暗殺教室 不良児は認められたい   作:ZWAARD

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加えてたくさんの高評価、感想ありがとうございます!

今回も投下いたしますのでお付き合いください……!


99話 紡ぐ時間

 

「い、イトナ?何作ってんだ、それ?」

 

 ある日の放課後、カチャカチャと電子部品を弄るイトナに呼びかける。彼の机には基板やらはんだごてやら、分解されたラジコン戦車など男子の好きそうなものが並んでいた。

 俺とて男子の端くれだ。メカとかは好きだし、それなりに興味もある。そんなこんなで誘蛾灯に誘われるムシのごとくイトナの机に近づいてしまう。しかし、誘蛾灯に誘われたのは俺だけでなく、渚や杉野も彼の机の上を見て目を丸くしていた。

 

「見ての通り、ラジコンの戦車だ」

 

「いや、みりゃ分かるけど……なんでまた?」

 

「昨日一日中、あのタコに勉強漬けにされてストレスが溜まった。腹が立ったから……コイツで殺してやる……」

 

 やってることのハイテクさに反するかのように殺意を抱くハードルが勉強嫌いな小学生のそれである。

 しかしながら、机の上に広がっているのは下手したら工業とか電子系の高校生でもここまでは出来ないだろうと思わせる光景。なんと言うか意外だ。見下すわけじゃないが、触手を振り回してるイトナからは理系オーラはカケラも感じなかったから。

 

「凄いなイトナ。これ自分で考えながらやってるのか」

 

「電子工作は親父の工場で基本的な部分は大体覚えた。こんなのは寺坂以外誰でもできる」

 

「俺以外は余計だっつーの!」

 

 流れるように寺坂を弄りながら手早くはんだ付けを済ませる手つきは見事の一言。中2の技術の授業でハンドルを回して発電するライトの組立をするって内容のものがあった。あの時、はんだ付けもやったが、あの時の俺の手つきとは比べ物にならないくらいに手際がいい。これまたE組にすげー奴が来たな。

 

 うーむ。あの茶色い奴が抵抗で黒い円柱みたいなのがコンデンサだったっけ?たしかプラスとマイナスで向きがあるんだったか。抵抗は線の色で見極めるとか聞いたような……。

 

「乃咲。さっきから熱心に見てるが興味があるのか?」

 

 大して真面目に受けてなかった一年前の技術の授業の内容を必死こいて思い出しながらイトナの作業を見てると、流石にガン見し過ぎていたのか向こうから声を掛けられる。

 

「知識はあんまりないけどな。でも興味はあるぞ?電子工作の技術はあって困るもんじゃない。就職でもアピールに繋がるだろうし。なにより、自分で考えて作りたいものを作れるのってカッコいいし、ロマンがあるよな」

 

 自分で考えて、パーツを集めて一から作ると言うのはロマンだ。まだ現実のバイクとかそう言うレベルには着いていけないけど、アーマード・コアとかまさにそれ。男の子の夢を詰め込みました!みたいな作品だ。あれが嫌いな男子はいないだろう。

 

 こういう電子工作の積み重ねが最終的にあんな感じのロボットや、現実の車両関係に繋がると思うと夢がある。

 

「……興味があるなら教えてやる」

 

「え?まじで?いいの?」

 

「今のお前らの反応で大体分かった。このクラスで電子工作が得意なのは俺なんだろう?なら他の奴にも教えて、やれる事を増やしたほうが暗殺の成功率も上がる」

 

「そんじゃ、有り難く教わろうかな」

 

「あっ、乃咲ずりー!」

 

 イトナからの有難い誘い。断る理由はない……というか、自分の手札を増やすと言う意味では得難い機会だ。それにそうやって接するうちにイトナのことも知れるだろう。棚ぼたって奴だな。

 

 そうと決まればイトナは早速、説明を始めてくれた。まずは触りと言って具体的に機械を動かすために必要な部品の種類を大雑把に基板を指差しながら現物を見せ、役割などを分かりやすく。

 気になったことも質問してみれば答えてくれる。話してみると意外にと言うのは失礼なんだろうが、これまでの印象を塗りつぶすみたいにかなり知的な部分が見えてくる。

 

 説明も分かりやすいし、電子工作という分野に対する知識の深さも伝わってくる。話しながら手を動かし、手早くラジコンを組み上げ、いざ試運転。実際に作ってるところを見たラジコンが動いてるところを見るのは感動を覚えてしまう。

 

「すっげ、撃つ時も走ってる時もほとんど音がねぇ」

 

「あぁ……。めちゃくちゃ隠密性あるな、これ」

 

「電子制御を多用することでギアの駆動音を最小限まで抑えている。ガンカメラはスマホのモノを流用した。主砲の動きと連動しつつ映像をコントローラに送るから、遠隔で照準も付けられる」

 

「おぉ〜!スパイっぽい!」

 

「これ1台で近場ならどこでも偵察できるんじゃないか!?」

 

 イトナの説明に盛り上がる男子達。ほんと、ハイテクなことやってるな〜と思っていたが、ここまでとは思わなかった。中学生というか、学生の枠を超えた技術力ではないだろうか。

 

「……それともう一つ。お前達に教えておいてやる。シロから聞いた、狙うべき理想の1点、標的(ターゲット)の急所だ」

 

 みんなであれができそう、これがやれそうだとはしゃいでいると、イトナが目を細めそんな事を言い出した。

 

 殺せんせーの急所。そういえば、初めて聞く。

 

「奴には心臓がある。位置はネクタイの真下。そこに当たれば一撃で絶命できるそうだ」

 

 初めて聞いた殺せんせーの急所。水とか体質みたいな殺せるかもしれない弱点ではなく、命を絶てる明確な急所。

 思えば、殺せんせーの弱点について考えたことはあっても、心臓を狙おうとかそんな発想をしたことがなかった。

 

 対先生ナイフが当たれば殺せんせーの細胞は一撃で破壊できる。頭に当たれば即死、身体に当たっても、最終的には殺せるのだろうと無意識に考えていたのが、その発想に思い至らなかった原因なのかもしれない。

 そっか、生き物である以上、体を動かす為の心臓()はあって当然か。自分の思考力の足らなさというか、発想の貧困さに少しというか、かなりがっかりした。

 

「対先生物質は当たれば触手細胞を問答無用で破壊する。そこに力の有無は関係ない。覚えておけ。こんなおもちゃのラジコンの主砲ですら、奴の心臓に当たれば即死だ」

 

「………なるほど、とんでもない弱点だ」

 

「これから、コイツの試運転を兼ねて狙いに行く」

 

「よし、俺たちも見てようぜ。こんだけ人数いるんだし、例え上手くいかなくても改良案とか出せるだろ」

 

「だな」

 

 男子達の夢とロマンを乗せたラジコン戦車は勇ましく教室を飛び出した。動いてるところを外から見るのも楽しいが、イトナの操作するリモコンに映し出された映像も見応えがある。

 

「すげーな。映像に全然ラグがなさそうだ」

 

「最近の機器はその辺が優秀だ。リモコンの操作範囲外に出ると厳しいがそこまでなら性能は保証できる」

 

「なら、リモコン操作と自律モード切り替えられるようにしないか?幸いと言うか、俺たちには律って言う情報関係なら敵なしの仲間がいる。俺らが行きづらい場所とか、出来れば痕跡を残したくないって時の偵察にこう言うガジェットを律に操作して貰うんだ。これだけで汎用性はぐっと広がるだろ?」

 

「……なるほど。それはアリだな。次のガジェットには試験的に組み込んでみよう。それで使えそうなら標準装備にすることも検討しよう。ただ、これに関してはもっと応用出来そうだな」

 

「だな。例えば機体制御を律に任せるなら、主砲の照準から発射も彼女に任せるのもいいんじゃないか?自律思考固定砲台があの子のフルネームだけど、自律思考機動(・・)砲台になってもらうとか」

 

「確か、お前たちの暗殺データから行動パターンも把握しているんだったか。なら、支援機としての作製も視野に入れていいかもしれない。砲門を増設したドローンとか今回の戦車型で複数方向から弾幕を張る……悪くない」

 

「問題は装弾数だな。リロードができないし、大容量のマガジンとか載せると重量がかさんで機動力が落ちる。ドローンなんかは飛べなくなる可能性もあるか?」

 

「だろうな。それを無理やり解決するのに簡単なのは高価で高性能なパーツを使うことだが……流石に金が足らない」

 

「防衛省に負担して貰おうにも、実績がなきゃ『子供がラジコン遊びしてるだけ』で終わりそうだもんな……。となると、何をするにもまずは実績作りからか」

 

「それが手っ取り早いだろう。有力者から融資を受けるには、自分の価値を示すのが一番確実だ」

 

「………すげぇ、乃咲が活き活きしてる」

 

「あぁ……。操作して数秒経ってないのにこんだけポンポン改良案とそれに対する課題が出てくるのも異常だろ……」

 

「知識がねぇとか言ってる癖にホイホイ改良案を出す乃咲がすげぇんだか、そんな改良案を受け止めた上で現実的な課題を出してる癖に難しそうな要求には技術的にムリとか言わないイトナがすげぇんだか分からんな……」

 

 イトナと今後のガジェット開発について議論しながらラジコンの動きを見守ること数秒。我らの希望を乗せた戦車はターゲットの潜伏先の一つである職員室に到着したらしい。

 しかし、ここで思わぬアクシデントが発生した。

 

「あれ?殺せんせーいねぇじゃん……」

 

 そう、当のターゲット本人がいなかった。

 

「この時間に職員室に居ないとなると、どっかで買い食いしてるんじゃないか?しばらく戻って来ないぞ」

 

「……だな。でも、このまま終わるのもなんか味気ないし。しゃーねぇ。試運転を兼ねてその辺偵察しようぜ」

 

 岡島からの提案に頷いたイトナは戦車を旋回させると、いつもの見慣れた景色より数段も低い視点の戦車を走らせる。

 

「……こうしてみると、普段の景色とサイズ感が違うな」

 

「あぁ。本当に迫力があるっていうか………」

 

 普段と違う景色を楽しみながら見守っていると、ふと気付く。この教室ではない環境音というか、戦車の僅かな駆動音が辛うじて聞こえてくるという事に。

 

「イトナ、これってあっちにマイクもついてるのか?」

 

「あぁ。視界と音は重要な情報だ。通話機能付きのイヤホンを流用した集音器が付いている。音質もそれなりにある」

 

「まじか。ほんとすげぇな」

 

 イトナの変態的な技術力に感心していると、戦車がふと異変を感じた。なにか、楽しげな声が向こうから聞こえてくる。

 

『あんた達、寄り道するんじゃないわよ〜』

 

『はいはーい!じゃあね、ビッチ先生〜!』

 

『ねぇーねぇー、この後どうする?お茶でもしよっか?』

 

『もう、言われてるそばから!』

 

『んじゃ、校庭まで競争ねー!』

 

『あっずる〜い!!』

 

 聞き慣れた女子達の声がバタバタと音を立てながら凄いスピードで近づいて来ると思った刹那、戦車が待機している角を駆け抜けて行く。こともあろうか、戦車の真上を通過しながら。

 

「「「……………」」」

 

 しーんと静まり返る男子しかいない教室。

 なんとなく、沈黙の理由が察せられてしまうのは、俺も同じ穴の狢だからなのか、男たるもの仕方ないのか。

 

「み、見えたか……!?」

 

「いやッ……!!カメラが追いつかなかったッ、くそっ!

ターゲット(女子)の動きを追い切れていない!視野が狭すぎるんだ!」

 

「カメラもっとデカくて高性能な奴にしたらどうよ?」

 

「……さっきも言ったが、重量がかさむ。機動力が落ち、標的の捕捉が難しくなるだろう」

 

 イトナの結論に男子のほぼ全員の士気が下がったその時.トレードマークのメガネを光らせながら奴が躍り出る。

 

「ならば、魚眼レンズを採用してみては?」

 

「た、竹林参謀……!」

 

「送られた画像をCPUをとうして歪み補正すれば、小さいレンズでも広い視野が確保できる」

 

「……わかった。カメラには多少の心得がある。視野角の広い小型魚眼レンズは俺が調達しよう」

 

「頼んだぞ、カメラ整備士岡島ッ!」

 

「律!歪み補正のプログラムは組めるか」

 

『はい!用途はよく分かりませんが、お任せください!』

 

「ふっ……完璧だな、竹林参謀」

 

「あぁ……。録画機能も必要だな、効率的な改良の分析には不可欠だ……」

 

 なんだか妙な話題になってきたので避難し、渚の隣に立って率直に思った事をぶつけてみる。

 

「……なぁ、渚。なんでこいつらスカートの中身を覗くだけなのに職人感出せるんだ?この微妙なプロジェクトX感が納得いかないんだけど……。俺がおかしいのか?」

 

「う、うーん。乃咲は正しいと思うよ。下着ドロにはみんなドン引きしてたくせに……」

 

「ま、まぁ……。小目標はともかく、大元の目的は殺せんせーの暗殺だし……。それに、思った以上にイトナが馴染めてそうでよかった。って自分を納得させておこう」

 

「委員長だねぇ、悠馬」

 

 悠馬の一言でひとまず方針が固まった俺たちはもう一度、暗殺……もとい、スカート覗きの話題に加わった。

 

「おい、どこ行ってたんだよ、乃咲最高司令官」

 

「ちょっと待て!知らん間にすげぇ重大ポストにぶち込まれたんだが!?嫌だよ!悠馬、渚!?変わってくれ!」

 

「………あっと、俺、今日はバイトだった」

 

「悠馬!!?」

 

「あ、僕は………えっと、あれがコレだから!」

 

「渚!?酷い!俺を裏切るのか!!?」

 

 友情のなんと脆くて儚いことか。悲しいかな、悠馬も渚も俺と目を合わせることなくそそくさと去ってしまった。

 最高司令官とか最終的に全部の責任をおっ被せられる奴じゃんか。俺はなんでこんな貧乏くじを押し付けられたんだ!?

 

「まぁまぁ、あんな薄情者たちは置いておいて。こっちで一緒に夢を見ようぜ?大丈夫だって。責任は全部岡島におっ被せるから。お前は改善案を出してくれればいいんだ」

 

「…………ん、まぁ、責任が俺に来ないならいっか」

 

「良くねぇよ!!?何さり気なく俺のこと売ってくれてるんだよ前原ぁ!お前も同罪だろう!!?」

 

「しゃーねぇーじゃん!!俺たちの中で一番視野広いのコイツなんだから!!乃咲の指摘がまだ見ぬエロの発見に繋がるかも知れないだろ!!いいか岡島!!男は皆、エッチな叡智の探究者だ!どんなに遠く離れていても、俺たちはこの青空の下、同じ性春を追いかけている同志だろ!!」

 

「くっ……。エッチな叡智の探究者……。それを言われたら引き下がるしかねぇか……。その言葉に偽りはないよな!」

 

「あたぼーよ!」

 

「なら……仕方ねぇ。乃咲!好きにやれ、全責任は俺が持つッッッ!!!やるぞてめぇらぁぁぁぁぁ!!」

 

「「「「オオオオオーーーーーッッッ!!!」」」」

 

 駄目だコイツら……早くなんとかしないと。

 

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 こうして、女子のスカート探究計画に巻き込まれた俺だが、別に嫌々参加したわけではなかった。

 むしろ、新しい事を覚えられるというのは楽しかったし、考えたものが形になって行くのはやり甲斐がある。

 

 そんなこんなで………。

 

「くそっ!段差で機体がひっくり返った……!高機動復元士木村ぁ!復旧作業をお前に一任する!」

 

「行ってくるッ!」

 

「この校舎は段差が多い。何をするにもまずは安定した足回りが必要になるだろう。吉田ぁ!」

 

「おうよ!」

 

「お前を駆動系設計補助に任命する!どんな悪路にも負けない走り様をあの機体に授けて見せろ!!」

 

「任せてくれ、駆動系や金属加工には覚えがあるッ!」

 

「菅谷ぁ!あの機体の薄いカーキ色はなんだぁ!」

 

「戦場迷彩だな……。主に砂地を想定したペイントだろう」

 

「よろしい。ならば貴様を偽装効果担当とする!この学校の景色に溶け込む迷彩を見事開発して見せろ!」

 

「引き受けた……。学校迷彩、俺が塗ろうッ!」

 

「ラジコンのサイズと俺たちの見てる景色では当然ながら距離感が違う!前原ぁ!何をするべきか判るか!」

 

「ふっ……。当然だ。俺が歩き回って地図を作ろう……ッ!」

 

「よし!お前をロードマップ作成担当、補佐に体力自慢の杉野を着ける!やれるな杉野!大丈夫か!」

 

「サー!イエッサー!」

 

「良い返事だ。やるべきことが分かったのならとっとと仕事にかかれぇい!村松!腹が減ったぞ!糧食補給はお前に任せる!食料は士気に関わるからなぁ!美味いのを頼む!」

 

「任せとけ。腹が減っちゃ開発(いくさ)はできねぇ。校庭のゴーヤでチャンプルーでも作ってやらぁ」

 

「手隙の奴らはまだ何人かいるな!よし、千葉!お前はその優れた狙撃能力を活かして戦車の狙撃ポイントの目星を付けろ!その他は寺坂を筆頭に障害になりそうな雑草を違和感がない程度にカットしてこい!お前達の仕事の出来次第で見晴らしが良くなる!見晴らしが良くなった結果、視野の広くなったカメラが何を捉えるのか……理解できないものはいるか!」

 

「「「「サー!イエッサー!!」」」」

 

「返事をする前に手を動かせ!いいか!作戦開始は明日の早朝とする!詳しい時間は追って連絡するが、イトナ、菅谷はこれから吉田の家に集合!吉田の開発した駆動系を組み込みつつ改良だ!村松と岡島も魚眼レンズと食料を調達次第に合流とする!吉田!確認が遅れたが、集合場所に問題はないか!」

 

「問題ありません!サー!」

 

「俺は少し遅れて行く、先に準備しておけ!」

 

「サー!何故遅れられるのでありますか!」

 

「突然お邪魔するんだ、菓子折りの一つでも持参しなければ吉田家の人に失礼だろうが!」

 

「育ちの良さが滲み出てるであります!サー!」

 

「やかましい!これにて作戦会議は終了する!異論はあるか!」

 

「「「「ありません!!」」」」

 

「よろしい!ならば作戦開始!諸君の検討を祈り散らかしているぞ!解散!!」

 

 妙に楽しくなって、ノリノリで指揮していた。

 

「……………どうしたというんだ。彼らは……?」

 

 通りかかった烏間先生の困惑した声がポツリと残った。

 

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「おう、朝飯作ってきてやったぞ」

 

「うむ。掛かった材料費はあとで返還するので教えるように。これより、第一次性能試験を始める!菅谷、例のものを!」

 

「あぁ。完璧だ。色もすっかり落ち着いた」

 

 そう言って菅谷がラジコンを机に置いた。

 昨日の薄いカーキ色ではなく、草木に紛れられるような迷彩柄。自然が多いこの裏山にはうってつけだ。

 

「前原、ロードマップ」

 

「出来てるぜ親分。あのあと、千葉たちに合流して狙撃ポイントも書き出して置いた。使ってくれ」

 

「よし、寺坂班、首尾はどうか」

 

「問題ねぇ。車体を隠しつつ存在を気取られない程度に切っておいた。草道も良好な視界が確保できんだろ」

 

「上出来だ。高機動復元士木村、いつでも動けるか」

 

「問題ない……。今日の俺は風より速いぜ……!」

 

「よろしい。それでは本日0700、作戦を開始する!」

 

「「「「おっしゃぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」」

 

「………乃咲。なんだかんだで楽しんでるね」

 

「ま、事実楽しかったからな。イトナから電子工作、吉田から金属加工を教われたし。やれることを地道に増やせてるから」

 

 苦笑する渚に答えてイトナの操縦で発進した戦車を見守る。

 

「あれ?まだ魚眼レンズ用の歪み補正プログラム貰ってないよな?なんで普通にカメラ使えてるんだ?」

 

「あぁ。乃咲のアイディアだ。吉田の新しく設計した足回りはトルクもそれなりに大きかったんで積載重量に余裕ができた。だから、主砲のカメラとは別にもう一つ前方に付けて、左右と後ろにも小型カメラを搭載した。これで前後左右に死角はない。カメラでの視界確保の為に装甲も肉抜きしたことで微々たるものだが重量も少しはマシになってる」

 

「なんかいよいよ本格的なマシンになったな!」

 

「あぁ!なぁ、イトナ。こんだけ色んな奴が関わったんだから折角だし開発ネームでも付けようぜ?その方がカッコいいじゃん!」

 

「………考えとく」

 

 軽快な走りを見せるラジコンとイトナの周りの人間関係。エロとマシンとモノづくり。男子の好きそうな要素をガッチリと掴んだ彼は早くもクラスメイトの中に溶け込んでいた。

 

 彼を中心にラジコンのコントローラーを奪い合ってぎゃーぎゃー騒いでいる様子は本当に年頃の男子そのものの光景だ。

 まあ、そのラジコンがガチの魔改造を施された機体でなければ。という注釈は入りそうだけどな。

 

「どうだったよ?昨日1日、イトナと絡んでみて」

 

 悠馬が俺の隣に来てそんなことを聞いてくる。

 

「多少毒舌だが、みんなに馴染むのはそう苦労しないだろう。男子が好きな要素は大体押さえてるし。女子は……男のロマンに理解のある不破さんとか律と絡ませてみれば案外すぐ他所他所しさはなくなると思う」

 

「……そっか。ならひとまず安心だな」

 

「だな。暗殺としての戦力で見ても見ての通りだ。戦闘力もそれなりにあるだろうし、サポート組で寺坂組と組ませて壁を張るのが今のところ考えられる運用ってところか」

 

「それは頼もしい……けど、そのフォーメーションを対先生以外に使う日が来ないことを願うばかりだな」

 

「……………………あぁ」

 

 返事を返しながら内心で思う。

 おそらく、その願いが報われることはない。

 

 このまま卒業まで平和に過ごして殺せんせーを殺せました、めでたしめでたしで終わることは絶対にないだろう。

 シロという常に警戒しなければいけない相手と、鷹岡の様な降って湧く不確定要素も考慮するとまだまだ波乱は起こるだろう。それはあるいは、第三者によってもたらされるものかも知れないし、俺たちの中で発生する内ゲバかもしれない。

 

 そんな可能性に考慮しつつ悠馬の言葉に頷いたのは、それでもそんなことが起こらないに越したことがないと思ったからだ。

 

「ちょょおぉぉぉっ!!?司令!!やばい!バケモンだ!!」

 

「ん?どした?」

 

 突如として響く人声によるエマージェンシー。司令官が呼び出されてしまったので、気持ちを切り替える。

 

「どうした!トラブルか!?」

 

「バケモンだ!!」

 

 慌てる皆の後ろからコントローラーの映像を見ると、そこには巨大な獣が居た。

 クリクリとした可愛らしい目、赤茶けたグレーの毛並み、鋭い爪。うん、イタチだ。ラジコンのサイズから見るとこんなに迫力があるのか。視点というかアングルって偉大だな。

 

「よし、誰かネットで【勝利の兆し】を流せ!イトナ!照準、巨大生物!!引き撃ちするぞ!」  

 

「ラジャー!」

 

「おっ、良い感じの曲じゃん!」

 

「勝利の兆し……、勝利の兆し…………これ、こっちが処される側の処刑用BGMじゃねぇか!!?なんだよ、EDFが調子に乗ってる時のテーマって!!めちゃくちゃ縁起悪いぞ、この曲!!」

 

「レクイエム砲、撃てぇ!!」

 

 放たれる主砲。しかし、そのピンク色の弾頭は目標を粉砕することなく、ポヨンと柔らかそうな効果音付きで弾かれる。

 

「「「「「しゅほうがきかにゃい?!」」」」」

 

「お前らどうした!!?」

 

「EDFごっこしてる場合か!?乃咲司令!どうするよ!?このままだとイタチに破壊されちまうぞ!?」

 

「えぇい!作戦変更!引き撃ちだと却って興味を引く可能性がある。前進しながら主砲を撃ち続けろ!所詮は野生動物だ、自分に攻撃しながら追いかけてくる得体の知れない物体には弱いはずだ!なんとか撃退するぞ!突撃じゃぁ!」

 

「よっし!イトナ、前進だ!」

 

「了解した」

 

「木村!こっちで時間を稼いでいる間にお前は機体の回収に迎ってくれ。なる早で頼むぞ!」

 

「おう!」

 

 駆け出していく木村と、前進しながら主砲を撃つラジコン。駆動音を殺していることが災いして野生動物への威嚇効果は薄いらしい。こちらを狙ってくるイタチを追いかけ回して主砲を撃ち続けることしばらく。ようやく撃退することができた。

 

「な、なんとか撃退できたな」

 

「あぁ……。あとは木村の回収待ちだが、最初の位置からだいぶ離れちまった。見つけるのに時間かかるだろ、これ」

 

「ちょっとイタチには可哀想なことしたけどな」

 

 みんながほっと息を吐く。

 そんな中で俺は顎に手を当てながら考えていた。

 

「どうしたんだよ、乃咲?」

 

「いや、ちょっと考えてたんだけどさ。あのイタチって人間が流した元ペットなのかな?それとも天然もの?」

 

「あ、見たことあるぜ。エロ本トラップ作ってる時に何匹か」

 

「……それがどうかしたのか、圭一?」

 

「なんかさ、ラジコン視点だからかスゲーデカく見えたよな、あのイタチ。マジのバケモンみたいに」

 

「だな。それで?」

 

「もしもだぞ?俺たちの普段の視点とは違うサイズ感で見ていたあのイタチ。もしも、あの巨大なイタチですら……成体ではなかったとしたら………ん?」

 

 俺がそこまで話すとイトナのコントローラーの画面の奥で草むらが揺れる。揺れは激しくなり、激しさが増すに連れて戦車のカメラに巨大な影を落とす。まるで俺の言葉がそいつを呼び寄せてしまったみたいに。

 

 主砲のカメラが捉えているのは恐らくはソレの胴体。首から上はレンズの性能上捉えきれていないらしい。

 イトナが戦車を後退させたことでその正体が現れる。さっき撃退したイタチの数倍は大きいイタチの姿を捉えた。

 

「……司令!」

 

「……………逃げるぞ!」

 

「アイサー!」

 

 号令と共に全力で逃げようとするラジコン。

 しかし、いくら走っても戦車の進む先に伸び続ける影が消えることは決してなかった。

 

「おい!主砲とは別に前後左右にカメラあるんだろ!?主砲だけ後ろに向けて威嚇射撃しながら他のカメラで進行方向見て逃げらんねぇのか!?」

 

「無理だ。他のカメラの映像を同時並行に見れる様に作っていない。あくまで視点を切り替えて偵察するのが想定だ」

 

「んじゃあ!さっきみてぇに撃ちながら追いかけ回せば撃退できねぇのか!?」

 

 寺坂の言葉を試す様にイトナがレバーを切り替え、イタチに向かって突撃していくが、やはり主砲は効かない。

 

「だめだ。そもそも主砲の威力が低すぎる。要改良だな、この程度の威力じゃ殺せんせーのネクタイと服を突破して心臓を狙うどころか、そもそも届かない可能性もある」

 

「そうだな。それは俺も薄々考えてはいた。次回の機体はそこが大きな課題になるだろう」

 

「反省会してる場合か!?あぁっ!?イタチの爪が!!?」

 

 とうとう追いつかれて、機体を押さえつけられながら、鋭い爪が振り下ろされる。さながら巨大生物に襲われる映画のワンシーンみたいな光景を最後にカメラはブラックアウト。

 数分後、木村が持って帰ってきたのは中身が飛び出し、ぐしゃぐしゃに凹んだボディの痛々しい姿だった。

 

「派手にやられたな……」

 

「あぁ。折角カメラを複数付けたのに切り替えるしかその映像を確認できなかったのは致命的だったな。せめて主砲と機体に搭載されたカメラは別々で確認できる様にするべきだった」

 

「しかし、一つのコントローラー内で画面分割するのは視認性が悪くなるだろうな……。主砲操作用のコントローラーと機体操作用のコントローラーに分割して、それそれにカメラワークを割り振るのが合理的か?」

 

「そうだな……。その程度であれば技術的にも不可能じゃない。カメラを2人で見れることで見落としも減るだろう」

 

「よし、そういうことだ。千葉曹長。貴殿を搭載砲砲撃手に任命する。攻撃面は任せたぞ」

 

「お、おう」

 

 みんなで反省点を出し合いながら次のプランを話していると、ふと、イトナが机の上に置いたボロボロの車体を持ち上げ、ペンでそれに何かを書き出した。

 

糸成(イトナ)1号は失敗作だ。だが、ここから紡いで強くする」

 

 イトナは俺たちを見て言った。

 

「何百回失敗してもいい。今は細くても、これからやれる事を増やして最終的に太くて強靭な糸でいつか、殺せんせーを殺す。だから、よろしくな、お前ら」

 

 一緒に担任殺す為に頑張ろうぜ、よろしくな。となんとも物騒で現実離れしていて、なんとも俺たちらしい挨拶だ。

 

「おうよ」

 

 そんな無器用で、彼なりの歩み寄りを感じさせる言葉に男連中は笑みを浮かべ、前原が俺たちを代表する様に頷いた。

 

 なんだか、イトナが本当に俺たちの輪の中に入れたことを実感することができて嬉しく思った。

 

「よっしゃっ!!3月までにはコイツで女子全員のスカートの中を偵察するぜ!!お前らぁ!!」

 

 興奮気味に叫ぶ岡島。

 しかし、その後ろに般若の形相を浮かべた片岡を始めとした女子連中がいることに気付いた俺たちは視線を逸らす。

 

「へぇ……。スカートの中身がなんだって?」

 

 ギギギと錆びた歯車みたいな音を立てながら振り返る岡島の視線の先には女子がほぼフルメンバーで額に青筋を立てていた。

 

「「「「男子サイテー」」」」

 

「ちょっ!?ちがっ……………くない!!そうだ!俺が今回の件の責任者だぁぁぁぁ!煮るなり焼くなり好きにしろ!!」

 

「「「「「お、岡島さんカッケェ!!」」」」」

 

 有言実行。漢岡島は全ての責任を背負って立ったのである。

 

「責任者とかどーでも良いから。てか、責任者ってことは、少なくともグループで活動してたってことよねぇ?カルマくん以外はここに全員揃ってるし……アンタら全員共犯じゃないのよ!!」

 

「ひぃ……!?」

 

「しかもみんなでイトナくんの席を囲んで……。まさかイトナくんが主犯格なんじゃないでしょうね!?」

 

「岡島と乃咲」

 

「はっ!?ちょっ!?」

 

 意外、それは裏切り!!

 

「圭ちゃん……?」

 

「ひぇっ……」

 

 絶対零度の声が鼓膜を叩く。

 

「……乃咲最高司令官。諦めよう、俺たちの負けだ」

 

「しかも最高司令官!?乃咲ってば女子の下着にそこまで興味あったんだ!!?」

 

「そーいえば、この前の騒動でもEカップのブラジャー片手に下着の臭いがどうこう言ってたっけ………!?」

 

「まさか……知らない間に私たち何度も見られて!?」

 

「ま、待ってくれ!誤解だ!」

 

「5回も見たの!?」

 

「誰がこの期に及んで回数の訂正するんだよ!?前原ぁ!助けてくれぇ!!」

 

「……知らん、俺たちを巻き込むな、乃咲、岡島」

 

 友情のなんと儚きことか。

 昨日はあんなにノリ良く鬼軍曹ごっこに付き合ってくれたみんなが一斉にそっぽ向いた。

 あぁ、物理的な距離は近いのにみんなが遠くに感じる。

 

『あ、皆さんおはようございます!歪み補正のプログラム、お渡しできますよ!乃咲さん、岡島さん!!』

 

「「「「サイテー」」」」

 

「あははは……もう、みんな観念しろ。一蓮托生だ」

 

 悠馬の言葉を皮切りに女子たちからの説教が始まった。

 結局、ほぼ全員が教室の床に正座させられた。

 

「カルマ、サボりたいから良い場所教えろ」

 

「お?案外話せるじゃん。いいよ、着いといで」

 

 カルマとイトナはちゃっかり逃げてやがるし。

 

「大体!覗きの何がいいのよ!」

 

「ちげぇよ!俺は覗きになんて興味ねぇ!パンモロよりもたまたま訪れる奇跡的なラッキースケベの賜物であるパンチラ、もしくは見えそうで見えない絶対領域!それこそが至高だろうが!!俺にはスカートの中をじっくり観察する趣味はねぇ!!」

 

「圭ちゃん?」

 

 倉橋さんが凄んでくる。

 でも、俺も男として曲げてはいけない主張がある。皆の最高司令官として最後まで意地を張り通す責任があると思った俺は毅然と胸を張って声高に口を開く。

 

「はい、ごめんなしゃい」

 

 倉橋さんが一番怖かった。

 

⬛︎

 

⬜︎

 

⬛︎

 

「うちの烏間から苦情が来てね。生徒を巻き込む暗殺を続ける様であれば、モンスターが責任を感じて教室を去る可能性があるから、確実に殺せる確信がないのではあれば謹んで欲しいと。それについては私も同感だ」

 

「……ま、いいでしょう。しばらく様子を見ますよ。イトナを切ってしまった以上、こちらとしても計画の練り直しが必要だ」

 

「………何を企んでいる?」

 

「いえ。見ものだと思いまして。あの教室にはイトナ以上の怪物がいる。何食わぬ顔で2人もね。私の改造を受けていない一般生徒。そんなアサシンが奴を殺すのもまた一興だ」

 

「言葉の割に、雰囲気が刺々しいが」

 

「…………まぁね。奴が死ぬのであれば、殺すのは最悪、私ではなくても良い。だが、あの男とあの女の作品だけは許せないのですよ。見ているだけで虫唾が走る」

 

「………?」

 

「こちらの話です。ま、彼らでダメなら最終兵器でも用意しますよ。というか、既に手筈は整えていますから」

 

 白装束の男は不気味な笑みを溢した。

 

 

 

 

 




あとがき

はい、あとがきです。
自分は原作のラジコン回の暗殺とかやってるけど、中身はエロに興味津々な男子中学生って伝えてくる感じが好きです(笑)

さて、次回はニックネーム回。
まさか、本編の100話目がこれになるとは……。

今回もご愛読ありがとうございます!
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