーブルを囲み、一同会合。

 

「それで、集めた理由はなんだ」

 

 ゴブリンスレイヤーが切り込んだ。

 

「一党メンバーなんだから、全員の顔合わせぐらいはしとこうと思ってね」

「それについては賛成だの」

「だからこうして、集めたってわけ!」

 

 フフン! とふんぞり返っている。

 妖精弓手さんには、ちゃんとした目的があったようだ。

 

「そういうことか」

「ええ! それじゃ、私からね!」

 

 と、強引に妖精弓手さんが仕切り始める。慣れた感じで他のメンバーがとやかく言うことはなかった。滞りなく、自己紹介は進んでいき、残すは俺の番だけ。

 

 俺は軽く済ませ、話題は術の話へ。

 媒体を使用し、奇跡を介すると話すと蜥蜴僧侶さんが食い付いてきた。

 蜥蜴僧侶さんもそういう奇跡を持っているのだそう。今度見せてもらおう。

 

「と、こんな感じかな」

「なるほどの」

「ねえねえ! 魔法の腕輪、見せて!」

 

 と、妖精弓手さんがせがんで来るので、見せてあげることに。

 

「ほう、これが」

 

 金ぴかで彩られ、真ん中には赤い水晶玉が飾られている。

 これが魔法の腕輪巻物食い。

 ゴブリンスレイヤー以外がくいるように見てくる。少し、恥ずかしいな。

 

「話しには聞いていましたが……」

「美しい見た目をしていますな」

「お主の話によれば、こいつが巻物を食べて魔法を記憶するのか?」

「そうみたいです」

「みたいちゅーことは、まだ試してないんか」

 

 コクりと頷きで返した。

 

「今はなにが入っているの?」

「火球が1つだけ」

「火で被ってるのぉ」

「それでも、十分じゃない! ないよりマシよ!」

 

 妖精弓手さんがすかさずフォローしてくれた。

 「何回使える?」とゴブリンスレイヤーがいうので3回と答えた。

 各々が驚嘆の声をあげる。やはり、驚かれるか。

 この世界では3回奇跡を使える者は優秀と称され、重宝されている。奇跡を扱えない者からしたら、相当な代物だろう。

 

「3回ということは、火の奇跡だけなら6回ってわけですな」

「そうなりますね」

「ねぇねぇ、これ装備してもいい?」

 

 まぁ、この人ならそう言うよなぁ……。

 口でいうより早いか。

 

「いいですよ。ちょっと待っててくださいね」

 

 そういうと、俺は右腕の装備を外し、ガタリとテーブルの上に腕輪をおいて見せた。

 妖精弓手さんが手に持つと、腕輪の大きさがシュッと縮んだ。装備者によって形を変えるらしい。

 

「それじゃ、早速!」

 

 意気込んで挑んだものの、腕輪が手首からそれ以上進まない。

 

「あれ? 進まない?」

「どうやら、持ち主しか装備出来ないらしく」

「汎用性はないようだな」

 

 ゴブリンスレイヤーが顎に手を当て、何か考え込んでいる? 策でも練っているのだろうか?

 

「これはゴブリンにも扱えるのか?」

 

 ゴブリンスレイヤーならそう言うだろうな。

 

「多分」

「多分? とは曖昧じゃな」

 

 鉱人道士さんから当然の疑問。

 俺は紙の記載されていたことを、筒がなく全員へ話す。

 

「ならダメだな。ゴブリン退治には使えん」

「だから、先日のクエストでは1度戻られたんですね」

「そういうこと。厳密には3回が限度だよ」

「分かった」

 

 これで俺の奇跡の実状は知ってもらえただろう。

 気兼ねなく、クエストに行けるというものだ。

 

「はい、ありがと」

 

 妖精弓手さんが腕輪を手渡してくる。

 満足したようだ。少し、頬が膨れてるみたいだが気のせいだろう。

 

「どういたしまして」

 

 もろもろ装備し直す。

 

「耳長娘よ。わしらを呼びつけたのは、なにも顔合わせだけではあるまい?」

 

 鉱人道士さんがそういうと、妖精弓手さんが不気味なほど口角を上げている。

 

「ドワーフのクセによく気づいたわね! 誉めてあげるわ!」

「偉そうに言い寄ってからに……」

「ハハハ……」

 

 女神官さんが苦笑いを浮かべ、なにやらテーブルの上にクエスト用紙が勢いよく置かれた。

 

「それは?」

「鉱山に大規模な遺跡があるらしくてね、それを調査したいの!」

「大規模な遺跡か。興味がありますね」

 

 俺は強い好奇心に駈られた。

 遺跡か。どれ程の広さだろうか。

 好奇心がマグマのようにドンドン溢れ出てくる。

 

 と、この場からそそくさと退散する男が一人。

 

「待ちなさいよ! オルクボルグ!」

 

 ドン!と手のひらで強くテーブルを叩いた。

 

「しかし、ゴブリンではないのだろう」

「この前、考えといてって言ったでしょう!?」

「……そう、だったな」

 

 そうなんだ。俺の知らない間にずいぶん仲良くなってたんだなぁ。

 妖精弓手さんはゴブリンスレイヤーに相当入れ込んでいるようだ。

 

「約束、果たしなさいよね」

「む……」

「たまにはいいじゃありませんか。ゴブリンスレイヤーさん」

 

 女神官さんがやんわりと説得を試みると……。

 

「……分かった」

 

 と、ため息まじりに口にするのだった。

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