暗殺教室 不良児は認められたい   作:ZWAARD

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加えてたくさんの感想、高評価ありがとうございます!

誤字修正もありがとうございます!誤字が減らぬ……。
もしかして最近、文字数が多くなってるのが割と原因として強かったりするのかな……。時々寝ぼけながら書いて翌日に何書いてるか分からず修正することもあるし……。ぐぬぬ……。



86話 散歩の時間

 

「ふむ……。身体はもう大丈夫だろう。自覚症状的に何か気になることはないかね、乃咲くん」

 

「……実は、最近何故か息苦しくて」

 

「…………妙だな。検査結果には異常はなさそうだが。具体的にどんなふうに息苦しいんだい?」

 

「慢性的なモノではないんですけど……。病院の窓から登校途中の学生の姿を見たり、夕方、ジャージ姿で走ってる運動部らしき学生を見ると……妙な手持ち無沙汰感と共に喉が詰まるような息苦しさに襲われるんです」

 

「………他には?」

 

「ネットとかを見て、気になったことを考えたり、調べたりしようとすると、『あ、そう言えば考えすぎるからこの辺も禁止されてたっけ』と思い出した時とか。勉強も運動も何もせずにぼーっとしている時とか特に酷いです」

 

「うん、ワーカホリックだ。つける薬はない」

 

 お医者さんにものの見事に真っ二つにされたのだが。

 つか、ワーカホリックってなんだよ。中学生がなるもんじゃねぇと言うか、俺のどこがそれに当てはまると言うのか。

 

「ともあれ。確かに全く何もしないのも良くないのは事実だ。体調も安定しているようだし、軽い散歩くらいなら許可しよう」

 

「マジすか、いいんですか?」

 

「ただし、あくまで常識的な距離、かつ、違和感があったら即座に留めること。ランニングとかジョギングになりそうなスピードは出さないこと。あと、階段を駆け上がらない、駆け降りない。必ず手すりを使うこと。それでいいのなら」

 

「はい、分かりました。それでお願いします」

 

「……分かった。受付には話をつけておこう。外出許可は長くて1時間だ。院外へ出る時は必ず受付に外出すること、どの辺りを歩くかを告げて、渡されるGPSタグを必ず身につけるように」

 

「GPSタグなんてあるんですか」

 

「外出を希望する患者は意外に多くてね。キミのように退院間近で日常生活に戻るにあたり、ある種のリハビリが必要な者、体調が安定して来たタイミングで家族同伴で外の景色を眺めての気分転換を望む者には必ず配布している。万が一、何があってもすぐに駆け付けられるようにね」

 

「さ、流石大病院……」

 

 確かにリハビリスペースだって有限だ。事故にあったり、その他の要因で立ち上がることも難しい人は大勢いる。そんな人たちにスペースをあてがって、比較的健康な者は散歩などで体力を作らせるのは理に適ってる。

 なんかあった時の為にGPSを付けるというアフターフォローも万全だ。思わず感心する。科学の力ってスゲー!管理社会極まれり、と思わないこともないけど。

 

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 病院の外で散歩していい。そう聞いた後の動きは早かった。

 父さんが持って来てくれていた着替えに袖を通し、充電バッチリなスマホと財布をポケットに突っ込んで、病室を出る。

 受付の人のに先生から言われた内容を告げ、タグを受け取り、いざ外出。俺は久方ぶりに青空の下に立った。

 

 空気を吸って、吐いて、吐き過ぎて咽せる。

 たってお外を歩ける感覚に感謝だ。ここ最近、病室に篭りきり。それ自体は特にダメージはない。もともと、どちらかと言えばインドア派だったから。

 しかし、それは室内で出来ることがあれば、という前提に限った話である。ゲームなど出来ないことはなかったが、みんなが勉強やらをしてる中、自分だけと言うのは申し訳ないので出来ず、アニメや漫画も然り。

 

 ジブリなんかは国語で取り上げられたりするので甘めに見てセーフ判定を下し、ラピュタを見たりしたが、限界は来る。

 世の中の情報を収集しようとテレビを見るが、ニュースなんかはほぼほぼ終わった後。本当にやることがない。

 

 さて、そうなるとやれることは看護師たちに目をつけられない程度に病院の中を徘徊することくらいなのだが。ここで一つ、問題に気付いてしまった。先日、浅野に殺せんせーの存在がバレた時にも軽く思ったことだが、体力が落ちまくっていた。

 流石に少し歩いた程度で息切れしたりはなかったが、階段の上り降りで息が切れた時は思わず苦笑した。

 

 と言うわけで、体力を取り戻す第一歩として散歩をしようと言う訳だ。まあ、久しぶりに帰って来た地元を見て回りたいって思惑もなくはないが。だって2年ぶりだしね。

 

『乃咲さん、乃咲さん』

 

「ん?」

 

 いざ歩き出そうとした時、律に呼ばれた。

 

「どったの」

 

『乃咲さんの地元、私も見て見たいです』

 

 何かと思えばそんなことか。

 

「分かった。別にいいぞ」

 

 返事をしながら胸ポケットにスマホを突っ込む。カメラが出るようにしたので一応は律にも見えてる筈だ。

 

「視界は?」

 

『良好です!』

 

「んじゃ、行くか」

 

 ちなみに現在時刻は16時ちょっと前。この時間を選んだ理由として、この時間なら私服の学生が歩き回っていてもギリ違和感ないだろうと踏んだからである。

 まあ、事実、制服姿の学生がうろつき始めたので俺の読みは当たらずとも遠からず当たっていたようだ。

 近くにはアパートやマンションなんかもあったりするので私服の学生がいたとしても別に補導されたりはしないだろう。

 

 少しだけ周囲の様子をみて、本当に問題がなさそうであると確信すると俺は悠々と思うがままに歩き出した。

 

『ここが乃咲さんの地元ですか』

 

「あぁ。流石に都心の真ん中程じゃないけど賑やかだろ?」

 

『はい。と、言っても私は基本的に皆さんの生活圏内のことしか知らないんですけどね。精々、殺せんせーが皆さんを連れ出して飛び回ってる先のことしか分からないです』

 

「俺ら殺せんせーに連れ回されて結構外国とかまで行ってるんだが……それを精々と言っていいのか?」

 

 律の言葉に思わずツッコミを入れるが、周りからしたら律だけでなく、俺自身もきっと無自覚なだけでツッコミどころ盛り沢山なのかもしれない。この1週間ちょっとでそんなことを考えられるようになった。

 

 しかし、ここまで非日常が日常になっていると、本当に殺せんせーを殺せた時、周りとの温度差というか、感性の差が酷いことになりそうだ。というか、周りに殺し屋と国の工作員と地球を破壊する超生物がいるのが当たり前という状態の奴が本当に世間一般的な日常に戻れるのだろうか?

 

「あーっ!くそっ、惜しかった!」  

 

 何気なく歩いていた街中。ゲームセンターの前に据え置かれたUFOキャッチャーで白熱している高校生を見る。

 言葉とは裏腹にちっとも惜しくない。モノを掴むまでの操作テクは確かにあるが、肝心なのはアームだ。品物を掴んだ時、微かにアームが開いた。あの程度で開く様ではアームの強さはたかが知れる。正攻法で取るのは無理だろう。

 

 散歩という目的を忘れ、なんとなくゲームセンターに入る。

 

 下校時間真っ只中なだけあって、学生で賑わっている店内を歩いていると、色んなモノが見えてくる。

 

 例えばゾンビ物のガンゲー。アレなんかは俺たちならシステム的に無理がない限りは余裕で攻略出来るだろう。

 例えばエアホッケー。E組生徒なら店の視線を釘付けにする様な超次元バトルを繰り広げるに違いない。

 例えばメダルゲーム。普段からターゲットの隙を狙ってる者なら、どの台が狙い目か当たりを付けて荒稼ぎ出来る。

 

 たかが街中のゲームセンター1つとっても、E組で培った能力は充分に発揮される。きっとそれはゲームのみならず、自分の得意分野はもちろんのこと、凡ゆる分野で通用するだろう。

 だが、それは普通じゃない。一度非日常を知ってしまったから、俺たちの基準は今後、何をどう足掻こうとも周りとはズレてしまうのは間違いない。周りが〇〇って時速何百Kmなんだってさ!速いよな!とかはしゃいでいても『殺せんせーの方が速かった』と感じてしまうだろう。

 

 そういう感覚のズレは周囲との温度差を生み、温度差は確執を招き、いつか決定的にすれ違ってしまうかもしれない。

 現に、暗殺教室が始まってから4ヶ月しか経っていないのにも関わらず、俺の基準は狂い、こうしてズレを実感するところまで来てしまった。教師の基準が殺せんせーになっているのもきっと良くない。E組の環境を当たり前の様に思ってるのだって同じ。

 

 A組に残るか、E組に帰るか。

 

 A組に残れば、この感覚をみんなよりも一足早く矯正できるかも知れない。世間一般的な日常に溶け込む練習ができる。来年も地球が存続するのなら、E組に戻るより生きやすくなるだろう。だが、その代わりに殺せんせーや烏間先生たちからの指導を受けられなくなる。成長の機会は失われる。

 

 E組に戻れば、成長する機会を沢山得るだろう。切磋琢磨し、考えを共有できる友人達に囲まれて、今よりも一回りも二回りも大きくなれる。だが、成長した結果、周りとのズレは矯正できないほど大きくなるかも知れない。結果的に、非日常を知るが故に、そこにいるのが当たり前になっているが故に、来年も地球が存続するのなら、確実に生き辛くなるだろう。

 

 倉橋さんを始めとしたみんなが言ってくれたし、自分でも思ってる。結局一番大事なのは俺がどうしたいか。

 

 成長を妥協し、生きやすさを取るか。

 成長を続けて、生き辛くなるのか。

 

 この2択こそが、この休学中の間に自分なりに考え、E組の環境を外から俯瞰し、世間と自分を照らし合わせた結果、見つけることができた、A組に残るか、E組に帰るのかという問いを将来を見据えた場合の本質なのだと思う。

 

 そりゃあ選び難いだろうさ。後先考えずにパッと答えて良い内容じゃない。

 

「……難しいもんだな」

 

 思わず呟いた。

 

 殺せんせーはこの前言ってくれた。『まだ子供なのだから失敗から学んで大人になれば良い』と。

 父さんが言ってくれた。『お前が間違ったのなら、一緒に背負う。お前の罪は私の罪だ』と。

 

 2人とも間違うことを否定しなかった。片や失敗から成長しろと。片や責任を一緒に背負うと。俺の選択に委ねてくれた。

 

 2人の大人に甘えて、とりあえず好きなことを選ぶ。子供ならそれで良いだろう。だが、俺は子供と言っても、中学3年生。次の3月、奇しくも暗殺期限当日に15歳になる。

 15歳。まだ子供だと言えるだろうが、20歳から正式な大人だとすると、数値だけ見れば4分の3はもう大人だ。

 好き勝手にやって、あとは大人にお願いしまーす、なんてやるのは良い加減恥ずかしい歳だと言えるだろう。

 

 まして、今考えているのは自分の将来についてだ。その辺の責任を子供だからと大人に丸投げするのは情けない。

 

 自分はどうしたいのか。俺はこれに対する問いかけに弱い気がする。今回も、この前のも。この手の話題は悶々としがちだ。

 

 結論を出さなきゃいけない期日まで残り少ない。夏休みの時と比べて考える時間が短すぎる。

 ここまで考えても答えは出なかったのだ。これ以上1人で考えても良いことはないだろう。

 素直にみんなを頼ってみるか。ここで1人で考え続けるのは失敗の元だと今回の件で俺は学んだ。

 

 前までは自分の将来に影響することの相談は無責任だと思っていた。だが、今は違う。相談することは無責任ではなく、相談した内容を失敗した理由として振りかざすことが無責任なのだ。

 だから、最終的に選ぶのは自分。そのたった一言を忘れない様に心がけて相談してみるとしようか。

 

 自分なりに行動方針を固め、やるべきことは決めた。ぼちぼち時間も過ぎたことだしそろそろ帰るか。

 自分の考えを自分で肯定する様に頷き、出口の方を目指して歩き出そうとした。まさにその時のこと。

 

「おい、待てよそこの銀髪」

 

 なんだか品のない声で呼び止められた。

 歩き出そうと振り返ったばかりだと言うのに、さっきまで自分が見ていた方を再度向き直すハメになる。

 

「お前、なにさっきからガン付けてくれてんの?」

 

 そこにいたのはいかにもなヤンキーだった。

 着崩した学ランからはみ出るシャツがダラシない。だが、その風体は妙に懐かしかった。

 思えば、不良に絡まれるのは修学旅行以来だ。その前はもっとこんな感じの奴らに絡まらていたと言うのに、3年生に上がってからは本当になくなったな。

 

 柄の悪そうなのが3人。明らかにこの辺をシめてます。みたいな態度だ。ヤンキー、それも番長気取りか。

 椚ヶ丘でもこんなの居たなぁ……。最近は本当に見なくなったけどさ。もしかして懐かしさの原因はそこかな。

 

「ごめん。別に意図して見ていた訳じゃないんだ。少し考え事をしてぼーっとしてた。ほんと、他意はないからさ」

 

「あ?そのいかにもな目つきでそれは厳しいんじゃねぇか?」

 

「おぉ……っふ」

 

 懐かしい。そういえば初めて不良に絡まれた時も目つきの悪さが理由だったっけ。確かシチュエーションもこんな感じだった。

 

「ほんとごめんだけど、そんなつもり無かったんだ。勘弁してよ、喧嘩とか危ないからさ。怪我しちゃうよ」

 

「んだよ……。目つきの割に随分と弱気な」

 

 うるせぇ。目つきは自然とこうなったんだから仕方ないやろがい。と内心で叫ぶ。声には出さない。だって、声に出したらもっと面倒なことになりそうだし。

 しかし、助けておまわりさーん!をやるのもなんかダサい。それに万が一、病院や父さんに話が伝わるのは避けたい。

 

 別に適当な言葉を並べて乗り切るのも良いが、ここは地元である以上、また鉢合わせるかも知れないし、その時に再度絡まれるのは面倒だ。かと言って、痛め付けるのは良くないだろう。

 絡まれたからと言って殴り掛かっていては、成長がない。喧嘩ばかりしていたあの頃とは違い、言葉や行動、実力を見せて黙らせる術を今の俺は持っている。

 

 経験上、この手の輩は明確な力の差が判れば近づいて来なくなる。彼らの土俵で、彼らに暴力を振るうことなく、明確に力の差を理解させる方法。

 別に緊急時でもないし、クラップスタナーを使うのは避けたい。そんなことを思いながら店の中を眺めるとふと、良さげなゲームを見つけた。カルマと1回だけやったことがある。

 

「あの、喧嘩とは嫌だけど、代わりにアレで勝負しない?」

 

「アレ?………パンチングマシーン?」

 

「ですです。アレでこっちのレコードがそっちより低かったら、なんでも言うこと聞くからさ。こっちが勝ったら2度と突っかかってこないでくれるかな?」

 

「おい、なんか喧嘩嫌だとか言ってる割に妙に喧嘩腰で強気だぞ、コイツ……。なんか矛盾してね?」

 

 だってお前ら人の話聞かないじゃん。今までこの手の相手に何度話し合いを持ちかけてスルーされたことか。

 結局のところ、実力行使が一番手っ取り早い。が、今後の課題は実力差を見せることすらせずにスマートに解決できる様になる事だな。言葉で丸め込み、それでいてもう絡もうとは思えない印象を残す。そんな芸当もできる様になりたいもんだ。

 

「大丈夫だよ。かれこれ1週間くらい入院してたからかなり筋力衰えちゃってさ。大した記録も出ないと思うし」

 

「入院……?いや、なんでそんな奴がこんな所にいるんだよ?」

 

「良くなってきたから気分転換に散歩しようと思ってさ。入院する前に死ぬかも知れないって診断されてね。随分前にこの街から引っ越したんで故郷が懐かしくて見て回ってたんだ。私生活でも悩み事が多くてついぼーっしちゃってね。何気なく眺めてた先に君らがいて、こんなことになったんだけど」

 

「……にしたって目つき悪過ぎだろ。どんなこと考えてたんだよ。いや、余命宣告?されたらそうなるのかもしんねぇけど」

 

「将来についてさ。10年以上まともに会話したことがなかった父さんと話せる様になって、自分の進路について考える機会ができてさ。目つきに関しては大目に見て欲しいかな。家族との不仲、周りとの軋轢で気が付けばこんなになっちゃって。今回見たいによくヤンキーに絡まれるんだわ」

 

「……………なぁ、もう放っといてやんね?」

 

「……………だな。なんか可哀想だわ」

 

 あれ。なんかヤンキーたちの反応が妙だ。

 好戦的で高圧的な態度はなりを潜め、可哀想な奴を見る目というか、なんとなく慈悲のようなものを感じさせる目に変わった。

 

 コイツら実はベタなヤンキーなのか。雨降る帰り道に見つけた子猫を拾って帰ってしまう系のやつらなのか。

 

「あー、その、なんだ。悪かった」

 

「いえいえ。こっちも次から誰かを見てると思われない様にポケーっと口を半開きにしながら斜め上を見る様にするよ」

 

「それはそれで周りから心配されると思う……」

 

 最近の不良は意外と話せば分かるらしい。

 俺ってばコミュニケーションレベル上がったんじゃない?コミュ障からコミュニケーションマスターに進化できるのでは?

 

 さて、しかし、それはそれとして消化不良だ。

 

 別に喧嘩したかった訳じゃないが、ヤンキーに絡まれたり、パンチングマシーンを見て懐かしくなってしまったのは事実。

 

 ここまで来たら一度くらいやってみるか。

 

「呼び止めて悪かった………ってどこに行く」

 

「折角だし、一回くらい挑戦してみようと思って」

 

「ふーん……。やめといた方がいいと思うぞ。殴り方知らないと手首痛めたりするし。入院してるんだろ?」

 

「そうだぜ。折角話せるようになった親父さんに心配かけるの良くねぇって。遊ぶなら別のにしておけよ」

 

「いや、お前ら優しいかよ。ヤンキーさながらに因縁つけて絡んで来た癖にどう言う心境の移り変わりだよ」  

 

「………別に俺らヤンキーじゃねぇよ。ちと部活で色々あってストレス発散したかっただけだ。上手くいかないことがあってよ。全国にギリギリで行けなかったんだよ。んで、引退が決まって、やさぐれてただけだ」

 

 その一言を受けてなんとなく彼らを観察してみると、確かにスポーツマンの様な特徴が見える。短髪と言うには短すぎるが、坊主というには長い。部活を引退して髪が延びてきたってところか。よく見るとガタイも良い。脂肪ではない厚みがある。

 

「まあ、余命宣告みたいなの受けた上に、10年以上家族と不仲で、周りと軋轢があって、将来に不安を抱えて、入院中とか言う激重属性持ちにあったらなんか馬鹿馬鹿しくなったけどな」

 

 うーん。こうして自分のこれまでを列挙されると確かに属性が重いな、俺。ここに母と生後間も無く死別、学校全体から差別され、国の陰謀で暗殺者になる、とか更にヤバい属性を追加できそうなんだから恐ろしい。

 

「そうか。俺の境遇が立ち直るきっかけになれそうなら良かったよ。あ、それと、パンチングマシーンに挑戦するのは初めてじゃないからそんな気にしてくれなくて良いよ。なんとなく懐かしくなってやりたくなっただけ」

 

 でもまあ、何気なく語った過去が『コイツよりはマシ』と受け取られて誰かの立ち上がるきっかけになるなら良いか。

 俺はそこまで伝えると、彼らの横を通り抜けてマシーンの前まで来た。いくつか静止の声があったが、止まる気がないと伝わったのか、その場の流れで彼らも付いてきた。

 

 ふむ。見たところ起き上がり式だな。ゲーム機の的を殴り倒して、的が倒れる速度でパンチ力を測るヤツだ。

 規定の料金を入れて、備え付けられたグローブをはめる。自分のコンディションを測るには良い指標だ。不良時代にカルマとやった時に比べて記録はどう変動するのか。母さんから遺伝した人体強化の影響があるにしろ、その数日の入院生活でどれだけ鈍ったのか確認するにしろ、な。

 

「前にやったとか言ってたな。その時の記録は?」

 

「去年のちょうど今頃。確か、189とかだったな」

 

「…………………いや、バケモンかよ」

 

「別にそうでもないだろ。友達も180代出してたし」

 

 あの時は確かカルマと賭けてたんだ。んでアイツより数値が高くて、アイス奢って貰ったんだったかな。

 ま、色々とイレギュラーはあるが、自分の成長を確認できる良い機会だ。ゾーンに入らない程度に全力でやろう。

 

「ッ…………!」

 

 マシーンの前に立ち、感触を確かめる様に数度、グローブを手に打ち付けてから、拳を振り被る。

 思えば、何かを殴るのも久しぶりだ。鷹岡以来だろうか?殴るのが好きと言うわけではないが、腕が鳴る。

 

 振りかぶったを真っ直ぐ正面へと撃ち抜く。

 ズパコーン!という快音がゲームセンター内に響く。この店内にいた凡ゆる人々の視線を独占する。

 響き、轟いた破裂音に驚きから視線を向ける者たちの顔が驚愕に変わる。特に俺に付いてきた運動部の人たちを始めとした俺の後ろ辺りにいた者が顕著だ。

 

「………………マジかよ」

 

 そのあからさまにドン引きした声は誰のものだったか。一瞬の静寂の後、パタパタと店員が走ってくる。

 そして、店員もまたゲーム機の前に来ると呆気に取られた様に立ち尽くし、拳を振り抜いたままの姿勢で固まる俺とつい数秒前の形を保っていないパンチングマシーンを見比べた。

 

 俺自身、驚いた。目の前のゲームはもはやその役目を果たすことが出来ない状態へと変わってしまっていた。

 拳を振り抜いた時、違和感があった。何故なら、殴った筈なのに全く手応えがなかったからである。

 

 殴り、違和感を覚え、脳裏に疑問符が浮かんだ刹那。轟音と共に的だった物は根本から雑草でも引っこ抜いた見たいにケーブルをむき出しにして浮き上がり、ぶっ飛び、これまでの最高記録を記していた画面にめり込んだ。

 

 驚いた。それはもう驚いた。一瞬、現実が理解できなくて頭の中が真っ白になった程だ。

 父さんに身体強化の話をされ、常人より少し身体能力が高い自覚はあった。でも、そんなに決定的なものではなく、精々特に鍛えたりしなくても力が少しだけ強いとか、そんな程度だと思っていた。でも、意識していたのは本当にその程度だった。

 

 自分の身体能力は知っている。特にゾーンを使っている時なんかは、周りにとって瞬間移動してるに等しい速度で動いているらしいことは普久間島で悟った。

 でも、ゾーンを使っていない時は大したことがないと思っていた。中学生以上、烏間先生未満みたいなもんだと思い込んでいた。だって、これまでの生活で自分の身体能力にびっくりするほどのことがなかったから。

 

 結論、何が言いたいのかと言えば。

 こんなつもりはなかったんです、ごめんなさい。

 

「お、お客様……。お怪我はありませんか?」

 

 口元をヒクヒクさせた店員が聞いてくる。

 この状況で客の心配をする店員の鏡である。

 

「ご、ごめんなさい………。その、あの、こんなつもりはなかったんです。えっと、これって………あはは、べ、弁償ですかね」

 

「えー、えー……。あー……。こちらのマシーンもだいぶ古いものでして、経年劣化から衝撃に耐えられなかった……などと言うことも…………ありえるのかなぁ………?いや……、あー……。念の為の確認なのですが、お客様、これと言ってドーピングの類い………いやー………。ハンマーなど道具を使った訳では無いんですよね……?」

 

「あっ、それは自分らが見てました。彼は特に何か飲んだり、食べたり、使ったりしていません」

 

「あー……。あー……。そ、そうですか。えっと、で、でしたらお気になさらないでください………。特に悪意なども無い様ですし……、じ、事故ということで……」

 

「分かりましたっ!お騒がせしてしまいすみませんでしたぁっ!ほら、行くぞ白髪頭!お前も頭下げろ!」

 

「えっ!?あっ、すみませんでした〜!?」

 

 彼らに腕を引っ張られ、何が何だか理解が追いつかないうちにゲームセンターの外に連れ出された俺は、彼らに引き摺られながら逃げる様にして、この場を後にした。

 

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「コォォォォホォォォォォ……コォォォォ」

 

「暗黒卿なのか波紋なのか分かりづらい呼吸すんな」

 

「仕方ないやろが。こちとら走ること自体久しぶりだっつうの……!帰宅部の体力多めに見てるんじゃねぇぞ」

 

「どんな怒り方だよ」

 

 なんだかんだ言って、この運動部員達に連れられて随分と遠くまで来た。時間はまだ余裕だが、やはり体力的にキツイか。

 ぜぇぜぇと息を切らしながら彼らを見る。流石に運動部なだけあって、息自体は直ぐに整えて余裕そうにしていた。

 

「にしてもすげ〜パンチだったな。実はボクサーとかだったりしないの、お前。出鱈目すぎんだろ」

 

「だよな、俺、ちょっとチビったもん」

 

「うわ汚ったねぇな。でもまあ、気持ちは分かる。あのまま喧嘩してたら俺ら殺されてたんじゃねぇ?」

 

「流石に殺したりしねぇわ。俺をなんだと思ってんだ」

 

「化け物」

 

「怪物」

 

「………若白髪?」

 

「コイツら……」

 

 失礼すぎるだろ。つか、何気なく馴染んでる俺もなんなんだよ。出会ってまだ10分弱だぞ。

 

「白髪というか、お前の銀髪で思い出したわ。そう言えば東京の方に"銀の死神"とか言う不良いるらしいな」

 

「あったなぁ、そんな都市伝説。デマだろ」

 

「そんな噂あったな。不良100人を全部一撃で倒したとか。しかもネットの都市伝説になってたんだけどさ、沖縄のホテルでヤクザとかチンピラとかをぶっ倒した中学生くらいの子供がいたらしいぞ。そんな中に銀髪の奴がいたとか」

 

「へ、へぇ……」

 

 都市伝説になってるのか。なんか色々と誇張されてるし。

 つーか、どこまで独り歩きしてるんだよ"銀の死神"。

 

「案外、銀髪って多いのかもな」

 

「………かもな。俺の同級生にもいるし」

 

 菅谷。アイツも銀髪と言えるだろう。しかし、こんだけいろんな噂が独り歩きしていると、同じ髪色だからとアイツにまで要らない影響を与えていないかが心配だな。

 

「あーあ、にしても濃過ぎる放課後だったわ。むしゃくしゃして絡んだ奴がメチャクチャな境遇の奴で、その上パンチングマシーンをぶっ壊すバケモンとか。ここ最近であった出来事で一番衝撃的だった。やばすぎんだろ」

 

「それな。なんか色々とどうでも良くなっちまった」

 

「………あぁ。なんか、県大会くらいで落ち込んでたのが馬鹿馬鹿しくなった。こんな無茶苦茶な奴がいたんだな」

 

 出会ってから現在に至るまでの十数分を思い返してしみじみしている。でもまぁ、わからなくは無い。ゲーセンで出会った目つきの悪い奴が急にゲームを殴り壊したとか驚くだろう。

 

 しかし、少しだけ興味が出てきた。出会ってたかが数分ではあるが、やさぐれていたり、ヤンキー風なことをしていたり。接してみると案外、気のいい奴らだと思うのに。

 

「なぁ、お前らはなんであんなヤンキーみたいなことしてたんだよ?全国行けなかったってのはさっき聞いたけど、本当にそれだけか?答えたくないならいいけどさ」

 

「……なんでそう思うんだよ?」

 

「そうだな……。大会で負けてイライラしてるっては分かった。んで、"上手くいかないことがあった"って言ってた。だから俺に絡んできたと。でも、負けてイライラして他人に当ろうとしてた割に"アイツの所為で負けた"って言葉は出てこない。だから、なんかあったのかなって思っただけだよ」

 

「エスパーかよ……?でもまぁ………外れちゃいないが」

 

 こちらの指摘に何処となくリーダー風な奴が頭を掻いて、何度か俯いた後、観念した様に口を開いた。

 

「まあ、お前に八つ当たりしようとしてた訳だし、知る権利はある……。俺は佐藤、コイツは山田で、こっちが桜井だ」

 

 佐藤と名乗った男は気まずそうだった。

 そんな俺の内情を察したのか、彼は渋々、何処か苦虫を噛み潰した様な表情で一言だけ断りを入れる。

 

「最初に言っておくと、俺が情けないだけの話なんだよ。コイツらはストレス発散に付き合ってくれてるだけ」

 

「情けない話の一つや二つくらい誰にでもある」

 

 どっかで聞いた様な話だった。と言うか、似た様な言い回しで弱音をぶちまけた銀髪のファザコンを知ってる。

 

「……俺達は野球部なんだ。この辺じゃ強豪校扱いされてて、俺たちは昔から少年野球チームに入ってて。部活でも一年の頃からレギュラーとして出させて貰ってた」

 

「凄いじゃんか。強豪校ならライバル多いだろ。努力の賜物だよ、それの何処が情けないんだ?」

 

「情けないのは……俺の境遇なんだ。実は部活の顧問は俺の親父なんだよ。昔から野球好きの親父に憧れて野球してた。正式にチームに入って野球を始めたのは小学生の頃なんだけど。親父に教えて貰ってたからか、自分で言うのもなんだけどよ、俺は周りより少し上手かったんだ」

 

 遠い目をしながら苦々しく語る佐藤。

 まあ、珍しい話ではないだろう。親に憧れて同じものを志すのは良くある話だと思う。けど、何故だろう。ありふれた話だと思うのに、出会ったばかりなのに親近感の様なものを感じた。

 

「当時の監督がさ、親父と知り合いで。良く褒めてくれたんだ。『お前は筋がいい。流石、佐藤先生のお子さんだな』って」

 

「ぁ……」

 

 なるほど、親近感の理由が分かった。有名で、優秀で、偉大な親を持つ子供にとって呪いとも言えるその言葉だった。

 

「そんな何気ない監督の言葉は周りの奴らも聞いてた。チームメイト達は期待してくれたよ。頼りにもされた。俺はそれが嬉しかったんだ。親父と並べられて認められてる気がしてさ。だから頑張った。チームを卒業して中学に上がっても、それは変わらなかった。頑張りも、周りの評価もさ」

 

 山田と桜井はいわゆる幼馴染という奴なんだろう。彼らも思い出す様な表情をしていた。

 

「でも、中学生になると少しだけ周りからの目が厳しくなった。先輩達もいる中で一年生がレギュラー。その親は監督。まあ、贔屓だって言われたよ。嫌がらせはなかったと思うけど、見えない所で言われるチクチク言葉みたいなのが刺さって痛かった」

 

「……当時は酷かったな」

 

「あぁ。試合で結果を出してたからイジメにはならなかったんだろうけど、当時、あれで何かケアレスミスでもしてたら悲惨なことになってただろうな」

 

「そんなに酷かったのか」

 

「まぁな。レギュラーに選ばれれば贔屓、結果を出せば監督の子供なんだからある程度出来るのは当たり前って言い草だった」

 

 確かに胸糞悪い話だ。なんとなく、身に覚えがあるからか、ますます親近感が湧く。他人事と切り捨てるのが憚られる。

 

「努力はしたんだ。でも、それを認めてくれる奴はいなかった。んで、そんなこんなで3年間、野球を続けて最後の大会を迎えた。県大会の決勝、最終回、あとワンアウトでゲームセット。点差は3点、満塁のツーストライク。なんか、スポ根物ではありふれた展開だろ?俺もそう思うし」

 

 苦笑しながら佐藤は続けた。

 

「ピッチャーは俺だった。後一回、抑えれば勝てる。そんな状況で俺は打たれた。さよならホームランだよ。最後の一投を投げた瞬間に分かった。『この球じゃ、駄目だ』ってさ」

 

 これも、何処かで聞いた話だ。

 やっぱり、そういうのは分かるもんなんだな。

 

「周りに失望の目を向けられたよ。『一年の頃からレギュラーやってた癖に』って実際に言われたこともあった。みんな『監督の子供なのにここ一番で負けた』とか思ってるんだろうさ」

 

「………なるほどな」

 

 心の底から共感した。言葉とそれを受けた年齢こそ違えど、彼は俺と同じだ。きっと彼から見たら違うのかも知れない。それこそ、話す様になってから間もなかった頃の俺と竹林の様に。

 なるほど。通りでシンパシーを覚えるわけだ。

 

「親父だってそう思ってるのかも知れない。そう思ったらさ、怖くて親父の顔も最近は見れてないんだ。一番手塩をかけて育てた選手がこの体たらくで失望してるんじゃないかってさ」

 

 うん。何から何まで割と重なる。

 コイツは先日までの俺と一緒だ。これまでの周りからの視線を気にして、自分に対して偏見を持って、相手を見てるつもりになって、考えてることを分かった気になって、目を逸らしてる。

 

 そう思ったら放っておけなくなった。

 

「そんなことないと思うぞ。だって実際に『お前には失望した』って言われた訳じゃないんだろ?」

 

「言われた訳じゃないけど……でも思ってるだろ」

 

「分からないぞ?お前がそうやって偏見を持ってる様に、親父さんだってなんかを考えてるかも知れない。決めつけて自暴自棄になってグレるにはまだ早いと思うぞ」

 

「っ、お前に何が……!」

 

 睨まれる。山田と桜井も似た様な反応だ。

 そりゃあそうだ。ポッと出のやつに知った様な口を叩かれたくないだろう。分かるさ。俺だって同じことを思ったんだから。

 

 だから、あの時にそれでも歩み寄ってくれたアイツの言葉を借りよう。そこに僅かに自分が気付いた事実を加えながら。

 

「分からねぇよ?俺はお前じゃないもん。じゃあ逆に聞くけどさ、お前は俺が何を考えてるか分かるか?」

 

「知るかよ……」

 

「だろうな。何も伝えてないんだから。そこでもう一度考えてみろよ、今のお前に対して親父さんが何を考えてるのか、本当に分かってるのか?今、こうして向かい合ってる俺のことすら分からないのに、顔を合わせてない親父さんのことが分かるのか?」

 

「それは……」

 

「顔を合わせるのが怖くて顔を見れてないって言ったのはお前だぞ?胸に手を当てて良く考えてみろ。思い出せ、たまたま顔を見た時でもいい。親父さんがどんな顔をしているのか」

 

「…………」

 

「どんな顔をしてる?怒ってるか?悲しんでるか?笑ってるか?困ってるか?」

 

「………分からない。顔を見てないんだから」

 

「なぁ、おい。もうよそうぜ。コイツやっぱりちょっと変だし!さっさと帰ろう、おかしいよ!」

 

 山田が俺を睨みながら佐藤の手を引いて去ろうとするが、肝心の本人は動こうとしない。手を引かれて一瞬体が傾いたけど、引かれる方に流れるのではなく、両足はしっかりその場に留まる。

 

 それがどんな意図なのかは分からない。でも、俺は構わず続けた。側から見たら俺はよく知らない相手に説教している痛い奴なんだろうけど。でも、目の前の以前の俺と同じことをしようとしてる奴を放っておきたくなかったから。

 

「親父さんだって同じなのかも知れないぞ?お前が顔を合わせてくれないから、お前が何を考えているのかが分からないのかも知れない。話したいのに、そこまで辿り着けてないのかも知れない。まずは相手を見てみろよ」

 

「……………」

 

「………………」

 

「話そうとした時、2人の間に流れる沈黙が怖いのも分かるぞ?でも、案外、相手もこっちの言葉を待ってるのかも知れないし、何を言えばいいのか考えて言葉を選んでるのかも知れない。グレるのはそれをやってからでも遅くないんじゃないかなって思う」

 

「………随分と、知った様な口ぶりだな」

 

 桜井が口を開いた。山田の様なこっちを警戒しているような口調ではなく、呆気に取られて思わず口から溢れでたかのような言葉。それに対して俺は少し戯けて返す。

 

「知ってるさ。うちの親父と俺がそうだった。すれ違い続けて14年、まともに言葉を交わしたのなんてつい2週間前だもの」

 

「何で……?どうしてそれが今更になってもう一度話してみようなんて気持ちになったんだよ?」

 

 佐藤が弱々しく言った。だから答えた。

 

「気付かせてくれる奴らが居た」

 

「それだけ?」

 

「あぁ。もっと周りを見ろって殴られて、怒鳴られた」

 

「それはなんとも強引だな……」

 

「だろ?情け容赦ないグーパンだぜ?まあ、俺はその後すぐ本番だったけど、いきなり親父に行くのが怖いなら、周りを見ることから始めたら?少なくともお前の両隣にもいるだろ。お前の話を聞いて、ヤンチャに付き合ってくれる奴が」

 

 佐藤が2人に視線を向けた。山田の奴もいつの間にかこの場を去ろうとする動作を止め、桜井は少し挙動不審に。何処となく気恥ずかしそうな顔で佐藤に視線を向けていた。

 

「相手の顔を見て、声を聞け。目は合うか、声は震えてないか。真意を探るのなんてこれくらいで事足りるからさ」

 

 言葉に偽りはない。誤魔化しだってない。全て、今回の出来事で俺が学んだことだ。それを糧に他人を導くなんて器用なこと、今の自分にはできないことは分かる。でも、俺なんかの言葉で少しでも前を向くきっかけになるのなら、嬉しいと思う。

 

「……もし、もしも、親父が怒ってたら?」

 

「そん時はグレればいいさ。次に繋げるために叱るなら兎も角、厳しい言葉を投げて怒るだけで何もしない奴なら尊敬する必要はない。お前は頑張った、努力もした。それを見ておきながら責任を1人に背負わせるチームメイトも監督も、相応しくない。ちょっとグレて別の視点から周りを見て、新しい居場所を見つければ良い。案外、その方が居心地良かったりするし」

 

 あっけらかんと言い放つ。

 

「お前のことを見ててくれた奴なんて沢山いるさ。多分な」

 

「そこは断言してくれないのかよ……?」

 

「自信のないことは断言しない。出来ないことも言わない。責任取れないからね。俺は出来ることしか言わない主義なのさ」

 

「……良い加減な奴」

 

「ほんとそれ。急に語り出したと思ったら最後だけめちゃくちゃ適当でやんの。そこまで言うなら断言しろや」

 

「つか、何者だよ。聞いた感じはタメなんだろうけどよ、なんか、言葉の一つ一つに実感がこもってるっつーか、重いよ」

 

 何者か。思い返せばこんな問いは初めてだ。

 今までは名乗ることなく絡まれてたし。なんだか新鮮な気分だ。どっかの頭脳は大人な小学生探偵の様に決め台詞の一つも言いたいところだが、生憎とそんなものを考えたことはない。

 

 しかし、ここで『椚ヶ丘中学校3年E組、乃咲です!』と名乗るのもなんか格好がつかない気がする。

 

 ちょっと考え、沈む夕日をみる。そろそろ戻った方がいい時間だろう。今後、コイツらと会うことはないかも知れないし、ちょっとくらい小っ恥ずかしいセリフを残して立ち去るのも良いだろう。

 

「……椚ヶ丘の"銀の死神"さ」

 

 出来るだけニヒルな顔を作ってそう名乗り、ポカンとする彼らの肩をポンと叩きながら、すれ違う様に交差し、3人の背中が向く方向へ歩く。

 

「………いや、ダサッ!!?」

 

「つかイタイッ!!?」

 

「何処に売ってるの、そのセンス!!?」

 

 再起動した3人のそんなツッコミをカーっと熱くなった顔で聞きながら、俺は羞恥に耐えられなくなり、無茶と分かっていながらゾーンを使って、足早にその場を去った。

 

「居ねぇっ!?」

 

「ちょっ!?何処に消えた!?」

 

「マジで何者だよ!?」

 

⬛︎

 

⬜︎

 

⬛︎

 

 草木も眠る丑三つ時。ベットの横に備え付けられた台に無造作に置かれたスマホの液晶が徐に輝き、告げる。

 

『記録、再生します。"……椚ヶ丘の"銀の死神"さ"』

 

「うるちゃい!律のバカ!意地悪!」

 

 その日は、布団を頭まで被って寝た。

 

【圭一弱点メモ③:過度の羞恥で幼児退行する】

 

 




あとがき

はい、後書きです。
長く続いた圭一の心情を書いたこの長編もあと3話で終了します。次回は圭一が例のあの人に相談を持ちかける!?

今回はここまでと言うことで、ご愛読ありがとうございます!
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