「「【斬魄刀】?」」
斬月が告げた言葉に二神は首を傾げる。そして、ヘファイストスが思いあたる節があったように続ける。
「斬魄刀というとあなたのような存在を造れ…と?」
「俺はイレギュラーみたいなもんだから参考にすんな」
「まずこれから【斬魄刀】、ひいては【浅打】について伝える」
受け売りだけどな。と斬月は続ける。
【浅打】
護廷十三隊隊士全名が院生時代に一時貸与され、入隊と同時に正式授与される無銘の斬魄刀。
全ての死神はこの【浅打】と寝食を共にし練磨を重ねることで己の魂の精髄を【浅打】へと写し取り、『己の斬魄刀』を創り上げる。
「己の斬魄刀を創り上げる…だって?」
ヘファイストスが息を吞む。
無理もない。今聞いた斬魄刀の在り様とは、まさに、ヘスティアから依頼されたナイフの仕様の案そのものの概念だからだ。
しかし、それはヘファイストスにとっての邪道の武器。
『駆け出し冒険者に持たせる一級品』、『使い手が最強に上り詰めれば、そのナイフも最強の武器へと至る』
「斬月君…君も【浅打】だったのかい?」
「いや俺は事情が違う。だが、俺以外の斬魄刀は須らく【浅打】から名を得た」
これだけは断言できるぜ。と。『刀神』のお墨付きさ。と。斬月は工房の壁に背を預けて言う。
「そして、その『刀神』曰く何にでもなれる最強の斬魄刀。それが浅打だ」
「神サマ、俺はベルに最強の武器を握ってもらいてぇんだ。俺の知る限りの最強の武器は【斬魄刀】だ!」
「俺が身を切る理由がそうだ!斬魄刀は俺の欠片を素材にすればできる!他でもない俺が言うんだ!間違いねぇ!!」
「あんたならできるだろう!?できないはずがない!!鍛冶の神が『刀神』に劣るのか!?そんなわけがないだろう!!」
挑発のような斬月の弁にヘファイストスがわなわなと唇を震わせ零す。
「わたしが『刀神』に劣るですって?」
「おいおい、ヘファイストス乗るなよ。挑発だって!!斬月君も謝って!!彼女にもプライドはあるんだ!それを逆撫でしちゃあどんなものを渡されるかわからない!!大枚叩いて買う武器だからじゃない!!ベル君の武器なんだ!!下手なものを造られちゃかなわないだろ!!」
ヘスティアも斬月の弁を諫めるも、カバーしきれていない。むしろ逆効果まである。
「安い挑発ね…けど、乗るのも吝かじゃないわ。ただ、一つ聞きたいことがあるわ。『刀神』のことよ。具体的にはどういう経緯があってそう呼ばれるようになったのかを教えて頂戴」
「『刀神』は斬魄刀の創造を以て、尸魂界の歴史を創ったとされた死神だな。千年以上の続く尸魂界の隊員全ての浅打を打ったとされる。そうだな現代の死神の在り方は『刀神』二枚屋王悦無しにはありえないと断言できる」
「なるほど、千年以上、その斬魄刀を打ち続けた刀匠にしてあなたの世界の歴史の一端の存在そのもの。ってことでいいのかしら」
「大体はその認識で間違ってないな」
元々、未知の武器に抱いた興味はこの時、斬月が熾した火種と『刀神』という見知らぬ好敵手の存在という風に煽られて完全に燃え上がって大火となった。
「なるほどね。実をいうと最初は乗り気じゃなかったのだけど…それをきいてやる気が湧いてきたわ。『刀神』について聞いておいてよかった」「
「そして、まずは君のオーダーから受けましょう。君の欠片を用意して」
「あぁ」
ヘファイストスの指示に待ってましたとばかりに、斬月は威勢よく返事をする。
爪を千切って金床に撒き、手首を切って水槽に血を満たす。次いで死覇装を肩から袖を引き千切り血に浸して絞る。
「俺の爪と死覇装即ち『王鍵』の髪と骨を鍛えて重ねてまた鍛えて!その工程を幾度となく繰り返した後、俺の血でその刀身を焼き入れる!そうして【斬魄刀】は!!【浅打】は生まれる!!」
「これが俺の提供できる全てだ。神サマ、頼む!!ベルに牙を造ってやってくれ!!」
その言い終えると、斬月はふらりと床に座り込む。人間でないとはいえ欠片のために多くを失ったショックで気絶したのか。
「この私、鍛冶神ヘファイストスに任せてあとは休んでなさい」
「『刀神』二枚屋王悦。相手にとって不足ないわね」
神をして相手にとって不足なしと言わしめる二枚屋王悦。面識の無い相手といえど神を名乗る以上、意識しないわけにはいかない相手。斬月の知る世界の歴史を創った存在。その事実がヘファイストスを奮い立たせる。同じ武器・防具を扱う【ファミリア】の男神ゴブニュとはまた違う好敵手。
道具を用意し、斬月の欠片を前にする。炉に火を入れて、鎚を振り上げる。
「打ってみせましょう!!【斬魄刀】を!!!」