暗殺教室 不良児は認められたい   作:ZWAARD

12 / 224

遅れてすみませんでした……!
今日まで1月だと思ってたんです……!!

ごめんなさい、ナンデモシマス…………(泣)


IFルート ハナコトバの時間 part10

 

「ぬーん………」

 

 道場の壁に向かって体育座りしている愛弟子を遠巻きに眺める。どこかいじけるような、拗ねるような空気を纏っている圭一も珍しい。普段から悩みがないわけではないだろうが、あぁもあからさまなのも珍しい。

 

「雪村さん、あの子、どうしちゃったんだい?」

 

「えとね……。実はこの前、うちのクラスの子が一般の人に怪我をさせちゃってさ。普通に自転車と接触したとかじゃなくて、E組の山以外での訓練は禁止されてたパルクールを住宅街でやっちゃて。着地する時に、たまたま児童預かり場の園長のお爺さんがいて」

 

 話を聞いてみると、完全な不注意だ。でも、正直に言えばいつかは誰がやるかも知らなかった間違いだとも思う。というか、その場には僕もいたしね。そうか、あの後はそう言う話になったのか。

 彼らは今日まで成功体験を積んできた。暗殺という意味合いでは失敗を繰り返しているけれど、それも無意味な繰り返しではなく、一つ一つに学びがある価値のある失敗だ。回数をこなす度に自分の力が成長しているのを感じるだろう。

 

「誰でもあるさ。成長した自分の力を試してみたい。ひけらかしてみたいって気持ちは。僕だってあったもの。自分は強くなってる、実力が付いてきてる。そんな時の全能感はたまらなく気持ちの良いものだよ」

 

「まぁ、言いたいことはわかるよ。私も散々NG食らったシーンでやっとOK貰ある演技ができた時。『やった!私ってすごい!』って思うことあったもん」

 

「そういう時は視野が狭まってしまうものだ」

 

 ちらっと圭一を見る。そして雪村さんは僕の言いたいことを察したのか、首を横に張って軽やかに否定した。

 

「圭一はしてないよ?というか、そんなことしてることすら知らなかったしね」

 

「まぁ、そこ疑ってないけどね。圭一の場合、全能感を覚える瞬間なんて鷹岡氏を殴り倒した瞬間くらいじゃない?」

 

「………そう?」

 

「だって基本的にやりすぎない程度に僕が圭一を倒し続けてきた訳だからね。それに最近は最強傭兵も対戦相手に加わった訳で」

 

「あ………。周りのレベルが高すぎて、調子に乗れるタイミングがない訳ね」

 

「でも、それだと……どうして圭一はあんなことに?」

 

「実はさっきいったおじいさんの怪我の補償の為に園のお手伝いすることになってさ。そこで圭一が受け持った子がかなり特殊というか、気まずい子だったというか」

 

 なんでも、圭一が受け持った子は絶賛引き篭もり。そして引きこもりになった理由が中学受験に失敗したことで、その失敗した学校っていうのが圭一たちの通う椚ヶ丘中学校だという。

 構図としては、同じ学校を受けて受かった子が落ちた子に勉強を教えるという状態になる。これ、すごく気まずいよね。

 

「勉強って何に使うの?とか、なんのためにするの?とか……どう答えてやればいいんだか……。俺だって似たようなこと先生に言ったことあるし、気持ちは分かるから……。それにあぁいう子って強く言ったら逆効果だろうし………。かと言って俺らが何か言っても嫌味っぽくなるだろ……」

 

 道場の床にのの字を書きながら、ぶつぶつと呟く圭一の背中には哀愁が漂っている。雪村さんもその背中を見て苦笑していた。

 

「受験に失敗した子にどんな言葉をかけてやれば………。"こうすれば上手くいく"とかそれは上手くいかなかった子には嫌味みたいに聞こえるだろうし、"こうしたから失敗した"って言うのは失敗した子には古傷抉るみたいになる………」

 

「重症だね、あれは……」

 

「そうなんですよ。しかも勉強教えるなら乃咲が適任だろ、コイツ主席だし!とかいう会話が出ちゃってて。教えてる子がそれを聞いてたらしくて………アレルギーみたいな?」

 

「うーん………」

 

「『主席?はぁ?だからなに、勉強できるアピール?ウザいんだけど』って容赦ない鋭い言葉が突き刺さって………。『ブヒィ……!』って悲鳴を上げて倒れちゃったの」

 

「うちの子、メンタル弱いからなぁ………」

 

「そうなんだよねぇ……」

 

 圭一はしまいには雪村さんに『そろそろ元気だしなよぉ〜』と揺らされたあと、コロンと横に力なく倒れた。

 これ、本当に重症だな。確かにメンタルは強くないし、どちらかと言えば弱い部類かもしれないけど、ここまで極端じゃない。

 

 まぁ、とはいえ。圭一がこんなことになってる理由はなんとなく分かる。彼自身は良い生徒ではあるけど、初めから優秀だった訳ではない。なんなら、初めて会った時は自分は出来ない奴だと思い込んでてとても卑屈だったくらいだ。

 そんな過去もあって、勉強出来ないって卑屈になる子の気持ちは分かるのだろう。だから言葉を選ぶのも慎重になる。実際、当時の圭一と接するのは一苦労だった。

 

 さて、どうしよう。個人的には悩んでる教え子に言葉を掛けてあげたいところだけど、先生としては見守りたいな。

 圭一の受け持ってる子がどうなるのかは正直わからない。彼らはあくまで補償をする為のお手伝いであって、園の子供達に対する責任と言えば、精々が怪我をしないか気を張るくらいだ。

 イジメるとかしない限り、そこまで子供が子供に与える影響は大きくないだろう。まして、彼らが接する時間はそこまで長くない。圭一自身、他人に良くない影響を与えるタイプじゃない。そう言う意味では特に心配することないだろう。

 

 でも、これは成長のチャンスだ。

 

 他人を成長させることで、自分の成長を自覚できるだろう。

 

「………んまぁ、悩んでても仕方ないよな」

 

 僕が悩んでいると、圭一が身体を起こした。さっきまでちいかわみたいな声を出して雪村さんに撫でられてた癖に何事もなかったかのようにポンと手を叩き、やる気に溢れた顔で息巻く。

 

「先生がしてくれたみたいに地道に接するか」

 

「おっ……」

 

「先生がしてくれたことと言えば……良い点を取れたら新しい技を教えてくれるってご褒美形式。それを真似しよう……。そのためには、綾香ちゃんの好きなものを知る必要がある。まずは書き込みから始めて、どんな路線で攻めるかを決めよう……。それから彼女の得意科目を知るのも大事だな。どうやって調べるか……。いっそ、園長さんに聞いてみるか。生徒を健全に育てるため、という言葉に共感して俺たちに補償の機会をくれたんだから、綾香ちゃんと向き合うためって言えば教えてくれるかも……。そうなると、彼女が復帰を決めた時の為に周りの印象も集めておきたいが…………。いや、流石にそれはやりすぎか。変な人が綾香ちゃんのこと聞きにきたよーとか、絶対に嫌がるだろうし。となると————」

 

 頭の中でまとめ切れてない思考を口に出して整理する圭一。口々にえっ、そこまでする?みたいな単語が飛び出している。

 最初はその様子に目をぱちくりさせていた雪村さんが僕と圭一を見比べたあと、こちらにドン引きした目を向けて来た。

 

 違うんだよ、雪村さん。確かに圭一のやる気を引き出す為に色々と調べたよ?情報収集もしたさ。でもね、その手法はまだ彼に教えてないよ?さっきからぶつぶつと口から溢れ出てくるストーカー予備軍みたいな方法は全部圭一が考えついた内容だからね?キミの彼氏が後輩と本気で向き合うのに必要だと思ったことの項目だからね?だから、その目をやめてね。『うわぁ……、先生、そこまでしたの?』みたいな目を止めようか。

 

「教えてないだけで、圭一にやったんでしょ?」

 

「雪村さん、この前からちょいちょい考えを読むようになったね!?」

 

「女優だし、先生に勧められてメンタリスト系の勉強も始めたからね。なんか、長く一緒にいた人の癖や考え方って他人に写ることもあるんだってさ。もともと普通の人だった圭一が素でこんなこと考えるとは考え難いし、そうなるとお父さん以外は普通の人だし、それ以外の周りから写ったと考えるのが妥当だよね。ってなると、先生しか候補がいない訳」

 

「理詰め怖ぁ…………」

 

「どうしようかなぁ……。女子だし、ちょっとお菓子で釣ってみるか?いや、お菓子の完成品を渡すより、お菓子を作る中で起こっている化学変化とか化学反応をさりげなく教えて、ちょっと興味を持ってもらうところから始めるか?小学生にベッコウ飴を作らせて理科に興味を持たせる奴の発展型なら………」

 

 そうこうしてる間に、圭一は思考をだいぶまとめたらしい。うん、悪くないと思うよ、その思考。興味を持ってもらうことは勉強において大切だ。モチベーションにもなるし、嫌いな勉強と興味があることへの勉強は向き合う姿勢が違ってくる。

 まぁ、画竜点睛というか。さらに完成度を上げる方法があるとすれば、そのお菓子を使った化学の勉強をした後で、実際に作ったお菓子を子供たちに振る舞うと良いかもね。

 聞いた話によると、その綾香ちゃんという子がその施設の年長で、それ以外の子はみんな小学生ということだ。そのくらいの歳ならお菓子で喜ぶだろうし、圭一がいるなら、作るのにも失敗はしないはずだ。

 勉強しながら完成したお菓子を子供たちに食べてもらって喜んで貰う。それは、間違いなく成功体験になる。学校に行かなくなって、劣等感を募らせてしまった子にとって、努力して作ったものを無邪気で屈託のない笑顔で受け入れられること。それは将来を考えさせるだけのインパクトを与えるかもしれない。僕が殺し屋に憧れ、圭一が僕に憧れてくれたように。

 

 果たして、圭一はそこに気付くだろうか。

 上手くいけば、綾香という子にパティシエというか、お菓子作りの道を示すことが出来るだろう。そこまで上手く行かなくても、どうしてお菓子が美味しくなるのか、その過程を理解しながら完成させた経験は学ぶと言う行為への興味を持たせるのに十分な威力がある。

 

 さて、どうする。愛弟子よ。

 

「それなら、お菓子はそれなりの量を作ってみて、他の子にも食べさせてあげたらどうかな?小さい子が多いし、喜んでくれると思う」

 

「……なるほど。ありだな。綾香ちゃんは今は捻くれてるけど、歳下の子達には優しくて、うざなってる様子はない。根はいい子ってのは分かるから、勉強しながら作ったもので小さい子が喜んでくれるなら、前向きになってくれるかも」

 

 見守っていると、雪村さんが声をかけた。圭一はと言えば、それを受けて少し考える素振りをしたあと、大きく頷く。

 正直なことを言えば、圭一に自分で気付いて欲しかった。でも、これはこれでいいのかもしれない。圭一が雪村さんの心を支えて、彼女は圭一の気付いてない部分を指摘して補完する。これは、支え合いと言えるだろう。

 

 恋人になる前に肉体関係を持ってしまった2人。精神的に不安定になった雪村さんを繋ぎ止める為に文字通り一肌脱いだ圭一。この2人の関係は少し心配だった。心配だったけど、僕が思ってる以上に教え子たちは健全な仲に進展してるらしい。

 

 まぁ、海の向こうに目を向ければ、子供同士で〜なんてありふれてる。日本ですら初体験は小学生〜みたいなアンケートもあるくらいだ。関係をもった後もお互いに補完して支え合えるなら、僕が心配することはないのかもね。

 

「ん〜、先生。ちょっとお知恵貸してくれません?それなりに化学反応について学べて、中学生初心者でも出来るようなお菓子を教えてほしくて。あと、材料費も安いと助かります」

 

「ふっふっふ………。教え(お知恵)ない」

 

「…………」

 

「…………………………」

 

「あかり、昼飯くいに行こうか。二郎行こうぜ」

 

「うん————んん!!?この流れで二郎!!?」

 

「この前ゴーゴーカレー行ったしな…………」

 

「重い……絶妙に重い………!っていうか、そろそろ先生に突っ込んであげなよ。キメ顔でかたまってるじゃん!」

 

「1番長く沈黙してた奴が何言ってんの。それに、この前、なんとなく二郎行ったらさ、綾香ちゃんと偶然鉢合わせて。運が良ければ今日も会えるかもだし」

 

「待て待て待て!!情報が濃い!!!え、二郎で鉢合わせるって偶然ってレベルかな!?」

 

「本当にな……。濃いのはスープと脂だけにして欲しいよな」

 

「うまいこと言えって言ってないから!!?」

 

「隣で大豚全部マシマシで!とか聞いた時は戦慄したぜ………。ミニラーメンに野菜少なめニンニク抜きなんて日和った注文した自分が情けなくなってしまったくらいだ。まぁ、昨日の出来事なんだけど」

 

「………………もしかして昨日ずっと凹んでたのそれが理由!!?」

 

「いやぁ……そりゃ、こんな情けないやつに教わるの嫌だよなぁってさ」

 

 2人はそう言いながら、道場から出て行った。

 道場から出て行く時、2人は振り返らなかった。道場から出ていくときくらい、同情して欲しかったけど、折角だ。車くらいだしてあげようじゃないか。僕の車に同乗させて道中でお菓子の材料を買って結果上々………なんてね。

 

 1人でやってて虚しくなったので、僕は2人を追って走り出した。

 結果、冗談混じりで二郎を覗いて見たら、件の綾香ちゃんがいた。昨日のリベンジだ!と乗り込む圭一を追って僕らも入店。

 奇跡的に列が消えていたタイミングだったこともあり、少し先に入った綾香ちゃんの隣に僕らは案内された。いわゆる、ロットが同じだったのか、圭一なら教わりつつおっかなびっくりコールしたミニラーメンに諸々少なめだった僕と雪村より少し遅れて圭一と綾香ちゃんの大豚全部マシマシなんて生体兵器がお出しされる。

 

 圭一の方は店員から『こいつ、いつもミニラーメンなのに食べきれんの?』みたいな顔を向けられていたが、顔を青くする恋人を置き去りに、隣に座る教え子と握手をすると、野菜の山へとダイブした。

 ガツガツと食べ進め、黒烏龍茶で喉を潤し、再び挑む。勢いを緩めることなく攻勢に出る姿をみて、思わず『こんなに逞しくなって……』と涙ぐみそうになりつつ、圭一と綾香ちゃんのバトルは続く。最終的に見事な天地返しを披露した圭一による怒涛のスープとチャーシューを吸い付くようなスパートによって、勝負は圭一に白星が上がった。

 

「……乃咲さん、見直しました」

 

「いや、こっちこそ。キミは想像以上に逞しかったんだな。綾香ちゃん」

 

 遅れて食べ終わった綾香ちゃんと再びがっしり握手して讃えあう。うん、逞しいとかそう言うレベル超えてるよね?僕らまだ半分も食べてないんだけど。

 

「あ、ニンニクちょっとキツいけど、美味しい」

 

 圭一と綾香ちゃんは食べ終わると、そそくさと机を拭き、食器を上げて、ごちそーさまでした〜なんて言いながら出て行ってしまう。置いてきぼりになった僕はマイペースに食べる雪村さんを見習って、初の二郎をいただくのだった。

 

 追伸、この日の二郎での出来事で仲良くなったらしく。綾香ちゃんは授業をしっかり受けてくれるようになったとか。それに加えて圭一が考え、雪村さんが補完した作戦は見事にヒット。綾香ちゃんは圭一を先輩と慕うようになったそうな………。

 

 まぁ、それはそれとして。E組の子たちも反省したとは思うけど、それでも自分の教室しか知らないと価値観が広まらなさそうだよね。今回の事故もある種、自分の力を自覚しきれないのが原因だろう。

 未知の相手に自分たちの技術と知識で立ち向かう。そんなシチュエーションなら、自分はこんなことができるんだってことを自覚させられるかもしれない。僕としても、子供たちは応援したいしね。

 

 僕は、烏間へ連絡を取ることにした。

 普久間島の時、僕がいなきゃ、多分生徒たちはそう言う場を経験できたはずだし、その場を奪ってしまった補填も兼ねて……ね。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。