最後のイタズラ   作:曽良紫堂

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最後のイタズラ

 ある日、昔からの友人からSNSでメッセージがきた。 何かと思って見てみると謎の文字列が書かれていただけだった。

 訳がわからず連絡を試みるも、それ以降返信は無し。しかたないので、本人のところに訪ねて見ると奴は既に亡くなっていた。

 聞いたところ、奴は治療の難しい珍しい難病だったらしい。見つけたときには死後一日が経っていた。

 

 葬儀等の諸々が終わって落ち着くと、どうにも謎の文字列のことが気になってくる。昔からの友人とはいえ普段奴が何をしていたのかなんて知らないし、奴には親族も俺以外の親しい友人も無かったようだ。

 まあ、たびたびしょうもない謎かけを送りつけては、人に迷惑をかけて喜ぶような奇行が目立つ変人だったから仕方がないとはいえ、寂しい奴だ。

 仕方がないので俺が奴の最後の問いかけを解いてやるとしよう。

 

 草葉の陰で感謝しろや。

 

 さて、どこから始めるか考えよう。先ずは奴のパソコンを見てみるか。幸い遺品は引き取り手が誰もいなかったので俺が引き取った。

 俺は早速パソコンの電源を入れたのだが、電源を入れた瞬間に何かのソフトが立ち上がりキモいピエロがこっちをバカにするように指を差して爆笑する動画が流れた後、気付けば全てのデータが削除されていた。

 

 は? あぁ? はあぁぁぁぁ? あの野郎やってくれるじゃねえか! えぇ? おちょくってんのか? あぁ?

 

 怒りの余り汚い言葉で叫んでしまったが、冷静になって考えればアイツはこういう事をする奴だった。多分、生きていれば今の俺を見て爆笑しているだろう。

 

 そうして手掛かりが一つ消えた。

 

 それから数日後、俺は会社の昼休みに近くの公園で奴の遺品のスマホ片手にベンチで唸っていた。

 ここ数日、この電源の切れているスマホの電源を入れるか否かをずっと悩んでいた。奴の事だ、このスマホにも何か仕込んでいるに違いない。これでまたデータが飛んでしまえばまた一つ手掛かりを失う羽目になる。

 データ復旧サービスをやっているところに持ち込めばデータのサルベージができるかも知れないが、金がかかるし、何より奴に負けた気がする。

 俺は案外負けず嫌いだったのだなとそのとき気付いた。

 あるいはそうやっておちょくった挙げ句、俺の財布を軽くすることが奴の目的なのかもしれない。

 

 ……いや、無いか。

 

 奴は愉快犯ではあるがそういう悪辣なことをする奴ではなかった。確かに性根はひん曲がっていたが、そういった無駄なイタズラはしない。

 やるなら必ず何かの意味がある。今までずっとそうだったように。

 そうして思考は堂々巡りをして最初の悩みへと戻ってくる。

 

 簡単に言えば現実逃避なのだ。

 

 この手掛かりを失えば俺はまた一つ手札を失い敗北へと近づく。そうして全ての手札を失えば、俺は永遠に奴の最後の思いを知ることができなくなる。

 

 それが俺は怖いのだ。

 

 しかし、何時までも悩んでいてはらちがあかないのも事実。そろそろ決断しなければならない。俺は近くの自販機でちょっとお高いエナジードリンクを買って飲み気合いを入れた。

 スマホの電源を入れようとボタンを押すも、ソイツはうんともすんともいわない。良く良く考えれば全く充電をしていなかったことを思い出した。そんなことを忘れる程度には俺は思い悩んでいたらしい。これでは奴に笑われても仕方がないな。

 そう思い一人笑っていると近くを通った親子がそそくさと逃げて行くのが見えた。周りを見れば公園にそこそこいる人々が一様に俺を不審そうに見ていた。

 

 なんて事だ! これじゃまるで俺が奴のように奇行をしているようではないか! あの野郎、嵌めやがって!

 

 などと内心で奴への理不尽な恨み言を言いながらその場を離れた。通報されては敵わないからな。

 

 

 

 仕事を終えて、電車に揺られながら数駅離れた自宅へと帰る。道すがらコンビニで酒を買うのも忘れない。俺は普段呑むことはないが、今日は酒の力を借りるために買った。帰宅し部屋着に着替えると、1LDKの部屋の真ん中に鎮座するローテーブルの前へと腰を下ろす。

 片手に仕事中に自分のデスクで充電しておいた奴のスマホを持ち、片手にはコンビニで買った安い缶酎ハイ。おもむろに缶を口に近づけ一気に呷る。緊張と一緒に酒を半分ほど流し込むと一気に酔いが回ってきた。

 

 いい感じだ。思考がふわふわしている。これならば恐れることは何もない!

 

 冷静に考えればそんなわけないのだが、酔っぱらいには論理的な思考は存在せずただただ無敵になったような全能感が俺を支配していた。そうして俺はその勢いに任せ、えいやっとスマホの電源を入れた。

 しばらくの沈黙の後、画面が明るくなる。さあくるのか? くるのか? と身構えていると普通に待ち受け画面になった。

 俺は大きくはぁとため息をついて、ここ数日の葛藤は何だったんだと遠い目をした。悩みに悩んで、酒の力まで借りた俺の気持ちを返してほしい。そう切実に奴へと願った。

 

 しばらく安堵感を噛み締め、ようやく鳴き始めた腹の虫を静めるために夕食を冷蔵庫からだす。今日は気分が良いのでちょっとお高い缶詰も開けてやろう。

 

ははは、奴め! 俺を散々悶々とさせた罰としてあの世で羨むがいい。

 

 それらを食し大変に満足した俺は、そのままのテンションで奴の秘密を暴いてやろうと電源をつけたスマホをいじり始める。どうやら奴はスマホにパスワードの類いを設定していなかったようで、俺は奴にしては大変不用心だなと思った。

 そうして中のデータを漁っていったのだが、これといって何もない。しかし残っていた写真のデータを見ていくと、見事に奴の自室内で撮った写真しか存在しない。

 

 こいつ、まさか引き込もってやがったのか?

 

 そう思うほどに外で撮った写真がないのだ。当然、奴以外の人間が写った写真も存在しない。写真のジャンル的には料理の写真やら楽しそうな表情の自撮りやら観葉植物やらとバラエティー豊かではあるのだ。だがそこには奴以外誰もいない。

 俺は見ていて寂しい気持ちになった。同時に後悔も押し寄せてくる。もっと連絡をとってやれば良かったのではないだろうか? あるいは訪ねてやれば……。

 そうして俺は写真のデータを見るのを止めて、残っていた酎ハイを一気に飲み干した。胸に残った後悔を押し流すように勢いよく。

 

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