月に寄りそう乙女達 ~Irish Fairy~   作:トライアヌス円柱

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眠り続ける白雪姫を起こす王子様は誰かしら?
いいえ、違うの、このフィリアの園は常若の国、白い妖精の傍には乙女たちしかいないのよ。

悪い魔女も、年老いた怪物も、とっくの昔に、勇敢なあの人がやっつけてくれたから。

だからさあ、踊りましょう、歌いましょう。
寄りそって、見守って、後悔なんかしないように。
さあ乙女たち、貴女の寄りそい方を聞かせてくださいな。

21話 裏タイトル 【ダニー・ボーイ】


21話 夢に響く母の唄

 

 桜小路才華は夢をみる。

 

 これが夢であるということは、すぐに理解できた。なにしろ彼が訪れたこともない場所に立っていたのだから。

 

 鬱蒼とした森の奥にある、一面の緑の広場。空には満月。けれど見たことのない空の、見たことのない月である。森の向こうは薄靄がかっているようで、この広場だけが光に照らされているようだ。

 

 緑の絨毯をよく見れば、それはみなクローバーの葉だった。彼らの国の象徴の白詰草だけではなく、幾つかの種類のクローバーで敷き詰められている。

 

 この草花は、踏まれても強風に晒されても、豪雨の中に沈もうとも、健気に咲く、咲こうとする。この国を表す、この国に生きるものたちの心の在り処。

 

 この国に生きる者たちは、生きた者たちは、どんな苦境にあっても、クローバーのように懸命に、必死に生きてきた。

 

 彼女もまた、その一人。

 

 

 ―――お父様?

 

 月光と緑の広場の中心に、長い髪の女性が立っている。その顔に、才華は見覚えが有る。見慣れた、慣れ親しんだ顔、忘れることなどありえない顔。

 

 ―――でも、違う、女の人だ

 

 彼女はたしかに女性だった。理由は分からないが、感覚的に理解できる。

 

 ならば、才華の父、桜小路遊星と瓜二つのこの人物は

 

 

 「お祖母さま?」

 

 才華の呼びかけに、女性は穏やかに微笑んだ。それが肯定を意味するものであることを、疑うことなどないほどに、親愛に満ちた微笑み。

 

 孫と祖母。一方が鬼籍に入っている以上、本来出会うことがない2人。その2人がこうして対面を果たしていることからも、これはまちがいなく夢である。

 

 「夢でも、僕は貴女に会いたかったです」

 

 彼女は優しく、そしてどこか申し訳なさそうな表情で才華を見る。才華も無論、その瞳の意味をわかっていた。

 

 「貴女のせいではありません」

 

 自分が祖母と同じ死病を患ったのは、決して貴女の責任ではないと、才華は赤心のまま訴える。

 

 「貴女のせいでは、ないのです」

 

 祖母とて、このような病を持って生まれたくなどなかっただろう。だから、誰の責任でもないのだ。

 

 

 「たしかに、僕はこの体に生まれたことに、様々な思いを抱いてきました。あの両親をすら、恨んだ日もあった。けれど――」

 

 精一杯の感謝を込めて、父と瓜二つ、いや父こそが彼女と瓜二つである祖母に、心のままに告げる。

 

 「生まれてきて良かった。貴女が父に、父が僕にくれたこの命を、とても感謝しています。だから、そんな顔をしないでください、お祖母さま」

 

 そう思いを言葉にした次の瞬間、彼は祖母の腕の中にあった。柔らかい、そして懐かしい匂いが、才華の鼻腔をくすぐる。

 

 ――お父様と、同じ匂い

 

 才華を抱きしめる彼女の口から言の葉が紡がれる、その内容は、孫と同じく感謝を告げるもの。生まれてきてくれて、ありがとう、と。

 

 この2人は、2つの縁で強く結ばれている。

 

 一つは、病。発症すれば遠からず死に至る病を、この2人は共通して持って生まれた。彼女から彼が受け継いだものだが、そのことを、彼は恨んでいない。

 

 いや、半年前ならばもしかしたらこれほど素直になれなかったかもしれない。しかし、今は違う。

 

 

 「貴女の血に宿る縁があるから、僕は彼女とあんなに心を近くに出来たんです」

 

 才華は、父遊星よりも根源的な面で祖母の因子を受け継いだ。隔世遺伝、というものだろう。受け継いだ病が負の側面であるのならば、物事は表裏一体、正の側面もまたあるということ。

 

 大蔵遊星が日本人であり、その土地に生きる者達の心に深く刻まれた桜という花に導かれるように、桜屋敷で桜小路ルナに出会ったように。

 

 

 「この国、僕が一度も訪れたことのないこの場所の記憶を、僕は貴女から受け継いでいる」

 

 彼女は、アイルランドの人間。そして、隔世を経て才華はその因子も強く受け継いだ。

 

 シャムロックの文様を見たとき、ケルト音楽を聞いたとき、そしてなにより、あの金の髪の乙女と出会ったとき。

 

 どうしようもないほどの郷愁を、深く深く感じるのだ。

 

 

 「ありがとうございます。お祖母さま」

 

 だから、彼は祖母に感謝する。大事な人に出会わせてくれたことを。彼女との出会いはきっと、この血の縁が結んだものだと確信できるから。

 

 才華の言葉を受けて、彼女はより一層彼を強く抱きしめた。

 

 月光の緑野の中を、少年と女性が戯れる。はしゃぎ回るようなことはなく、穏やかに花冠を編みながら、お互いの頭に乗せ、そして少年は女性の膝に頭を乗せ、女性はその頭をそっと撫でる。

 

 唄が流れる。この国に染み付いた子守唄に、他にもいくつもの唄が。

 

 帰らぬ恋人を思う乙女の唄、隣人との親交の唄、子を想う母の唄。

 

 それを祖母の頭で聞く少年の心には、特に一つの歌が強く刻まれた。この唄を、あの人にも教えて、歌ってあげたいと、そう思う。

 

 そう思いながらも、彼は祖母の愛に包まれて、夢の中の夢に落ちゆく、

 

 

 

 そんな2人を、ただ真円を描く瞳のような月だけが、見守っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大蔵ルミネは安堵する。

 

 むろん、未だに状況は予断を許さない。才華はルミネの伯父の衣遠が用意してあった病院の個室で、呼吸器と点滴で繋がれた状態なのだから。

 

 ―――それでも、間に合った。

 

 八十島壱与は、才華から連絡を受けたあと、すぐに才華用の緊急用具を手に取り、さらにエレベーターで移動する最中に、動けそうな人物全てに連絡を取った。即ち、ルミネと九千代、そしてアトレに。

 

 残念ながら九千代は、アトレに付き添って未だフィリア学院にいたので遠すぎた。社交性の有るアトレは、すぐさま教室で友人ができ、また一族の大蔵アンソニーJrとも色々と話すことがあったので、事件の際にはまだ学院で同級生に囲まれていたのだ。そのため、壱与の他に動けたのはルミネのみ。

 

 壱与から連絡を受けたとき、ルミネは屋上庭園で八日堂朔莉と雑談に興じていた。しかし知らせを聞いた瞬間庭園を飛び出し、エレベーターを待つ時間も惜しいとばかりに非常階段を駆け下りて、プールに駆け込んだのだ。

 

 

 そして、才華の小さな手をしっかりと掴めた。

 

 彼女は、自分の行動に満足できた。彼を守れたことに、この上ない充足感を覚えている。

 

 薬と供給される酸素によって、彼の容態が落ち着いているのも、ルミネがそう思える一因だ。医者の話によると、深刻な発作ではなく、容態が安定すれば退院も早いとのこと。

 

 自分がここにいた意味を実感できた。才華と同じマンションに住み、同じ学校に通う選択は、間違っていなかったのだ。

 

 自分が所詮経験不足の小娘であることを、大蔵ルミネは自覚している。その自分がいざという時に動けるか、そうした不安が常にあったが、今回、己の意味をこうして証明してみせた。

 

 「私が、守るよ」

 

 意識のない才華に向けて、その手を握りながらルミネは再度意思を固める。  

 

 次は血なんて吐かせもしない。必ずその前で止めてみせる。

 

 「私が、守るから」

 

 今にも消えてしまいそうな儚く小さな手を、絶対に無くさないよう、ルミネは抱くように包み込む。

 

 だから、いなくならないで。そう祈るように、願うように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 八日堂朔莉は観察する。

 

 この状況を、彼女なりに整理するには、やはり時間は必要だ。

 

 あの事件の際に、大蔵ルミネが思わず口に出した単語を、朔莉は聞き逃さなかった。即ち『才華ちゃん』という言葉を。

 

 それはつまり、あの白い少女の名前は『小倉朝陽』ではないという何よりの証拠。危機的状況の中、演技する余裕など、ルミネにはなかったのだろう。斯く言う朔莉もまた、方言丸出しだったのだから。

 

 なので、それをストレートに当のルミネに問いただした。

 

 「ルミネさん、ちょっと話があるのだけど」

 

 「そうだね、私も話さなきゃいけないと思ってた」

 

 「あの時貴女が叫んだ『才華ちゃん』というのは、小倉さんの本当のお名前?」

 

 「……そう、もう大体はわかってるんだね」

 

 「だってそもそも……」

 

 そう言いながら、朔莉は携帯顛末をなにやら操作し、出てきた画面をルミネに見せた。

 

 

 「これ、桜小路ルナの画像。今より若い頃の姿らしいけど、わぁ驚き、誰かにそっくり」

 

 「ほんとにね」

 

 「そりゃね、世の中には似てる顔の人が3人はいるというから、そんなこともあるかもしれない。でも、その近くにその娘さんにあたる桜小路アトレさんがいたら? 関係性を疑うなという方が無理よ」

 

 「見た目だけなら他人の空似で押し通せるけれど、その上桜小路の関係者となれば、まぁ血縁疑うなという方が無理だね」

 

 「ルミネさんと桜小路さんは顔立ちが似てるから、そこは親戚だと分かる。となると、私の姫も、やっぱり貴女の親戚なのかしら?」

 

 「ご名答。………うん、貴女には包み隠さず言うね。あの子は、桜小路才華は、アトレさんの両親、私にとっては伯父にあたる桜小路遊星さんとその伴侶ルナさんの間に生まれた、最初の子供だよ」

 

 「そう、やっぱりそうだったのね」

 

 ああやはりと、彼女は確信する。

 

 桜小路の家とは本来大して繋がりのない自分が、ルミネと共にあの場面に駆けつけることとなったのも、きっとそういう縁だったのだと。

 

 

 「予想、ついてたんだ」

 

 「うん、これも同じくルミネさんには包み隠さず話すけれど、私、一度あの姫君に会ってるの。以前話したでしょ? 子供の頃の桜小路屋敷に行った話、あの時にね」

 

 「それで、心奪われたんだ」

 

 「あらご賢察。そう、そのとおり。あの白い、美しすぎる姿に、心奪われた。それは、今も変わっていないわ……… もしかして、ルミネさんも私の同胞かしら?」

 

 「同胞じゃないね。私は美しさじゃなくて、あまりにも儚いあの姿が、今も頭から離れない。でも、同胞じゃないけれど同類だね私たち。物事の優先順位が、きっと同じ」

 

 「だから、こうして秘密を話してくれたのね」

 

 「同類だもの、内側に取り込んでおいた方が何かと好都合。そう思わない?」

 

 「あら素敵。なんて見事な合理性。流石あの大蔵家の英才教育を受けた才女ということなのかしら」

 

 「そう取ってもらって構わないよ。見たでしょ? あの子の姿。私はなんとしてもあの子を守りたい。だから協力して」

 

 「………肺? それとも心臓?」

 

 「肺。その上であの肌」

 

 黒ずんだ静脈の血液ではなく、赤い血潮を吐き出す病となれば呼吸器系、大抵は肺に関わるものと想像するのは自明の理。

 

 一昔前ならば労咳がその代表格だったが、この時代では難病ではない。大蔵家がバックにいてなお蝕まれるほどとなれば、門外漢の朔莉には病名までは浮かばないし、本質はそこではない。

 

 「………うん、もちろん協力するわ。私にとってあの人、才華さんは、憧れ…… というより今はどちらかというと、信仰対象みたいなものだもの」

 

 「一緒にご本尊を守ってね、朔莉さん」

 

 「こちらこそ、ルミネさん」

 

 こうして、ルミネと朔莉は協力者となった。自分とルミネがいるならば、大抵のことはフォローできると、そうした自負は彼女にある。

 

 これからも、あの白い姫を守るナイトになろうと、朔莉もまた心に刻む。

 

 ただ、そんな中、ある一点だけはルミネと共感しないことはあると思っている。むしろこのことを話せば、あの庇護欲の高い少女は激怒するかもしれない。

 

 あのプールで起こった出来事。ルミネと一緒にプールに駆け込み、才華を引き上げようとしているルミネの腰を掴んで、引き上げ網の要領で一緒に引っ張り上げたその次のこと。

 

 吐血した、才華のその姿。白一色の中に、鮮やかな赤が混じるその光景。

 

 儚い少女の白い肌をより際立たせるように、艶やかにすら感じてしまうほどの赤い吐血。

 

 それに、背徳的な美しさを覚えてしまった。

 

 このことで朔莉は実感する。ああ、自分はどこまでいっても才華の『美しさ』に灼かれた人間なのだ、と。

 

 ルミネが抱くのは強固な庇護欲。ああ見えて母性本能が強いのか、妹思いの姉のごとく、大事に大事に才華のことを想っている。

 

 だが、自分が奉ずるのは、やはりあの白い美しさだ。そうした感性の持ち主だったからこそ、芸能の道に入ったのだろうが。

 

 とはいえ、だからといって。

 

 

 「苦しんでほしいわけ、ないんやわ」

 

 その姿に美を感じたからといって、もう一度見たいかと言われれば答えはNoだ。こうして、2日ぶりに実際に点滴と呼吸器に繋がれ横たわる才華を見れば、ルミネ同様、守りたいという想いが強くなる。

 

 「ルミネさんほどには出来んかもしれへんけど、私もついてるから」

 

 ルミネのように手を握らなかったのは、彼女の罪悪感からだろうか。

 

 これからの自分の行動もそうなるだろう、ルミネは常に才華の近くにあり、自分はそこから一歩離れて周囲を俯瞰し、観察する役割が適している。そのバランスが望ましく、あの白い姫君をあらゆる面から守るなら、そういう立ち位置の人間も必要だろう。

 

 そうして朔莉はしばらく、静かに眠る才華を、一歩離れて眺めるのだった。 

 

 

 

 

 

 

   

 

 エスト・ギャラッハ・アーノッツは改悛する。

 

 自分が溺れた自覚はある。助けられた自覚もある。

 

 だが、その後朦朧とした意識の中で見た光景は、夢か幻であると思いたかった。

 

 白いその姿に滴る赤。彼女が見たあの場所での最後の光景。どうか見間違えであってほしいと願ったその姿は、やはり現実となって彼女のもとに姿を現す。

 

 病室に横たわる、白い姿がそれだ。容体が安定し、今日から呼吸器が外されたらしいが、未だに点滴で繋がれたその姿は、元来の線の細さも相まって、痛々さを強調させている。

 

 

 「知られちゃいましたね」

 

 訪いを告げて現れたエストに対し、才華は諦念を帯びた声色で語りかけた。

 

 「これが、貴女の知られたくなかった秘密だったんだね」

 

 「はい。もう隠すことなど無理ですから、白状します。私は肺の病を生まれつき患っています。それに……」

 

 才華は、エストにすべてを話すつもりになっていた。一番知られたくないことは、もう知られてしまった。後の秘密は、世間一般では大事かもしれないが、才華にとっては些事になる。

 

 しかし、彼の言葉は途中で遮られた。

 

 「まって、その前に一つ確認させて」

 

 「なんでしょう」

 

 エストにとって、今一番確認しておかなければならないことは一つ。

 

 「体は、大丈夫なの? 話をして問題ないの?」

 

 何よりもまず、その体調の確認。これ以上この子に無理をさせたくないと、強く強く思っている。

 

 「ええ、2日間ぐっすりと休んでいましたので、お話するのは大丈夫です」

 

 「そう、よかった。でも、貴女にもいろいろと話はあると思うけれど、先に私から伝えたいことがあるの、いい?」

 

 「はい…… 構いませんよ、どうぞ」

 

 予想外のエストの剣幕に、才華は少し驚いたような表情を見せたが、すぐに小さく微笑んで先を促す。

 

 「助けてくれて、ありがとう」

 

 「……………」

 

 「そして、ごめんなさい。私の不注意のせいで、貴女をこんな目に遭わせてしまった」

 

 あの後病院に搬送された頃には、エストは意識も取り戻し、呼吸も安定していた。塩素を含んだ水を大量に飲み込んでしまったとはいえ、彼女は元来健康優良児。病院で食事をとり、日付が変わるころには、すっかり元の体力を取り戻すことができていた。

 

 だから、彼女にとって辛かったのは、病院から戻った後になる。

 

 そこで彼女は知らされた。あの時プールで見た光景は現実で、己の小さい従者が今も入院しているということを。

 

 

 ―――誰あろう、桜小路アトレの口から。

 

 

 その時の桜小路アトレの表情や態度は、普段の彼女を知るものならば驚くほど、アメリカのころの学友たちが見たら信じられないほどの、感情が消えたものだった。

 

 終始朗らかな笑顔を浮かべ、良家のお嬢様然としていた、エストの知る彼女は、そこにはいなかった。エストが思わず後ずさるほどに、鬼気迫るものをこの時のアトレからは感じられた。

 

 『どうして、プールになど行ったのですか』

 

 『どうして、あの人を伴ったのですか』

 

 『どうして、溺れたりなどしたのですか』

 

 その糾弾は、いっそ大声で罵られたほうが楽と思えるほどの、悲痛な想いが込められていた。

 

 責められる立場にいたエストですら、その矛先は実のところ自分には向けられていないというのが分かるほどに、桜小路アトレの想いは、長い年月で深く刻まれた重量を伴うものであった。

 

 アトレが怒りを向けるのは、単にエスト個人という話ではない。ただあの人を苦しめるもの、虐げるもの、その全て。これまでずっと抱え、抑えていたやり場のない想いがついにあふれた結果、今回のきっかけになったエストに、その感情をぶつける形になったのである。

 

 ことさらエスト個人に強い怒りや憎しみを抱いている訳ではない。そういう感情を他者に覚える少女ではなかった。けれど、ただ『なぜ』と。

 

 

 『どうして、いつもあの人だけが……』

 

 その言葉と同時に、アトレは俯き、そして泣き伏した。もしかしたら、これは彼女が他人の前で見せた初めての泣き顔だったかもしれない。

 

 それは悲しみによるものなのか、それとも悔しさによるものなのか。

 

 「ごめんなさい」と、エストはそう謝るほかなかったが、しばらくその状態のまま蹲っていたアトレが顔を上げて再び目線をエストに向けたときは、そこに強い光を宿していた。

 

 『二度と、しないでください』

 

 『もう二度と、あの人を危険な目に遭わせないで』

 

 『どうか、あの人をわたしの前から去らせないで』

 

 その乙女の懇願は、同時に有無を言わさぬ迫力を秘めていた。これまで見たこともないアトレの剣幕に、エストは悟らざるを得ない。

 

 

 ―――この人は、あの子の妹だ。

 

 エスト自身、姉妹がいる身だから分かる。この感情は、妹の持つものだ。

 

 姉であるならば、きっと「自分から奪うな」と言っていただろう。もしかしたら、大蔵ルミネあたりにはそう言われるかもしれない。彼女は白い少女ことを、妹のように可愛がっていたから。

 

 でも、アトレはそうは言わなかった。その表現は、弟や妹といった庇護対象に向けるものではない。かと言って主従のような立場でもない。アトレの必死の表情からは肉親の愛情をしっかりと感じさせられた。 

 

 だから間違いない、あの子の妹さんなのだと、自然と納得できる。

 

 そして同時に、この人は自分の血を分けた相手に対し、とてつもない大きな感情を抱いていることが嫌というほど伝わってくる。エスト自身も、双子の姉に一方ならぬ複雑な思いを抱いているからこそ、その重量の違いがはっきりと分かる。

 

 

 ―――この人は、いったい何時から、こんな強い思いを持ち続けてきたのだろう。

 

 自分には、きっと出来ない。双子の姉に対し、ここまでの感情は、きっと。

 

 そしてその後にエストが出来たことは、アトレの懇願に対し真摯に頷くことのみでった。

 

 

 

 「桜小路さんから話を聞いたときは、本当に背筋が凍ったの。溺れた時以上の恐怖を感じた。私のせいで、貴女に何かあったら…… ううん、もう『なにか』は起こってしまった後だよね。私のせいで、貴女に取り返しのつかないことになっていたら、どうしよう、って」

 

 「……………アトレが」

 

 「こうして、起き上がって話が出来る貴女を見られて、心から安心してる。ごめんなさい、本当に、私のせいで」

 

 「謝らないでください。貴女は悪くないのだから」

 

 「……うん、ありがとう。貴女ならそう言ってくれるだろうって思っていた。でも、やっぱり中々感情の整理がつかないね。それと、大事なことをもう一つ確認させて。貴女にとっては聞かれたくないことかもしれないけれど、でも」

 

 「遠慮はいりません」

 

 「命にかかわる病気なの?」

 

 エストも、この3ヶ月近くを共にした相手が、強い体を持っていないことは分かっていた。見た目からして繊細であり、自分の半分どころか1/3も食べないほど食が細い。

 

 蒲柳の質であることは、誰でも見て取れた。しかし、“どのくらい”なものかを、彼女はまだ知らない。だから知っておきたい、これからのためにも。

 

 才華も思案した。この場で素直に言ってしまっていいだろうかと。言ってしまったら、この目の前の優しい人は、より傷つくのではないかと。

 

 けれど、ここで嘘をついたところで、もはや時間の問題だろう。きっと他の誰かが言ってしまう。ならば自分の口から言ったほうがいい。

 

 

 「…………重度の発作が起これば」

 

 「そう……… そして今回、私が起こさせてしまったんだね」

 

 その事実を聞き、やはりエストの表情は暗くなる。だから才華はすぐに言葉をつづけた。  

 

 「いいえ、今回はそれほど重度のものではありません。小さい頃は、このくらいは割と頻繁でしたので、慣れたものです」

 

 「そんな……」

 

 「いえ、本当に。だからこれもいつものことで、貴女のせいじゃないんです。この体が弱いのは、貴女のせいじゃない」

 

 ああ、同じ言葉を、夢の中でも『アイルランドの美しい女性』に言っていたことを思い出し、才華は奇妙な縁に可笑しくなった。

 

 

 「ふふ」

 

 「ど、どうしたの?」

 

 急に笑いだした才華にエストは驚き、思わず聞き返す。

 

 「いえ、夢の中で同じようなやりとりをしていたので」

 

 「その相手は、桜小路さん?」

 

 「いいえ、祖母です」

 

 「あ…… うん、そうなんだね」

 

 これ以上は、会話は続かなかった。しばしの沈黙の後、エストは思い切って今後のことを尋ねる。

 

 「ねぇ、貴女はこの先どうするの?」

 

 「どう、とは?」

 

 「これからも私と一緒に、学院に行ってくれる?」

 

 「……………え?」

 

 今度こそ、才華は目を見開いた。思ってもいなかった言葉を聞いたような、いや事実彼にとってはそうであった。

 

 

 「私は、病人です」

 

 「うん、分かってる」

 

 「貴女に、嘘を吐いていました」

 

 「うん、そうだね」

 

 嘘だと知って、怒れるような嘘ならまだ良かった。だが現実は、もっと重い、聞くと悲しく切なくなるような嘘だった。

 

 重病人が、健常者のフリをしていた。相当な、無理をしながら、病身をおして騙し騙し。なんて皮肉な表現で、全くもって笑えない。

 

 この事実を聞いて怒れるような神経を、エストは持ち合わせていない。

 

 ああ本当に、この世には騙されていたい嘘もある。嘘から出た真になれれば、この子が苦しむことなんてなくなるのに。

 

 どうして、残酷なほどに真実はただそこにあるのだろうか、

 

 

 「まだ言ってないこともあります」

 

 「でも話してくれるのでしょう?」

 

 そういえば以前も、隠し事がある、と言っていたことを思い出す。想像よりずっと重たい事情だったけど、受け入れないという選択肢は、彼女には既にない。

 

 「はい…… そのつもりです」

 

 「じゃあよろしく。うん、これからもよろしくね。私の大切なホワイトクローバー」

 

 そう言って才華に微笑んだ彼女の瞳には、大粒の涙が浮かんでいた。

 

 「……こちらこそ、よろしく」

 

 

 この状況では、才華の対人関係が少ないのが幸いしたかもしれない。エストの涙を見た上で、反駁する意思も気力も持つことはなかった。

 

 それにそもそも、やはり長話できるような、状態でもない。

 

 「…………」

 

 「………‥」

 

 『ふふふ』

 

 なので、なんだかおかしな間が生まれてしまったあと、2人は同時に微笑み合う。緑の国の縁で結ばれた絆は、未だ切れずにここにある。

 

 尚、この期才華は自分の本名のことなども話そうとしたが、才華の体調を慮ったエストに制され、『話せるときでいいよ』ということで、保留のままとなった。

 

 それは同時に、これ以上重たい事情があった場合に、自分の精神が保たないので、心の準備をしてからしておきたいという、エスト側の事情もあるのだった。

 

 

 「ごめんなさい、今の貴女はあまり長く話すのは辛いと思うの」

 

 「確かに、もう隠すこともないので白状しますが、少し眠くなってきました」

 

 「じゃあ、子守唄を歌ってあげるね」

 

 「ふふ、起きても覚めても子守唄ですね」

 

 「?」

 

 才華の言葉の意味は分からなかったが、エストは故国に伝わる子守唄を澄んだ声で歌い始める。

 

 それはやはり、彼の夢の中で祖母が歌っていたのと同じ唄であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして、大蔵衣遠は今日も見守る。

 

 エストが見舞いに来たその日の夜、衣遠も才華の病室に訪れていた。

 

 眠る少年の姿は穏やかで、死神の気配は近くにはない。病院、医師、搬送経路、連絡手段など、彼が用意しておいたあらゆる処置が功を奏し、出来うる限りの最小限の症状で抑えることが出来た。

 

 とはいえ、殊更彼をそれを誇ったりしない。出来て当然のことをしたまで、そう思っている。

 

 高層マンション『青山スカイレジデンス』は、ある意味で大蔵衣遠の有する医療要塞と言って良い。基本構造はそのままであっても、今や、才華の身体を守るための施設と化している。

 

 マンションの住人の居住前の条件審査に至るまで、才華の害になりうるかどうかの人格検査すら秘密裏に追加されている。噂好きの宮廷雀の如き害鳥は、住まうことすら許されない。

 

 やるならば徹底的に、妥協はなく細部に至るまでどんな要因も見逃さない。それが大蔵衣遠という男だ。当然その監視は、才華自身のバイタルデータについても。

 

 だが、それでもやはり、という思いは拭えない。半年前から、この光景は予知していた。それでも出来るならば、見たくはなかった光景。

 

 ここは白い。病院、とくに日本の病院は清潔感を前面に出すためか、壁材も床材も白が多くを占めている。

 

 この白い空間に、白い少年は調和しすぎている。その事実を見たくなかった。

 

 この白は、違うのだ。同じ白でも雪や無垢を表すものとは意味が異なる。病院の白は、“その次”の白を容易に想像させえるから。

 

 その白だけは、才華に似合うとは思わない。いや、思いたくなどない。

 

 

 「おじさま…?」

 

 「起こしてしまったか」

 

 人の気配に、少年は目を覚ました。そしてその人物は、今この時少年が一番出会いたいと思っていた人物だった。

 

 「ごめんなさ」

 

 「謝るな。これは想定されていたこと、むしろ俺としては、2月頃には一度こうなると予定していたくらいだ。お前の願いを聞き届けると言った時から考えていた事態が起こったに過ぎん」

 

 「おじさまは、本当に厳しくて、優しいのですね」

 

 「ふん」

 

 才華の謝罪を遮り、衣遠は淡々と事実を連ねる。そう、これはあらかじめ想定されていた、当たり前の事態。

 

 生まれつき2つの病を、それも片方は命に関わる病を患っている人間には、どうしたって限界がある。

 

 エスト・ギャラッハ・アーノッツとの差がその証左だ。実際に溺れたのは彼女であるにも関わらず、本人は翌日には退院し、今もピンピンとしている。

 

 だというのに、助けにいっただけの才華は、この状態。悲しいほどに、現実というものを表している。これほどの差が、あるのだ。

 

 

 「一週間は入院しろ」

 

 「せめて、週明けから学院に通うことは出来ませんか」

 

 「ゆるさん」

 

 「はい、伯父様の言うとおりにします」

 

 こと才華の体調に関わることに限り、その決定権は才華本人にはない。これが壱与や九千代ならば多少の譲歩はしたかもしれないが、衣遠にそれは通じない。

 

 衣遠に知られた時点で、彼が認めない限り、才華は病室から出ることは叶わない。だが、そうでもしないといけない体なのだ。

 

 厳しいが、そこにあるのは確かな愛情。それを理解するからこそ、才華も素直に従う。

 

 才華が衣遠の方針に逆らうことがあるとすれば、唯一人の人物が関わることになる状況だろう。それ以外はありえない。

 

 

 「実は、伯父様にお話したいことがあったのです」

 

 「長話はあまり認められんが…… まあ多少なら良いだろう、なんだ」

 

 「フフ、それエストさんにも言われました。ああ、それでですね。夢をみたんです」

 

 「夢か、どのような夢だ。わざわざ俺に言うということは、俺かその知人でも出てきたか」

 

 「正解です。あの人は、貴方を知っていましたから」

 

 「……………祖母か」

 

 「はい。本当にお父様にそっくりでした」

 

 「彼女と、話したのか」

 

 「色々と、あの方の故郷のそばの緑の広場で、クローバーに囲まれて遊んでいました」

 

 「そこには、いや厳密にはその近くだろうが、俺も足を運んだことがある。アーノッツ家の、故地だ」

 

 「ああ、やっぱりそうだったんですね」

 

 衣遠の脳裏に一つの可能性が浮かんだ。才華の病は祖母から受け継いだもの、そして病は肺にある。

 

 肺…… 彼女が生きた時代からさらに遡るが、その時代のアイルランド人は、悲惨な状況の中で生きてきた。国全体を襲った飢饉のため、多くの者が餓死し、またその故郷から去らねばならなくなった。

 

 彼が調べた限り、アーノッツ家の没落もこの時期からによる。完全な没落と一族の離散まではまだ時間があるが、その後、彼らは糧を求めて都市に流入する。

 

 だが、その当時のイギリスの都市、特にロンドンの衛生状況は悲惨そのものだ。多くの者が病に、特に肺を病んで死んでいったという。『霧の街』として言われるロンドンの『霧』とは、その実人体を蝕む有毒スモッグなのだから。

 

 

 だから、もし、もしもの可能性があったのならば。

 

 アーノッツの家が没落を免がれ、一族が離散することがなければ、自分が引き合わせたアーノッツの子女エストと、その領地に生まれた女性の孫である才華は、その国、その土地で出会い、主従となっていたのかもしれない。

 

 (くだらん、所詮は泡沫の可能性だ)

 

 とはいえ、確かにアーノッツの娘とこの少年には確かな絆があるのだ。もしかしたらその絆をより強めた果てに、この少年が安らかに生きられる道があるのかもしれない。衣遠をしてそう思うほどに、緑の国は2人を結んでいた。

 

 衣遠が瞬きの間思考に耽っていると、そこから呼び覚ます少年の声が響く。

 

 

 「お祖母さまは、伯父様が約束を守ってくれたことを、とても感謝していました」

 

 「そうか」

 

 衣遠は表情を動かさない。強固な意思がそうさせない。

 

 「どんな約束をしたのか知りたかったですけど、聞きませんでした。それは祖母と貴方の間のことだから」

 

 「クク、いらぬ気遣いだ。だが、ありがたく受け取ろう」

 

 衣遠は思う、この少年は大蔵という一族の、そして衣遠個人の犯した過ち、『罪』の象徴であり、そして『赦し』の証であると。

 

 彼がいなければ、自分の、自分たちの罪は償われることはなかっただろう。死者とは、もう話せないのだから。

 

 だが、彼の口から、会ったこともないはずのかの人の事を聞かされるたびに、“赦されたのだ”と思うことが、出来るのだ。

 

 だから感謝する。生まれてきてくれて、ありがとう。

 

 

 「それで伯父様、一つお願いがあるのです」

 

 「なんだ、今の俺は気分がいい。多少の無理ならば叶えて見せよう」

 

 「唄を、聞いて欲しいのですが」

 

 「ダメだ」

 

 「お、伯父様、たった今多少の無理ならば叶えるとおっしゃったのに」

 

 「お前の体の負担になることならば、受容できん」

 

 そこは断固として譲らないのが、この男である。

 

 「ですが……」

 

 「む、お前がそこまで食い下がるほどか」

 

 この甥は素直である。こうして自分の決定に異を唱えたことはごく少ない。ならば余程のことと見ていいだろう。

 

 「はい、夢の中で祖母が歌っていた唄の一つなのです。幾つかの唄を祖母と歌いましたが、あの唄はきっと、お父様に向けたものだと思いました」

 

 「…………」

 

 「それを、録音してお父様に届けてほしいのです」

 

 それを断ることは、衣遠にできるはずもなかった。

 

 「だが、今でなくてはダメなのか。もう少し回復してから、自分で伝えてはどうだ」

 

 「夢の中の光景は、日を追うごとに朧げになります。今朝目覚めた時は鮮明に覚えていたのに、今はもう霞が掛かってきています。だから、鮮明にあの人の歌声を覚えていられるうちに」

 

 「………それならば、反対しまい」

 

 「で、では、歌わせていただきます。人前で歌うことは現実では初めてですが、伯父様がその相手で、よかったと思います」

 

 「クク、そう緊張するな。我が端末は最高級かつ最先端のものであるが故、集音機能も完璧だ。お前の歌声をあますことなく再現する。存分に歌え」

 

 「そ、それはそれで緊張します」

 

 そして、少年は歌いはじめた。祖母が歌っていた唄を。夢の中で、彼女にとっての我が子であり、才華にとっての父になる、遊星に対して歌われたその想いを。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――

 ――――――――――――――――――――――――

 ――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 「ふぅ…… ちゃんと、歌えていたかな……」

 

 歌い終わった少年は、やはり消耗していた。病み上がりの状態では、少し無理が出てしまったようだ。

 

 「では、お前の父に届けよう。きちんと体を休めるのだぞ」

 

 「はい…… それではまた、衣遠伯父様」

 

 衣遠は何気ない風で病室を後にした。少年が歌い終わったあとに特に感想なども口にせず、最低限のことだけを言い残して。

 

 なぜなら

 

 

 「………俺とも、あろうものが」

 

 その場に居続けることが出来なかったから。甥の前では頼もしく厳粛な伯父でいなければならない衣遠としては、今のこの姿を、表情を見られるわけにはいかない。

 

 

 「歳は、取りたくないものだ」

 

 涙など、とうに枯れ果てた。そう思っていたというのに。

 

 寄る年波のせいだ、そう断じて、衣遠は歩き出す。

 

 この俺でさえこれなのだ、あの弟ならばどうなるかと、遠い地にいる兄弟を心配しながら。

 




どれほど夢を追っても、大切な人達に恵まれても
決して消えることのなかったであろう、大蔵遊星の後悔、傷に
どうか、一筋の救いと赦しを


~その後の桜小路邸~

 「―――――!」

 「どうした君、なにがあった」

 「―――――」

 「うん、そうか、嬉しいんだな。その顔を見れば、良いことが起きたのだと分かるよ」

 「…………‥」

 「こういう時は、こうしてあげるのがよさそうだ。フフ、いつ以来だろうな、君をこうやって抱いてあげるのは、なんだか初めてのあの時を思い出すよ」

 「……………」

 「落ち着いたか? うん、大丈夫そうだ。それで、これを聞いて君はこうなったのか、いったい何を聞いたんだ。ん? この声は……」



 ――録音され、送られた唄――

  
   (ああ私の坊や、バクパイプの音が呼んでいるわ)
   Oh Danny boy, the pipes,the pipes are calling

   (谷から谷へ、山の裾を下って)
   From glen to glen,and down the mountainside

   (夏が過ぎ去り、花々が枯れ落ちるそのときに)
   The summer's gone,and all the Flowers are dyling

   (あなたは、あなたは、遠くへ行ってしまう)
   'Tis you, 'tis you must go and I must bide.

   
   (でも帰ってきて、夏の草原の中を)
   But come ye back when summer's in the meadow

   (谷が雪に白く静かに染まる頃でもいいの)
   Or when the valley's hushed and white with snow
   
   (晴の日も、曇りの中でも、あなたを待っています)
   'Tis I'll be here in sunshine or in shadow
   
   (ああ、私の坊や、あなたをずっと愛しています)
   Oh Danny boy, Oh Danny boy,I love you so.





   (花々がみな枯れ落ちる中、あなたが帰ってきたとき)
   And if ye come,and all the flowers are dying
   
   (きっと私は死んでいるの、人はいつかみな死ぬものだから)
   If I am dead,as dead I well may be,

   (あなたは私が眠るところを見つけてくれて)
   You'll come and find the place where I am lying

    (膝をつき、お祈りを捧げてくれるのね)
   And kneel and say an "Ave" there for me.


   (私のお墓のそばを歩くあなたの足音が聞こえるたびに)、
   And I shall hear,though soft, your tread above me

   (私の見る夢は、とても暖かく幸福なものになるの)
   And all my dreams will warmer and sweeter be
 
   (あなたが愛する気持ちを忘れずにいてくれているのなら)
   If you'll not fail to tell me that you love me

   (あなたが私の元に来るその日まで、ここで安らかに眠っています)
    I simply sleep in peace until you come to me.






○才華が唄った歌について
 『Danny Boy』はアイルランドの古い民謡で、「ロンドンデリーの歌」として知られる旋律に歌詞を付けたものとされます。歌詞はフレデリック・ウェザリーの作で1913年に発表されたものであり、100年以上経過しているため歌詞の著作権も2023年現在では切れています。
 歌詞使用のガイドラインを参照すると、禁止事項に
 ・JASRAC管理楽曲・NexTone管理楽曲以外の著作権が切れていない歌詞の掲載

 とあるので、掲載することに問題はないと判断しています。
 (英字の部分は『Danny Boy』で、訳詩の部分は「ロンドンデリーの歌」の旋律に、“母から遊星へ”という歌詞を作者が独自に付けた形になります)

 『Danny Boy』には昔から多くの解釈があり、『両親や祖父母が戦地に赴く息子や孫を送り出す』という設定で解釈されることも多いと。

 なので、マンチェスターの屋敷から引き離された屋根裏の母子。そして、時を経てルナと一緒に霊園を訪ねる遊星のシーンなどをイメージし綴っています。

 この話を思いついたきっかけが、ジェイド・インさんの『Danny Boy』でした。この話を書いている間も、この曲を聞きながら書いていました。

 もし時間がある方がいましたら、是非聞いて絶対に損はないかと。私が聞いていた動画は【ジェイド・イン(Jade Yin)『ダニー・ボーイ』日本語字幕版】で検索すれば出てくると思います。とても素晴らしい曲と歌声でした。
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