暗殺教室 不良児は認められたい   作:ZWAARD

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誤字撲滅運動は継続中です。
最初から読み直してみると、たまに『なんだこれ』となるのがあって驚いたり、誤字修正貰うたびに『こんな入力したっけか』となるのが悔しいですね……。


93話 泥棒の時間

 

「圭一の身体能力……ですか」

 

「えぇ。息子さんと話した時、あなたは"詳しいことはわからない"と言っていました。でも、それは裏を返せば……"大雑把なことは理解している"ということなのではないでしょうか?」

 

「…………その通りです。確かに私は大雑把な所までは把握しています。しかし、それを息子に伝えるつもりはない。あの子には一切の害はないし、詳細な内容を伝えることで圭一が生涯、周りと違う自分について思考を割く事を私は望みません。あの子には自由であって欲しいので。コレは譲りません」

 

「そうですか……。ですが、私にはあの子を守る義務と責任があります。少しだけで良いんです。圭一くんについて、教えてくださいませんか。それがあの子を守る一手になるかもしれない」

 

「………割と有名な話ですが、殺せんせーは、人の脳の大部分は使われていないと言う説と、人の筋肉は常にリミッターが掛けられているという話はご存知でしょうか?」

 

「はい。耳に挟んだことはあります」

 

「私はこの二つの説を肯定しています。身体に使われてない機能があるのなら、そこを司る脳だって同じように十全に動いていると言うことはない筈だ。人の体も所詮は電気信号で動く回路に過ぎない。強い電流なら出力は上がり、弱いのなら下がる。稼働率という意味では、出力が高い方が上であるのは自明の理であり、それを脳の使用状態に置き換えれば、脳の全てを使えてないとする説も少しは納得できるでしょうか」

 

「……えぇ。おっしゃる通りかと」

 

「圭一は、圭に施した手術の影響が強く出ています。細胞内でエネルギーの循環を作ることで代謝能力を向上させ、身体の維持、修復、強度をより効率的に行い、強靭な肉体を作る。これこそが私の研究内容であり、愚弟が求めた成果でした」

 

「だから、圭一くんは常人よりも強靭な肉体を持つと?」

 

「えぇ。身体を作る物質は変わりませんので、普通に怪我もしますが、それでも骨や筋肉の耐久力は常人のそれでは比較にならない程です。銃撃や刃物で襲われない限り、ちょっとやそっとでは骨や内臓に響くダメージは負わないでしょう」

 

「…………」

 

「時に殺せんせー。人が何故、無意識に筋力にリミッターを掛けているかご存知ですか?」

 

「そうしなければ身体が保たないからでしょう」

 

「その通り。では、質問です。その本来の力に耐えられるだけの肉体があれば、そのリミッターはどうなるでしょう?」

 

「…………そう言う事ですか」

 

「えぇ。あの子の身体は常人のそれよりも遥かに頑丈で、高い膂力も発揮できる。そして、その肉体が本来持つスペックだって同じ事。圭一は、その肉体の頑丈さ故に人並み以上の力を持った肉体本来の力を行使している……と言うのが私の考えです」

 

「なるほど………」

 

「加えて言うのなら、あなたとあの子が"ゾーン"と呼んでいる力。私は圭一に相対性理論を用いて原理を説明しましたが、これまで話した仮説を紐付けるなら、筋肉が本来の力を使われるようになったことでそこを制御する脳も最大限使用され、情報の処理能力が上がった結果、何もかもが止まって見える程の速度に脳が追いつき、時間が止まったかのような世界で活動出来るようになった、と言うのが真相だと睨んでいます」

 

「…………乃咲くんにこのことは?」

 

「言ったでしょう。伝えるつもりはありません。どんなに肉体が強靭で、人並外れたチカラを持っていても、あの子は私の息子だ。ある種の護身として自分の能力を自覚させる為にこの前は色々と話はしましたが、こんな"お前は普通じゃない"と突きつけるような真似をしたくはない。それに、生きるのに知らなくても特に不利益はないでしょう」

 

「同感です……。今、彼が持っている認識は確かに何も間違ってはいない。ほんの少し、足らないだけだ。今日はお時間ありがとうございました。学校での彼のことはお任せください」

 

「えぇ。頼りにしています。息子を導いてやってください」

 

⬛︎

 

⬜︎

 

⬛︎

 

 あの恐怖と驚きに満ちたケイドロから数日。

 今日も今日とで朝練だ。体力作りは積極的に。烏間先生から、山の中であればフリーランニングの練習も良いと許可を貰ったので走り込みを兼ねて山の中を跳び回る。

 

 自分で言うのもなんだが、3年生が始まった頃に比べて身体もかなり出来上がってきたと思う。昨日、風呂に入って何気なく鏡を見たら、筋肉で薄ら体に影が出来てたりして驚いた。

 今ならこの体だけでプールに蔓延るかわい子ちゃんたちを落とせるのではないだろうか?とナルシズムに浸りたくなる。

 

 まぁ、もっとも。そんなんでモテるなら今頃彼女の1人や2人くらいいても良い筈なので、甘い幻想からは目を逸らす。

 あーあ。ほんと、良い加減に恋人の1人や2人、作ってみたいものである。2人は不味いだろうというツッコミがありそうだが、それくらい思ってるってことでここは一つ。

 

「今朝はこのくらいにしておくか」

 

 一通り走り回って満足した。予め準備しておいたタオルと昨日ビッチ先生と前原からモテる男御用達と激推しされた制汗スプレーをばら撒く。いまいち一度の使用目安がわからないな。

 

「あれ、乃咲じゃん。朝練おわったの?」

 

 校舎に入ろうと歩いてると茅野が居た。

 

「……ん?スンスン………なんか良い匂いする。乃咲、スプレーなんて使うようになったの?」

 

「うちのモテる二大巨頭に激推しされてな。まぁ、確かにこの季節で汗だくのまま授業を受け続けるのもな、と」

 

「へぇ〜。随分とおしゃれさんになったもんだ」

 

 軽い雑談をしていると、ふと、茅野が何か思い出したみたいに顔を上げた。

 

「あ、そういえば知ってる?変態の噂」

 

「変態……?女装してケーキバイキングに行く教師と夜の校庭を奇声上げながら走り回る変態の2人いるけどどっち?」

 

「ティッシュを天ぷらにして食べてる方。……って言うか、もう一つの方は私も初耳なんだけど!?」

 

「俺も噂で聞いた事があるくらいだからな。詳しくは知らん。ただ、夜にE組のグラウンドに行くと全裸ネクタイの不審者が走り回ってるって噂だ。怖いよな」

 

「普通にホラーなんだけど……。え、なんか校舎使うのも怖くなるじゃん、やめてよそう言うの……。って、そうじゃなくて、なんかね、街中で変な噂が出てるんだよ。多発する巨乳専門の下着ドロ!ってそんな感じの噂」

 

「巨乳専門ねぇ……。まぁ、茅野が被害に遭うことはなさそうだからひとまず安心じゃない?」

 

「うん………って!誰が貧乳かぁぁぁぁ!思わずホッとした自分が一番憎いんだけど!!?私にだって胸くらいありますぅぅぅ!A!Aはあるもん!!」

 

「うんうん、そうだな、成長率の話だろ?成長性Aってすごい高ランクだよな。頑張れ頑張れ」

 

「そうだよ!AカップのAは成長性AランクのAなんだから!」

 

「うんうん。矢田さんとかもう成長しなさそうだよな。成長性とカップ数は同位の関係にあるもんな。知ってる知ってる。同じ中学3年同士だけど仕方ないよな、頑張れ頑張れ」

 

「私はまだまだ成長期っ………って、あれ?ねぇ、もしかしてバカにしてない?バカにしてるよね!?」

 

「今日のパンデモニウムは何色かなぁ〜」

 

「無視すんなコラァァァァア!」

 

 横でぎゃいぎゃい騒ぐ茅野を他所に教室に入ると、そこにはいつもと違う空気があった。

 普段なら教室に入ると誰ともなく、おはよー!と挨拶が飛んでくるのだが、今日に限ってはそんなことはなかった。

 

「……なんか、変な雰囲気だね。何かあった?」

 

 そんな空気を彼女も感じ取ったのか、質問を投げかける茅野。それに反応したのは倉橋さんだった。

 教室の中に出来ていた人溜まり、その中心にあったものを持ってパタパタとこっちに駆け寄ってくる。

 

「おはよう、圭ちゃん、カエデちゃん。実はさ、大変なことになってて………。この記事なんだけど」

 

 差し出されたのは一枚の新聞。その中腹あたりにデカデカと大見出しで『下着ドロ再び出没!!』と掲示されていた。

 

「再びって……前もあったのか」

 

「乃咲、そこじゃないよ。ほら」

 

 茅野がツッコミながら記事の一部を指差す。そこには、字面としては初めてみるが、声としては聞き慣れた特徴のある笑い声と、あまりにも見慣れた特徴の不審者の情報があった。

 

「深夜に響く黄色い男の『ヌルフフフ』?多発する巨乳専門の下着ドロ、犯人は黄色い頭の大男、ヌルフフフと笑い、現場には謎の粘液を残す…………。巨乳専門の下着ドロってさっき茅野が言ってた?」

 

「うん、これのことかも。でも、他の特徴までは知らなかった。これ………殺せんせーの特徴そのものじゃない?」

 

「そうなんだよね……。だからみんな驚いてて」

 

 倉橋さんから動揺が伝わってくる。

 他のみんなも波長を見るまでもなく、明らかに動揺していて、信じたくないと思っていても、特徴があまりにも酷似しているから、もうそれしかないと半ば諦めてる様子すらある。

 

「おはようございます……って、汚物を見る目!!?」

 

 そんなみんなの心情を知ってか知らずか、殺せんせーはいつもと変わらない様子で通勤してきた。そして、教室に入ると同時に向けられた無数の冷たい目に刺され、驚愕の声を上げていた。

 

 状況が飲み込めてないみたいなので、新聞をそのまま殺せんせーにパスすると、数秒もしないうちに顔が青くなった。

 

「これ、完全に殺せんせーよね」

 

「正直ガッカリだよ………こんなことしてたなんて」

 

「ちょっ、何が何やら……!?」

 

 みんな新聞に書かれてる特徴を見て、犯人は殺せんせーしかいないと思ってるらしい。

 まぁ、無理もない。ヌルフフフ、なんて特徴しかない笑い方をするのはこの人しかいないし、黄色い頭と粘液ってのがみんなの疑念を確固たるものにしてしまってる様に思えた。

 

 しかし、そんな中でも我らの頼れる悠馬委員長は立ち上がるのである。確固たる意志と先生への信頼を武器に。

 

「待てよ皆んな!決めつけてかかるなんてひどいだろ!殺せんせーは確かに小さい煩悩はめちゃくちゃあるよ。でも、精々やった事と言えば、赴任当初のビッチ先生に鼻の下伸ばしてたり、エロ本拾い読みしたり、水着生写真で買収されたり、休み時間中狂った様にグラビアに見入ってたり、『手ブラじゃ生ぬるい、私に触手ブラをさせて下さい』とか要望ハガキ出してたり……」

 

「バチくそ黒じゃねぇか」

 

 思わずツッコミが出た。悠馬の援護射撃をしようとしたが出てくる情報があまりにも黒いものばかりで思わず。

 

「くっ……………自首してください、殺せんせー………」

 

 苦い顔で全身を悔しさで震わせながら震える声で諦めるように俯きながら言い放った悠馬。

 

「悠馬、お前は頑張ったよ。流石に日頃の行いが悪い」

 

「い、磯貝くんと乃咲くんまで!!?」

 

 思わず悠馬の肩を叩きながら励ます。

 殺せんせーも流石に悠馬に切られるとショックなのか、流石に心外そうに大声を出して弁明した。

 

「先生は潔白です!失礼な!!いいでしょう、準備室まで来なさい、先生の理性の強さを証明する為、持ってるグラビアを全て処分します!!」

 

「……理性が強い教師というか、人間はそもそも職員室にグラビアを持ち込んだりしないってのは野暮か?」

 

「まぁ、決意表明みたいなもんじゃない……?」

 

 倉橋さんも流石に苦笑している。

 

 一部を残して殺せんせーの後に着いていくと、彼は宣言通り、自分の机の一番大きな引き出しに入れていたグラビアを一心不乱に全部ゴミ袋へ突っ込んでいた。

 まぁ、一番下の一番深くて大きな引き出しが雑誌の海になるほどグラビアを溜め込んでいたことに関しては何も言うまい。

 

「ほら見なさい!机の中を全て出し………て…………」

 

 そんな動きの中、触手が何かを掴んだらしく、グラビアの海から釣りでもしているみたいにそれをあげる。

 触手が机の中から引っ張り出したもの。それはピンク色の女性ものの下着だった。それもさっきの記事に違わず、確かにそれなりに大きいものを保持する為なのか、結構大きい。

 

「女子の下着ってあんな感じなのか」

 

「圭ちゃん?」

 

「乃咲?」

 

「なんでもないです」

 

 要らん一言だったみたいだ。倉橋さんと茅野から割と冷たい視線が飛んで来たので慌てて取り繕う。

 

 にしても、流石にあからさまだ。確かに殺せんせーなら机に入れたまま忘れてるなんてのはありそうだが、それでも流石にこの話題、この流れで本以外の何かがあったのなら、みんなにバレないように確認するだろう。

 

 それに、今の反応は本当に心当たりがない感じだった。

 多分、殺せんせーは白だな。日頃の行いがアレなので少しばかりみんなからの当たりが強いけど。

 

「ちょっと皆んな!これ見てよ!」

 

 今度は教室の方から岡野が走ってきた。

 手にはクラスの出席簿?

 

 俺たちの前まで走ってくると彼女は見せたいのであろうページを開くと一番近くにいた俺と倉橋さん、茅野の前に出した。

 一見、何の変哲もない出席簿だが、クラスの女子の欄の横にある空白スペースには謎のアルファベットがあった。加えて、何故だか茅野の横には『永遠の0』と映画のタイトルの様な文言が。

 

 なんだろう、このアルファベット。ざっくりあるのはA〜E。しかし、その振り分け方の法則が分からない。成績のランクみたいなものであるのなら、片岡がCで中村さんがDと言うのはおかしいと思う。ぱっと見、本当にわからない。

 岡野がAで倉橋さんがBと言うのもどう言う意味だ?加えて、茅野だ。永遠の0とはどう言う意味なんだろう……?

 

「クラスの女子の横に書いてるアルファベット……女子全員のカップ数が調べてあるよ……!!」

 

「ぶっ………!?」

 

 思わず吹き出す。

 思わずゾーンに入って思考を巡らせた上に名簿の内容がきっちり頭に焼きついてしまったじゃないか。

 

「……岡野よ」

 

「ん?なぁに、乃咲」

 

「…………それ、俺に見せても良かったのか。倉橋さんと茅野はともかく、俺、男子なんだけど、今、自分どころかクラスの女子全員の胸の大きさ、俺に公開しちゃってますが………」

 

「……………………〜〜〜〜ッッ!!この変態!!!」

 

「理不尽ッッッッ!!!!?」

 

 岡野から罵倒と共に拳が飛んでくる。

 理不尽だと思わないことはないが、まぁ、あまり男子に知られたくない内容ではあるだろうし、甘んじて受ける。

 

「け、圭ちゃん?大丈夫……?」

 

「大丈夫だよ、び………倉橋さん」

 

「ねぇ、Bって言いかけた?」

 

 そうか。倉橋さんはBなのか。

 

「いやいや!カップ数だとしてもなんなのよコレ!?私だけ永遠の0ってどう言う意味よ!?A!いや、び、Bはあるからっ!!」

 

 荒ぶる茅野。俺が見てしまったからか、何故だか俺に弁明する様に必死に胸を盛り、虚偽の申告をしていた。

 ひとまず落ち着かせた方がいいだろう。

 

「落ち着け胸も………茅野!」

 

「胸盛りって言いかけたよね!?なんか今日の乃咲、私に対しての切れ味鋭過ぎない?上げ底になんか恨みでもある!?」

 

「……ごめん。胸に対しては男として素直でありたいからさ。虚乳はやっぱり許せないんだ……」

 

「そんな譲れない主張を掲げながらシュンとしてもダメ……って、誰が虚乳の上げ底だって!?」

 

「上げ底は自分で白状したんだろうが」

 

 茅野、胸の話題になると暴走しがちだな。

 

 もうクラス名簿の方は見ない様にしながら出席簿を受け取り、ページを捲る。しばらくは特におかしな部分はなかったが、最後の方にとんでもないページがあった。

 

「ちょっ、何だこれ……!?」

 

 不意に覗き込んで来た前原がそのページを見て絶句した。

 それもそのはずだ。俺も流石に目を疑った。この出席簿の一番最後にあったのはこの街に住むFカップ以上の女子のリストだった。しかも、ご丁寧に住所まで書いてる。

 

「………まじかよ」

 

 流石の前原もドン引きしていた。

 

「そんな……バカな………」

 

「じゃあ、アリバイはあるの?殺せんせー。この新聞に載ってる事件があった時、何してた?」

 

 速水さんが救いの糸を垂らす。

 しかし、こと殺せんせーにおいてはアリバイは成立しないだろう。マッハ20なのだから、何処何処に居た、という証言は地球の裏側にでもいない限り成立させるのは難しい。

 

「何って、高度1万メートルから3万メートルの間を上ったり下がったりしながらシャカシャカポテトを振ってましたが」

 

「「「誰が証明できるんだよそれ!!?」」」

 

「つか、アリバイなんて意味ねぇよ」

 

「何処にいても大概は椚ヶ丘(この街)に戻って来れるしね」

 

 同じ意見の奴が他にも居たらしい。

 みんなの視線が改めて先生に刺さる。

 

 そんな刺々しい視線を受けて耐えきれなくなったのか、殺せんせーは必死にみんなの心を掴もうと冷蔵庫の横にあったクーラーボックスを持ち上げ、机の上に置いた。

 

「み、皆さん!バーベキューでもしませんか!?先生、放課後にやろうと思って食材とかいろいろと準備しておいたんです!」

 

「準備っていつ頃?」

 

「朝イチで仕入れて来ました!!」

 

 俺の質問にそう返すとクーラーボックスが開かれる。

 

「どうです?美味しそうで………」

 

 そして動きが止まった。

 彼の手に握られた串には肉でも野菜でもなく、相変わらずデカいブラジャーが刺さっていた。

 

「……やべぇぞ、こいつ」

 

「信じらんない………」

 

「不潔………」

 

 みんなの言葉が口々に殺せんせーを襲う。 

 流石の殺せんせーも肩身が狭そうだ。

 

——何と言うか、不快な光景だ。

 

「みんな。一旦落ち着こう。なんとなく、僕らは情報に流されすぎちゃいないか?僕はそんな気がする」

 

 竹林が一歩前に出て言う。

 やっぱり、こう言う時の冷静さは竹林の持ち味だな。すげぇ頼りになる。だから、その行動を追う様に俺も動く。

 

「ちょっと失礼」

 

 一言断りながら殺せんせーのクーラーボックスを覗く。

 そこには何と言うか、呆れるしかない光景があった。箱の中身はものの見事に巨大ブラジャーを突き刺した串で溢れている。

 

 一周回って笑いそうになるのを抑えて適当な串を一本拝借。

 

 手に持って観察してみる。

 まぁ、年若い女性のブラジャーなんて初めて見たのでぱっと見で違和感なんか気付けるはずがないのだが、朝イチで仕入れたにしては少しだけ妙な点がある。

 

「圭ちゃん……流石に触るのは……」

 

「倉橋さん、ちょっとこれ持って見てよ」

 

「えっ……?あ、えっと………はい」

 

 困惑しながら頷く倉橋さん。流石に抵抗があるのだろう。おずおずと受け取り、怪訝な顔をしていた。

 ついでに彼女の横で巨乳に対する憎悪を剥き出しにしている茅野にも一本、串を取り出して放り投げる。

 

 相変わらず、見た目によらない反射神経を見せた茅野はそれをキャッチ。食い破りかねない様子でブラを見つめる。

 

「………なんか気付かない?」

 

「なんかって言われても………」

 

 全員困惑顔だ。

 殺せんせーも、成り行きを見ていた先生方も。

 

「匂いがしないんだよ」

 

「……匂い?」

 

 匂いという単語に女子連中の株が一気に下がった気がするが、どうでもいいので構わずに言葉を続ける。

 

「殺せんせーは朝イチで仕入れたって言ってた。大体の家庭が朝一番でやるのって洗濯だよな?下着ドロも大体は洗濯物をターゲットにするだろ?断言はできないけどさ」

 

「まぁ、確かに」

 

「その上でもう一度聞くよ、倉橋さん、茅野。そのブラジャー、なんか変じゃないか?朝イチで仕入れた。仮に洗濯したモノを盗んだなら、なんで柔軟剤とか洗剤の匂いがしないんだ?」

 

「……あっ」

 

 そう、それが俺の気付いた妙な点だ。

 

「洗濯したてのものがこんなぎゅうぎゅうになってるならもっと洗剤とかの匂いがすると思うし、仮に使用後の下着なんだとしても、この季節で服の下に着けてるんだからそれなりに蒸れるだろ。汗臭くないどころか無臭であるわけがない。こんな敷き詰められてるなら尚更だ」

 

「……乃咲の言う通りかも」

 

 女子の中から片岡が俺の言葉に同意を示してくれた。

 

「それにだ。殺せんせー、ちょっと机の引き出し開けても?」

 

「……えぇ。構いません」

 

 殺せんせーの許可を得てから引き出しを開ける。

 

 そこにはやはりブラの海。だが、俺は以前、この引き出しの中身を見たことがあった。一番最初の合同暗殺の直前、ここに入れたまま忘れられていた殺せんせーの抜け殻の処分を買って出た時だ。あの時、この引き出しはこんな様子ではなかった。

 

「俺は前にこの引き出しの中を見たことがある。その時はこんな下着なんて入ってなかった。最近入れ始めたとか言う意見もあるかもだが、常習的に下着を入れてるなら、俺たちの前で無防備に引き出しとかを使うわけがないだろ。現に、先生は俺が開けるのを止めなかった。殺せんせーの性格なら不味いものが入ってたら真っ先になりふり構わず泣き叫びながら止めるはずだ」

 

「そう……だね」

 

「それに、このデカいブラ。この出席簿のリストとか見るにFカップ以上のが優先的に集められてるみたいだけどさ、Fカップもある人ってそんなに多いのか?しかもこんだけの下着を盗めるくらいにさ。仮にいたとしても、普通はもっと大事になってるだろ?粘液残して、変な笑い声が聞こえるとか都市伝説案件だ」

 

「……………確かにな」

 

「みんな、一旦冷静になれ。確かに殺せんせーの日頃の行いもあるだろうが、この人はこんなことしないだろ。仮にやる様な人だったとしたら下着ドロなんてちゃちな事じゃすまないだろ。マッハ20だぞ?やりようなんていくらでもある」

 

「……………だよな、俺だったら下着ドロなんかで満足せずに覗きとかに能力使うわ」

 

「………ごめんなさい、殺せんせー」

 

「私たち、情報に流され過ぎちゃった」

 

「い、いいえ。犯人の特徴が私と一致しているので仕方ありません。こちらこそ、朝からお騒がせしました。まさか私物がこれだけ細工されてるとは知りもしませんでした。不快な思いをさせてしまいましたねぇ」

 

 完全に容疑が晴れた訳ではないが、殺せんせーへのヘイトは大分マシになったようだ。

 確かに殺せんせーは奇天烈な言動をすることが多いし、言い訳しようがないことをたまにやってるのも事実だ。

 

 なにも殺せんせーへの風評被害を止めたいわけじゃない。俺だって彼の奇天烈な言動を揶揄うし、ネタにするし、こんなことやってそうだよな〜とか、そう言う会話もするから。

 

 でも、事実を捏造するのは違うだろ。

 

 殺せんせーはバカだし、エロいし、ゲスいこともする。俺たちはそれを弄りもする。だが、それは事実を捏造して殺せんせーを貶めていい理由にはならない。やってないことで肩身が狭くなるのは見ていて胸糞が悪くなる。

 

「律、被害者が住んでる場所で最寄りの監視カメラのハッキングと映像の閲覧はできるか?」

 

『はい、ハッキングは朝飯前ですし、映像も問題ありません。実行しますか?』

 

「やってくれ。映像で各現場に同じ背格好をしてる奴がいたらマークだ。そいつが真犯人である可能性がある」

 

『了解です♪なんか、乃咲さんらしくなってきましたね』

 

 律にやってもらいたい事を伝えて教室に戻る。

 

「乃咲……?怖い顔してる」

 

「圭ちゃん………?」

 

 振り向きざま、一番近くにいた茅野と倉橋さんに今の表情を見られたのか、心配そうに声をかけられる。

 

「まぁ、簡単に言うと——ライン越えだよ。犯人を潰す」

 

 口に出したからには実行する。

 俺は、放課後まで休み時間の度に情報収集に精を出した。

 

 




あとがき

はい、あとがきです。
キレた圭一。はてさてどうなるのか……。

殺せんせーのクーラーボックスや机の下着詰め合わせに関しては原作から外れた独自解釈が入ってますので悪しからず……。

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