暗殺教室 不良児は認められたい   作:ZWAARD

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加えてたくさんの感想、高評価ありがとうございます!

そしてみなさま、申し訳ありません。
私、この度、烏間先生の下の名前を誤字っていました……。
烏間→烏丸みたいなのをやらない様に辞書登録してたのに、下の名前はノーマークだったっ………!

大変お恥ずかしい……。
加えて誤字修正ありがとうございます!
誰かたすけ…………。


85話 茅野の時間

 

「と、言うわけで。今日からE組の外部協力者となった浅野学秀くんだ。基本的に本校舎で暗殺周りの噂が流れた時の揉み消しが主な任務だが、本人の希望で、ちょくちょく殺りに来ることもあるだろう。これからよろしく頼む」

 

「やあ!E組のみんな!浅野です!これからよろしく!」

 

「「「待て待て待て待て!!?」」」

 

 青い空、白い雲。いつも通りの旧校舎。

 そんな中で、いつもと違う光景が僕らの前に広がっていた。

 

「ど、どういうことだ?お前が暗殺に参加するなんて……」

 

 困惑する僕らを代表するように磯貝くんが質問する。

 すると、浅野くんは悪びれもしないで言った。

 

「圭一の見舞いに行こうとした時、お前たちが暗殺どうこう言ってるのを聞いてな。もともとE組には不審さを覚えていたので調べさせて貰った。確信が持てたタイミングで、殺せんせーが圭一の見舞いに行ってるタイミングで押しかけて、色々と白状させたってところだな」

 

「……………」

 

「キミたちももう少し周りには気をつけた方がいい。側から見たら厨二病とか、暗殺って歴史の話かしら?となるかもしれないが、こうやってバレる場合だってあるんだからな」

 

「それは……その通りだ」

 

 みんな苦い顔をした。彼の指摘にぐうの音も出ない。

 思えば僕らもだいぶ軽はずみに暗殺について話していた。そこに油断がないと言ったら嘘になってしまう。

 

「彼の言った通り、俺たちは迂闊になり過ぎていた。こういう展開になる可能性を考慮しなかった我々にも落ち度はあるが、みんなにも暗殺周りの話は場所を選んでするようにしてもらいたい」

 

「はい。すみませんでした、烏間先生」

 

「今後、気を付けます。確かに私たち気が抜けてました」

 

 学級委員2人がそう言うと、烏間先生は頷いて、いつもの視線で僕らを見る。正面から僕たちを見つめてくれる大人の目だ。

 

「事のあらましは今、浅野くんが話した通りだ。本来なら記憶の消去が政府の用意した対処の中では妥当な所だが、先日乃咲くんから提案を受けた外部協力者の有用性と、彼の能力の高さを評価してこちらから協力者として依頼させて貰った」

 

「烏間先生〜。浅野が協力者になるってのは分かったけどさ、立ち位置的にはどうなるの?」

 

「そこは僕から話そう。僕は暗殺に関しては協力を惜しむつもりはない。来年の春には地球がないかもしれないなんて一大事を見て見ぬ振りはできないからな。だが、僕はあくまで生徒会長だ。生徒の味方ではあるが、E組という個の味方にはなれないことはまず宣言しておこう」

 

「……けっ、俺たちの扱いは相変わらずかよ」

 

「言ってやるな、寺坂。彼にだって立場はある。それにもともと僕らが不用意に暗殺について話したりしてなかったら、こうはならなかったんだ。出てしまう噂の揉み消しに協力して貰えるだけでもありがたい事だ」

 

「竹林…………」

 

「彼のことだ。そのネタを使って僕らを強請ることだって出来なかったとは思えない。でもそれをやらないのは、思惑はともあれ、温情とも言える。今は、それに甘えよう。それに……本校舎に戻った僕やあんなスピーチした乃咲がA組で孤立しなかったのは、彼が話しかけてくれたからだ。本人はそう言うの気にしないと思うけど、あんまり邪険にしたくない」

 

「……ちっ、分かったよ」

 

 寺坂くんは舌打ちしつつも頷いた。

 それを認めると竹林くんは正面に視線を戻す。なんて言うか、本当に色々と変わったな、竹林くん。

 

 そんな彼を見て烏間先生は頷いた。

 

「さて、何はともあれ、彼の加入は事実上の戦力アップだ。浅野くんの能力は3年間、同じ学舎で学んでいるキミたちの方がよく知っているだろう。暗殺を外部から見ている貴重な視点での意見なんかもある筈だ。遠慮なく頼っていけ」

 

「そういうことだ。改めて、よろしく」

 

 浅野くんはもう一度、爽やかな微笑みを浮かべた。

 

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 さて、そんなこんなで新しいメンバーを迎えた僕ら。

 実を言うと今日は休日。なんでそんな日に学校に集まっていたのかと言えば……。

 

「さて!今日みんなに集まって貰ったのは、言うまでもなく暗殺のためです!」

 

 暗殺をしたいと茅野から協力要請があったからだ。

 当然ながら僕らの中に協力に対して難色を示す奴がいるわけもなく、みんなが彼女の話に耳を傾けていた。

 

 これまで暗殺に積極的ではあったけど、仕掛けるより、サポートに回ることが多かった茅野の立てる計画。興味がある。

 彼女の話に耳を傾けるメンバーの中には、今日加入したばかりの浅野くんの姿もあった。

 

「実は最近、卵の供給過多が深刻でね。食べられるのに捨てられちゃう卵がたくさんあるんだよ」

 

「あ、それニュースで見たわ。勿体ないよな!」

 

「そう!と言うわけで、廃棄される卵を救済し、なおかつ暗殺も出来るプランを考えてきました!」

 

「た、卵を暗殺に……?」

 

「………古典的な毒殺か?いや、だったら廃棄卵の件はいらないか。ただ食事を作って毒を盛るってだけじゃなさそうだな」

 

 ちゃっかり乃咲の席に座っていた浅野くんが呟く。

 近くにいた不破さんたちは少しやりづらそうにしていたけど、彼の言葉を聞いてキョトンと首を傾げた。

 

「浅野くんの言うとーり!実はもう少し考えてあるのだー!烏間先生にもお願いして準備もOK!さて、皆さん校庭へどうぞ!」

 

 茅野に賛同されてみんな校庭に続く通路を歩く。道中見かけた烏間先生の苦笑が気になったが、その意味はすぐに理解出来た。

 

「ぬおっ!?なんじゃこれ!?」

 

 校庭には透明で巨大な山があった。

 それだけじゃない。他にも荷台にタンクを引いたトラックや、見たこともない機械に、ボンベに、明らかにただ料理を作るだけではないであろう設備が並んでいる。

 

「卵であの形……もしかしてプリンか!?」

 

 三村くんが驚愕の声を漏らす。そしてその声は僕らの代弁だったと言えるだろう。みんなの視線が彼女に集まった。

 

「その通り!今からみんなでプリンを作りたいと思います……!名付けて、プリン爆殺計画!!」

 

 茅野の迫力溢れる宣言に息を呑んだ。

 

「前に殺せんせーが言ってたんだ。プリンならいくらでも食べられる。いつか自分よりもでっかいプリンに飛び込むのが夢だって……。えぇ……!叶えましょう、そのロマン!ぶっちゃけ私もやりたい!」

 

 目を輝かせる茅野。その勢いのままに彼女は興奮と冷静さを混ぜ合わせたようなテンションで続ける。

 

「竹林くん謹製のプラスチック爆弾をプリンの底に密閉して置いて、殺せんせーが底まで食べ進めたらドカン!って寸法よ!すっごく、とんでもなく、めちゃくちゃ勿体無いけど!!」

 

 なんだかいつも以上に勢いがすごい。そう言えば茅野はスイーツ全般、特にプリンが好きだったっけ。入院してる乃咲へのお見舞いの大半がプリンだったのは彼女からの熱いプッシュがあったからだ。プリンは健康にいいとか、疲れてる時にはプリンだとか、プリン狂を増産したいとかなんとか。

 

 しかし、1人だけノリについていけてない人もいる。

 

「………暗殺………………………?」

 

 浅野くんはキョトンとしていた。

 暗殺ってなんだっけ?と自分に問いかけてる顔だ。そして、そんな彼の肩を寄り添うように烏間先生がポンと叩いた。

 

「やってみる価値あるかもな……!」

 

「あぁ、殺せんせー、エロとスイーツには我を失うところあるもんな!可能性は充分あるんじゃね!?」

 

「それに、今まで後方支援に徹していた茅野が前に出て計画しているのも意外性がある。僕は賛成だ」

 

「いやいや、プリンだぞ?今まで散々命狙ってきた連中が作った巨大プリンだぞ!?いくらなんでも疑って掛かるだろ!?」

 

 浅野くんは常識と目の前の光景が噛み合ってないらしい。でもまあ、そのうち慣れるだろう。僕らにもあんな時代があった。

 

「諦めなよ、浅野くん。ここはこう言う場所なんだから」

 

「そーそー。A組の頭でっかちには無理だろうけど」

 

 片岡さんが声を掛け、カルマくんが煽る。

 

「……まともなのは僕だけか……?」

 

 消えいりそうな声で呟く彼の肩を烏間先生が2度叩いた。

 

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 茅野のプリンにかける情熱は凄まじかった。

 テキパキと指示を飛ばす姿は頼もしい。

 

 さて、学校の裏山の校庭で人知れず暗殺の為に巨大プリンを作ろうとしてる僕らはいくつかの班に分かれることになった。

 そんな僕らの中心で駆け回る茅野。作業は順調そのもので、とりあえずは小休止を挟むことに。

 

 何処か遠くを眺める浅野くんは哀愁が漂っている。

 

「まあ、暗殺なんて非日常に入った初日に校舎よりデカい巨大プリン建造とか、誰でも困惑するだろ」

 

「確かにな……」

 

 階段に座って空を眺める浅野くんに思うことがあったのか、杉野がフォローし、前原くんが頷く。

 

「……仕方ねぇ。ちょっと声かけてみるか」

 

 そう言い出すと、彼は躊躇いなく浅野くんの方へ歩いて行った。その場の流れで僕らもついて行くことに。

 

「よう、優等生。調子はどうだ?」

 

「………悪くはない。だが、流石に驚き疲れた。僕の常識では測れないことが多すぎる。昨日何気なく見たラピュタの影響であの雲の中にはラピュタがある筈だ……とか、思わず現実逃避してしまいたくなる程度には」

 

「そ、相当弱ってるな……」

 

 磯貝くんが苦笑した。

 でも、浅野くんの反応がきっと正しいものなんだろう。この半年で僕らは普通じゃないことに慣れ過ぎた。

 

「というか、さっきさりげなく竹林謹製のプラスチック爆弾とか言ってなかったか?」

 

「A組から帰ってきた後、今後の暗殺には火薬の力を取り入れることになって、僕が取り扱いを覚えたんだ。進路とか成績には全く影響ないない分野だけどいつか役立つかもしれないからね」

 

「それは素直に凄いな。火薬取扱保安責任者は国家資格だぞ。よくうちの授業を受けながら勉強するもんだ。でも少し納得した。こんな環境で半年以上過ごせば、本校舎じゃ物足りなくもなるだろう。なんとなく気持ちがわかったよ、竹林くん。僕らの後ろでこんなことが起きてたんだな」

 

「まあ、毎日誰かが何かしらの暗殺を仕掛けてドタバタしてはいるね。それから、僕の事は呼び捨てで良い。取ってつけたみたいな『くん』付けはなんだかむず痒い」

 

「そうか、なら遠慮なくそうするよ。竹林」

 

 カチャカチャとプラスチック爆弾を作りながら何気なく友情を深めてるっぽい2人。浅野くん、さっきまでギャップで驚いてツッコミまくってた癖に、隣で爆弾作ってる同級生にはツッコミ入れなくなってるよ。順応が早いな……。

 

「というか、殺せんせーってのは本当に殺せる存在なのか?聞いた噂的に社会的に殺すのは簡単だろうけど、マッハ20で動き回るし、跳躍して空を飛んで海を渡るとか聞いたぞ?」

 

「その上、仮に触手を破壊しても直ぐに再生する。E組のメンバーで先生に正面切ってダメージを与えられた人間はカルマと乃咲だけだ。あとは律……キミがさっき座った乃咲の席の隣にモノリスみたいなのがあっただろう?彼女による射撃もかな」

 

 正確にはイトナくんもだけど、彼のことは一旦置いておこう。僕ら的にE組メンバーとは言い難いし、触手を生やした人間とか言い出したら浅野くんがまたフリーズしそうだし。

 

「でも、弱点がないわけじゃないんだ。エロいことやスイーツなんかに我を失うのは本当だ。だからこうして一見突拍子のなさそうな作戦でも茅野は真面目に計画するし、みんなも妥協なく協力している」

 

「………それ以外に弱点はないのか?」

 

「あ、それなら僕メモとってるよ」

 

 浅野くんの質問に答えてメモ帳を渡す。

 それを受け取ると、ペラペラと中身を見た。

 

「結構、細かく取ってるな。見やすくまとめられてる」

 

「あ、ありがとう。何かに使えるかもって」

 

 素直に褒められると思わなかったので少し狼狽。

 浅野くんはページを進めたり、戻したりして、中身を何度も見返したあと、一言付けて僕に返してくれた。

 

「案外、弱点は多いんだな」

 

「そうなんだよ……。ドジだし、バカだし、エロいし。でも、その癖して今だに殺せないんだよなぁ……」

 

「だな。めちゃくちゃ追い詰めて殺せんせーに奥の手を使わせたのも2回だけ。烏間先生はそれでも充分よくやってくれてるって褒めてくれるけど、前提として殺せんせーが俺たちの暗殺にのってくれなきゃそもそもチャンスすらないしな」

 

 前原くんの言葉に同意しつつ、磯貝くんもため息混じりだ。聞いていて僕らも少し暗くなる。

 しかし、そこは浅野くん。周りに流されないと言うか、自分をしっかり持っている。僕らの雰囲気に流されることなく、思い出したみたいに何気なく僕に聞いてきた。

 

「潮田。殺せんせーの特徴をまとめたページに『鼻がいい』って書いてあったが、アイツは鼻が利くのか?」

 

「そうだね……。視力も高いだろうけど、殺せんせーの感覚器官で一番敏感なのは鼻かもしれない」

 

「根拠は?」

 

 聞き返してきた時、千葉くんが答えた。

 

「夏休み中、A組から勝ち取った合宿を使って暗殺を仕掛けた。その時、俺たちが泊まったホテルの水上チャペルから、ホテルの裏の山にダミーで設置した俺や速水の服から臭いを嗅ぎ取って、俺らが狙撃しようとしてるって警戒態勢を取ってた」

 

「……なるほど、だとすると、今回のプリン爆殺計画はもう一手間加えた方が良さそうだな」

 

「えっ?どう言うこと?」

 

 ぼそっと呟いた浅野くんの言葉を拾っていたらしい、首謀者の茅野が首を傾げる。僕らも急に飛び出した提案に彼をみる。

 中にはどんな案があるのかという興味ではなく、ポッと出の癖に、A組の癖にみたいな顔をするのも居たけど、それでも頭ごなしに彼の言葉を遮るのではなく、みんなが聞くことを選んだ。

 

「千葉の話を聞いていて殺せんせーの鼻が良いのは分かった。問題なのはその嗅覚の鋭さだ。ロケーションは海と山。きっと潮の匂いと草木の青臭さ、リゾート地に訪れた人々の匂いなんかもあっただろう。そんな中で離れた位置の2人の臭いを嗅ぎ分けた。と言うことは、だ」  

 

 浅野くんは竹林くんの作っている爆弾を指差す。

 

「火薬の臭い、バレるんじゃないか?仮に火薬じゃなかったとしても爆弾特有の臭気みたいなのを彼が感じ取る可能性も無いとは言えない。人間では嗅ぎ取れない臭いだってあるかもしれない。なら、出来るのなら爆弾の臭いにも気を遣った方がいいだろう」

 

「……………確かにそうだ。盲点だった」

 

 竹林くんが眼鏡を押し上げながら頷く。

 僕らも納得した。確かにその通りだ。完成した後に例えプリンの匂いがしたとしても、中に火薬の臭いが混ざっていたら殺せんせーは気付くかもしれない。好物の中に紛れた異臭に。

 

「なるほど……。ありがとう、浅野くん。その可能性は考えてなかったよ。他に気になる点とかあるかな?」

 

「パッと思いついたのはそれくらいだ。僕は殺せんせーについて何も知らないに等しい。口を出すことで却ってやり辛くなるだけかもしれないからな」

 

「それもそっか……」

 

「いっそ圭一にも聞いてみたらどうだ?ちょっとアドバイスするくらいなら今でも出来るだろう」

 

「うん、そうしてみるね。律、乃咲に電話お願い」

 

『了解です!』

 

 スマホの中にいる律に話しかけた茅野。スピーカーから聞こえてきた知性ある返答に浅野くんはビクッとしていた。

 そう言えばまだ紹介してなかった。話は烏間先生あたりから聞いていたりするのかな……?あとでしっかり紹介しよう。

 

 茅野のスマホからコール音が2回。3回目がそろそろ鳴るだろうかと言うところで応答があった。

 

『もしもしもしもし!』

 

 なんだか聞き覚えのあるフレーズで返事をする乃咲。

 

「の、乃咲?随分テンション高いね……?」

 

『……久しぶりにラピュタ見てたらテンション上がっちゃって。いや、雲の中の空飛ぶ城とかやっぱりロマンあるよな』

 

「お前も見てんのかい!」

 

「だからモウロ将軍のモノマネなんてしてるのか……」

 

「千葉くん、モウロ将軍って?」

 

「ムスカに『もしもしもしもし!』した人だ」

 

「く、詳しいね」

 

 千葉くんの意外な知識が飛び出した頃、茅野がかくかくしかじかと状況を説明したらしく、電話の向こうで乃咲が唸る。

 

『プリン爆発させんの!?勿体ねぇ!』

 

「だよね!だよね!?」

 

『あぁ……!完成したなら校庭に飾るべきだ!校舎と同規模のプリンとか成功したらギネスもんだぞ!?』

 

「た、たしかに……」

 

『まぁ、暗殺の兼ね合いで作ったもんだから、諸々の都合で登録はできないだろうけど』

 

「乃咲って、なんかスンッってなることあるよな。テンション高い時からの急降下がひでぇ」

 

 話が逸れてきた。浅野くんはラピュタの話題が出た時からなんかソワソワしてるし、このままだとプリンとラピュタで時間が潰れそうだと感じ始めた頃、磯貝くんが呆れながら口を挟んだ。

 

「それで圭一、この計画になんかアドバイスないか?聞いてて気になったこととか、こうした方がいいとか」

 

『ん〜、どうだろうな。思い返せばあの人を好物で釣るって夏休み中に岡島が仕掛けたエロ本トラップくらいだから情報が少ない。はっきりとこうするべき、みたいなのは……臭い関係?』

 

 乃咲から出た案は浅野くんと同じだった。

 みんなが思わず彼をみる。当の本人は気付いて当たり前みたいな表情をしていた。

 

『街の中にいる何百人、何千人の中から1人の臭いを嗅ぎ分けたりできるみたいだし、好物の中から火薬の臭いがしたら気付かれそうだ。俺が気になるのはそんくらいかな』

 

「そっか……。浅野くんと同じ意見なんだね」

 

『……………………まぁ』

 

 すごく長い間を置いて、嫌そうな声が聞こえた。

 その声を聞いた浅野くんはニコニコしていたけど。

 

「それで、だ。圭一。プリンの中にある爆弾の臭いを消すなら、お前はどんな手を使う?」

 

『そうだな……。爆弾をジップロックで何重にも封止して、2層目からはプリンの匂いの香水とかを使うとか?』

 

「なるほど、おおよそ僕と同意見だ。だがどうする?冷静に考えて、この為にわざわざ香水を買うのはちとばかり出費が大きくないか?流石に子供の小遣いではキツいだろ」

 

『暗殺に関係する物資の調達に使った金は烏間先生を説得出来れば補填してくれそうだが……まあ、香水を売ってる店、それもプリンの匂いなんてのを取り扱ってるところをピンポイントに探すのも確かに手間だよな』

 

「プリンの匂いとして代用出来そうなもの……。あまり高価ではなくて、入手しやすいもの、か。考えられるのは……小学生の女子とかが使ってる匂い付きの消しゴムか?」

 

『まあ、その辺になるよな。流石に調べたことないから断言はできないが、プリンの匂いとかは普通にありそうな気がする』

 

「あとは……えっと、茅野さん?だったか。今回作るプリンには具体的にどんな物を入れるつもりか聞いても良いか?」

 

「えっ!?あ、うん。えっと……」

 

 ここで話を振られるとは思ってなかったらしい茅野が急に呼ばれてビクッとしたあと、慌ただしく計画書をめくった。

 

「使うのは基本的なプリンの材料だよ、それに加えて寒天とか、フルーツソースをオブラートに包んだやつを味変で使うつもり。いくらプリン好きでも、こんなに大きいのをそのまま食べ続けると飽きちゃうかもしれないからね」

 

「凄いな……拘り抜いてる。寒天はこれだけ大きい巨大を支える為のセメント代わりってところか。よく計算されている。にしても……フルーツソースか。これならプリン消しゴムが見つからなくてもなんとかなりそうだな」

 

『あぁ。匂い付きの消しゴムなら子供の小遣いでも充分に手が届くし、ソースが複数あるなら臭いのカモフラージュにもなるだろう。文房具店とかになら普通に置いてるだろうし』

 

 流れるように解決策と改善案を出す乃咲と浅野くん。

 すごい。ここまで話を振られた茅野以外誰も口を挟めなかったし、それでいてあっという間に問題を解決してしまった。

 

 これが主席2人の実力。そうだ。浅野くんは元々トップにいたから気にならなかったけど、学年最下位の不良児という肩書きが目立ちすぎているだけで、乃咲だって元々彼に並んでいたんだ。

 E組に来て、殺せんせーと出会って立ち直った乃咲。そんな彼がずっとトップに君臨し続けていた浅野くんと再び並んだ。それも今は肩を並べて同じターゲットを殺そうとしている。

 

 椚ヶ丘の主席がどれだけ高いハードルなのか知ってる僕らにとって、その位置に並び立っている2人の存在は心強かった。

 

「この中で脚が速いのは?」

 

「えっと、俺とか岡野、前原もかな」

 

「茅野さん。彼らを少し借りても良いかな?」

 

「あ、うん。大丈夫だよ。匂い付きの消しゴム買いに行くの?」

 

「やれることは惜しまずやろう」

 

「……ってことだけど3人はいいかな?」

 

「別に構わねーよ」

 

「成功率が上がるなら断る理由ないしね」

 

「んじゃあ行きますか」

 

「うん、じゃあ、浅野くん。そっちはお願いね。一応使う予定のソースの種類は3人に送っておくから」

 

「あぁ、分かった」

 

 まだ慣れてないのにテキパキ動く浅野くんに頼もしさを覚えながら走り出した4人を僕らは見送った。

 加入するタイミングが良かったと思う。これが平日の学校だったら、僕らは彼のことを敬遠していたかもしれない。

 

『デカいプリンか……。俺もやりたかったなぁ』

 

「あはは、んじゃ、元気になったらバケツプリンでもやろうか?」

 

『まじ?んじゃあ楽しみにしてるわ。あと、プリン完成したら写真ちょーだい。めちゃめちゃ見てみたい』

 

「はいはーい。それじゃ、切るね」

 

 こっちはこっちで電話を切った。

 

 電話越しに聞こえる声はすっかり元気。あとは戻ってきてくれるかどうかだけど……。どっちにしろ、僕らは今後も彼を頼るだろう。彼もなんだかんだで巻き込まれに来てくれる気がする。

 

「よーし、じゃ、作業再開するよ!」

 

「「「おーう!」」」

 

 茅野の元気な声と共に僕らはプリン作りに戻った。

 

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「おぉぉぉぉ……っ!!」

 

 プリン作りは実に3日に及んだ。土日と祝日がつながっていて良かった。そうじゃなかったら完成しなかっただろう。

 茅野のプリンに対する膨大な知識と情熱に当てられながら無我夢中で色んな作業をした。その結果、見事に僕らの校舎よりも大きいプリンが出来上がった。

 

「すっげぇ……!これの底に爆弾あるとか信じらんねぇ!」

 

「ほんとほんと!すごい美味しそ〜!」

 

「うんうん。研究した甲斐があったもんですよ!」

 

 満足そうに頷く茅野。正直、驚いてる。

 いつも後ろからそっと暗殺を手伝ってくれるから、サポート向きだと思ってたけど、好きなことに関してはここまで行動力があるとは思わなかった。

 不良児も、芸術家も、エロも、プリンマニアも。ここではみんな自分の強みを持った暗殺者だ。

 

「おっけー!圭ちゃん用にも写真撮ったよー」

 

 両手で丸を作りながら倉橋さんが言った直後、辛抱堪らん!と言った具合で殺せんせーが身を乗り出した。

 

「こ、これ!本当に先生が食べても良いんですか!?」

 

「どーぞー」

 

「廃棄卵救いたかっただけだからさ、勿体無いし、全部残さず食べちゃってよ」

 

「もろちんです!!」

 

 殺せんせーがプリンに飛び込んだのを見届けて僕らは校舎に入る。校舎に入った僕らがやるのは起爆の見届けだ。

 みんなで巨大プリンがみるみるうちに小さくなっていくのを見守りながら、烏間先生から借りたノートPCの画面に集中する。

 

「起爆のタイミングは殺せんせーが食べ進めて、うっすら陽の光が画面に差し込んだ瞬間だ」

 

 念を押すように言う竹林くんに頷く。 

 

「………本当に早いな」

 

 そんな中、ポツリと浅野くんが呟く。

 なんだか、今日一日で今まで見たことのない彼をたくさん見た気がする。理事長に似て何事にも動じないように思えて、意外と驚いたり、長い顔をしたり、人間味があった。

 

 これまで散々僕らを差別してきた本校舎の生徒。そう言う意識は確かにあるし、苦手意識がなくなったわけじゃない。それでも、今までより、親近感みたいな物を抱けた気がする。

 

「だろ?あれで最高速度じゃないんだぜ?」

 

「……だな。もしかしたら俺たちですら殺せんせーのトップスピードは見たことないのかもしれない」

 

 磯貝くんと千葉くんが頷いた。

 

「プリンを貪ってるところを見ながら言っても締まらないが、失敗したとはいえ、あんなのを何度も追い込めてるんだろ?それは素直に凄いと思うぞ。確かにあんなのを見たら人間の投げる野球ボールくらいなら止まって見えるだろう」

 

「いや、流石にそんなこと言えるの乃咲くらいでしょ」

 

「っと、みんな、そろそろだ」

 

 短く、しかしこの場の誰もが待ち望んだタイミングが訪れる。殺せんせーを呼びつける前、浅野くんの提案で木の枝に設置した隠しカメラ。そのレンズが殺せんせーの狂喜乱舞しながらプリンを食べ進める様子を僕らに届ける。

 

 やっぱり食べるスピードは早い。僕らの視界では捉えられないところではみるみるうちにプリンが減っていった。

 

 爆弾視点のカメラにはいまだに光は映らない。それでも、設置しておいたカメラの様子でその瞬間が迫っているのがわかった。

 

 みんなの手に汗が浮く。今日まで何度も暗殺を仕掛けて来たけど、作戦の決め手。トドメの瞬間を見届けるこの緊張感は何度やっても慣れることはない。

 

 みんながごくりと生唾を飲んだ瞬間のこと。

 

「ふぅぅ〜。ちょっと食休めです」

 

「っ!?」

 

 僕らの後ろから声がした。

 振り向くけど、その場にいる全員がその声の主を知っていたし、その触手に握られた袋の中に眠る爆弾を見てギョッとした。

 

「いやはや、危ない所でした。あともう少しで粉微塵に吹っ飛んでしまう所でしたよ」

 

「……どうやって見抜いたんですか?爆弾は臭いとかも気を付けておいたのに」

 

 眼鏡を人差し指で押し上げながら冷静に質問する竹林くんにニヤリと口元を釣り上げた殺せんせーは答えた。

 

「えぇ。爆弾の臭いに着目した点はお見事でした。そして臭いを誤魔化すためにプリンに使ったフルーツソースと組み合わせて果物の匂いが付いた消しゴムを同封しておく発想も素晴らしい。これは竹林くんが?」

 

「いいえ。浅野くんと乃咲の案です」

 

「ほぅ。どうやら早速皆さんの力になってくれてるようですね。浅野くん。その調子でこれからも頑張ってください」

 

「……………はい」

 

 殺せんせーからの激励に彼は思いの外、素直に頷いた。

 

「そして私が爆弾に気付いた理由ですが、それは匂いと味です」

 

「……どういうこと?」

 

「プリンからはとてもいい匂いがしました。プリン特有の甘い匂いだけではなく、フルーツの匂いもね。事実、食べ進んでいるうちにいくつかのフルーツの風味を感じました。これは茅野さんの飽きが来ないようにという気遣いですね?」

 

 茅野がこくんと頷く。

 

「素晴らしい心遣いです。それに被せて匂いを誤魔化す作戦もお見事。ですが……フルーツは同じ種類であっても、品種によって匂いが異なります」

 

「っ、そっか。確かにそうかも」

 

「匂いが強いものもあれば、弱いものもある。そこで先生気づいちゃいました。プリンの風味とは別の臭いの存在に。初めは違う品種、メーカーのソースを使ったのかと思いましたが、食べど進めどその風味はしない。なので臭いの元を辿って見たところ、これを発見した次第です。異なるソースの味を求めて探して見たら爆弾だったわけですね」

 

「嗅覚がすごいと聞いていたが………ここまでとは」

 

 浅野くんが驚いているけど、正直言って僕らも驚いてる。確かに殺せんせーの嗅覚の鋭さは知っていたけど、ここまで強いとは思わなかった。

 

「ヌルフフフフ。しかし、何度も言いますが本当に見事な作戦でした。正直な話、目の前の好物に踊らされて死にかけたのは初めてです。これに懲りることなく、今後も挑んで下さいね?」

 

 ほんと、いろんな意味でこの先生は手強い。

 

「さて、暗殺の評論についてはここまでにして………プリンを食べましょう。綺麗な部分をより分けておきました。折角作ったんです。皆さんも是非味わって下さい」

 

 殺せんせーは何処からかデザート用の容器を取り出して小分けにしたプリンをみんなに配りながら話す。

 

「ただし、廃棄予定のモノを食べてしまうのは厳密には経済ルールに反する行為です。食べ物の大切さと合わせて次回の公民で考えましょう」

 

「「「はーい」」」

 

 この人は、狡い。暗殺のターゲットをしながら、結局は授業とか僕らの教育に話をうまいこと運んでしまう。

 なんだかんだ、僕らの暗殺は殺せんせーの手によって成長の場に変えられてしまうのが悔しいようで、それ以上に楽しかった。

 

「はい、浅野くんの分です。どうでしたか?初の暗殺は」

 

「……正直、楽しかったのは本当ですが、それ以上に驚き疲れましたね。僕の常識とはかけ離れたことが多すぎた」

 

「ニュルフフフ……。そういうことでしたら今後も期待していて下さい。この教室がキミを飽きさせることはないでしょう」

 

「……………まあ、そうでなければ面白くないですからね」

 

 浅野くんはぶっきらぼうに言いながらプリンを口に運ぶ。一口食べたあと、『あ、美味い』みたいな顔をして、前原くん達に引きずられていった。

 

「さて、先生は乃咲くんに届けて来ます。1人だけ除け者なのも寂しいですからね。それでは皆さん、また後で!」

 

 バビュンと飛んで行く殺せんせー。彼を見届けた後、僕らは茅野に話しかけた。

 

「惜しかったね、茅野」

 

「あはは、まぁね」

 

「………プリン爆発させずに済んで、むしろ安心した?」

 

「ギクッ……!」

 

 カルマくんのニヤリとした質問に彼女は肩を振るわせた。

 どうやら図星だったらしい。

 

「でも、楽しかったよ。それに意外だった。茅野がここまで徹底してやるとは思ってなかったからさ」

 

 僕が感想を伝えると、茅野は不敵に笑った。

 

「ふふ。本当の刃は親しい友人にも見せないものよ?また絶対にやるから。ぷるんぷるんの刃なら他にも色々持ってるんだから!」

 

 青い空に白い飛行機雲を描きながら飛んで行く殺せんせーに狙いを定めるようにプリンを向け、笑う。

 ここではプリンマニアも立派な暗殺者。きっと、今後も誰かが意外性のある作戦を立てて、僕らを驚かせるんだろう。次は誰が刃を露わにするのか、僕は少し楽しみだった。

 

⬛︎

 

⬜︎

 

⬛︎

 

「………プリンうめぇ」

 

 圭一は密かに目覚めていた。 

 




あとがき

はい、あとがきです。

圭一がプリンにハマりました。
茅野とのバケツプリンは果たされるのか!?
そして何となくE組に絡んだ結果、苦労人になりそうな姿を幻視させた浅野はこの教室で何を学ぶのか!?

とか何とか言いつつ、乃咲親子編もクライマックスです。
親子のすれ違いがなくなった圭一はどんな選択をするのか!

彼の行く末を見守ってやってください……。

それはそれとして、某ガンダムゲーが凄いことになってるらしいですね。まさかプレステとSteamで別々の試みをするとは……。今後が楽しみですな。

さて、今回はここまでと言うことで。
今回もご愛読ありがとうございます!
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