加えてたくさんの感想と高評価ありがとうございます!
今回も投下しますので最後までお付き合いください……!
「暗殺、国家機密、地球滅亡。僕の知らない所で随分と色んな事情が絡み合っているもんだな」
「………………せやな」
爽やかな微笑みを浮かべ、殺せんせーを見つめながら同意を求めてくる浅野。そんな彼から全力で目を逸らしつつ、頷いた。
視線を向け先には血管をピクピクさせて頭を抱える烏間先生。普久間島の時とは別のベクトルで困っているのが見てとれた。
殺せんせーはと言えば、いつもの焼石に水レベルの変装を解き、俺のベットの横で正座させられている。
時間はちょうど午後6時を回った頃。今日は平日なので、学校で部活に打ち込んでいる生徒たちもそろそろ家に着くかどうかと言った具合の時間だろうか。
なんでこんな時間に浅野が俺の病室にいて、殺せんせーが正座し、烏間先生が困り果てているのか。その理由は1時間前に遡る。あの時はまだ、こんな事になると思わなかったのだ。
父さんが帰り、殺せんせーが見舞いに来てくれると言うので、それまで時間を潰していた所、学校で言う昼休みの時間に来た一件のLINEがことの始まりなのかも知れない。
『乃咲さん、浅野さんからメッセージです』
「………アイツ、暇なのか?」
ぼやきつつ、スマホを見る。もともとそんなに積極的に連絡を取っていたわけではないが、最近はLINEが増えた。
とは言っても、別に迷惑になる頻度でもない。倒れた直後はアイツも気が動転していたのか、やたらと心配する様なメッセージが来ていたが、最近は板書の写メやアイツが取っていたノートの写真が送られてくることの方が多い。
だが、時々妙なメッセージも送られてくる。
最近、椚ヶ丘で妙な噂が多いとか。そんな半ば雑談だが。飛んでくるメッセージの殆どは側から見ると都市伝説系のものなのだろうが、俺たちからすると身に覚えのある噂ばかりだった。
女性限定スイーツバイキングに出没する巨影、コンビニを出入りする関節が不透明な巨漢、ポケットティッシュ配りのバイトの前に列を成す2頭身半の集団、巨乳女子が時折感じる視線など。
うん。ほぼ間違いなく殺せんせーの噂である。あの人は俺たちに教育者として接する時は本当に尊敬できる人物なのだが、気を抜くと大人と言うか、人間というか、生物としての尊厳を失いかねないレベルでヤバいところを見せてくる。
それも個性、殺せんせーとて社会の中で自分を抑圧して生きる一個体に過ぎないと考え、残念過ぎる部分を受けいれることこそ、"見る"ことなのかも知れないが、それと純度100%の敬意を抱けるのかは別の話である。
どうせ、今回もそんな感じの噂でも送られてくるのだろうと思ってアイツとのトーク画面を開くが、そこにあった文字列は俺の予想していたものとは違っていたようだ。
『そのうち見舞いに行く。転院したんだろ?なんて病院だ?』
どうやらお見舞いの相談だったらしい。
気にしなくていい。すぐに退院する、と返そうと思ったが、浅野はこんなメッセージで引き下がるタイプではない。アイツもやると言ったら絶対にやるタイプだ。
浅野は引くと押してくるタイプ。ならば、今回は逆を突いてみよう。そう決心して、病院の名前と病室を列挙した後、少し考えて『是非来てくれ』と付け足して送信。
はてさて、どんな返信が来るかとLINEを見てると、『分かった。お見舞いはプリンを持って行く』と返ってきた。
……またプリンかよ。
いや、見舞ってくれるのは嬉しいし、ありがたいんだけども。俺の周りの異様なプリン推しはなんなんだ?
病室に備え付けられた冷蔵庫に貯まっていくプリンを思いながら、そろそろ利きプリンでもできそうだな、とか考えてると、スマホの中の律が興味深そうに呟いた。
『A組って私たちより授業の進み具合が遅いんですね』
「基本的に非効率的だからな。捲し立てて、黒板に書き殴って、消してを繰り返すだけ。だけど、同じ様なことを言葉を変えて繰り返してるから進みが遅い」
浅野が送ってきた授業関係の写真を見ていたらしい。
まあ、殺せんせーの授業を受けてればそう言う感想にもなるよな。と言うか、A組に戻ってからE組との比較ばかりしていたが、思えばE組の教育環境ができ過ぎているだけじゃないのか?
集団に対して同じことを教えるのが普通の教師。スピードを活かして一人一人に合った教育法を見つけて力を伸ばすのが殺せんせーだ。どちらが伸びるかと言われたら後者なのは間違いない。
都内どころか日本屈指の進学校である、うちの授業だって殺せんせーや浅野理事長が抜きん出ているだけで、本来なら一般の教師であってもハイレベルな部類なのかもしれない。
いかんな、こうして考えてみると自分の中の基準が殺せんせーとか理事長とかの人外や怪異になってしまっているのがよく分かる。こう言うズレってどっかで致命的なすれ違いを起こしそうで怖いよな。比較対象が強過ぎると碌な事にならない。
「ちょっと普通の学校の授業って奴を調べてみるか」
『調べて出てくるものですかね?』
「学校は無理でも、塾とかなら出るか。YouTubeとかで」
『動画サイトですか。便利ですよね、あれ。色んなコンテンツを配信してお金も稼げるし、知識もつけられて』
「ほんとだよな。小さい頃なんて漫画とテレビが情報源の全てだったのが考えられない時代になったもんだよ」
『常にネットに繋がっているも同然な私からしたらそっちの方が信じられないですね……』
「そうだよな。ちなみにお前もYouTubeとか見てるのか?」
『はい、色んなのを見てますよ。最近気になっているのは、ボーカロイドの3Dモデルがダンスしてる奴ですね』
「あー、たまにあるよな。興味あるの?」
『はい。私もいつかこんなことをしてみたいって程度の興味ですけどね。皆さんだけでなく、もっと色んな人と接してみたいです。その為のコミュニケーションの一つに出来ればな〜とか』
「……まあ、お前の場合は大して難しくないかもよ?俺らのスマホに出てくる時のお前は3Dモデルだし、あとは好みの曲とダンス見つけるだけじゃね?」
『え……。そんなに簡単なものですか?』
「だろうよ。3Dモデルはお前の意思で動かせるんだし。普段俺らと接してる時の状態から曲に合わせて歌って踊るだけだろ?」
『………私、どんなプログラムで〜とかそう言う方面ばかり考えていました。言われてみると確かにそうです』
「お前はまだ微妙に思考が固いところがあるな」
『恥ずかしながらまだまだ成長途上です』
「いいさ。そのまま学習していけば。地上初の電子生命体として後に続くかも知れない後輩達のために頑張れよ」
『……………』
何気ない会話をしていると、律が止まる。
液晶に表示されたキョトン顔。
「どうした?」
会話の中にそんなキョトンとする単語があったのか、振り返りながら聞いてみると、律は目をぱちくりさせながら答えた。
『少し意外というか、驚きました。私のこと"電子
「え?……あ、そんなこと言ったな」
なるほど、引っかかっていたのはそこか。
「ここまで感情豊かなAIなんてそういないだろ。俺たちと同じ様に知性があって、理性があって、感情がある。これをただのAIとは流石に言えないさ。それとも私は人間とは違います!AIである事に誇りがあるので!とかなら謝るけど」
『いいえ。確かにAIである事に誇りがないわけではないです。だからこそ皆さんの役に立てる場面があるわけですから。でも、その……嬉しくて。乃咲さん、初めての合同暗殺をした頃、所詮は機械、みたいなことを言ってましたから』
「………聞こえてたのね」
『はい……。当初は気にしてなかったんですけどね。それがまさか、こんな風に言ってもらえる日が来るとは思わなかったので。今、とても嬉しいです!』
「…………あの頃は確かに態度悪かったもんな」
思い出して苦笑い。あの時は傍迷惑なキリングマシーンだった律をどんな風に黙らせるかとか、AIを停止させるのに合理的な手段は〜とかそんなことを考えていた。確かに俺は所詮は機械とか考えてたように思う。
「それだけお前も俺も成長できたってことじゃないのかな」
『ふふふ、そうですね』
「今後ともその調子で頑張ってくれ。お前が人間と電子生命体を繋ぐ架け橋となるのだ!」
少し戯けて言ってみる。
『凄い大役ですね、私に務まるでしょうか』
「やれるさ。現に暗殺教室のメンバーはお前を仲間として受け入れてるだろ?人間と電子生命体の間に違いなんてないってのを見せてやれ。あぁ、律、お前はまるでデジモンのようだ……!」
『はいっ……頑張りま……ん?え?デジモン?』
「ほぇ?デジモン知らない?」
意外、なんか割とどうでも良い知識を拾ってきているイメージがあったから、アニメとかの知識もあると思ってた。
「電子生命体と人間の友情を描いた作品だぞ」
『いえ……。知らないわけではないです。むしろ光栄な例えではあるのですが、なんというか……。うーん……。うん、私、また一つ学習しました。これが複雑な気分という感情なんですね』
「…………?」
そんなに複雑な気分になる表現だっただろうか?
『出来れば、鉄腕アトムとか、ドラえもんとか、ドラミちゃんとか、そっちの例えの方が嬉しかったと言いますか………。なんというか、乃咲さん、やっぱり乃咲博士のお子さんなんですね』
「……どないこっちゃ?」
『なんでもないですよ〜』
ちょっと複雑そうな顔の律に首を傾げながら、殺せんせーが来るまでの間、テレビ見たり、ネットサーフィンして過ごした。
何というか、ゾーンに入らないで生活していると時間が過ぎるのはあっという間だ。まあ、数秒、数分を数時間に引き延ばせる方が異常なんだろうけど、時間があっという間に過ぎ、1日がとても短く感じてしまう。
時刻は午後5時。殺せんせーがそろそろ着く頃かな〜とか思いつつ、下町おっぱい百科を見ていると、扉がノックされる。
「どうぞ〜」
恐らく殺せんせーだろうと思って返事する。
しかし、返事の後、入ってきた人物は俺の予想の遥か斜め上を行き、成層圏をぶち抜いて、宇宙までかっ飛んで行った。
「やあ、圭一。元気そうじゃないか」
「お引き取り下さい。今日は閉店しました」
「そう言うな。片道2時間だぞ?」
「なんでその2時間を学校終わりの平日にやろうと思うんだよ!?往復4時間だぞ!?」
「ふっ……。みくびられたもんだな。友人が倒れたのに見舞いにすら来ない薄情者に僕が見えるか?」
「話し聞いてる?わざわざ放課後に往復4時間かけるなって言ってんだけど?明日も学校あるだろ、お前……」
「問題ない。遅くても10時には帰れる。スケジュールはバッチリ組んであるからな。お前に心配されることじゃない」
扉を開けて入って来たのは、浅野(息子の方)であった。
前々から思っていたが、俺はコイツが一番怖いと思う。行動力がエグい。しかも躊躇いが全く感じられないのが更にヤバい。浅野親子、スペック高すぎである。
「ほら、これ。プリンだ」
「……………ありがとう」
この数日、本当にプリンしか食べてない気がする。
礼儀としてお礼を言いながら受け取る。
「あとは学校で配られたプリント類だな」
浅野の鞄からプリントの束が出て来る。
「……休学中でもプリントって出るのか」
「さぁな。うちの学校では休学中自体が珍しいし、僕が見た限りだと前例がない。多分、2週間程度だからプリントくらいは机に入れて置こうってことだろ」
「そんなもんか」
「そうなんじゃないか?あ、あとこの前の小テストの答案を持って来たんだがいるか?」
「生徒会長が堂々とカンニング勧めてくるなよ……」
「失敬だな。事前準備と言ってくれ。受験だって過去問見たりするだろ?それと同じさ。再テストの結果次第ではA組に残れるんだろう?だったらどんな手でも尽くすべきじゃないのか?」
「やっぱりお前が一番怖いわ」
「照れるじゃないか、そんなに褒めないでくれ。僕をいくら褒めたところで、"いてつくはどう"しか出ないぞ」
「魔王系の自覚あったんだな」
駄目だ。コイツと話してるとペースを握られる。
涼しい顔でナチュラルに、なおかつハイペースでボケてくるからめちゃくちゃ対応に困るんだよなぁ。
魔王キャラは確信犯だったらしい。俺たちがSD化した別世界では氷の魔剣!とかやりながら勇者かぶれのキャラな癖に。
「そう深く気にするな。小テストの話は冗談だ。ほら、今日までのノートのコピーだ。写真で送ってはいたが、写しの方が見やすいだろう?一応、
「……有難いんだけどさ、あいつらが俺に親切する理由がなくてちょっと不気味なんだが。何があった?瀬尾とか荒木とか、煽ってキレられた記憶しかねぇんだけど。しかも何故かアイツらからLINEも来てたし。なんでなん?」
「あぁ、お前が来てから僕の機嫌が良くて、なおかつテンションが高い時の僕の相手をしてくれてるからだそうだ。まったく、そんなに面倒くさそうにしなくても良いのにな?まあ、お前も人望があるようで良かったじゃないか」
「人望がある奴は人柱にされないと思うけどな。つか、やっぱり五英傑からのお前に向けられた人望どうなってんの?」
「…………僕が聞きたい……!」
あ、これ、自覚ない奴だ。自分がハイテンションになってるのには気付いてるけど、そのテンションで絡まれる側の面倒臭さを理解してない奴だ。自分を悪と自覚してない悪。本人は至っていつも通りだから自覚がない奴だ、これ。
浅野の嘆きを聞き流しながら、差し出されたやたらと分厚い封筒を受け取る。なんだ?分厚さの割に案外軽い。
紙の重さと言うのは案外馬鹿に出来ない。未開封のA4コピー紙の束を持ったことはあるだろうか?所詮は紙だと油断して待つと、『うわっ、意外に重い!?』と驚くハメになる程度には重量感があったりするのだが……。
どう言うわけか、このプリントの束が入ってるであろう封筒は言うほど重くない。最近になって姿を見せるようになった身体強化の影響か?本当はそれなりに重いけど、俺の膂力の問題で軽く感じているだけか?
いや……でも、それだと浅野は学校からここまで2時間もあの地味に重い荷物を持って来たことになるのだが……。
なんか、そう考えると、途端に申し訳なくなってくる。
「それじゃあ、僕はこれで帰るよ。用事は済んだし、元気そうなのも確認できた。長居しても迷惑だろうしな」
「………そうか。退院したら何か奢るわ」
「ん?珍しいな、お前がそんな気を遣うとは。でも……まあ、そうだな。じゃあ貸し一つってことで。僕が何かしでかしても一回だけ見逃して貰おうか」
「それはアレか?暗にこれから何かやらかしますって宣言してるのか?お前や理事長がそう言うと怖いんだが」
「失敬だな。別に大それたことをするつもりはない」
「なにかやらかすってところを否定しろや」
こちらの言うことなどのらりくらり。浅野の奴はケラケラ笑いながら病室の扉に手を掛けて一度振り向いた。
「あ、そうそう。渡したノートのコピーだが、まずは板書や教科書を見てから開いた方がお前の場合は理解しやすいと思うぞ。流石に過労で倒れた後にいつもの理解するまでひたすら解くってのは身体に障るだろうからな」
「……?あぁ、ありがとう」
礼を言うとアイツは颯爽と去って行った。
2時間掛けて来た割にいた時間は10分未満。頼んだわけではない。いや、頼んだ訳ではないからこそ、蜻蛉返りする様を見ているとなんだか本当に申し訳ない気分になって来た。
しかし、まあ、ありがたいことだ。平日、みんなが勉強してるのに自分だけテレビ見て、ネットサーフィンして、ゲームしてるってのは申し訳ないし、かと言ってぼーっとしてるのも手持ち無沙汰だったからな。
本腰入れて勉強するのは止められるだろうが、これらを眺めて過ごすくらいなら別に構わないだろう。
彼の言った通り、板書と教科書の方から封筒を開けて中身を取り出した数分後、ノック数回の後に殺せんせーが入ってきた。
「こんばんは。乃咲くん。良い子にしてましたか?」
「あからさまな子供扱いは止めてくれ……ってのは流石に無理か。あんな姿を見せた後だもんな」
「ヌルフフフフ。まあ、そんなに卑屈になることもないでしょう。弱みの一つでも見せびらかした方が人間味が見えますからね。それが親しみやすさになることもある。できる面を見せつつ、弱い一面を見せると言うのはターゲットに取り入るには有効な手段ですよ。覚えておいてください」
「それをターゲットに説かれちゃ意味ないと思いますけどね」
「さて、それはキミの腕次第です。突き詰めれば自分をどう見せるか、相手に何を魅せるのかという話になりますねぇ。そういうジャンルはイリーナ先生の得意分野です。是非、先人の知恵を借りて学び、殺しに来てください」
「へーへ。……結局、暗殺の話になるのか」
「それは勿論です。キミ達が私を殺さなかった場合、来年には地球は無くなっているかもしれないんですから」
「そう言う可能性もあるって話でしたね。つーか、殺せんせー。毎度思うんだけどさ、その焼石に水みたいな変装でバレないの?殺せんせーかどうかってとこじゃなくて、そもそも人間じゃないってところ。曲がりなりにも国家機密なんだからもうちょいしっかりした変装した方がいいと思う」
「にゅやぁ!?そ、そんなに変ですかね?」
「まあ、ぱっと見で『あの人の関節なんかへんじゃね?』ってなるレベルで。そもそも大柄すぎるんだよ。触手って伸ばしたり出来るんだろ?だったら短くするとかできねぇの?」
「にゅぅ………。伸びるのは楽なんですが、縮むと疲れるんですよねぇ。身体を無理矢理押し込むんでるというか、プールとか行くと常に腹筋力ませてる人いるじゃないですか。気分的にあんな感じになります」
「なんだその微妙に分かりそうでわからない例え……」
確かにプールに行くとそう言う奴はいる。
けど、生憎とその感覚までは知らんのだ。
「まあ、でも、その図体で変装は厳しいか」
「そうなんですよねぇ……。今のところは先生の巧みな擬態によって一般の人々に気付かれてませんが……」
『あはは、でも、どれだけ巧妙に擬態しても、その『ヌルフフフフ』とかいう独特な笑い方を方々に残すのはやめておいた方が良いですよ、椚ヶ丘ではちょっとした都市伝説になりかけてますから。胸の大きな女性たちの間でね』
「と、都市伝説!?誰ですか、そんな失敬な!」
殺せんせーの擬態が巧妙とか言う珍ワードに突っ込もうとした時、ひと足先に誰かの声が殺せんせーに語り掛けた。
殺せんせーは気づいてないのか、そのままプンスカと威嚇するように身体を大きく広げる。
「…………殺せんせー、俺、今、何も言ってない」
「………………にゅ?」
今起こった出来事を端的に伝えると、殺せんせーは数拍子だけ置いたあと、首を傾げて部屋中を眺めた。
『いや、悪いな。圭一。実はこの前、お前の見舞いに行こうとしたらE組の連中が暗殺とか、触手とか、なんか物騒な話をしてるのを聞いてな。なんだか今年の理事長はE組に対してやたらと干渉したがる。もしやと思ってお前に罠を仕掛けたが……まさかいきなりターゲットが釣れるとはな』
2人して声の主を探す。だが、人の気配はない。ただ、耳を澄ませて音の発生源を探すと、ついさっき、浅野から渡されたばかりの封筒に視線が向いた。
さっき感じた違和感。紙の束と言うには多少違和感のある重み。その正体を探るべく、封筒を開けると、中からは数枚のプリントと、その間に挟まれた発泡スチロールがあった。
しかし、この発泡スチロール。普通ではなかった。中心がとある形にくり抜かれている。そして、そのくり抜かれた部分に収めるように、まるで嵌め込むかのようにアンテナの付いた箱のような物が収まっていた。
「……おもちゃのトランシーバー?」
『流石圭一だな。予想より気付くのが速い。でも残念だったな、渡した時に気付かなかった時点で僕の勝ちだ』
勝利宣言と共に足音が聞こえてくる。他人の心音やらが聞こえるほど鋭敏になってしまった聴覚が奴の接近を感知する。
「殺せんせー!今すぐ窓から飛べ!」
殺せんせーに指示を飛ばす。
彼はあたふたしながら頷き、駆け出す。
「わ、わかりまし——にゅぁぁぁぁぁぁ!!!?」
「おいっ!?ココイチってところで転んでるんじゃねぇ!このタコ!転びながら無駄にサマーソルト決めやがって!」
しかし、そこは緊急事態というか、環境の変化、突然の出来事には弱い殺せんせー。見事に触手を絡ませ、すっ転んだ。
ツルッ!と絡み、バランスを崩した触手は勢いよく滑り、殺せんせーの身体を1回転半させ、床にべちゃっと落ちた。
叫びながら反射的に自分に掛けられてきた布団などを倒れている殺せんせー目掛けて全力で投げつけ、ドアの方から体で隠すように殺せんせーと布団で出来た山にダイブする。
久しぶり機敏に動いた所為か、さっそく肺が悲鳴をあげる。こりゃ暗殺に戻る、戻らない関係なく体力作りから始めた方が良いかもしれないなと思いながらぱっと見で見える位置に殺せんせーの触手がはみ出てないことを確認する。
それとほぼ同時。浅野がノックもなく入って来た。
「やぁ、圭一。随分と楽しそうじゃないか。そんな所に布団を積んで何してるんだ?」
「えーっと、今夜は星が綺麗に出るみたいだからちょっと変わった姿勢で眺めてみようかな〜なんて」
「へぇ。そりゃぁ初耳だ。今日は夜のうちに雲が溜まり、明日には朝から降り出すって話だったけど」
「天気予報のねーちゃんって嘘つきだからな。俺の占いでは明日は晴れるんだよ。実はこの布団の山も占いの一環でな」
「ふーん。どんな占い方なんだ?」
「投げた布団がどんな形で落ちるのかで占うんだよ。布団が吹っ飛んだー!的な奴!ほら、ハリーポッターの紅茶占いの布団バージョンなんだ。おいおい、まさか知らないのか?お前ともあろう奴が。このお茶目さんめ♪」
「……じゃぁ、質問なんだが、布団から明らかに人の腕じゃないし、タコとかイカと言うには余りにも大きく太い触手がはみ出ていたらどんな天気になるんだ?それが晴れ、と言う結果になるのか?だとしたらその占いで晴れを出すのは難しそうだな」
「しょ、触手?なんの話だよ?お前、エロ同人の読み過ぎなんだって。触手と拘束と尻壁は一般性癖かもしれないけど、そう言うのオープンにしすぎるの、拙僧感心せんなぁ」
適当な話題を出しつつ横目でチラッと俺の視界からはギリ見えない範囲を見ようと努力するが、流石に死角は見えない。
「圭一、そっちじゃない。いい加減観念しろ、布団の膨らみ的にも毛布だとか掛け布団とかじゃ言い訳として苦しすぎるぞ。なにより布団からはみ出てるんだから隠し切れる訳ないだろ」
「…………まぁ、ですよね」
観念して浅野の指差した方に首ごと視線を向ける。
「………あれ?」
しかし、そこには特に何もない。別に何もはみ出したりしていない。殺せんせーのやつ、見つかったタイミングで反射的に触手を布団の中に引っ込めたんだろうか?
「悪いな、嘘だ。初めから何もはみ出しちゃいない」
「……………つまり?」
「お前は僕に騙され、見えてもいない触手の存在に慌て、勝手に隠しきれないことに同意して、まるで本当に触手があるかのように振る舞った。まあ、完全に自白だな」
「………やらかしたぁぁぁぁぁ……!」
「ふむ、政府の見つけた宇宙人でもいるのかと思ったが、僕が見つけたのはとんだ間抜けだったらしい」
浅野がニコニコしながら近寄ってくる。
「さて、状況は分かってるな?別にこのまま大声を出して人を集めてもいい。たしか、国家機密だったか?知られたらまずいよな?姿を見られるのはもっとやばいよな?バラされたくなかったら……ククク、分かるな?僕の要求に応えて貰おうか」
「くっ……!殺せ……!」
その後、部屋の状況を把握していた律が烏間先生を呼ぶまでの間、必死こいて浅野を引き止めるハメになった。
おもちゃのトランシーバーを使って人をハメるとか新世界の神みたいなことしやがってこの野郎と内心で散々悪態を吐きながら、抵抗も反撃も、状況を打開するとかは出来ず、なす術なく、殺せんせーについての情報を吐かされてしまった。
あとがき
はい、あとがきです。
浅野の執念怖すぎ……。でも気になった事とかは全力で容赦なく調べて来そうなイメージがあるのでこんな感じになりました(笑)
浅野親子は圭一に対して特効あると思うのです。
ほんま怖い親子やで……。
ご愛読ありがとうございます!