暗殺教室 不良児は認められたい   作:ZWAARD

123 / 224
UA462000件、お気に入り3395件!
加えてたくさんの高評価、感想ありがとうございます!

今回も投下しますのでお付き合いください……。
今回も劇場版ボリュームになってます……。

テンポの悪さを改善したいところですね……。


105話 対決の時間

 

『さぁー!いよいよやって来ました本日のメインイベント!E組がA組に挑戦状を叩きつけた様です。我が校のエリートvs落ちこぼれ!勝利の女神はどちらに微笑むのかぁ!実況は荒木先輩に代わり、引き続き放送部の鎌田が務めさせて頂きます!』

 

 高らかな実況と共に歓声が上がる。

 外国人を8人も加えたA組と数が少ない上に落ちこぼれと見られているE組との戦い。本来ならA組の過剰とも言える戦力は批判されても文句は言えないところであるが、挑戦状を叩きつけたのがE組であるという状況から、A組が持ち前の人脈をもって万全を整えた全力の迎撃というスタンスがとれる。

 

 それ故に、トラックという闘技場はかつてない熱気を見せていた。なにより、人間は互角の死闘も好きだが、有意な立場からの一方的な虐殺も好むもの。そういう意味でも今回の催しは尋常ではない好奇の視線を集めることになった。

 

「………どうしましたか、磯貝くん」

 

「……あの外国人たちに指示してる浅野見て思ったんだ。俺にあんな語学力はない。俺の力じゃとても浅野には及ばないんじゃないのかなって………」

 

「そうですねぇ………率直に言えばその通りです。浅野くんを一言で表すのなら『傑物』です。彼ほど完成度の高い15歳を私は見たことがない。いくらキミが万能でも、社会に出れば上はいくらでもいます。彼の様な人がね」

 

「どうしよう……。俺のせいでみんなが痛めつけられたら」

 

「自分の所為で仲間が傷付くのが怖い。それは当然です。でもね、キミが劣勢に追い込まれても一緒に戦ってくれる仲間がいる。その力は浅野くんを上回っています。社会において1人の力には限界がある。それを覆せる仲間を集めることが出来る、それがキミの人徳ですよ」

 

「俺の力……」

 

 殺せんせーがカメラを持って悠馬を捉える。ファインダーが写す景色には誰が呼んだ訳でもないというのに、E組の男子が頭に鉢巻を巻き、やる気満々と言った様子でポーズしていた。

 

「いまや浅野くんも暗殺に噛んでいる以上、私の生徒です。でもね、A組より、仲間のピンチに団結し、強大な相手に笑って立ち向かえるキミたちの担任である事の方が私は嬉しい」

 

「殺せんせー……」

 

「いつも通り全力で立ち向かいなさい。私と違って彼らはマッハ20で逃げたりしません。加えて、キミには頼りになる仲間がいる。逃げない相手と頼りになる仲間。楽勝でしょう?」

 

「………はいっ!!」

 

 殺せんせーの声に悠馬は気分を切り替えたのか、シャキリとした返事をして頬を叩いて頭に結ばれた純白の鉢巻をはためかせて立ち上がると、仲間たちに振り向き、溌剌と叫んだ。

 

「よっしみんな!!いつも通り()る気で行くぞ!!」

 

「「「「「「おう!!!」」」」」」

 

 一丸となったE組男子たち。

 燃え上がる彼らとは対照的にA組は冷ややかだった。支配者然とした学秀の手腕で統率が取られている彼らはまるで仕事をこなす前の軍人の様な面持ちでリーダーの言葉を待つ。

 

「彼らはライオンに処刑される異教徒だ。A組の名前を聞くだけで震えて鉛筆すら待てないようにしてあげよう」

 

 短い指令に彼らは静かに頷く。

 

『両者整列!!』

 

 号令に従って並ぶ両者。腕や首をこれ見よがしに鳴らして威嚇する外人部隊を尻目にA組の面子を眺めるが、俺はここで違和感に気づく。外人は8人いるのに、向こうは32人しかいない。

 A組の元の人数は28人だ。そこに外人が8人加わるのだから向こうには36人いなきゃいけないはずだろう?

 

 強烈な違和感と共にA組のメンツを眺めてふと、思った。五英傑……正確に言えば学秀を除く4名がいない。

 

『さぁー!この未だかつて見た事のない布陣のA組はどの様な戦いを見せてくれるのでしょう!?"たまたま、偶然"にも研修留学に来ていた異国の友人4人と我らが五英傑のうち4人と交換留学で訪れていた外国の友人4人!総勢8名からなる外国人部隊の勇姿はぁぁぁ!!』

 

「あ、アイツやりやがった……!」

 

「あぁ……。まさかここまでするとは。他の4人を外国に送りつけてでも戦力を増強してくるなんて」

 

 一瞬の間に動揺が走る。

 無理もない。俺だって驚いている。

 

 けど、本当にそれだけか?今まで散々煽ってきたが、それでも学秀以外の五英傑だって無能ではない。瀬尾なんかは腕っぷしもあるし、偏見で申し訳ないが、目の前の外人たちよりは頭が良いと思う。前線で自分の立てた作戦通りに動き、細かいプランの修正は当人が臨機応変に行える兵士。それにアイツは英語が得意だ。コイツらと意思疎通も取れるし、居るに越したことはないだろう。これを手放す理由は一体なんだ……?

 

『さて、ここで今回のルールを説明します!相手の棒を先に倒した方が勝ちなのはもちろんのこと!掴むのはいいが、殴る、蹴るは原則禁止!武器の使用ももちろん禁止となっていますが……例外として、棒を支える者が足を使って追い払うのや、腕や肩を使ったタックルはOKとする!』

 

 要するに、殴る、蹴るはダメだが、相手を排除すること自体は禁止されていないということ。

 しかし、E組はやはり不利だ。今回も一応は審判の先生がいる。でも、その采配はA組に寄ったものになるだろう。うちらから手を出す訳にはいかない。まずはA組に手を出させ、審議の基準を周りに見せつけ、"A組の時は何も言わなかった"と言える状況を作ることがひとまずの第一目標となるだろう。

 

『なお、チームの区別をはっきりする為……A組は長袖と帽子を着用すること!』

 

「……つまり、向こうは防具アリってことね」

 

「あれは帽子じゃなくて、ヘッドギアだろ……」

 

 ツッコミ多数。A組とE組の格差はここでも出るか。

 それでも他の生徒や保護者席からも声が一切上がらないあたり、やっぱりこの学校の教育は凄まじい。E組の親は大体は体育祭を見に来ない。中学3年生なんてそんなもんだし、学校で差別される自分の子供を見たいと思う者はいないだろう。

 

 ……まぁ、うちの親父みたいな例外はいるが。

 

 この時点でE組は基本圧倒的にアウェイだ。みんなで立てた作戦とかを活かすには……この圧倒的アウェイを覆さねばならない。その為には……この棒倒し自体を盛り上げる必要がある。

 

『両者、位置につけ!』

 

 審判の号令に合わせて整列をとき、それぞれに設定された位置へと棒を運び、体勢を固める。

 

「どうする……。流石にあのデカブツ8人は想定外だぞ?」

 

 陣形を作りながら口々にそんな言葉が出る。

 俺たちの陣形は密集型。作戦会議はしやすい。もちろん、主力となる作戦自体は事前に相談して決めてあるが、学秀は俺たちが普通の生徒じゃないことを知ってる。それに対して何をぶつけてくるか分からない点、元々の作戦の初動なども加味して即時意見交換出来る様に固まっている。

 

『A組とE組!我が校のエリートと落ちこぼれ達の因縁の対決の火蓋が切って落とされました!』

 

「どうする……?作戦通り、俺と吉田で突っ込むか?」

 

「あぁ……。まずは作戦通りに行こう。アイツらが近づいて来たら頼む。悪いな、吉田、村松」

 

「へっ、お前が居なくなったら誰もうちのクラスまとめられなくなっちまうしな」

 

「気にすんな。受け身の訓練なら嫌ってほど受けてるしよ、烏間のセンコーに比べたらぬるいぜ」

 

 先発2人の気概は充分。流石に行動力の高い寺坂組だ。こういう時の度胸は頭ひとつ抜けてる。

 

『な、なんだコレは!?E組は誰も動きません!!E組がA組に挑戦状を叩きつけたことで始まったこの棒倒し!日頃の不満を力ずくで晴らしたいのは分かりますが、E組はガッチガチに守備を決め込んでいます!攻めなければ勝てない!ここに来て戦力差に今さらビビったかぁ!?』

 

「アイツら攻める奴が1人もいないぞ!?」

 

 A組が流石に驚いた様な声を出す。

 しかし、その大将は落ち着きはらっている。

 

「……攻撃部隊、指令(コマンド)F」

 

 短く、静かな指示共に巨人が2人が小人を数名連れて歩き出す。8人もいる割に攻撃に使うのは2人だけ。アイツもかなり慎重に動いてる。同級生を足場にし、俺たちを見下ろす学秀の姿はまさに支配者のそれだった。

 

「ラスボス感ぱねぇな」

 

「あぁ……。なんつーか、隙がねぇ」

 

「……いや、隙ならある。アイツらは速攻で棒を倒そうとはしない。無論、警戒はするに越したことはないが、俺たちを潰すことが目的である以上、俺たちを全員行動不能にでもしない限り、学秀が棒を倒す指示を出すとは思えない。そこが隙だ」

 

「アイツらの勝利条件は俺たちの殲滅。それに対して俺らは棒を倒すだけ。最悪、アイツらを相手にする必要はないってことだよね、乃咲クン?」

 

「あぁ。とは言っても、一筋縄でも行かないだろう。流石に外国人部隊とあの人数は想定外だ。下手したらコマンドはそのままで言いにしても、作戦を土壇場で変えなきゃかもな」

 

 話している間にも2人の巨人はゆっくりゆっくりと攻めてくる。ズシン、ズシンと重厚な足音が聞こえる様な気がした。

 

『A組が悠々と少人数で攻撃姿勢に入る!見慣れた棒倒しとは何かが違うぞ!?E組に彼らを迎撃する術はあるのか!?』

 

「んじゃ、ひとまず作戦通りに行ってくるぜ」

 

「悪い、頼んだぞ、2人とも」

 

「お前らも怪我すんなよな」

 

 吉田と村松はそう言うと俺たちの陣形を離れ、外人2人の前に焦りと不安を隠しきれない様子でたった。

 

「無抵抗でやられっかよ!」

 

「やってやんよ、クソが!」

 

 彼らは吐き捨てると向かってゆく。

 演技と本気が半々と言ったところだろう。俺でもあれだけ体躯に差があると向かって行くのは怖い。

 この役を背負い、実際に向かって行った彼らの勇敢さは素直に賞賛する。カッコいいな、アイツら。

 

「GAaaaaaaaaaa!!!」

 

 しかし、そんな勇気を見せてくれた2人を彼らは情けも容赦もなく吹き飛ばす。吉田と村松は地面を転がり、観客席の方へ紙切れの様に飛ばされ、力なく倒れた。

 

『なんつー威力だ!!?客席まで10メートルは吹き飛ばした!?まるで交通事故!強いぞA組!!』

 

 人が吹き飛ばされたというのに実況は盛り上がる。

 客席の連中もそうだ。2人が飛ばれた後は静まり返るが、その直後には大歓声をあげていた。

 

「流石にアレは食らわない方が良いね」

 

「あぁ……。作戦通りに動くにしても、お前ら絶対に気を付けろ。間違っても踏ん張って耐えようとするな。タックルされたら自分から後ろに飛ぶくらいのつもりでぶっ飛べ。それが安全だ」

 

「「「了解……!」」」

 

 みんなに注意喚起しつつ、悠々と歩いてくる向こうの攻撃班を観察する。多分、この前学秀が言っていた格闘家の知り合いというのはコイツらだろう。ただ筋トレが趣味の留学生というには佇まいが普通じゃない。

 

「『おい、そこの銀髪。お前が乃咲だな?』」

 

「……英語?」

 

「なんか乃咲を呼んでるみたいだな」

 

「『なんか用か?見ての通り棒を支えるのに忙しいんだが?遊んで欲しいなら向こうでお山の大将気取ってる奴に頼めよ』」

 

「『なんだ、案外ペラペラと話すじゃないか。話が速い。浅野から話を聞いている。強いんだってな?アイツより』」

 

「『強いの方向性によるな。成績では同率だが、1位を取ってる科目の数で言えば俺は勝ったとは思えない』」

 

「『謙虚な奴。だが、俺が言ってるのはこっちの方さ』」

 

 力コブを作り、パンパンと叩いてアピールしてくる。

 学秀の奴、どんな話を吹き込んだのか知らないが、コイツの中の乃咲くんは相当な力自慢らしい。

 

「悠馬。俺をご指名みたいだから行ってくる。予定通りみんなの指揮は頼んだ」

 

「…………わかった」

 

「カルマ。基準(・・)を使ってくる。有効活用してくれ」

 

「りょーかい。あんま無茶はしない様にね」

 

「分かってる。みんなも何が合っても冷静に立ち回れ。悠馬の指示に集中しろ」

 

 みんなの頷きを見て俺も先発の2人に習って前に出る。

 巨大な体躯の2人の前に立つとやはり圧迫感がすごい。

 

『E組の乃咲が前に出たぁ!我が校きっての不良児、武力を示し、我が校トップに相応しい文武両道を示せるかぁ!?』

 

 そっか。俺って一応はこの学校のトップ扱いなんだよな。

 学年主席というのは忘れてないが、学秀に並んでいるのだからそらそうか。学校全体での自分の立ち位置という奴をそういえば考えたことはなかった。

 

 しかし、今はまだ実況の声に答える時ではない。

 

「『ビビらず出てくるか、大した度胸だ』」

 

「『討論しに来たわけじゃないだろう?さっさと始めよう』」

 

 挑発をかねて人差し指をクイクイと曲げる。

 あちらさんはコキコキと首を鳴らすと躊躇うことなく腕をこちらに伸ばしてきた。

 

 ゾーンに入るまでもなく見切れる。殴りと蹴りという直接的な暴力が禁止されており、掴みなどは認められてることから察するにコイツの狙いは服を掴んで俺を投げ飛ばすことだろう。

 時点で関節技か。禁止されてないだけで使える暴力は結構ある。でも、こっちからそれを使って審判に退場を言い渡されてはたまらない。向こうにやりたい様にやらせて、審判が何も言わないのをこちらの大義名分とし、こちらの戦略に組み込む。要は球技大会の時の超前傾守備と同じだ。

 

 避けることなく掴まれ、案の定、そのまま投げられた。流石に格闘家というだけあって投げ方が綺麗で、力任せに見えてこちらが致命傷を負わないように最低限の加減はしている。

 

「がはっ……!?」

 

 しかし、それでも衝撃はそれなりにある。ドシャッ!という音共に落ちた俺の口から空気が漏れる。

 

「『ほぅ。無様に投げられた様に見えてしっかり受け身をとっているか。素人にしてはよくやる。だが、これはどうだ?』」

 

 立ち上がると同時、襟首を捕まれ、また投げられた。

 再び音を立てて落ちるが、やはり審判は動かない。

 

 立ち上がっては投げられ、立ち上がっては投げられ。自分のポジションを投げられる度に微調整しながら立ち回る。

 

『さしもの乃咲もされるがままだぁ!200cm越えの巨体から繰り出されるパワフルなスロー!E組らしく雑草のようなしぶとさで粘り続けるが限界は近いはずだぁぁぁ!』

 

 通算5回目。審判は動かない。だが、流石に基準を作るには充分だろう。今の俺は側から見たら完膚なきまでにボコボコ。これでも続行させるのだから、もうちょっとやそっとじゃ試合を中断させることも俺たちを退場させることもできないはずだ。

 盛り上がる観客席の様子からして、ここで俺が反撃したところで退場を食らおうものなら彼らが真っ先に燃え上がるだろう。

 

 闘技場じみた熱気を帯びるグラウンドで再度立つ。

 

「『驚いた。マジにフィジカルなら浅野以上だ』」

 

「『お褒めに預かり光栄だ。んで、もう終わりか?』」

 

「『バカ言うな。たっぷり可愛がってやるぜ?チビ』」

 

「『テメェがデカすぎるんだよデクの棒が』」

 

 挑発してやると普通に手を伸ばしてくる。

 5回も投げ飛ばして反撃が自分に届くことがなかった相手だから油断しているのだろう。向かってくる腕は酷く無防備だ。

 

 格闘家なだけあってスピードと威力を兼ね備えた良い掴み掛かりだ。それ故に利用しやすい。

 

「『っ、逃げろケヴィン!!』」

 

 学秀の焦った声が聞こえる。そしてその声に反応したケヴィンという外国人。屈強な身体と凄まじい剛腕の持ち主だった。

 けど、それだけだ。現役自衛隊の精鋭の蹴り、音速の触手、撃たれる銃弾、トラックに引き摺られるなどに比べればなんと言うことはない。死ぬかも、なんて恐怖は微塵もない。

 

 掴んで来る腕をすり抜け、その肩口を掴みケヴィンの腕を起点にその巨体を背負う様に身体を潜り込ませ、この男の剛腕と勢いに自分の身体能力を上乗せする形で地面に叩きつける。

 

『い、一本背負い!!?E組乃咲、まさかの一本背負いでケヴィンをノックアウト!!まさかの逆転と綺麗に入った技に観客席も沸いております!!』

 

 気絶したケヴィンを見下ろす。

 こういう奴への対処法はその体躯から繰り出される馬力と重量をそっくりそのまま叩き返してやるに限る。

 

「す、すげぇぇぇ!!?」

 

「まじか、投げられるのか、あれ!?」

 

 更に上がる歓声。ただの虐殺を期待していた観客たちの中に別の期待が混ざるのを感じ取る。『もしかして、E組勝てる?この状況から?』そんな期待の眼差しをひしひしと。

 さっきまでのアウェイな虐殺を楽しむ歓声ではなく、コロッセオで闘うグラディエーターを楽しむかの様や歓声へと。

 

 しかし、ここから先を盛り上げるのは俺の仕事じゃない。

 横から迫る強烈な足音、迫る巨漢を視界の端に捉えた俺はそれが衝突する寸前、僅かに後方へと飛び、そして吹き飛ばされた。先に行った吉田や村松と同じ様に。

 

「圭一!!!」

 

 悠馬の悲鳴に似た叫び声が遠ざかる。

 俺の勝利に沸いていた声は一瞬で止み、吹き飛ばされた俺を見て唖然としばらくの無言が訪れる。

 

『な、なんつーパワーだ!!!?外人部隊の1人にジャイアントキリングをかました乃咲をいとも容易く弾き飛ばしたぞぉ!!?これは痛い!観客席までぶっ飛んだ乃咲は動きません!E組は主力を失ってしまったぁぁぁ!!』

 

 場を盛り上げようとする実況につられて再び大歓声。

 一方的な虐殺、それに対する反撃、反撃に対する更なるカウンター。どんでん返しの連続に観客は大興奮だ。

 

 一方、吹っ飛ばされた俺はというと動けないフリを続けていた。というのも、俺が飛ばされた先はE組の席。棒倒しに参加できない女子たちが成り行きを見守っている場所だった。

 

「圭ちゃん!?大丈夫!?ねぇ!!?」

 

 必死の声音で駆け寄ってくる倉橋さん。

 

「落ち着いて、揺らしちゃダメよ!」

 

 どうやら片岡もいるらしい。心配そうな視線が背中に突き刺さる中、俺の背中を揺すっていた倉橋さんとそれを止める片岡にうつ伏せの姿勢のままで声をかける。

 

「倉橋さん、片岡。2人とも、協力してくれ」

 

「乃咲……!?意識あるの!?」

 

「問題ない。ぶっ飛んだのはわざとだ。吉田と村松に合流して奇襲を仕掛ける為の布石みたいなもんだ。派手に飛ばされた様に見えただろうが、ぶつかる寸前に後ろに飛んでるからダメージは全くない。心配しないでくれ」

 

「……何をすればいい?」

 

 俺が無事だと理解するや否や、即効で意識を切り替えてくれた倉橋さんが問い掛けてくる。

 

「気絶してるフリをするから観客席の後ろまで運んで欲しい。周りからの注目を外したい」

 

「分かった。でもあんまり無茶はしないでよ。みんな心配してるんだってこの前のことで分かってくれたんでしょ?陽菜乃も磯貝くんも私だってみんなアンタが心配なんだから」

 

「分かってる。だから、ぶっ飛ばされるのはこれでおしまい。次はフリでも負けたりしない。俺を見てくれた奴を助ける為に動きたい。だから力を貸してくれ」

 

「………乃咲。なんか、本当に変わったね」

 

「ね。前は絶対にこんなこと言わなかったのに」

 

「ほんとね。うつ伏せて気絶したフリしてなきゃカッコいいなぁ〜って思えたかも知れないのに」

 

 なんだかんだ言いつつ身体が持ち上がる。

 うちのクラスの女子は頼りになる。

 

 少し揺られて観客席の後ろに着いた。席から離れすぎず、それでいて周りの注目をあまり浴びる事のないポジション。

 

「はい、そんじゃ行ってらっしゃい」

 

「あんがと」

 

「大丈夫?あの中学生とは思えない留学生に勝てそう?」

 

「まぁ、勝つしかないわな。じゃなきゃ悠馬がペナルティくらうし。ぶっちゃけ鷹岡が何人もいるみたいで威圧感凄いけど………なんとかするわ。なんかあったら声かけるね」

 

『乃咲さん、ファイトです!』

 

 女子たちに見送られながら席を離れる。

 流石にぶっ飛ばされたばかりの奴が平然と歩いているので数名には見られているが、それでも歓声に打ち消されてよっぽどがなければフィールド内に情報が伝わることはないだろう。

 

 遠巻きに学秀の守る棒を観察する。

 配置されてる留学生は4人。四方を囲むように屈強な男たちが配置され、正面に残り2人……彼らも多分、攻撃隊だな。

 8人中1人は俺がダウンさせた。もう1人は…………。

 

「今だ!みんな"触手"!!」

 

「ぐぶっ!!?」

 

『おおっと!乃咲という壁を失ったかの様に見えたE組ですが、攻撃部隊の突撃を上から躱して抑え込み、棒をあえて傾けることでガッチリと固めたぁ!!?これはキツい!掟破りの自軍の棒倒しで4人一度に雁字搦めだぁ!?』

 

 どうやらもう1人も行動は押さえ込んだらしい。

 これで脅威は2人排除した。今押さえてる連中は学秀の指示がない限り、棒を倒すことはないだろうと想定すると、アイツらを土台に少しでも支えるのを楽にすれば最悪棒は当初の予定通り、竹林と寺坂の2人で抑えられるだろう。

 

 倒れた場所に居ないことなどから加味するに、吉田と村松は動いてる。現在はA組は5人、E組は2人動けないって状況だ。2人と引き換えに倍近い人数を拘束できたと言える。

 

 予想外はあったが、ここまでは概ね作戦通り。

 あとはタイミングを見て、吉田と村松に合流して学秀の注意が向いてない後ろから奇襲を仕掛けるだけだが……。

 

————少し、上手く行き過ぎてないか?

 

 脳裏を過ぎる一抹の不安。

 学秀が暗殺教室を知らないのであれば『しめしめ』と悪く笑うところだが、俺たちの正体を知っているのにここまでの予想外の出来事は8人の外人部隊だけ。本当に俺たちの作戦は想定通りに進んでいるのか?思わず考え込む。

 

 俺たちの想定通り進んでいるのではなく、進まされているのでは?と思わず考えさせられる。

 

「両翼攻撃部隊、指令(コマンド)Kだ」

 

 支配者の声が嫌に響く。

 同時にA組の2つの攻撃チームが左右から挟むようにE組へと向かう。両翼からのプレッシャー。E組が彼らを突破するには彼らの間を通過するしかない。だが、それこそ学秀の罠だ。

 

 だが……。例え罠であっても俺はE組の攻撃部隊に中央を突破する様に指示を出すだろう。

 

「どーするよ磯貝!!?」

 

「攻めるなら戦力が左右に分散してる今しかない……!攻撃部隊出るぞ!作戦は"粘液"だ!!」

 

 悠馬の思考は俺と同じだった。その上での作戦"粘液"。彼はこの観客席までも戦場にする策を取ったらしい。

 だが、少し不味い。下手にケヴィンやもう1人と死闘を繰り広げた所為で観客の熱が高まり、彼らの声援で悠馬の指示を出す声が聞きづらくなっている。このまま戦いが長引き、会場が盛り上がればしまいには彼の指示すら届かなくなる可能性がある。

 

 指示が届かなくなるほどの声量になる前に決着を付けられるかどうか。俺は見守りながら吉田たちに合流する。

 

「吉田、村松。体は大丈夫か?」

 

「乃咲……!?お前こそ大丈夫かよ?」

 

「つか、お前までこっちに来たのか!?」

 

「あぁ。もともと俺は悠馬の方針に従いつつ、勝つために必要な行動を自分で考えて実践するってのが今回の役目だからな」

 

⬛︎

 

⬜︎

 

⬛︎

 

「乃咲くんを前線に出す。それはとても良い試みです。ですが、今までに例がない試みでもあります。さて、そんな君たちに先生から一つ、アドバイスをあげましょう」

 

「乃咲くんは今回、ある種のワンマンアーミーとして作戦に組み込むことです。部隊編成の頭数には入れず、勝利に必要な行動を考えて実行する、たった1人だけの部隊。それは視野が広く能力も非常に高いキミにハマることでしょう」

 

「圭一だけ独立して動くってことですか?」

 

「その通りです、磯貝くん。ですが、これは連携を取るなということではありません。キミの指揮をより確実なものにする為のサポートをする。それが乃咲くんの任務になります。むしろ君たちの信頼と連携が命綱となるでしょう」

 

「………そうだな。コイツの意見には俺も賛同する。難しい任務だがキミならこなせるだろうし、暗殺の観点でも皆をまとめられる者が多いに越したことはないし、指揮官という立場を経験したものがもう一度前線に出て作戦を成功させる為の思考を兵士の視点で行うのは良い経験になる。指揮官の思考と兵士の思考。指揮と実行がしやすい環境を作るのは並大抵のことではない。出来る様に慣れば一段上に上れることだろう」

 

「わかりました。やってみましょう。俺だって勝ちたい。悠馬に居なくなって欲しくはないですし。………まぁ、初めての役割なので何したら良いのか分からない感はありますけど」

 

「ヌルフフフフ。臨機応変ほど難しいことはないですからねぇ。そんな時はいっそ第三者の視点に立ってみましょう。自分の視点、相手の視点だけでなく、それらを見つめる第三の視点。当人同士では気づく事の難しいところが見えてくるはずです」

 

⬛︎

 

⬜︎

 

⬛︎

 

 と、作戦会議では話していたけど……。

 考える程にドツボにハマる。相手が学秀という当代最高の頭脳なのもあるだろうが、必要なところを探れているのか、要らないところを見ようとしてないか、それすら確信が待てない。

 

『E組中央突破をかける!!が、流石はA組!それすら読んでいたのか、両翼の攻撃部隊が合流し、なけなしの人数を裂いたE組の攻撃隊を背後から追いかけるぅ!正面には生き残りの留学生たち、背後にはA組の精鋭!!これは凄いサンドイッチだぁ!!』

 

 挟まれる悠馬たち。彼らはこの後、観客席に逃げ込む。ルールに明確なフィールドを設定していなかったことを突いて客席に逃げ込むことで場を混乱させる。そしてその隙に吉田たちが奇襲を仕掛ける。それが"触手"という作戦の正体だ。

 

「悠馬たちが場を混乱させたあと、俺たちで速攻を仕掛けるぞ」

 

「……なぁ、それなんだがよ、乃咲。提案があるんだが」

 

「どうした?」

 

「まずは第一波として俺と村松が予定通りに突っ込む。お前の奇襲はその後にしないか?途中離脱した様に見せかけた俺たち2人が飛び出すことでアイツらはお前のことも警戒しなきゃいけなくなるだろ?それでアイツらの注意を逸らそうぜ」

 

 吉田の提案は一理ある。まずは彼らが現れることで意表を突き、2人を相手取らせなが、同時に俺を警戒させ、観客席に逃げた悠馬たちも見なきゃいけない。これは良い策だ。

 

「わかった。それで行こう。俺は別の方角で待機してる」

 

「……ぶっちゃけ、お前がメインの作戦の頭数に入ってないのは不安だったけど、自由に動くことでこんな連携とれるなら、今後もアリじゃないか?ワンマンアーミー」

 

「へへ、だな。これでおめぇがガッチガチに役割に縛られてたらこんなフレキシブルに対応変えられなかっただろうし」

 

「それもそうだな……」

 

 一応は俺も作戦遂行のために動いているが、他のみんなの様に特定のポジションはない。だからこんな動きができる訳だ。自分の判断で動きを決められる。そういう意味でワンマンアーミーとしての利点は既に現れている。

 

 だが、なんとなく……殺せんせーが言っていたのはこういう意味ではないような気がする。

 

 学秀のそこ知れない戦略、殺せんせーの意図とはズレてる気がする自分。それが違和感を生み出してるのかもしれない。

 

『っと!?E組進路を変えたぁ!?彼らの進む先にあるのは……なんと観客席!E組とA組が観客に迫る迫る!!そして遂に集団が観客たちに接触した!!イスと観客を器用に使って逃げるE組とそれを追うA組の精鋭たち!!会場は大パニックの混沌(カオス)状態だぁ!!どうなる、どうする!?我らがA組ぃ!!』

 

「混乱してる混乱してる」

 

「こりゃあ楽勝かもな。みろよ、観客の顔。いつもの俺らをバカにする顔じゃなくてこの後どんなことをやらかすのか、今度のE組はどんな風に勝つのかって気になり出してる顔だ」

 

 確かに観客たちの様子は彼らの言った通りだ。

 いつもの俺たちを蔑む視線ではない。俺たちを見る目が変わりつつあるのは確かだ。

 

「んじゃ、いいタイミングで俺らも行きますかね」

 

「あぁ!目にもの見せてやろうぜ。乃咲、お前も状況見て良いところで来いよな。タイミングは任せるからよ」

 

「……あぁ。分かった」

 

 2人に頷いてその場を離れる。学秀が彼らに気を取られたら確実に意識が向くことはないであろうポイントへ移動し、観客が熱狂しているのをいいことに彼らの後ろに立ち、可能な限り周囲に気付かれないように気配を殺して人混みに紛れる。

 

 さて、俺たちの作戦は大体思惑通りに運んでいる。

 この後、もう少し場が混乱した辺りを見計らって吉田と村松が突撃。意表を突いたところで悠馬たちが参戦。柱の防衛に竹林と寺坂を残して全員で攻撃し、イトナで止めをさす。それが俺たちの理想の流れと勝利と言えるだろう。

 

 ここまで場が整い、万全をきして俺も待機している。2人は学秀の死角にいて、俺はその更に死角にいる。奇襲に成功したら学秀なら俺がどうにかすればいい。作戦成功は秒読みだ。

 

 だというのに、俺はまだ強烈な違和感を覚えている。

 このままではよくない。何かを見落としている。そんな予感が俺の中の危機感を刺激し続ける。

 

 違和感の正体を考える俺を他所に件の2人がスタートを切った。アニメや漫画の様な声を一切上げることのない完璧な奇襲。彼らの存在を認知するには足音くらいしかないだろう。

 棒を支えている奴が一足先に気付くかもしれないが、観客席とフィールドが近いこの場所の特性上、訓練を受けたうちの2人の脚の方がただの学生の反応に劣る訳がない。

 

 俺もいつでも駆け出せるよう姿勢を整えていると、学秀が不意に動いた。自然な動作で振り返る様に棒に腕を絡め、ポールダンスでもするみたいに棒を軸に脚で周りを薙ぎ払う様に宙を舞う。そのこの場にいる誰もがきっと予想していなかった動きに絡め取られる様に2人が吹き飛ばされる。

 

「……えっ………?」

 

 何が起きた?吉田と村松はどうして倒れている?ほぼ完璧な奇襲だった。死角からの突撃。一般生徒に反応出来るわけもなく、彼が奇襲を察知できるだろう材料は足音くらいなものだが、それすら観客たちの声に掻き消されるはずだ。

 それなのに、アイツはどうして気付けた?今の動きは2人の動きに合わせてなものだった。絶対にまぐれとかではない。

 

 不可解なまでの学秀の超反応。それは止まることを知らず、アイツは視線を一切の躊躇もなくこちらに向けた。まるで俺がいるのを理解しているみたいに迷いなく、視線を俺に向けた。

 目が合う。吉田たちとは離れた場所に待機していた俺と、人混みに紛れていた俺と、気配を消していた筈の俺と目が合う。

 

「…………」

 

 ニヤリと笑って、人差し指を挑発するかの様にクイクイと曲げる。掛かって来い、あるいはお前の策はこれだけか?と問い掛ける様に。絶対的な自信を持って。

 彼の指先を反射的に追っていたらしい観客たちの視線が俺に集まる。大袈裟にぶっ飛び、気絶したフリをして、観客の中に潜伏していたことに気付いたらしい彼らが驚きの声を上げる。

 

 俺の隣の連中ですら俺に気付いてなかったようで、腰を抜かしたように尻餅をついて驚いているというのに。人混みと少しの距離がある筈なのに、どうして俺に気付くことができた?

 

 周りの視線が俺に集まる中、アイツは自分のクラスメイトたちで使った足場に立ち、静かに笑う。

 そんな学秀の姿は自分の居城で不敵に待ち構える紛うことなき魔王そのものに見えて仕方がなかった。

 

 

 

 

 

 




あとがき

はい、あとがきです。

ついに始まりました棒倒し。
浅野の強さや圭一の絶望感をもっと上手く表現したいですね……。果たして今回の棒倒し、E組はどんな過程で勝つのか、見守りください……。

ご愛読ありがとうございます!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。