黒崎凪は不純物である 作:三世
「……我儘を言うわけでは御座いませんが、何故彼女を?」
「……このままじゃ勝てないからだね」
少し大きめのテーブルを挟み、私と捩月は鏡合わせのように座っていた。
「私だけでは、役不足ですか」
「捩月とは少し相性が悪いから」
捩月は目を伏せ、口を一の字に噤んでしまう。
「……率直に、申し上げます」
「……どうぞ」
テーブルにバンと手をつき、椅子を倒しながら立ち上がると、此方をキッと睨む。
……少し転び掛けたのは見逃してあげよう
「私はいやです!! あのような……不埒な者と凪が一緒に戦うなど……考えただけでも……!」
「……」
一気に私に捲し立てた後に、後ろの椅子が倒れているのに気づかなかったのか、また転び掛けていたが、結局倒れなかったのは流石と言ったところか。
「……私はあの子の性格は嫌いじゃないけど」
「……っ私よりもあんな者の方がいいと言うのですか!?」
「そゆこと言ってんじゃないんだよなあ……」
というか
「こうボロクソに言うけどさ、結局あの子も捩月の一部なんじゃ……」
「主よ、言っていいことと悪いことがあるのは分かりますね?」
「……そんな嫌い? あの子のこと」
「……嫌いと言うか、少し苦手です」
こうやってはっきりと嫌い切らない辺り、やっぱりこの子は優しい子だ。
「大丈夫だよ、逃げる為に使うだけだから」
「……そう、ですか」
なんというか、昔から過保護だな、この子は
「……ならば、彼女に伝言をお願いします」
「出来る範囲なら」
「凪に傷をつけたら殺す」
……過保護が過ぎないか?
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「どうしたのさ、また此処に凪を呼ぶなんて」
「…………」
テーブルの右側の扉から、黒髪の少女が現れる。
「本当の事教える気なんて無い癖に」
「……」
「ねー、だんまりは酷くなーい?」
唇を尖らせ、巫山戯た口調で捩月へと話しかけるが、それに対して捩月の表情は固まっている。
「……一つ、いいか?」
「なーに?」
「“黒”は、何処に行った」
「…………勘がいいなあ、青ちゃんは」
否定は無し、ならば答えは一つだろう
「貴様……っ!!!」
「女の子がそんな顔しちゃダメ、可愛い顔が台無しだよ?」
「その巫山戯た口調を止めろ!!!」
斬魄刀を引き抜き斬り掛かる……が
「……残念、少しだけ気に入ってたのに」
「……ッ!!!」
首元に当たった筈の刃は、肌に入り込む事は無く……虚しくも黒髪の手に捕えられる。
「正直、あなたも少し、じゃま……眠ってて」
「……っ……黒を……どうした……!!」
「……思ってたよりも丈夫、だね」
捩月の首元に凄まじい音と共に手刀が当たり、苦悶の表情となるが、意識は保ったままだ。
「黒は、こうなる運命だった。けど少し不思議、あなたは
「……っ!!!」
口を開き叫ぼうとするが、声は空を響かなかった。
「丈夫だね……やっぱり、あなたはじゃま」
再度首を……今度は先程よりも強く鋭い速度で手刀を当て、確実に意識を持っていかれる。
「心配、しなくて大丈夫、
そう零す彼女の髪は、既に白色に染まっていた。
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「……なんだ、その形は」
「知りませんか? 盾って言うんですよ」
涙玥を左手で構えながら右手の掌を東仙に向ける。
チャンスは一度だけ、失敗は死だ。
「……何にせよ、気絶をしないのならば斬るだけだ」
だよな、そりゃそうなるだろう
「盾持ちに近接戦を挑むなんて、尸魂界の名が泣きますよ?」
「ほざけ」
横薙ぎの剣撃が私を襲うが、涙玥に防がれ斬魄刀が止まる。
「鳴け、鈴虫」
涙玥を伝って細かい振動が腕に伝わり、涙玥の装甲が少しずつ削れていく。
そう、削れてしまったのだ
「……っ!?」
涙玥が
「矛盾って言葉、知ってます?」
「……現世で使われる故事か」
「そうです、絶対に突き通す矛と絶対に防ぐ盾の話」
博識だな、現世と言語は共通しててもこちらに無い言葉もあるし、ただで隊長になった訳では無いのだろう。
「……その盾は絶対に防げるとでも?」
「まさか、そんなインチキな能力じゃありませんよ」
そんな能力、存在が許されないだろう。
「……少なくとも、剣が効かないならば」
「鬼道しかない、ですよね?」
死神の戦闘方法は基本的に斬魄刀による剣撃の斬、白打による拳撃の拳、鬼道による攻撃による鬼、瞬歩などの歩法の走、など四つに分けられて、斬拳走鬼と呼ばれている。
東仙が白打が苦手と聞いた訳では無いが、少なくとも彼は鬼道の方が得意だろう。
「……」
「やってみてくださいよ、当たるかもしれませんよ?」
見え見えの挑発だ、彼以外なら乗るはずが無いだろう。
「……破道の五十四『廃炎』」
ほらね、乗ってくれた
「それを待ってました」
廃炎が涙玥に当たると同時に掻き消え、それのすぐ後に私の目の前で大爆発が起こる。
「勝負する気なんてハナからありませんよ」
既に曲光を自分に掛けてあるため、後は霊圧の遮断を……
……バキンッ
…………いま、身体から鳴っちゃいけない音が聞こえたような気がする。
まあいい、遊び場に戻って温泉に入れば回復するだろう、その時に霊圧の出力も最大にすれば一石二鳥だ。
「それじゃあさよなら東仙要さん、もう二度と会わない事を祈っときます」
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「……申し訳ありません、取り逃しました」
盲目の隊長、東仙要は何も無い空間に対し話しかける。いや、護廷十三隊からすれば彼自信すらも見えていないのだが。
「構わないよ、彼女の進行度も把握出来たしね」
これまた何も無い空間から声が聞こえ、其れが瀞霊廷に響くことは無かった。
「それに、実力が想定以上なのもいい事だ」
「はい……やはり、彼女は」
「ああ、やはり欲しいね」
何も無かった空間から茶髪の髪に眼鏡を掛けた、如何にも好青年といった所の死神が現れる。
「それでは、予定通りに」
「宜しく頼むよ、要」
「了解致しました」
そのやんわりとした雰囲気とは裏腹に、彼の口元は、実に蠱惑的な、恐ろしいとすら感じさせる程の笑みを浮かべていた。