ぼっち・ざ・ろっく! ひとりだけの満月ーフルムーンー   作:璃空埜

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Sing-ZERO END AND START TO DREAM UNDER THE MOON

たまたま立ち寄った公園にその子はいた。

ひとり、ギターを背負った女の子がなんだか悲しそうにブランコを漕いでいた。

 

『なぁ』

『……ふぇっ?あっ、わ、わたしっ?』

『今、この公園には俺とあんたしかいないぞ』

 

何となく、その時はなんとなく気になって声をかけてしまった。

いや……なんとなくっていうのは違うな。あの当時から俺は、楽器こそ違えど彼女と似たようなことをやり始め出した頃だから……だからこそ、気になって声をかけたんだろう。

 

 それが、すべての始まりだったとは、思いもしなかったが。

 

『して、どうしたのさ。そんな辛そうな顔して』

『あ、えっ…と……』

 

年下の俺に目を合わせるどころか、視線をあらぬ方向へ泳がせまくり、顔面どころか全身が崩れそうになるほど震え出す始末。

うーむ?クラスのヤツらの言葉を借りるなら、コミュ障ってやつかこの人って当時思ったのはよく覚えている。

だが、オロオロとしていた彼女の、泳ぐというよりかはもはや溺れてるのでないかとも思えるほどにウロウロしていた視線が、俺が腰に差していた“ある物”を見つけたのかそこで止まる。

 

『あっ……も、もしかして…』

『ん?んー……と、だ、なー……』

 

初対面ではあるけれど、どっかの本で読んだ(ような気がする)この手の人の対処法であった(はず)、今彼女が何を言いたいのかを考え……

 

『俺、まだ初心者。バンド、組んでない』

 

……結果、なんか外人崩れみたいなカタコトな言い方に。何故だ、当時の俺よ。

 

『あっ、わ、わたっしも、しょしょ初心者!』

『なんでお前までカタコトになるねん』

『みきゅ』

 

俺のに呼応してカタコト返答してきた彼女の眉間を、人差し指だけで少し強めにつつく。だが、今のやり取りの間に彼女も落ち着けたようで、さっきよりかはオロオロしなくなって……

 

『んで、改めて聞くけど、どうしたのさ?』

『あ、えっと、えとえとえとね……?』

 

たどたどしくも、事情を話そうとする彼女。頑張っていた彼女には申し訳なかったが、俺はそれを一度手のひらをかざして止めさせた。理由は簡単で……

 

『その前に軽く自己紹介しとこうぜ』

 

なんとなく長くなりそうな予感があったから、自己紹介を済ませといた方がいいと判断したからだ。その予想は的中したんだが……ね。

 

『俺、西中1年のあ……北条 ミツキ。今日はちょっち用事を済ませにこっちまで来た』

『!わ、私も西っちゅわ……』『慌てなさんな、俺はどっこもいかねーからさ』『ふぁぃ……西中2年の湊 夜空ですぅ……』

『お、こんなところで同中と会うとは。てか、先輩ってことは敬語使った方がいい『う、ううん……!そのままで、大丈夫……』あいよ。こちらとしても助かるぜ、なんせ敬語苦手だからさ。ともあれ……湊、改めてよろしく』

『あっ!はいっ!末長くよろしくお願いしますっ』

『あいよ、末長くな』

 

『プロポーズじゃねーんだから』なんて思ったけど、その「末長く」っていう言葉は、ある意味その意味を全うするとは思ってなかった。

 

 これが、俺と、彼女の、ファーストコンタクト。

 

 そして……

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

雲ひとつない夜空へ、満たされた月が昇ってゆく。

 

「……ははっ、そういや……こん時も…同じ月だったっけ。……あいっ…変わらず、縁がよくあるよな……。お前とは……」

 

ふっ、と頭をよぎったそんな回想に笑みを浮かべる俺は、そんな月に向かって語りかけるかのように、1人つぶやく。

実際、俺のこれまでの人生の中で、ターニングポイントとも呼べる出来事があった日の夜には、どんな時だろうとも満月が夜空に輝いていた。

 

すべての始まりとなった彼女と出会ったあの日もーー

すべてが終わり、己の無力さに慟哭したあの日もーー

廃れていた俺が再起するきっかけとなったあの日もーー

新たなる始まりとなった彼女と運命的に出逢ったあの日もーー

 

そして、見護っていた“彼女達”が新たなる1歩を踏み出そうとするーー

そして、俺がいつからか目を逸らし続けていた“けじめ”をはたしたーー

そして、あの日と同じ悲劇を繰り返させないようにしたーー

そして……

 

    俺が己の人生にピリオドを打つーー

 

 

  ーー今日もまた、いつかのあの日達と同じ様に

    星空という海に、満月が静かに、だが、はっきり浮かんでいる

 

 

 

「っ、はぁ……」

 

そんな空の下、己の全ての力を絞りきり全てを成し遂げた俺は、“彼女”と出会ったあの公園……“始まりの公園”なんて勝手に命名している公園、そのブランコのひとつに座っていた。

ただ、もう全身にまったく力が入らなくなってるし、意識もぼんやりとしてきていて…今にも倒れてそのまま“終わり”を迎えてもおかしくない状況だが。

 

「……ま、短かったけど…………悪くなかったな、人生」

 

悔いはかなり残ってるが、ね。これから羽ばたいてゆくであろう“彼女達”の行く末を、共に歩んでいけないのはマジで悔しい上に、約束を破ってしまうわけだからものすごく心苦しい。

……まてよ?このまま彼女達の守護霊になってのはありだな。そうすりゃこれからも一緒にいられる。

……いや、ダメだな。俺の所業的には地獄ルート直行だろうし、そんな暇無さそうだは。てか、そんなこと思いつくとは俺はどこぞのヤンデレかなんかか?

 

「……あっ…ははっ…。…案外……余裕、だな…俺……」

 

けど、ま……あの時とは違って、俺は俺の護りたかったものを、大切なものを護ることはできたし……良しとしよう。終わり良ければなんとやら……ってな。

そうこうしている間に、体は何も感じなくなりつつあり、意識を保つことさえも限界となってくる。

 

「……」

 

風前の灯となった俺の脳裏には、“彼女達”……

 

一癖も二癖もある子達をまとめる天真爛漫で世話好きな金髪のドラマー

 

変に意地を張るところがある金遣いの荒い変人だが、バンドのことをいの一番に想うベース

 

超初心者で変なところが多々あるが、その明るさと陰ながらもひたむきに努力する頑張り屋な陽キャギターボーカル。

 

そして……

コミュ力が死滅し押し入れの中で淡々と孤独に演奏していたが、今まさに殻を破り、皆の“ヒーロー”とも呼べるような存在になりつつある、いつかの彼女と瓜二つなギター。

 

その一人一人の顔が過ってゆき……

 

「…………達者でな」

 

“彼女”の顔を締めとして、最後の言葉を天に浮かぶ月へ向けて告げ……

 

 

    おれ…………は………………

 

 

  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

…………〜〜っ」

「おはようさん……して、大丈夫かー?いっつもぐっすり寝てるお前にしちゃ珍しく、かなりうなされてたが」

「……ダイジョブ」

「そんな顔してねーぞー」

 

先程まで夢に出ていたような……そんな気がする下北沢の街、その片隅にあるこぢんまりとした公園……俺が“始まりの公園”と勝手に呼んでる場所。そこに一つだけあるベンチで、悪夢付きのうたた寝をしていた俺…北条 ミツキはどうも相当酷い寝起き顔をしているらしく、今回付き添いで来てくれた、少し年の離れたかねてからの親友…髙瀨 嘉靖(かせい)ことカセから心配される。

 

「……そら、自分が死ぬ夢なんぞ見たら……こうもなるわ」

「うーーっわ、これから新生活だってのになんつーもんを見てるんですか、あーたは」

「……しかも、めちゃくちゃリアルな夢だからダメージやばい。細かいとこはもう覚えてないけど、そこのブランコで死んだ」

「おま、あのブランコって確か……」

 

そこまで話したところで、カセから差し出されたペットボトルを受け取り、中の水を半分くらいを一気に飲み干してから、大きく息を吐く。

……うん、少しはマシにはなったかな。こんな夢を見たってことは、まだ【2ヶ月前のあの事件】をまだ引き摺っているんだろう。

……それにしては、何だか引き摺っているような感じの夢じゃなかったってのが気にかかるところだ。

んー、一説を作るのなら、俺の理想が夢という形となって……いや、違うか。俺の理想を形にしたのだったら、俺は別に死ぬ必要なんてないし……結局なんだったんだろうか、あの夢は。

そうして、思考に耽っていると深刻な声音をしたカセから「まさか……お前っ……」と詰め寄られ、その思考を一度中断せざるを得なくなる。

流石にこれから人と会うっつうのに、気負わせたまま話をしてもらうってのは悪いからな……。

 

「……今、カセが想像しているであろう夢じゃないよ。それに、夢の内容とかも薄れつつあっから体調とかも大丈夫だ」

「……それにしては、かなりうなされてたろ」

「そら、どんな形であれ自分が死ぬ夢なんだから悪夢に決まっていて、悪夢だったらうなされててもおかしくねーだろうがよ。ともかくもう大丈夫だからそんな顔すんなって」

 

俺自身、どう説明したものか分からないものをカセに伝える術は無く、とりあえず「大丈夫」であることを彼に伝えた。

しかし、カセは何かを言おうとしているのか口を開ける……が、彼にとっては間の悪い、俺にとっては間が良かったともいえるタイミングで、事前に話を聞いていた人達と思しき2人組が公園を訪れたことにより、その何かを言えずじまいとなった。

 

「あ……星歌姐さん、お久しぶりッス」

「はぁ……その、“姐さん”って呼ぶのはやめてくれって前話したろ?」

 

「あ、や……その癖づいてしまいやして……」なんて言い訳をしているカセは、彼が“星歌姐さん”と呼ばれたヤケに目付きの悪い金髪の女の人と共に、俺から少し離れてゆくとそのまま2人で何かを話し始める。

……なーにを話してんのかなーなんて思いつつボケーッと空を見ていると、ちょいちょいと袖を引っ張られた。

 

「…?」

 

そうして、そちらを見てみれば“星歌姐さん”とやらと同じ髪色をした、しかし、目付きは真逆でクリッとしてて可愛さ満点な少女……恐らくカセと話してる女の人の身内で、恐らく小学校中学年ぐらいの子……が、そのクリッとした瞳をキラッキラに輝かせ、俺を見上げていた。

なんていうか、そういう瞳を向けられたのひっさしぶりで……な、なんだかなぁ……。

 

「あのっ!」

「おっ、おう……」

「お兄さんは!ドラマーなんですかっ!」

 

お?少し驚いたな。まさかこんな幼い女の子から“ドラマー”なんて言葉が出てくるとは。

 

「……どうして、そう思ったんだ?」

「その腰に差してあるのってドラムスティックです……よね?」

「そうではある。けど、それだけでドラマーと決めつけるのは良くないぞ」

「え?」

「今どきの音ゲーじゃ、ドラムをコントローラーとして扱ってるものもある。てーことは、俺がその手の音ゲーを得意としているゲーマーっていう可能性も、普通にあるんだぜ?」

「あ……」

 

ちょっとした悪戯心からそう返すと、彼女は見るからにしょぼんとして更にはその瞳にうるうると……

……やばい、直感だが泣かせたらまずいことになる、というかワンチャン俺殺されかねん気がする。

 

「すまん、冗談だ。君のご明察通り、おれは一応ドラマーだよ。どこのバンドにも所属してない野良だけどね」

 

慌ててそう釈明すると、悪戯されたことに対してか冗談を言われたことに対してかは分からないが、どちらにせよ気を悪くした彼女はプクーッと頬を膨らませ、拗ねてしまった。

なんとも反応が良くて面白い子だ。しっかし、このままだとカセと話してる女の人に変に伝えられて、関係悪くなるのも勘弁して欲しいし……一肌脱ぎますかね。

 

「お嬢ちゃん、お詫びとしちゃなんだが……いいもん見せてやるよ」

 

少女に向かってそう告げた俺は腕まくりをしながら立ち上がると、彼女が目をつけた腰のドラムスティックを引き抜く。そして、先程まで座っていたベンチに向かって構える。

 

「え?お兄さん、そっちは……」

「俺はな、お嬢ちゃん。“ドラマー”ってのは楽器という固定概念に捕われることの無い、フリーダムにどんなリズムもビートも刻めて奏でることの出来るっつうスゲーもんだと思ってる」

「こてい……?」

「難しく言っちゃったな。要するに、ギタリストやらなんやらはしっかりと楽器やら何やらを用意しないといけない。だが、ドラマーってのはな……」

 

話しながら頭の中で演奏する曲を決めた俺は、一度大きく深呼吸を挟んだ後……

 

「いつでもどこでも、叩くものと叩けるものさえありゃどこでもステージに早変わりするのさ」

俺は、ベンチをドラムとして一曲限りのステージの幕を開けた。

 

 ▷▶︎▷▶▷▶︎▷▶▷▶︎▷▶▷▶︎▷

 

「!?な、なんだ……?」

「!!……ははっ、アイツめ…なんだかんだやってたのか」

「は、や……うっま!!」

「……そうなんすよ、姐さん。アイツは、生粋の天才で……」

 

 ▶︎▷▶▷▶︎▷▶▷▶︎▷▶▷▶︎▷▶

 

「…っ…ふぅ…っ、流石に結構気を配ってもスティック削れるなー、こういうとこ」

 

演奏を終えた俺は、いつもの……右手のスティックを手のひらの上で一回転させてから上へと放り、同時に左手のスティックを逆手に持ちかえる。そして、落ちてきたスティックをその左手で掴んで腰の定位置に再び差し込む……という、かつて“彼女”から『パフォーマンスあったらかっこいいよね』ということで、考案した無駄なカッコつけであることは承知の上、しかし、もう何度もしてたせいで癖づいてしまったルーティーンをやって、締めとする。

……いやね?決して気に入ってるってわけじゃねーんだ?練習してたらなーーんか染み付いてって、こうして癖づいてしまったってだけだ。別に決して気にしてるわけじゃ決してない。

それはともかくとして、今の演奏……全盛期ほどじゃなかったけどかなりいい感じにできたな。あん時とは程遠いけど、それでも確かな一歩を……あ、違う違う、今は感傷にひたって手を握ったり開いたりしてる場合じゃなくって……。

 

「とまぁ、こんなかn「すっ……すごいすごいすごいすごーーーーいっ!!!」おっおぉぅ」

 

少女に声をかけようとしたらば、あっちから興奮冷めやらぬ様子を体で表すかのごとく、勢いよく膝あたりに突撃してくる。

あっぶねぇ、コケるところだった。

 

「お兄さんすっごい!すっごい!!どうし」「はいはい、落ち着け落ち着け、な?」

 

大興奮の少女の頭を落ち着かせるために撫でてやりながら、彼女と同じ目線の高さにしゃがみこむ。

 

「まだ俺は君がどうしたいk「弟子にしてください!!」……即決だなおい」

 

やれやれ、ここまで食いついてくるなんて。けど、ま……やっぱ悪い気分じゃねーな、こういうのは。

 

「北条 ミツキ」

「え?」

「俺の名前。自己紹介すらしてないってのに、師匠やら先生やらになるわけにゃいかんだろ」

 

そのまま自己紹介をすると、少女は眩しいほど輝く満面の笑みで……

 

  「私はーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーっくしょぃ!……あ?」

 

……夢?やべ、寝てたのか俺。

頭の後ろをかきながら寝ぼけ眼で腕時計を確認してみると、そろそろこれから職場となる場所へ、顔を出さないといけない時間になろうとしていた。

いや……やっぱさ、この時期……五月の気候がポカポカしてるからさ。昼寝やらがマージで気持ちいいことこの上ないんだ。だから、こうして木陰で立ち寝してしまっても悪くは無いQED完了。

……ま、ホントはさっき来た時にはサラリーマンの人が休んでた……今は空いているベンチで、惰眠を貪りたかったんだけどもね。てか、ベンチで思い出したけど、なんだか懐かしい夢を見たな……夢の中で夢を見るとか変な感じではあったけど、あれからもう8年経つのか。

 

「早いもんだぜ、まったく」

 

小さく欠伸をしながら今いる何かと縁のあるこぢんまりとした公園……通称(俺だけ)“始まりの公園”を少し見回す……と

 

ブランコにギターを背負ったピンク髪の少女が大きな溜め息をついているという、いつかと瓜二つな光景を見つけてしまい目が覚めた。

 

思わずまだ夢でも見てるのかと、目を擦ってもう一度見るも変わらずギター少女が寂しそうに俯いていた。

まじか、運命のいたずらかなんかかよ……。さって

 

「……どうするか、なんて考える必要は無いか」

 

「へっ」と軽く笑ってから木陰から出て彼女の元へと近づく、そして……

 

『「なぁ」』

『「……ふぇっ?あっ、わ、わたしっ?」』

『「今、この公園には俺とあんたしかいないぞ』……ってなんで、やり取りまで同じになるんだよ」

「えっ?えっ?」

「あぁ、すまん。こっちの話だから気にするな」

 

これまた全く同じやりとりとなって、思わず愚痴みたいなものを言ってしまい少女を困惑させてしまう。

ったく……しゃーねーな。

 

「して、俺はこの近くにある、出来たばっかのライブハウスで働いてる者(仮)だが、君みたいに一人で悩んでいるミュージャンを放っておけないのよ。ま、それだけじゃなく、同時に1ドラマーとしても個人的にも悩んでる君を放って置けないと思ってな」

「あっ、えっと……」

 

コミュ障なところまで同じなの?世界は狭いっていうけど、まさかね……。

 

ま、運命の出会いなんて人生一度ありゃいいもんだし、そうそうないよな。

 

「俺は、北条 ミツキ。これも何かの縁だ、君の力にならせてくれ」

「あ、あっ、ありがとう……ございます……。ごごごご後藤 ひとり……です……」

 

 

 これが、2度目の運命の出会いとなろうとは

     俺は、ハナから思っていなかったんだ

 

 

 




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