月に寄りそう乙女達 ~Irish Fairy~   作:トライアヌス円柱

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徐々に出逢う人達と触れ合いながら、才華は人生の歩みを進める
大切なあの子との向き合い方を決めるためにも

15話 裏タイトル 【10人同時とか実は嫌がらせでは?】

単純思考さま、誤字報告ありがとうございました!


弥生 芽吹きの季節
15話 わがままを言わない子


 

 「何その面白い出来事」

 

 開口一番、ルミねえはそう言い放った。僕たちが八日堂朔莉という人物と出会い、言葉を交わした内容について、アトレの部屋でなるべく詳しく話した結果が、今の言葉である。

 

 ちなみにアトレの部屋も僕たちと同じ2階にあるが、九千代の部屋と一体になっている。壁を取り払う工事をして、主従2人で住んでいるという訳だ。僕の部屋と壱与&九千代の部屋を繋ぐ秘密通路を作るのとは別に工事したわけだけど、このマンションの持ち主の伯父様の許可を得ているから大丈夫。

 

 というか、伯父様の指示で工事したのだけどね。

 

 なぜルミねえが八日堂朔莉という人物に興味を持ったかというと、どうやら彼女は「イトウ・サクリ」という芸名で、アメリカで子役女優をやっていたとのこと。

 

 彼女の出演する映画やドラマは多く、日本でも有名らしい。聞いたところ、アトレも九千代も知っていた。そうなると知らないのは僕だけだったらしい。世間知らずでごめんね八日堂さん。

 

 この調子だとエストさんも多分『八日堂朔莉』は知らなくても『イトウ・サクリ』は知っている。少なくとも名前は聞いたことはあるだろう、彼女は去年までNY住まいだったのだから。つまり仲間はずれは僕だけ。なんか寂しい。

 

 

 「私も一緒に居れば良かった。彼女とは気が合いそうだもの」

 

 「ルミねえさまと、八日堂さんがですか?」

 

 ルミねえと八日堂さんか…… 気が合うかな? どうかな?

 

 2人とも言動が妙なところがあるし、意外とシンパシーを感じたりするのだろうか。ううむ。

 

 「その人、やっぱりアメリカ暮らしが長い影響かな、中々素直に気持ちを出さない日本人と違って、会った瞬間告白とは、清々しいね」

 

 感心するところはそこだったか。言われてみれば、一目惚れした相手とはいえ、即行動できる情熱と覚悟は賞賛されるべきかも知れない。

 

 僕にはどうだろうか。いや、出来るできない以前に、僕が誰かに一目惚れするという状況が想像できないので、この仮定にあまり意味はなさそうだ。

 

 「確かに、そのバイタリティはすごいと思います」

 

 「ん? アトレさんは、八日堂さんのことをあまり気に入っていないの?」

 

 「……あの方の真意を掴みかねています。日本でも有名な女優ですから、心情を隠すことは同年代の誰よりも上手だと思いますし」

 

 「まあ、そうだろうね。それでも、私はあまり心配してないかな」

 

 「それは、どうしてですか?」

 

 「話を聞く限り、彼女は自分の感情を制御して潔く引いたみたい。つまりは人の話をきちんと聞ける上、空気を読める人だと分かる。それに、この子に直球な愛情を向けられるのは素直に感心できる」

 

 僕の外見は常とは異なる。八日堂さんの態度の中には『異なるもの』に接するようなものは、確かになかった。

 

 

 「お兄様に対して、ただ『美しいもの』と認識し、接したことに、ルミねえさまは好感を覚えていらっしゃるのですね」

 

 「そう。彼女は人間の本質をしっかりと見れる人だと判断できる。だから私は仲良くなれそうだと思ったの」

 

 「なるほど。ルミねえ様の仰るとおりだと思います」

 

 何の偏見もなしに、僕の容姿を受け入れることは、きっと難しいのだろう。同じ外見のお母様の苦労は本人や周囲の人たち、特にお父様と八千代から教わっていたから、知識としては詳しく知っている。

 

 僕自身には、そうした経験はないけれど、やはりそういうものなんだろう。

 

 僕のことを生まれた時から知っている人と医療関係者の方々以外で出会った人は、エストさんに銀条さんに一丸さん。そしてこの3人ともが、僕の姿を綺麗だと言ってくれた。エストさんについては、最近ルミねえに感化されて、『かわいい』と言うことの方が多いけど。

 

 それでも、銀条さんと一丸さんは、僕の姿を素直に受け止めてくれた。だから僕も彼女たちと友達になりたいと思った。けれどルミねえの口ぶりから察するに、僕はとても運が良かったようで、そうした人は少数派なのだろう。

 

 僕がお父様の庇護から出ることを許された後に出会った人達3人は、みな素晴らしい人たち。でも今後学校が始まったとき、“そうではない人たち”と接することになることを、覚悟しなければならない。

 

 だけど、八日堂さんはきっと“4人目”になれる人だと、ルミねえは言ってくれている。よし、今度会う前に彼女の出演する映画を見ておこう。

 

 「恋慕が積もるあまり、若にしつこくアピールするという事態は考えられないでしょうか」

 

 九千代が、おそらく想定できる可能性や事態を対処するために、ルミねえに問う。でもこれは質問者自身が、その可能性は低いと考えているようで、確認の意味合いが強そうだ。

 

 九千代も、八日堂さんに悪い印象は持っていないように見える。

 

 

 「ないと断言はできないけど、可能性は低いと思う。というか、この子に付きまとうような輩なら、そのときは私も、この子の主人も黙ってないから大丈夫」

 

 害になるなら排除する。大蔵ルミネという人は、なんの衒いもなくそう断言した。すごい。

 

 この強い言葉にはアトレも九千代も、実はずっといたけど、一言も喋らずに僕ら子供たちを見守ってくれていた壱与も、納得したように頷いた。

 

 と言うわけで「八日堂朔莉ってどんな人?」会議は終了し、ルミねえは一人離れた64階に戻っていく。

 

 ちなみに、彼女だけ離れた64階にいるのは、この青山スカイレジデンスは60階以上の入居者には優先的にサーヴィスを受けられるほか、多くの特典も受けられる。

 

 何か緊急の用件の時、その権限を持つルミねえが要請すれば、他の入居者、つまりは僕に関することでも、壱与以外のコンシェルジュたちも優先して対応してもらえる。そのためだけに、彼女曰く『広いだけで退屈』な部屋に住んでくれている。なんともありがたい。

 

 けれど、最近は僕が65階のエストさんの部屋にいることが多いので、ちょくちょくルミねえもエストさんの部屋に遊びに来る。僕たちがデザインや型紙の練習をしている横で、経済の勉強をしていたりする。ルミねえ曰く、「疲れた時は可愛いものを見るのが一番」とのこと。なぜかエストさんもウンウンと頷いていた。

 

 そのため、最近はエストさんの部屋に行く際に、あらかじめ九千代に3人分(僕は食べないけど、エストさんが2人分食べる)作ってもらっている。

 

 

 「……」

 

 ルミねえが戻ったのを合図という感じに、壱与もコンシェルジュとしての控え室に戻っていく。もちろんきちんとドアから。わざわざ必要もないのに僕の部屋の隠し階段を使う意味ないからね。

 

 ただ、僕はエストさんの従者でありながら、その許可も得ずに他家のお嬢様の部屋に長い間いるというのは体面が悪いので(ルミねえはそのくらい気にしないでいいんじゃない、と言ってくれたけど、やっぱりエストさんに悪いと思う)、九千代の部屋の方にあるどんでん返しの隠し扉を使用するつもり。

 

 九千代も紅茶のカップやお菓子の皿を片付けるために台所へ向かったので、居間にいるのは僕たち兄妹だけになった。

 

 だから、言っておかなくちゃ。

 

 「アトレ、君には見抜かれちゃったね」

 

 「はい、貴方の妹ですから」

 

 そんなのやり取りを残して、僕も忍者のような手段で部屋に戻る。

 

 

 ルミねえは僕を可愛がってくれる。エストさんも従者として良くしてくれている。

 

 壱与や九千代はその勤めとして、僕の健康状態には僕本人以上に気を配ってくれている。

 

 僕は能力の高い多くに人に支えられている。だから僕はこんな体でも普通に生活していられる。それは、とても感謝すべきこと。けっして忘れてはならないと、お父様から教わったこと。受けた誠心や親切には、かならず感謝で返す。

 

 けれど、あの子は違う。

 

 あの子は特別。僕はずっとあの子を見ていたし、あの子もずっと僕を見ていた。だから、壱与や九千代でも気づけない僕の変化に気づいてくれた。

 

 僕の中で、あの子だけが対等。良くも、悪くも。

 

 八日堂さんが髪について話したとき、僕は一瞬だけ心が昏くなった。彼女がその髪色を維持する為の行為で『髪が傷む』と表現した時に、それが出てしまった。

 

 穿った見方をすれば、僕のこの髪は「健常なものを痛ませた」ものだということになる。それは、僕の心の昏い部分を刺激するもの。

 

 でも、上手く隠せた。僕はずっとそうしてきたから、自分の心の昏闇を表に出さないことは得意。

 

 けれど、生まれた昏い気持ちが消えるわけじゃない。それは隠しただけだから。

 

 それをあの子は見抜いた。体の健康面は壱与や九千代の方が上手く判断できるけど、僕の精神面を察する上で、あの子ほどに僕の心に近くない。

 

 でも、ごめんね。僕はまだ君をまっすぐに見ることが出来ないんだ。僕はまだ、君の心と向き合えない。

 

 

 

 だけどアトレ、血を分けた、たった一人の君を、僕は追い続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕、桜小路才華はこれまで愛情の箱庭にいた。幼少期の僕にとって、世界とは即ち桜小路遊星で完結していたといっていい。

 

 彼がしてくれるお話。柔らかい胸に包まれる安心感。この世の何よりも暖かい瞳。あの人は、僕が欲しいものを、求めているものを、彼が出来うるすべて余さず与えてくれた。

 

 僕にとっての世界とは父が居る自室、ただそれだけ。そこから出ることは出来なかったし、出ようともしなかった。ドアの向こうは別世界。窓の向こうも別世界。

 

 桜屋敷には多くの優しい人たちがいた。八千代、壱与、当時は紅葉もいたはずだ。それでも、彼女たちは僕にとって遠い人だった。自分とは違う人だった。彼女たちは僕の住んでいる世界に来てくれるお客さんだけど、同じ世界に住んでいる人じゃない。幼い自分はそう思っていた。

 

 ただその中で壱与は、その内に「もうひとりの母」と認識するようになっていったけれど。

 

 同じだと思っていたお母様も違った。彼女はずっと僕より強く颯爽していたからその後ろ姿に憧憬したし、それは今も変わっていない。

 

 

 「才華は良い子だね」

 

 当時から、お父様もお母さまも屋敷の人も、僕を我が儘を言わない良い子だと言う。でも僕にはその意味がよく分からない。

 

 だって、僕を生かすだけでとても大変なのに。いくら子供でも、いや子供だからこそ分かる。

 

 昼も夜もなく発作を起こして苦しむ僕。そしてその時にすぐ対応できるよう、八千代も壱与も紅葉も、他の多くの使用人たちも常に気を張っていた。

 

 お父様は忙しいお体なのに僕の側にいてくれた。お父様以上に大変な立場に居るお母様だって、僕のために多くの時間を割いてくれた。

 

 これ以上のワガママって、なんだろう。彼ら彼女らは、僕がいなければもっと楽しい時間を過ごせたことだろうに。

 

 だから僕は、きっと同年代の誰よりもワガママだったはず。屋敷の人間から「気楽」を奪っていたのだから。

 

 他愛のないおしゃべり、楽しいお茶の時間、ちょっぴり怠けての息抜き。

 

 その全部が、僕が咳をするだけで台無しになる。屋敷は緊張に包まれ、余裕のある人間は一人もいなくなる。いや、その中でお母様だけが悠然としていらしたように覚えてる。だから、あの人を誰よりも尊敬する。

 

 

 「もっと、我儘を言ってもいいのに」

 

 だから分からない。彼らの言う「我儘でいい」という言葉の意味が。

 

 それを言う相手を間違えている。だって、彼女こそがずっと我儘を言わなかった子供だろう。

 

 お父様も、お母様も、屋敷にいるみんなも、やっぱりみんな大人だから、僕を守ってくれる力を持っている。僕に割ける余力があるし、それをするための思慮分別がある。

 

 でもあの子は? 僕はあの子が我儘をしている姿を見たことがない。アレが欲しい、これが欲しいと両親や使用人にお願いしている姿は何度も見ている。でもそれは違う。あれは決して我が儘じゃない。

 

 君はいつも、何時だって自分を律していた。まるで苦行を積む修行僧であるかのように、君は何かに耐え続けている。

 

 君はいったい何を望んでいる? 何が君の幸せなのだろう。君は一度も我儘を言ってくれたことがないから、それが分からない。

 

 いや、正直に告白すると、その形は朧げには見えている。後一歩踏み込めば、それが明確な形になるのも分かる。

 

 けれど、今の僕はその一歩が踏み出せない。その一歩は、きっと引き返せない一歩になる気がしてならないんだ。

 

 僕が今まで君にできたことなど、ほんの些細な事しかない。

 

 それでも君は喜んでくれた。君から両親を、無邪気に遊べたはずの子供時代を奪ってしまった僕に対して微笑んでくれた。

 

 君ほどよく出来た子はいない。君ほどよく出来た妹はいない。君が妹で、僕は誇らしい。君という妹がいるだけで、これ以上ない幸福なのだろう。誰もが羨むこと間違いない。

 

 だけど、だけど、だけど、だけど、だけど、ああだけど。

 

 アトレ、僕は君が―――――

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 光陰矢のごとし、というわけではないが、特に大きな出来事はなく、日々は過ぎていく。

 

 入学まで半月となった3月の、暖かさが実感として現れる頃、八日堂さんと再び出会った。場所はマンションの屋上庭園。今では多くの入居者が利用しているこの建物の人気スポット、というより売りの一つ。

 

 僕、エストさん、アトレ、九千代、ルミねえでちょうど『イトウ・サクリ』主演の映画のことを話していたら、噂をすればという奴なのか、ちょうど彼女が現れた。

 

 「久しぶりね。この一か月、貴女と会う事ばかりを考えていたわ、お姫様」

 

 お姫様、というのはもしかして僕だろうか。でもこの席を囲んでいる他のみんなも、そう呼ばれて問題ないくらいの立場だと思う。

 

 九千代はそういう家柄じゃないけど、そう呼ばれても嫌味にならないくらいに可愛らしいし。

 

 「はい、お久しぶりです、八日堂さま。2月に出会って以来お会いする機会がありませんでしたが、やはり撮影でいそがしかったのでしょうか」

 

 以前会った時は彼女が『イトウ・サクリ』だと知らなかったが、今は何作か彼女が出演した映画を見た。ルミねえの部屋で、大きな液晶画面の前に、ちょうど今いる5人で鑑賞したのだ。エストさんはポップコーンまで用意して。

 

 

 「ちょうど今貴女の話をしていたの。よかったら実際の撮影の話なども聞かせてもらえますか? あ、可能な範囲で結構ですよ。先日は、貴女が『イトウ・サクリ』だと気づかないで失礼でしたね。貴女の出演作品は知っていたのだけれど、髪の色が違ったので気づかなくて」

 

 「こんにちわ、八日堂さん。今日はいいお日和ですね。ちなみにわたしはおととし公開された『マツオカが退場するぞ』がとてもよかったと思います。最近はテレビドラマの撮影を行われているとのことですが、アメリカでも有名な映画女優であるところの貴女がどうして日本に帰国し、ドラマに出演する心境になったか、興味があります」

 

 「わたしは、『アッツ鳥守備隊の打電』の脚本が気になりましたね。イトウ…… この場合は八日堂のお嬢様と言ったほうが良いでしょうか。とにかく八日堂のお嬢様の演じた役が驚く程“欧米人が思い描く日本人”という描かれ方をしていたので。現代にあんな日本人は、どこを探してもいないと思います」

 

 「初めまして、大蔵ルミネです。貴女が八日堂朔莉さんね。でもごめんなさい、私この間この子たちと鑑賞会やるまで、貴女の出演作品一度も見たことなくて。でも、この子に告白した貴女の勇気は認めたい。けれどこの子と付き合いたいなら私の許可が必要だという厳然たる事実を覚えておいてね」

 

 エストさん、アトレ、九千代、ルミねえから挨拶の集中砲火を浴びる八日堂さん。大人気だね。ちなみに僕は観た映画はどれも面白かったと思いますけど、特にお気に入りの作品とかはなかったです。

 

 

 「あれ? 私もしかして、以前出会った時に『聖徳太子の生まれ変わりなの』って言ってた?」

 

 ごめんなさい八日堂さん、偶然貴女の話題をしていた時に現れたものだから、それなりに盛り上がっていた団欒の延長線上のテンションなんです。

 

 「とりあえず順々に。ありがとう貴族のお嬢様。でも向こうでは、よほどのアジアンビューティーでもないと、東洋人の顔なんてみんな同じに見えるから、髪の色が変わったら分からなくなるのも当然よ」

 

 「桜小路のお嬢様、ごきげんよう。あの映画は興行収益こそ大きいけど、私の役どころは小さいのに、知ってくれて嬉しい。日本に帰ってきたのはやりたいことがあるとだけ、今は言っておくわ」

 

 「メイドのお嬢さんの素朴な質問は新鮮。たしかに、何十年前の日本人像だよ、って話よね。でもあれわざと。映画自体も全体的にコメディチックだったでしょ? あの監督、そういった人物や物事の特徴を、さらにカリカチュアする手法が好きなの」

 

 「大蔵のお嬢様、初めまして。白いお姫様を、私にください」

 

 「ダメです」

 

 すごい。流石は若干10代でアメリカで成功した女優。ああ言いながらも4人からのマシンガン挨拶をきちんと聞き分けて、ちゃんと個別に返している。あと、ルミねえは僕の母ではありません。

 

 「はぁ、さすがの私もこの不意打ちは想定してなかった。これからインタビューのためにキャラ建てしておいたのに、それが崩れちゃったじゃない」

 

 「それは、申し訳ありません」

 

 「謝らなくていいよ朝陽さん。キャラ崩したくないなら、話しかけない方が無難だもの。八日堂さんの自己責任」

 

 僕の謝罪に間髪入れずに入り込むルミねえ。そうかもしれないけど、いつになく厳しいね。

 

 

 「あら、大蔵のお嬢様は、この白いお姫様を見かけて、声をかけずに2時間後の予定を優先できるの?」

 

 「何言ってるの貴女? 大丈夫? この子を無視するなんて、酸素だけ取り除いて息を吸うようなものよ?」

 

 ルミねえがまたおかしなことを言い始めた。しかも今回はちょっと例えが独特だ。

 

 「わあすごいこの人。自分は出来ないことを一切恥じることなく人にやれと言ってる。でもその素直な傲慢、嫌いじゃない」

 

 「私も、貴女のこと嫌いじゃない。というわけで改めまして大蔵ルミネです」

 

 あ、たしかルミねえは以前八日堂さんの人物像を話したとき「気が合いそう」って言ってけど、それを確かめるための会話だったんだ。対人経験が低い僕には無い発想だ。すごい。

 

 「どうぞよろしく。私、貴女のことなんて呼んだらいい?」

 

 「ルミネでいいです。大蔵って姓で呼ばれると、それだけで注目されることもあるので。そういう煩わしいの、貴女もあるでしょう?」

 

 「ん、まあね。でもそれは私が選んだ道だから仕方ない。というか、本当にキャラ忘れちゃった。インタビューどうしよう」

 

 インタビュー用にキャラを作るとはどういうことだろうか? 彼女に対するインタビューなのだから、そのまま答えればいいだけのことだと思うんだけど。

 

 「朔莉さんは、その作品の役になりきってインタビューを受けるのですか?」

 

 僕が聞きたかったことをエストさんが代弁してくれた。そうか、その作品ごとの演じた役に入り込んで受けるということもあるのか。………あるのか?

 

 

 「ううん、そういうワケじゃないんだけど…… そういえば貴族のお嬢様も、お名前はこの前聞いたけれど、正式な挨拶はまだだったわね。私は八日堂朔莉。芸名は『イトウ・サクリ』で、出身は日本の岡山。地元のお土産はままかりときびだんごね、フィリアでは芸能科に入るけれど、もしかして同級生になるのかしら」

 

 どっちも食べたことないなぁ。とくにままかりは僕には無理そう。それにしても八日堂さんは芸能科に行くのか。映画女優として成功している彼女が改めて学校に行くということは、きっとなにか事情があるんだろう。

 

 「丁寧な挨拶ありがとうございます。私はエスト・ギャラッハ・アーノッツ。出身はアイルランドですが、実家の家は現在ロンドンにあります。最近までNYに住んでいました。フィリアの通う学科は服飾デザイナー科です」

 

 「あら、デザイナー志望だったのね。美しい姿をしているから、てっきり芸能関係かなと。私のことは好きに呼んでくれていいけれど、私は貴族の貴女をなんて呼べばいよいかしら」

 

 「褒めて頂きありがとうございます。私のことはエストで構いませんよ。でも、貴女が一番知りたいのは、私よりもこの子の名前では?」

 

 「私の愛する姫の名前を、教えてくださる?」

 

 「私は許可します。朝陽、自己紹介をお願いね」

 

 たしかにエストさんの容姿も体型も見事に綺麗だ。芸能関係の人間と言われても納得するだろう。ファッションモデルになるには残念ながら身長がもう少し足りないけれど、雑誌のモデルで巻頭を飾ってもおかしくない外見をしていると思う。

 

 っと、それより八日堂さんにきちんと挨拶しないと。

 

 

 「改めまして八日堂朔莉さま。アイルランドのアーノッツ子爵家のご息女、エスト様に仕える従者、小倉朝陽と申します」

 

 エストさんは八日堂さんとの会話の中、ずっと貴族の子女たらんと振舞われてきた。ならば、僕もそれにふさわしい従者として礼節を尽くさなければ。

 

 「小倉朝陽さん…… 日本人なのかしら?」

 

 「いえ、アイルランドと日本のクォーターです」

 

 「ふうん、お父様がハーフだから、日本人の姓を使っているというわけね」

 

 あ、また勘違いされた。たしかに僕のお父様はアイルランド人のハーフだけど、お母様は純日本人だ。純日本人だけど、日本人離れした美しい容姿の自慢のお母様です。

 

 そのお母様にそっくりな僕も、当然日本人離れしている、その上でお父様からのアイルランドの血が影響しているのか、出会った人の多くが僕を「3/4アイルランド人」と認識する。

 

 でも僕は別にそれでいいと思うので、問題ない。

 

 「麗しの姫の名前が聞けて満足。貴女の白く美しい髪を思い出さない日はなかったわ」

 

 僕の髪を褒めてくれるのはありがたいし嬉しい。でもそれとは別に言いたいこともある。

 

 「私の髪を褒めてくださってありがとうございます。でも、全ての髪に貴賎はありません」

 

 「え?」

 

 八日堂さんが虚を突かれたような顔をしている。たしかに僕の発言はやや突拍子のないものだった自覚はあるけれど。

 

 「貴女が特に白い髪を好んでいることに、文句を言いたいわけではありません。私としても大変嬉しいですし、好みは人それぞれです。ですが、それ以外の髪もみな素晴らしいのです。エストお嬢様の輝くような金髪。アトレお嬢様やルミネお嬢様のしっとりとした黒髪。九千代さんの愛らしい赤髪もとてもチャーミングです。もし私のことを好きだと仰ってくれるのなら、私が好きなそれらの髪も、好きになっていただきたいのです」

 

 「…………」

 

 やっぱり失礼な物言いだったかな。でも、僕がここにいるみんなの髪も好きなのは嘘ではないから、ここは本音で語り合いたい。

 

 「調子が狂うなぁ。でも好きやわぁ

 

 なにか小さな声で彼女が呟いたけど、本当に小さな声だったので意味のある言葉として認識することはできなかった。

 

 「あの、今なんと?」

 

 「ううん、ただの独り言。いやそれにしても手痛い先制攻撃を受けた気分。心理的には1ラウンド目で渾身のクロスカウンターを受けて、カウント8で立ち上がったボクサー」

 

 ごめんさない、格闘技はさっぱりです。

 

 「まさか、私より先に髪に対する熱い情熱を語られるとはね、予想外過ぎて、今後あまり貴女の髪ばかり褒めてしまったら、貴女の機嫌を損ねてしまいそうで不安」

 

 しまった、そんなつもりはなかったけど、たしかに僕の言葉はそう捉えられても仕方ない。

 

 「この子はそんな狭量じゃないよ。でも、好感度を稼ぎたいなら、TPOは考えたほうがいいかもしれないね」

 

 間髪いれずにフォローを入れてくれるのはルミねえ。頼りになります。

 

 「白い髪に対する情熱を語るのは、他に人がない2人きりのときだけにしよう、と誓うわ」

 

 「2人きりになるためには、私の許可が必要です」

 

 今度はエストさん。たしかに、僕は彼女の従者だから、2人きりの逢引などは気楽に行えない。従者の行動は、そのまま主の品位に繋がるのだから。

 

 

 「助けて桜小路さん。大金持ちと貴族が私をいじめるの」

 

 「す、少なくともここにいる私たちは、貴女が白い髪に対する愛情を語っても気にしませんし、朝陽もそれで大丈夫ですよね?」

 

 ルミねえとエストさんの見事なコンビネーションで逃げ場を失った八日堂さんは、その助けをアトレに求めた。ごめんねアトレ、君はこういうアドリブ苦手だよね。

 

 「ええ、他の髪を貶めるような言葉が出ないのであれば、私はそれで満足です」

 

 「うう…… 危なかった。セリフの流れで『黒い髪を見たらテンションが下がる』なんて言った日には、私の好感度はどのくらいまで下がってたのかしら、ふふふ……」

 

 「9回目のデフォルトをした時のアルゼンチン国債あたりまで下がったんじゃない?」

 「いえ、どちらかといえば、友達からもらった好きでもないサッカーチームのユニフォームくらいの価値では」

 「間違えて買った異性用のヘアコンディショナーほどかな、と思います」

 「間違えてナツメグを大量に入れてしまったマカロン並ではないでしょうか」

 

 容赦なく4者4様の答えが飛んできた、みんなそれぞれの個性が出てるなあ、でも九千代、それはちょっとシャレにならないよ。

 

 「私にも傷つく心があるのを知ってほしい。でも、こういうやりとりができる関係は嫌いじゃない、むしろフェイバリット」

 

 「この子のいいお友達になってあげてね」

 

 「やだ友達! なんて素敵な響き! これまで私に全く縁のなかった存在! でも同時に友達以上の関係は許さないという断固とした意思をルミネさんから感じる!」

 

 「朝陽ともども、良い友人になりましょうね」

 

 「よろしくお願いします。八日堂さま」

 

 「わたしはアトレお嬢様の従者ですが、それでもよろしければどうぞお願いします」

 

 「あれ? もしかして私明日死ぬ? なんかそれくらいのレベルのことが起こってるんだけど」

 

 その後、八日堂さんと一緒にいたマネージャーさんから、これまで八日堂さんには友人と呼べる存在がおらず、出演仲間と交友を深めることもなかったと聞かされた。苦労したんですね八日堂さん。これからは僕たちが友人です。

 

 

 「みなさんは、普段もここでお茶会しているの? 私も撮影がない日は参加したいのだけど」

 

 「どうぞ、遠慮することはないですよ」

 

 代表してエストさんが八日堂さんを歓迎する。こういう時の代表を、当たり前に、気負うことなくやってこその貴族だと、示してくれている。

 

 「そういえば、桜小路さんとルミネさんは親戚なのは知っているけど、エストさんとはどういう関係なの?」

 

 「この子が服飾の勉強をするために、フィリアに来たがっていたの。それで信頼できる誰かに預けたほうがいいと、私の伯父の紹介でエストさんの従者になった」

 

 あれ? いつの間にか情報が更新されているぞ? どこからその設定生えたのルミねえ。

 

 「はい、お預かりしてます」

 

 エストさん!? 

 

 「え、いや、あの、私はちゃんとお嬢様にお仕えするつもりで」

 

 「冗談だよ。ごめんね」

 

 「慌ててる朝陽かわいい。でもちょっと意地悪だったね」

 

 弄られてしまった。それにしてもエストさんにルミねえウイルスがどんどん伝染して行ってる。はやくワクチンを打たないと。

 

 

 「つまり、大蔵さんの伯父様が仲介に入って、エストさんに雇われたのね。 え? ということは最近のこと?」

 

 おや、八日堂さんが驚いている。なにかおかしなところがあっただろうか。

 

 「私と朝陽は今年から主従関係を結んでいますが、なにかおかしなところがありました?」

 

 やっぱりエストさんも僕と同じことを考えてくれていた。

 

 「いや、エストさんと小倉さんの雰囲気が、そんな短期間のものとは思えなくって。数年単位で一緒にいるものとばかり思っていたわ」

 

 それは…… 素直に、本当に嬉しい言葉だ。エストさんの隣にいる関係が自然であると、アメリカで有名な女優である彼女に思われたということは、僕と彼女の間には、きちんとした絆が生まれていると思っても、自惚れではないはず。

 

 

 「それは私と朝陽が長年の主従のような間柄に見えたということですね。わあ、どうしましょう朝陽、そんなこと言われたら照れてしまうねウフフ。あれ、朝陽? 聞いている?」

 

 嬉しさで頬が紅潮しているのが自分でもわかる。でもこういう時、僕の顔は誰が見ても真っ赤だとわかってしまうので、メイド服のエプロンをぎゅっと握り、周りに気づかれないように俯いた。

 

 「…………」

 

 「…………」

 

 「…………」

 

 「…………」

 

 「…………これは反則」

 

 あれ? 誰も何も言わない。いやルミねえがなにかを言っているけれど、なぜか会話が止まっている。

 

 不思議に思って顔を上げると、5人とも何とも言えない表情で僕を見ていた。

 

 え? あれ? どういうことだろう。いきなり俯いたから変に思われたのかな。

 

 

 「あー、ごほん。そ、そういえば私、昔桜小路さんのお屋敷にお呼ばれしたことあるのよね」

 

 気まずい沈黙を打ち破るように、八日堂さんが話題を転換させた。なんだろう、今の間はどういうことだったんだろう。

 

 「え? そうなのですか? あの、大変申し訳ありません、よく覚えていません」

 

 アトレの記憶には無いようだ。当然、僕の記憶にあるはずがない。

 

 「うちの八日堂家と、桜小路本家、つまりはアトレさんの家じゃない方の桜小路家とは、あまり仲が良くないの。それでも同じ業種に携わっていることもあって、一切の没交渉というのも無礼だから、桜小路本家で催されているなんとかってイベントに、父と行ったことがあってね。あ、これ私が幼い頃の話」

 

 「それはおそらく『観桜会』ですね。わたしも父に連れられて何度か行きました」

 

 そういえばアトレはお父様と一緒に出かけていたね。でも何度か僕の病状が思わしくない時と重なって、お父様ともども欠席してたっけ。

 

 「で、まあ見事なアウェーだったわけ。居心地は当然最悪。でも勝手に帰ることもできない不幸の極みみたいな顔してた私に、優しく語りかけてくれる人がいたの。最初は女の人かと思ったけど、着てる服は男の人のものだったし、実際男性だったわ」

 

 あ、この話の流れからするともしかして。

 

 

 「もしやその人物は、私の父の桜小路遊星、でしょうか…?」

 

 だよね。お父様なら絶対やる。そして一見女性という特徴は、まさにお父様だ。

 

 「正解。小さな女の子も一緒だったから、きっとあの子が幼い日のアトレさんだったのね」

 

 「あ! 思い出しました! あの時の方が八日堂さまだったのですか?」

 

 「そういうことね。そこまで思い出してもらえたなら話は早い。後の流れは単純。桜小路本家で最悪な思いをした私たち親子を、改めて桜小路分家に招待してくれたわけ」

 

 「たしか、その観桜会の3日後くらいでしたよね。お母様のブランドのイベントが成功したことを祝って、屋敷の庭で行われたパーティに、お呼びしたのだと朧げながら記憶しています」

 

 「うん、あの嫌味な人達と同じ苗字を名乗っているのが信じられないくらい楽しい思いをさせてもらったわ。貴女のご両親もその周囲のご友人も、さらに家の使用人たちもとても素敵な人たちだったから」

 

 もしかしたら、八日堂さんの白い髪を好む理由は、このときお母様――桜小路ルナに出会ったからではないだろうか。颯爽として誇り高く美しいあの人に憧れたというのは十分にありえる話だ。幼い頃なら尚の事。

 

 

 「あの頃の私はすごく人見知りで、とくに同年代の子とあんまり仲良くなれなかったの。そのせいで当時のアトレさんのことも警戒して、仲良くなれずじまい。面倒な性格でごめんなさいね」

 

 ここでアトレと交流があれば、今回の出会いは、幼馴染との再会になっていた可能性もあるのか。

 

 「いえ、わたしもお父様のような社交性はありませんでしたから……」

 

 それでも、当時からアトレは人好きのする愛らしい子供だったと思うよ。でもそうか、そんなことがあったのか。全然知らなかった。

 

 「そういえば貴女のお父様、パーティの途中でいなくなっていたように思うけど、どこかに行ってたの?」

 

 お父様が……? 

 

 ああ、そうか、僕の部屋に来ていたんだ。お父様は常に僕を気にかけて、こういう時のパーティであっても、中座して僕のところに来てくれていた。

 

 「ええと、ごめんなさい、流石にそこまでは思い出せません」

 

 このことはアトレはもちろん知っているけど、これは流石に言えないね。あまり妹に嘘は言わせたくないけれど、こればかりは申し訳ない。

 

 「ここからちょっと恥ずかしい話なのだけど、貴女のお父様、つまり素敵なパーティに誘ってくれたその人がいないことに気づいた私は、勝手に貴女の家を探し始めちゃったのよ。ごめんなさいね。でも当時は私も子供だったの、許して」

 

 「いえ、それはわたしがなにかを言うことではないですし…… その後は?」

 

 「大したオチじゃないわ。いなくなった私を探しに来た父にこっぴどく怒られた、そういう子供らしい失敗談」

 

 そこで彼女の話は終わる。意外だ、彼女が桜屋敷に来ていたなんて、思いもしなかった。残念ながら八日堂家との交流は、その後僕らの一家が渡米したこともあり一度きりのものになった。もう少し日本にいれば、ルミねえとも幼馴染になっていたのかもしれない。

 

 八日堂さんの予定の時間が来たこともあり、その場はそれで解散となった。

 

 「八日堂さんと桜小路さんが昔会っていたなんて、世の中の縁というのは不思議なものだね」

 

 「ええ、そうですねエストお嬢さま」

 

 エストさんの言うとおりだ、もしかしたら今後も、僕の知らない桜小路との縁があった人と出会うのかもしれない。

 

 今夜部屋で壱与や九千代にそのあたりのことを聞いてみようと思いながら、エストさんと連れ立って庭園を去った。

 




お空を移動中の桜小路婦妻

「しかしこうして世界中を飛び回る日が来ると、自分がどこに住んでいるのかわからなくなるな」

「そうだね、一昨年まではニューヨークからあまり離れなかったけど、流石にいつまでも湊に任せきりというわけにもいかないし」

「私はこの肌、君は才華の看病で、夫婦揃って動かなかったからな。流石に各所に改めて顔通しをしておかないと、先方の心証が悪くなる」

「面白いよね。今はどこでもモニター越しで会話できるけど、そればかりだと却って心証が悪くなるだなんて」

「まぁ、人間なんてそんなものかもしれないな。原人から新人類まで数万年かかったんだ、10年や20年で人間の頭は切り替われないということだろう」

「それこそ、切り替わられたら、昔のSF小説みたいに全身タイツがフォーマルになっちゃうかも」

「改めて考えると、服飾に携わる者として、絶望に過ぎる未来だなそれは」

「でも人の想像力は面白い『た、大変!!』…… 湊? どうしたのそんなに焦って」

「ファーストクラスが半ば個室状態とは言え、ここは機内だぞ湊。君がそこまで慌てるなんて、いったいなにがあった」

「あ、あのね。これから向かうパリのコレクションで展示する作品が、一着盗まれたって!」

「「はあ!?」」

「いやー、最近のフランスは治安悪いね」

「『治安悪いね』では済まないぞ! というかか今さっきまで大慌てだったのに、急に余裕を取り戻すな、調子が狂う」

「いや、2人の驚いた顔を見たらなんか落ち着いて」

「流石に私の片腕、いい根性をしている…… と遊んでる場合ではないな、盗まれたのはどの衣装だ」

「これ、『マルセーユと2つの塔』をテーマにしたやつ」

「ああ、これか…… だが、今回のコレクションでこれはモデルに着せない、衣装スタンドで展示する用だったな」

「うん、でも事情が事情とは言え、展示場に穴を開けることになっちゃうからね」

「コレクションは、5日後だったな……」

「5日か…‥ モデルが来てランウェイを歩く服なら無理だけど、展示する用の衣装だから、これからスタッフ総出で対応すれば、なんとか出来ると思う」

「いや、駄目だ。未発表の作品が盗まれたということは、そいつらが盗人猛々しくこちらを剽窃だの盗作だのと批判してくる可能性がある」

「あー、向こうのどっかのブランドの末端の人間がやった可能性もあるかー。もしくは裏社会? シチリアンマフィア? ナポリカモッラ?」

「それはどっちもイタリアだ。それに裏社会の人間はつまらん犯罪はしないものだ。だがこの世界は一皮剥けば畜生道。成り上がるために手段を選ばない2流3流はゴマんといる。そして、だからこそ我々は隙をみせてはいけないんだ」

「じゃあルナ、どうするの?」

「これから1時間でデザインを描く。夫は私のデザインが出来次第型紙制作にかかってくれ、湊はその間スタッフを集めて生地の手配などを指示して、即座に制作を始められるように整えろ」

「え? ここで? 飛行機の中で?」

「道具はある。私の方は紙とペンさえあれば出来る。むしろ問題は君の方だ」

「いやいや、デザインに一番必要なのはインスピレーションでしょ? 自分の世界に埋没できるアトリエならともかく、こんな飛行機の中じゃ……」

「弘法は筆を選ばず、だ。アトリエでないと描けないなんて、プロにあるまじき怠慢だぞ。私をそんなアマチュアや学生と一緒にするな」

「プロだからこそこだわりが多い人も多いけど、うちの女王は流石だね」

「湊、君もすぐに動いてもらうぞ。さて…… そうと決まればしばらく黙っていてくれ……」

「ルナが集中に入ったからには、もうやる他ないね。僕も急いで道具を持ってこよう」

「あ、それならあたしが持ってくるよ。キャビンアテンダントさんに無理いわないといけないしね」

「任せた。やれやれ、こんな鉄火場も久しぶりだな」

「乗り越えられるよ、なにしろ世界一のデザイナーと、世界一のパタンナーがいるんだから」



おまけ小ネタ

ベンチプレス比較(桜小路家の旧世代メイドは、武闘派が多いな・・・)
衣遠      85kg
壱与      75kg

湊       50kg
八千代     45kg
遊星(朝日)  40kg

ルミネ     30kg (原作だとエストと同じくらい)
朔莉・九千代  25kg
エスト     20kg (成人女性一般的)
弓       15kg
春心・アトレ  10kg (重りなしの鉄棒だけ)
才華      5kg (鉄棒も持てません、持たせてはいけません)
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