黒崎凪は不純物である 作:三世
あれから数日、おにぃはルキアさんへの恩を返すため、そして私も同じ理由で死神の仕事を手伝うことになった。
……渋々、だが
まあ、おにぃの死神の力の覚醒の為の引金になってもらったこととか、実質私のせいで死神の力を失ったりとか、私のせいで怪我しちゃったりとか……迷惑しかかけてないな私
まあ流石にこれだけの事をしておいて恩返しも何も無いとなると、流石の私も人が廃る。
というわけで私は今、学校を早退し公園にいる訳なのだが
「もう終わってんじゃん」
「ムッ……凪か! 遅かったな!」
「そりゃそっちよりも学校遠いですからね」
おにぃの通う高校はここから数百メートル程だが、私の通っている中学はここから1キロほど離れている、先に来いと言う方が無理な話だ。
「別に無理に来いとは言っていないだろう、暇なら来いと言ったんだ、学業を優先した方がいいのでは無いか?」
「おにぃ心配で学校どころじゃないよ」
「……兄妹と言えど他人だぞ」
……随分と悲しい事を言う、貴方にも兄はいるだろうに
「それでも大事なものは大事だよ」
「……そうか」
納得したのか、それ以上追求してくることは無かった。
「なんだ、来てたのか」
おにぃの声が少し離れた所で聞こえる。虚は倒したようだ。
「おにぃが心配でね」
「妹に心配される程弱かねぇよ」
「この前ルキアさんに組み伏せられてた癖に」
そう言い私は開いた携帯を見せる。そこにはこの前撮った、おにぃが腕を組んで床に寝そべっている姿が、待ち受け画面に写っていた。
「おまっ! 消せ! それ今すぐ消せ!」
「無駄だよ、さっきたつきちゃんに送っちゃったし」
「終わった! 俺の高校生活!!」
別にたつきちゃんは広めたりしないと思うけど……あっ井上さんとかにだったら見せるかも
「まあ今から急いで帰れば誤解くらいは解けるんじゃない?」
写真が消されるかは知らないけど
「クソっ! お前帰ったら憶えてろよ!!」
「あはは、がんばれー」
ルキアさんを連れて、おにぃは走っていく。
私は早退したし、寄り道して帰ることにしようかな
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「バッター4番
昼下がり、小学生程の背丈をした男児が大きく箒を振りかぶり、目の前に浮かぶゴムボールを打ち飛ばそうとしていた。
「だらっしゃア!! 殺人ホームラン!!」
見事に空振り、ゴムボールは虚しく地面へと落ちる。
「ジンタくん……ちゃんとおそうじしないとテッサイさんに怒られるよ……?」
艶のある黒髪をツインテールにした少女は、箒を両手で持ちながら、遊んでいる男の子を咎める。
「うるせえぞウルル! テッサイが怖くて掃除なんかできるか!」
「じゃあ、私は怖くないのかな?」
スっと後ろにたち、女の子……
「凪お姉ちゃん!」
「げっ!」
雨は此方へと駆け寄り、ジンタは後ずさる……何故だ、何故掛け寄らないのだ
「喜助さんに用事? だったら呼んでくるけど……」
「ありがと雨、けど私が今日用事があるのは鉄裁さんなんだ」
「テッサイに? なんでだよ?」
不思議に思ったのか、ジンタが箒を両手に持ち直しながら聞いてくる。
「呼びましたかな」
「あっ、丁度いいところに」
眼鏡とエプロンを着けたおさげの男性……鉄裁さんが店から出てくる。
「これはこれは黒崎様、本日は何用で?」
「ちょっと話したいことがあって……勉強部屋使っていい?」
「……どうぞどうぞ、それでは奥へ参りましょうか」
言葉にしなくても感じ取ってくれたりとか、やはりこの人と話すのは楽でいい。
畳を横へずらし、 梯子を降りていく。
「……して、
念入りに鬼道で壁を作り、周りに音が漏れないようにする。
「……
「それは何時、気づかれました?」
「数日前、かな……霊圧を無理矢理抑えた様な、そんな感じがしました」
数日前、おにぃが死神として覚醒した日、強い霊圧を遮断した時の、独特な感覚がした。
「相も変わらず、鋭いですな」
「よく神経質って言われますよ」
喜助さんの事を警戒しているのか、姿自体は見せないがあれだけ強い霊圧を隠したら逆にバレバレだ……いや、もしかするとわざとバレるようにしている可能性もあるか。
「それでなぜ、私に報告しようと?」
「……ついでに鬼道を教えてもらおうと」
「……それだけですか」
「それだけです……」
まあ実際仕事をほっぽり出してここにいるわけだ、流石にそう上手く行かないか
「前に鍛錬した時は、何番台まで行きましたかな」
「えっ? ……確か破道は五十番台だったはずだけど……えっ?」
「でしたら五十四番の『
まさか了承してくれるとは思っていなかったので変な声が出てしまう。
というか仕事あるんじゃないの? 大丈夫なの?
「え、いや仕事あるんじゃないんですか? 今も結構無理して時間作ってもらってる訳ですし」
「いえいえ、先程浦原殿が“そろそろ来そう”と言って逃げていきましたから、来るのはわかっていましたし」
あの下駄帽子、会ったらぶん殴ろうと思ったのに
「それはまた……でもいいんですか? お客さん来ちゃうんじゃ……」
「……この店はですね、開店以来死神関連のお客様以外にお客様が来たのが数える程しかないのですよ」
……確かにこの店に客が入っているのを余り見たことが無いかもしれない……これまた辛い話だ。
「なんか……すいません……」
「いえいえ……本当に……では、始めますか?」
鉄裁さんはエプロンの姿のまま、構えを取る。
「それじゃあ、胸をお借りしますね」
その後喜助さんが戻る頃には腕も振れないほどに疲れきってしまい、結局は殴れずに終わったのだった。あんにゃろめ、これが狙いだったか