主人公への憑依は並行世界の破滅となるか? 作:髪色
負けた。
負けた。
完膚なきまでに負けた。
ユーハバッハに造り替えられた霊王宮での決戦に敗北した。
僕の中にいる二人に頼み込んで造った天鎖斬月が微塵も通用しなかった。
もちろん事前に静止の銀を竜弦さんから譲り受けていた。
でも当てられなかった、避けられてしまった。
貫くことが出来なかった。
腹を貫かれた、腕をもぎ取られた、喉を斬られた。
もう戦うほどの体力は残っていない。喋る気力も何もかも。
どんどん遠ざかる上空に位置する霊王宮。いや、遠ざかってるのは僕だ。落下してるんだから。
どうすればユーハバッハに勝てたのだろう。原作では雨竜が静止の銀を当てた、どうやって当てたんだあの化け物に。
わからない、何もわからない。ただ一つ分かっているのは僕は失敗してユーハバッハが僕に勝利したこと。
僕は落下死するのか。
いや、その前に僕に与えた力を回収するためにユーハバッハが追ってくるか。
雨竜は、リルカは、ルキアは、チャドは、銀城は、織姫は、みんなは生きているのだろうか。
みんなだけでも生き残ってくれ。
生と死の境がなくなった世界がどんなものかはわからない。でもそんな世界でもみんなが幸せなら、友達が笑えているなら。
やっぱり僕は偽物だ。主人公にはなれなかった。
本物の黒崎一護のようにはなれなかった。
もう諦めている、未来改変の怪物に勝つのが不可能だと理解してしまった。
敗北を全体として物事を考え、ユーハバッハがみんなを生かしておくなんてご都合主義に溢れた未来を想像している。
尸魂界の死神を見捨ててしまってる。
ああ、なんて愚かでクズでバカなんだ僕は。
遠のく意識の中で最後に思考していたのは、自分への罵倒だった。
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意識を失った黒崎一護は黒い孔に飲まれてとある宮殿の中に落下した。
その宮殿の名は
その中で黒崎が落ちた場所は、ある意味で運が良くある意味で運が悪かったと言えるだろう。
即刻排除されるような破面の元に落ちなかったのは幸運だ。
だが
気絶している黒崎の前方にいるには藍染惣右介、つい先日尸魂界を裏切った男だ。
そして少年を見つめながら玉座に鎮座する藍染は立ち上がった。そしてゆっくりと少年に近づき独り言を紡ぐ。
「君は誰だい?」
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黒崎一護が
先程まで霊王宮にて決死の戦いを行なっていたというのに、瞬きしたら知らない街の住宅街の中にいる。
しかも周囲の建物やアスファルトの地面は霊子ではなく現世の物質だ。
地面はアスファルト、家の塀はコンクリート。
間違いなく現世のものだ。
「一護のやつが心配だが、そもそもいったい何がどうなってんだ?」
四方八方を警戒するも、攻撃がくる気配もない。
幻覚かと疑ってみるが、そもそもユーハバッハが幻覚を見せる必要がないと銀城は自問自答する。
ではここはなんなのか、今のところは何もわからない。
警戒を解かずに周囲を探索しようと試みる。
すると前方から一人の男が歩いてきた。そのまま銀城の横を通り過ぎる。
オレンジ色の髪の男だ。眉間に皺を寄せて学生鞄を持っていて、それを片手で持って肩越しに引っ掛けている。
「一護・・・・・・じゃねぇな。で、お前は誰だ?」
一瞬一護と勘違いするほどに似通った顔、だが髪色が違う。
それに一護はあそこまで強ばった顔をしない。いつもヘラヘラして、たまにガキみたいに怯えた表情を見せる。
それに一護はさっきまで霊王宮で戦っていた。
そしてなにより、黒崎一護が
性格的な問題としては別人なのだが、霊圧に関しては別だ。
「・・・・・・あんたこそ誰だよ」
一護に似た男は気難しそうな顔をしたまま振り向いた。
驚くべきことに声も一護と同じだ。
なんとなくピリピリとした雰囲気を感じる。
実際黒崎一護はウルキオラに井上織姫を誘拐されて気が立っているのだが、そんなこと銀城が知るはずが無い。
「空吾、銀城空吾だ。更に言えば完現術者だな。お前から一護の霊圧を感じるんだが、心当たりはあるか?」
「心当たりも何も俺が黒崎一護だ。霊圧って言葉を知ってるってことは・・・・・・あんた死神か?」
なんということだ、目の前の男は黒崎一護と名乗った。
だが銀城は別人だと確信していた。
そして現状を把握するために目の前の少年にいくつかの言葉を投げかけることにした。
「ここは空座町か?」
「ああそうだ、まさか神隠しにあったとでも言うつもりか?後、質問を質問で返すんじゃねぇよ」
「悪い、たしかに俺は死神だ。そうだな・・・・・・今何年何月何日だ?日にちもわからねぇオッサンの相手をするのはしんどいだろうが、人助けだと思って答えてくれよ」
「○□年、そんで△月○日だ。それでボケた死神が何の用だよ、尸魂界からの用事か?」
「さっきからお互い質問ばっかだな、わからねぇことだらけだ」
少し微笑みながら銀城は思考する。
まずこの世界はさっきまで自分がいた世界ではないことは確信できる。
何故なら、
この町でその霊圧を感じるのは絶対におかしい。
ならば過去に戻ったのだろうか。
先程ユーハバッハはこんな感じのことを言っていた。
「未来とは無数に散らばる砂粒のようなもの」だと。
ユーハバッハは自らの力を未来改変と言っていたが、滅却師の親玉なのだから更に力を隠し持っていてもおかしくない。
その力で過去の別の砂粒に俺を送ったのだろうかと銀城は考える。
だがそんなことする理由が一切わからない。
それに黒崎と同じ霊圧と顔をしたやつがいることの説明がつかない。
ならばこの前一護が話していた並行世界論の方は納得がいく。
微妙に違った世界がいくつも存在しているという説だ。
実際一護は「前世ではこことは違う世界で生きていた」と言っていた、本当のところはわからないが。
だがまだ事の真偽は掴めない。
実際問題何が起こったのか真実を掴まなければならない。
そしてもし並行世界に来てしまったというならば、元の場所に戻る方法を早急に見つけ出さなければいけない。
だが帰ったところでどうする、一護が手も足も出なかった相手にどうやって立ち向かう。
いや、それを考えるのは後だ。
とにもかくにも戻らなければ何も始まらない。
「おいあんた、なに神妙な顔しながら黙ってんだよ」
「・・・・・・何となく掴めてきたな」
その瞬間頭の中に音声が響いた。目の前の男と同じ声質、つまりは黒崎一護の声が。
『天挺空羅、今この音声を聞いてるのは空吾だけだ。今ちょうど虚圏から脱出したところ。そしてあんたが僕の友人の銀城空吾なのかもわからない。だからこれだけ伝える、僕らの始まりの大樹の元に今すぐ来てくれ。空吾ならこれで通じる筈だ』
一護のやつ天挺空羅なんて縛道をいつのまにか使えるようになっていたのか。
そう驚きながらも銀城は笑みを浮かべる。
一護の完現術は斬魄刀を使ったもの、一度行った場所ならどんなところにでも行けるという優れた完現術だ。
その力を使えば元の世界に帰れるかもしれない。
ひとまずの目処が立ったことに喜びつつ完現術を使いアスファルトの魂を引き出す。
そして高速移動で始まりの場所へと急行する、初めて黒崎と出会ったあの場所へと。
黒崎一護を名乗る男が後ろから大声で喋りかけてきたが気にも止めずに走る。
「一護が来てるってことは他にも誰か来ててもおかしくねぇな・・・・・・ここが本当に並行世界だったらの話だがな」
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まだ銀城空吾がこの世界に来ていない頃、井上織姫は月を見ていた。
出られないように格子が嵌められた窓から虚圏の空にある月を。
三日月と半月の中間くらいのそれはとても綺麗で、窓から見える範囲では星一つない虚の空を照らしていた。
眺めながら先程会ってきた黒崎一護のことを思い浮かべる。
虚によって虚圏に攫われてくる前に別れの言葉を告げた人のことを。
今は何をしているだろうか、色々考えたがまだ眠っているという結論に達した。
そして織姫は両手を合わせて握りしめる、精一杯の勇気を振り絞って行動を起こすために。
自分にしかできないこと、それは事象を拒絶する六花の能力で崩玉を創られる前に戻すこと。
「出ろ、井上織姫。藍染様がお呼びだ」
いつのまにか部屋の中に立っていた男の声に驚いて振り向く。
そこにはあたしを攫った虚がいた。あの時となんら変わらない表情で。
一瞬何のようか聞こうと思ったが、聞いたところで何が変わるわけでもない。
単調な返事を返して、男に着いていく。
連れてこられた先にいたのは藍染惣右介、最初にこの場所で出会った時のような圧は感じないが相変わらず不敵な笑みを浮かべている。
「よく来たね織姫、先程部屋に行かせたばかりだというのに急に呼び出してすまない。少し見てもらいたいものがあってね」
壁は真っ白い石のようなもので、床は真っ黒に塗られていて、そんな殺風景な部屋の中央に藍染は鎮座していた。
ウルキオラは藍染に軽く会釈してから部屋を出る、そしてこの部屋にいるのは自分と藍染だけとなった。
そう織姫は考えていた。だが違う、もう一人いるのだ。
「さて織姫、早速で悪いがまずはこの男を治してくれるかい?」
その言葉とともに藍染は右方に指先を向けた。
そこに目をやると白い石の台みたいなものがあって、その上に男が横たわっていた。
恐る恐る近づいてみると、そこにいたのは人間だった。
右腕がなく、腹には大きな穴が開いた黒髪の男。
喉は潰されていて、生きているのが奇跡な状態だ。
そしてその顔は黒崎くんによく似ていた。
本当にそっくりで、もしこの男と黒崎くんを写真に撮って、黒崎くんを知らない誰かに見せたら髪を染めただけの同一人物だと言うだろう。そう確信を持てるほどだ。
でも違う、この人は黒崎くんじゃない。
色々と思うところはあったが、とりあえず治そうと能力を発動する。
目の前に酷く傷ついた人間がいたら治すのは当然のことだからだ。例えそれが藍染の思い通りだったとしても。
「双天帰盾───私は拒絶する」
その言葉と共に目の前の男は光の膜に包まれ傷口が塞がり右腕が元通りになっていった。
男は目を開いて起き上がり、まず初めに織姫を見た。
すると起きたばかりで細かった目が見開かれ、小さな声が回復した喉から溢れ出た。
「織・・・・・・姫・・・・・・」
その声は黒崎一護と全く同じで、織姫の脳みそを混乱させた。
声も顔も同じなのに魂が別人だと言っている。
「初めましてと言うべきかな、少年」
藍染が中央に位置する椅子から立ち上がり男に声をかけた。
すると男は台から飛び降り臨戦体勢をとった。
キョロキョロと辺りを見渡し、織姫と藍染の中間地点に立つと口を開いた。
叫ぶわけでもなく。
吠えるわけでもなく。
ただ静かに言い放った。
「
時系列は
黒崎転移→黒崎覚醒→黒崎なんやかんやで虚圏脱出→銀城転移です
この話の直前に銀城とオリ主が並行世界論について話していたので、偶然銀城は答えに辿り着きました。