コミュ障がぼっちちゃんを好きになる話(再投稿) 作:陰キャを継ぐもの
僕は同じ中学の後藤ひとりに恋をしていた。
後藤ひとりは変わった女の子だ。普段は大人しくて、言ってしまえば影の薄い目立たない子なのに、突然変わった行動をとっては周囲から引かれている。
探してもそう簡単に見つからないくらいには整った顔立ちをしているが、伸ばされた前髪と猫背である事からたまにそのことを思い出す程度。
あらかじめ言っておくと、僕が後藤ひとりの事を好きになったのは顔が良かったからではない。いや、全く影響がなかったかと言うと嘘になってしまうけれど。
☆
ある日、後藤が机の上にいくつかのCDを並べていた。
ちらりと見た範囲で、分かるものは二つしかなかったけれど、おそらくはロックという共通点はあれども様々なジャンルの音楽のCDだ。
斜めの角度から見ても判別がつくような、特徴的なジャケットを作ってくれたバンドに感謝しつつ、僕はさっそく話しかけてみることにした。
突然話しかけるなんて怪しまれるかもしれないとも思ったが、これでも僕は後藤ほどでなくともコミュ障の陰キャ。僕もあんな風に机の上に流行している歌手のCDを並べたことがある。あれをやっているときの目的はただ一つ。「あ、○○さんもその曲好きなのー?」「うん。すきー」という会話を想定しているのである。
言ってしまえば、話しかけられ待ち。
後藤とどうにか話したいと思っていた僕にとっては願ってもない好機。
一応会話を頭の中でシミュレーションしておく。好みが合えばそれについて深く話す。音楽の好みが合わなかった場合は、相手が好きだといった内容を反復しつつ褒める。
相手が話し始めたら聞きに徹して、後藤の趣味嗜好を把握する。
もしも会話の中で些細な約束事を交わせそうなら必ずする。例えばCDを貸すとか、何かの曲を聞いて感想を言うとか。これをするだけで好感度を多少稼げるうえに、次の会話の予約が出来たようなものだ。
行けるか? 行けるはず。
よし……行くぞ!
あっ、やばいやっぱ緊張してる。
息って耳で吸うんだっけ? 鼻で聞くんだっけ?
心臓がバクバクと激しく鳴って、緊張で脳に血が集中している。頭が熱くてふわふわする。でもここで話しかけなかったらもう駄目だ。勇気を出して改めて、一気に後藤の席に近づいて。
「ご、ごごごーごととう……あっあの! そのCD……あ、ふへっ」
「あっごめなんさい! 片付けます!」
「あっすみません……」
僕が声をかけると、後藤は突然謝って、大慌てでCDをバッグの中へしまってしまった。おかげで僕もCDについての話題を出せなくなって、反射的に謝りながら逃げる。
あれれー? おかしいぞ?
☆
それからしばらくの間何もなかった。
後藤は相変わらずで、僕と同じようにぼっちで、誰かと話すこともなければあの時のように話しかけられ待ちの行動もとらない。
いや、改めて今思えば、あの時の後藤はただ単にCDを机に並べて眺めていただけだっりして。僕も新しくたくさんCDや本を買った時は、意味もなく並べて眺めたりする。僕がやったことがあるからといって、後藤も同じような話しかけられ待ちをするとは限らないわけだし。
そう思えば、僕はあの時とんでもない事をしてしまったのではないだろうか。
自分の好きな音楽CDのジャケットを眺めるという至福の時間。それを突然クラスメイトであれどもほとんど話したこともない挙動不審の男が声をかけて邪魔したとしたら。
や、やばい。恨まれてるかもしれない。
どうにか許してもらわなければ。お、お金で解決できるか? 結構金あるんだけれど。
もし後藤に嫌われていたらいやだ……!
「こうなったらもう指を詰めるしか……」
「ひっ!?」
給食を食べる手を止めて考え込んでいたら、思わず独り言が零れた。
合わせた机の隣の席の女子生徒が、短い悲鳴を上げたような気がしてちらりと視線を向けると、明後日の方向を向いて給食を食べていた。どうやら気のせいだったらしい。しかし別な方向を向いたまま給食を食べるなんて、変な人だなぁ。
給食はなるべくゆっくりと食べる必要がある。給食の時間が終わるころに食べ終わらなければ、残りの時間を虚しく過ごさなければならないからだ。
小学校六年間と、中学一年間。約七年間もそれをやり続けている僕は、最早給食を時間ちょうどに食べきるエキスパートといっても過言ではない。
残念ながらこの技能は中学を卒業すれば生涯役に立つことはないのだけれど。
そんな風に給食を食べながらも、クラスメイトの会話に耳を傾ける。
ちょうど放送で流れていた音楽についての話題で盛り上がっていた。様子を探ってみると、普段以上に盛り上がっているのがわかる。今物凄く人気の曲だからだろうか。普段はそんなに会話をしていない人たちも話に参加して、会話が弾んでいる。
楽し気なその様子を羨ましく思いながらも、半ば無意識に後藤の方へ視線を向けた。好きな人の方をついつい見てしまうのは、どうして抑えようと思っても抑えられないのだろうか。最も、僕は誰かからそのことについてからかわれる心配などないのだけれど。
「あ……」
思わず声が漏れた。慌ててあたりを見渡すが、誰も僕の方に注意を向けている様子はない。
そして、誰も後藤を見ていない。
いつもは俯いていて、ただでさえ伸ばされた前髪で顔が隠れている後藤が、少しだけ顔を上げていた。
僕が後藤を好きになったのは、以前にたまたまこの表情を見かけたから。
碧色の美しい瞳が良く見えた。瞳の奥に、何を考えているかまでは分からないけれど、何か強い意志を宿している。
可愛らしいピンクの髪と、愛らしい顔とがしっかりと見えて、心臓が弾んだ。
僕が好きになったのは、この後藤だ。純粋でまっすぐで、おどおどしているように見えて、しかし何か強い意志を持つ。
行動しようと決心した、突き進むことを決めた後藤の表情は、本当に魅力的だ。
後日、給食の時間に到底食事中聞くにはそぐわない音楽が流れた。
よく放送委員はこれを採用したものだ。全員がスピーカーから流れる音楽と、リクエストをした後藤に引いている。
でも後藤が楽しそうだったからいいや。
評価関係なし(以前評価が低くて消したので)に、代わりに物凄く遅筆で進めます。