加えてたくさんの高評価と感想ありがとうございます!
ぼちぼち100話を越えて1話から読むのも色々としんどくなって来たであろう今日この頃。それでも読んでくれる方がいるとモチベーションに繋がります……。
今回も投下しますのでお付き合いください……!
——追記——
4月27日、終盤の描写が足りてないと思ったので描写を追加しました。みなさま、ご迷惑をお掛けしております……。
「乃咲くん、とりあえず上着を脱いで下さい」
殺せんせーに言われるがまま、上着を脱ぐ。
もともと着ていた学校のシャツはイトナに貸していたし、残っていたのはインナーとして生きていたTシャツだけ。それすら脱いだ俺は上半身裸だった。
そして、脱いでみると体は思った以上に悲惨だった。
「こんな………!」
泣きそうな声が全てを語っていた。
全身擦傷だらけ。一番の重傷は腕だが、胴体も破れたガラスの破片で出来た切り傷とか、アスファルトを引き摺られて皮と肉が抉れていたり、散々だ。
それでも泣き叫ぶ程の頭がないのは興奮してアドレナリンが大量に出ていたからだろうか。
「…………乃咲くん。申し訳ありません。守るだのなんだのと抜かして置きながら、キミにこれだけの怪我を」
「先生は悪くないだろ、全部、あのクソ野郎の所為なんだから。誰が生徒がトラックに引き摺られるような事態を想定するってんだ。それに、俺もイトナも生きてる。傷だってある程度なら先生が治してくれるんだろ?」
「……はい」
イトナの手術が終わって間もないと言うのに、殺せんせーの触手が忙しなく動き始める。
このまま行けば、殺せんせーは傷跡一つ残すことなくこの怪我を治してくれるだろう。でも、それは待って欲しかった。
「殺せんせー。頼みが」
「えぇ。なんですか?」
「腕の傷、少しだけ残してくれませんか」
「何故です……?」
「……忘れたくないんです。俺がイトナにやったこと。何をどう言い繕っても、力を無理矢理奪ったことに変わりはない。確かに彼の命は救えたかも知れないけど、それでも、納得できないことってあるだろ」
「キミは最善を尽くしてくれました。それでは納得しきれませんか……?」
「俺が助けられる側だったら、感謝はしても納得はできないと思う。頑張る動機と手段がなくなった奴がどんな風になるのか、俺は知ってるつもりだから」
「………………………分かりました。キミの気持ちを尊重しましょう。でも、消したくなったらいつでも言ってください。傷を背負う覚悟は立派ですが、それでも、その傷に込められた意味を理解してくれる人というのは余りにも少ないものです」
殺せんせーはそう言って身体を治してくれた。
なんでも、俺の身体中から無事な細胞を少しずつ採取して、殺せんせーの細胞や粘液で足らない部分を補填し、縫い合わせているとか。お陰様で痛みはあるけど怪我はなくなった。
右腕の肘から下に向かって走る、たった一つのみみず腫れのような、溶接痕の様な痕跡を残して。
「うっぅぅぅ………」
呻く様な声と共に、俺とも菅谷とも違う銀髪が起きる。
「…………気分はどうですか、イトナくん」
「…………最悪だ。力を失ったんだから」
目覚めたイトナはそう答えた。
命があるだけマシだろう、なんて言葉は出てこない。力に執着する彼からそれを奪うきっかけになったのは俺だから。
「寺坂は言っていた。勝利のビジョンが出来るまでバカをして過ごせばいいと。……でも、俺はそれのやり方を知らない」
俯き、思い詰めるように語る。
「強くなりたかった。強くなって、愚直に頑張って力を付ければいつか報われると信じていた。両親がいなくなった後も同じだ。強くなりたい、勝ちたい。その一心で俺は触手を操っていた。心の何処かで思っていたんだ。いつか、強くなれれば、認められれば、2人とも帰ってくるって」
「…………………」
認められたい。家族に側にいて欲しい。たったそれだけの為に命を燃やして、頑張って、そして死にかけた。
きっと、俺とイトナのそれは似て非なるものなんだろうけど、似たような思いを抱いたことのある自分にとって、彼の言葉は聞き捨てならなくて、そして、否応なく現実を突きつけられ、自分の行為を振り返って罪悪感に駆られる。
「………………はぁ……」
息を吐こうとしたら、ため息になってしまった。
最善を尽くした。自分に考えられる手の中で一番効果的で、一番確実な方法だった。けれどそれを最良と言えないのは、心の中でもっといい方法があった筈だと思う自分がいるからだろう。
この結末に納得していない。
けれど、もっと良い手があったのか、それを実行できたのかと問われれば怪しい。仮にシロが邪魔してこなかったとしても、俺はあのままイトナを説得することができただろうか?
つい思い悩む。なんとなく考えるのは得意だが、答えを出すのが苦手だ。俺の明確な欠点の一つだな。
「圭ちゃん」
遠巻きに殺せんせー達を眺めて考えていると、そんな声と共に、治ったばかりの右手を握られる。
目を向けるまでもなく、そこには倉橋さんがいた。瞳に不安と心配の色を浮かべ、まっすぐに俺を見据える。
「話してみて。1人で抱え込んじゃ駄目だよ」
汗を流しすぎて少し冷えた腕に彼女の体温が染みる。ベタベタしていて気持ち悪いだろうに、一向に離す素振りを見せない様子に腹を括る。俺1人で考えていても答えは出ないから。
「今回の件でちょっとね。イトナに触手を捨てさせるってゴールはきっと変わらなかっただろうけど……そこに至るまでの過程はもう少し、工夫できたんじゃないのかなって思ってた」
「………そっか」
納得した様に俺から視線を外して項垂れているイトナに視線を向ける。その口から俺の予想してなかった言葉を出しながら。
「似てるもんね。圭ちゃんと彼」
「………あぁ」
「私もね、話を聞いててなんとなく思ったんだ。圭ちゃんに似てるなって。心配だったんだ。あなたなら触手を掻い潜ってイトナくんを無力化できるって信じてたけど、それが正しいことなんだって自分を納得させられてないんじゃないのかなって」
「なのに背中押してくれたんだ?」
「こう言う時、圭ちゃんは止められるんじゃなくて、背中を押してもらう方が嬉しいでしょ?納得できなくても、そうするしかない状況ならさ、せめて周りが肯定してあげないと」
「……なんか、いつの間にか倉橋さんに勝てなくなったなぁ」
「なぁに、それ?」
倉橋さんと争った事はない。あ、いや、テストとかはその限りじゃないが、それでも明確な勝敗を意識して一緒にいた事はない。だと言うのに、俺はいつの間にか『勝てない』なんて思うようになってしまった。
いつからだったのか。思えば、俺が何か迷ったり、惑ったりしてる時は倉橋さんがいる気がする。
夏休み中にE組を抜けると決めて昔の自分を演じようと思った時、自分で自分を追い詰めて倒れた時、倒れてしまった後も。その瞬間、その時々でいつも彼女の声を聞いていた。
勝てない、というより、敵わないと言うべきか。心配して、励まされ、支えられることが増えている様に思えた。
なんとなく、もっとしっかりしないとなぁと思う反面、そんなことを思った瞬間にまた心配されてしまいそうなので自虐的な脳内反省会はほどほどに留めておくとしようか。
「私は圭ちゃんは正しいことをしたって思う。誰かに責められなきゃいけないことは何もしてないって断言できるもん。でも、納得できないんだよね?ならさ、自分が許せなくて、イトナくんに申し訳ないって思ってるなら、彼を支えてあげればいいんじゃないかな。似た様な悩みを一足先に解決できた先輩として」
「……できるかな?」
倉橋さんから飛んで来たのは、肯定と代替案。励ましながらも挙げてくれたイトナへの償いの手段。
でも、それに対して『よし、やるか!』と飛び付けるほどの勇気は俺にはない。正直、怖い。今更ながら覚悟が足らなかった。力を奪ったことに対して恨み言を言われるのが怖かった。
……思えば、明確に罪悪感を抱きながら加害者になったのは初めてのことだった。これまで喧嘩で何人も怪我をさせて来た。加害者にはなっている。でも、そもそも向こうから絡んできたのだからお互い様だ。そこに罪悪感なんてものはない。
明確に自分の手で踏み躙った相手への対応という対人経験値は今の俺には圧倒的に足りていなかった。
「とりあえず行動!駄目なら一緒に考えよ?」
そんな俺の内情を知ってか知らずか。倉橋さんは俺の手を離すと、そのまま背中を押してイトナの方へと押した。
ザッと、足音が出る。
でも、その足跡は俺だけのものではなかった。
「てめぇも酷ぇ顔してんな、乃咲」
寺坂だった。
「ま、ちょーど良いわ。こいつの面倒は俺らに見させろや。バカのやり方、教え込んでやる。お前も面貸せよ、乃咲」
項垂れるイトナの首根っこを掴んだ寺坂がみんなに宣言する。特に気負った様子もなく、ごく当たり前の様な声音で。
「寺坂……何か考えでもあるのか?」
「ばーか。こう言うのは特に何も考えずにぶらぶらやるから楽しいんだろーが。んじゃ、そういうこった。いくぞ、吉田、村松、狭間。4人もいりゃぁ適当なことできんだろ」
「うわぁー、駄目だ。こいつ、本当に何も考えてねぇぞ」
「はぁ……。ほんっと、無計画だよな、お前」
「うっせぇ!」
「………とりあえず、村松の家ラーメン屋でしょ。こいつらになんか食わせてやったら?お腹が満たされれば少しは気ぃ楽になるんじゃない?」
「お、おお」
「良いぜ、腹減ってる時に食うラーメンはうめぇんだ。テメェらにうめぇラーメン食わせてやんよ!」
先導して歩く村松の後ろをイトナが寺坂に、俺が吉田に引き摺られ、その後ろを狭間さんがやれやれ、と歩く。
展望の見えない俺は早速、倉橋さんにヘルプを求めたい気持ちで一杯になりながら、寺坂組に拉致られた。
「どーよ!」
「……まずい。おまけに古い。手抜きの鶏ガラを化学調味料で誤魔化している。トッピングの中心には自慢げに置かれたナルト。4世代前の昭和のラーメンだ」
「「「「(こいつ、意外に知ってやがる……!?)」」」」
「の、乃咲。お前はどうだ?うちのラーメン食うの初めてじゃなかったよな?うちの親父は何度言ってもレシピを改良しやがらねぇんだよ。今後の参考までにお前はこうした方がいいとかそう言うのないのか……?」
村松の質問に答えるべく、スープを飲むのを止め、丼を置き、箸をそっとカウンターの上に乗せて口を開く。
「麺はいい。だがスープがな……」
「お、おう……?」
「気にすんな、村松。この前、初めて気付いたんだがよ。こいつ、腹減ってる時にメシ食うと山岡士郎みたいになんだよ。竹林と3人で行ったメイド喫茶でわかったわ」
「一番めんどくせぇタイプじゃねぇか」
言いながら洗い物を続ける村松。
つか、お前ら寺坂がメイド喫茶に行ったことに関してはスルーか。そう言えばこの前も名前覚えられてたし、案外、寺坂がメイド喫茶の常連になってるのは共通認識になってるのかもな。
ラーメンを啜る。奢ってもらっておいてなんだが、やっぱり手放しに美味しいとは言えない味だ。
「…………」
ズゾゾゾゾと無言でラーメンを啜るイトナは複雑そうな顔をしている。口に出していないだけで、色々と思うところがあるのだろう。その内面を想像することしか俺にはできない。
「よし、食い終わったらウチに行こうぜ!こんな化石ラーメンとは比べ物になんねぇ現代の技術って奴を見せてやるよ!」
「ンだとぉ!?誰のラーメンが化石じゃぁ!!」
今度は吉田から提案が飛び出して来た。
そう言えばコイツの家、バイク屋だったっけ。前にちょこっとだけそう言う話をしたことがあったな。
思い返しながら食べ終わり、その足で吉田の家に向かう。遠すぎず、近すぎず、食後の腹ごなしにはちょうど良い距離。
道中、いま吉田が面倒を見てると得意気に語る機体のパーツ構成だとか理論上どれくらいのスピードが出るだとか。そんな話を聞きつつ辿り着いた彼の実家。通された先にある試走場に押して運んできたバイクは確かに格好よかった。
「よし、ケツに乗れやイトナ!嫌なことなんざスピードで吹っ飛ばしちまおうぜ!!」
「………」
またまた無言で頷き、吉田のバイクのケツに乗る。
そして彼のバイクは爆走を始めた。
「……いいの?中学生が無免で」
「アイツの家のバイク屋の敷地内だしな。吉田自身もたまにサーキット行ってるとかいう話だ」
呆れた様に言う狭間さん。
その手にはいつの間にか本の入った袋が握られていた。
そう言えば、狭間さんって文学関係に強かったっけ。なら、いい感じに前向きになれそうな作品でも持って来たのかな。
「……しかし、あの捕まり方で大丈夫かね?」
「あ?どー言う意味だよ」
「ほら、イトナの奴、吉田の体じゃなくてバイクの後ろに手を回して捕まってんだろ。あれだとカーブとかスピード付けて曲がろうもんなら、その拍子にぶっ飛んでいかねぇ?」
「……………やべぇじゃねぇか!!?」
寺坂が焦った声を出した。
しかし、時すでに遅し。
「よしゃぁ!見とけよイトナ!これが必殺の高速ブレーキターンだ!」
「ちょぉぉい!待て、吉田ぁぁぁ!」
「へ?」
ブレーキの音の中から聞こえてくる吉田の間の抜けた声。すでに曲がり切った後の機体にはイトナの姿はない。
ビュゥン!と真っ直ぐにとぶミサイルの様に彼の家の生垣に向かって吹っ飛ばされている最中だった。
ゾーンに入り、イトナの正面に回り込んでキャッチした。だが、真正面から受け止めるのも衝撃を一気に殺してイトナの身体に負担が掛かりそうだったので勢いに任せて空中ブランコの様に彼を回し、徐々に勢いを弱くしていく。
「乃咲ぃ!ナイスキャッチだぁ!この際、瞬間移動してることは一旦、置いといてやらぁ!」
我ながら、そろそろ本気で隠しきれなくなって来たな。
「だ、大丈夫か、イトナ!?」
「……あぁ。悪くない気分だった。昔、家族と乗った空中ブランコを思い出した」
「お、おぉぉう。そうか」
真顔で感想を語るイトナに吉田も困った反応だ。
さて、次は何をしようか。そんな空気になった頃、狭間さんが袋から本を取り出してイトナの前に置いた。
「落ち着いたところでこれでも読みなさい。名復讐小説『モンテ・クリスト伯』全7巻2500ページ。これ読んで暗い感情を増幅させなさい……。あ、最後の方は復讐をやめるから読まなくていいわ」
「「「難しいわ!!」」」
「テメーは小難しい上に暗いんだよ!!なんかねぇのか!もっと簡単にアガるヤツ!コイツ見るからに馬鹿そうだし……」
「いやいや、お前に馬鹿呼ばされたくないと思うぜ、なぁ、イトナ」
「そーそー。そりゃあコイツに失礼だぜ。なぁ、イトナ」
「………あぁ。そうだな」
「テメェらぁぁぁぁ………!!」
イトナは頷きながら狭間さんの持って来た本を読み始める。パラパラと流し読む様にページを捲り、ため息混じりに空を見上げて、苦々しく呟いた。
「どんなに誠実に努力しても……一瞬の誤りや、裏切りで全て無に還る。虚しいな……」
モンテ・クリスト伯。若くして地位と名誉を手に入れ、許嫁とも結婚間近という幸せの絶頂期にいる青年が全てを奪われて、14年間を監獄で過ごすところから始まる物語。
確かに掴みだけ読めばそんな感想にもなるか。
「……上手く言えないけどさ。世の中、そんな捨てたもんじゃないと思うぞ」
「………なに?」
口を吐いた言葉にげんなりする。
また説教くさくなっちまうなこれは。もっとこう、スマートに励ましたり、言葉を掛けたかったのに。
「その作品、最後はさ、主人公が復讐を止めて、とあるセリフを残すんだ。『まて、しかして希望せよ』って」
「…………どう言う意味だ?」
「暗い絶望の中でも希望は捨てるなってこと。主人公は獄中で色んなことを教えてくれた師と出会うんだ。どん底の中でも必死に知識を始めとしたチカラを付けてひたすらに機会を待ち続け、そして最後に救われた」
「それは創作だからだ」
「確かに脚色という意味で創作は混じってる。でも、これは実際にあった事件を元に作られた作品だ。実際、世の中にはこんな目にあってる人もいるってことだな」
「………だったらなんだ?」
「いや、別にだからどうと言う訳ではないよ。お前が今、どん底にいるんだとしたら、それは少なからず俺にも責任がある。触手という
「お前を恨んではいない……。お前や……殺せんせーが俺を助けてくれたことくらい理解してる」
「じゃあ、何がしたい?俺達に対する復讐じゃない。ただ勝ちたい。何のために?お前は勝って、次に何をしたいんだ?」
俺の問い掛けにイトナは考える様に黙り込んだ。
彼は俺に比べたら大分大人だ。もし、夏休み前の俺が同じ事を言われたら、相手が誰であっても、『お前に何が分かる!?』とキレ散らかしたと言い切れてしまう。
イトナが沈黙すること数秒。耐えかねた様に寺坂がズカズカと歩いて来て、俺とイトナの頭を小突いた。
「だから!お前らは難しく考えすぎなんだよ!!やいイトナ!そんなに思いつかねぇなら、俺が適当に決めてやらぁ!」
「何を勝手に————」
「テメェはタコを殺した金で親の工場を買い戻せ!」
「ッ!?」
「言っただろうが!勝つまで何度もやるんだよ!そんで何をしたら良いかわかんなくなったら、今日みたいにバカやって過ごせば良いんだっての。それをどんよりどよどよと考えやがって。それにてめぇも大概だぞ乃咲ぃ!」
「………」
「小難しい話から入ってんじゃねぇよ!どーせ作戦指揮とか考察以外じゃポンコツなんだからよぉ!」
「ポ、ポンコツ……」
「イトナに説教くれる前にテメェがイトナに何を言いたいのか伝えやがれってんだ!コイツみてぇなアホにもわかる様に!小学生相手でも伝わる言葉で!」
酷い言い草だ。
でも、悔しいことに芯を食ってる。
「イトナ」
彼に改めて向き合い、言葉を探す。
何度も口を開いては、音を発することがないままに閉じてを何回か繰り返して頭を掻きむしる。
「くそっ……。駄目だ。どうしてもあれこれ考えてしまう」
「……」
「悪かった。お前から触手を奪ったことを仕方がなかったと正当化するつもりはない。できる限りでお前の言うことを聞く。煮るなり焼くなり好きにしてくれ」
「お前は悪くない。少なくとも俺はそう思ってる。むしろ、助けられて礼を言わなきゃいけないのはこっちの方だ」
「それでもだ。何かさせて欲しい。さっき、うだうだと長く語ったけど、『お前のやりたいことに協力するから、なんでも言ってくれ』って言いたかったんだ」
やっと言えた。
余計な言葉を抜きにするとたったこれだけの言葉だ。大体4行くらいで収まってしまうんだ。俺の本音なんてもの。
いつの間にか、たったそれだけの本音を伝えるのに理屈を並べて、相手を説き伏せるみたいなやり方をする様になってしまっていたのは何故なのだろう?
多分、保身のためだ。あれだ、これだと言い訳を並べたくて仕方がなかっただけなんだ。特に今回。自分が踏み躙ってしまった相手への初めての対応でつい、自分を守ろうとしてしまったんだと思う。誠意の欠片もない話だ。
「……しつこいぞ。何度も言わせるな。お前は助けてくれた。それ以上でも、それ以下でもない」
そんな俺に掛けられたのはそんな言葉だった。
「正直なところ、まだ綺麗さっぱり未練が断ち切れたとは言い切れない。……が、寺坂の馬鹿の言ったことを信じてみようと思う。バカとバカになってバカなことをする。そのバカの中にお前もいろ。俺はいつか兄さん……殺せんせーを殺して、父さんの工場を取り戻す。今、そう決めた」
イトナは前を向いた様だった。
そうか、いらないお節介だったんだな。
「言葉が必要なら言ってやる。俺はお前を許す。だから、お前も協力しろ。殺せんせーを殺すのに、お前のチカラは必要だ」
……許す。
その言葉で胸が軽くなった気がするのは、あれこれ言い訳並べていても、やっぱり俺は許して欲しかったと言うことなんだろう。この場において俺は一番ガキだったんだな。
「……助けてくれて、ありがとう」
最後に一言、そう言ってくれた。
「あぁ。任せてくれ。これから、よろしく頼む」
「……あぁ。よろしく」
話はこうして纏まった。
俺とイトナの会話を聞いていた寺坂組がわずかに表情を緩めると同時に成り行きを見守っていた他のメンバーが出てくる。
「イトナくん。まずは謝罪を。触手の件は……」
「あんたも乃咲もくどい。そのことはもういいんだ。……兄弟設定も、自分を蝕む強大なチカラも。もう、飽きた」
「……そうですか。では、一つだけ質問です。キミは大きな力を一つ失う代わりに、沢山の仲間を得ることができます。明日からまた、殺しに来てくれますね?」
「そうする。何度失敗しても、最後は必ずアンタを殺してみせる。……殺せんせー」
イトナの答えにみんなが頷き、笑みを浮かべる。
こうして、堀部イトナは正式に俺たちの仲間になった。
なんやかんや濃い二日だったと思う。
いい時間だし、みんなも解散しようとなった頃。帰り道が違うのにとてとてと倉橋さんがやって来た。
「どうだった?」
「なーんもできなかった。俺、自分が思ってた以上にガキなんだなって。素直にごめんなさいの一つも出てこなかった」
「今まであんまり弱みとか見せない様にしてたからじゃない?多分、意識的に素の自分ってのを出すのにまだ躊躇してるんだと思うよ。慣れてないって言った方がいいかな」
「……無意識に強い自分を出そうとしてるってこと?」
「さぁ?でも、多分、素の圭ちゃんって割と感覚的って言うか、思ったことをそのまま口に出す人なんだと思うよ?今回はそう言う面も結構出てたと思うし。もうちょっと他人に慣れれば素直に感情表現できると思うな」
「そうかな……?でも、寺坂にもポンコツ扱いされたっけ」
「あはは……。流石にそこまで言わないけど。思ったことを言うべきか考えて、必要なら率直に伝えるのが圭ちゃんの課題じゃないかなぁ〜。やる理屈とか動機を並べるより先に、『やります』とか『やりたいです』って感じでさ」
「……善処します」
「うん。うちらの中には圭ちゃんの言葉を疑う人なんてそうそういないんだからさ、もっとみんなと自分を信じて強気で行こう。それがコミュ症脱却の第一歩だね」
「はい、よろしくお願いします。倉橋監督」
「うむ、わしの指導は厳しいぞい」
反省点ばかりでまだまだ自分も至らないところが多いと思い知らされた今回の事件はこうして幕を閉じたのだった。
——後日。
「イトナくん、俺の気持ちだ。受け取ってくれたまえ」
「………なにこれ」
「【イトナくんのいうこときいてあげる券】」
受け入れて貰えたとは言え、謝罪だけでは気が済まなかったので、寺坂に発行していらい、存在を忘れられていたいうこときいてあげる券を作ってプレゼントした。
今度は和紙製である。
一応、真剣に考えた結果だ。
まだ、彼の好きなものとか、食べ物とか、趣味とかが分からない以上、何を送ればいいのか分からないし、下手に高い奴なんか受け取り辛いだろうし。お菓子も考えたが、高くない奴というと好みの当たり外れがあるだろう。
だから、そんなにガチな雰囲気は出さず、それと同時にイトナにこれ以上、しつこいと思われないラインを考えた結果。お詫びの品という体を待たせつつ、重たい空気は持たせず、歩み寄りを見せる。
その結果が【いうことをきいてあげる券】だった。
イトナは『駄目だコイツ……』みたいな目をしながらもしっかり受け取ってくれたと言う……。
あとがき
はい、あとがきです。
素直に言いたいことを言えないのは未熟だからか、ある程度完成されてしまっているからなのか。少なくとも、第一声で「ごめん」が出てこないのは圭一の未熟ですね。
ゾーンやら作戦指揮が出来ても、圭一は力があるだけの子供。それを上手く描写出来ないのは自分も未熟だからですね、精進します……!
果たして今回残した傷が圭一にどんな影響を与えるのか、イトナに渡した『なんでもきいてあげる券』はどうなってしまうのか!
それはまだ別のお話………。
次回、みんな大好きラジコン回です!
それでは、今回もご愛読ありがとうございます!