加えてたくさんの高評価、感想ありがとうございます!
今回も投下しますのでお付き合いください……。
最初にお知らせいたします。
今回、執筆段階で長くなり過ぎたので切りの良いところで話を切りました。
ですが、もともと前回と今回で棒倒しの決着まで書き切るつもりでしたのでなんとなく残尿感を覚えており、明日も次話を投下することにしました。
投稿ペースを崩し、ご迷惑をお掛けしますが、よろしくお願いします……。
学秀と目が合う。挑発するような仕草を向けられたことで注目が集まり、俺がリタイアしていなかったことが周りにバレる。
『派手にぶっ飛ばされたE組の3人は生きていたぁぁぁ!!飛ばされたフリをして客席に潜伏し、奇襲の機会を虎視眈々と狙っていたとは油断も隙もないぞE組!!しかし、それに気付いたA組リーダー浅野!!取るに足らないと言わんばかりに2人を足蹴にし、残った乃咲に挑発をかける!!』
まずは仕切り直そう。何をするにも注目され続けるのは上手くない。アイツの超反応のカラクリを考えるのは後だ。
ひとまずは悠馬たちの元へ向かう。吉田たちが不発に終わり、攻撃に転じるタイミングを失った彼らとひとまずは意思の疎通をしなければ俺も周りも動くことができないだろう。
『乃咲走る!浅野くんの方ではなく、E組とA組が追いかけっこしている方へと一目散に走り出す!!学校1の不良児でも流石に数十人相手は分が悪いと判断したようです!』
そうだ。否定しようがない程に分が悪い。
身体能力をリミッターなしで使うにはゾーンに入るしかないが、音速を越える相手に追従できる身体能力なんてただの生徒相手に使うわけにはいかないから、ゾーンには入れない。
例えゾーンに入らなくても、その気になればパンチングマシーンを破壊し、壁を走れる程に膂力もある。確かにやろうと思えばあそこにいる連中ごと棒を吹っ飛ばせるだろう。しかし、やっぱりそんなことするわけにもいかない。
歯痒い。悠馬を助けるために全力を出したいが、そんなことをしたらこの場が大惨事になりかねない。助けたいのに思いっきり暴れられないのがこんなにもどかしいとは。
なんとなくだが、普久間島での先生方の気持ちが分かった気がする。十全に動ければいくらでも打開できるのに。
まさか、A組の連中をブルドーザーの様に薙ぎ倒して行くわけにはいかない。対人戦での立ち回りがこんなに難しいなんて。
頭を悩ませながら攻撃部隊に合流する。
「乃咲!さっきの浅野の動きはなんだ!?」
「わからん!」
岡島を追いかけ回していた奴の服を掴み、軽く関節を決めてから転ばして追手を無力化する。
俺たちの視線は自然と学秀に向いた。
「流石にさっきの動きはおかしい!浅野の奴、分かってるみたいな動きだったぞ!?」
「だね、あの奇襲を防げるわけがない。絶対に何かカラクリがあるはずだよ。乃咲クン、なにか気付かなかった?」
「アイツ、人混みの最後尾に居た俺にも気付いたんだ。これが一番おかしい。誰かが俺たちの居場所をリークしてるならまだしも、俺の左右に居た奴も俺には気付いてなかったし、後ろには誰も居なかった。ハンドサインなりで伝える手段は合ったかもしれないが、俺を見つけられる奴はあの場には居なかった!」
俺の主張にみんな考える。やはり誰の目から見ても学秀はおかしかった。マッハ20の殺せんせーですら時々、俺たちの奇襲に驚くのだから、音速には到底及ばないアイツが一切の驚きも動揺もなく対処できるのはやはりおかしいと思うだろう。
「一旦散会するぞ!固まっていたら一網打尽にされる!」
「……いや!まて木村!何人かはここで固まろう!」
「ちょっ!?どういうことだよ磯貝!!?」
「ここに人数が残れば残るほど俺たちの中から誰が離脱した時、追手は減る!離脱組と囮り組で別れよう!」
「どう分ける!?あんまりもたもたしてる暇はないぞ!?」
「圭一とカルマ、岡島は離脱!俺たちは残るぞ!圭一とカルマはもともと思考力が高いし、岡島はカメラが趣味なだけあってちょっとした違和感に気付けるかもしれない!」
「いや、磯貝が行きなよ。指揮とるのはお前なんだからさ。それに囮と言っても最後には攻撃に参加させる気なんでしょう?なら囲まれてる状態での突破力は必要じゃん?」
「……分かった!悪いけどここは頼むぞ前原、杉野、木村、カルマ!圭一、岡島!俺たちは突破口を探す!」
「「「「「「了解!!」」」」」」
俺たち3人は相手の攻撃隊に挟まれる前に走り出し、包囲を突破する。悠馬の狙い通りに大部分は囮り組に残り、数名が俺たちを追いかけて来た。これなら余裕で撒ける。
「俺たちも一旦散らばるぞ!」
「分かった!掴まんなよ!?」
「お前もな、岡島!」
そこから更に3方向へ俺たちは別れた。追っ手も当然別れる。誰を追いかけるか悩んだ様だが、人数的には俺、悠馬、岡島の順で追手を割くことに決めたらしい。
俺は追撃を躱しながら考えていた。学秀が吉田たちの奇襲に気付けたその理由を。まるで最初から分かっていたみたいに潜伏してた俺の位置を把握していたその訳を。
吉田たちに反応したのは100歩譲って理解できる。攻撃するために飛び出して身を晒したのだから。でも、観客に紛れてその上で最後尾の列に居た俺を見つけられることは出来ないはずだ。
何度も言う通り、左右の奴らですら俺に気付かなかったのだから、仮に情報提供者が居たとしても、俺より後ろに誰か居ないと説明がつかない。ただ、俺の後ろには誰も居なかった。
やばいな。思考が詰みかけてる。中学生の棒倒しという競技で凡そ発生しないであろうことが多発し過ぎている。
戦略で負けかけている。鷹岡の時は命が掛かっている緊張感があった。シロとイトナの時も失敗できない危機感はあった。
今回はそのどちらでもない。確かに負けられない戦いではあるが、命が掛かってる程ではない。それでも、追い詰められているという実感はこれまでのどの戦いよりも強い。
今まではどんな状況でも勝機は見えていた。最悪の事態も想定しつつ、それでもなんとか出来る自信があった。
でも今回はそれがない。考えてもこの状況の突破口が見つからない。アイツの手札が読み切れない。
確かにやろうと思えば単騎で全部終わらせることは出来るだろう。だが、それはみんなで勝ったとは言えない。
リーダーの悠馬が言ったみんなで勝ちたいという思いに俺たちは同意して結束した。イトナだってそう言ってくれた。俺1人で勝ちをもぎ取るだけでは駄目だ。合理性だけが全てじゃない。
だから考えろ、乃咲圭一。みんなで勝つために必要なことはなんだ?曲がりなりにも浅野学秀にライバル認定されているお前なら考え付くはずだ。常識を捨て、良識を逆手に取り、考えつかない方法で万全をきした勝ち方をするならお前はどうする?
8人の外国人部隊。
4人は研修留学で、残り半数は交換留学。
交換留学に出されたのは瀬尾、榊原、荒木、小山。
戦力的に大きい五英傑を手放した訳。
学秀の俺達の全てを把握してる様な動き。
駄目だ。これだけでは足らない。材料が不足している。まだあるはずだ。俺たちを手玉に取れるだけの何かが。
俺の位置を把握した手段。
俺の周りですら俺がいることに気づかなかった。
俺より後ろには誰も居なかった。
やはり引っかかるのは俺に気付いたアイツのこと。どうやって気付いたのか、誰かが教えたのか。どうやって?俺に気付いてる人間はあの場所には居なかった筈なのに。
まだ続いているA組との追いかけっこ。距離を離すために去年はなかったカメラ付きの柱に腕を回し、フリーランニングの応用で遠心力を使い、方向を急転換して走り出す。
……去年までなかったカメラ付きの柱。柱があるのは観客席の後ろ。俺を写せない訳でもない位置にある。
だが、そんなもんどうやって見る?学秀のヘッドギアにバイザーでも着いていたら普通に疑うところだが、生憎とぱっと見はただのヘッドギアだ。かっこいい。俺も着けたい。
ただ、着眼点としては悪くはないはずだ。
トラックを囲む様に配置された4本のカメラ付きの柱。俺たちが学秀の立場なら、あのカメラに律を仕込んで情報共有くらい出来たか?いや、無理か?流石にあのカメラの情報を伝達できるデバイスを持ち込むのは厳しすぎるだろう。
精々がブルートゥースのイヤホンで律の声を飛ばし、オペレーターとして頑張ってもらうのが関の山だ。
「………………イヤホンか」
ふと思いつく。自分ならどうするか。そう立ち変えた時に降って湧いたアイディア。そうだ。無線接続できるイヤホンならあのヘッドギアの中にも仕込めるだろう。
「……いや………まさか……そういうことか!?」
だが、問題はあのカメラにそんな機能があるのかだ。無線でネットワークに繋がって映像を共有できるかなんて俺には判断できない。だが、可能性は僅かに出てきた。
「岡島は………あっちだな」
こんな時はカメラのスペシャリストに確認するに限る。俺はスピードを緩めることなく走り、観客の間を縫って辛うじて追撃を躱している岡島に接触する。
「岡島ぁ!確認したいことがある!」
「なんだよ!?いまそれどころじゃ……!?」
言葉を言い切る前に軽くタックルしてあっちの追撃を無力化する。加減はしたので尻餅をつく程度で済んだはずだ。
「見えるだろ、去年はなかったあのカメラ、校庭を4方向から撮影してる奴!どんな性能か分かるか!?」
「はぁ……はぁ……。あ、あれは某ブランドの1世代前の奴だな。画質も音質もそれなりでフルバッテリーなら8時間は稼働できる。Wi-Fiにも接続できてライブ中継なんかもアレとパソコンだけで出来ちまう代物だ………って、まさか!?」
「そのまさかだ!体育祭の記録用かと勝手に納得してたが、あれを使って俺たちの情報を伝えてる奴がいるのかもしれない!パソコンとセットで運用出来るならブルートゥースのイヤホンをヘッドギアに仕込めばいけるだろ!?」
カメラのスペシャリストからもお墨付きが出た。
だが、そうなると新たな問題が出てくる。
「けどよ!?生徒は基本的に観客席か実況席にしか居ないはずだろ!?パソコン使って画面確認しながら浅野に情報を伝えるなんて無理じゃねぇか!?本校舎の先生たちだっていくらA組贔屓でもそんな直接的なことはしねぇだろ!?」
「そこなんだ……。たぶん、学秀がここまでやる気なのは理事長が絡んでる。恐らくは理事長と学秀の小競り合いなんだろう。となると、理事長の指示で教員たちが動くとは考えられないし、いくら信頼されてる生徒会長サマの言葉でもそんなことに対する協力を大人相手に取り付けるのは厳しい。まだなにかピースが足らない……!」
「でも、俺らの動きを追えている理由は把握できた。これが一番大きな収穫だろ!?さっそく磯貝に……!?」
磯貝に伝えよう。そう続くはずだった岡島の言葉が驚愕で途切れる。何故か、と気になり口を開きかけるが、思わず俺も言葉を失った。確かに驚く。予想外の出来事があった。
「『イテテ……。やるじゃねぇか。あの銀髪……!』」
『留学生ケヴィン!まさかの復活!!E組の戦況は更に悪い方へと傾いてしまったぞぉ!!』
「嘘だろ……。もう復活したのかよ!?」
コキコキと首を鳴らしながら観客席の奥から人を掻き分けてのそのそと歩いてくるケヴィン。
俺が投げた後、あそこに転がしておくのは危ないと判断した教師陣が外に退避させていたのだろうが、まさかここで再び現れるとは思っても見なかった。格闘家の耐久力を甘く見ていた。
「『どこだぁぁぁあ!!乃咲ぃぃぃ!!!』」
『復讐に燃えるケヴィンの雄叫びが響く!!逃げる磯貝、乃咲、岡島!精鋭隊の攻撃をいなし続ける赤羽、前原、木村、杉野!!誰がここまでのハイレベルな戦いを予想していたでしょうか!!棒倒しという名の
「うぉぉぉぉ!!すげぇぞケヴィン!!」
「赤羽の奴、動きえげつなくね!?いくらここらで有名な不良だからってあんな強いのかよ!?」
「それいうなら前原くんもよ!あんなにひょいひょいうちのクラスの男子避けて……。どうなってるの!?」
「ていうか、E組が全体的に強すぎるんだ!木村の足の速さも、杉野の体術も、岡島のぬるっとした動きも、磯貝の回避テクも、乃咲の身のこなしも!アイツらの身軽さ尋常じゃねぇぞ!?」
「凄い!!スポーツ選手と忍者の鬼ごっこ見てるみたい!」
さらに盛り上がり、歓声があがる。
その熱はさっきまでの比ではなく、大気を揺るがす様なものだった。いつ誰が熱中症で倒れてもおかしくはない。そんなレベルでの熱狂に焦りが生まれる。
「……まずいな。
「流石にお前が何心配してるか分かったわ……。これじゃあ磯貝の指示が聞こえねぇ……」
盛り上がりは必要だった。多少過激なプレイをしても観客たちの盛り上がり次第ではお流れになる可能性があったから。
しかし、接戦し過ぎた。学秀の奇策と悠馬の作戦のぶつかり合いに加えて俺や攻撃部隊のみんなが繰り広げる攻防。それが側から見た時に迫力と見応えがありすぎたんだ。
岡島の俺の危惧を理解してくれたらしい。
これじゃあ突破口を見つけても悠馬が周りを動かせない。
『くぅぅぅ!!痺れる戦いです!浅野会長を除いた五英傑がこの場に居ないことが悔やまれます!!しかし、そんな状況をものともしない彼の堂々たる姿はこの学校のリーダーに相応しい!!E組は浅野会長を相手に何処まで戦えるのか!?』
……居ない五英傑の4人。
……去年までなかった4本の柱とカメラ。
この場の生徒でパソコンに映る映像を確認しながら学秀に情報を渡せるものが居なければ、教師陣に協力者がいるわけでもない。それでも確かにいるはずのアイツの協力者……。
「………ッ!!!?」
今の中で点と点が繋がった。あまりにも予想外のその結論に思わず背中がゾクゾクと震え、圧倒的な敗北感に襲われる。
「岡島……。あのカメラって海外ともビデオチャットとかライブ配信とか、リアルタイムでのやり取りは出来るか?」
「ん……まぁ、海外との通信自体は使ってる電波の強度次第なところあるだろうけど、カメラとしては普通にやれるはずだ」
「………そうか」
確信に変わる。点と点が繋がって線になり、線が繋がって絵になった。学秀の奴は知略面においてやっぱり俺より上だ。考えもしなかったし、思い付きもしなかった。
学秀は他の五英傑を手放してなんていなかった。交換留学という名目でフィジカル面で超強力な助っ人とトレードした様に見せつつ、実際は今年から導入されたカメラを通して状況を確認し伝達するオペレーターに仕立て上げていたんだ。
アイツらの優れた頭脳による情報処理能力を情報伝達役として使っていたんだ。今の学秀は実質的に視点が5つある状態。初めから16人vs32人ではなく、16人vs36人だったんだ。
交換留学という単語でアイツら4人を離脱、部外者にした様に見せかけて実際は学秀に情報を送ってるとか誰が気付くのか。普通気付けるわけがない。今年に入っていろんな経験をしたが、間違いなくこれまで戦ってきた中で一番の強敵は学秀だ。
が、どうする……。気付いたところで声を出してもこの歓声の中では届かないし、それは悠馬の指示も同じこと。
学秀はこんな状況も想定してハンドサインでの指示なんかも考えていそうだが、うちらはそんな打ち合わせをしていない。
学秀に負けたぁ……!
今回の棒倒し。学秀に出し抜かれ続けている。
なにか、打開策はないか………!
『盛り上がる観客席!ですが実況席もかつてない盛り上がりを見せています!!椚ヶ丘史に残る世紀の一戦!!その決着がどう転ぶのか!!不敵に微笑む勝利の女神の後ろ髪を引っ張れるのはどちらだぁぁぁぁ!!』
響き渡る実況。そういえばどんなに歓声が上ろうとも実況の声だけは聞こえてくる。スピーカーを使っているのだから当然だ。
だが、お陰様でいいことを思いついた。前準備の段階で俺たちは完敗していた。今の俺たちに出来るのはこの観客席を含めたフィールドを含めた全てを使ってベストを尽くすこと。
なら、やれることをやってやる。
「岡島、頼みがある」
「なんでも言ってくれ!」
全ての情報を伝えた上で岡島に一つ頼み事をした。
「分かった、全部磯貝に伝えた上でうちの
「頼む。ちょっと行ってくる」
「分かった!こっちは任せろ!!」
岡島の力強い返事と共に俺は駆け出した。
「い、磯貝ぃぃ!!」
「岡島!?どうした!」
「の、乃咲から伝言………」
息を切らしながら走ってきた岡島はぜぇぜぇと息を荒立てながら圭一からの伝言を伝えてくれた。本陣の前に待機しておけということ、そして今の今まで俺がどんなに考えても思い至らなかった浅野が吉田たちに気付くことができたカラクリ。
「そうか……あのカメラかっ……!」
思わず俺たちの頭上から見下ろす様にトラックを写し続けるカメラを睨み付ける。そう言われてみると腑に落ちる。
この場にいない五英傑が映像を見ながら吉田たちの動きを中継していたというのは、流石に予想の斜め上だったし、そこまでやるか?!という驚きも隠せないが、納得だ。
「流石、圭一だな……」
「あぁ……。こんな作戦を思い付いて実行する奴もどうかしてるけど、それに気付いてカラクリまで見抜く奴もどうかしてると思うわ。うちの学校の主席は揃ってバケモンだぜ……」
「だな。とうの本人は見抜いた癖に『学秀に負けたぁ……!』とか内心では思ってそうだけど」
岡島の言葉に同意しつつ、内心で思った。俺はそんなバケモノの片方を打ち負かし、もう片方に作戦を提示しなければいけないのか、と。俺では到底考えもしなかった作戦を立てた奴とそれを見抜いた奴。彼らに並ばなければいけないのか、と。
正直、不安だ。怖いと言っても過言じゃない。
敵チームの浅野は一旦置いておくとしても、圭一に指示を出すのが少しだけ怖い。アイツほど上手くやれるのかなって。
今回は自分から指揮を取りたいと申し出た。みんなで勝ちたいのは事実だけど俺が事の発端だし、自分なりに責任を取りたいという思いも確かにあった。
でも、こうして繰り広げられる浅野と圭一の常軌を逸した策略と読みを見ているとどうしても考えてしまう。下手にでしゃばらずに圭一に任せておいた方が良かったんじゃないのかって。
圭一は基本的にいい奴だ。割と揚げ足を取るし、人をおちょくるし、気に食わないことに関しては断固として理詰めして相手を黙らせようとする。アイツの優しさは対象が限定されてるし、基本的に親しい奴にしかそれは向けられない。
だけど、その限定の中には本当に困ってる奴、どうしようもなくなってる奴が含まれているのを俺は知ってる。実際、アイツは当時あんまり親しくなかった俺を泥を被って庇ってくれた。
そんなアイツのことだから今回も出来る範囲、出せるギリギリで必死に頑張ってくれてるんだろう。そう思うと申し訳なくなる。圭一ならもっとスマートに勝つ方法を考えて吉田たちがあんな風に痛め付けられることもなかったんじゃないかって。
思わずそんな思考が脳裏を掠めた時だった。
『実況席の人。マイク貸してもらえないかな?』
『なっ!?乃咲先輩!?どういうことですか!?というか、なに考えてるんですか!?マイクを持ち込むだなんて!?』
『だってルールには"マイクの持ち込みの調達、持ち込みを禁止する"なんて文言も"試合に関係ない道具の使用を禁止する"なんて文句もないだろ?縛ってるのは武器の使用だけだ』
『へ、屁理屈だ……!?』
『屁が付いてても理屈であることに変わらないだろ』
『いやいや!言葉巧みにルールで縛られてないところを突いてるように見せてやってることペテン師のそれですけど!?』
『相手を騙そうとするところを除けば言葉巧みに相手の背中を押してるあたり、ペテン師って"ぺ"を抜けば天使だよな』
『無敵かこの人!!?』
なんだか、とんでもないやり取りがスピーカーから聞こえて来た。なにやらとんでも理論で実況席の生徒を丸め込もうとしているらしい。うちの圭一がごめん。
『だ、第一!マイクがなくなったらうちらの仕事がなくなるじゃないですか!?なんかメリットあるんですか、我々に!』
もっともすぎる主張である。味方兼親友ながら圭一の言葉には理屈はあっても理は一切ない。棒倒しの選手が実況席に乱入し滅茶苦茶なことを言ってるだけ。主張が通る要素は微塵もない。
だけど、アイツはそんなことを一切気にしていない様でそこに座る生徒に向かって臆面もなく言い放った。
『A組が負けるところ、見たくないか?』
会場が静まり返る。コイツは何を言ってるんだ?そんな空気が流れる。A組とE組の戦いは互角に見えて実際はそうでもない。アイツらはその気になれば人数で棒を倒しに掛かれるし、俺たちは攻め手にかける。周りから見たら、マイク一本で何が出来るのか理解出来ないだろう。
『この状況で勝てる要素があると?あの浅野会長が万全をきした盤面を覆す方法があると言いたいんですか?』
『ある。それにみんなして"浅野くん"やら"浅野会長"とか言って持て囃しているが、うちのリーダーだってすげぇ奴なんだよ。アイツに負けず劣らずな』
再び臆面もなく言い放つ圭一の言葉に思わず熱いものが胸に沸く。アイツは今、公衆の面前で言い放ったのだ。俺が浅野に負けずとも劣らないリーダーなのだと。
できないことは言わないと言っている圭一がはっきりと断言した。口にしたからには実行するとか、口に出すのは実行する時だとそんな考えを持ってる圭一が、だ。
『無論、強要はしない。でもそれを渡してくれるなら特等席で見せてやる。A組無敵伝説を崩す瞬間の見物料はマイク一本だ』
とんでもない言い分だ。勝てる保証や要素については殆ど触れていない。ノリと勢いで口から出まかせと言われても文句は言えないし、否定も出来ないような口説き文句。
だが、その口調はマイク越しでも伝わってくる凄みがあった。いつもみんなを指揮していた瞬間を想起させるはっきりとした口ぶり。俺たちの暗殺教室発足初期、当時まだ孤立していた寺坂達ですら動かした彼の言葉と雰囲気にスピーカーの向こうから息を飲む音が聞こえる。
『………わ、分かりました。これ、使ってください』
『ありがとう、見ててくれ』
『本当に……勝てるんですよね?』
『俺は出来ることしか言わないよ。口にしたからには断行する。まあ見てろって。うちのイケメン委員長が俺らを率いて勝つとこ。学校中から馬鹿にされたE組の底力って奴をさ』
そんな言葉を最後に会話が切れる。恐らくはマイクを受け取り、移動を始めたのだろう。風を切る音が聞こえてくる。
どこから現れるのか、そんな風に身構えていると、圭一はニョキっと生える様に俺の隣に現れた。
「ほら、マイク。これがあれば周りの声とか関係ないだろ」
「………お前、随分と臭くなったな」
「……………………………臭う?」
「そういう意味じゃない………。まったく、お前も大概天然だよな。恥ずかしいことマイクで言いまくってさ………。けど、ありがとう。元気と自信が出て来た」
「いやいや。俺は天然じゃないぞ。勝手に育ったわけじゃないし、どちらかと言えば養殖だ」
「そういうところだよ」
「………?まぁ、よく分からんが頑張ってくれ」
自分の臭いを確認する様にかぐ圭一に思わず苦笑しながらマイクを受け取り、礼を伝える。
そうだ。浅野に劣ってる、圭一の足を引っ張っているとか考える必要はないんだ。殺せんせーが言ってくれたじゃないか。力を貸してくれる仲間がいる強さでは俺が勝っているんだって。
圭一が認めてくれたじゃないか。俺は凄い奴なんだって。みんなの指揮官という役目を降りて俺に任せたいって。
なら、俺は俺の強みで戦おう。今日まで凄い人をたくさん見てきた。普段の暗殺で圭一や烏間先生、普久間島で殺せんせー、そして今相対している浅野。彼らの様に優れた能力で戦うのではなく、俺に力を貸してくれるみんなの力を信じた指揮をする。
それが磯貝悠馬の戦い方だ。
『行くぞみんな、反撃の時間だ!圭一はうちらの本丸の前で待機!防衛は全部お前に任せる!!攻撃隊は4方向に別れて"音速"で攻めるぞ!吉田、村松!動けるか!』
「あたぼーよ……!」
「こんなんでへばるわけねぇだろ!」
『お前達も攻撃隊に合流だ!2人1組で動け!』
俺は反撃の狼煙をあげた。
あとがき
はい、あとがきです。
もともとはこの後も一万字近く費やして決着させようとしていました……。やっぱり必要ない描写が多いのかもしれませんね……。短く簡潔に尚且つ分かりやすく描写する能力が欲しいところです……。
もしかすると、今後も長くなり過ぎたから分けて残尿感を覚えて翌日に元々の投稿日に加えて翌日も投下することがあるかも知れませんが生暖かく見守ってください……!
今回もご愛読ありがとうございます!