そろそろ行くか。
準備はいつもの通り。兜、甲冑、手甲、佩楯と脛当、足は防具と干渉しない靴。んで、小太刀と雑嚢に式神用の札。そんでもって等級証っと。
これでよし。行くか!
俺は取り急ぎ、ギルドへ向かう。
徒でゆっくりと目指す。市場へ差し掛かると、朝のラッシュも終え、落ち着きを取り戻していた。やっぱこれくらいが丁度いい。
ギルドへ向かう最中、運良く女神官さんと市場で鉢合わせする。
「お、神官さん」
「あ、ムーンライターさん」
お互いに朝の挨拶を交わす。
この子も妖精弓手さんに呼ばれているはず。
「君もギルドで用でしょ?」
俺の言葉に察したのか、「はい」と返してくれた。
「それじゃ、一緒にどうだい?」
「いいですよ」
女神官さんと他愛のない会話で、一頻り盛り上がると、彼女について一つ分かったことがある。どうやら白磁から黒曜へ昇格したらしい。めでたい。祝福の声を掛けると、にこやかな可愛らしい笑顔を向けてくれた。
初めての昇格で、余程嬉しかったのだろう。俺にもこんな時期があったなぁと懐かしみを感じてしまう。
程なくしてギルドが顔を出した。
今日はいつもより早めに来ちゃったからなぁ。人は多いだろうな……。
俺は人混みが苦手だ。揉みくちゃのしわくちゃにされるからな……。どうか、空いていますように!
ガチャリ。俺はドアノブに手を掛け、ゆっくりとひねり、ギルドへ踏み入れる。
俺の望みはことごとく打ち砕かれ、ギルドは盛大に賑わい、人の声が耳の奥まで響いてくる。
クエストに期待する声。
パーティーと相談する声。
世間話の声など……。冒険者がいるだけ、三者三様だった。
いやー、キッツい……。
「どうかしました?」
女神官さんに心配されてしまう。黒曜等級の子に心配されてどうするんだよ! しっかりしろ!
「だ、大丈夫だよ。さぁ行こうか」
「そ、そうですか?」
女神官さんの心配をよそにテーブルへ直行。すると、蜥蜴僧侶さんと鉱人道士さんが既に席を取ってくれていた。こちらに気づくと「おーい! こっちじゃあー」と手招きをしてくれている。
それに従い、導かれるままにそのテーブルへ。俺が鉱人道士さんの前に、自分の隣へ女神官さんがそれぞれ席へついた。
「昨日はよく眠れたかのう?」
「はい! お二人もお元気そうで良かったです」
「ハッハッハッ。健康を維持することこそ、冒険者の務めですからなぁ」
席に到着するやいなや、仲良く3人が世間話をし始めた。
そうか。俺より早く、この子は鉱人道士さん達と会ってたのか。となると、冒険にも一緒に……?
「既に彼らとお知り合いだったんだね」
「この前、クエストをご一緒したんですよ!」
女神官さんが両手をグッと握る。
地下の遺跡でゴブリン退治をしたと、赤裸々に語ってくれた。
「神官殿はオーガ戦で大活躍だったのですぞ」
「娘っ子がおらんかったら、わしらは既に死んでおったかもしれんのぉ」
と、銀等級である彼らが女神官さんを称賛した。相当な活躍だったのだろうと推察できた。
「凄いじゃないか、女神官さん」
「い、いえ! 地母神様が奇跡を起こしてくださったからです……。私はなにも……」
「そんな謙遜することはありませぬぞ」
「なんじゃ、月の字。娘っ子と知り合いじゃったんか」
つ、月の字? それって、俺のことか?
別にいいけども……。
「まあ、はい。先日、ゴブリン退治で一緒に」
「なるほどの。合点がいったわい」
と、カランコロン。ギルドのドアが開かれる。誰だ?あれだけ騒いでいた冒険者の声もピタリと止んだ。相当な人が入ってきただろう。
「おーい! かみきり丸!」
かみきり丸? 今度は誰のことだ?
その視線の先には、見慣れた奴がこちらへズカズカと歩み寄ってくる。
「なんだ、もう来ていたのか」
油を塗りたくった銀色の兜に甲冑。安いガントレットに最低限の装備に身を包んだ、銀等級の男。
「小鬼殺し殿、息災でありましたかな?」
「ああ」
かみきり丸はゴブリンスレイヤーのことだったのか。この鉱人道士さん、もしや、あだ名とか付けるのが好きなのかな。
「お前もか……早いな」
「それはお互い様だって」
「ん? あいつはどうした?」
「野伏殿ですかな? まだ就寝中ですぞ」
「耳長娘め……。自分で誘っておきながら、体たらくよのぉ……」
そういえば、今日妖精弓手さんを見かけてないな。
「野伏殿は朝が弱いみたいでしてなぁ」
「気持ちは分からなくはないがの」
そうこう話をしていると、大きな欠伸が俺達の耳を撫でる。
「おはよう……」
声のほうへ向けると、ようやっと、本命の子が姿を現した。
「重役出勤じゃの、耳長娘」
「一言うるさいのよ。私たちにとっては昼が朝なの」
「そんなわけあるかい!」
鉱人道士さんが妖精弓手さんを叱りつける。この季節に眠りたくなる気持ちも分からなくはないけど……。遅刻するのはな。
妖精弓手さんは自然な流れで、女神官さんの右隣へ。その向かいにゴブリンスレイヤーが座ることとなった。
テーブルを囲み、一同会合。
「それで、集めた理由はなんだ」
ゴブリンスレイヤーが切り込んだ。
「一党メンバーなんだから、全員の顔合わせぐらいはしとこうと思ってね」
「それについては賛成だの」
「だからこうして、集めたってわけ!」
フフン! とふんぞり返っている。
妖精弓手さんには、ちゃんとした目的があったようだ。
「そういうことか」
「ええ! それじゃ、私からね!」
と、強引に妖精弓手さんが仕切り始める。慣れた感じで他のメンバーがとやかく言うことはなかった。滞りなく、自己紹介は進んでいき、残すは俺の番だけ。
俺は軽く済ませ、話題は術の話へ。
媒体を使用し、奇跡を介すると話すと蜥蜴僧侶さんが食い付いてきた。
蜥蜴僧侶さんもそういう奇跡を持っているのだそう。今度見せてもらおう。
「と、こんな感じかな」
「なるほどの」
「ねえねえ! 魔法の腕輪、見せて!」
と、妖精弓手さんがせがんで来るので、見せてあげることに。
「ほう、これが」
金ぴかで彩られ、真ん中には赤い水晶玉が飾られている。
これが魔法の腕輪巻物食い。
ゴブリンスレイヤー以外がくいるように見てくる。少し、恥ずかしいな。
「話しには聞いていましたが……」
「美しい見た目をしていますな」
「お主の話によれば、こいつが巻物を食べて魔法を記憶するのか?」
「そうみたいです」
「みたいちゅーことは、まだ試してないんか」
コクりと頷きで返した。
「今はなにが入っているの?」
「火球が1つだけ」
「火で被ってるのぉ」
「それでも、十分じゃない! ないよりマシよ!」
妖精弓手さんがすかさずフォローしてくれた。
「何回使える?」とゴブリンスレイヤーがいうので3回と答えた。
各々が驚嘆の声をあげる。やはり、驚かれるか。
この世界では3回奇跡を使える者は優秀と称され、重宝されている。奇跡を扱えない者からしたら、相当な代物だろう。
「3回ということは、火の奇跡だけなら6回ってわけですな」
「そうなりますね」
「ねぇねぇ、これ装備してもいい?」
まぁ、この人ならそう言うよなぁ……。
口でいうより早いか。
「いいですよ。ちょっと待っててくださいね」
そういうと、俺は右腕の装備を外し、ガタリとテーブルの上に腕輪をおいて見せた。
妖精弓手さんが手に持つと、腕輪の大きさがシュッと縮んだ。装備者によって形を変えるらしい。
「それじゃ、早速!」
意気込んで挑んだものの、腕輪が手首からそれ以上進まない。
「あれ? 進まない?」
「どうやら、持ち主しか装備出来ないらしく」
「汎用性はないようだな」
ゴブリンスレイヤーが顎に手を当て、何か考え込んでいる? 策でも練っているのだろうか?
「これはゴブリンにも扱えるのか?」
ゴブリンスレイヤーならそう言うだろうな。
「多分」
「多分? とは曖昧じゃな」
鉱人道士さんから当然の疑問。
俺は紙の記載されていたことを、筒がなく全員へ話す。
「ならダメだな。ゴブリン退治には使えん」
「だから、先日のクエストでは1度戻られたんですね」
「そういうこと。厳密には3回が限度だよ」
「分かった」
これで俺の奇跡の実状は知ってもらえただろう。
気兼ねなく、クエストに行けるというものだ。
「はい、ありがと」
妖精弓手さんが腕輪を手渡してくる。
満足したようだ。少し、頬が膨れてるみたいだが気のせいだろう。
「どういたしまして」
もろもろ装備し直す。
「耳長娘よ。わしらを呼びつけたのは、なにも顔合わせだけではあるまい?」
鉱人道士さんがそういうと、妖精弓手さんが不気味なほど口角を上げている。
「ドワーフのクセによく気づいたわね! 誉めてあげるわ!」
「偉そうに言い寄ってからに……」
「ハハハ……」
女神官さんが苦笑いを浮かべ、なにやらテーブルの上にクエスト用紙が勢いよく置かれた。
「それは?」
「鉱山に大規模な遺跡があるらしくてね、それを調査したいの!」
「大規模な遺跡か。興味がありますね」
俺は強い好奇心に駈られた。
遺跡か。どれ程の広さだろうか。
好奇心がマグマのようにドンドン溢れ出てくる。
と、この場からそそくさと退散する男が一人。
「待ちなさいよ! オルクボルグ!」
ドン!と手のひらで強くテーブルを叩いた。
「しかし、ゴブリンではないのだろう」
「この前、考えといてって言ったでしょう!?」
「……そう、だったな」
そうなんだ。俺の知らない間にずいぶん仲良くなってたんだなぁ。
妖精弓手さんはゴブリンスレイヤーに相当入れ込んでいるようだ。
「約束、果たしなさいよね」
「む……」
「たまにはいいじゃありませんか。ゴブリンスレイヤーさん」
女神官さんがやんわりと説得を試みると……。
「……分かった」
と、ため息まじりに口にするのだった。