黒崎凪は不純物である 作:三世
「……今何時間経ったんだっけ」
「凡そ36時間っスね」
「おお、丁度半分じゃん」
「外はそろそろ朝っスかねぇ」
穴の上から、浦原さんとあの羊の仮面の話し声が聞こえる。
「ほらそこ、涎垂らさない」
遊子と同じくらいの子供たちが穴の縁から垂らして来た唾に四苦八苦していた頃に、その2人を諌める声が聞こえる。
「ヨダレじゃねぇ! ツバだ!」
「どっちも同じだよ、ほら散った散った」
穴の縁から羊の仮面が見える
「……ありがとよ、アンタが誰かは知らねえけど」
「……お腹減らない?」
「話聞けよ!?」
無視、まあ聞かれたくないと言う事だろう。
「……腹なんか減るわけねぇだろ、今の俺魂魄だぞ」
「…………そりゃ、よかった」
「おい待てなんだ今の間!!?」
「…………」
「無視すんな!!」
先程と同じく無視……間が怖い、何があるってんだ
「そんな聞きたいの?」
口を噤む、変な威圧感がする。
「……もし魂魄の状態でお腹が減ったら危険信号、虚になる1歩手前ってこと」
「……!!」
「まあ精々頑張れよ、少年」
羊の仮面から茶色の目が見える……気のせいか、その目は微笑んでいる様にも見えた。
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「オアアアァアァアアあァアアアア」
叫び声と共に、おにぃの顔に白い仮面が構築されて行く
「おいおいおォ! やっぱあいつ虚になっちまったぞ!」
順序がめちゃくちゃだ、普通は霊体が爆散してから組み変わるもののはず、つまり
「……『救済措置』に入ります」
「待った」
これは、抵抗の証だ
「お姉ちゃん……?」
「よくごらん」
まだ、諦めるはずがないのだから
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「……どこだ、ここ」
目の前には、空が見える。
自身が何処に座っているのかも分からない。
『こっちだ』
突如人の声が聞こえる
「だれだ、あんた」
黒いコートにサングラス、見たこともない人間が其処にいた。
『“誰だ”? 何を言っている、私だ、██████だ』
……? 聞こえない
『……そうか、まだ私の声は届かないのか……』
細い棒の上に立っている彼は、背後の空も相まって浮いているようにも見える。
『悲しい事だ、一体幾度声を鳴らせば私の声はお前に届く?』
……何を言っているんだ?
『お前以上に私を知るものなど、もうこの世の何処にも居はしないのに!』
「? ……何言ってんだ? 悪りーけどあんたみてーな陰気な知り合いはいねえん……」
そこで気付く、アイツは
「───! アンタどうやって……!?」
靴の底が見える、縦に立っていた棒に、アイツは
『驚いたな、何故そんな処に座っていられる?』
不意に、後ろから引っ張られる様な感覚がする。
「……ッな……!」
地面の方向が、変わった
「……お……うおああああああ!! 」
『絶叫とは余裕だな! 頼もしいぞ!』
さっきの黒コートが落ちてきて、横に並ぶ
『安心しろ! 死神は死を司るもの! 多くの霊なるものを支配する!』
本来ならばそうだろう、だが、今は違う
「俺は今死神じゃねえっ!!」
『そう! 大気中に無数に飛び交うこの霊子でさえ、足下に固めれば踏み台とすることが出来るのだ!!』
「聞いてんのかテメェ!!」
デジャヴだ、先程もこんな事があった気がする。
『思い出せ! 死神であった時お前は無意識のうちに空中に足を止めていたことを!』
ふと、脳裏に過ぎるのは死神であった頃の記憶
『そして知れ! 朽木白哉に消された“死神の力”は、朽木ルキアから譲り受けた“死神の力”
「……なに……?」
だけ、だと? それではまるで
『当然だろう、奴は
それではまるで
『
俺自身に“死神の力”があるようでは無いか
「俺自身の“死神の力”……?」
『そうだ、朽木ルキアの“力”によって目覚め始めていたお前の“力”は、朽木白哉の攻撃の寸前に魂の奥底へと身を隠したのだ』
地面が段々と近づいてくる中、上から何かが降ってくるのが見える。
『さあ、探せ』
あれは、
『隠れ去った“死神の力”を探し出せる時があるとすれば、それはこの世界が崩壊を始めた今を於いて他に無い!!』
上空から匣はどんどんと降ってくる
『今降ってきている無数の匣、この中のたった1つにお前の“死神の力”が隠れている、それを見つけ出せ!』
「……ム……っ……ムチャクチャ言うな言うなよ! ……どうやって……」
どうやってあの中から1つを見つけ出せというのか
『言い訳は聞かない、時間は無い、この世界が完全に崩れ去る前に見つけなければ……』
上空からは、絶えず匣が落ちてくる。
『……お前は虚となるのだ』
男の顔は、嫌に哀しそうに見えた。