暗殺教室 不良児は認められたい   作:ZWAARD

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加えてたくさんの感想、高評価ありがとうございます!

今回も投下致しますのでお付き合いください……。


96話 執着の時間

 

 迎えた放課後。殺せんせーとみんなでイトナを待ち受ける。予め目星を付けた店。そこは先んじて烏間先生に連絡し、無人になる様に手配してもらった。

 

 万が一にでも一般人に怪我人が出ない様にする配慮。烏間先生も今回のイトナの騒動に思うところがあるのか二つ返事で頷き、店内には店員を含めた一般人がいない状況を作り、代わりにショップ表には警備員に扮した烏間先生の部下を配置。

 

 イトナが現れたら、その警備員役が確保する。それが理想の流れだが……そう上手く事は運ばないだろう。

 俺たちも建物の死角になる位置に潜んで息を殺す。そうして数時間が経ち、日もすっかり沈んだ。辺りを照らすのが月明かりと電灯の明かりのみになった頃。やはりイトナは現れた。

 

 弾丸の様な跳躍を見せた彼は、触手を使って店の前に構えていた2人をガラスごと吹き飛ばし、1秒足らずで店内を破壊。何かをうわごとの様に粒やながら幽鬼のように電灯すら壊れた薄暗い店内に立ち尽くしていた。

 

「キレイ事も遠回りもいらない……。負け惜しみの強さなんて反吐が出る……!勝ちたい……!勝てる強さが欲しい……」

 

「………痛々しいな」

 

 口を吐いたのはオブラートなんて使うつもりのない感想。強さと勝利への渇望。それが鎖になってイトナを絡め取ろうとしている。そんな鎖に身を削られていく彼が痛々しい。

 

 本人は同情なんてされたくないだろうが、端的に言えば……今のイトナは可哀想だった。

 少し前のみんなも同じ想いだったのだろうか?止められても止まろうとしない、自分でもどうしたら良いのか分からない俺をみて、同じように複雑な気持ちを抱いていたのかな?

 

 そうにしろ、そうでないにしろ、今のイトナを取り逃してしまったら、もっと被害も大きくなるし、それ以上にイトナ自身も死んでしまうだろう。そうならない様に、彼が壊したドアや壁の代わりになる様に、退路を塞ぐ様にしてみんなで並び立つ。

 

「……やっと人間らしい顔が見れましたよ、イトナくん」

 

「……来たのか、兄さん」

 

「殺せんせーと呼んでください。私はキミの担任ですからね、生徒が苦しんでいるのであれば、手を差し伸べるのは当然です」

 

 諭すように語りかける殺せんせー。

 その後ろで、およそ俺たちの中では一番絡みが多かったであろう寺坂も不器用でぶっきらぼうながら、声をかける。

 

「負けたくらいで拗ねて暴れてんじゃねーぞ、イトナ。てめぇには色んなことされたけどよ、水に流してやるからこっちこいや」

 

 不器用でぶっきらぼう。だが、それはガキ大将気質の寺坂がさり気なく見せる度量の大きさでもある。

 

 でも、そんな言葉だけでは本当に追い詰められ、思考が偏った相手には届かない。仮に届いたとしても、行動を止めさせる程の力を持たない。イトナは止まらないだろう。

 

 そんな確信は現実のものとなる。

 フラフラで、メンテナンス不足、そして感情までもがぐちゃぐちゃになっている影響か、黒く染り、シナシナに萎びた触手をひゅんひゅんと鞭の様にしならせながら気力を振り絞る様にイトナは殺せんせーを睨む。

 

「うるさい……。勝負だ、今度こそ……勝ってみせる……!」

 

 勝利への執念。だがそれは、勝つ為の執念ではなく、勝つと言う行為への執念なのだろう。だから、こんなにも痛々しい。

 

「もちろん勝負は望むところです。ですが、お互いに国家機密の身。何処かの空き地でやりませんか?そして、暗殺(それ)が終わったら、その空き地でバーベキューでもしながら、みんなで先生の殺し方を勉強しましょう」

 

 殺せんせーは変わらない。この人の根底にあるのは、どんな状況でも俺たちを守り、教え、育てること。

 その為なら自分の危険なんて惜しまないし、自分を殺そうとした相手であっても全力で手入れして、もう一度立ち上がらせる。殺せんせーは死にたくないと言っておきながら、俺たちの成長に繋がるのなら、命を惜しまない。

 

 ここまでやって、それでもイトナを受け入れようとする殺せんせーに少し、絆されたのか、あるいは毒気を抜かれたのか、彼の触手に入っていた力が抜け、代わりにぐぅ〜と腹の虫が鳴いた。

 状況的に昨日の夜から何も食べてないんだろう。風呂にだって入れてないだろうし、案外、飯でも食って、風呂にゆっくり浸からせれば話し合いもできるかも知れない。

 

「そのタコしつこいよ〜?一度担任になったら地獄の果てまで教えにくるから」

 

「当然ですよ、目の前に生徒がいるのだから、教えたくなるのが先生の本能です」

 

「………」

 

 カルマと殺せんせーの言葉の緊張感の無さに完全に毒気を抜かれたのか、イトナはポカンとした表情を見せる。

 何となく、今の俺にはイトナの気持ちが分かるような気がする。一番最初の合同暗殺の時、決着がついた後、殺せんせーに言われた『目を逸らさない』という言葉。それをもらった時、きっと俺も似た様な顔をしていたから。

 

 駄目だな、なんか今日の俺はいつにも増して女々しい様な気がする。相手に自分を重ねて、しみじみと後方理解者の様に内心で同意して、納得している。

 きっとそれ自体は悪い事じゃない。相手のことを理解出来ている、あるいは理解しようとしていることの現れなのだろうから、それ自体は決して間違ったことじゃない。

 

 ただ、俺はこの時、気を抜いてしまった。

 このままならイトナを説得できるかも、などと気を抜いてしまった。学校で、シロの奴が何かをしでかすと読んでいたのに。

 

——それは、突然飛来した。

 

 気配がなかったと言うのは無理がある。ただ、気付かなかった。気を抜いてしまっていたから。

 何か変だと気づいたのは、それが投げ込まれて、爆裂した直後のこと。ボフッ!と粉塵が爆発する様に飛散する。

 

 辺り一面を白く染め上げる程の粉塵。

 

「うぅっ……!!!?」

 

 それが対先生物質出てきた粉塵だと気付いたのは、イトナの呻き声と、殺せんせーの巨大なシルエットがグズグズと解ける様に崩れるのを見てからのこと。

 

「イトナっ!」

 

 今のイトナの触手が壊れるのは不味いと聞いていたし、理解もしていた。だから少しでもダメージを抑える為に上着を脱いで、とっさに頭巾の様にイトナに被せる。

 

「大丈夫か!おい!?」

 

「頭が痛い……!触手に吸われる………!!」

 

 しかし、それでも少し遅かった。彼の触手は徐々に溶けつつある。苦しそうな呻き声をあげるイトナに困惑する。

 今まで、こんな風に苦しむ人を見たことがなかったから。こんな風に死にかけてる人を見たことがなかったから。死なせたくないなら守らないと、という思考が巡ると共に自分が何をしたら良いのかが分からなくなってパニックになりそうになる。

 

 混乱し、パニックで濁流する思考をゾーンに入って落ち着かせる。こんな時、どうすればいい?俺に何ができる?

 

 今日までに獲得してきた知識、技術、経験。それらを頭の中で検索して、最適な行動を練り上げる。

 そんな時、ふと殺せんせーやシロの言葉を思い出した。『触手は意思の強さで動かすもの』、『敗北のショックで触手の暴走が始まった』と。触手を深く知る2人は言った。

 

 触手のメンテナンスとやらが出来てない今、望みは薄いだろう。だが、何とかイトナの意思の強さを取り戻させるしかない。

 力に執着してる奴にこんな対応をするのはきっと間違っているのだろうが、それでもなにもしないよりはマシだろう。

 

 頭の中で浅野理事長のことを思い出す。

 今、俺に必要なのは彼の洗脳とも言える巧みな話術だ。それも感情に訴えかける言葉選びだけでなく、相手の心に潜り込むような、あのねっとりとイヤらしいつけ込む様な声音だ。

 

「……イトナ。落ち着け」

 

 かつて普久間島で千葉と速水さんにやったクラップスタナーの応用。相手の意識が乱れている時、波長が一番落ち着く瞬間を見計らって、激しく脈討つ動脈を軽く抑えて冷静さを取り戻させる技。まずはそれを使った。

 

 呼びかけながらイトナの首筋に触れる。

 

 軽く動脈を押さえつけてやると、俺の思惑通りに僅かに冷静さが戻ったのか、垂れ下がった触手の色がドス黒い漆黒から、白へと変わる。その理性を取り戻した僅かな隙を見逃さない。

 

「繰り返し言ってくれ。『俺は強い』」

 

「俺は………強い………」

 

「『こんなことじゃへこたれない』」

 

「こんなことじゃ……へこたれない……!」

 

『俺は大丈夫、俺はまだやれる』」

 

「俺は……大丈夫……!俺は……まだやれる……!」

 

 言葉というのは実際凄いものだ。

 他人に言われるだけじゃ頭に残るだけのものでも、口に出してみるとなんだが自分にも出来そうだと思えてしまう。

 

 例えば悩みを内心で溜め込むより、誰かに聞いてもらったほうがすっきりするのは、その方が気が楽になるのは勿論のと。実際に口に出して、自分の意思を再確認できるからなんじゃないだろうか。自分の言葉を自分の耳で聞く。

 人が、自分を納得させる為に思わず、無意識で考え事を口に出してしまうのもきっとそんな理屈なんじゃないかな。

 

 例えば、苦しい時、辛い時。自分を鼓舞する言葉が口から出てしまうのは、そうやって自分に言い聞かせる為だ。

 自分はまだやれる、まだ頑張れる。そうやって自分を強く思い込ませることを自己暗示という。

 

 思うに、理事長が度々見せる、あの洗脳染みた話術は彼の巧みな言葉選びによる印象操作と理屈と感情に訴えかける人心掌握、そして実際に口に出させて自分自身を騙す自己暗示によるものなんじゃないだろうか。

 

「そうだ。お前は強い、確かに殺せんせーを殺すことは出来なかったかも知れない。だが、お前は失敗してもへこたれなかった。手を変え、品を変え、お前は何度も立ち向かった。そして、昨日、殺せんせーに言わせたじゃないか。『夏休み前なら殺されていた』と。それはお前が失敗を繰り返して、それでも強くなった証拠だろ。お前は弱くなんかない」

 

「だけど……!俺は負けたっ、何度も何度も!」

 

「お前が失敗したのはたった3回だ。それに対して俺なんて2桁以上失敗してる。それでも失敗の度に反省して、より良い作戦を考えて、殺せんせーを追い込んだ。初めからやれる奴はいない。失敗しても懲りずに続けた奴が強くなるんだ。たった3回なんて失敗したうちに入らない」

 

「誠実に……努力を続けた人だけが強く……慣れる……」

 

「その通りだ。そして、努力を続けた人ってのがたった一度の失敗をしなかったと思うか?違うだろ。成功し続けるより、一度失敗してどん底を見た奴の方が絶対に強くなれる。どん底を知って、足掻くから良い結果を掴むんだ。お前は今、どん底にいるのかも知れない。だったら、もっと強くなれるはずだ。お前はまだ負けてない。最終的に殺せれば勝ちなんだ。諦めず、懲りず、足掻き続ければ、お前は負けなんかしない。絶対にだ!」

 

「俺は……負けてない………?」

 

 イトナの目に生気の様なものが戻る。

 あともう一踏ん張りか?我ながら詐欺師の才能でもあるんじゃないだろうか?よくもまぁ、口八丁にスラスラと。

 だが、今はその才能を行使して、イトナを引き止めないと。

 

 もう一踏ん張り、もう少し。

 そんな風に思った矢先のこと。

 

「やれやれ、御高説痛み入るよ」

 

 聞き覚えのある声と共に何が発射される音が聞こえた。 

 それが何なのか分からなかった俺は、反射的にイトナを殺せんせーのいる方へつき飛ばし、回避を試みる。

 しかし、それは一歩遅かった。気付いた時点でゾーンに入って動いていれば避けられただろう。イトナを突き飛ばす頃には既に回避不能な状況に陥ってしまっていた。

 

 これは、ゾーンの弱点だった。

 

 この力は回避にも攻撃にも使える。超スピードってのは1人で使う分には割と便利だ。しかし、あくまで1人用なのだ。便利であっても、決して万能というわけではない。

 

 俺には殺せんせーの様な絶妙な力加減も出来なければ、触手で風圧を防げもしない。俺がゾーンに入って誰かを突き飛ばして庇うのは、超スピードでぶん殴られてるのと同じ。下手したら庇わない方がダメージがない可能性まである。

 

 抱き抱えて避けるのも現実的じゃない。弾丸すらほぼ止まって見える速度で無理矢理動かされたら体が保たないだろう。

 

 誰かを助けるには、ゾーンから出ている必要がある。

 

 この力(ゾーン)では誰かを守ることはできない。

 

 そんな俺の反省を他所に、俺の体は勢いよく飛んできた何かに押し倒された。

 

「ほんと、その口の上手さは誰に似たのかなぁ。しかもあの状態でイトナを庇うなんてね。まぁ、結果としては同じか」

 

 そんな声が聞こえた直後、倒れた体は何かに絡め取られ、何が何だか分からないまま、身体がすごい勢いで引き摺られる。

 

「ぐっぁっっっ!!?」

 

「圭ちゃん!!?」

 

「圭一っ!?」

 

 イトナの攻撃で破れたガラスの破片が体のあちこちに刺さり、瓦礫に体を打ち付け、僅かな段差で持ち上がる体がアスファルトの道路に打ち付けられ、ガリガリと勢いよく引き摺られる。

 

「追ってくるんだろう?担任の先生?」

 

 粉塵が晴れたのか、少し進んで粉塵を抜けたのか、俺はネットに絡め取られ、車で引き摺り回されてるらしかった。

 経験したことのない体験だ。普通に怖いし、体に刺さったガラス片が深く刺さり、血が流れる感覚と激痛が走る。

 

 何とか頭を守るが、アスファルトの凹凸で腕が負傷する。ネットがあるだけマシだが、それでも痛いもんは痛いし、怪我はするし、わけのわからない状況で泣きそうになる。

 

 ぶっちゃけ、泣きそうだし、漏らしそうだしで情緒はガタガタだが、こんな奴の前でそんな無様を晒してたまるか、という反骨精神だけが今の俺を支えていた。

 

⬛︎

 

⬜︎

 

⬛︎

 

「圭ちゃん!!?」

 

 粉塵が充満する前までそこに居た。そんな記憶に任せて手を伸ばすけど届かなかった。

 彼の声は私たちの足元を這う様にして移動していく。ガリガリとイヤな音を立てながら。そしてその場に響くエンジン音に私たちは圭ちゃんが攫われたと気付く。

 

 みんなで音のする方に走ると対先生物質の煙はなくなって、代わりに遠くでトラックから垂れ下がった網の中で引き摺られる圭ちゃんの姿が見えた。守る様に腕で頭を抱えてるけど、あれじゃあ手だって長く保たない……!

 

「落ち着けって磯貝!無闇に追っても追いつけねぇよ!」

 

「けど!!」

 

「すみません、みなさん!イトナくんを頼みます!!」

 

 走って追いかけようとする人達、それを宥める人達、そして、イトナくんを一旦置いて圭ちゃんを追いかける殺せんせー。

 私だって追いかけたいけど、今のままじゃ、彼らが何処に向かったのかすら分からない……。

 

 こんな時、圭ちゃんならどう考えるかな……?

 

 少し考えて、思い至る。

 いるじゃん、私たちのポケットの中に。

 

 スマホを取り出して律に呼びかける。

 

「律!圭ちゃんの現在地を辿って!」

 

『了解です!』

 

 敬礼した律が小さくなると、画面には地図が表示される。殺せんせーが追いついたのか、彼の反応はここから少し先に行った曲がり角の奥で止まっていた。

 

「よかった、今なら追いつけるよ!この先の角の奥!」

 

「よし!そう言うことなら磯貝を止める必要はねぇな!むしろ俺も滅茶苦茶頭に来てるしよぉ!あの白野郎め、調子乗りやがって!!いくぞ、みんな!今日こそ痛い目見せてやる!!」

 

「「「おおぉぉぉぉっっっっ!!!」」」

 

「……死んでないよね?乃咲」

 

「そうだね。仮に死んだら人質としての価値が無くなるし、殺しはしないと思う。仮に俺らの誰かが殺されたら……それこそ殺せんせーが黙ってないだろうしね。でも、死んでもおかしくないことされたよ。乃咲クンじゃないけど、流石にライン越え」

 

 カルマくんが怒り心頭と言った様子で宣言する。

 

「あいつら————ちょっとぶっ潰そうか」

 

 みんなに簡単な指示を出すカルマくん。そんなみんなを他所に、呆然とするイトナくんに歩み寄る人物がいた。

 

「おぅ、随分と派手にやられたなぁ、イトナ」

 

「……寺坂…………」

 

「俺らはあのいけすかねぇシロ野郎にお返しに行くけどよ、おめぇはどーすんだよ。このままイジけてケツを捲るんか?」

 

「………………俺は弱い……。シロに与えられたチャンスを何度も逃して、失敗して、弱いと見下した奴に守られた」

 

「んな自己評価はどーでもいいんだよ。てめぇはどーしてぇんだって聞いてんだ。失敗して、見限られて、見下した奴に守られて。そのまま引き下がんのかって聞いてんだよ」

 

「……良い訳がない。だが……もう、俺にはビジョンが持てない。何をやっても上手くいく気がしない………ぐぅっ……!?」

 

 少し落ち着いていた様子のイトナくんがまた苦しそうに頭を抱える。その様子にみんな思わず警戒を露わにするけど、寺坂くんは別に特別構えることもなく、彼に声をかけ続けていた。

 

「アホ。ビジョンなんて捨てちまえ。まずはがむしゃらにやってみんのよ。ここには俺らより(おつむ)のいい奴が沢山いやがるんだ。まずはそいつらの言葉を聞いて、どうやれば良いのかべんきょーすんだよ。そんでダメなら同じことを繰り返せば良い」

 

「だが………」

 

「意外とウジウジしててめんどくせぇ奴だな。乃咲も言ってたろうが。最終的にたった1回、あのタコを殺せれば勝ちなんだ。暗殺期限までまだ半年もある。1日1回チャンスがあると考えても180回以上やれんだよ、3回程度でびーびー言ってんじゃねぇ。懲りずに1日2回、3回って殺しに行けば、懲りなかった数だけチャンスが増えんだろうがよ」

 

「……無理だ。耐えられない。俺は次のビジョンが出来るまで俺は何をして過ごせば良い……。何度も失敗する惨めな時間の中で、俺は何をしていれば良いんだ……?」

 

「あん?焦らずバカやって過ごせば良いだろうが。メイド好き、特殊性癖持ち、野球バカ、プリン狂い、エアギター、萌え箱にその他大勢。多種多様なバカが揃ってんぜ?E組(うち)はよ」

 

「………俺は……焦っていたのか……?」

 

「………おう、だと思うぜ」

 

 イトナくんから力が抜けるのをみんな感じた。

 

「あのバカさぁ、平気であんな適当なこと言うけどさ。こう言う時、バカの一言は力を抜いてくれんだよ」

 

 珍しく茶化さなかったカルマくん。

 なんとなく、綺羅々ちゃんたち通称"寺坂組"がどうして彼と一緒にいるのか。どうして圭ちゃんがこの前のケイドロで彼をリーダー役に抜擢したのか分かった気がする。

 

「さて、話もまとまったみたいだし、そろそろ行こっか。イトナくんはそこで待ってなよ、あとでタコ連れて来るからさ」

 

 そう言い残してみんなで彼らを追いかけようとした時。

 

「まて」

 

 たった今、説得されたばかりの彼が制止した。

 

「俺もいく」

 

 そして、出てきたのは予想外の言葉。

 

「止めときなって。今、寺坂が言ったのはあくまでキミを落ち着かせる為の建前だ。アイツらのことだから対先生用の武器とか持ってるだろうし、イトナくんが行っても何の役にも立たない。最悪、そのまま触手を壊されて死ぬかもよ?」

 

 ズバズバとキツイことをいうけど、それは、彼を止めようとするカルマくんなりの優しさなのは分かっていた。

 

「あの銀髪は俺を庇って連れてかれた。借りを作りっぱなしなのは性に合わない。俺には触手があるからお前らより馬力はあるはずだ。それに………仮に死んだとしたら、その時はその時だ」

 

「………あ、そ。でもまぁ、死なれると夢見が悪くなるからねぇ。男子集合、上着脱いでも良い奴はコイツに貸してやって。布巻くだけでもないよりはマシでしょ」

 

「しゃーねぇ。ほら、触手だせよ」

 

「んだな。腐ってもクラスメイトだし」

 

「頼りにしてるぜ、イトナ」

 

「明日から学校来いよ?あ、昇降口からな。前みたいに壁をぶち破って登場とか勘弁しろよ?」

 

 男子たちが口々に小言や信用などを伝えながらイトナくんの触手に脱いだ上着を巻いて簡単な防具を作る。

 

「……生暖かくて気持ち悪い」

 

「「「「ぶっとばすぞテメェ!!?」」」」

 

 イトナくんから出た感想にすかさずツッコミを入れる男子たち。ほんと、仲が良いんだか、悪いんだか……。

 

「……だが、見合うだけの働きはする」

 

「……………おうよ、頼んだぜ」

 

 こうして、今、誘拐された圭ちゃんを除いた3年E組の生徒が全員集合した。仲間が拐われたこと、今日まで受けてきた仕打ちに対する報復などなど。みんなの士気は充分みたい。

 

 みんなが走り出す中、私も我先にと先頭を走った。

 

「っ…………」

 

 少し先に転々と続く赤い道。

 圭ちゃんが流しただろう、血痕を辿って。

 




あとがき

はい、あとがきです。

圭一のゾーンの弱点は、他人への応用が効かないところだと思うんですよねぇ。殺せんせーみたいに風圧を触手で防ぐとかも出来ないし、ゾーンに入って誰かを庇うくらいなら庇わない方が軽症で済むまであるのではないでしょうか………?

そして遂に理事長の洗脳みたいなことをやり出しましたが、言わずもがな、理事長のレベルには遠く及びません。意識の波長を見て、クラップスタナーの応用で相手を落ち着かせながら、相手の欲しい言葉を自己暗示させながら吹き込むのが今の圭一です。

コレだけのことをやっても、言葉だけで相手を洗脳させる理事長には敵わないという……。まぁ、圭一の洗脳の練度もまだまだ足りていないので、成長の余地はあるでしょうが………。どうなることやら。

ご愛読ありがとうございます!
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