先にゴブリンだということで、依頼の確認をすると、幸いにもゴブリン退治のクエストは綺麗さっぱりギルドには来ていなかった。
それを聞いたとたん、妖精弓手さんが喜びに溢れ飛び上がっている。「仕方あるまい……」とゴブリンスレイヤーが愚痴を溢す。
俺達一党は、遺跡調査へ出向くことに。準備万端。早速、馬車へ乗り込んだ。
「そういえば、ムーンライターってなんで冒険者になったの?」
妖精弓手さんから突然の質問。
意表を突かれた。まさか、そういう質問が飛んでくるとは思いもよらなかったから。
「なんでまたそんな質問を?」
「ちょっと気になってね」
「わしらにも質問しとったなぁ、耳長娘よ」
そうだったんだ。
この人の通例ってことなんかな。
「まあ、なりたくてなった訳じゃないですよ」
「あら? そうなの?」
「お主、どんな目的だったんじゃ?」
「強いて言えば、食い繋ぐためですかね」
「げ、現実的ね」
仕方ないじゃないか。
辺境の街までは無一文だったわけだし。
簡単に稼げる手段が冒険者しかなかったんだ……。
「それじゃ、冒険はあまり好みではないんですか?」
「昔は仕事って割り切ってしてたけど、今は違うよ」
「といいますと?」
「戦利品とか持ち帰ると、生きてるって感じるからね」
「生粋の冒険者になっちゃったわけね」
「そうなります」
金品とか、巻物とかを持ち帰ると何より金になるしね。
俺はこう続けざまに言った。
「なりたかったのは鍛冶屋の方でしたから」
「ほほう」
「鍛冶屋はお前さんなりの夢だった、というわけじゃな」
コクりと頷きで返した。
「ムーンライターさんの目的は達してるわけなんですね」
「うん」
「いいわねぇ、夢があるって」
「夢は叶えてこそ、人生が豊かになるというもの」
良かった。
この人達は否定しないでいてくれて。
新人の頃、一党メンバーに馬鹿にされたっけ。まあ、今となってはどうでもいいが。
そういえば、ゴブリンスレイヤーの夢ってなんだろうな。
人並みに結婚とかだったりして。
俺は気になって聞いてみた。
「なぁ、ゴブリンスレイヤーの夢ってさ」
「夢か……」
一幕置いたあと、こう呟いた。
「ゴブリンどもを……」
あ、やっぱ、それか。
「アンタは言わなくても分かるわよ」
「むぅ……」
どうやら、ゴブリンスレイヤーは女性には弱いらしい。
他愛のない世間話に花を咲かせた俺達は辺境の街を後にした。
馬車に揺られること数時間。
人混みの少ない、鉱山地帯へ到着。事故もなく、無事に着いたはいいものの、巨大な山々が俺達を出迎えた。
「あれのようですな」
蜥蜴僧侶さんが指を差す。その先には鉱山への入口が俺達を見つめていた。あれが入口か。しかし、そう簡単には入れされてくれないようだな。
これより先は通さんと言わんばかりに、険しい道が俺達の行く手を阻む。山から覗く壮観な光景。しかし、その鉱山道中は決して、可愛いものではなかった。
「ああああああーー!! 疲れる!」
エルフさんが道端で大きな愚痴を溢す。
鉱山の道すがら、ペタりと地面へ座り込む。
気持ちは分からなくはないですけど……。
「耳長娘よ……お前さんが選んだクエストだろうに。ほれ! しっかりせんか」
「だってぇ……」
「だってじゃないわい! ほれ」
鉱人道士さんがしゃがみ、妖精弓手さんを待っている。
「ぐっ! ドワーフなんかにお情けは受けないわ」
なんと、妖精弓手さんはおんぶを拒否。
「なら、頑張るこったな」
「アンタは元気そうでいいわね」
「わしらは鉱山には慣れとるからの、貧弱な奴らとは違って」
「なにおう!?」
喧嘩が始まった……。
いつもこんななのか……?
「これこれ、探索はこれからなのですから、その辺にしましょうや」
蜥蜴僧侶さんが場を諌める。
「水でも飲みますか?」
「ありがとう。ごくっ…」
「あまり喋るな。体力がなくなるぞ」
「分かってるわよ! もう」
愚痴りつつも、全員の歩みは止めず入口へ少しずつ歩を進めた。
「着いたぞ」
山に入って小一時間。
ようやく道中の険しい道を乗り越え、鉱山の入口へ無事に到着。
女性陣が息も絶え絶え。山登りは堪えるわな。
「ハァハァ……着いた、の?」
「ご苦労さん」
他のメンバーが女性陣を気遣う。
「地図によれば、入って右手に階段があるようですぞ」
「そこが地下への入口か」
受付嬢さんから、遺跡と鉱山の地図を前もって預かっていた。いつも助かります。俺は受付嬢さん達に感謝しつつ、早速鉱山へと足を踏み入れた。
「暗いですね」
「松明があって助かったわい」
「それについては同意するわー」
警戒しつつも着々と地下へと降りていく俺達。
前は俺とゴブリンスレイヤー、中継は後衛メンバー、殿を蜥蜴僧侶さんが担ってくれた。
見るからに普通の鉱山だ。受付嬢さんの話しによれば、長年使用されてない廃鉱とのこと。崩壊だけが1つの懸念材料だな……。
折り返し階段を降りること小一時間。
ようやく終わりが見えてきたか?
地下遺跡のエントランスが俺達を出迎えた。
「ひ、広いですね」
「いやはや、驚嘆の一言ですなぁ」
家が数個入るであろう広さ。
何坪くらいあるんだ?これ。
「あれか」
俺達の目の前に、石造りの扉がドン!と待ち受ける。
「今回はどんな冒険が待っているのかしら!」
「さっきまでヘトヘトだったクセに、よく言うわい」
「うっさいわよ、ドワーフ! 射抜くわよ!」
「射抜くのは敵だけにしろい!」
また、軽口を叩きあってる。
女神官さんはもう慣れたみたい。
ゴブリンスレイヤーや蜥蜴僧侶さんは警戒してスルー気味。ある意味で統一の取れた一党だな。
俺達は入口へ手を掛けた。ゆっくりと、だが着実に重い扉が開かれていく。開けきると、そこには壮大な景観が広がっていた。
入口から遺跡を眺望する。遺跡を降りるにはまたもや階段を下りる必要があるようだ。
「うえー……また階段?」
恒例となった妖精弓手さんの愚痴。
うん、少し慣れてきた。
「どうじゃ月の字、わしらの空気には慣れたかの?」
「もうすっかり」
「それは良かったです」
「しかし、ここまで広いとはのぉ」
「探索のやり甲斐があるというもの!」
蜥蜴僧侶さんが尻尾をビタン!と叩きつける。
やる気みたいだな。まあ、俺もいつになくテンションが上がっているけども!
「けど、何か違和感がありません?」
「そうか?」
「私もそれ思った。なんというか、村?いや1つの町って感じがする」
妖精弓手さんが俺の意見に同意してくれた。同じことを思っていたようだ。
そう。遺跡というには、随分と家らしき物が立ち並んでいる。
「確かに地下遺跡という割には、生活感が強いの」
鉱人道士さんが髭を擦りながら、同調する。
「鉱山に勤務する人達の家だったのでしょうか?」
「そうかも知れませぬな」
「なんにせよ、調べれば分かることだ」
「よーし! 張り切っていくわよー!」
「お前さんが仕切るんかい」
鉱人道士さんがツッコミを入れ、遺跡へと赴くことになったのだった。