暗殺教室 不良児は認められたい   作:ZWAARD

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加えてたくさんの高評価、感想ありがとうございます!

今回も投下しますのでお付き合いください……!


111話 絡まる時間

 

 週末も終わり、また新しい1週間が始まる。

 そんな生活を繰り返す。相変わらず殺せんせーは殺せないし、俺たちの暗殺のことなど知る由もない世間は平和だ。

 

「……違うか」

 

 違う。争い、流血沙汰、人殺し。そんなワードを見かけることが少ないだけで俺たちの知らないところでは毎日何が起こっているのだろう。満月が三日月に変わってしまったあの日、俺たちの知らないところで雪村先生が亡くなっていた様に。

 

 あの後、茅野と約束した。

 雪村先生の死は2人の秘密にする、と。お姉ちゃんが死んでしまったことがみんなの足枷になるのは嫌だから。いつかタイミングが来たら話すから。と。俺もそれには賛成だ。

 

 さて、ある意味で特別な日になった休みが明けたのは良い。学校までの通学路は怠いが、学校は嫌いじゃない。

 だが、否応なく考えさせられる。暗殺期限まで半年を切ってるのだと。来年の3月、良くも悪くも全て終わる。

 

 殺せんせーを殺して終わるか、殺せずに地球が終わるか、もしくは殺せんせーだけが1人で死んでしまうのか。

 

 みんなが知らないこの情報を抱えて半年。俺はどうすればいいのだろう。先生と誰にも話さないと約束した以上、誰かに話す選択肢はない。だが、日々クラスメイトや先生との絆が強くなる中で、最後まで目的を果たせずXデーを迎えてしまった時。俺たちはどうなるのだろう?

 

 心配だ。だが、心配なのは死ぬかも知れない恐怖ではなく、もっと言い表すことのできない言い知れない何かだ。

 

 ただ、少なくとも、これは言い切れる。雪村先生のように知らないところで殺せんせーが死ぬのは嫌だ。

 だから、この一年が終わるのなら、それはこの手で。殺せんせーの終わりを見届けたい。

 

「ビッチ先生来てるかなぁ」

 

 そんな訳で実はビッチ先生にお願いしたいことがあった。もちろんエロいこと目的ではなく、暗殺関係で。

 けど、ビッチ先生がいつも来る時間まではかなり余裕がある。来てるかなぁ、などと口には出してるが、実際はこの時間にいることはあんまり期待していない。

 

 しかし、そう言う期待というのは案外良い結果を齎してくれるもので。裏山の麓に着くとビッチ先生の愛車が既にあった。

 望んだ通りの展開に嬉しくなりながら山を登る。使い慣れた山道はもう目を瞑ってでもあるからだろう。何せ、家で過ごすよりもこの山にいる時間のほうが長いのだから。

 

 スタスタと登り、校舎に入り、カバンを置いて職員室を覗いてみるが、目的の姿はない。しかし、ここのどこかにいるのは間違いないのでゾーンに入り、5感を強化してみると、どうやら校庭にいるらしかった。

 靴を履き替えて校庭に出ると、ビッチ先生はいつものセレブ然としたファッションではなく、黒いジャージで全身を包み、汗を流しながらいつぞやロヴロさんとの暗殺対決の時に使っていたのと同じ道具で訓練していた。

 

「ビッチ先生、おはようございます」

 

「どわぁっ!!?」

 

 後ろから声を掛けると悲鳴を上げられた。

 うん、少し悲しいと言うか微妙な気分になる。

 

「の、乃咲!?いつからそこにいたのよ!?」

 

「今来たところですけど」

 

「気配無さすぎよ。ほんっとびっくりした……。やるじゃない、暗殺者の後ろを取るなんて」

 

 思わぬところで褒められた。嬉しい。

 

「それで?どうしたのよ、この時間はいつも自主練してるでしょ?珍しいじゃない、私に声かけてくるなんて」

 

「実は相談したいことがありまして」

 

 相談という単語にビッチ先生が目を輝かせた。

 

 この人、素人の俺がいうのもなんだが殺し屋というには情が深過ぎやしないだろうか?世話好きと言うわけではないと思うが、普段の矢田さんや倉橋さんの弟子コンビとかとのやり取りをみてると頼られることは結構好きそう。

 

 歳下には良い姐御肌、歳上には甘えキャラなのだろう。

 

 その情の深さがハニートラップを掛けた相手には好意的に刺さるのかも知れない。自分に対して本気なんじゃね?ってなるのかも。俺も事情を知らないでやられたら落ちるかもだし。

 

 何様?と言われるかも知れないが、無事に来年も地球が存続した時、ビッチ先生が殺し屋としてやっていけるのか心配だ。

 

 いや、それも違うか。心配というより、この人が人を殺すところを想像したくないだけなのかも知れないな。

 

「なによ、もしかして恋愛?ついに気付いた?」

 

「え?いや、そんなんじゃないっす。ちょっとプロの殺し屋としての意見というか、アドバイスを貰いたくて」

 

「……ふーん、そっち。厳しいこと言うかもしれないけど?」

 

「構いません。その方が何が足らないのか想像できますから」

 

「そう?じゃあ、この私に何が聞きたいのかしら?」

 

 殺しの話になった途端、目が少し冷たくなる。

 あぁ、さっきまでのは本当に要らない心配だったのかな。

 

「プロの殺し屋として、E組で標的を狙う暗殺者としての俺に対する評価を聞かせて欲しいんです。正直、殺せんせーの暗殺に対する手札が足らない気がしてまして。身に付けた方が良いと思う分野とかあればその辺を重点的に」

 

「ざっくり言うとやれることを増やしたいってことね。良いわ、プロとしての意見を言わせて貰う」

 

 頷くと俺のつま先から頭の天辺まで値踏みする様にみると、その豊満な胸を押し上げるように腕を前で組んで口を開いた。

 

「正直に言わせて貰うと、暗殺者としては及第点」

 

「お、おう……」

 

 結構色々とやってるつもりだったが、案外辛口だった。

 早速落ち込みかけるが、それより早くビッチ先生が言う。

 

「でもこれはアンタだけじゃない。うちの教室でほぼ全員に言えること。考えて見なさい、これまで立てた作戦を。どれもこれも相手に攻撃することがバレバレ。殺害計画であっても、暗殺計画とは言えなかったでしょう?」

 

「確かに………」

 

「そこに関してはある程度仕方がない。相手はあの化け物だしね。でも、それでもアンタらを暗殺者としてみるならその程度よ。それでも及第点なのは作戦の立案能力と実行能力とかのポテンシャルだけで評価したわ」

 

 なるほど、低く見積もっているのではなく、高く見積もって及第点なのか。なんだか悔しい評価である。

 

「でも、殺し屋としてなら乃咲はいい線行ってる。ポテンシャルも高いし、あのタコに単独で、搦手なしに真っ向からダメージを与えられてるのはアンタだけだもの。触手持ちみたいなイレギュラーを抜きにすれば、ね」

 

「…………はい」

 

「指揮は出来る、近接もやれる、遠距離も苦手じゃない。ここだけ見ればオールラウンダーの何でも屋で頼れる戦力だけれど、私見としてはこの教室にオールラウンダーは正直要らないと思ってる。なんでか分かる?」

 

 その問い掛けに少し考える。

 そして答える。

 

「それぞれの分野で高い能力を持ってる奴が既にいるからですかね。遠距離は分かりやすい。千葉や速水さんがいる」

 

「その通り。指揮なら磯貝とメグが。近接なら赤羽と前原にヒナタもいる。遠距離はアンタが言った2人に加えて律もいる。簡単に言えば役者は足りてるの。結構バランスよく別れてる」

 

「言われてみるとそうですね……」

 

「そんな中にどれもどの分野でもトップレベルの水準でこなせる奴が必要に応じて出たり入ったらしたらバランスが崩れる。どれも高いレベルでやれちゃう分、他の分野に入った時、アンタが元々いた所に手薄感が出てしまうわけ」

 

「む……ん」

 

「だから、集団で狙うならアンタはこれまで通り近接と指揮をするべきね。オールラウンダーとしての力を発揮させたいのなら棒倒しの時みたいにワンマンアーミーになるか。どちらかじゃないかしら。乃咲の目指したい所によってアドバイスは変わる」

 

「集団で狙うなら?」

 

「今言ったとおり、これまでと同じ働きを目指しなさい。ただ、そうね……。全体の方針には口を出しつつ、細かな指示はメグたちを信じて任せて、アンタはグイグイ前線に出るべきね。なんだかんだ、乃咲の一番の強みはあのタコの触手を見切れるところだもの。アタッカーに集中すれば輝けるんじゃない?」

 

「じゃあ、単独で狙うなら……?」

 

「手数というか、手札を増やすべきね。ナイフと銃だけじゃやれることが限られる。手堅いと言えば聞こえは良いけど……悪く言えば決め手に欠けるってことよ。耐えて隙を狙って殺せれば良い戦闘者ならそれでも良いけど、アンタは暗殺者、殺し屋。手早く確実に殺すのが大事。マッハ20が標的なら尚更ね。近接での搦手を覚えるのがいいんじゃない?」

 

 ビッチ先生のアドバイスは理にかなっていた。

 実際、俺が思っていたのと同じことを考えてくれていた。

 

 前回の棒倒しで俺が指揮官を降りたのは、悠馬に指揮を出して貰って、俺は前線で自分にできることをやる為だ。

 

 今、こうしてビッチ先生に相談しているのは自分の手札の数に少し限界を感じているからだった。

 

 ゾーンを行使するレベルで本気を出した俺は事実、殺せんせーを殺しかけるチカラはある。俺の本気の速度に耐えられる武器があればケイドロの時も殺せただろう。

 だが、そんな武器は存在しないし、かと言ってスピード的に劣る状態では決め手に欠ける。ナイフでは届かないし、エアガンでは当てづらい。良い線は行っても殺しきれないだろう。

 

 と、なるとやっぱり俺に必要なのは新しい手札だ。

 

「近接での搦手というと……目眩しとか?」

 

「悪くはない。人間相手なら必殺の隙を作れるでしょうね。でも、想定する相手は人間じゃないのよ?イトナが転校してきた時にシロが使っていた特殊な光が使えるなら可能性はあるけど、あの烏間が暗殺に導入してないところを見るに防衛省の持ち物ではないみたいだしね。これは除外」

 

「うーん……。煙幕とかですか?対先生物質を混ぜた奴とか」

 

「アイツなら風圧で吹き飛ばせるし、一度使ったら無くなってしまう手札は避けたいところね」

 

 ビッチ先生の言う搦手について考えてみるが、自分で言っていてもあんまり釈然としないものばかりだ。

 多分、俺のチカラを使って殺せんせーを追い詰められるとしたら、やっぱり屋内の逃げ場がない場所になる。そこで効果を発揮してくれるものはなんだ?

 

 ビッチ先生のダメ出しは分かる。

 俺たちが手に入れようとすれば手に入る現実的な物で、精神攻撃に弱いと言う殺せんせーの弱点を突きつつ取れるただ手を増やして常に警戒するべき箇所を増やせるモノ。

 

「対先生弾をポケットに突っ込みまくって定期的に投げつけるとか。当たればダメージ、当たらなくてもダメージを与えられる足場が出来るから殺せんせーの動きは制限される」

 

「そうね。ついでに言えば、床に落ちた弾を蹴飛ばすことで距離が離れた時の攻撃手段にもなる。良い発想だわ。アンタらなら誰でも出来る。でもダメ。2〜3発転がってるだけならまだしも、何十発も転がってたらアンタの足の踏み場も無くなるし、足を取られて転んだら元も子もないでしょ」

 

「ですよねぇ……」

 

 肩を落とす。案外、上手くいかないものだ。

 他にないか考える。しかし、相手が殺せんせーというイレギュラーである以上、あんまりいい策が思いつかない。

 

 悩んでいるとビッチ先生が口を開く。

 

「ヒントをあげるなら……そうね、初めての合同暗殺の時のアンタは良い線行ってたわ。あの時、何をしたか、何を持っていたのかを思い出してみなさいな」

 

「合同暗殺……?」

 

 忘れもしない、俺が初めて明確に殺す意図を持って立てた計画。下準備だって色々とやった。

 寺坂たちを買収したり、火薬の入ってないハリボテの手榴弾を作らせたり、烏間先生に俺の装備とかを対先生コーティングしてもらって、殺せんせーが暗殺を止める時の癖を逆手に取った。

 

 ビッチ先生は言った。あの時に俺が持っていたもの、何をしたのかを思い出せと。つまり、そこに答えがある。

 

 あの日、俺が持っていたのは対先生ナイフと、コーティングされたエアガンに縄跳び、そして先生の抜け殻だ。

 先生コーティングされたエアガンも、対先生ナイフも常備してるし、先生の抜け殻は流石にいつでも手に入るわけではない。多分、これもハズレだろう。となると……。

 

「対先生縄跳び?」

 

「正解よ、ご褒美にキスでも欲しい?」

 

「魅力的な提案ですけどまた別の機会で……。でも、縄跳びですか……。言うほど搦手になりますかね」

 

「流石に縄跳びじゃ無理」

 

「あら……?」

 

 即否定が飛んできてずっこける。

 

「対先生コーティングされた縄跳びの性能を暗殺者としての目線で話してみなさいな」

 

「……長くしなやかなロープだから範囲に優れた攻撃が出来る。習熟は必須だけど慣れれば変幻自在な動きで躱したり、防いだりするのが難しい動きが出来る上に対先生コーティングされてるから殺せんせーにとってはムチ以上の威力がある……?」

 

「そう。触れれば細胞が破壊される簡易版ムチ。使い熟すにはかなりの習熟は必要だけど、広範囲に対して変幻自在に攻撃できるのはかなりの魅力ね。でも、恐らくはこれ単体だと避けられてしまう。本物のムチなら先端部分は音速に到達するらしいけど、あくまで縄跳びだから、そんな速度はでない」

 

「……でも、ムチを使えるようになれって言ってるわけでもないですよね?近接戦で使える搦手とは思えないというか」

 

「ええ。でも、触れるだけで致命傷になり得る変幻自在な攻撃が出来る武器をナイフでのインファイトの中に差し込めたとしたら?それって相当なアドバンテージになると思わない?」

 

 言われて考えてみる。言いたいことは分かる。ムチで動きを牽制しつつナイフで攻撃、ナイフを避けた先にムチで追い打ちというのは強力なコンビネーションだろう。

 だが、流石にムチを振り回しながら斬りかかるというのは無謀すぎやしないだろうか?それぞれに予備動作があり過ぎるだろう。殺せんせーなら、予備動作を見ただけで避けるとかしても不思議じゃないというか、普通にやりそう。

 

「だから、私が提案するのは……これ」

 

 ビッチ先生が手のひらを見せてくる。

 一瞬、なにも乗ってないように見えたが、よくよく見ると、そこには細い糸の様なものがあった。

 

 その正体はすぐに察することができた。

 ロヴロさんと烏間先生の模擬暗殺をした時に使っていたワイヤートラップのワイヤー部分だ。

 

「対先生物質を含んだワイヤーを服の袖にでも入れて自在に操れるようになる。それが私からできるアドバイスよ」

 

「鋼糸術って奴ですか……?」

 

「そんなとこ。アンタ、イトナの時の傷跡隠す為に長袖着てるでしょ?袖に仕込めば警戒もさせ辛い。ナイフと併用すれば近接でなら乃咲に並べる殺し屋はいないでしょう。まぁ、習熟できて、尚且つ相手があのタコ限定ならって前提ありきだけど」

 

 最後にもっともな注意事項を付け足される。

 確かにそうだ。ムチとかならまだそれ自体に重さがあって多少扱いやすいかも知れないが、ワイヤーとか普通の糸よりはやりやすいだろうけど、重さなんてほとんど無い。

 極太なものではなく、糸よりも細く見えるこれを手足のように動かせるようになるなんて出来るのか?

 

 どうする?こんなのやれるのか?

 

 正直、自信はない。でも、やれるようになれば間違いなく俺の殺しの選択肢は増える。

 

「……どうするの?やる気があるなら基礎を教えてあげるわ」

 

 ビッチ先生に試すような視線を向けられる。

 

 俺は少し悩んで首を縦に振った。

 

「やります。教えてください、ビッチ先生」

 

 この人は日頃から言う。苦手なことでも逃げずにやって克服なさいと。何ヶ国語も努力して身に付けた人が言うのだから、とりあえずやってみるのが無意味なんてことはないだろう。

 それに、元はと言えば俺からアドバイスを下さいとお願いして、成長できそうな道を示してもらった上に指導まで買って出てくれたのだから、これを断ることほど不誠実なこともない。

 

「分かった。それじゃあ、バシバシイクから覚悟なさい?私が教えるのは殺しの技。中途半端は許さないから」

 

「はいっ、よろしくお願いします……!」

 

 気合いを入れた返事が裏山に響いた。

 

⬛︎

 

⬜︎

 

⬛︎

 

「それで、どうしてボンレスハムみたいになってるの?」

 

「そんなに太ってないやい」

 

 ビッチ先生に指導を受けたのは良いものの、訓練はあんまり上手くいってない。頭の中で理想の動きと言うか、どんな風に使いたいかがイメージ出来てないからか?

 俺は練習中に手を滑らせビッチ先生が練習用に貸してくれたワイヤーが全身に絡まり、身動き取れずに無様に転がっていた。イモムシというか、投網に掛かった魚のように。

 

 そして、校舎付近で練習していたことが災いして俺の醜態は現在進行形でクラスメイトたちにばっちり見られてる。

 

「こんなコッテコテな絡まり方する奴いるんだねぇ」

 

「なにわろとんねん。しっかり習熟したらお前からボンレスハムにしてやるからな、カルマ」

 

「ははは、それじゃあ習熟ってか、熟成だね」

 

「くっ、このっ……!」

 

 ビッチビチと跳ねながら反論する。

 

「だーもう!跳ねるな圭一!」

 

 現在、カルマと中村さんにニヤニヤされながら写真を取られ、イトナに良い感じの木の枝で頬をつつかれ、悠馬や前原、片岡に倉橋さんに茅野、渚が頑張って絡まってるワイヤーを外してくれている。

 

「にしても、意外。乃咲って割となんでもそつなくこなすイメージだったから。こんな失敗するんだね」

 

「圭ちゃんって実は結構な不器用さんだよ、カエデちゃん。凄い勢いで身につけるけど、理論的に考えられるというか、イメージできるヤツはすぐできるようになるけど、そうじゃないのは結構苦手だもんね?よく烏間先生から新しい技を教わった後は放課後もかなり遅くまでひたすら練習してるし」

 

「く、倉橋さんはなんでそんなこと知ってるの……?」

 

「え?だってしっかり見てないと圭ちゃん倒れそうだし」

 

「毎日毎日見てなくて良いのに。まぁ、スポドリ貰って助かってるけどさ。上手くいかないところ見てて楽しい?」

 

「上手くいかなくても諦めないで頑張って出来るようになる姿をみるのがいいんじゃん。圭ちゃんの言動は地道な積み重ねから出力されてるの私は知ってるから」

 

「お、おう……。ありがとう……」

 

 この前の体育祭で臭いことを言うとか言われたが、倉橋さんも結構臭いことを言う。いや、臭いというのは物の例えというか、実際には良い匂いしそうだけど……。

 そんな感じのことをこうして面と向かって言われるとやっぱり照れるつぅーか、なんつーか。恥ずかしいもんだな。

 

 努力してる姿をこんな真っ直ぐに評価されると。

 

「……ぁ、乃咲少し赤くなってるぞ……!?」

 

「えっ、あっ!?」

 

「ほぉーう、乃咲が照れてる……」

 

「ちょっと、やめてあげなさいって」

 

「けどよ、片岡、こんなのレアだぜ!?」

 

「もう………磯貝くん、止めてあげ——」

 

「孫の顔が楽しみだ」

 

「磯貝くん?なに言ってるの………?」

 

 くそっ、コイツら人が動けないのをいいことに好き勝手に言いたい放題、やりたい放題しやながって……!!

 ぐぬぬっと羞恥を刺激されていると、不意に赤い悪魔が立ち上がった。イトナからいい感じの棒を借り受け、ニヤニヤしながら俺の隣にそれを突き立てるとゆっくりと何かを描き出した。

 

「みんな甘いねぇ。こういうのは横からネチネチ言っても効果はすぐなくなっちゃうんだよ〜。言葉なんて右から左に抜けていって終わり。だから、こういう時は目に入る形を取るんだよ」

 

 奴はそう言いながらニヤニヤといやらしい笑みを浮かべてそれを書き上げた。無駄に達筆に、無駄に綺麗に圭一、陽菜乃と名前が2つ並んだいわゆる相合傘という奴を。

 

「おまっ!?」

 

「おっ?さらに赤くなった。意外に初心だねぇ。それじゃあおまけしてあの時の写真も付けちゃおうか」

 

「まだなんかあんの………ッ!!!!?」

 

 まだなんかあんのか、そう言いたかったのに言葉が止まる。ニヨニヨとした微笑みを浮かべながらカルマが見せてきたのはスマホの画面。倉橋さんと同じ布団に入り、彼女の胸に顔を埋めるようにして安らかな横顔を晒して眠る俺の姿がドアップに。

 

「ッーーーー!!?!?!?」

 

「あは〜。すごい反応。これが言葉にならない叫びって奴?今日まで寝かせた甲斐があったよ、この写真〜。本当はもっと直ぐに揶揄ってやろうと思ったんだけど体調悪そうだし、様子も変だったから様子見てたんだけど。いい反応すんじゃん、乃咲クン」

 

「ほうほう、なら、私からはこの写真を贈呈してしんぜよう。大事にしてくれたまえ。あの日のベストショット!」

 

 中村さんがスマホを見せてくる。カルマに負けず劣らず悪い顔で。俺の目と鼻の先に一枚の画像を表示させる。

 そこにはカルマが撮った写真の縮尺無し版であろう写真があった。安らかな寝顔を晒す俺とそれを慈愛に満ちた顔で眺めながら頭を撫でている倉橋さんの写真である。

 

「……もうやだ………。おうちかえりたい……」

 

「あっ、幼児退行した。やりすぎだよ、2人とも」

 

 俺なりに知らないところで担任が死ぬという出来事を繰り返さないように学ぼうとした新しい技術。

 まさかその習得中にこんな羞恥プレイをするハメになるとは思いもしなかった。というか、カルマも中村さんもSすぎる。

 

「莉桜ちゃん、この写真ちょーだい!」

 

「おっけー。あとでLINEに送っとくね」

 

「倉橋さんはそんな写真どーすんのさ……」

 

「……………大事な思い出だし、大切にするよ……?」

 

「その間と不安そうな語尾はなんなんだ……?」

 

 倉橋さんがわからない……。

 俺の顔の隣には依然として相合傘があると言うのに、彼女は照れた素振りは見せるものの、消そうとしない。

 

 もしかしてそんなに気にするほどのものでもない?過剰反応する俺がガキっぽいだけ?そう言えばガキっぽいってのはこの前、茅野に指摘されたっけか。もしかしてこういうところが?

 

 考えていた流れで何気なく茅野に視線を向ける。

 

「……………むぅ」

 

 何やら憮然とした顔で写真を見てた。

 

「カルマくん、この写真あとで送ってよ」

 

「え?別にいいけど……どったの、茅野ちゃん」

 

「……………別にぃ。あとで乃咲を脅す材料になるかもって」

 

「茅野っ!!?俺なんかやらかしたか!?」

 

「なんでもないよ」

 

 いつもの周りにはバレない程度に取り繕った笑顔を向けてくる茅野。心なしか、その笑みが少し怖く感じる。

 

「本当になんでもないからっ」

 

 僅かに強まる語気。それと同時にブチっと茅野が解こうとしていた部分のワイヤーが切れた。

 

「はい、解けたよ」

 

「……いや、解けたっていうか、引きちぎって……」

 

「ほ・ど・け・た・よ?」

 

「あっ、はい、ありがとうございます……」

 

 どこかツーンとした様子の茅野。

 珍しいこともあるもんだ。苦笑だったり、困った笑みだったりが多いけど、それでも基本的には笑顔の彼女が感情的というか、感情を表に出している。本当に珍しいこともあるな。

 

「理想の動きみたいなのが思い描けないのが失敗の原因っぽいなら、いっそアクション映画でも見てみたら良いんじゃない?スパイ映画とか、ワイヤー使うシーン結構あるし。ね、三村くん」

 

「えっ、あ、うん。そうだな」

 

「ほら、映像の専門家もこう言ってるし、参考になりそうな映画を送るから見てみてよ」

 

「茅野、映画とか詳しいんだ?そういうことなら甘えるよ」

 

「うん、じゃあ今度LINEで送るから見てね。じゃ、私は日直だから先に失礼するね。みんな遅刻しちゃだめだよ〜」

 

 なんか捲し立てるみたいに言いたいことを言って去って行く茅野。なんだからしくない姿をみてみんな唖然としていた。

 

「圭一、茅野になんかしたのか?」

 

「………………いや?」

 

 思い当たる節はあるが、秘密にすると約束したし、なんとなくあの出来事が原因なようには思えない。

 

「なんか珍しく不機嫌だったように見えたよな?」

 

「うん……。僕もあんな茅野は初めて見た」

 

「渚でもか……。どうしたんだろうな、本当」

 

 あの日、少なくとも茅野は不機嫌そうではなかった。

 だから、少し不安だ。俺、本当に何もしてないよな?

 

「………ねぇ、まさか………?」

 

「……いや、ないでしょ。今までそんな素振りなかったし」

 

「うーん……。でもなんかそれっぽくなかった?」

 

「だよねぇ………。どうしよう………?いや、私たちが悩んでも仕方ない内容かもしれないけどさ………」

 

「でも決めるには早計じゃない?もう少し様子見よう?」

 

「……陽菜乃はいいの?」

 

「そりゃあ障害が増えるのは良くないけど……。でも良さを分かってくれる人が増えるのは嬉しいよ?女として目に狂いがなかったってことになるわけだしね」

 

 なんか女子は心当たりがあるらしい。

 

「なぁ、倉橋さん。茅野のやつどうしたんだろ?」

 

「……うーん。男の子はまだ知らなくて良い話かな」

 

 言葉を選んで、濁して、そんな風に伝えられる。

 他の女子連中をみるとみんなして頷いてた。

 

 なんだろ、2日前にあった時は普通だったのに今朝は機嫌が少し良くなさそうで、男子には理由を知られたくなくて、女子たちはまるで共感するように頷いている。

 

 女子が突然機嫌悪くなって、男子に知られたくなくて、周りの女子たちが共感してる………。あっ、もしかして生———。

 

「ふっん!!」

 

「ぐぼぉぉぉっ!!?」

 

 結論を出そうとした時、倉橋さんから鋭いボディブローが飛んできた。驚いたが、躱すことは簡単だった。 

 しかし、あの倉橋さんが急に手を出してくるのだから何かしらの理由があるのだろうとあえて受ける。

 

「ちょっ!?圭一、倉橋!!?」

 

「圭ちゃん?あんまりデリカシーのないこと考えちゃメ!」

 

「ち、ちなみに俺がなんで考えてるのが分かって……?」

 

「顔に書いてあったもん。『あっ、もしかして』って!それにそもそもそう言う話でもないから!単に女子会案件な話ってこと!そういう意味での男子禁制!変な想像はメ!」

 

「はーい……」

 

 割と真剣な顔で注意されてしまった。

 加減はしてくれてるようで、軽く小突かれたくらいの衝撃しかなく、痛みはない。しかし、女子からの目は冷やかだ。

 

「もうっ、圭ちゃんってカエデちゃんに対してデリカシーが急になくなるんだから……。その想像は普通にキモいよ」

 

「きもっ………!!?ごめんなさい、2度としましぇん

 

 倉橋さんからの直接的な罵倒に心が折れた。

 割と俺のことを肯定してくれる彼女からの容赦ない一撃は俺のメンタルを砕くのに充分だった。

 

「倉橋つえぇ…………」

 

「だね……。対乃咲なら最強かも」

 

 こうして心を折られた俺は放置され、みんな教室に戻って行ってしまった。自分のキモさと罪深さを噛み締めながら俺は太陽の下で黄ばんで行くことを選択したのであった。

 まぁ、5分後くらいに悠馬と竹林の手によって引き摺られて教室に放り込まれるのはまた別のお話ということで。

 

——ちなみに。

 

 実際に茅野からLINEで送られてきた映画は普通に楽しく見ることができたし、フィクションではあるが、ワイヤーを実際に使ってるシーンをみてるとなんとなく、こんな感じの動きが良いんだろう。というイメージは作ることができた。

 茅野様々といったところだが、何故だか勧められた映画には決まって磨瀬榛名が出演していたのだが、彼女、意外と自分に似てる芸能人を推しているのかも知れないな、と思った。




あとがき

はい、あとがきです。

前回、雪村先生の死を知った圭一。
周りよりも持ってる情報が多い分、悩みも絶えません。
殺せんせーが死ぬことでしかこの一年が終わらないのなら、せめて自分の手で。と考えたは良いものの、そこまで上手くいくのかなぁ……?

絡まってしまったのは果たしてワイヤーだけなのか……。

次回からわかばパーク編です……!

今回もご愛読ありがとうございます!
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