加えてたくさんの高評価、感想ありがとうございます!
今回も投下しましたので、お付き合いください……!
「知ってるのか……雪村先生」
「…………………うん。本当はね」
乾き切った喉から絞り出す言葉。予想を変えた言葉に返答し、更に返ってきたのは更に俺の想定を越える言葉だった。
まて、まて。待ってくれ。
茅野が雪村先生を知ってる?しかも、彼女は今、俺になんて問い掛けた?『雪村先生に会いたくない?』どう言うことだ?
訳がわからないと言うわけではない。彼女の言ってる言葉が理解出来ない訳でもない。ただ、それの想定というか、視野外から隕石でも降って来たみたいな衝撃が訪れる。
「乃咲さ、しっかり私のこと見ててくれたよね。私と……お姉ちゃんが似てるって気付いてくれるくらい。その中でさ、何か違和感とかなかった?私とあの人が似てるとかじゃなくてもう少し違う部分にさ。たぶん、あなたなら気付いてるんじゃない?」
言われて振り返る。
確かにもう一つだけ違和感を感じていた部分がある。
「確かにある」
「……聞かせて?」
「今日の茅野は……なんと言うか……。雪村先生に関することに関しては何処と無く確信を持ってる様に見えた。先生ならどう考えるか、受け止めるか。それらを知ってるみたいに俺の話を聞いて相槌を打っていた様に見えた…………気がする」
「うん、大正解」
言葉を選び、答えた俺に返ってきたのは神妙な頷きと言葉での肯定だった。あまりにも予想外の肯定だった。
そして、彼女は今、雪村先生との関係を決定付けるような言葉を口にした。あの人を"お姉ちゃん"と呼んだ。
「……親戚だったのか?」
「うん、そんなところ」
何処か濁した肯定だが、無理もない。親戚というのは個人の捉え方にもよる。親兄弟という近親もそうだし、従兄弟とか、叔父叔母、甥姪、祖父母。果ては義理の家族の親族なんかも親戚と定義できる。定義は幅広いからな。
恐らくは従姉妹とか姪とかだろう。苗字が違うし、両親が離婚して〜とかそう言う展開でもなければ。
「……小さい頃からさ、沢山面倒見てもらったんだ。両親がだいぶ忙しい人でね、その分、お姉ちゃんがずっと居てくれた」
「……ごめん」
口から出たのは謝罪だった。
「なんで謝るの?」
「いや、そうとも知らずに喫茶店では割とボロクソに言ってたからさ……。知らなかったとは言え、デリカシーが無かった」
「気にしてないから良いよ。夏休み明けの乃咲を知ってるから。あれだけ追い詰められてたら仕方ないと思うし、何度も言うけどあなたはしっかりお姉ちゃんのことみててくれたんだって伝わってるから。少なくとも今の私は知ってる。まぁ、女の子に貧乳貧乳言うのはノンデリすぎるけどね」
「……悪い。茅野の反応が面白くて」
「なんかなー。普段は結構落ち着いてるのにそういうところガキっぽい男子してるよね。まぁ、良いけどさ。そうでもないと少し出来過ぎて同い年感ないもん」
「そうか?」
「そうだよ。だって考えてみてよ、不良だって聞いてた奴が急に最下位からテスト2回で1位になるし、暗殺では凄い結果出してるし、思いの外に人のこと見てるし頭の回転が早くて色んなことを見抜くし………。こうみると乃咲ってスペック高い?」
「えっへん、ハイスペ男子ですまない」
「こら、すぐにそうやって茶化す。そういうところがガキっぽいんだよねぇ……」
「手厳しいこって」
少し戯けて空気の緩和を図る。
気まずい空気はない。ただ、それでも空気が重かったことは確かだ。茅野のツッコミで少しだけ空気が緩む。
「…………ごめん、気を遣わせて」
「なんのことやら」
彼女の言葉に惚けて返す。ここで神妙なことを言ってしまったらまた空気が凝ってしまうだろう。
なら、甘んじてノンデリ野郎の汚名を着ようじゃないか。どうせデリカシーがないのは事実なんだろうし。
銀の死神、ファザコン、おポッチャマ、ノンデリ。汚名も重ね着し過ぎると脱ぐのが躊躇われるってことで。
「そんで本題に戻るけど……いいの?急にそんなこと言い出して。先生に迷惑じゃないのか?」
「大丈夫。きっと喜んでくれるよ……。3月に比べて成長した乃咲の姿を見せて上げてよ。本当に喜んでくれるから……」
「…………分かった。じゃあ会わせてくれ」
「……………うん。着いてきて」
改めて問い掛けると茅野は頷いて歩き出す。
さっき俺を引き止める時に摘んだ袖を離すことなく、俺を引っ張るように、それでいて少し、心ここに在らずと言った様子で決して力強い歩みとは言えない歩幅で。
無言で歩く彼女の歩幅に合わせて歩く。
しかし、少しばかり妙だった。茅野が俺を何処へ連れて行こうとしているのかが読めない。話の流れ的に家なのかとも思うが、これと言って連絡する素振りもない。
というか、なんとなく彼女の家なのか?とか考えたが、そうである可能性も希薄だ。小さい頃から面倒見てくれたとは言っても一緒に住んでるのかすら分からない。
仮に一緒に住んでいるにしても、一言も連絡しないものか?だって若い女性の家に行くんだぞ?ノンデリとか言ってくれる彼女に限ってその辺の気遣いが出来ないとは思えない。
それに、道中で何度か適当な店で手土産を買おうとするも却下された。そんな気を使わなくて良いから、と。
俺としては、金や物で解決したい訳じゃないか、折角会えるのなら……これまでの態度を謝りたい。だから菓子折りの一つでも持っていきたいのだが、それを茅野に伝えても『大丈夫だから』と何処か震えた声で返事をするだけ。
大丈夫と口で言っているが、あまり大丈夫そうには見えない。というより、俺の質問に対する返事としてではなく、自分自身に言い聞かせているように聞こえるのは気のせいだろうか?
言動とは裏腹にしっかりと掴まれた袖を引かれて歩く道すがら。流れる景色を目で追いつつ、違和感を覚える。
されるがまま歩き、バスに乗り、また歩き、そして現れたのはマンションとかアパートの物件ではなく、人の気配を感じさせる民家でもなく、管理は行き届いているのだろうけど、そこに住むのは生者ではないであろう、墓地だった。
流石に冗談だろう。もしくはこの墓地の先に家があるのかも知れない、なんて甘い希望は僅か数分で打ち砕かれ、俺たちの足はその敷地へ侵入し、彼女の迷いのない足は『雪村』と彫られた1基のお墓の前で止まる。
ここに来るまで、背筋がゾクゾクと冷えてゆく感覚を感じた。足は動いているのにまるで夢の中にいるみたいに身体がふわふわして、足が止まり、それを目にした瞬間、頭の中が真っ白に染まり、耳鳴りがキーンと響いた。
「ぇ………?」
絞り出せたのはそんな言葉とも言えない声。
思わず立ち尽くす。茅野の手が袖から離れてもしばらくは身動きが取れなかった。ただ、他所様のお墓を前に呆然と立ち尽くすしか出来なかった。
——冗談キツいぜ、茅野〜。
そんな苦言を戯けて吐き出して楽になりたかった。
でも、出来なかった。ここに連れてきた彼女本人が誰よりも辛そうな顔をしていた。波長を探るまでもなく、それが演技でないことは見て感じることが出来た。
人を見る。そんな目標を掲げた自分を褒めたい。
そうでなければ、俺は本当に踏んではいけない部分を踏み抜くノンデリ野郎になってしまうところだった。
吐き出そうとした言葉をゆっくり時間を掛けて飲み込み、次に出そうとする声が震えるのを必死に押さえ込み、口を開いた。
「……いつ……?」
「………今年の3月12日」
短い返答に釣られて墓誌を見る。そこには確かに雪村先生の名前と茅野の言った通りの日付が彫られていた。
再び立ち尽くす。
そこに刻まれた名前を認めたく無かった。現実感がない現実に目が眩み、地面と足裏の境目がなくなるような感覚に襲われて平衡感覚を失い、ぐわぁーんと歪む視界に大きく先生の眠るお墓が写る。もう、頭の中がぐちゃぐちゃだった。
謝りたかった。会えるのなら、またあの無駄に元気で弾むような声を聞きたかった。やり甲斐感じてますっ!ってウザいくらいに溌剌とした教師の姿を見せて欲しかった。
「……なんで学校は教えてくれなかったんだろう」
「多分、殺せんせーが来るって決まったからじゃないかな。他でもない理事長がそれなりにバタついてたんだと思うよ」
「そっか」
本当にそれだけだろうか?
口では納得を示しつつ、内心では疑念が沸く。確かに無理のない話ではない。だけどあの理事長がそれだけで自分の支配下で人が死んでいるという大事を見過ごすだろうか?
「あの日、町外れで爆発が起きたのは知ってるんだよね?」
「あぁ。町外れの研究所が爆発した事件だろ………まさか?」
言葉にして、茅野が何が言いたいのかを察し、問い掛けると無言で首を縦に振る仕草で肯定された。
「あの日、たまたまその近くに行く用事があってさ。……巻き込まれちゃったんだ。救急が着いた頃には手遅れだった」
「………………そうか」
漠然と目の前の墓石を眺める。
思考が働かない。この瞬間だけは、今まで何かを考える時はどんな風にしていたのかを完全に忘却していた。
思考を忘れ、四肢の動かし方を忘れ、目の閉じ方を忘れ、ここが現実なのかすらあやふやになりつつあった。
卒倒しそうになる俺を繋ぎ止めていたのは、俺以上に辛そうな顔をしている茅野と一際激しくなっている罪悪感だった。
あの日、恐らくは雪村先生が亡くなる直前にした会話は覚えている。件の腹八分目Tシャツを貰った時だ。
——じゃーん!はい、乃咲くんにプレゼント!
——なんすか……このクッソダッセェシャツ?
——ひど!?先生とお揃いだよ!?ほらほら!
——いや、絶対に着ませんよ。
——えぇ!?でも、先生は受け取らないよ!返品禁止!
そんな会話が脳裏に焼き付いている。
俺にとっては何気ない日常の会話だった。『私のシャツってなーんかみんなから受けが悪いんだよなぁ』と首を捻る姿を呆れながら眺めていた。
どうせ次に顔を合わせたらケロッとしてるだろう。そんな風に考えて特に気にも止めず、形だけのお礼を言って別れた。
それが、雪村あぐりという人間との最期の会話。
この状況をドラマとかに重ねるのは自己陶酔甚だしいかも知れない。それでも思わざるを得なかった。『もっと色んなことを話しておけばよかった。もっと先生に興味を向けられればよかった。お礼くらい素直に言えばよかった』と。今更になって。
「のざ————」
「茅野」
茅野の言葉を遮って口を開く。
彼女も言いたいことはあるだろうに言い出そうとしていた言葉を飲み込み、代わりに俺の言葉に耳を傾けて『なに?』と問い掛けてくれた。
「良かったら掃除……させてくれないか?」
こちらの提案に彼女は墓石周りを見る。
黄砂の影響か少しだけ黄ばんで見えるし、よくみると鳥の糞の跡とか着いてたりする。
顔をみて謝ることが出来ない以上、せめてあの人の眠る場所を綺麗に整える程度の誠意は見せたかった。
これは自己満足以外の何ものでもない。それでもやりたかった。せめてこれくらいはしておきたかった。
「うん。一緒にやろ?今日は暑いし、お姉ちゃんも喜ぶよ」
茅野からもOKを貰ったのでさっそくお寺から常備されてる道具を借り、水を汲んで墓石にかけ、汚れを拭いて落とす。
真夏の日差しに焼かれた墓石は酷く熱い。水をかけるとじゅ〜って音がしそうなくらい、まるで声をかけたらあの声が返ってくるのでは?と期待したくなるくらい、無機質で冷たい印象のそれは、そこに人がいるみたいに熱かった。
出来る限り丁寧に磨く。黄砂も鳥の糞の跡も満遍なく磨き上げる。学校の掃除とかは作業にしか思えないのに、こういうのはある種の儀式のように思える。
実際、儀式なのだろう。ここに訪れた理由、そこに眠る人に何かしてあげたいという自己満足、自分はあなたを忘れていないという誰に向けるでもない呟き。
俺は本当の意味で死者を偲んだことは無かった。
母さんの墓参りには行っている。でも、一緒に過ごした記憶がないからから、何処か年に1回、機械的に参ってるだけだったのだろう。今、こうしているとそう思う。
磨いていると目に入る墓誌に刻まれた見覚えのある名前。今だに現実感はないというのに……あるいは、現実感がない故にこうしてお墓を世話して自分に言い聞かせるのだろう。これは現実で、もうそこに名前のある懐かしい人はいないのだと。
「………すごいピカピカだ。ありがとね、乃咲」
「いや……。俺にはこんなことしか出来ないから」
「そんなことない。お姉ちゃんだけじゃない。ここに眠ってる人たちみんな喜んでると思う。あんなに一生懸命にお世話して、お花まで飾ってくれたんだもん」
気が付けばお昼を過ぎていた。
何時間、そうしていたのかは分からない。でも、茅野に止められるまでかなりの時間そうしていたことに気付きもしなかった。久しぶりだ、数時間が一瞬に感じたのは。
道具を片付けたついでに売店で買った花と掃除に励む俺たちを見ていてくれたらしいお坊さんがくれたお菓子を供える。
お菓子に関しては貰い物で申し訳ない。今度、茅野がまた来るのを許してくれたのなら、その時こそ自分で持ってこよう。彼女から雪村先生の好きだったお菓子を事前に聞くのを忘れずに。
「……ごめんね」
「なんで茅野が謝るんだよ?」
磨き上げた墓前で手を合わせていると茅野から思ってもみなかった謝罪が飛んできて驚く。
「本当はさ、誰にも話さないつもりだったんだ。お姉ちゃんと私の関係も、お姉ちゃんが死んじゃったことも……」
ポツポツと語る。彼女の視線はこちらに向いているが、俺には向けられていない。先生の眠る所へと注がれていた。
なんて返すのか返事に困った。こういう時の対人経験値というか、人生経験はかなり薄い。
かなり迷って、言葉を選んで、彼女はこの場所で誰かに何かを吐露したいんじゃないかって自分なりに察した。
「じゃあ、どうして俺に教えてくれたんだ?」
今日、彼女がやってくれたように相槌を打つ。
気の利いた言葉も言えず、決して包容力のある言葉でもない。本当になんの変哲もない相槌。ただ続きを促すだけの言葉。
ただ、その選択肢は少なくとも間違いだった訳ではないらしく、茅野は教室で見せていることは少し違う笑みを浮かべた。それはやっぱり何処と無く雪村先生に似ている微笑だった。
「嬉しかったんだ……。私とお姉ちゃんが似てるって言ってくれたの。そんなこと言われたの初めてだったから」
「……そうか」
「覚えてる?私がE組に来た時……っていうか、殺せんせーが来たばかりの頃かな。私、結構乃咲に辛辣なこと言ってたの」
「……あぁ。たまにやたらと冷たいと言うか、バッサリ切り捨てられるというか。そんなこともあったな。『そうなんじゃない?乃咲の中では』とか言われたことあったっけ」
「ごめん……。あの時、実は乃咲のことそんなに好きじゃ無かった。偶にお姉ちゃんがやたらと気に掛けてるヤンキーの話をすることがあったんだけどさ、会って確信したんだ、『あぁ、コイツがお姉ちゃんを心配させてたのか』って」
「無理もないだろ。自分の大事な人に苦労かけさせてる奴に良い感情を持つ方が難しいんじゃないか?それが見ず知らずの他人ならなおのことだと思う。謝んなきゃいけないのは俺だ」
「そういって貰えると救われるかな。乃咲もずっと苦労してたの最近ようやく分かったし、ただ嫌っていた訳じゃなくて、嫌だとか、ウザイとか言いながら、それでもお姉ちゃんの思いは一方通行じゃ無かったんだって分かったから」
しんみりと呟き、視線を落とし、顔を上げた。
「話が逸れたね、私が乃咲にこのことを教えた理由……か。正直なところ私も自分の本心が分からない。本当に誰にもこんなこと話すつもりはなかったんだ。ただ、乃咲が私に気付いてくれて、私のことを見てくれてるのが伝わって……それが嬉しかった。だから乃咲に知って欲しいって思ったのかな……?」
「………」
「多分、それだけが理由じゃないのも本当。お姉ちゃんが死んで、泣きたくなるくらい悲しかったのに涙は出なかった。それも辛かったし、お姉ちゃんが死んでしまったことを知ってる人が少ないのも悲しかった」
「……うん」
「……………たぶんさ、誰かに聞いて欲しかったんだ。見ず知らずの誰かじゃなくて、お姉ちゃんと私を知ってる人に。同じ悲しさを共有して欲しかったんじゃないかな」
語る彼女の口調に自信はなさそうだった。
本当に自分の気持ちを整理しながら話しているのだろう。だから、俺も自分の気持ちに整理を付ける。
改めて先生が眠るお墓を見る。遺された人がいて、その口から死をはっきりと告げられ、こんな悲壮な顔をみていれば流石に理解もする。雪村先生は本当に死んでしまったのだと。
せめて謝りたかった。自分の言動を思い出し、如何に反省しても彼女に伝える手立てはもうない。
何もかもが手遅れで、伝えたいことを伝える機会は一生失われてしまった。それを理解すると泣きそうになる。
けど、俺が泣くわけにはいかないだろう。泣きたかったのに涙が出なかったと呟く遺族の前で自分が先に楽になるわけにはいかないだろう。それだけはしちゃいけない。震えそうになる声を誤魔化す様にゆっくりと口を開く。
「俺とお前は同じ思いであっても、それは絶対に同じ大きさじゃない。茅野の方が俺の何倍も悲しいだろ。嫌じゃなければ分けてくれないか?話を聞くくらいしか出来ないけどさ」
「……いいの?乃咲、見抜いてるんでしょ、私が演技してるって。この顔も、この声音も演技かも知れないよ?」
「別に良い。俺が気になったのは演技されるのが嫌だからとかじゃない。なんとなく、無理してる様に見えることがあるから心配だっただけだ。いやなら止めて良いだろうし、やりたいなら続ければ良い。演技してようが、してまいが、今日までの大体半年、ずっと一緒にいたのはお前本人だろ」
「私本人……?」
「なんて言えば良いのかは分からないけどな」
「……………うんん、ニュアンスは伝わってる。なら、お言葉に甘えちゃうよ?今日まで溜まってたもの吐き出しちゃうよ?」
「吐き出せ吐き出せ、俺なんてクラスメイトたちの前で泣きギレしながら14年溜めてたファザコン暴露した男だぞ?」
「汚い言葉とか出ちゃうかもよ?」
「別に気にしないけど。日頃から『殺すわよ、このクソガキども!』とかキレるパツキン美人がいるんだぜ?」
「そりゃそうだ……。乃咲には敵わないなぁ……。なんか簡単に丸め込まれちゃった気がする」
「そのパツキンがよく言うからな。異性を落としたいなら欲しい言葉を察してかけてやりなさいって」
「あはは、口説かれちゃってたか、私」
「そうなるな。どうする?この場でフラれたからってもう知らない!ってほっぽり出すつもりもないけど……」
「じゃあ……付き合って貰おうかな。こんなに熱烈に声をかけて貰ってるのに応えないのは失礼だもんね。今日はまだデート続行ってことで。今夜は寝かさないぜ?」
「あっ、5時15分にはカード切って帰らないとなんで」
「ウルトラ定時だ!?」
笑いながらツッコミを入れる茅野。波長と仕草にズレがないあたり、演技ではないのだろう。
今日、俺に出来るのはこれくらいだ。雪村先生、直接謝ることは出来なかったけど、アンタの墓前で大事な妹分を笑わせたんだからお供物を持って来れなかったことは大目にみてください。
震えそうになる声はもうない。
今日はこの後しばらく茅野の話を聞くことになったし、センチメンタルになるのは彼女と別れてからでも良いだろう。
それに、雪村先生には妹がいると言う。その子がいるのなら、茅野は1人で悲しみを背負ってるわけではないだろう。
茹だるような暑さも掃除で使った水が気化して涼しくなってきた。日差しもゆっくりゆっくり弱まっている。
茅野の口から語られる俺の知らない雪村先生。それに相槌をうち、時々ツッコミながら時間を過ごす。
時々感情的になって支離滅裂なことを言っては、我に返り恥ずかしそうにする姿に笑みを返しながら。
——彼女と先生の関係を間違った解釈のままで。
今の自分に何か出来ることはないかなんて、そんな思い上がった思考を引き摺った俺が間違いを突き付けられるのはそう遠くない未来の出来事であった。
あとがき
はい、あとがきです。
圭一は1つとんでもないミスをしてますね。
果たしてこの抉れが最終的にどうなるのか!
次回もよろしくお願いします。
ご愛読ありがとうございます!