黒崎凪は不純物である 作:三世
「……わかっているのよお姉さま……全てはその
目の前の少女は漫画本を目の前に、迫真の表情で音読をしている。
「……それ、楽しいの?」
「その匣を渡して! マリアンヌお姉様! さあ!!」
「無視は酷くない? 泣く? 泣くか」
えーんえーんと声を上げ泣き真似をするが、それでもルキアさんは此方を見もせず、視線は漫画へと集中させている。
「だめよ! その匣をあけてはだめ! フランソワ!! ああっ……!」
「……何してんだお前ら」
特訓を終えたおにぃが戻ってきて言う。表情には困惑の色が見えた。
「……泣き真似してたらルキアさん反応してくれるかなって」
「……アホか?」
ええそうですとも、アホですよ私は……クソっ、これだけ話していても全く此方を見ない!!!
「普通に呼べばいいだろうが……オラァ!! こっち向きやがれルキア!!」
「きゃあっ!!」
何……だと…………?
「おおおどろかすなたわけ!! 現代語の勉強中だぞ!!」
現代語の勉強……? ……匣とかってあんま使わんくない? あ、使いますか? そうですか
「……む。特訓は終わったのか?」
「胡椒入りボール100本ノックだろ? 終わったぞ!」
「たわけ! 胡椒入りはハズレボールだけだろう」
「ハズレボール?」
ん?
「……あれ? おにぃそれ全部打ったの?」
「おう!」
ちょっと待て
「頭の描かれたボールだけ狙えって、私言わなかったっけ」
「ん? あ、そういや言ってたような……」
「」
言葉を失う、それじゃあただの打球トレーニングでは無いか、なんの意味もない
「たわけ! あれほど頭の描かれたボールを狙えと言っただろう! 何のための特訓だ!!」
「だからなんの特訓か分からねえって! そもそもお前の絵で頭とそれ以外を見分けられるワケねーだろ!!」
おにぃは頭と右手のボールを持ちながらそう言う……あれ、それ私が描いたのじゃ
「……む? それは私が描いたボールでは無いぞ?」
「あ? だったら誰が……?」
……私、絵下手なんだった
「……あ〜、凪? そう落ち込むな? 俺は今ルキアに対して言ったわけでな?」
「ううん、大丈夫だよおにぃ……私が絵が下手クソだってよくわかったから……」
事故とはいえここまでどストレートに言われると流石に凹む、そういえばそうだった……私絵、ド下手なんだったわ……
「……? だけどちょっと待「こんにちは黒崎くんっ!!」うわあ!! 」
ビクッと、私とルキアさんも肩を跳ねさせる。この栗毛の女の子は……
「いっ……井上か! ななななにしてんだこんなとこで!?」
「えへへ、ちょっと晩御飯用の買い物でした」
井上織姫さん、おにぃの同級生で、私も何度か顔をあわせたことのある人だ。
「今日はね、ネギとバターとバナナとようかんを買ったの!」
な……何を作る気だろう……
「……おい」
「? なあに?」
「奴は何者だ?」
服の端をちょいちょいと引き、聞いてくる。あれ、けど同じクラスじゃなかったっけ
「おにぃと同じクラスの、井上織姫さん。クラス一緒じゃないの?」
「クラスに?」
と、おにぃと話をしていたであろう井上さんの顔がこちらへ向く。
「あれっ! 朽木さんと凪ちゃん!?」
「……あら井上さんご機嫌麗しゅう!」
……??? 誰だ? この人は??
「え……あ……はい、ご機嫌麗しゅう!」
つられちゃったじゃん! あの快活な井上さんがつられて変な言葉遣い始めちゃったじゃん!!
「凪ちゃんも! ご機嫌麗しゅう!!」
「え、あ、はい……ご機嫌麗しゅう……?」
何故か兄の視線を強く感じる気がする……が、気の所為だろう。多分、きっと、きのせいだ
「……? その腕……どうしたんですか?」
「ん? あ、これ? はねられちゃって!」
……? はねられた??
「……まさか、車に?」
「うん、昨夜ちょっと買い物出かけられた時にゴチーンって……最近よくはねられるんだよね……」
可愛い擬音でごまかさないでくれ、それは普通に事故だぞ
「……おにぃをボディガードにつけますね」
「大丈夫大丈夫!」
大丈夫ではないだろう……しかもいま
「……気をつけてくださいね?」
「大丈夫大丈夫! 次からは
井上さんの兄、井上昊。……
「あー、そういや昊さん元気か? 偶に会った時挨拶すんだけど前より痩せててよ、見てて不安になるんだよな」
「元気だよ! そりゃもう元気すぎるくらいに!」
「……お、おう、とりあえず腕を静かにしてくれねえか?」
ブンブンと腕を振り回しながら答える井上さんに、おにぃは少し引き気味になりながらも答える。
そういえばそうだった、
「あっ! もうこんな時間! 私先に帰らなきゃ! さよなら黒崎くん!」
「おー! 車に轢かれないようになー!」
笑点が始まっちゃう! と言いながら走り去っていく。言っては悪いが、随分とジジくさ……ン゙ン゙ッ!! 御年寄のお好きそうなものを見てらっしゃりますわね。まあ私も笑点好きなんだけど
「ああそうだ、それでさっきの続きなんだけどよ」
「さっき? ……何話してたんだっけ?」
なんだったか、完全に忘れてしまった。
「お前の絵に関する話だよ、お前確か昔は絵上手くなかったか? それも県とかのデカい賞を取れるくらいによ」
「……フォローありがとうねおにぃ、けど今の私は生粋のド下手だから、その気遣いは私に効くかな」
やめろおにぃ、その気遣いは私に効く
「いや俺はそんなつもりで言ったんじゃなくて……」
「……ちょっと今日はあんまし気分良くないから帰るよ、晩御飯はカレーにしとくね……」
「あ、おい!」
うーん辛い、いやまあ自覚はしてたけどさ、やはり直接言われるのは凹むなあ……あーつら、きすけさんなぐろ
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「……行っちまった」
自身の失言により、とぼとぼと家へ帰っていく妹の背を見つめながらそう呟く。
「……一護、凪は本当に絵が上手かったのか?」
「ん? ああそうだな……たしか小一の時に宿題かなんかで推薦貰ってお袋と一緒に都心まで行ってたっけな」
そうだ、確かに小さい頃には絵が上手かった、それも
「むう……絵の師になって貰おうかと思ったが、これでは厳しそうだな」
「……ヘタなの自覚してたんだな」
「……嫌々な」
嫌々、認めたくは無いが認めざるを得ないとでも言ったところか……知っちゃいたが、やっぱりコイツプライド高ぇな
「……? それならば何時から絵が下手になったのだ? 小さい頃にそれだけ上手いのなら何かしらあったのではないか?」
「何時っつったって……あいつの絵なんか久しぶりに見たし……」
待てよ? そういえばここ数年、全くと言っていいほど凪が絵を描く姿を見ていない気がする。
「最後に見たのは……小学生の頃だったか? ……たしか……」
そういえば昔はよく絵を描いていた様な気がする。確かリビングでお袋と話しながら……お袋?
「……ああ、そう言うことか」
「ムッ? 何か分かったのか?」
「いんや、昨日見た落語のオチが今わかったところだ」
「何っ!? オチが分からなかっただと!? クッ……! これだから現世の人間は!」
咄嗟に思いついた嘘でその場を誤魔化す。
そうだ、あいつが絵を描かなくなったのは
お袋が死んだ日からだ