暗殺教室 不良児は認められたい   作:ZWAARD

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加えてたくさんの高評価と感想ありがとうございます!

今回も投下しますのでお付き合いください……!


104話 カリモノ競走の時間

 

 決戦の時は来た。

 俺たちE組がA組に挑戦状を叩きつけたと言う話はあっという間に広がり、A組vsE組の棒倒しは今回の体育祭のメインイベントとして注目されていた。

 しかし、何もそれ以外の競技において見せ場がなかった訳ではない。割と結構、色々とあった。

 

「飲み物よ、パンは」

 

 颯爽と歩き、パン食い競争の覇者となった原さん。

 

「なんだ木村の奴、めちゃくちゃ早ぇ!?」

 

 短距離走をぶっちぎりの1位で突破する木村。

 

「あのチビやべぇぞ!?なんであんなスルスルと障害物だらけのトラックを進んでいけるんだよ!?」

 

 凹凸の少ないボディで凡ゆる抵抗を受け流し、一般生徒との格の違いを見せつけて障害物競走1位に輝いた茅野。

 

 そして————。

 

「圭一、頑張れ」

 

 仕事の都合が着いたのかどうだか知らないが、何故か保護者席の最前列でビデオカメラを構えていた父さん。

 

 そのバズーカみたいなカメラどっから持って来たの。うちにはなかったよね?

 

 いや、そもそもの話だよ。なんでいるのよ、アンタ。いや、嬉しいけどさ。親が運動会に来てくれたの15年近い人生で初めてだよ。でもさ、せめて俺に一言あってもよくない?

 

 ねぇトメさん?俺何も聞いてないよ?今目があったよね?なんでそんな涼しい顔でとてもじゃないけど3人では食べきれないような重箱を掲げてるの?つか、なんでメイド服なんて着てるの?そんなの着たことなかったよね?

 

 かの有名な乃咲博士の登場で生徒達の間に動揺が走ってるよ?お陰様で保護者席の方が変な盛り上がり方してるし。なんなら何故だが父さんの横には理事長が座り、微笑みながら生徒達の勇姿を見守ってます、とアピールせんばかりに『がんばれー!』と似合わぬ爽やかさで声がけしていた。

 

「……………ねぇ、圭ちゃん。あれって……」

 

「言わないでくれ、倉橋さん。あと、お願いだからもう少しだけこうさせててください………」

 

 周りの視線がいたたまれなくて、たまたま近くにいた倉橋さんを盾にするように背中に隠れて顔を隠す。

 もうやだ。恥ずかしい。なんで一大決戦の前にこんな羞恥プレイをせねばならんのか。せめてあのバズーカみたいなカメラだけでも良いからしまって欲しい。

 

 よしよし、といつぞやの様に撫でながら宥めてくる倉橋さんを他所にクラスメイトたちは言いたい放題だ。

 

「ほぇ〜。本物の乃咲博士だよ。乃咲って本当にあの人の子供だったんだなぁ……」

 

「あのカメラ最新型のめちゃくちゃ高い奴じゃんか!?あれ一台で車買えるぞ!?すげぇな乃咲!?」

 

「しかもさ、隣にいる人メイド服着てない?」

 

「いや……。ある程度、乃咲博士の子供ってことで予想してたけどさぁ。乃咲ってもしかして本物のおぼっちゃま?」

 

「違います……。僕はおポッチャマです。おぼっちゃまじゃありません………。だからお願いだから、こっち見ないで……」

 

「あぁっ!?乃咲がシオシオになってる!?」

 

 倉橋さんの背中でどんどん小さくなる。

 このまま消えてなくなりたい………。

 

「どうしよう、乃咲クンが大変なことになってる」

 

「だよな……。圭一はうちの主力………」

 

「銀の死神、ファザコン、おぼっちゃまにおポッチャマ……。乃咲クンのあだ名のレパートリーが増えすぎて、どれで弄れば面白いことになるのか……!選択肢が多すぎる」

 

「そっちかよ」

 

「つーか、乃咲。借り物競争だろ?行かなくて良いのかよ?」

 

「き、棄権したい………」

 

「圭ちゃん、頑張ろ?折角お父さん来てるんだしさ?」

 

「ぅぅ………。行ってくる」

 

 ふらふらと同じく借り物競走に出場予定のイトナに半ば引き摺られる様に歩き、順番を待つ。

 数分すると、イトナは先発組として走り、『賞味期限の近いもの』というお題に対してビッチ先生を連れてゆき無事に1着を取っていた。なんと言うか、うん。内心で散々年増扱いしてるが流石にビッチ先生が不憫だと思った。

 

 何気なく自分の出番が来るまで辺りを見回すが、ふと去年まではなかった物を発見する。トラックを4方向から写すみたいなカメラが設置されていた。

 なんだろう?小学校とかみたいに運動会の様子を撮影して販売するとかそんなビジネスを展開する気なのかな?

 

 思考を弄んでいると声が掛かる。

 さて、そんなこんなでやって来た俺の出番。

 

 よーいドン!で駆け出し、お題の入った箱へ直行。

 手を突っ込み、適当に一枚掴んで引っこ抜く。ちなみに、この借り物競争は3回まで引き直すことが可能だ。

 

 とりあえず奇天烈な奴じゃなければ!と思い、期待しながら開くお題。割と几帳面に折り畳まれたそれを開くと、俺たちの頭上で輝くお天道様が達筆に記されたそれを照らす。

 

【ゴルゴ13 第59巻だけ持ってる人】

 

「……スウッッッッ〜」

 

 思わず怒鳴りそうになるのを押さえて深呼吸。喉仏の少し上まで上がっていた言葉を辛うじて飲み込み、誰に聞こえることもない心中で声を大にして叫ぶ。難しいわボケぇぇ!!と。

 

 なんだよ!?59巻だけ持ってる人って!?こう言うのって全巻持ってる人ってのが相場だろ!?なんでそんなスポット的なんだよ!?なにお題でスナイパー気取ってるんだよ!やかましいわ!!いやいや、そもそもゴルゴ全巻も相当ハードル高いけどな!?確か200巻以上あっただろ、あのシリーズ。

 

 気を取り直して再度お題箱に手を突っ込む。

 今度こそまともなナニカ来てくれ!と願って引く。

 

【パンデモニウム】

 

「はぁ……?」

 

 パンデモニウムってなんだよ!?あのグロい料理そんな幅広く知られてるもんなのか!?つか、これも大概ふざけてるよ!?この敷地内であんなもん作れるのウチのトメさんと俺くらいだろ!?なんなんださっきから!?

 

「坊ちゃん、頑張れ〜」

 

 気の抜ける声援を飛ばしてくるトメさんに視線を向ける。さらに詳しく言うのなら、彼女が持ってる重箱へ。

 

「「「ギシャァァァァァ」」」

 

 なんか聞こえた。意識を集中させてあの重箱の中の気配を探ったらなんかやばそうな鳴き声が複数聞こえた。

 まじかよ、あんなかパンデモニウム入ってるのかよ。つか、それがお弁当かよ!?下手したら父さんもアレ食うんだよな!?大丈夫か?世界的科学者がとんでもないゲテモノ食ってる絵面がこんな大っぴらに晒されることになるぞ!?

 

 ま、まぁ、何はともあれ、お題は達成できそうだ。

  ……出来そうではあるのだが。引き直したい。流石にE組の仲間達の前でパンデモニウムを掴んで見せびらかすくらいならどうと言うこともないが、全校生徒の注目を浴びながらパンデモニウムを掲げるなんてしたくない。

 

 確実なクリアを選ぶか、それとも精神衛生を選ぶか。

 

 俺は盛大に悩みまくった挙句、引き直すことに決めた。

 

 周りを見ると、どうやら俺以外の連中も頓珍漢なお題ばかり引いている様だった。美味しんぼ全巻、前回テストで赤点だった者、殺し屋、理事長の持ってるトロフィー。などなど色んな意味、色んな角度でエグいお題ばかりだ。

 

 そしてお題箱の前から横並びに誰も前進しないまま迎えた引き直しラストチャンス。笑っても泣いても、これで全てが決まる。俺だけではなく、この場にいる全員が覚悟を決めたような顔でお題箱に再度手をツッコミ、祈るように目を閉じ、あるものは勢いよく、あるものはゆっくりとソレを引く。

 

【ハーバード大学主席】

 

 俺は膝から崩れ落ちた。いるか、いるわけあるか、そんな奴……!くっそ!!甘い希望に縋ることなく、パンデモニウムでクリアしておけばよかったんだ!!

 もったいないことをしてしまったと全身全霊で後悔。周りを見ると俺以外の全員も崩れ落ちていた。

 

『おおっと!?走者全員崩れ落ちているぅ!引き直しを繰り返すこと3回!遂に誰も希望を見出せなかったかぁ〜!!?』

 

 あぁっ、くそっ、やってられるか!??

 俺の脳裏を走馬灯が過ぎる。俺はこんな連中に負けるのか。こんな下らないことで。こんな無様に。

 

——私が月を殺った犯人です。

 

 思い返せば色んなことがあった。

 

——防衛省の烏間という者だ。

 

 尊敬できる人と出会い、憧れた。

 

——周りをみろよ、圭一!

 

 本気でぶつかってくれる仲間が出来た。

 

——大きくなったな、圭一。

 

 父とようやく和解することが出来た。

 

 本当に密度とか色々と濃い時間を過ごしたもんだよなぁ。約15年の人生がたった1年でこんなにも変わってしまった。

 それもこれも、俺がここに進学したからなんだよなぁ。父さんと理事長が知り合いで俺をここに入学させないかって提案されたのがきっかけなんだから俺がここにいるのってこの2人の縁のおかげなんだよなぁ。

 

 もともと母さんを治すためにハーバードに進学した父さんと同じ日本人だからって理由で気に掛けてくれたのが出会なんだったか。すげぇ話だ。母さんの為に動いた結果、息子の人生を変えるような縁に出会うんだから。

 

——大学時代の先輩だ。当時、ハーバードにどうしても学びたい教授が在籍していてね、進学を決めたんだ。その時に同じ日本人だからと気にかけてくれたのが先輩だ。ちなみに彼は主席で卒業している。

 

 …………………いるじゃねぇか!!!?

 

 思わずガバッと身体を起こす。いる、いたわ、割と身近にハーバード主席が。いやいや、おいおい。走馬灯すげぇな!?

 

 俺はフラフラとした足取りで立ち上がり、件の人物がいるところを目指してゆらり、ゆらりと歩く。

 

『おやおや?E組乃咲が立ち上がったぞぉ!?』

 

 ふらり、ふらり。なんか、本番前なのにどっと疲れた。無茶振りが過ぎる借り物競走。あとで学秀に文句言ってやる。

 

「圭一?」

 

「おや、どうかしたのかい?乃咲くん」

 

『歩く歩く!そして辿り着いたのは保護者席だぁ!果たして彼が掴み取ったお題とはなんだったのかぁぁぁぁ!!?』

 

 相変わらず父さんの横に座ってる理事長。彼を見据えたあと、頭を下げながら手を差し出し、言葉を紡ぐ。

 

「理事長先生、何も言わずに俺と一緒に来てください……!」

 

「「「「「「「!!???」」」」」」」

 

『ああっと!!?まさかの声を掛けた相手は我らが理事長先生だぁっ!?借り物競争、借り物が人間、そして、彼の言葉選び!この展開!まさか、彼が引いたお題とはぁ!!?』

 

 無数の狼狽の声。煽る実況。しかし、俺は引くつもりはなかった。見つけた勝利への糸口。離したくはない。

 

「………乃咲くん。気持ちは嬉しいが、お断りさせて貰う」

 

『ああっと!ごめんなさいだぁぁぁぁぁ!!!』

 

 まずい。この人に断られてしまったら勝ち目がなくなる。

 ハーバード大学に行ってる人がそもそも珍しいのに、その更に主席卒業者とかなると更に珍しい。なんなら、1年に1人しかいないだろ、普通。一年に1人の逸材とか言うとなんか微妙な感じはするが、それでもこの魚を逃すわけにはいかない。

 

「そんなこと言わないでください……!俺には……貴方しかいないんです……!!俺には貴方が必要なんです!!!」

 

 だって、他にハーバード主席なんていないだろうし。

 そういえば父さんはどうなんだろうか。案外、この人も主席だったりするのだろうか?

 

「お、お父さんの前で良くそんな声高に主張ができるものだ」

 

「誰の前だとか、そんなの関係ないんですっ!俺には今しかないんだっ……!このタイミングを逃したら、俺は勝てないっ!!理事長先生がいつも言ってることですよ!!目的の為には手段を選ぶな、と。責任をとってください……!!」

 

『これは意外!乃咲しつこい男だったぁぁぁぁ!!先ほどから我々は何を見せられているのでしょう!?次から次へと飛び出す不安な単語、未だかつて見たことがない熱烈な主張!!明らかにナニカが起きているぅぅぅ!!いや、この場合はナニカサレタと言うべきでしょうか!!?これにはたまらず理事長先生も動揺を禁じ得ません。浅野生徒会長、我々の学園はこれからどうなってしまうのでしょうか!?』

 

『————』

 

『だれか担架ぁぁぁぁぁ!!早く!早くぅぅぅぅ!浅野生徒会長が泡を吐き、息をしておりません!!』

 

「だれかぁぁぁぁぁ!!こっちにも担架ちょうだい!陽菜乃が息してない!!痙攣してるし、白目むいてるからぁぁぁ!!」

 

「坊ちゃんの影響力は凄まじいですね、旦那様……。………?あっ、申し訳ございません。担架追加でお願いします」

 

 なんか、すげぇ地獄絵図になってるな。

 

「『あれが乃咲か。イカれてるぜ』」

 

「『あぁ。浅野が警戒するだけある』」

 

「『……なぁ。アイツの警戒してる理由って腕っぷしだよな?男色とかそっち方面の心配じゃねぇよな?』」

 

 ガタイの良い外国人の兄ちゃん達がなんか言ってる。

 その姿を見て、棒倒しが決まった日から細々と続けていた、A組の情報収集を思い出す。

 

⬛︎

 

⬜︎

 

⬛︎

 

「みんな、E組とやることになったこの棒倒しだけど、僕達の最優先目標は棒を倒すことじゃないんだ」

 

「勝つからには全力を尽くす。その為に助っ人も用意した。彼らを入れれば人数差は倍だ。戦力的に棒を倒すのはいつでも出来る。僕はね、これを通してE組に反省して貰いたいんだ」

 

「クラスのほとんどが素行不良。誰とは言えないが、こっそり校則違反を繰り返している者もいる。そんな彼らに棒を倒す前にじっくりと反省して貰おう。もちろん、ルールに則って正々堂々とね。それに、期末テストで悔しい思いをした者が大半だろう。そんな君たちが『中間テスト前に少しお返しをしたい』という気持ちが合っても僕は責めない」

 

「みんなで勝とう。棒倒しも、テストも。これは僕らA組が彼らに下す鉄槌だ。他のクラスのみんなや後輩たちに見せてやろう。この学校の頂点は僕らなんだと。完膚なきまでにE組を打ち負かすんだ。築き上げた彼らの屍の山に聳える(墓標)を堂々と倒壊させるんだ。それでこそ、完全勝利と言えるだろう」

 

⬛︎

 

⬜︎

 

⬛︎

 

 とか言ってたけどさぁ。

 

 学秀の奴、やっぱりとんでもないことして来やがった。まさかの外人部隊結成とは……。しかも8人もいやがるし。俺なんかよりもアイツの方がイカれてるだろ。発想のスケールというか、グローバルさで負けたわ。

 

 なんだかんだ、すっごい複雑そうな顔をしながらついて来た理事長と共にゴール係の前に歩く。

 

「ええっと……。ゴールおめでとう……?いや、人生のゴールイン……?ええっと………?」

 

 めちゃくちゃ狼狽えてるゴール係の教師。

 俺たちの組で走ってると言うか、お題をクリアできそうなやつが俺しかいないからから、実況役がカメラを持って来た。

 

『ご、ゴールおめでとうございます。み、見事一着達成ですね……。あの……今のお気持ちは……?』

 

「清々しい気分です。お題を見た時は思わず崩れ落ちてしまいましたが、ふと、理事長先生の顔が脳裏を過ったんです。あとはもう当たって砕けろと半ばヤケでしたね。断られてしまったらどうしよう……。そんな不安もありましたが、先生は受け入れてくれました。だから、俺はこうしてゴールすることが出来ました」

 

 俺の返答に実況役も、理事長もギョッとする。

 こんなリアクションをする理事長は初めてみたな。

 

『あ、あのぉ……。その、大変お伺いにくいのですが………乃咲先輩のお題の内容は……?』

 

「ハーバード大学主席、ですね」

 

 あっけらかんと答えると、観客席の方では何やら盛大な安堵の息が沢山聞こえて来た。

 横を見ると、理事長も顔を引き攣らせながらそれでも何処か心の底から安心したみたいな顔をしている。

 

「………乃咲くん。誤解を招く言い方は今後控えなさい」

 

「いやぁ……。周りもなんだかんだで楽しそうにしてたものでつい。ごめんなさい。気を付けます」

 

 流石に調子に乗りすぎたのは理解している。

 反省反省。

 

「ちなみにだが、ハーバード主席なら私の他にもいるよ。キミの身近にね。新一がそうなのだから」

 

「まじすか?」

 

「マジだとも。彼は彼で忙しく飛び回っているので機会はあまりないだろうが、勉強で何か分からないことがあれば頼ってみるといい。私が知る中で最も万能に近い男は彼だ」

 

「えぇ……?分かっていたつもりですが、まさか先生にそこまで言わせる程とは思わなかったですよ……」

 

 理事長の口から飛び出す爆弾。まさかの父さんもハーバード主席だとか思わないじゃん。知ってたら初めからそっち行ったわ。つか、このお人をして"最も万能に近い男"と言わしめるうちの父は何者なんだろうか。

 

「まぁ、かなり予想外な方向で、尚且つ後生感じたくはない焦りを覚えたが、周りの反応など、それなりに楽しめた。今回のメインイベント扱いされている棒倒しも期待しているよ」

 

 しっかり俺が1着として認められたのを見届けて、理事長は人混みの中に消えて行く……ことはなく、父さんの隣に戻った。

 なんだろう。うちの血筋は浅野親子に絡まれるフェロモンみたいなものが出ているんだろうか……?

 

 なんだか怖くなって来た。

 

 怖気付きながら、それでも自分以外はスタートすら切れなかった競技で自分だけゴールし、一位になった充足感をホクホク顔でE組の島に戻る。

 

「ただいまぁ〜……ってどうした、この空気」

 

 なんか淀んだ空気がそこにはあった。

 しかも、何故だか、倉橋さんが瀕死になってる。

 

「く、倉橋さん……?大丈夫?なんかあった?」

 

 苦悶に満ちた顔で眠る倉橋さんと、彼女を囲む女子たち。なんとなく心配になり、声をかけるが、こんな時は味方をしてくれる男子たちからは、『あーあ、やりやがったわ、コイツ』みたいな視線を向けられている事に気がつく。

 

「圭一。取り敢えずお前が悪い」

 

「えっ……?俺、また何かやっちゃいました?」

 

「ふんっ!」

 

「ぎょぼっ!?」

 

 悠馬の言葉に首を傾げていると、神妙な面持ちの茅野のロケット頭突きが顔面に入った。あんまり痛くないが、とりあえず派手にリアクションしておく。

 

「前が見えねェ」

 

「1位おめでとう。お前が悪い」

 

「独走だったね、乃咲くんが悪いと思うな」

 

「よく大学時代の理事長の成績なんて知ってたね?それはそれとして僕も乃咲が悪いと思うよ」

 

 満場一致で俺が悪いと言う結論は決定してるらしい。

 

「なんだよ!?俺は勝つ為に全力を尽くしただけじゃねぇか!?冷静に考えてくれよ!?ハーバードを主席で卒業してわざわざ日本に戻って来て、その上で中学校の体育祭なんか見にくる奴いるかよ!?そんな絶望的な状況でたまたま見つけた条件に合致する唯一の人物だぞ!?必死になるのは当然だろ!?」

 

「だとしても、もう少し言葉は選んで欲しかったもんですな」

 

「お、俺が悪いのかよ!?お前らが俺と同じお題を引いたら、何も出来なかっただろう!?俺ばっかり責めるな!俺は悪くねぇ、俺は悪くねぇ!!」

 

「………ビッチ先生?」

 

「……トイレに行って来るわ。ここにいると鈍感なセリフが焦ったくてお尻がむず痒くなるもの」

 

 ふざけ倒してる所為でおかしな方向に進み出したぞ。

 つか、なんだかんだ言いつつ、みんなふざけてる。

 

「け、圭ちゃん……」

 

 か細く、消えそうな声で倉橋さんが俺を呼んだ。

 思わず駆け寄る。並べた椅子の上で横たわる彼女はこの場において唯一瀕死とも言える重症を負っていた。

 

「く、倉橋さん!大丈夫か!?」

 

「一位……おめで………と…………」

 

 何故だか知らないが、彼女だけは真剣にダメージを受けてそうなのが謎だ。倉橋さんに何が起きた。誰がこんなことを……!

 

 プルプルと震える彼女の手を掴む。

 

「さっきまであんなに元気だったじゃないか……!どうして、なんでこんなことになってるんだ……!?俺が目を離した隙に何があったと言うんだ………!!!?」

 

「乃咲、乃咲」

 

「なぁに、茅野?」

 

「ほら、鏡」

 

「…………?」

 

 茅野に見せられた手鏡に映るのはいつもと変わらない自分だ。しっかりワックスで固めたオールバックは、夏休み前の自分とは似ても似つかない。髪型で印象って変わるもんだよな。

 

「あらやだ、ちょっとニキビが」

 

「そこじゃないよ……」

 

 呆れた様に鏡をしまわれた。

 

「ねぇ、圭ちゃん。圭ちゃんはさぁ……女の子好き……?」

 

「……?そら好きだよ。特に倉橋さんみたいな元気で可愛い女の子は好きだけど。どうして?」

 

「ごふっ……」

 

「倉橋さん!?倉橋さぁぁぁぁん!!!?」

 

 吐血してガクッと生き絶える倉橋さんの名を叫ぶ。

 ところで、このテンションはいつまで続けようか。

 

「乃咲くんってそんな大胆なこと言うんだ?」

 

「大胆……?」

 

「自覚ない?陽菜ちゃんに可愛いとか、好きとか言ってたよ?」

 

「……?倉橋さんを見て『ブサイク、嫌い』とか言う奴いねぇだろ?いたらソイツの生まれた国の美的センスを疑うわ」

 

「……あちゃー。重症だね、これは」

 

「色んな意味でタチが悪い。これ、他の子が『じゃあ、私は?』とか聞いても似た様な答え方する奴……」

 

「試しにやってみる……?えっと、じゃあ、乃咲。私は?」

 

「茅野……?可愛いと思うぞ?いつもみんなのサポートしてるし、割と元気そうで。まぁ、夏休み明けくらいから少し気になってるところがあるけど」

 

「ほぇ?の、乃咲が私のことを……?」

 

 聞かれたことに素直に答えてみる。

 今までなら小難しい言葉を並べただろうが、今の俺は夏休みを経験し、倉橋監督と寺坂コーチの指導を受けた、出来るだけ簡単な言葉で簡潔に伝える努力をする様になった圭一くんなのだ。

 

 しかし、それでいてしっかりデリカシーがあるのが俺である。もしもこれから伝えることが茅野にとって周りにそう思われたくないことや、知られたくないことである可能性も考慮できるのである。俺は進化したのだ!

 

「ちょっとお耳を拝借しても?」

 

「う、うん……?」

 

 手招きして寄ってきた茅野の耳に顔を近づける。

 なんとなく、このまま『ふー』ってイタズラしようかと思ったが、普通にセクハラだし、キモいので止めた。

 

「割と無理矢理笑ってることあるよな?」

 

「……!?」

 

 ガバっと茅野が離れる。

 

「な、なんで……!?」

 

 目に見えて警戒した様な顔。少し傷付く。

 

「あくまでそう見えることがあるってだけだよ。いつもって訳じゃないから。ただ、なんとなく注意深く見てると少しだけそう思うことがあるってだけ。みんなも気にしてないだろうし、そんな身構える程でもないと思うけどね」

 

「……そう。なら良いんだけど」

 

 茅野の顔からいつもの感じが消える。みんなを背に立ってる彼女の表情は少しだけ冷たい様な気がする。

 いつもの苦笑でも、呆れでもない。どこか冷淡さを感じさせる顔に少し面食らうが、人間、誰しもそう言う一面はあるものだろう。俺だって中学に上がるまで似た様なことしてたし。

 

「お、なになに、乃咲の奴、今度は茅野にもなんかした?」

 

 男子たちが呆れ半分、茶化し半分でそう言うと、茅野はみんなの方に振り返るといつもの声音で否定した。

 

「なんでもないよ!ただ、乃咲の癖に意外と人のこと見てるんだなぁ〜ってびっくりしただけだから!」

 

 茅野の声はいつも通りだが、それはなんとなく、今指摘した様に無理矢理使っている仮物だと分かった。

 人は見かけに寄らないというが、彼女、本当に実は昔子役やってたとかだったりしないだろうか?俺はなんとなく彼女の小さな背中を眺めてそんなことを考えた。

 

 こうして決戦までの時間は過ぎて行く。

 借り物競争という箸休めも終わり、俺たちは悠馬の今後が左右されるであろう戦場へと向かった。

 

 

 

 




あとがき

はい、あとがきです。

箸休め回でした。次回からバチバチになります。
A組vsE組!はてさてどうなることやら……。

圭一「他の五英傑はどこへやった……!?」

浅野「キミの様な勘のいい奴は嫌いだじゃないよ」

人体錬成で屈強な外人部隊と交換されてしまった彼らはどうなってしまったのか!!?
なお、上記の会話は次回には関係ありません。

今回もご愛読ありがとうございます。
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