なんだかんだで8話目!本当、長期シリーズになってしまったなぁ……。
来年の4月には完結するだろうか……。
本編が完結したら色々と端折ってる部分を深掘りしてみるか……?
うーむ。今回は、そんな端折った部分をちょっと深掘りする話です。
最後までお付き合いください……!
「…………そっか」
見つけた映像、証拠になりそうなものを全て見せて彼女に聞かせた僕の推理。それを正面から聞き届けた雪村さんは短くそう呟いた。事実を受け入れるような、悟るような、そんな声。
こんな時、圭一ならなんて声を掛けるだろうか。今日、この場に彼はいない。もちろん同席しようとしたのだが、雪村さんたっての希望で彼女1人に聞かせている。
彼女の言葉に彼は特に追求することなく、拍子抜けするほどにあっさりと引き下がった。普段なら強引にでも一緒にいようとすると思ったのに。圭一は今、雪村さんの家で待っている。
「うん、ありがと。先生」
言葉数少なにそういう彼女の感情が読めない。もともと子役をやっていた経験もあってか、雪村さんの感情を隠す演技は僕ですら舌を巻く。まず間違いなく、この分野においては圭一以上だ。これに勝るほどの演技力を圭一に僕の指導で授けることができるだろうかと首を傾げる程に。
「今日、圭一に家で待ってて貰ってる理由、気になってるでしょ。先生も結構顔に出やすいよね」
「雪村さんが隠すの上手いだけだよ。それに、僕としては雪村さんが圭一を同席させなかったことより、圭一が無理にでも同席しなかったことの方がちょっと腑に落ちないかな」
「あー……そっちか」
「うん。雪村さんが圭一を呼ばなかった理由は察しが付く」
「…………そう?」
「見せたくなかったんだろう?万が一、殺せんせーがキミのお姉さんを殺した犯人だったら。もしかしたら、感情を隠せないかもしれない。怒り狂って、殺意を漲らせて、怨嗟を吐き出すかもしれない。そんな姿を想像して、彼に見せたくないって思った。違うかい?」
「…………はぁ。先生、心でも読めるの?」
「それなりにね」
僕の言葉に雪村さんは降参するように手を上げて、数秒だけ息を口の中に溜めて、ゆっくりと吐き出しながら苦笑する。
「頭の中ではね、なんとなく分かってた。あの日、圭一と先生に励まされて、殺せんせーが犯人じゃない可能性を指摘して貰って気持ちは楽になった。実際、殺せんせーと接してみて、この人がお姉ちゃんを殺しただなんて思えなかった」
「でもね。私、これでも結構力入れて子役やってたからさ、周りを観察するのには自信があるんだ。周りから何か一つでも演技に使える何かを盗めないかなって見てた。だから、芸能界の腐敗みたいなのも見てる」
「周りに笑顔を振り撒いてるアイドルが実は人が見てないと虚無顔になってたり、愛想がいい女優さんが実は周りに興味がない人だってのも、優しそうな俳優さんが実は辺りの女の子に色目を使いまくってたり、果ては子役の私にも色目を使ってきてるのも知ってた。そういう人がいるんだって。感情を、自分の中の獣性みたいなのを隠して獲物を狙うような人がいるって知ってる」
「だからね、殺せんせーのこと信じきれなかった。こんな人当たりが良さそうでも、こんなに面倒見が良くても、耳障りの良いことを言っても、本当は裏で何をしてるのか。そうやって疑ってた。だからさ、圭一にそんな部分を見られたくなかっんだ」
雪村さんの言葉に僕は納得した。
彼女は同じくらいの年頃の女子に比べると落ち着いた印象があった。周りにいるのが僕や圭一のような規格外だからツッコミに回ることが多かったけど、日常会話で受ける印象は圭一よりも精神的には大人びてる。そういった感じだ。
「まぁ、実際、キミの目の前にも居るわけだしね。笑顔でキミたちに接していながら、過去に何百人と殺して来た男が」
「…………ごめんなさい」
「謝らなくていいよ。事実だから」
彼女からしたら、僕も油断ならない相手だろう。
僕が殺し屋だと言い放ったあの日、むしろほぼノータイムで受け入れてくれた圭一がこればっかりはおかしいのだ。
雪村さんは僕を信じているというより、圭一が信じる僕を信じているって感じなんだろう。それは薄々知っていた。もちろん、それだけじゃない。割としっかり信頼し始めてくれていたことも知ってるつもりだ。
「確かに、自分が誰かを。それも身近な人を疑ってるなんて知られたくないよね。それも恋人にさ」
「……うん」
彼女は頷いたあと、語り出した。
「圭一はね、変な人だった。喫茶店でたまたま相席になった、お姉ちゃんの勤務してる学校の生徒さん。だから、気まぐれに話しかけて見た。たったそれだけだったのにさ。気が付けば、色んなところで顔を合わせるようになってた」
「あの子からも聞いたことあるよ。初対面の女の子が担任の妹で、思わず話し込んだと思ったら、その後、行く先々の喫茶店で顔を合わせるようになったって。なんか、最近知ったばかりの単語をよく聞くようになるアレみたいだよなって言ってた」
「あはは……確かに似てるかも……」
懐かしい。アレからもう少しで1年経とうとしてるのか。
あと数ヶ月、まだ気は早いかも知れないけど。でも、そんなふうにしみじみと考えてしまった。
「私さ、もともと居た学校ではそれなりに有名だったんだ。活動休止中とは言え、『あれ、もしかして磨瀬榛名?』とか聞かれることも珍しくなかった。今と違って髪も染めてなかったしね」
「だろうね。学校とかだと人気者じゃない?」
「自分で言うのもなんだけどね。だからさ、圭一の反応が新鮮だった。本気で私に気付いてないからか、あんまり遠慮なかったし、別の日にまた喫茶店で顔を合わせたからさ、声を掛けてみたら同じ席に座るんじゃなくて『あ、ども』って会釈して別の席に座ろうとしたりとか」
「……まぁ、普通は知り合いがいたら一緒に座ろうとか思うよね。雪村さんというか、磨瀬榛名が声を掛けてるなら尚更」
「そうだよね、多分、自画自賛になっちゃうけどさ、それが正しい反応だと思う。なんなら最近まで本気で気付かれてなかったのはショックだったよ。でも、だからかな。圭一といるのは居心地が良かったんだよね。女優として振る舞う必要もなく、かと言って普通を意識する必要もない。自分を知らない人と気軽に接することができるのって本当に気が楽だった」
雪村さんは懐かしそうに目を細めた。
そうか。そう言えば彼女も圭一と出会ってから1年経っていないんだよな。そう考えると、2人のペースというか進展具合は早いのかも。中学生で、それも話によれば雪村さんの方から迫ったと言うし。こうして考えると良くこの短期間で圭一にそこまで気を許したと思う。
……僕も人のことは言えないだろうけど。
「接するのに気が楽で、お姉ちゃんと共通の知り合いだからさ、時間が合った時に話すと自然と話題にしやすくて。同級生の男子とかと比べるとかなり落ち着いてて。お姉ちゃんに何度も揶揄われるうちに本当に気になり出して。気が付いたら、名前で呼び合うようになって」
「……うん。その一部始終は知ってるよ。電話でそうなってたっけ。雪村だと先生の方と混同するからって」
「あ、やっぱり先生も知ってたんだ。そっか。確かに習いごとがどうこう言ってたもんね。そうだよ、あの時のこと」
あの時は流石に口を挟んだよね。
「圭一は良く言えば硬派、悪く言えばクソボケな部分あるから」
「言い得て妙だよね、その表現。変なところで律儀で、その律儀な部分がなんとなく古臭い感じの考え方してる」
そう、妙なところで古臭い。けど、単純に古臭いという言い方は語弊を招くかも知れない。この違和感を言語化するのなら……本人の言動と裏腹に育ちの良さみたいなのが見え隠れしてる。だから、『あ、そんなこと気にしてるんだ?意外と真面目かも』と微妙なギャップがある。
もしかすると、その言動の裏に隠れてる真面目っぽさが律儀さや古臭さに見えているのかもしれない。
「それでね、これから圭一とどんな関係になるんだろうって想像するようになった頃にお姉ちゃんが死んじゃってさ。私はしばらく立ち直れなかった。現実が信じられなくて、お姉ちゃんのことを考えると喉が圧迫されるような苦しさがあって、身体を動かそうとすると動き始めるまでワンテンポ遅れる。真っ直ぐに立てなくて、立ってると膝の皿のちょっとしたくらいにチカラが入らない。頭の……脳天かな。そのちょっと下くらいに芯が刺さったような痛みがあって、その辺から両側頭部に後ろに向かって血の気が引くような感覚が続いてた。正直、思い出すと今でもその感覚が出て来そう。苦しかった……な」
「…………」
彼女の体験した当時の感覚。ここまで詳細なことは聞いたことがなかった。正直、理解できるとは言えなかった。
もしかすると、僕がもうちょっと煮え切らない性格だったのなら。もしかすると彼女と似たような思いをしたのかな。
「圭一はさ、そんな時にずっと一緒にいてくれた。お父さんのこと苦手なのは知ってた。なのに、乃咲博士に電話して、説得して、家のお手伝いさんにも協力をお願いして。私のお父さんにも後日連絡を付けてさ。色んなことに手を回してた」
そう言えば、こうやってあの頃の話を雪村さんから聞くのは初めてかもしれない。大体は圭一からの相談だったり、落ち着いた頃に顔を見せてくれるようになった本人が障りの部分を語ってくれたことはあったけど。
彼女の視点で圭一がどんなふうに見えていたのか。多少なりとも興味があった。そんな心情もあって結論はとっくに理解してる雪村さんの語りに耳を傾ける。
「立ち上がれない時は手を貸してくれた、支えてくれた。食欲湧かなくてご飯が食べられない時もあったかくて食べやすいものを作ってくれた。食べられなくて何回も残しちゃったのに嫌な顔しないで何回もさ。気にすんなって言いながら」
「本当に身動き取れないレベルじゃなかったのが救いだったかなぁ……。最低限のことは自分でも出来たから。でも、どうしても動けない日はやっぱりあって。そんな時は圭一が付きっきりでお世話してくれた。ほとんど介護みたいな状態だったよ」
「毎日一緒にいてくれたんだ。家事とか買い物とか終わったあと、やることがなくなった時は手を握ってずっと隣にいてくれた。夜は私が寝るまで抱き締めて、あの日のこと、見てない筈なのにお姉ちゃんが死ぬ場面を夢に見て、泣きながら起きた時には圭一は先に起きててさ、夜泣きする私を撫でて、抱き締めて、ずっとね。彼だって睡眠時間足らない筈なのに……朝起きると、圭一が先に起きてるの。『おはよう、あかり』って。隣で微笑み掛けてくれるの。毎日さ」
「……もうさ、信用っていうか。信頼するよね。ここまでされたらさ。たぶん、私がチョロいとかじゃなくて、普通の反応だと思うんだ。恋愛感情を通り越して依存になるヤツだって分かってても、圭一がいなきゃダメだって思うようになっちゃった」
ちょっと気まずそうに彼女が言う。
恋愛感情を通り越した依存。それは、まさしく、圭一と揃って道場に顔を出してくれたあの日に僕が抱いた印象だった。
本人にも自覚はあったらしい。最初は少し不安だったけど、こうして話を聞いていると、そうなるのは不可抗力だったように思えるし、正解だったような気がする。
「何も言わず、ずっと一緒に居てくれる。圭一は言葉が見つからなかっただけだって言うけど、それに凄く救われた」
「そんな感じに圭一が甲斐甲斐しくお世話してくれたお陰で、体調も段々と良くなって。身体がようやく普通に動くようになった頃かな。一回だけ嫌な夢を見て体調が凄く悪くなったことがあったんだけど」
「申し訳ないと思いつつさ、圭一になら良いかなって。お風呂とかにも入れて貰って。流石に気まずそうにしてたけど、変なこととかしないでお世話してくれた。その時に『あぁ、この人、本当に下心とかないんだ』って実感した」
下心か。確かに圭一はそう言うのが薄い気がする。
全くない訳じゃない。でも目に見える形では現れない。
「ちょっとくらい……とか思わなかったわけじゃないけど、まぁ、当時の私は病人みたいなもので、後日冷静に考えて『あ、むしろ手を出してこないのが正解だよね、普通』って思い至って。ますます圭一が良いなって思うようになった」
「本当に嬉しかった。圭一はさ、先生の影響でかなりぶっ飛んだ部分があるけど、でも、中身は何処までも普通の人だった。普通の良識がある善人だった。警戒心は強めで、人見知りというかコミュ症で、ゲームやアニメばっかりでずっと近くにいる私が芸能人だって気付かないくらい普通のテレビとかドラマに興味がない、同い年の男の子。それが私から見た圭一なんだ」
「だから……圭一には、見られたくないって思ったんだ。殺せんせーを疑ってるところも、先生から真相みたいなのを聞いて、ヒステリックに怒ったり、叫んだりする所を見られたくなかった。仮にそうならなくても、表情に出さないように演技する、女優の顔を見られたくなかったんだよ」
少し寂しそうに笑う雪村さん。
僕にはなんとなく、その気持ちが分かる気がした。
僕も圭一には殺し屋としての顔を見られたくない。ふとした時、特長のある人物を見たら『使えるか、使えないか』で判断して、気が付けば使えそうな情報を探して。目の前に立つ相手は『殺せるか、殺せないか』で判断してしまう。
そんな部分はもちろん、圭一に見られたくないし、まして仕事をしているところ。人殺しの現場なんて見られたくない。
足は洗ったのに、思考は殺し屋だ。
彼女もそうなんだろう。今は活動休止中でも、思考や癖はしっかり女優だ。だから、女優でいる必要がない圭一に惹かれたのかもしれない。女は誰でも女優なんて言葉もあるけどね。
「気持ち、なんとなく分かるよ」
「うん。ありがと、なんとなくそう言ってくれる気がした。たぶんさ、私と先生って似た物同士だよね」
「……あー、言われてみるとそうかも。圭一にホイホイ引っ掛かってるところとか。別に本業を持ってたところとか」
「なんていうか、あの人の周りってそんな感じの人多いよね。ホウジョウさんとかアレでしょ?最強の傭兵なんでしょ?他にも烏間先生とか、殺せんせーとか、ビッチ先生とか」
「類は友を呼ぶって言うのかな。これも……。圭一が引っ掛けた奴の類友が集まってると言えばいいのか。本当にどうなってるんだろう?とか思わず考えてしまうよね」
「本当にね……」
最近、圭一の周りに集まって来てる"逸般人"を思い浮かべては2人で思わずため息を吐いてしまった。
いや、圭一自身も民間人ではあるけど一般人というよりは逸般人寄りと言うか、なんなら一般人の中に紛れ込んでるとんでも人材という意味では誰よりも逸般人だと思うけど。
「………うん、でもありがとう。先生。お陰で殺せんせーを本当に疑う必要がないって分かった。安心したっていうか、気が楽になったよ。もう、何も知らないフリをする必要はないんだね」
「……ってことは、話すのかい?キミの素性」
肩の荷が降りたと言いたそうな教え子が最後にほんの少しだけ覚悟を決めた顔をしたのを見て問い掛ける。
すると、彼女はゆっくりと頷いた。
「うん。殺せんせーに話してみる。私が雪村あぐりの妹だってこと」
「………そっか」
僕も頷き返す。
なんて言えば良いんだろう。教え子が吹っ切れた、あるいは覚悟を決めたことが嬉しいのだろうか。それとも、安心したのか。両方かな。僕にとって彼女も大切な教え子の1人なんだと実感する。そういう意味でも安心した。
あ、でも、一個だけ。
今、雪村さんの家で悶々としてるであろう、一番弟子を気遣っておかないとね。デキる師匠としては。
「あのー、雪村さん?」
「あ、大丈夫だよ。その時はしっかり圭一にも同席して貰うから」
「え、言いたいこと分かったの……?」
「似た物同士ですから」
「えぇ……」
どうやら雪村さんに見透かされるようになってしまった。
いや、ある意味でいい事なのかな。生徒にも理解して貰えるようになったという事なのだろう。教師と教え子として雪村さんとも通じ合えたかもね。
「よし、じゃあ早速明日、行ってくるよ!」
「うん、頑張って。僕の話はこれで終わり」
気合いを入れた彼女に笑いかける。
これなら特に心配する必要ないだろう。
「どうする?圭一呼ぶ?」
「今頃、雪村さんの連絡待ってソワソワしてるだろうからねぇ〜。是非呼んであげたい………ところなんだけど」
僕は雪村さんの提案を笑いながら……聞き流した。
頷く動作と引き換えに、最近はずっとポケットに忍ばせているメモ帳を取り出してボールペンのボタンを押す。
「け、圭一との馴れ初めをもっと詳しく……!!」
「え、えぇ……!?」
「実は滅茶苦茶気になってたんだよ……!2人がお互いに憎からず思ってるのは、あの事件の前から知ってたけど……。何がどうしてあんなインモラルな空気を出して責任がどうとか云々の会話をするに至ったのか……!!」
「そそそ、それ聞いちゃう!?」
「聞くでしょそりゃ!!良くて硬派、悪くてクソボケの圭一だよ!?『いいよ?』とか言ってる女子と同衾して胸に顔を埋めるとかやってても性的な部分には指一本触らなさそうな圭一だよ!?気になるでしょ!?」
「あ、うぅ……さっきまでの知的で中立的な笑みを浮かべて私の話を頷いて聞いてくれた頼れる大人が……こんな出歯亀に」
「いや、だって馴れ初めとか話したくなる年頃でしょ?ただ事情が事情だし、周りにはあんまり話せないじゃん?だったら僕が聞いた方がキミもスッキリするも思うんだよね」
「そういうところ、本当に師弟そっくりだよね!!?ふざけたテンションの裏側に凄い合理的な理屈があるところ!!」
ギャーギャーと騒ぎながら雪村さんからツッコミの連打。
そんな声を聞きながら僕はボールペンのボタンをカチカチと連打しながら、2人に何があったのかを根掘り葉掘り聞くのだった。
あとかぎ
はい、あとがきです。
はい、端折ったけどいつか深掘りしたい部分、その1。圭一とあかりの間に何があったのか、どんな風に進展して行ったのか〜!って部分です。
やっぱり書いてて思うんですけど、私はダイジェストとかで簡単にまとめることが苦手なんでしょうね。今回の話しも圧縮したら5〜6行くらいの地の文で表現できるんだろうなぁ……。つい理屈とか道筋みたいなの長々と書きたくなってしまう……。
次回はその辺をもうちょい意識してみます!
今回もご愛読ありがとうございます!