ーMegali eftychiaー とある魔術の禁書目録   作:中棚彼方

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序章 Archi

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『死因はこの際意味を為さないだろう。強いて言えば今ここにいる事態を現段階に於いての死因だと嘯けばお前は納得してくれるだろうか? いいや、それもまた殊更にどうでもいい気がするんだが、まあそこはご都合主義の体制に乗っ取って以下略(やっぱりどうでも良し)。故に、これは神の神による神の為の相互干渉である(お前は既に死んでいる)訳だが、何か質問は…………、何だその苦虫を噛み潰した歯を洗い流そうとして口にぶちこんだ液が柔軟剤でしたって顔は』

 

「概ね間違いない表現だけども妙に下腹部がもやっとする…………ッ! その得体の知れない想像力と語彙は流石神様か!」

 

『馬鹿にしてるのか貴様』

 

 そんな所だとは神様(仮)の御前である以上嬉々として吐露出来ないのがしがない少年Aの悩みである。

 

 そこは。

 少年の理解が範疇に及ぼうにも、大概『格』が足りていないのかもしれない。

 天界、天国ともずれてるような気がするのはあくまで少年Aの主観によるものだが、かといってそれ以上の最適解は見出だせないのもまた主観的な見解だ。

 この白一択が染め殺したような世界を、主観だろうと客観だろうと一緒くたに度外視してただ見れる存在がいたとするなら。

 その者はこう思うかもしれない。

想像(創造)の終着点』と。

 

「てか、死んだの俺!?」

 

以下略(だからそんなのゴミ箱にポイだ)。同じ事を何度も言わせるな。()()()()()()()()()()()()。分かったか? 分かったな?よし分かった』

 

「いやでも!?」

 

以下略(却下だ)

 

「ふざけ――」

 

以下略(うるさい黙れ捻り殺すぞ)

 

「暴君爆誕!?」

 

 思いの外俗物的な暴君(真)の凶行に戦慄を隠せない矮小な塵芥その1に、姿形を隠匿してるくせに見下すという高度な力を発揮しつつ、神は告げる。

 

『まさか貴様が「本当はこんな間違いは起こすはずなんてないんだけど、今回に限ってそれは当て嵌まらなくて、ある意味貴方は神様に殺されたって言う特別なステータスを持った聞く人が聞けば卒倒するような素晴らしい偉業を遂げた特別な人なんだよー」なんてしっちゃかめっちゃかに言葉連ねて神を騙るような愚図と同一視してるとは思わないが、もし意思に反してるとするなら、それは貴様にとって悪手だ。因果を全て負に変質して輪廻の環から弾き飛ばす』

 

「ねえ、何でそんな心臓鷲掴みにするようなプレッシャーを会話の応酬に一々混ぜてくんの? 俺なんかした? …………てか、その高圧的な口調って素なのかよ。 時折混ざる副音声みたいな謎の声とかさっきの例えを聞くと口調と相俟って俺の中でのあんたの人物像がちょっぴりあたりが激しいけどどこか愛らしいツンデレ風味」

 

折檻(うっさいボケ)!』

 

 時間の概念もないのか、気付いたらそこには赤黒い肉達磨が出来ていた。鮮血が白の背景を新たに彩る。

 

『貴様は存在するのも甚だ煩わしいし解体しても駄賃にすらならないぼろ切れ万歳野郎だが、遺憾な事に、全く以て非常に遺憾な事に、特別な素体だ。だから選ばれた。選ばれる程度には有用だったという事だ。だから死因も生きた死んだも聞いた所で無駄なんだよ。選ばれた者をここに呼び出したのは誰だ? それを鑑みれば、粗方想像も容易いだろう?…………チッ、話すつもりもなかった事を……。こんななら有無を言わさずさっさと与えるだけ与えて放り捨て置けば最善だっ――分かったか? 分かったな? 聞いてるのかおい』

 

「ブフ、ブボフゥ…………っ」

 

()()()()事がどれだけ特異性を持つか、そこを履き違えるなよ、人間。さっきも言ったが、選ばれる程度には有用だった貴様は、それだけ異端なんだ』

 

 暗に遠回しで誉められてる気がするのは、先程の出来事が尾を引いているからだろうか。暴君神様ツンデレ説が益々濃厚になってきている。

 

 因みに聞こえてくる声は女性の声である。

 誰得か。

 俺得だ。

 

『でだ』

 

 神様は1拍おき、

 

『長々と馴れ合うつもりはない。さっさと要件を済ませてさっさと行け』

 

「だから辛辣! やめてよもう新たな世界がこんにちはしたら責任取ってもらう――」

 

 ん、と首を傾げる。

 どことなく今後の分岐点になりそうなワードがここに来てようやく発起してきたような気がする。分岐と言うより一方通行の方が言い得て妙だが。

 

 『さっさと行け』?

 

「どこに?」

 

 フン、と。

 高圧的な、しかしやはりどこか愛らしくもあるそれが響く。

 

 

 

『「とある魔術の禁書目録」貴様なら知っているだろう。そこに行けと言っているんだ。以下略(二度も言わせるな)

 

 

 

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「(…………、ん?)」

 

 聞いて、なんの事か暫し黙考し、受け入れた末に大脳が弾き出したのは、極小に満たない程度の違和感だった。きっと指摘した所で繋がる道程の先は恐らく以下略(話しても無駄)に帰結するに過ぎない、単なる蛇足だろう。

 だが気になる。

 これはまるで、それこそ。

 

『おかしいか?』

 

「いや、まぁ」

 

 顔に出ていたか、或いはモーセの逸話に出てくるような神が(もたら)す奇跡の一端か、声が疑念に追い付いてきた。

 

『こう思ったんだろう。 「その展開」を自分に押し付けてしまったら、己が今やっている所業は愚図のそれを肯定しているのと同義ではないのか? 嫌悪したその権威の乱用を何故敢えて侵すのか? とな』

 

「…………一応聞くけど、何かしらのボーナスポイント的な意味合いよりもテンプレート的な通過儀礼の意味合いが強い『例のアレら(俺TUEEEEE!!!)』とかも引き合いに出しちゃったり?」

 

『無きにしもあらず、だ』

 

「――、それは…………肯定も侵すもへったくれもなく丸っきりご本人登場って言うか、同一視って言うより同一人物でしたみたいな感じになっちゃうんじゃないのか? 嫌うなら尚更矛盾してると思うんだが」

 

『それは―――――――――――――――ん? …………ふむ』

 

 親しみやすいとはいえちょっと神に対して無礼が過ぎるか? と若干肉達磨がフラッシュバックして少年の肝が冷えた。が、激痛は襲わない。代わりに、訝しげな声の後、沈黙が場を支配する。

 そして。

 

 

 直後、少年の視界が『切り替えられる』

 

 

「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………ひょ?」

 

 

 そこは、先程までいた白い世界では既にない。

 頬に叩きつけるような強い風、上へ目をやれば燦々と太陽が輝いている。間違いなく、彼が住む、いや、住んでいた地球である。

 戻ってきたのか? と一瞬歓喜が胸の内から沸き上がる。

 だが、それは憚れた。

 下を見て気づく。

 

 

 地上はある。だが足場がない。

 今自分は、()()()()()()()

 

「            」

 

 数刻ではあるが文字通り、少年の思考がトンだ。 

 海抜4万mは下らない超高層圏。雲が遥か下方にあり、地球の輪郭だって視認できる景色が突然目の前に広がれば、気後れするのは当たり前なのかもしれない。

 足元の感触は乾いたセメントに似て非なる。弾力そのままに巨大にしたスーパーボールの上に立てば或いは、そうかこれだと得心するだろうか。

 だがそんなのは些細な疑点だ。

 今はただこの現状を催した当人をしばき倒した――問い質したい。

 

「クルァ! どう言うこったい! ついに職権乱用を行使してあたしのsan値を掻き回した挙げ句にまともに会話もできないようにマインドコントロールの後に強引に話進めようって魂胆かい! そんな神様パワーは何処かの不幸な殿方にでも与えてやりなさいって私は頗る思うんですよね全くもう!!」

 

『貴様の推理が正しいとすれば、文脈が成り立てられてない点に一人称が不安定な点を考慮すれば精神操作は効果があったと言う結論に至る訳だが、安心するといい。そんな無駄な事をせずとも貴様程度どうとでもなる。てか誰に向かって嘗めた口聞いてやがるこら』

 

「ひいっ!? やめて、見えない足場グラグラさせないで! 胃がスッてなるから! 足スッてなってるから!あ、だめ、さっせんした、ほんとマジさっせんしたってば!?」

 

 空中で地震という未踏の境地に足を踏み入れたのは人類史において彼が初めてに違いない。そして受けてる本人は気が気でないのもまた違いない。

 偉業を重ね続ける彼に安息はないのだ!!

 

 そろそろ本気で下の方を漏らす気配を察して戦々恐々としていた頃、ようやく揺れが和らいだ。

 軽く半べそかいていたが、神様ちゃんは構わず言を綴る。

 聞き間違いでなければ、それは少し焦りが含まれているように思える。

 

『どうやら貴様が予定を狂わせたせいで()()()()()のが早まってしまったようだ。どうしてくれる』

 

「いや僕何もしてません…………勘づかれた? 誰にさ」

 

『ふむ、原作を知る貴様なら何となく当たりをつけられると思うが。貴様は死因の時といい指摘した時といい今といい、察しが良いのか悪いのか良く分からないな、死んでしまえ』

 

「はいスルーするね何も聞こえません。…………でも、おかしいだろ。その勘づかれたって言い方、聞きようによっちゃ『ばれないようにこっそりやってました』って解釈出来るじゃん。いや、神様転生って奴が公的にやるもんじゃないのは常識で分かるけどさ。

何か違和感あったんだけど?」

 

以下略(時間がない)。悠長に説明していてはいられない事態になった以上、貴様には理解する猶予はないに等しい。元々何も告げず気づいたらそこにいたという形式で終わらせる見積りだったのだ。神の戯れに感謝しろよ若輩』

 

「いやほんと清々しいくらい勝手ですね貴女!!」

 

 

 

『当たり前だ、私は神様だからな』

 

 

 

「(…………ん、今?)」

 

 初めて『彼女』が一人称を使った。

 そして少し、ほんの少しだけ。

 今の言葉が、楽しげなように感じて。

 だけど、悲しげなようにも聞こえて。

 

 それを、少年はあえて気付かなかった事にした。

 

『大丈夫だ』

 

 ポツリと漏れた声は、同じ存在が出したとは思えないくらいに優しげだ。

 

『…………貴様は――――お前は、()()()()()()()()()()()。それは役立つ。――それに、お前の適応能力は称賛に値する。己の死を受け入れ、己の現状を理解し尚も平常を保ち、今も、「私の話を受けようと思っているだろう?」 』

 

「な、何だよ急にさ。…………買い被りすぎだよ。過大評価だ。死を受け入れるのも、現状を理解するのも、感覚が麻痺してるだけだ」

 

『だが、行こうと思っているんだろう? 違和感があって、分からない事ばかりで聞きたい事も聞けてないのに、それでも。……………………、後、だ。自身を卑下するのはやめろ、目障りだ。それはお前を選んだ私への反逆だぞ? 神への冒涜が何を意味するかを体に刻み付けてもいいのか。それが嫌ならもうしない事だな』

 

「…………ああ、これが巷でも有名なデレなのね、耳が優しくなるや」

 

(ぶっ殺してや)…………っ! ちぃっ、侵食が早い。――悪いが、じゃれ合うのもこれまでだ。早急にお前を「ここで堕とす」!』

 

 轟っ! と突如として強烈な暴風が少年を中心として荒れ狂う。

 目元を手で覆う。が、今にも彼方へ吹き飛ばされてしまいそうな烈風に、思わず鑪を踏んだ。

 少年は叫ぶ。

 

「ちょ、おま! 堕とすってなに!? まさかこんな雲より高い場所から落とすって意味を神様風にアレンジした訳!? てかこのミニタイフーンは何のデフォルトだ、まさか空から降ってきた魚群の再現でもするつもりなんでしょうかねぇ!?」

 

『問題ない。もうお前はその程度では死ねないからな』

 

「いつの間に神様特典キター!! でも何それ私ってば正真正銘化け物筆頭の仲間入りしちゃった!? キャー!」

 

『嬉しそうで何よりだ』

 

「泣いてんだよお馬鹿!」

 

 怒濤の勢いで風のベクトルが上昇していく。最早立ち上がる事も不可能になった奔流の中で、少年は何時からか足場を放棄し、宙に浮いていた。

 少年は叫ぶ。

 

「てか、ここでってまさか…………っ!!」

 

『そうだ、もう既に来ている』

 

 目も開けていられない空間の中で、辛うじて開いた視界を下へ改めて向けた。

 

 

 ここからでは分かりにくいが、もし彼女の言う通りだとするならば。

 そこは。

 その場所こそが。

 

 ぞくりと、詳細不明の寒気が少年を襲う。

 

「……………………っ」

 

 押さえきれない濁流がダムを決壊させんと荒れ狂うように。

 恐怖か、不安か、好奇か、驚愕か、悲愴か、歓喜か、欲望か、もしくはそれ以上の激情か。

 ない交ぜになる感情を精細に掴めない。何かに自分の全てが押し潰されてしまいそうだ。

 だからただ、叫ぶ。

 願う。

 

「…………名前をくれ」

 

 願い、願う。

 

 

 

「俺に、名前をくれ! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、あんたが名前をつけてくれ!」

 

 

 

『…………死因を思い出す過程で記憶を辿ろうとすれば、必然的に穴は見つかるか』

 

 果たして。

 彼女は望みを聞き受ける。

 

 

 

『お前は、気持ち悪い程優しいな。「六万(むつま) (さいわい) 」』

 

 

 

「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………読みづらっ!」

『去ね』

 

 

 

 風が止む。

 そこに、もう少年の姿はない。

 

 

 

 

     3

 

 

 

『…………、』

 

 白以外を認知出来ない異色の世界に、彼女はいた。

 少年は既に舞台へ旅立った。此処からは手心を加える事も困難になる。もしかしなくとも二度と会うこともない。後は彼が為すだろう。

 

『…………気持ち悪いくらい優しい、か』

 

 どの口が宣うかと、憂いが込み上げた。

 最後に口元が綻んだのはいつだったのかを、彼女は思い出せない。少なくとも今、己の口角が歪んだ事実に心から驚愕するくらいには果てなく、遠い過去の追憶だ。

 

『(お前は、また偉業を為したと言う訳だ。来世は安泰かもな)』

 

 来世は、な。

 

 漏れた言葉の重みは推し量れない。

 だがそれこそが、六万(むつま)の今世を裏付ける全てになる。

 だからこそ、ここに唯一の有形は己を呪うのだ。

 彼を利用し弄び踏みにじり苦しめた業の深さを、憂うのだ。

 

『……頭が回るんだ。何時からかは問わず、既に気づいていたんだろうよ。それを自らの胸奥に押し込んで、知らぬ振りを通しやがって』

 

 考えてみれば馬鹿げた話だ。

 そもそも、自身の名前すら含めた記憶を喪失した者が何故『とある魔術の禁書目録』を唯一覚えていられるのか。

 そもそも、ここに呼び出したのは誰か。

 なら。

 

 

 記憶を意図的に取捨選択して消されたと考えれば、これ程辻褄が合うことはないだろうと、考えを巡らせられるのではないか?

 

 

 

 記憶の改竄。

 頭が回ろうと無かろうと、少し考えればその不自然さは顕著に浮き彫りになってくる。

 そして神は、そんな事も分かっていた。

 気取られるのも承知の上で、此度の結果を招いた。

 何て事はない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『本当に無理矢理行使するとでも思ったか? 心外だなそれは』

 

 横暴な会話もただの保険。

 不和で話が拗れるリスクを汲み取ってでも、思惑通りに進展させる布石に過ぎない。

 全ては彼の優しさにつけ込んだ皮算用。

 それは実現した。紆余曲折は有れど、結局は他でもなく、彼自身が決めた形で。

 精神操作と何ら変わらないのではないか。その所業の罪深さは、どれ程のものなのか。

 神格を擲ってしまえば許される程度なのか。

 答えは、出ない。

 

『最後のあれは、皮肉として受け取っておくよ。許さんがな』

 

 そう言い、彼女はまた笑う。

 

 だが、ある意味では収穫もあった。予想の内にも想定外という形で。

 確かに状況が故に長居出来ず、端的に済まさなければならなかったとはいえ。

 例えば。

 何故『とある魔術の禁書目録』なのか。

 自分が選ばれた主な要因は何か。

 与えられる特典は何か。

 そこで自分は何をすればいい、目的は何なのか。

 今は原作で言ういつ頃の時期なのか。

 住まいは、生活費は、立場上の設定は。

 と言うか、年齢がそのままならばこれは神様転生ではなく神様召喚の方が的を射ていないか。

 死んだーーーーと言うよりも、ここに来た以前の生活はどうなったのか。

 いたかもしれない家族は、いたかもしれない友人は、有ったかもしれない趣味は。

 もっと掘り起こせば、今から自分は何処に堕ちるのか。死なないにしても場所が学園都市内の人が密集する地帯に堕ちてしまえば二次災害を引き起こしかねないのではないのか。

 仮に海や学園都市外部の非人口密集地帯に堕ちたとして、その後の処遇は。

 

 自分は、此処で生きていられるのかーーーーーー。

 

 

 あの時、どれか一つでもあっただろう疑念を、たった一つ聞くだけで今後のアドバンテージにはなったのかもしれない。

 寧ろ、己の記憶を良いように弄った相手に対して、罵詈雑言を浴びせる事が条理ではないのか。

 それを、彼は。

 

『六万 幸』

 

 安直な名前だ。

 大いなる幸せを。

 神の命名は確かに何らかの効果があるのかもしれない。大なれ小なれ幸福を手に出来るのかもしれない。

 しれないが。

 だとしても、たったそれだけの何の捻りもない名前だけを求めて、僅かに残された刹那を宛がった少年を、浅ましくすら思えてしまう。

 そして、どうしようもなく優しいとも。

 

『知っていたのなら、尚更だ。大馬鹿者めが』

 

 罵る言葉は優しげな声色で台無しだ。

 白い世界が、それに応えるように僅かに脈動する。

 そして。

 

 

 ビギビシィッ!!と。

 白い世界のある一角が、硝子のように罅を生じた。

 

 

『……、』

 

 ある一角、それは彼女の視界からは丁度死角に位置するーーーー真後ろ。

 だが、それは生物学上に限った範囲でしかない。

 ()()()な意味合いを含めると、彼女の視野はグンと広域全方位へと拡張される。

 正確に言えば、多次元まで干渉するくらい。

 だからその来訪者が何時から迫っていたかも、どこから来たのかも、誰なのかも既に検討は付いている。

 故に。

 ああ、と『神』は嘲る。

 

『これで、狙いは寸分違わず当たった訳だが』

 

 軋む音を重ねて亀裂が徐々に広がっていく。留まらず、世界そのものを覆い尽くさんと這い回って蠢き続ける。

 

『貴様がここを探り当てたのが、己の力だと思わないことだ。辿り着くよう手が届くよう、操作したのは他でもない私だ。貴様自らが直接干渉してきた時点で、私の望みは完遂したと豪語してもいい』

 

 やがて。

 パラパラと、何かが剥がれ落ちていく。空間を象る欠片が崩れていく。

 そうして彼女は漸く振り向いた。

 そうして彼女は漸く捉えた。

 

 そこには。

 そこには。

 

 

 

『これで、あそこにはもう邪魔者はいない。貴様をここに繋ぎ止めておけば、六万幸は多少苦はあれど、障害無く侵入を許す。以下略(後はこっちのもんだ)

 

 

 

 白い世界に空く、突き破られた硝子のような歪な穴。

 その向こう側には。

 『ミクロン単位の起伏もなく』

 『ただひたすらに平坦な、半導体のシリコンウェハーよりも狂いのない』

 こことは対極の、『黒一色』があって。

 もう一つだけ、異常を挙げるとするならば。

 

 

 そこに屹立する者がいる。

 男にも女にも、子供にも老人にも、聖人にも囚人にも見える『人間』が、そこにーーーーーー。

 

 

『さあ』

 

 『神』は告げる。

 

 

 

 

 

『壊すぞ、世界』

 

 

 

 

 

 直後

 

 全てが、弾けた

 

 

 

 

 

 

 

     ?

 

 

 

 

 これは、そんなに奥深さを追及するような複雑な物語ではない。

 誰かを救い、誰かを助けられず。

 その助けられない誰かを、それでも救う為の。

 

 そんなただの、どうしようもなく善性だっただけのヒーローの物語である。

 

 

 

 

 




※改訂
 高度1万→4万

 その他それを補う形で編集しました。
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