主人公への憑依は並行世界の破滅となるか?   作:髪色

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前話の黒崎のセリフを修正しました


彼の精神は弱いのです

 

 これはまだ黒崎一護が並行世界に訪れる前の話、藍染惣右介との戦いに勝利した直後の話、ほんの少し昔の一幕。

 

「なぁ一護、まさかお前後悔してるのか?」

 

 銀城空吾は問いかける、いつもに比べて傷心気味の黒崎一護の様子に違和感を抱いたのだ。

 幼馴染である有沢たつきを殺した相手に復讐できたのだ、なぜ悲しむ必要がある。

 ならばもしや後悔しているのでは?と彼は疑ったのだ。

 

「後悔・・・・・・これは後悔なのか?いやさ、確かにたつきちゃんを殺した藍染は憎かった。憎かったよ。それは今も変わらない。流魂街でたつきちゃんに会えて少しは溜飲は下がったけど、やっぱりそれでも憎いまま」

 

 当然だ、長年の親友を殺した相手を許せるわけがない。

 黒崎一護と有沢たつきが流魂街で再開できたからと言って、現世に残された者の悲しみや有沢たつきの未来が奪われたことに変わりはない。

 死神に仲間を殺された過去を持つ銀城空吾は深く共感した。

 

「でも、楽しかったんだ。死神としての戦い方を学ぶために藍染に弟子入りして、破面のみんなと仲良くなって、戦ったり遊んだりした」

 

 彼は本物の黒崎一護ではない、憑依した偽物だ。

 歩んできた道筋も成してきたことも殺した相手も、何もかもが本物とは違う。

 

「時々藍染にもウザ絡みしたりしてさ、あの日々は間違いなく楽しかったんだ。なぁ空吾、他にも何か方法があったんじゃないか?藍染を殺さずにコトを終わらせる方法が」

 

 沈黙したまま語り始めた黒崎を見る銀城、その目にはどこか憐れみが含まれているように感じた。

 

「あぁわかってる、これはただの戯言。崩玉と融合する前に殺してしまおうって言ったのは僕だ。一瞬でも躊躇ってたら崩玉と融合して手も足も出ない化け物へと変貌していただろうさ。でもきっと彼なら・・・・・・」

 

「彼?」

 

 銀城空吾は知らない、知るよしもない。

 黒崎一護が思い浮かべる理想の存在を、BLEACHという物語の主人公のことを。

 彼のみが知っている英雄譚を。

 まだ、何も知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)、その威力は通常の虚閃とは一線を画す。

 本来であれば十刃のみにしか使うことが出来ないそれが、異界から落ちてきた少年の手のひらから放たれる。

 自らの元に真っ直ぐ向かってくる閃光に対して藍染惣右介は縛道を使用した。

 本来ならばそれはあり得ないこと。

 その縛道は八十九番以下の破道を完全に遮断する技、虚閃が防げるはずがない。

 

「断空」

 

 その言葉と共に独特な模様の光の壁が藍染の前に出現する。

 閃光は壁に阻まれ、勢いを失い消え去ってしまった。

 その様子を見ていた少年は驚きつつも笑みを浮かべた。

 少年の名は黒崎一護。

 滅却師であり、死神代行であり、完現術者であり、虚である者。

 

「防いだ⁉︎詠唱破棄の断空で⁉︎」

 

 黒崎は驚く、全力ではないといえまさか止められるとは思っていなかった。

 何故起きたばかりの黒崎一護が藍染を目にした瞬間王虚の閃光を放ったか、その答えは単純明快。

 現状把握、ただそれだけだ。

 

 藍染惣右介を目にした黒崎は混乱した、かつて殺した筈の存在がなぜ目の前にいるのか皆目検討がつかなかった。

 理解不能な状況、先程まで霊王宮から落ちていたはずなのに、何故今僕はここにいる。

 いったい僕はどうなってしまったんだ、黒崎は混乱していた。

 ならばこれは滅却師による幻覚なのではないか?彼はそう疑った。

 幻覚を見せうる聖文字持ちが存在するかどうかまで思考が及ばなかった、ユーハバッハからの敗北による焦りが思考を鈍らせた。

 何故自分の肉体が治っているのか、何故織姫の幻覚を見せる必要があるのか、そこまで考えられなかったのも焦りのせいだろう。

 そして放たれた虚閃、王虚の閃光。

 十刃にしか許されない筈の一撃。

 相手を倒して幻覚が解ければよし、そうでなくてもこの不可解な現象が解明できればよし、その程度の目算だった。

 

「断空で虚閃は防げない、でも鬼道なら防げる。簡単な話だけどそれを一瞬で見抜くなんて」

 

 本来虚閃は断空を通り抜けてしまう、しかし現実は見ての通りものの見事に防がれてしまっていた。

 それは何故か、黒崎は威力の底上げのために普段から虚閃に鬼道を混ぜ込んでいるからだ。

 虚の要素と死神の要素、更には黒崎一護(原作主人公)の肉体と才能を持つからこそ可能な離れ技、彼の発明した技。

 放たれた王虚閃光が届くまでに藍染はそれを理解したのだ。

 一瞬のうちに解析したのだ。

 

「そんな解析そこらの滅却師には出来ない、出来てたまるか。なら・・・・・・あんたは本物の藍染惣右介なのか?」

 

「『そうだ』と言えば果たして君は信じるのか?」

 

「いや、もう僕は信じてるよあんたが藍染惣右介だって。その霊圧に気配に鬼道、幻覚なんかに出力できるレベルを超えてる」

 

 滅却師の聖文字の規格外さを知ってなお、黒崎一護は確信する。

 前方の男を形成するか全ての要素が、彼を藍染惣右介だと言外に言っているのだから。

 

「成る程、確かに君は私の知る黒崎一護ではないようだ」

 

「何言ってんの?長らく地獄にいたせいで僕のこと忘れちゃった?」

 

 黒崎一護は推測する、地獄へ堕とされた藍染惣右介がなんらかの方法を使ってソウル・ソサエティに舞い戻ってきたのではないかと。

 そうでなければここにいる説明がつかない。

 そして『方法はわからないが藍染惣右介ならできるだろう』という嫌な信頼もあった。

 では今の言葉はどういう意味なのか。

 

「待てよ、あんたが本物の藍染なら織姫も幻覚じゃなくて本物?ねぇ織姫、イマイチ理解できてないんだけど今の状況って・・・・・・」

 

 そう言いながら織姫の方を見た彼は気づいてしまった、先程まで見た時には意識が朦朧としていて気づかなかった事実に。

 見覚えのない織姫の髪色、目覚めてすぐには気づかなかった色の差異。

 瞬間、理解する。

 彼の言葉に織姫が答えない理由に、織姫が怯えの目で此方を見ている理由に。

 別人だ、全くの別人だ。

 あれは僕が知る井上織姫では無いのだと、彼は理解してしまった。

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・☆

 

 

 

 

 

「待てよ、あんたが本物の藍染なら織姫も幻覚じゃなくて本物?ねぇ織姫、イマイチ理解できてないんだけど今の状況って・・・・・・」

 

 井上織姫は困惑していた。

 起き上がった黒崎くん似の少年が突然藍染に向けて光線を放ったと思ったら話しかけてきたからだ。

 しかもその様子はまるで親しい友似話しかけるような口調、けど織姫は少年のことを微塵も知らない。

 ただでさえここは敵地でかなりの緊張状態にあるのに、いきなり光線を撃って、いきなり藍染に懐かしそうな言葉を投げかけて、いきなり落ち着いて、いきなり問いかけてきた相手にどんな感情を抱くか。

 恐怖だ、理解できぬものへの恐怖心だ。

 そのため織姫は少年の問いに答えることが出来なかった。

 だがもう答える必要がない、彼は自己解決した。

 

 

 

 

 その光景を藍染は黙って見ていた。

 この状況は本来ならおかしい。

 王である藍染惣右介の居る場所で、知らない霊圧の持ち主が王虚閃光を放ったというのに誰も来ない。

 ウルキオラもグリムジョーもギンも東仙もザエルアポロも、誰一人来ない。

 

 その理由はただ一つ、事前に藍染は天挺空羅で全破面に通達していたのだ。

 『許可を出すまで何があっても近づくな』と。

 それほどまでに藍染は黒髪の少年に興味を抱いていた。

 折れた刀を持ち、黒崎一護と同じ霊圧と顔で、うわ言で滅却師の王(ユーハバッハ)の名を口にする少年が。

 そんな中、少年は口を開く。

 

「染めた黒髪はいじめからの逃避の証。そして戦いと敗北、絆の証。織姫が染めた髪を元に戻す筈がないんだ。そんなこと天地がひっくり返ってもあり得ないんだ。その服装も髪型も髪色も、知る筈ないんだこの世の誰も」

 

 誰かに向けた言葉ではない。

 ただの独り言。 

 かつて紙面の上で見た白い服と髪型、それを知っているのはBLEACHを知っている者だけ。

 幻覚だとしても見せる側が知る筈ない。

 そして何よりこの広間の外から感じる霊圧は間違いなくウルキオラのもの、もういなくなってしまった彼の物。

 その全ては彼の脳内で一つの可能性となって浮かび上がる。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という可能性を。

 そして彼は言葉を紡ぐ。

 藍染は好奇の目で、織姫は一歩後ろに下がって、それぞれ彼を見ていた。

 

 

「・・・・・・・・・何かの漫画で読んだことがある、バトルものだったかな。数多くの仲間を失った主人公は、何もかもが成功した世界にたどり着く。そんな話。あぁダメだ、否定しなきゃそんなの」

 

 彼はもはや織姫も藍染も見てはいなかった。

 ただ、虚空を見つめていた。

 あるいはかつての思い出を幻視していたのかもしれない。

 

「ねぇ藍染惣右介、一つ聞いていい?第0十刃は誰?」

 

「・・・・・・現時点ではヤミー・リカルゴが担当しているね」

 

 その質問にピクりと眉を動かすも、一切平静を崩すことなく藍染は返答する。

 少年の正体について薄々勘づきながらも、未だ椅子に座ったまま彼は動こうとしない。

 まだ観ていたのだ、異界から舞い降りた少年がこの場所で何を成すのかを。

 そして黒崎も藍染に対する警戒を解いてはいない、いつでも対応できるように準備はしてある。

 

「井上さん、黒崎一護くんって尊敬する人とかいるのかな?」

 

 邪気も殺意も悪意もない、ただ空虚な笑みを浮かべて黒崎は問う。

 まるで道端で出会って道を聞くかのように、ごく自然に問いかけた。

 だからだろうか、怯えがなくなりかけているのは。

 元々理解できないからこそ生まれた恐怖は、相手が会話が通じそうな人間となったことで薄れた。

 まだ名前を知っていることへの猜疑心はあるが。

 だからこそ織姫は対話を試みる、少年の問いに応えようとする。

 

「えっと、確か高校初めの自己紹介の時にシェイクスピアを尊敬してるとか言ってたよ。でもなんでそんなこと・・・・・・」

 

「参ったな、何一つ否定できる要素がない」

 

 周囲の霊子濃度からここは確かに虚圏であることがわかる。

 死んでしまった破面の霊圧を感じる。

 黒崎一護の尊敬する人物はシェイクスピア。

 第0十刃がヤミー・リカルゴ。

 もう、否定しようがない。

 ここはBLEACHの世界だ、黒崎一護(真の英雄)が存在する世界だ。

 

「ユーハバッハに負けて、ここまで堕ちてきて、元の場所に戻れる見込みもなくて、僕にどうしろってんだよ・・・・・・待てよ」

 

 絶望の最中、彼の脳裏に一つの希望が浮かんだ。

 この世界は恐らくユーハバッハの侵攻前の世界、藍染惣右介が敗北する前の世界。

 元の世界とこの世界の時間の進みが同一とは限らないが、もしもそうだった場合()()()()()()()()()()()()()()()()と彼は考えた。

 

 

 つまり元の世界の過去に飛べば、ユーハバッハの侵攻前に飛べば、あの悲劇をなかったことにできるのではないかと考えたのだ。

 

 

 

 根拠の薄い、確証など何もない仮定。

 だが彼にはもうそれに縋るしか道はない、そうしなければ壊れてしまう。

 故に彼は行動する、みんなを助けるために。

 友達を助けるために。

 死んでしまった有沢たつきを助けるために。

 

「─────井上さん!捕まって!」

 

 この世界の黒崎一護に助力を乞うために手土産を持って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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