暗殺教室 不良児は認められたい   作:ZWAARD

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加えてたくさんの高評価、感想ありがとうございます!

それから誤字修正してくださる方々、ありがとうございます!
毎度お世話になっております……。ほんと、申し訳ございません………。

今回も投下しますのでお付き合いください。



108話 勝利と敗北の時間

 

 理事長室、通称"魔王の間"には9人の生徒がいた。

 1人は悔しそうに唇を噛み、残り8人は不服そうではあるけれど、それでも胸を張って立っていた。

 

「海外の提携校からの研修留学制度と交換留学を使った助っ人という着眼点はよかった。留学に出した彼らにネット中継で今年から導入したカメラを通して目になってもらう発想も素晴らしい。事前準備の段階ではキミは彼らに勝っていたと言える」

 

「………らしくない慰めは必要ありません」

 

「そうかい?なら、サクッと結果だけ伝えると、だ。あれだけの盤面を用意しておきながら負けるものかね?」

 

「……………」

 

「キミの手段の選ばない姿勢は素直に評価している。だが、その姿勢は勝たねば意味がない。明らかに劣勢な戦況をE組は見事にひっくり返した。乃咲くんが死闘を演じ、磯貝くんのマイクパフォーマンス染みた指揮とE組の忍者さながらの攻勢とA組に勝利したという事実は周りのE組への評価を変えてしまった」

 

 学秀は思い返していた。棒倒しの最中に聞こえてきた多くの歓声。そしてその声が一気に爆発したのはA組の棒が倒れた瞬間だったことを鮮明に覚えている。

 

「E組への評価が好転する。その状況が私の教育方針に反しているのは知っているね?キミの手段を選ばぬ戦略は勝たねば意味がないと言ったが、それ以上に負けたら逆効果になる」

 

 父の言葉は耳に痛かった。なにより、学秀自身がそれを痛感している。幸いなことに見応えのある戦いだったことでA組の評価はそれほど下がっていない。だが、あの状況で負けてしまったことが今後の活動に影を落としかねないのは尤もな意見だ。

 

「しかも彼らはキミたちの裏の目的に気付いていた。彼らを潰すという目的を逆手にとり、陽動を駆使し、キミの秘策を発想と知識で看破し、あのフィールドで手に入る小道具まで活用し、奇策奇行で襲い掛かり、最後には秘密兵器を投入して勝利をもぎ取った。最終的に棒を倒しに行ったそこの4人すら凌いでね」

 

 それ故に単調な声音が自身を非難しているのが分かりやすかった。揶揄うような、おちょくるような声音でもなく、淡々と事実を述べるかのような話し方に学秀は口を噤む。

 

「事前準備がいくら万全でも本人にそれを活かせる器量がないのであれば話にならない。その点、事前準備が及ばなかったE組の磯貝くんは前線で指揮をしながら機転を効かせた指示を飛ばしていた。あのコードネーム染みた名指しは驚いたよ」

 

 その上でわざとらしくE組を嫌味のように持ち上げて、机の上で両手を組み、ゆっくりと審判を下した。

 

「なにより、どれだけ事前準備をしようが、どれだけの接戦を繰り広げようが試合に負けてはなんの意味もない。いくら勉強しても点数が取れなければ成績に反映されないのと同じように、『頑張ったけど駄目でした』は意味がない。あの日に事前に話していたリーダーの適正に話を戻すが……キミはリーダー失格だな」

 

 キッパリと切り捨てる理事長。しかし、そんな彼の言い分を許さない者達がいた。彼の言葉を通訳してもらいながら静かに耳を傾けていたケヴィンを始めとする今回の助っ人たちである。

 

「『そりゃあ違うだろ、理事長サンよぉ』」

 

「『よせ、ケヴィン』」

 

 学秀の制止が入るが、それでも彼は続けた。

 

「『確かに浅野は負けたさ。でもよ、俺たちを呼んだり、手段すら選ばずに全力を尽くした。それもこれも、A組をテストで勝たせる為って聞いてるぜ?なら、父親としてこう言ってやるべきだろう?『負けから学ぶことも沢山ある』って』」

 

 ケヴィンの言葉を静かに頷きながら聞いている理事長。そんな彼は言葉が締め括られると同時に拍手をしながら立ち上がり、本物のアメリカ人たちに劣らない滑らかな発音で言葉を返した。

 

「『なるほど。感動的な力説痛み入るよ。それではケヴィンくん。私にもぜひ学ばせてくれないかい?負けることから学ぶことも沢山あるというのなら……キミは今日、かつてないほどの成長を遂げた筈だ。その学びを分けて欲しい』」

 

「『なに……?』」

 

「『体格差、重量、人数差。それら全てに勝っていたキミたちはたった1人の男子に良いようにノされた。ただの一つも有効打を与えられずにね。それはこの上ない屈辱だっただろう。その敗北、屈辱から得た学びを私に教えて欲しい』」

 

 それはこの上ない挑発だった。敗北した学秀を庇うケヴィンたちもまた、正面切って戦った圭一はもちろん、吹き飛ばした吉田や村松にも結局のところは有効打を入れることが出来なかったのだと突き付ける、大人気ない挑発。

 

「『……ったく、大人気ねぇ親父さんだ。この俺にタイマンを挑むなんてな……。言っとくが、棒倒しで封じられてた拳も蹴りも使うぜ?乃咲に負けたのは事実だが、本気じゃねぇ。どんな酷い怪我をしても知らねぇぞ、おっさん』」

 

 その言葉はケヴィンの琴線に触れた。

 それは彼自身、内心で引っかかっている部分だったから。こんな島国のチビに負けた。浅野に格上とまで言わしめた奴だ。不思議じゃない。でも、俺は本気を出して居なかった。そんな言い訳が頭の中をぐるぐると周り、目の前の大人気ない友人の親父を叩きのめすことで発散してやる。

 

 少なからずそんな思いがあった。だが、この学校の長は口先だけの大人気ない情けない者とは違うと語るかの様にケヴィンのみならず、その場の息子以外の全てを挑発する言葉を無遠慮に投げつけた。気負う素振りも見せずに。

 

「『あー、違う違う。君たち全員でだ。やりたくないなら無理強いはしないが……暴れ足りないだろう?』」

 

 ブチリと何かが切れる音がした。彼らの中の堪忍袋がキレた。明確な怒りを青筋で表しながらコキコキと戦闘態勢を示す様に関節を鳴らし、拳を握りしめたサンヒュクが鼻息を荒くさせながら隠しきれない怒りを吐き出すように捲し立てるように口を開く。

 

「『理事長サンよぉ……。これからここで起こること、問題にしたりしないよな?』」

 

「『勿論だとも。お互いにね』」

 

 和かに笑う理事長。その余裕たっぷりな様子に堪えきれなくなったカミーユが掴み掛かったのが虐殺の始まりだった。

 流石の父も多勢に無勢、一方的な暴力になるのではないか、と予想したが、それは違っていた。大勢で1人を痛ぶるのではなく、1人が大勢をいとも容易く一方的に捩じ伏せる作業染みた戦闘とも言えない景色に学秀は固唾を呑んだ。

 

 数秒後、理事長室は阿鼻叫喚の地獄絵図に変わっていた。横たわる8人の巨漢と、飛び散る血痕。中学生の学舎の一室には凡そ似つかわしくない景色と自分が目撃した自らの知り得る中でも腕利きの友人達への一方的な虐殺に学秀は思わず震えた。

 

「私が空手の黒帯を倒したのはね、空手を始めて3日目だった。初日はコテンパンに負けた。三十過ぎたオッサンが何度も倒され、情けなくゲロを吐きながら転げ回ったよ」

 

 凄惨な光景を作り出した当人は涼しげな顔で、血の滴る鼻を押さえて怯えるケヴィンの服の上に脚を置くと靴に付着した血を拭き落としながら学秀に問い掛ける。

 

「自分のこれまでの人生でもこれ以上ない敗北を経験した私はさて、2日目は何をしていたと思う?」

 

 問い掛けられるが答えは出ない。黒帯を3日で倒す。そんなことをしでかす者の思考など読めるわけもなく、まして何をやっていたかなど想像もつかない。精々トレーニングしたとかそんな回答しか出せないが、きっとそういうことでもないのだろう。

 

 そう考えると学秀は静かに口を噤むしかなかった。

 そんな息子の様子を数秒みた後、彼は語り出した。声音を変えず、ただ淡々と言って聞かせる様に。

 

「ただ見てた。尋常ではない屈辱の炎に焼かれながら師範の動きを観察し続けた。次に負けたら私は自我が保たず発狂死する、そんな思考が頭を満たしていた。その怒りと恐怖は私にかつてない程の凄まじい集中力を与え、それが師範の技を盗み、倒す戦略を立てることにつながった。そして迎えた3日目、私は1発も相手に触れさせず、師範を倒したよ」

 

 戦慄した。戦慄するしかなかった。練習に明け暮れたでも教えを乞うたわけでもない。ただ見てた。

 武道経験者の彼には分かる。それがどれだけ異常なことか。自分よりも遥かに格上を打ち負かす程の技をたった1日見て盗み、実戦で使う戦略を立てるなんて普通は無理だ。

 

「それからも再び負けることへの恐怖との戦いさ。恥と怒りで冷静さを失い、かかってくる師範を技を盗みながら倒し続け、数日後には赤子扱いできる程に上達した。敗北から学ぶと言うのはそう言うことだ。しかし、多くの者は口先だけで大して学ばす、敗北を忘れる。そこで転がる彼らの様にね」

 

 魔王が迫る。転がる屈強な男たちを睥睨し、ゆっくりと息子ではなく、1人の教え子と教師として敗北から学ぶということを教えるために接近し、また一つ、シンプルな質問をした。

 

「ねぇ、浅野くん。なぜ負けたと言うのに、死ぬ寸前まで(・・・・)悔しがって居ないんだい?」

 

 狂っている、この化け物め……!そんな思考が浮かぶ。言葉が喉元までせり上がり、辛うじて飲み下す。

 

「………一つだけ、キミにヒントをあげよう」

 

「ヒント………?」

 

「あぁ。私が乃咲くんを買っている理由さ」

 

 不意にこの場で聞くことになるとは思ってなかった人物の名前が出てきたことに驚きつつ顔を顰める。

 確かに詳しい理由を学秀は聞いたことがない。彼の優秀さは勿論だが、おおかた、乃咲博士の子供だからとか、後輩の子供として見ているとかそんなことだろうと思っていた。

 

 それを今、実の父が否定する。

 

「"敗北から学ぶ"こと、あるいは"負ける恐怖との戦い"が出来る人間だからだ。それが彼とキミの大きな違いだよ」

 

「僕と圭一の違い……」

 

「キミは入学当初、自分と並んでいる乃咲くんに危機感を覚えたかい?もしかしたら負けるかもしれない、2位になってしまうかもしれない、もしも順位が落ちたら……。そんな危機感をただの1度でも持ったことはあるかな」

 

 思い返す。圭一との出会いは学秀にとって大きかった。天才というより秀才。凡人ではあるが常人ではない。そんなライバル。自分と並び立つ様にがむしゃらに努力し、突っ掛かるように声を掛けて来たもう1人の主席。

 

 言われてみれば、危機感なんてなかった。むしろ、努力して結果を出す姿を応援こそすれど、そこに焦りはなかった。

 

「彼は違う。彼は怯えていたよ、キミに敗北し2位に落ちる恐怖に。それこそ倒れてしまう程に根を積めるくらいに危機感と焦りを抱いていた。実際には持ち直すことができず、環境との軋轢でみるみるうちに沈んで行ってしまった。あれほどの原石が沈んでいくのは惜しいと感じた程だ」

 

 言われてみると確かにそうだ。

 確かにそれは自分と圭一の大きな互いだろう。

 

「だが今年、彼は中間で51位になった。最下位から100人以上を抜き去ってその順位だ。相当努力したのだろう。範囲変更が無ければキミに並んでいただろうね。だが、結果的に彼は上の中くらいに止まった。相当悔しかったのだろうね、次の期末ではキミに並んで見事に1位に輝いた。『自分は頑張った』というのは努力して結果を出した強者が言うから意味がある」

 

 それは学秀も理解できる所だった。

 E組に落ちてないだけで順位がしたから数えた方が早い者と順位を徐々に上げて上位に食い込んだ竹林や自分に並ぶ主席にまで上り詰めた圭一。『自分は頑張った』とどちらも同時に主張し、より頑張ったと言える方を選ぶことを迫られたのなら、学秀としてもE組差別を抜きに後者を選ぶ。

 

「確かに可愛くて優秀な後輩2人の子供という贔屓目がない訳ではない。あくまで他所の子供だから甘く見てるという部分も否定は出来ない。それでも私が一番買っているのは倒れるまで努力できる才能と姿勢だ。彼は凡人ではあるが、常人ではない」

 

 そこまでの評価を告げると彼は父として子供を見た。覗き込むように目を合わせ、問い掛ける。

 

「さて、私が最も長く教えた教え子であるキミはどうかな、学秀。ライバル視するのは良い。だが、相手の成長を喜んで満足していて良いのかな。前回のテスト、キミたちは同点同率の首位だった。だがそれは、1点でも乃咲くんが高ければキミは負けていたということになる。なぜ、危機感を持たないんだい?ライバルの成長と復活を喜んでいる場合なのかな?」

 

 その問いかけに学秀は答えられなかった。

 

「強くなりなさい。本人の資質次第で確かに敗北から学ぶこともある。だが、負けないに越したことはないし…………なにより、負けてからでは遅すぎる場合もある。その為にキミたち生徒を絶対に負けない強者へ導くのが私の使命だ」

 

 理事長は視線を外し、姿勢を正すと背を向ける。

 

「ここは私が片付けよう。キミは会場の片付けに戻りなさい。今後の活躍に期待しているよ」

 

「………はい。失礼しました」

 

 父の纏う異様な空気に触れられず、学秀は短くそう返事をして理事長を後にした。

 

⬛︎

 

⬜︎

 

⬛︎

 

 棒倒しのあと、諸々の片付けを終えた俺たちは撤収のために各々で持って来たタオルやらドリンクやらを片手にE組校舎へ続く道へ足を向けていた。

 

「あっ、先輩!カッコよかったです〜!」

 

「あはは、真似すんなよ、危ないから」

 

 後輩たちに黄色い声を浴びせられる悠馬を尻目にしみじみと今回の戦いを振り返る。改めて考えると凄くギリギリな戦いだった。本気の学秀の恐ろしさを身に染みて理解した。

 

「圭ちゃん、難しい顔してるよ?」

 

「いや……。ほんと、学秀の奴は敵に回しちゃ駄目だと再認識した。本当に、マジでどうにもならなかった時の為の最終手段はあったけど、俺1人の力で勝っても意味なかったからなぁ……。勝つって結果に拘るよりどうやって勝つのかって過程を大事にする難しさも思い知ったよ」

 

「今回も頑張ってたもんね。まさか圭ちゃんがマイクの前であんな風に話すなんて思わなかったよ」

 

「マイクの前で……?俺、なんか話したか?」

 

「あ、それ思った。乃咲にしてはなんか偉く素直に磯貝くんを褒め散らかしてたって言うか、結構臭いこと言うんだなぁって」

 

「…………悠馬にも言われたけど、俺本当になんかした?」

 

「『A組無敵伝説を崩す瞬間の見物料はマイク一本だ』って。『浅野くんとか持て囃してるけど、うちのリーダーだってアイツに負けず劣らずすげぇ奴なんだ』とか」

 

「…………………………マイク入ってたの?」

 

「え、うん……」

 

「……………まさか乃咲、気付いてなかったの?」

 

「………うん。実況に関係ない話題が入らないようにマイク切ってるもんだとばかり………。それにE組以外との交渉でしっかり会話できるか不安で緊張してたから」

 

 倉橋と茅野から告げられた真実に思わず立ち止まる。

 なんとなく、あの時口走った言葉の数々を思い出し、その後の悠馬の言葉の意味を理解し……俺はしゃがみ込んだ。

 

「シテ…………コロ……シテ……」

 

「あはは……。素でやってたんだね」

 

「乃咲って変なところでそそっかしいよね……」

 

 顔が熱い。え、じゃあ何か。あの時のセリフは全部全校生徒に筒抜けだった上に悠馬本人にも聞かれてたのか?

 聞かれてもない誰かに対する評価って本人に聞かれるの一番気まずいというか、恥ずかしい奴じゃん。

 

「もうやだ……おうちかえる………」

 

「はいはい、まだ帰らないの。祝勝会するんでしょ?」

 

「けど、結構磯貝くんのこと信じてたんだなぁ〜って。乃咲はどっちかっていうと『俺がやった方が早い』ってあんまり任せないタイプじゃん。だから結構意外だったかも。乃咲も磯貝くんのこと親友だと思ってたんだね」

 

「わァ………ぁ………」

 

「あ、圭ちゃん泣いちゃった!カエデちゃんな〜かせた〜」

 

「えへへ……。たまにはやり返さないとね。ていうか、乃咲もちいかわ知ってるんだ?」

 

「………ちいかわ?」

 

「そうそう」

 

屍山血河くらいなら流石に知ってるぞ」

 

「圭ちゃん?そっちじゃないよ?」

 

「じゃあ血に乾いた獣?」

 

「そんな匂い立つお酒が好きそうなおどろおどろしいモノじゃないからね?流石にわざとだよね?」

 

「流石に冗談だ」

 

「…………エーブリエタースの?」

 

「先触れ」

 

「ウィス……?」

 

「イェーイ」

 

「怪しい壁は?」

 

「ひとまず殴る」

 

「カムイと言えば?」

 

「瑞穂だろ」

 

「圭ちゃんギルティ。何でもかんでもフロムに結びつけちゃいけません!ネットミームとかスラングでばっかり会話してると癖になって知らないに人にもやっちゃうかもしれないんだから」

 

「………右回りの?」

 

「変態」

 

「倉橋さんもギルティじゃん」

 

「いや、2人ともおかしいからね?側から聞いてると何言ってるかわからないし、ネタ振れる方も答えられる方も似たり寄ったりだよ!?なにさ、右回りの変態って!?」

 

「左回りの変態もあるぞ」

 

「どっちもあると便利なんだよねぇ……。右回りと左回り、大いなる湖は私の呪いのカレル文字だったよ」

 

「分かる……。俺は湖の代わりに獣か導き付けてたな。獣の落下耐性がすげぇ便利なんだわ」

 

「さーっぱり分からない。て言うか、私も聞き齧ったことがある程度だけどさ。乃咲が時々やたらめったらに鋭い考察するのって……まさかとは思うけどフロム脳って奴の所為!!?」

 

「…………」

 

「乃咲、なんで目を逸らすの?ガチ?ガチな訳じゃないよね!?そんなんで鷹岡先生たちみたいなボスキャラの陰謀を見抜いてたわけじゃないよね!?なんとか言ってよ!!?」

 

「……小さなピースを嵌めて一枚の絵になったとき。それをどう解釈するのかは当人次第だ。俺はそのピースの集め方、嵌め込み方、解釈の仕方をあのゲーム達から学んだ。それだけさ」

 

「うわぁ……。重症だ、これ」

 

 そんな会話して歩いていると、ふと、学秀が現れた。校舎と体育館を繋ぐ渡り廊下からニョキっと。

 さっきまでの対戦相手兼暗殺の協力者。そんな奴が生えてきたら自然と俺たちの目は彼に向けられる。

 

「……ひとまずはおめでとう。キミたちは勝利した。僕たちは今回のキミの無断バイトの件はみなかったことにしよう」

 

「本当だろうな?」

 

「二言はない。蓮たちにも言含めておく」

 

 力強く頷く学秀にみんな安心した顔をする。

 どうやら、今回の件は一件落着のようだ。

 

 これでまた暗殺と勉強に専念できる。そんな安堵を俺も感じたのとほぼ同時、学秀が悠馬に手を伸ばした。

 

「良い戦いだった、完敗だよ。僕が用意した策という策を突破した手腕と指揮は実に見事だった」

 

「策に気付いたのは圭一だよ」

 

「それでも指揮を取ったのはキミだ。……次は負けない」

 

 差し出された手が握手を求めたモノだと気付いたのだろう。悠馬も手を伸ばして、その手をガッチリと握る。

 

「またこういう勝負をしよう。次は勝ったらどうこう、負けたら云々とかなしにさ。お前も暗殺の仲間なんだから」

 

「………考えておく」

 

 握手が済んだあと、その場を離れようとする学秀が不意に立ち止まり、振り返り、俺の目を見た。

 俺の目をみた後、ゆっくりと珍しく言葉を選びながら何処かはっきりしない様子で口を開く。

 

「圭一」

 

「なんだよ?」

 

「……もしも、本当にあくまで仮定の話だが。お前が格闘技を始めた時……3日で師範を倒せと言われたらどうする?」

 

「また急な話だな……。手段に制限は?」

 

「真っ向勝負だ。初日にこっぴどく負けて、3日目で完勝しなければならない。そんな条件の時、お前は2日目は何をする?」

 

「これまた限定的過ぎるぞ……。3日でとか言いつつ使えるのは実質1日だけじゃん……。そうだなぁ……」

 

 問いかけられて考えてみる。そんなこと、普通の人間に出来るとは思えない。それでもやれ、と言われるのなら……。

 

「多分、2日目はただ見てるだけだ」

 

「……っ、理由は?」

 

「たった1日訓練したところで格上を圧倒できる身体能力は手に入らない。だったら相手の動きを観察して癖とか見抜くのに使うな。実際、俺は烏間先生の動きを何個か見て盗んでるし、その過程で技を盗めれば万々歳だ。技を盗めて癖を見抜ける。だから俺はただ見てる」

 

「……そうか。お前もなのか」

 

「お前も……?まぁ、知らんが、あとは初日の負け方にもよるだろ。復讐心があるかどうかは大事なトリガーだ。実際、俺は不良認定される前、一方的に殴ってきた奴らが憎くてたまらなかった。だから、カルマとアイツらの喧嘩を見て動きを学んだ。そしたら次会った時には普通に返り討ちに出来たし」

 

 俺の言葉を聞き、学秀はカルマに視線を向けると、アイツは肩を小さく竦めてみせた。

 

「……えっと、答えはこれで満足か?」

 

「……あぁ。ありがとう、参考になった」

 

 学秀はそう言うと、去って行く。

 

「圭一、次のテストは絶対に負けない」

 

 短くそう言い残して。

 

「………なんだ、浅野の奴。なんか様子おかしくね?」

 

「………あぁ。まさか外面くらいしか爽やかさなんてカケラも持ってない学秀があんなセリフを吐くなんてな」

 

「そういう意味じゃねぇーよ」

 

 すかさず飛んでくる前原からのツッコミに苦笑しながら背中を見送る。確かになんだか様子が変だった。

 別におかしいわけじゃないが、アイツにしては妙に落ち込んでいるというか。何かショックを受けてそうと言うか。

 

「……………」

 

「……………圭ちゃん?」

 

「いや、なんでもな——」

 

「思ったことはとりあえず言ってみる!」

 

「…………少し心配なだけだ」

 

「素直でよろしい!」

 

 よくできました〜!と言わんばかりに背伸びして前髪の辺りを撫でてくる倉橋さん。ちょっと背伸びしてプルプルしてるのが可愛いが、流石に汗かいてるので勘弁して欲しいところだな。

 

 プルプルしてるのをみてるのもいいが、少し申し訳なくなってきたので少しだけ屈んで倉橋さんの好きにさせていると、何か言いたそうな茅野と目があった。どうした?と首を傾げて見せる。

 

「いやさ、本当に印象が違うっていうか……。E組に来たばっかりの頃は乃咲=不良!みたいな感じで悪い人みたいな印象合ったんだけどさ。そうやって倉橋さんに撫でられてたり、磯貝くんを助けた話とか、普段の性格とか、意外と人を見てるところとか。なんか本当に不良だったの?って思うことがあるって言うか」

 

「……………あ?俺ってば超不良だし。数学の授業中とかヤクを分けまくってたし。ちょーわるだし」

 

「………数学………ヤク………分ける………分……ぶん………あっ、数学中に約分(ヤクブン)してたって話ね。圭ちゃん、もうちょっと分かりやすいボケにしようよ」

 

「ボケの解説されるのキッツ……」

 

「こういうところとかさぁ……。なんだろ、ヤンキーではあったけど、不良ではなかったのかなって」

 

——乃咲くんはヤンキーだけど不良なんかじゃないよ!

 

「っ………」

 

 茅野の何気ない一言で想起する記憶があった。

 あの時も何気ない言葉のやり取りで、不意にそんなセリフを聞いたんだった。衝撃的だったなぁ……。

 

「あはは、圭ちゃんは1年生の頃から優しかったよ?勉強会で私にすごく分かりやすく丁寧に教えてくれたこともあるし!」

 

「…………え、なにそれ、知らん……」

 

「倉橋さん?この人なんかナチュラルに忘れてるんだけど?」

 

「まぁ、こんなもんじゃない?それに私が覚えてるんだからそれで良いもん。今はあの頃と違って普通に話せるし、忘れちゃったなら新しく覚えて貰えば良いだけだしね〜」

 

「倉橋さんって大分剛の者だよね、メンタル的に」

 

 茅野の少し呆れた様な声。

 仲間たちと女子2人がきゃっきゃしているE組への帰り道。俺はなんだか喉に小骨が引っかかったような感覚のまま、みんなの後を追う様に半ば自動的に山道を歩いた。

 

 ……どうしてだろう。

 茅野の言葉を聞いた時、脳裏に雪村先生の姿が過った。

 

 同じことを言ってくれたから?いや、それだけならもっと色んな場面であの人の姿を思い起こすだろう。

 

 学秀たちとの対決には勝ったのに、なんだか喉に引っかかった違和感に敗北感を覚えてしまう。

 俺は何か、見落としているのだろうか?

 

 言葉に出さない問い掛けに返事などある訳がなかった。

 




あとがき

はい、あとがきです。

今回は理事長のパワハラ回でした(身も蓋もない)。
原作でもここの理事長はやばかったですが、今回は原作の倍の人数でもお構いなしにやってしまいましたね……。外人助っ人たちがかなり大柄なことで忘れがちですが、彼らも一応中学生なんですよね……。うーん。深く考えないようにしよう。

そしてやっと理事長が圭一を気に掛けるというか、買ってる理由を投下することができました。いやぁ、長かった。

圭一「今年で中学生です」
學峯「後輩達の子供で良さげな子おるやん。呼んだろ」
圭一「主席で入学しましたが2位に落ちたら父さんに見捨てられそうで怖いです」
學峯「負ける恐怖を意識してる。ええやん」
圭一「体調崩してしばらく転落人生でした」
學峯「……(スンッ」
圭一「最下位から100人以上抜きました。あと2点あれば上位50位入りでした。めちゃくちゃ悔しいです。次はぜってぇ1位になります」
學峯「ふむ(クラッカー準備)」
圭一「またテスト範囲がずれる可能性を考慮してかなり先まで予習して、学年主席になりました」
學峯「ええやん(クラッカー鳴らす)」

今までの理事長と圭一は大体こんな感じです。
E組に所属してることを除けば圭一は理事長の教育理念に割と当てはまってしまう上に考え方というか姿勢がかなり好みという感じでした。

さて、次回、ちょっとした衝撃展開。
オリジナル回です。またまたお付き合いください……!

今回もご愛読ありがとうございます!


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