暗殺教室 不良児は認められたい   作:ZWAARD

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加えてたくさんの高評価、感想ありがとうございます!

今回からわかばパーク編になります。
オリキャラがニョキッと生えて来ますので悪しからず……。


112話 間違う時間

 

 倉橋さんにキモいと言われた日から少したった。

 夏休みが明けてからだいぶ経ち、いよいよ俺たちの学生としての真価が問われる日が近付いてきた。

 

「さぁーさぁー!みなさん!2週間後は2学期の中間テストですよ!いよいよA組を越える時が来たのです!熱くいきましょう!熱く!熱くです!!残暑にも負けないくらいに!!」

 

「だぁーもぅ!殺せんせー!暑苦しい!!」

 

 テストまで残り2週間。夏休み前の世紀の一戦を超え、俺たちが勉強という第二の刃の鋭さを維持できているのか、白日の下に晒される日。それに備えて俺たちは必死に勉強していた。

 

 殺せんせー曰く、俺のやってる範囲は高校2年の半ばに差し掛かったあたりらしい。なら中学の問題なんて簡単じゃんと思うかも知れないが、うちの学校は100点阻止だったりで普通に高校だからか大学レベルの問題も出す。

 反復練習と先々を見越した予習をするのに過剰すぎるということはない。ただ、それでも手広くやり過ぎて、何処かが手薄になりかねないのは問題だな。

 

「乃咲くん、キミは今日まで充分すぎる程に努力してきました。ライバルは多く、誰も彼も強敵ですが、努力した日々はキミを裏切ることはないでしょう。安心して全力で臨みなさい」

 

「違いますよ、殺せんせー」

 

 殺せんせーからの嬉しい評価を否定する。

 

「充分すぎるなんて俺じゃまだ言えない。今回だって予想外な問題とかが出るかも知れない。それを取り落としたとしても、多分、上位には入れるけど、1位にはなれない。トップになれてないんだから"すぎる"なんてことはきっとないはずだから」

 

「……ヌルフフフフ!良い気概です!チカラを身につけることに関してキミは実にストイックだ。どうやら最近また新しい技術の習得に精を出しているようですしねぇ。しかし、倒れてしまってはもともこもない。適度に力を抜くのも忘れずにね」

 

「はい。また倒れて悠馬に殴られるのも、祖父母や倉橋さんに泣かれるのも。もうごめんですからね」

 

「よろしい!それでは今日は復習から始めましょう——」

 

 始業のチャイムは今日も鳴る。

 俺たちの時間はどんどん流れてゆく。今年度ももう半分を切った。春先に全てが始まってから今日まであっという間に時間が過ぎたように、これから先も同じなのだろう。

 

 卒業と暗殺期限まで残り5ヶ月。

 みんな残り時間の少なさに焦りを覚え始めたのだろう。俺たちはこの後、一つ大きな間違いをすることになる。

 

⬛︎

 

⬜︎

 

⬛︎

 

 迎えた放課後。俺は校舎裏にいた。

 

「乃咲。今日もやってんね〜」

 

「おお、茅野。どした、放課後に来るなんて珍しい」

 

「なんかみんな色々と焦ってるみたいでね。勉強と暗殺の両立は簡単じゃないし、期限も半分切った。岡島くんたちがフリーランニングしながら帰れる通学路を開拓したって言ってみんなそっち行っちゃってさ。乃咲はどーしてるかなって」

 

「見ての通り、セルフ亀甲縛り中だ。ワイヤーの操縦が上手くいかなくてな、倉橋さん、ごめん、解けそう?」

 

「大丈夫……。あと少しだと思う……!」

 

 残暑の厳しい時期も過ぎて少し涼しくなったようやく感じるこの頃。俺は今日も元気にワイヤー操縦、カッコよく言えば鋼糸術の特訓中だ。

 

 しかしまぁ、茅野に送ってもらった映画を全部見て、それ以外にもスパイ物とか、忍者系の映画を見てみたけど、やっぱり見てるだけじゃ上手くはならない。イメージ自体は掴めるけど、そこはやはりCGにやって作られたフィクション。カルマや烏間先生の動きを盗むように上手くはいかない。

 

 多分、ナイフとかのように身体の延長として使うには癖があり過ぎるからだろう。動かしたようにしか動かない体術と、手を振った方しか切れないナイフ術とはやっぱり感覚が違う。

 

 ビッチ先生から指導も受けているが、彼女のそれはワイヤーの本来の使い方。戦闘用と言うより、罠とかそっち方面の技術だ。それはそれでかなり勉強になってるし、そういう使い方は少しずつ上手くなってると思うが、それは近接戦で差し込むのが目的の俺の理想とする所の動き方ではない。

 

「よっし!解けた!」

 

「ふぅ……。やっと動ける。ありがとう、倉橋さん」

 

「えへへ〜。なんだか縄とかの解き方が上達してる気がするよ。圭ちゃんってば毎回毎回すごい絡まり方するんだもん」

 

「……倉橋さん、毎日練習に付き合ってるの?」

 

「うん!だってこんな変な絡まり方して抜け出せなくなって地面に転がってるの何度も見てるからね。しかも1人で抜け出せてないし。夏じゃないから熱中症の心配もないだろうけど、やっぱり危ないからね。圭ちゃんがワイヤーやってる時は必ず近くで見るようにしてるんだ〜」

 

「そっか。あ、はい、乃咲。これ差し入れ」

 

「スポドリ?ありがとう、ちょっと待ってくれ、今金を……」

 

「いいよいいよ、乃咲が暗殺成功したら分け前貰えれば」

 

「おおぅ……ツーコインが諭吉何千人になるんだろうな」

 

 戯けながら言い、貰ったドリンクに口をつける。

 うん、慣れない神経を使ってるからか、やっぱり疲れてるんだろうな。甘塩っぱいスポドリが染みる染みる。

 

「ていうか、普段どんな絡まり方してるのさ?」

 

「えっと……ボンレスハム、亀甲縛り、早陽十文字、先三形仕込……。律に特徴伝えて調べてもらったんだけど、このままだと捕縄術コンプリートしそうな勢いだよ?」

 

「捕縄術!?どんな器用な絡まり方してるの!?」

 

「すごいんだよ?圭ちゃんがワイヤーを投げるとまるでそれが意識を持った蛇みたいに身体に巻き付いてあっという間に縛り上げちゃうんだから。いっそのこと、それを相手にやる練習に切り替えた方がいいんじゃないって何回思ったかわからないかなぁ」

 

「いや、ほんと、どうしてこうなる?と自分でも不思議でたまらないんだけどな。なんか"そうなった"としか言えない」

 

「えぇ……?」

 

 困惑する茅野と俺の進捗を伝える倉橋さん。

 絡まった時にカルマたちが来て煽られると水揚げされた魚ばりにビッチビチ跳ねて抗議するから大変だと苦笑混じりに話す倉橋さんだが、なんだかんだで毎回解いてくれるから助かってる。

 

 2人を眺めながらふと、考える。

 あれ、そう言えば茅野の奴、いまなんて言ってた?

 

「茅野。ごめん。聞き間違いであって欲しいんだけど……岡島たちフリーランニングで下校してるとか言った?」

 

「え?うん……。焦るのは分かるけど、やっぱ不味いよね」

 

「……大丈夫かな、それ?烏間先生にはこの山以外ではやっちゃだめって言われてたけど……。もしかしてある程度やれるようになったら許可降りたりするのかな?圭ちゃんは貰ってる?」

 

「確かに俺は許可は貰ったけど、烏間先生の監督外でやっていいのはあくまで裏山の中だけって話になってる。つか、殺せんせーに引っ張られがちだけど、俺たちも国家機密だぞ?緊急避難が適用される緊急事態でもなければ基本OKは出ないだろ」

 

 なんだろう。嫌な予感がする。

 何事もなく帰宅してくれれば良いが……。

 

「ちなみに岡島だけ?」

 

「うんん、クラスの半分以上いたよ。片岡さんと磯貝くんいたし、よっぽど危ないことはしないと思うけど……」

 

「あの2人がいるなら大丈夫か…………?」

 

 などと一瞬考えたが、考え直す。

 確かに悠馬も片岡も俺たちに比べればしっかり者だが、それでも俺たちと同い年の中学生のガキであることに違いはない。2人に押し付けるような考え方はよくないか。

 

 何事もないことを祈りつつ、談笑する女子2人を尻目に訓練を再開する。スパイダーマンとかそんな境地とは言わないから、せめて狙った位置、狙った方向に真っ直ぐワイヤーを飛ばせるくらいにはなりたいものだ。

 

 射撃の的目掛けて水性のインクを塗ったワイヤーを振り下ろし続ける。やりやすいように先端に小さな重りを付けているが、絶妙に狙った位置に当てられない。

 軽くゾーンに入って自分の動作の一つ一つの動きを分析しながら練習を繰り返すが、やっぱり難しいものは難しい。

 こういうことをやっていると、〇〇術って感じで技術を伝承する方法を考えついた〇〇流みたいな流派の開祖という人たちって本当に凄いんだなぁ〜と感心させられる。

 

「……って、あれ?烏間先生だ」

 

「え?あ、ホントだ」

 

 訓練していると、校舎の方で走ってる烏間先生を見つけた。別に校舎にいること自体は珍しくないが、なんか余裕なさそうに走ってる様子を見るのは初めてだ。

 

「なんか慌ててるっぽくない?」

 

「…………あぁ。慌ててるし、なんか焦ってる様にも見える。普久間島の時とは違うけど……。それに近いモノを感じる」

 

 なんだろう。この胸騒ぎは。

 特に根拠のない不安が来る。しかし、なんとなく感じる。こういう根拠のない不安の方が当たる確率は高く、そして、なにより緊急性の高い事案に繋がってしまう可能性が高いと。

 

『の、乃咲さん!大変です!!』

 

 そして、予感が確信に変わる瞬間が訪れた。

 

「………何があった?」

 

『実は……岡島さんたちが事故を起こしました』

 

「岡島くんたちって……まさかフリーランニング中に!?」

 

『はい……。皆さんの想定していた通学ルート上ではカメラや人に見られず、接触もすることなくゴールに辿り着いたのですが、着地先の安全の確認が疎かになり、自転車を運転してきたご老人が通りかかりました』

 

「まさか接触したのか!?着地先の老人と!?」

 

『いえ……。幸いにも人を下敷きにしてしまう最悪の事態は回避しましたが、上から降ってきた皆さんに驚いた拍子に自転車のバランスを崩してしまったようで転倒。現在、救急車で搬送されています。磯貝さんから烏間先生へ報告はしたようですが……』

 

「烏間先生が急いでたのはそう言うこと!?」

 

 律の説明に合点が行く。

 ただ街中の不良と喧嘩したくらいなら大したことはないだろうが、相手は何の非もない一般人だ。それに対して俺たちは訓練を受けている国家公認の暗殺者だ。国公認の殺し屋が一般人に怪我をさせたという字面だけで大問題なのは考えるまでもない。

 

 その老人とやらがあと数秒早く通過してくれたらそんなことにはならなかったのか……?

 

「……っ!?」

 

「圭ちゃん!!!?」

 

「何やってるの、乃咲!!?」

 

 思わず脳裏を過った最低な思考を矯正するように自分の顔を校舎の壁に打ち付ける。倉橋さんたちが慌てたように押さえてくるが、気にすることじゃない。今の考え方は絶対に良いものではなく、第三者がいるなら非難されてしかるべきだ。

 

 チカラの使い方。それをもう一度考え直すべきだ。いつぞや考えた、このままチカラを付け続けたら生き辛くなるという妄想。このままではそんな未来に直進することになってしまう。

 

 その老人がもう少し早く通っていたらとか、そうじゃない。そもそも、烏間先生にはE組の外で使うなと警告されていたのだから。やらなければ良かった話だ。約束を守ってれば避けられた事故なのだから。他人に擦り付けるのは間違っている。

 

「律、事故現場は何処だ?」

 

『駅の裏の細道です。病院ではなく、そちらに?』

 

「病院の方は烏間先生に任せよう。その老人は事故発生時、どんな状態だった?荷物とかあったなら、回収しておかないと。怪我させた上に荷物まで無くさせてしまったとかやっちゃダメだ」

 

『わかりました。フリーランニングを使わない最短経路を案内します。現場では乃咲さんの考えと同じ気持ちだった矢田さんたちが残って荷物を集めています。何か伝えますか?』

 

「俺が行くからいつでも移動できるようにしておけって。謝るんなら当事者はいた方がいい。それは最低限見せなきゃいけない誠意だろ。それから律は引き続き情報収集を頼む」

 

『はいっ!なんだか、乃咲さんにこんな風に頼られるの久しぶりですね、全力を尽くします!』

 

「倉橋さん、茅野。2人はどうする?この後、予定がないながら付き合って欲しい。人手はあった方が良いかもしれない」

 

「私は大丈夫っ!カエデちゃんは?」

 

「こっちもおっけー!」

 

「わかった、んじゃあ行こう。まずは落ちてるものの回収、終わったら烏間先生に指示を仰ぐ。そのご老人の自宅に届けるべきか、そこの人が来るのを待つか、警察沙汰になるか」

 

 警察沙汰と言う単語に竦んだ表情を浮かべるが、直ぐに覚悟を決めてくれたらしく、駆け出した俺の後ろを着いてくる。

 本当ならゾーンに入って現場まで急行したいところだが、この状況で2次災害が発生しそうな選択肢を取るわけにはいかない。だから、この状況で出せる全速力を出す。

 

 急いだ甲斐あって、到着には大した時間は掛からなかった。漫画のように音を立てながら急ブレーキを掛けて止まる。

 

「乃咲くんっ……」

 

「律から聞いてるな?急いで病院に行ってくれ。ここは俺たちでやっておくから」

 

「うん……ごめんなさい……っ!!」

 

 走り出した矢田さんを始めとした女子数名を見送り、彼女たちが集めてくれていたであろう荷物を見る。

 うん、結構大量だ。トイレットペーパーやキッチンペーパー、ラップ、詰め替え用洗剤の大型ボトルに、カッターを始めとした工具類。そしてこの自転車が被害者の乗っていたものだろう。

 

「……随分な大荷物だったんだね」

 

「そうだね……。もともとバランスはよく無かったのかも」

 

「それでも俺たちが原因なのは変わらない。予定通りに他に散らばったものがないか探そう。俺はこの辺の側溝を見るから、2人は念のため、道路に何も散らばってないか確認頼む」

 

 2人は頷いて二手に別れると、それぞれ反対方向から目を凝らして地面を注意深く観察して歩き出す。

 俺も近くの側溝の側に指を突っ込んで持ち上げられるやつは持ち上げて、持ち上げられないところは開けた所から覗いてスマホのライトで何も落ちていないか確認する。

 

「あの、大丈夫かい?」

 

 側溝の中を覗き込んでいると、知っている声が聞こえた。

 知っているというか、話慣れた声というか、誰かと会話をするたびに聞いている声。きっといま、この瞬間に適当な言葉や奇声を出しても聞くことができるだろう。

 

 しかし、心当たりが無いわけじゃ無い。

 夏休み中、似たようなことがあった。

 

 けれど驚いた。誰が近づいて来ている気配なんて感じなかったのに。それだけ落とし物がないかの確認に夢中になっていたということなのかな……?

 

 俺は側溝から顔をあげ、声のした方を見る。

 そこには予想通りにあの日、俺に花束を作らせてくれた気の良い花屋のにいちゃんが立っていた。

 

 朗らかな笑みで、聞き覚えのある声で、見慣れた顔で。

 

「————ぇ………?」

 

 あの日、この人物の顔は見えなかった。口と鼻立ちは見えていたが、目は帽子で隠れてみることが出来なかった。

 けれど今の俺は地面に膝を付けている状態から見上げているので、その帽子の下がこれ以上ないくらいにはっきり見えた。

 

「やぁ、また会えたね」

 

 そこには()がいた。顔面だけで言えば双子と思えるほどに瓜二つと言える男が立っていた。

 精々違うのは、歳の差であちらの方が大人びていることと、俺に比べればかなり目つきが柔らかいところ。

 

 でも、それだけだ。声も顔も一緒だった。

 

 なんだ……。この不思議な感覚。なんだか、別人とは思えないというか、目の前の人間を人と思えないというか、他人と思えないというか。鏡の中から飛び出してきた自分と顔を合わせているみたいな、2人で話しているのに独り言を話している気分になるというか。俺が動けばこの人も同じ動きをするのでは?とそんな錯覚すら覚えてしまう。

 

「うん、良い反応。そうだよね、そう言う反応になるのはおかしく無い。僕も初めて見た時は思わず驚いちゃったから。夏休みに僕が言ったこと……覚えてくれてるかな?」

 

「………この出会いに乾杯」

 

「覚えてくれてたんだ?そ。そういうこと。あの時、なんとなくそうしたくなった気持ち、わかってくれたかな?」

 

「…………はい」

 

 世界には自分と同じ顔の人間が3人いるという。

 いうが………まさか、こんな身近にいるとは。

 

「それで……どうしたんだい?側溝なんて覗き込んで」

 

「……実は友人がここで事故を起こしたらしくて。彼らと被害者の荷物を可能な限り全部拾っておこうかと」

 

「あぁっ、さっきのあの子たちか!知り合いだったんだね。でも、そういうことなら大丈夫じゃないかな、僕は比較的事故が起きてから時間が経っていない現場を見たけど、そんなに細かい物は落ちてなかった筈だよ」

 

「でも、万が一がありますから」

 

「真面目なんだね?いいよ、なら僕も手伝うよ。側溝のフタって結構重いだろう?いくら男子でもキツイんじゃない?」

 

「ありがたいですけど………いいんですか?その感じだと仕事中なのでは?確かワゴン車でしたよね?」

 

「よく覚えてるね?でもまぁ、大丈夫だよ。僕が居ない間に花が無くなっていても、それはその花がそこに行きたがっていたってことだろうからね。なによりお客さんいないんだよねぇ。だから暇で暇で。だから手伝わせてくれない?」

 

「……やっぱり、随分とキザな言い回しをしますね」

 

「あはは……。花屋をやってると、花言葉を相手に伝えることとか多いからね。これもビジネストークだよ、外国人の美人さんとか口説くにはトーク力は必要でしょ?この辺にもいるじゃん、金髪でスタイルのいい美人さんがさ」

 

「まぁ、確かに………」

 

 何故だか話が弾む。話すのは今回で2回目。顔を見て話したのは初めての相手だというのに、なんだか警戒ができない。

 異様な話しやすさはこの人物の人柄か、あるいは自分と同じ顔の相手へのシンパシーか。話しながら呆気に取られる。

 

「乃咲〜!この辺にはもう何も落ちてないみた………………えっと……………あれっ………?」

 

「こっちもおっけー!おかチンたちの分もしっかり回収出来た筈だよ………………って、えっ?」

 

 自分と同じ顔の男と側溝を確認してると倉橋さんたちが来た。どうやらもう何も落ちてないようだ。

 しかし、こちらに元気に報告してくる声は次第にしりすぼんでしまう。彼女らは俺たちを挟むように立つと呆然と俺と、その目の前にいるもう1人の俺に視線を向けていた。

 

「圭ちゃんが………2人……?」

 

「………乃咲、そっちの人はお兄さんか何か?」

 

「あはは、どっかで血が繋がってる可能性はあるかもね、これだけ似てると。実はこう見えて僕は西洋系の人間なんだけど……乃咲くんは?純日本人って訳じゃなさそうだよね」

 

「母方の祖母が西洋人です。俺はクウォーターって奴で……」

 

「へ〜!じゃあ、本当に血が繋がってる可能性もあるかもね」

 

 いや、本当にそれが眉唾だと否定できないレベルで似ている。

 

「って、そうだった。あのお爺さんの荷物を集めてたんだよね、集め終わったならご家族か病院に連絡してあげた方がいいかな。ごめんよ、話の腰を折っちゃったみたいで」

 

 彼はそう言うと2人で持ち上げた蓋を軽々とずらして側溝を塞ぎ、来た方向と同じ方へ足を進めた。

 

「病院は3丁目にある大きなところだから。事故っちゃった子たちによろしく言っておいてよ。またね、乃咲くん」

 

 彼は軽く挨拶すると去って行った。散歩でもするみたいに、颯爽と。まるで初めからいなかったみたいに。

 

 不思議な人だ。足音や息遣いを始めとした気配が希薄とかそんなことはなく、ただ、そこにいるのが自然な様に感じる。視界に入っても特に気にならず、話しかけてきても不自然では無い。かと言って話しかけてこなかったとしても違和感は感じない。

 普段は気に留めないけど、話しかけられれば話すような相手。顔見知りAとかキャスティングするならそんなとこ。

 

 何者だろう。別に怪しい所はなかった。むしろ印象としては良い。だが、それなのに怪しいところがないのが返って怪しいと感じてしまう。俺が捻くれてるからか?

 

 なんだか、狐にでも化かされた気分だ。

 

「……………っと、物思いに耽っている場合じゃ無い」

 

 いつの間にか雑踏に消えていった背中から目を逸らし、スマホを取り出す。ひとまずは烏間先生に指示を仰ごう。

 先生の番号を呼び出し、ボタンを押す寸前、そういえば花屋のにいちゃん登場から声を話していない女子2人が気になり、顔をあげると、茅野は俺と彼の消えた方向を見比べるように視線を彷徨わせ、倉橋さんはぽーっと彼の消えた方を見ていた。

 

「なんか、本当にそっくりだったね」

 

「そうだな……。多分、俺が一番驚いてるよ」

 

「乃咲は将来あんな感じになるのかな?」

 

「さぁ……?間違いなく目つきはあんなに柔らかくならないだろう。それに、血の繋がりなんて流石にないだろうし。だから、ああならない可能性の方が高いんじゃね?」

 

「それもそっか」

 

 納得したように笑う茅野。しかし、倉橋さんは今だにぽーっとしていた。なんだか、心ここにあらずと言った様子で。

 

「………倉橋さん?」

 

「………えっ!?あっ、あぁ。うん、どうしたの?」

 

「いや、なんかぼーっとしてたから」

 

「い、いやぁ……。ごめん、すごく圭ちゃんに似ててさ、驚いたのもあるし、将来の圭ちゃんはあんな感じになるのかなぁ〜とか色々と考えちゃってたよ。カッコいい人だったね、中性的で知的な穏やかさがあるって言うか」

 

 取り繕うように言う倉橋さんに何故だかモヤっとした。

 

 なんでだろう。俺によく似ている人をみて、かっこいいと言ってる姿を見て、俺も将来はああなるのかなぁと言われた。これって間接的にではあるが、俺も褒められてると思うのに。なんか知らないけどモヤっとした。

 

 今まで烏間先生のことをカッコいいカッコいいと散々話していたのに、その時にはこんなこと感じなかったのに。

 

「乃咲?どうしたの、今度は乃咲の様子が変だよ?」

 

「いや………」

 

 茅野が小首を傾げる。倉橋さんも何となく心配そう。

 過去のやらかしからここで隠したり、誤魔化すと深読みされて返って心配されそうなので今思ったことを素直に言う。

 

「なんか知らないけど……。倉橋さんがあの人にカッコいいって言ってるのみて……モヤっとした。………なんでだろう?」

 

「————えっ……?」

 

「………それって」

 

 このまま考え込んでもいいが、今はそれどころじゃ無い。気を取り直して烏間先生に電話を繋がる。

 

『もしもし、烏間だ。どうかしたのか、乃咲くん』

 

「烏間先生。お疲れ様です。ごめんなさい、一般人とトラブルがあったことを律から聞きました」

 

『………そうか。相手方の松方さんは左大腿骨の亀裂だ。歩けるようになるまで2週間。今、部下やターゲットが必死に説得しているが、応じてくれるかどうか……。ともかく、今回の件は俺の責任だ。焦り、危険な技術の習得を急ぎ過ぎたのかも知れん』

 

「いえ。俺たちの責任です。今回やらかしたのが、"たまたま"岡島たちだっただけで、俺たちが問題を起こす危険だってゼロじゃなかった。チカラの使い方を間違えたのは俺たちですから」

 

『その気持ち、考え方をどうか忘れないでくれ。自身のチカラを自覚し、それをどう活かすのか。使い道を考え、使う場面を見極めること。それはチカラある者の務めだ』

 

「はい。肝に命じます。……そして、話を戻しますが、その事故の件についてご報告があります」

 

『たしか……そうか。矢田さんたちの報告によれば、キミたちは現場に来て散らばった物の収集をしてくれていたな』

 

「はい。その収集がひとまず完了しました。道から側溝まで落とし物らしきものはゼロです。どうしますか?この荷物。警察が来るのであればここで待ちますし、倉橋さんと茅野も一緒なので場所の指定があればそこまで運べますが」

 

『……ちょっと待っててくれ。今、松方さんに話を通しに行ったターゲットが戻って来た。…………………そうか、分かった。乃咲くん。すまないが今から言う場所まで届けてくれるか。条件つきではあるが、一旦、溜飲を下げて貰えた』

 

「…………そうですか、ご迷惑をお掛けしてしまい申し訳ありません。そう言うことであれば分かりました。この荷物は何処に届ければ良いですか?」

 

『わかばパークという保育施設だ。LINEで地図を送る。申し訳ないがよろしく頼む。提示された条件については後で連絡する。そこにいる2人にもそう伝えてくれ。鵜飼を向かわせるから、着いたら声をかけてくれ』

 

 電話が切れる。それから間を空けずに烏間先生から地図が送られてきた。どうやら、保育園、幼稚園、学校と幅広い年齢の子供を受け取っている保育施設らしい。

 

「圭ちゃん、烏間先生なんだって?」

 

「一旦、警察沙汰にはしないで貰えるそうだ。この荷物はわかばパークって施設に運んで欲しいんだってさ。鵜飼さんを向かわせるから合流してくれと。手伝ってくれるか?」

 

「もちろんだよ」

 

「だね、このままほっぽり出したりしないって」

 

「ありがとう。それじゃあ、さっそく行こうか」

 

 彼女たちを引き連れてわかばパークを目指す。

 今日まで割と順調に過ごしていた俺たち。殺し屋のチカラを身につけて半年以上。思えば、このチカラで明確にうちらとは完全に無関係の他人を傷付けたのは初めてだった。

 

 ただ、思えば来るべき時が来たのかも知れない。

 思い返すと、危ない場面は多々あったように思う。だから、本当にいつ誰がやらかしてもおかしく無い状態だった。

 

 これを機に考えなければならない。

 俺たちのチカラの使い方。暗殺が無事に終わった時、残ったチカラをどんな風に使うのかを。

 




あとがき

はい、あとがきです。

遂にあの人が登場しました。もともと登場はしてましたが、素顔が明かされるのは初ということで……。
例のあの人を見てかっこいいと呟いてしまった倉橋さん、そしてそれを聞いたことで本人も無自覚なジェラシーを抱く圭一と、それを側から見ていた茅野という複雑な構図が出来上がってしまいましたね……。

はてさて、今後どうなるのか……。
今後とも見守ってください。

ご愛読ありがとうございます!
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