ーMegali eftychiaー とある魔術の禁書目録   作:中棚彼方

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届かぬ世界に届く一人

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 六万(むつま)(さいわい)生涯無神教であろう(神などいない)と心に誓った。

 

「だばばばばばばばばっあばばっばっばばばばば!?」

 

 シュレッダーが動作不良を起こしたような声を挙げているのは高度4万mから秒速2㎞というIRBMにだって追随しちゃう速度を維持しながら地上へ向けて下降しているからであって、決して六万が気持ち悪い訳ではない筈だ。

 因みにギネスに認定されているスカイダイビングの高度は約3万9000mである。当然ながらそこら辺のコンビニに向かうような服装でそんな大挙を成し遂げた訳ではない。ましてや中距離弾道ミサイルと同じ速度で飛来するなど以ての他である。そんなことしたらまず以て間違いなく肉体がパージする。

 

「(ばっ、馬鹿だ。アイツ絶対馬鹿だ間違いない。魚群の再現何てもんじゃない、あれは台風とかで海から吸い出された魚の大群が最終的に遥か上方に投げ出されて陸地に降って来たのが有力な説だった。でもこれはそんな生温くなんかなかった!!)」

 

 実際には魚だけではなくヤギや羊と言った家畜等も落ちてきたとされている。これ等は通称『怪雨』または『Fafrotskies』と呼ばれており、黄砂や隕石等の空に点在する物以外が降って来た場合は此れを差している。

 が、現状大事なのは現象そのものではなく現象が起こる過程にある。

 

「(まさかあのど偉い暴風が『砲身』だったなんて誰も思わんわ!!)」

 

 気づいたのは自身が地上へ向けて投射された直後だった。風がみるみる内に収束していくのを肌で感じ嫌な予感は十二分にしていたのだが、止めるにはやはり時間が事足りていなかった。差し詰め自分は弾頭だったと言う訳か。

 望まずしてだが神様特典で自身の体が強化されているのを体感する機会は得たものの、普通なら今頃空気摩擦と慣性で汚いトマトピューレになっていたかと思うと寒気しかしない。

 

 寒気と言えば妙な安心感があるのも何となしに不気味だ。

 例えこのまま地上へ接近しパラシュートもなく(あったところで意味はほぼ無し)アスファルトに着弾しようとも、砕けるのはアスファルトの方だけだという根拠もない確信がある。それが頭で理解されている故に慌てふためく表層に対して落ち着いている内層があって、矛盾してるのにそれでいいと結論付けられる自分が酷く気味が悪い。

 

「(一体どれ程凶悪な力をくれやがったんだあの神様は────ん? そういや全て記憶ないって言ってた訳だけど『怪雨』とかについては覚えてんだな俺。神様どんな法則で頭弄ったんだ?)」

 

 当の彼女は世界そのものが焦土に変わる程の大激闘を繰り広げているのだが、当然それを六万幸は知るよしもないし、今後も知ることはない。

 

 

 景色が何本も束ねた線に見える程の速度で駆け抜けていく。例の神の加護でも付与してるのか、直に空気抵抗の弊害(主に顔)を受けてるにも関わらず速度の現象は全くない。寧ろ加速してるようにも思える。このままのペースでいけば恐らく数十秒もせず地上に辿り着くだろう。

 

 割りと心中ハードモードになっている六万は頭から抜け落ちているが、高度4万mでの気温は約-55℃────ロシアの上空ともなると約-70℃の大極寒になる。当然生身の人間が超高速で滑空しようものならその顛末はあきらかである。

 しかし既にその中を通過した当人に影響はない。

 それに、酸欠という問題点も。

 この速度と高度で尚且つ空気抵抗を直に感じているのに呼吸に支障をきたさない。血液が沸騰する事もない。この身はもしかして人体の構造ですらないのか。一皮剥けば臓器が七色にでも光ってるのではないだろうか。

 化物筆頭のレッテルは伊達ではないようだ。

 

「(あれ、じゃあこのマジキチボディなステータス持った私がこの速度で地上に落ちちゃったら予想を遥かに上回る大災害を招いちゃうんじゃあ)」

 

 重さ六十キロ超えの鉄球が加速装置によって打ち出されてマッハ6以上の速度で加速しながら質量そのままに地上に襲来すると考えればいいだろうか。ましてや実際は鉄球以上に質が悪い凶悪な弾殼である。

 隕石とまでは行かずとも絶対に陰惨な結果を招くのが想像に容易い。何せ彼の学園都市第三位が打ち出す超電磁砲の2倍は速いのだ。

 それがもし、危惧していた学園都市内部のショッピングモールとかどこかの学園とか、『学舎の園』等の重要施設のど真ん中にでも落ちようものなら。

 

 サーッと、-55℃でも冷寒を感じなかった体に、確かに冷たい何かが駆け巡る。

 

「てか駄目だ! 学園都市の中に落ちたらどこだろうと全く良いビジョンが見えてこない! と言うよりも今の状態でも俺大丈夫なのか!? 何か得体の知れない超高速飛来物接近とかレーダーで感知されて学園都市のあるかもしれない自動迎撃システムに照準合わされてドカンされないよね!? この科学の巣窟ならマジであり得るんですけど!?」

 

 ついにこの過酷な状況下で喋れるようになってしまった訳だが、それを喜ぶ暇は毛頭なし。

 

 

 地表到達まで、時間は残っていない。

 

 

 

    5

 

 

 

 どうやらフラグだったようである。

 何か地上で血のように紅い光がビカンビカン点滅してるのだが気のせいではないらしい。

 

 

「な、んだ……これ……っく」

 

 得体の知れない信号が頭を過る。危険を認知させるためのレッドフラッグみたいな物か。

 元々の自分が持っていた特殊能力か、神様特典の一つかは記憶喪失だから不明瞭だが、恐らくは後者だろうと六万は思う。

 肉体とは順応していくものだ。

 ランニングで例えるなら、初めの内は心肺機能が着いていかずにすぐ体が悲鳴をあげる。だが持続することにより走る行為に各部位は『慣れ』が生じ、ランニングをする際己が最も効率的に走る為の『リズム』を理解し、最終的に疲労を軽減させながらも距離や速度を伸ばす事が可能になる。

 ならば、生まれてこの方持久力を養う鍛練をした事のない人間が、経験も無しに最初から自身の『リズム』を理解し、最も効率のいい走り方をする事が果たして可能か。

 今六万に起こった現象はそれに近い。

 記憶が無いとはいえ体は能力が発生した際の『慣れ』を認知する事は出来る筈だ。文字通り、体が経験を覚えているのだから。

 だが六万にあるのは、あの妙な安心感を持った時の気味の悪さだけしかない。

 故にこの違和は後者を意味すると決定付けられる。

 

「(いや、今はそんな事はどうだっていいんだ。どちらにしろこれから来る『奴』は目視でだって回避に賛成だっつの!)」

 

 空中で滑空するマトモに身動きも取れない状況で、『回避が出来る』という選択肢が頭の中にはあった。やはり、根拠などない確信も一緒に。

 しかし、今はそれが有難い。

 赤い光が点滅する間隔を徐々に0へと短くしていく。あれが完全な0へと還元したとき、『何か』が発射される。

 

「(考えろ、何が発射される? やっぱりセオリーなら追尾式弾頭ミサイルとかか? ────いや、違う。一般的に考えたら駄目だ! ()()()()()()()()()()()()()? あっちがどういう判断でやってるかは知らんが、もし俺をミサイルかなんかと想定して破壊を試みてみろ。そんなやり方を行使したら確実に破片が下へ被害を齎す!)」

 

 ならば、下に被害を出さないやり方とは。

 

「(…………欠片も残さず消滅させる、か? なら、レーザー……可視光線が有効? いや、でもそれだと範囲が大分限定されてしまう。大きさにしたって────違う! 学園都市は想像の斜め上を行く! とすれば、くるのは――――っ!!!)」

 

 遂に、間隔が0になる。

 その時、確かに六万幸は見た。

 見ることが出来た。

 

 

 

 肉薄する、巨大な深紅の壁を。

 

 

 

()()()()()()()()()()()!!!」

 

 

 

 大きさなど関係ない。それすらも度外視するのを許された、直径10メートルはくだらない円形の壁が、光の速度で六万に迫ってきた。

 

 

 原作にも覚えのない脅威。仕組みはもちろん対処法も知らない。

 だが、それでも。

 

 

 まず、光線が射出される前に六万は地上から視界をほぼ外していた。代わりに、下へ向いた上半身を大きく右に旋回することで、真横を通り抜ける雲の数々を視界に収めていく。

 『このままあれを弾き飛ばす』事も考えた。だが弾いた先が何処に行くか操作するのが難しい以上安直に触れるのは忍ばれる。

 よって、全力で回避することにする。

 

「…………フッ!」

 

 ギュルンと、引き絞った上半身を戻ろうとする反発に倣い一気に逆回転させる。つられて回転する下半身をそのままに、その速度を上げるように回す。

 

「……ォ」

 

 回す。

 

「……ォ、ォオオ」

 

 回す回す回す回す。

 

「ォオオオオオオオオオ────」

 

 回す回す回す回す回す回す回す。

 

「オオオオオオオオオオオオォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオォオオオオオオオオオオオ!!」

 

 廻る廻る廻る廻る廻る廻る廻る廻る廻る廻る廻る廻る廻る廻る廻る廻る廻る廻る廻る廻る廻る廻る。

 

 そして。

 

「オアアッッッッ!!」

 

 獣のような咆哮をあげて。

 全身の筋肉を一気に引き絞る。ビキィッと、体からではない何処かで軋む音がなる。

 気にしてられるかと、左拳を有らん限りの膂力で握りしめ。

 思いっきり、裏拳の要領で振り抜いた。

 刹那。

 

 

 

 轟ッッッ!!! と。

 

 六万幸の『真横をレーザーが通過した』

 

 

 

「────しゃおらぁっ!! どうだコンチクショウ馬鹿みたいに目ぇ回ったぞ殺す気かど阿呆め!!!」

 

 放たれた光線が軌跡を残しながら消えていく。

 チリチリと空気が焼けたような焦げ臭さはしたものの、それも六万は空へ置いていった。

 

 やったこと事態は簡単だ。

 拳を空気の壁に叩きつけて、そこを起点に自分の体を横に吹き飛ばしたのである。

 空気にも抵抗はある。それは打ち出された直後に身を以て痛感している。

 抵抗があるなら、作用と反作用だってある。

 六万幸がやったのは、それだけの事だった。それだけの事だが、それが膂力のみでやってのけるのだから彼の肉体に道理は通らない。

 当然、重力の中を通る六万が落下を続けるのは当たり前の事ではあるが、重力に対して垂直に変動し 、尚且つ

急な方向転換により速度の減退も発生してくる。

 結果的に、光線をクリアする副産物として学園都市に落下する弾頭によろしく何て事態にもならずに済ませる事ができる。思わぬ幸福だ。

 

 よって、どこに落ちるか分からないと言う現状になんの変化もないのは確かではあるものの、少なくとも災害 規模の衝撃が学園都市を襲う可能性は解消出来た事になる。

 

(とりあえず当面の問題はクリアできた。まだ学園都市からの迎撃が来る可能性だってあるけれど、あれだけ馬鹿デカイ光線を2回も3回も短い間隔で撃てるとも思えない。────やっぱり出来るかもしれない。学園都市だし)

 

 素直にポジティブシンキング出来ないのは今までの己の処遇が頭を過ったからだろうか。フラグがポンポン建造されては貯まったものではない。

 それに、落下の速度が緩まったならその分だけ向こうに撃墜する機会を与えてしまうのと同義でもある。

 次も上手く回避出来るなんて確証は、何処にも存在しない。

 もし次が来るなら、その時は──。

 

「(弾こうが何しようが避けるしかない。何らかの方法を取らなきゃ消し炭すら残らず消されちまうだろうし。…………神様ちゃんが俺に目的を最優先事項として告げなかったと言うことは、逆に言えば目的には意味がないか、()()()()()()()()()()()()()()()()()()って事もあり得る。────なら、神様ちゃんにとっては生きて学園都市に入った方が喜ばしいんだろうな。うん、その方が俺も断然喜ばしい)」

 

 地上が迫る。それに伴い見えてくる姿形にも、より精細さが際立ち始める。

 速度が緩まった事で、視野にも余裕ができてきたようだ。

 

 建ち並ぶビル群。浮かぶ飛行船。曲がりくねった立体道路の数々。大量の発電用風車。波のように道路を蠢いてるあれは、人が行き交っているのだろうか。

 

「(あの空をぶち抜いて聳え立ってるのはエンデュミオンか? 今の時系列が分からないからなんとも言えないけれど、少なくとも7月辺りの時点では確か建設途中だった筈だよな……。…………やば、今更ながらホントにここって学園都市なんだな。実感わいてきた)」

 

 フルフルとよく分からない震えと衝動が身体を揺さぶる。六万幸とて年齢的身分で言えばまだ少年を抜け出しきれない時期にいるわけで、『空想でしかない世界に足を突っ込む』と言う非日常に憧憬が無いなんて言えない時期でもあるのだ。

 ────と、ここで少年はある異変に気付く。

 

「(…………あれ? そういや俺、さっき結構強めに空気横殴りしてたんだよな? 少なくとも、『既に撃ち出されていた光の速度で進む極太レーザーをその場で回避する事が出来る』くらいの強さで)」

 

 言葉で言えば簡単だが、その際に起こる力場は到底計り知れないものになる。

 回避の為に行われた前手順の殆どは『光線の射出後』に行われていた。その光線が自身に肉薄するまでのほんの刹那の合間に行ったのだから、下手すれば相対性理論を度外視してしまうほどの動きを六万はしたことになる。現にこれは六万の知らぬところではあるが、彼が振り抜いた拳の延長線上にあった筈の

雲は全て跡形もなく()()飛ばされている。

 当然そんな馬鹿みたいな行動をすれば本体への反動は凄まじい事になるため、本来ならば重力に逆らう形で真横に相当量吹き飛ばされなくては行けない。そしてこれは六万自身も想定した上で行った行為。

 そうして吹き飛ばされることによって、『学園都市内部に飛来する可能性を摘んでおいて、外部にて一度地に足を着けた後に、内部への侵入を試みよう』と判断していたのである。

 そう、していた筈だった。

 

 ならば、まだ真下に学園都市があって、六万幸が真下に向かって落ちているのは何故だろうか?

 

「(何で気づかなかった? ────違う。いつから俺は自分のした行動を無意識に忘れていた!? つい数秒前に自分で考えてやった行為だった。真下にある学園都市を悠長に観察出来る時点で疑問を持つべきだったんじゃないのか? だって、本来なら学園都市とは無縁のあらぬ方向に自分を吹き飛ばしていた筈だ。未だ学園都市の領空にいるのはおかし────ッ!?)」

 

 記憶が整合しない事に憤りを覚えた直後だった。

 

 ゴパァッ!!! という衝撃が、上から襲いかかってきた。

 

「ンガァッッ!!??」

 

 頭を鈍器で殴られた際の衝撃とは違う。

 まるで、自身を中心に置いた半径2メートルの限定された範囲内の重力が一気に増幅したような、全身を覆い潰すような圧力による衝撃。

 それによって起こる結果は──ッ!

 

「(俺自身に攻撃……じゃない。飛来する物体にさらに上から圧を加えても、物体の破壊よりも寧ろ物体の加速をさらに及ぼすしか──────────ん?)」

 

 何故か、そう、何故かは分からないが。

 

 ある種において、六万幸はストンとハマる感覚を我が身で感じた。

 

「……………………………………………………………………………………オイコラ馬神様(ばかみさま)

 

 何となくだが自身の落下する速度が速まった気がした。

 ────いや、ギャグ補正とかの冗談抜きで、速度が増している。

 射出された当初の落下に追い付かんばかりの速度上昇を見せているッ!!

 

「マジかよやっぱあんたの仕業なのかよふざけんな!! え、まさかこの状況見て楽しんでるの? 俺がギャグみたいな人間砲弾になって学園都市に突撃する様を見て爆笑しますって感じなの? 『このままどう足掻いても貴方は学園都市内部にて一悶着起こしますよザマァ☆』ってかこのバカンゴバッ!!?」

 

 再び上からのどうしようもない衝撃が全身を打ち付けた。肉体へのダメージが無いのが恐ろしいが、それ以上にどんどん速くなっていく自分が怖い。下手すれば最初よりも速い。というか最早速くなっていた。弾頭よろしくが間近に迫っている。

 

 言っておくが某激闘中の神様には当然そんな余裕が有るわけもなく、元々最初に体よく撃ち出したあの『砲身』に『手っ取り早く六万幸を学園都市にぶちこんじゃおう(楽)』という考案の元に編み上げられた術式が組み込まれていた事など六万は知りもしない。

 

「ま、マジかよ……」

 

 絞り出すような震え声で現実を直視する。

 

 一刻の猶予もない今、起こる事象の想像しか出来ないのが歯がゆい。

 先程から何度か同じように拳を振り抜いたり身体を動かそうと軌道の修正を図っているのだが、気付いたら()()()()()()()()()()()()()()

 もし、『そうある事を望んでいる』のが本当に神の心情だというのであるならば。

 それを防ぐ、それを退ける術など、存在しないのかもしれない。

 じゃあ、もうそれを受け入れるしか────。

 

 

「どうなっても、どうなっても知らねぇぞ馬鹿やろ───ッ!!!?」

 

 

 三度目の衝撃。

 

 学園都市はもう、すぐそこにある。

 

 

 

 

 

    6

 

 

 

 

 

 第七学区にて、それは起きた。

 

 他九つの学区と隣接している第七学区は、そこを経由する、そこをそもそもの目的地とする等と他の学区に比べて交通量が多くなっている。加えて、そこは『学舎の園』に『窓のないビル』など、『とある魔術の禁書目録』という作中に置いても最も多くの物語に関連する施設が凝縮した学区でもある。学生寮等がある以上、そこを主な生活圏とする生徒達や勤教師達も多数存在する為、それらに付随する形で雑貨屋や生活商店も立ち並んでいる。

 更に加えるとすれば、その日、時刻は下校時刻を回っていた。

 更に更にもうひとつ加えちゃえば。

 学園都市の総人口は230万人存在するのに対し、その約8割は学徒が占めている。

 

 だから当然と言えば当然なのだが、その時、第七学区は多数の人々が各々の目的を果たす為、闊歩していた。

 

 

 

「……何だ、一体……?」「すっげー光ってたな!」「今のって……学園都市の中から?」「なんか落ちてきたのかな?」「隕石! ねえ、隕石が落ちてきたとか!」「ンなアホな、ニュースとかにも全く出てなかっただろ」「ちょっと怖いかも……」「つかあれ見ろよ! 雲がそこだけ切り取られた見たいになくなってる!」「衛生とかにはなんか写ってんのかな?」「てかなんだろ? さっき一瞬光った時に聞こえた軋むような音」「それ私も聞いたかも」「俺も聞いた。よく分かんないけどあれ、スッゴい不安になる音だったよな」「てか、結局なんだったんだよ今のは」

 

 それは実質第七学区だけではなかった。そこに隣接した学区も含め、皆が一様に見て、聞いていた。

 地上から突如として現れた、稲光にも似た刹那に発生した閃光。

 不自然に消え去った雲。

 そして、心の奥底に響き渡るような、不穏な軋む音。

 世紀末……とまではいかないにしても、虫の知らせのような、第六感へ直接働きかけてくるような『揺らめき』を、その場にいた当人達は知らず知らずのうちに感じ取っていたのかもしれない。

 まるで何かを恐れるように、無意識に彼らは寄り添うが如く、あれよこれよと今のはなんだ何が起こった等と言い合っていた。

 

「何だったのでしょうか……。ちょっと怖いですね佐天さん」

 

「むむ、これは新たな都市伝説発生の予感……ッ! 『白昼に起きた怪現象! 隕石か、それとも……!』 ──んー、ちょっとオーソドックスに過ぎるかなぁ? どう思う初春?」

 

「あ、そこら辺の関心の方向性が他の追随を許さず一貫してるあたりさすがは佐天さんですね」

 

 季節の変わり目である6月下旬。制服の衣替えも完了した学生の犇めく街中は夏服で溢れかえっている。

 初春飾利と佐天涙子もその中心で、眼前に現れた異質な光景を目の当たりにしていた。

 

「でもおかしくない? 他で騒いでる人達も言ってるように隕石が飛来するならするでニュースで話題になったりするものでしょ? まさか学園都市の人口衛星や『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』が計測出来ない事ってあるもんなのかな?」

 

「確かにアメリカやロシアに比べても学園都市製は先進してるとは思いますけど……」

 

「……まさか、学園都市の技術を掠め盗らんと目論む某国が送り出してきたアンチレーダー仕様のステルス戦闘機……ッ!? あの紅い光線はその迎撃に!」

 

「いやいや、まさかそんな今にも戦争が始まりを告げますよなんて展開があるとはとても────────?」

 

 半笑いを浮かべながらも佐天に向けていた視線を、初春は再び上空へ戻した。つい数刻前に閃光が走った上空へ。

 ────────トクン、と。

 僅かな動悸の跳ね上がりを、彼女は胸の内に認識した。

 

 

「……………………何でしょうか、あれ。黒点?」

 

 

「?」

 

 

 微動だにしなくなった友人を見て佐天は首を傾げた。

 そこで気付いたが、先程まで騒ぎ立てていた周囲の人間も一様に沈黙し、呆けるように一点へ目を向けている。

 同じく皆、空へとだ。

 釣られるように、彼女もまた空を見上げようとした。

 だが、彼女がそれを見ることは叶わない。

 そもそも、叶う筈もないのだ。

 

 

 何故なら、その物体は既に秒速2㎞を超える速度で大気を縦断していたから。

 

 

 何故なら、佐天涙子が上空を見上げようと脳へ信号を送ったその時、地上と一つの間隔は限りなく0へ迫っていたのだから。

 

 

 

 

 そして、佐天涙子が実際に見上げたその瞬間、彼女の五感は大量に舞い上げられた砂礫と轟音で支配されてしまったのだから。

 

 

 

 

 

「(…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………あれ?」

 

 何が起こったのだろうか。

 

 今、自分は声を出したのか、どんな体勢になっているのか、そもそもここは何処だったか。

 

 そして、やはり一体今ここで何が起こったのか。

 

 彼女は何一つ理解力が追い付けていなかった。

 

「……………………ェ、あ……あッぐ……ッ!?」

 

 直後に襲ってきた激痛に思わず顔を顰める。

 ────激痛? 何故激痛が全身に走る、自分は今傷を負っていると言うのか。

 そんな前兆は先程まで無かった筈だ。友人と二人で買い物がてらショッピングモールに向かおうと歩道を歩いていた最中に空で不可解な出来事があったからそれについて会話していただけだった。

 身を捩るような痛みとは無縁の時間を送っていたのだ。

 なのに、これは────。

 

「ぅ、ういは……………………るッ……、」

 

 辛うじて絞り出した声で友人の名を呼ぶ。だが、何時まで経っても返事が帰ってこない。

 もしかして、彼女もまた同じような状況に陥っているとでも言うのか。

 

「(まず……い、かも)」

 

 ようやく回復してきた五感を頼りに周囲を見渡してみるも、立ち込める土煙が視界を阻害してよく見えない。近場は見えるものの、それにしたってあるのは瓦礫が転がってるのみだ。

 

 痛む身体に鞭打ち、強引に横になった身体を起こす。横になっていたと言うことは、要するに吹き飛ばされたのかもしれない。

 どれだけの距離を飛ばされたのかは定かではないが、辺りに見覚えのあった物がない(それすらも見分けがつかないくらいに形を変えられた可能性もあるが)。少なくとも数m以上は確実か。

 ズキズキと正体不明の鈍痛が頭にあるのがその証拠だ。今にも意識が途切れてしまいそうになる。

 

 フラフラと立ち上がると痛みが更に増した気がした。土煙が原因か、身体の内側のダメージが原因かは分からないが視界が異様にぼやける。

 

「(……探さ、ないと……、初春────)」

 

 自身はそう思うも、それとは別の自分がひたすらに警鐘を鳴らしているのが分かる。

 無理だ。

 一歩でも足を進めた瞬間地べたに飛び込む事になるぞ。

 今はただ己の安否と状態を優先すべきだ。

 死ぬかもしれないんだぞ。

 見極めを誤るな。

 

「(……………………それ、でも)」

 

 だが、それでも少女は前に出した足を止めようとしない。

 頑な何かが、彼女を止める思考を阻む。

 

「…………初、は────────」

 

 

 だが、肉体はどうしようもなく正直で。

 意思に従うには、あまりに脆弱で。

 

 

 ガクン、と。

 膝から力は抜け、彼女は(くずお)れる─────────

 

 

 

 

 

 

 

 

「(………………………?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 はずだったのだが。

 どういうわけか、予想していた衝撃が訪れる事にはならなかった。

 これは……………………?

 

「(……誰か、支えて…………?)」

 

 朦朧とする意識の中でも感じる確かな感触と、微細ながらも伝わる柔らかな温もり。

 今にも折れそうな脆さではない、確りと立つ人間が支えてるような安心感が、この場では酷く違和感を当人には与えるものだった。

 が、苦みに似た不快はない。

 あるのは、預けられる安堵と尖りのない心境。

 そして。

 

 

 

 

「ごめんな」

 

 

 

 

 

 聞こえてきた謝罪に対する不明瞭だけが残った。

 

 だからだろうか。

 動かぬ体に無理を推して、佐天は今一度上へ顔を向けた。

 

 

「……どうして」

 

 

 彼女は見た。

 

 

「どうし、て、そんな…………」

 

 辛そうな顔をしてるんですか。

 

 全ては言えなかった。意識が持たなかったからだ。

 

 

 

 

 消え行く意識の間際、彼女が見たその光景が頭から離れる事は最後までなく。

 

 最後まで、彼女は支えられていた。

 

 

 

 

 

   7

 

 

 

 

 

 目を覚ました彼女は辺りを見渡し、そこが自分の見知った公園だった事が理解できた。

 

 隣には何故か初春飾利が寝ている。

 不思議なのは、自分の体にあった頭痛や目眩、更には外傷までもが全て無くなっていた事だ。

 制服の損壊すら修繕されている。初春飾利も同様だ。あれだけ被害を受けた自身の傍にいて、無傷などあり得る訳がない。

 

 なら、こんな。

 まるで、あの顛末が夢物語だったかのように爪痕が消え去っているのは、一体どういう事なのだろうか?

 

 

 

 

 ……夢だとは思わない 。

 思えない。

 痛みも衝撃も、あのとき見た『彼』の苦しげな顔も、ここに消えず鮮明に残っているから。

 

 

 

 




 


最後の駆け抜け感が否めない。でも能力の仕様もあってわりと悠長に落ちてる主人公と結構甚大な被害被っちゃった佐天さんの温度差ってこんなもんなのかなーって思いまして。

それにそういう出来事に見舞った心境の延長ってことで後に続いてくと私は思いますんだ。

佐天さんかわいいよ佐天さん。

 
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