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斬月とベル、ヘスティアが出会った翌日。
ヘスティアは頼れる神友の本拠を訪ねるもけんもほろろに断られたらしく、やはり『神の宴』でアポを取ってくると鼻を鳴らすこととなった。当然、戻ってきてすぐにベルとバイトは交代した。ベルもその足でダンジョンに行ったらしい。
その夜からベルは少し焦りを見せ始めるようになった。
俺と出会う前にすでにボロボロだったことからより強くなりたいといったところか。ベルの【ステイタス】更新を行ったヘスティアもそのころからやや不貞腐れてる。たった二日の間にも色々なことが起き、ベルは様々な契機に遭ったらしい。ぼろぼろになって帰ってくる日も、顔を真っ赤にして泣きじゃくりそうな顔で帰ってくる日も、シルという気の置ける女給ができたと言っていた日も。斬月はベルを数日観察してある程度結論付けた。
―こいつは良くも悪くも惹きつける。ただし、とびきりに人を選ぶタイプの性質だ。一護とは違うタイプだ。あいつは甘いから自分から巻き込まれに行った末、色んなやつを巻き込んで戻ってくる迷惑でおせっかいな性質だ。ベルはなんだろうな。お人よしというか優柔不断だな。
今日も今日とてヘスティアとバイトに励んだ斬月は教会の地下室でぼーっとベルを見る。
当初、斬月はベルについていこうとしていたが、『神の宴』がある日までダンジョンにはいくなと厳命されていた。となれば勝手も知らぬオラリオの地。一人ほっつき歩いても面白いものでもなし、【ヘスティア・ファミリア】の財政状況を鑑みてここ数日はひたすらバイトに従事していた。その間もヘスティアはベルの【ステイタス】の伸びに驚愕していたし、ベルはベルで訳も分からないといったような顔でわらい平和な時間が流れていた。
そして今日、ヘスティアが『神の宴』に赴いた。神友に色々話をつけに行ったらしい。
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「あ、いたいた。おーい、ヘファイストス」
ガネーシャ主催の神会にやってきた男装の麗神ヘファイストスにヘスティアは声をかける。
「やぁ、ヘスティア。久しぶり。数日前は悪かったわね。どうしても手を離せない案件があって…さっき、ホールでいろいろあったようだけれど、大丈夫?」
「別にロキにやっかみかけられたのはどうでもいいさ。さっき墓穴掘って自爆してたの向こうなわけだし」
「まぁ、彼女の子らの影響はこの都市にいるなら誰もが無視できるものじゃないからね。ロキももうそういうの立場にいるわけだし、少しの息抜きぐらい大目に見てやってもいいんじゃない?」
「むぅ、確かに下界に来てからのロキは確かに丸くなったとは思うけど…」
「さて、本題に入ろうかヘスティア。ご無沙汰だった神会に来たってことは私に用があったということで間違いないわね?」
「えっ、あー、うん。そうだね。それはそうなんだけど、ちょっと警戒してないかい?」
「うん、君が下界に来てからやったことを鑑みればね」
まず【ファミリア】も作らず、まったく働こうともせずに下界の娯楽本を読み漁り、小遣いをねだり、【ヘファイストス・ファミリア】のホームに住み着いていたことから始まり、ホームを追い出された後も仕事がない、住む場所がない等ほとほとにヘスティアはヘファイストスの手を焼かせていた。
そういうことでヘファイストスのヘスティアへの信は地に落ちていた。
そんなちょっと厳しいモードに入っているヘファイストスに対し、多少怖気づいたもののヘスティアは意を決して胸の内を打ち明けた。
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じっと眼を閉じて話を聞いていたヘファイストスはヘスティアへ告げる。
「きみの【ファミリア】の子の武器を作るのは却下。頭金を作ってローンの計画を立ててから来なさい。そして…神の恩恵が通じない存在。その存在は自身を武器であると自称している。と」
「ヘファイストス。お願い。頼む。何卒」
「ダメなものはダメ。私が武器を作ったとしてきみの子は扱いきれるの?」
「おそらく無理ね。冒険者がLv.やステイタスに振り回されるように、身の丈に合わない武器には冒険者が振り回される」
「それに…うちで取り扱っている武具・防具は無名の子らの作品もきちんと取り扱っている。それもちゃんと店に並べられる品質であると経営陣が確認したうえでよ。冒険者のなりたてらしく…というのは意地悪な言い方になってしまうけれど、地に足をつけてということで。冒険者も武器もともに成長するこれが正道。健全な道よ」
「うっ」
「後者については明日、時間を作ろう。武器を名乗る存在か興味がある。明日はそうね、昼前なら時間が作れそうだから私の【ホーム】に来てちょうだい」
「じゃあね、ヘスティア。また明日」
「うぅ…また明日」
その言葉を最後に、ヘファイストスは【ガネーシャ・ファミリア】を後にする。その姿をヘスティアは恨めし気にずっと見つめていた…
そして、鍛冶神と竈の神が帰路に就く姿を、その様子を、陰から見つめる黒いローブの男がいた。
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ということで次の日。斬月はヘスティアに連れられて【ヘファイストス・ファミリア】の支店に来ていた。
ヘスティアの姿を見るなり、受付の子が出迎え、ヘファイストスの部屋へと通される。斬月が背に差す大刀についても言い含められているのか預けるように言ってくることはなかった。その代わりと言っては何だが、見定めるような視線こそ店内から感じることはあったが。
流石はオラリオで唯一、ダンジョンからの収入なしで運営されている高級ブランド【ヘファイストス・ファミリア】。子の教育や、店の隅まで手が行き届いているのをヘスティアは改めて実感する。ほーっと感心して店の中をきょろきょろと見まわしているうちに【ヘファイストス・ファミリア】の奥、ヘファイストスの部屋の前へと案内されていた。
コン、コン、コンとヘスティアはその扉をノックする。それを聞いて、中から人の動く音がする。眼前の扉が開く。
「いらっしゃい、ヘスティアと武器君。歓迎するよ」
そういって主神であるヘファイストス自ら、その部屋の扉を開け客人を迎えるのであった。
【ヘファイストス・ファミリア】ぐらいの規模の【ファミリア】には本拠・支店を問わず、すべての主神の部屋には応接室が併設されている。ヘスティアと斬月は「ちょっとだけ待ってて」と応接室に通され、革張りのソファーに腰を掛けた。
「…なんていうかよ。凄いな」
ヘファイストスがやってくるまでの間、ぽつりと斬月が漏らす。
「言いたいことはわかるよ。うちとは天と地の差。月とすっぽんさ」
その斬月の感想に落ち込んだ様子でヘスティアが返す。片やうらぶれた教会の地下室しか居場所がない【ヘスティア・ファミリア】、片やオラリオ各地に支店を持つ【ヘファイストス・ファミリア】。ヘスティアは下界してしばらく彼女の厚意に甘えていただけあってその差は身に染みて余るほど実感している。
その返事を最後にこれ以上言っても傷を広げるだけだと思って斬月は黙る。ヘスティアも黙る。気まずい沈黙が応接室を満たす。斬月がヘスティアのことをめんどくさいと思う直前、応接室の扉が開く。「待たせたわね」と、ヘファイストスが茶菓子と茶器、お茶で満たされたポットを持って応接室に入ってくる。
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「さて、どこから話を始めたらいいのかしら、ヘスティア」
日頃ありつけない茶菓子にパクつくヘスティアを半ば呆れたように、ヘファイストスが切り出す。
「あー、俺からいいか?」
「えぇ、名前から教えてくれると助かるのだけど…」
「神サマ…言ってなかったのかよ」
「いやぁ、『神の宴』ではあんまり個人名を出さないほうがいいって眼前のヘファイストスから言われたことがあってね。あそこでは暇なやつと刺激に飢えてるやつらがごまんといるから、目を付けられない様にって」
「そういうことなの、ごめんなさいね」
「俺の名は斬月だ。神サマから聞いていると思うが俺はそこに立てかけてある斬魄刀【斬月】そのものだ。本来は一護っていう俺の宿主の中にいるんだが、突如、引き剝がされてダンジョンの第一階層に跳ばされた。縁あって【ヘスティア・ファミリア】で厄介になってる」
「ベル君が危機一髪の時に飛ばされてきたみたいでボクとしては本当に感謝してもしきれない。だけど本題はそこじゃない。ぶっちゃけ刀かどうかってのも二の次だ。外見からも只者じゃないとわかると思うんだが、斬月君は『神の恩恵』を受け付けない。ボクが試しに神血を与えたら弾かれた」
「ふむ、私の血で試してみても?」
「あぁ」
そういって斬月は掌を突き出し、ヘファイストスは自身の血をその掌に垂らした。
結果、同じくパァンと音を立てて神血が弾かれる。
「なるほどね。我らが子ではないということは確かのようだ。なら一つ聞こう」
「斬月君、君は我々神に思うところはあるかい?なんでもいい。聞かせてほしい」
斬月はその問いにハァとため息をついて一言で返す。
「何もねえよ。」
そう即答した。付け加えて「神サマだっていうなら早く俺を元の世界に返してくれ」と言った。
「迷宮の怪物ではない。と。ヘスティア。ダンジョンに神が入るのは禁止されているのは知ってるね」
「うん、他ならぬ君が教えてくれたんじゃないか」
「そうだね。昔から言われていることだけど、ダンジョンに神は直接関わってはいけない。ダンジョンそのものや迷宮怪物に何かしらの影響を与えるとされるからだ。けど、斬月君。君にはそういった我々からの影響というものは全く受けていないようだ。そういった意味で安心したよ」
「こんな密室で神サマに囲まれてる状況つくっといて何を言ってんだか。まぁ、裏に何人も置いているようだが」
「そういうことさ。万が一ということもあって日程を調整させてもらった。悪いとは思っているよ」
「そういった意味でも気にしてねぇよ。で、だ。俺からも打診したいことがある」
ん?と予想しなかったという顔でヘファイストスは斬月に向き直る。
「俺からも頼む。ベルに武器を作ってやってくれねぇか?」
「!?」「斬月君!なぜそれを!?」
その場にいた神は予想だにしていなかったかのように驚く。特にヘスティアは青天の霹靂とばかりに驚いて見せた。
「神サマ、あんた俺のことで昨日話に行ったって割には不貞腐れてたろ。そう考えればベル絡みだ」
「あ」
「で、今日ここに来るまでは見当もついていなかったが、鍛冶の神に頼み事するなら武器か防具だろ。で、ベルには何もないが、獲物に突き立てる牙すらねぇならまずは武器を頼むのが順序ってもんだろ」
「……断るって言ったら?」
「新しく条件を付けるさ。俺の一部を使ってくれ」
その言葉にヘファイストスの眼帯の下の眼が燃える。部屋の外からもガタッという物音が聞こえる。
「具体的には?」
「血や爪、この死覇装でどうだ」
「いいね。興味深い。だが、君にそこまでの義理はないだろ?」
「一日、俺を貸す。それでどうだ」
「一週間。それに加えローンも組んでもらう」
「額は?」
「あなたの献身に免じて格安で1億ヴァリスでどう?」
「買った」
「いい返事。迷わないのね」
「あいつは俺を家族に誘いやがった。最初は何言ってんだと思ったが、理由なんてそれで十分だ。さっきも言った通りベルには牙が必要だ。ならそれを用意してやるのが家族ってもんだ」
そう断言する斬月を見て、ハァとヘファイストスは息を漏らす。そして、覚悟を決めたようにヘスティアのほうを見やる。
「ヘスティア、あなたも同じ気持ちなの?」
「もちろんだ!!ボクはあの子に助けられてばっかだ!ていうか、ひたすらに養ってもらってるだけだ!ボクはあの子の主神なのに、神らしいことは何一つだってしてやれない!」
最後は絞り出すように、ヘスティアはぐっと体を強張らせた。
「…何もしてやれないのは、嫌なんだよ…」
その言葉はヘファイストスを動かすに十分だった。偽らざるヘスティアの想い、斬月の想いを彼女は認めたのだった。
「ヘスティア、なら貴女の分の依頼も受けましょう。額は2億ヴァリス。今までのバイトに加えて、うちの支店でも働いてもらうわ。何十年、何百年かけてもこのツケを返しなさい!」
「斬月君も。帰れるようになったら時期を急がない限り、必ず耳を揃えて返してから帰りなさい!高飛びしたら倍にしてヘスティアにツケるからね」
「え!?」「わかってるよ。不義理はしねぇさ」
「斬月君!!絶対に高飛びしないでおくれよ!!ボクの借金が倍になるからね!!ぜったいだよ!!」
さっきまでの決意に満ちた姿はどこへやら、ヘスティアは斬月に縋りつく。
そんな姿を横目にヘファイストスは応接室を出る。そして、己が得物の納められたクリスタルケースの錠を解く。
「椿、もういいわよ。すべては丸く収まったから」
そして、待機していた最上級鍛治師にして【ヘファイストス・ファミリア】団長【単眼の巨師】椿・コルブランドに声をかける。
「承知した、主神様よ。で、相談なのだが、手前も…」
「だーめ。これはプライベートな依頼だから【ファミリア】であるあなたは巻き込めないわ」
「いや、望むところというかなんというか」
「だーめ」
取りつく島もなく【ファミリア】の願いを却下する。かわいい子といえど、こうも昂らせる依頼は大人げなく独り占めしたい。とヘファイストスはらしくなく思う。
「え!?君が打ってくれるのかい?」
「さっき、椿にもいったけどプライベートな依頼だからね。あんたも斬月君も手伝いなさいよ。もちろん、これは義務であって斬月君の借り受け期間には勘定しませんからね」
「もちろんさ。君に打ってもらえるほどうれしいことはない!!」
「こっちは勝手を知らないからな。神サマのいう通りには従うさ」
「じゃ、そういうことで」
そう椿に言い残して、主神は部屋から出ていく。その様を椿・コルブランドは見送って…「うがああああああああああああああ」とやりきれない思いを声に乗せて叫んだ!!
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【ヘファイストス・ファミリア】支店1階の『工房』に着いて、厳重に戸締りをしたヘファイストスはヘスティアに聞く。
「あんたの子の使う得物は?」
「え…ナ、ナイフだけど」
「なら一振りはそれで決まりね」
「斬月君、君のオーダーは?」
「短刀から小太刀程度で。長物は扱えないだろ」
「オーケー」
「あ、あともう一つ」
斬月はこれこそが重要という風に鍛冶神に告げる。
「名はなしだ。呼ぶときは便宜上【浅打】って呼んでくれ」
「…何か理由があるようね」
斬月はこともなげに話す。
「あぁ、あんたには【斬魄刀】を造ってもらいてぇんだ」
は、話が進まねぇ…