暗殺教室 不良児は認められたい   作:ZWAARD

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加えて沢山の高評価、感想ありがとうございます!

今回も投下致します。
お付き合いください……!


113話 ビフォーの時間

 

「申し訳ありません。現場にいなかった君たちには責任はありません。ですが、平等に扱わないと不公平になってしまうので……」

 

「あはは……随分ともっちりしたビンタだね?」

 

「これでも申し訳ないくらいです。特に乃咲くん、茅野さん、倉橋さんは現場の片付けまでしてくれたのでしょう?」

 

「それこそ気にしないでくれよ、殺せんせー。誰がいつやらかしてもおかしく無かったんだからさ」

 

「にゅぅ……。そう言って貰えると救われま——」

 

「だから、もっと強く叩いてくれ」

 

「————えっ……」

 

「今回の件、当事者たちにだけ責任があったわけじゃ無い。思えば俺たちはチカラの使い道を深く考えていなかった。これを連帯責任とするのなら、もっと強く叩いてくれないと不平等だ」

 

「えっと……圭ちゃん?」

 

「もちろん、女子を殴れとは言わない。俺だけでいい。さぁ、こい。ビチン!とバチン!と激しく!」

 

「うわぁ……乃咲が壊れた」

 

「いや、でもそう言うわけには!?」

 

「俺だって責任を感じてるんです!俺がこうなる可能性だってあった。それに俺は倒れた時、殴られて、悠馬を殴って、理解しました!肉体的制裁を受けることで救われる時もあるんだって!!だからっ!俺を!もっと!強く!激しく!殴れっ!!」

 

「にゅゃぁ!!!?勘弁してつかーさい!!」

 

⬛︎

 

⬜︎

 

⬛︎

 

「みんなー!園長先生はおケガしてしばらくお仕事できないの。でもね、かわりにね、こっちのお兄ちゃんたちがなんでもしてくれるって!喧嘩しないで仲良くしようね!」

 

「「「「はーい!!」」」」

 

 元気のいいちびっ子たちに反してうちらの空気は少しどんよりしてる。仕方ない。ここは空気を変えよう。

 

「ん?いま、なんでもって……」

 

「圭ちゃん」

 

「っす」

 

 倉橋さんが強すぎる。なんというか、最近、話そうとすること、自分の中で飲み込もうとしてることを彼女にめちゃくちゃ察せられてる気がする。これがツーカーの関係って奴か?

 ただツーカーなんだとしたら俺も彼女の言いたいことを察せられるようにならないと駄目だよなぁ。

 しかしどうやって?意識の波長を見ることで嘘発見器みたいなことはできるけど、具体的に何を考えているのかは質問した時の反応からでしか見ることができないし。

 

 今のところ察しが悪いことでの弊害はないが、今後、何かしら弊害がでないとは限らないし、周りの人間が何を考えてるのかを慮るのも大事だが、直感的に察する力を身につけるのも大事だろうな。人を見てコミュニケーションを取る上では。

 

——花屋のお兄さんと圭ちゃんって違いますよね!

 

——そうかい?顔と声は同じだけど?

 

——だって圭ちゃんって私のこと察してくれないんですもん。

 

 とか、優しい倉橋さんに思われるようになったら心が折れる。同じ顔のあの兄ちゃんと比較されて、向こうの方が察しが良くて、結果的に俺の鈍感さが原因であの2人が仲良くなるとかなったら俺はどうすればいいんだろう……?

 

 倉橋さん、あの人のことを見てカッコいいとか言ってたし。

 なんだか複雑な気分だ。同じ顔の人間が現れて、友人が俺より向こうと仲良くなったらどうしようとか。少しらしくない。今までこんなこと考えたことなかったのにな。

 

 などと思考を弄んでいても時間は進むもので。寺坂と岡島が申し訳なさそうに俺たちを見ていた。

 

「悪い。本当に面目ねぇ」

 

「ごめんよ、みんな……」

 

「気にしないで。他人に怪我とか予測できなかった私たちも悪いし。殺せんせーに乃咲くんが言ってたけど、いつ誰がやらかしてもおかしく無かったと思うから」

 

「……そーね。私にも責任はあるわ。コイツら面白サーカス団の調教師として」

 

「「あァ!?」」

 

「なんでそこで反応しちまうんだ、寺坂組……」

 

 俺たちは殺せんせーに集められて現場にいなかったメンバーはモチモチビンタを受けた。曰く、連帯責任と言った手前、俺たちにも形の上は手を上げないと不平等になるからとか。

 しかしまあ、そんなものは本題の前の前座に過ぎず、集まった俺たちは松方さんから出された、世間に公表しない条件を聞かされることになった。彼が歩けるようになるまでの仕事の補填……早い話しが保育施設への2週間の奉仕活動だ。

 

 殺せんせー曰く。

 

『君たちはプロの殺し屋である以上、君たちは責任ある一人前の人間だ。訓練中の過失には君たち自身が責任を持つべきです。治療費ばかりは烏間先生に払って貰うしかありませんが、慰謝料と仕事を休む分の損害は君たちが支払いましょう』

 

 とのことだ。2週間後、松方さんが動けるようになった時点で仕事ぶりを見てもらい、合格が出れば今回の件は公表しないで貰えるらしい。なお、自分のことがやりたくても出来ない松方さんがいるのに、自分たちがやりたいことをやるわけにはいかないということで2週間後まで勉強も暗殺もお預けだ。

 

 2週間後と言えば、テスト当日だ。

 そう思うと不安ではあるが、まぁ、やるべきことをやるだけなのだから割り切るしか無い。

 

「乃咲もごめんな、あんなキャラじゃ無いことさせて。空気が重くなり過ぎないようにあんなドMキャラやったんだろ?」

 

「————え?」

 

「——————はい!?」

 

「なんて、流石に冗談だ。気にするな、とは言わないけど今回はたまたまお前だっただけだ。誰でもやらかす可能性はあったんだからな。それに、謝らなきゃいけないのは俺に対してじゃないだろ。松方さんに認めてもらえるようにまずは頑張ろうぜ」

 

「……おうっ!」

 

 岡島もすっかりスイッチが入ったらしい。

 よし、俺も思考を切り替えよう。倉橋さんと花屋の兄ちゃんが仲良くなったら〜とからしくないことを考えるより、俺たちのしでかしてしまったことに対する責任を取らないとな。

 

「ま、勉強なんてこっそりやればいい。クラスの秘密を守るための2週間労働くらい賞金に対する必要経費としては安いさ」

 

「竹林………。めちゃくちゃいいこと言ってくれてるけど、ズボンずり下ろされてるぞ……!」

 

「パンツ一丁じゃなきゃいい感じだったんだけど……。なかなかやんちゃな子が多いみたいな」

 

「お前を筆頭にな」

 

「なっ!?どういう意味よ、前原!!」

 

「ほら、すごいサルと女たらしクソ野郎!イチャイチャしてないで俺たちにできることを探すぞ!」

 

「「煩い!死神鈍感ファザコン!!」」

 

 なにやらイチャイチャしていた前原と岡野に檄を飛ばしてみたら手厳しい反論が返ってきた。

 なんか鈍感とか言うワードが追加されたことに抗議しようと思っていると、くいくいと長袖を引かれる。目を向けると俺よりも一回り小さい女の子が無邪気な目で俺を見上げていた。

 

「お兄さんファザコンなの?」

 

「ぐふっ……!?」

 

「わぁっ!?倉橋さんこっち来て!乃咲が吐血したぁ!?」

 

 早速無邪気な子供たちの洗礼を受けていると、なにやら1人、周りと纏う雰囲気の違う子が威圧する様に足音を立ててやってくるが……。足音より床の軋む音の方が気になる。

 

「兄さんら気をつけてね、あの辺の床は傷んでるから」

 

「そーそ。あの上で暴れるとウエハースかプレパラートの上のスライドグラス並の脆さで踏み抜いて痛い目みるよ」

 

「おぉぅ……。ご忠告どうも」

 

 何やら雰囲気が面白い2人の少年に気押される。

 しかし、それに負けじとやって来た少女もまた結構強烈なキャラをしているようで、俺たちの前に立つや否や、腕を組んで立った後、忙しなく親指で首を掻っ切るジェスチャーをしながら言った。歳の割に結構ドスの聞いた声で。

 

「そんで?アンタら何してくれるわけ?こんな狭い所にどかどか押しかけてくれちゃってさぁ?減った酸素分の仕事くらいはしてくれるんでしょーねェ?出来ないなら部屋の隅で光合成でもしててくれる?この掘立て小屋が潰れたらどうしてくれるのよ?」

 

((((なかなかとんがった子もいらっしゃる!?))))

 

 うん、かなり強烈だ。なんていうか、目が荒んでる。周りのことがバカにしか見えなくてそれと同じレベルと思われたくない。私は周りとは違うんだって感じの攻撃性だ。これは学校か塾とかの習い先でなんかで嫌な目にあった奴だな。

 

「やべぇ。さくら姐さんがご機嫌斜めだ」

 

「あぁ。殺されるぞ、兄さん達。入所5年で綾香ねぇが入るまで年長者だったさくら姐さんだ」

 

「学校の支配に争い続けること2年。動かざること山の如しを徹底するエリートニートのさくら姐さん」

 

「うーん。君らもなかなか強烈だけどね……」

 

 凄いな最近の若い子は。

 日々知識が新しい物に更新されてゆく世の中で、調べたいと思えばスマホでなんでも調べられる世代。俺たちよりも早いうちから文明の利器に触れている彼らはやっぱり俺たちが同じくらいだった時よりも賢いのかもしれない。

 

「まずはアンタらに働く根性があんのか、試してやろうじゃないのよ!!えェ!!」

 

「あ、そこ、床が傷んでるんじゃ……」

 

 立てかけていた箒を片手に殴りかかってくる、さくら姐さん。しかし、渚の危惧や2人の異様な雰囲気の少年たちの注意喚起も虚しく、彼女が踏み込んだ瞬間、床は激しく音を立てて割れた。

 

「ったく、危ないなぁ」

 

 ズボッとその小さな身体が床に沈む前に背後に回り込んで腕を回し、落下を食い止める。

 本当に危ない。立ってみて分かるが、本当に少しでも強く踏み込んだら冗談抜きで体が地面に沈んでしまうことだろう。

 

「ほら、気をつけて」

 

「…………ありがとう」

 

 安全な場所に降ろしてやると案外素直にお礼を言ってくれた。やっぱり、根は悪い子ではないのだろう。

 

「あーあ。だから言ったのに」

 

「悲しきかな。暴力では真の勝利は掴めない」

 

「お前らのキャラもすげぇな!?」

 

 やばい。俺、この妙なテンションで異様なキャラをしてる男子2人好きかもしれない。面白いわ、この子達。

 

「修繕はしないんですか……?その、かなり老朽化が」

 

「お金が無いのよ……。うちの園長、待機児童とか不登校の生徒がいると片っ端から格安で預かってくるから職員もまともに雇えなくてね、園長本人が一番働いてるわ」

 

 俺たちの様子を見ていた悠馬が遠慮がちに聞くが、返ってきたのはなんとも申し訳なくなる事情だった。

 まだ顔を見たことはないが、きっと良い人なんだろう。子供達が口々に園長先生凄く働いてるもんねぇ。と頷いている様子からかなり慕われてるのは見てとれた。

 

「………俺たちがなんとかしないとな」

 

 岡島が言う。恐らくは実感したのだろう。お金が無い中で子供達の為に一生懸命に働いていた人に怪我をさせ、仕事を離れさせることになってしまったという現実に。

 それに対してクラスメイトたちが口々に頷く。みんなやる気充分と言ったところだろうか。

 

「だな……。何からやる?」

 

「俺たち29人で2週間だろ……?いろいろできるんじゃね?」

 

「できるできる」

 

 みんなのやる気を見たところで悠馬が口を開いた。

 

「よし、みんな。手分けして松方さんの代役を全力で務めよう。まずは作戦会議だな」

 

「あぁ!あのじーさんの骨の倍額働いてやる!」

 

「んじゃあ、やりますか。すみません、業務内容ってどんな感じですか?具体的に何歳から何歳まではコレをやる、みたいテンプレートがあれば教えて頂きたいのですが」

 

「えぇ。大丈夫よ。まずは————」

 

 職員さんを巻き込みつつ、俺たちの適性を考えながら仕事を割り振っていく。どうやら、フルメンバーで子供達を見る必要はなさそうなので、子供達の世話に入らなかった者のやることを決めることにした。多彩な人材と技術が集まる俺たちならではの働き方があるはずだ。

 

「まずはこの床を修繕、補強したいよな」

 

「だな。見た感じ、飛んだり跳ねたりするのが楽しい年頃の子も多い。それを考えるに、さっきみたいに少し踏み込んだだけで床が割れるのは絶対によくない」

 

「あとはやっぱり手狭感あるよな。雨の日とか外で遊べないって時でも身体を動かせる方がストレスは少ないだろ」

 

「でも遊びたがりな子ばっかりってわけじゃ無いよね。静かに本読みたい子とかもいるかもだし、遊べるスペースがあるなら読書スペースとかもあっていいんじゃない?」

 

「ってなると、本も調達しないとな。家にもう読まない絵本とかある奴いないか?」

 

「あっ、じゃーさ!近所とか回って古本集めない?図書館とかで廃棄する予定の本とか譲ってもらえないから交渉してくるよ!」

 

「図鑑とかはあって困ることないよな。ってなると読む机とか椅子がないとだよな。結構やること出てくるぞ」

 

「あとさ、松方さんの自転車……少し歪んじゃったよね。見たところ錆びてるところも結構あるし、あの日の買い物量的に普通の自転車で運ぶのはやっぱり少し無理があったと思うからさ。もうちょっとなんとかならないかな?」

 

「それなら俺と吉田でなんとかする。電動アシストでも搭載すればかなり違う筈だ」

 

「あとは荷物を運搬するのに2輪ってのはバランスが悪い。前輪2つ、後輪1つの3輪車に改造すればもっと楽になるだろ」

 

「やることは大体決まったな。じゃあ子供達のことを見つつ、この建物の補強と増築だ。保育班は子供達が作業場に近づかないようにしっかり見てること。建築班は図面は千葉が作ることになると思うが、確か鶴田さんが建築資格持ってたからあの人から都度アドバイスを貰うことと、高所作業はしっかりしたも注意しろよ。とりあえずみんな安全第一で」

 

「だな。よし、やるぞみんな!」

 

「「「「「「おう!」」」」」」

 

⬛︎

 

⬜︎

 

⬛︎

 

 さて、そうこうして決まった担当。まぁ、担当という言葉は使ってるが実際には必要に応じて人を入れ替えて適材適所を心掛けている。その甲斐あって初日ではあるが、子供達からの反応は結構良好だ。もしかすると普段は接することのない歳上のお兄さんお姉さんと遊ぶ体験が楽しいのかもしれない。

 

 しかし、遊んでばかりという訳にもいかない。小学生以上の子供たちには授業時間が設けられており、俺たちは人数ごとに割り振られてマンツーマンで勉強を見ていた。

 

 かく言う俺も、今回は教師側になってる。

 みんなの指揮という点なら建築班には悠馬がいるし、保育班には片岡がいる。なら、体力仕事をしようかと話を出そうとしたところで茅野から教師役への熱烈な推薦を受けた。

 

 なんでも、ここの生徒の中には1人中学生が混ざってるらしく、不登校も相まって勉強がかなり遅れてるらしい。その子に教えるなら、現在は成績学年トップで、前は最下位にいたことで出来ない側の気持ちを慮れる俺が適任なんじゃないかとのこと。

 

 そこまで聞くとみんなも納得したらしく、茅野の提案はみんなに了承され、俺はおっかなびっくり教師役をすることに。

 

「さて、キミが綾香ちゃんかな。俺は乃咲圭一、椚ヶ丘の3年生です。これからしばらく先生の真似をすることになるけど、よろしくお願いします」

 

「…………どうも」

 

 少しツンとした印象を受ける声。それに違わず返事も短く事務的で、ポッと現れた俺というか、俺たちを明らかに警戒しているのは考えるまでもなかった。

 

 職員さん曰く、この子は松方さんの親戚らしい。なんでも少し前まで家にこもって不登校していたところをせめて外に連れ出して空気を吸わせたいと彼女の親や松方さんが画策してひとまずはここに通うようになったとか。彼女も学校に行かなくていいなら、と受け入れたらしい。

 

「勉強を教えることになったけどキミは何年生かな?各教科で最後にやった章を教えて欲しいんだけど」

 

「……2年。最後にやったのは……あんまり参考にならないと思う。学年が上がってすぐに学校に行かなくなったから殆ど手を付けてないもん」

 

「ふむ………」

 

 と、なると一年の頃の復習をしつつ教えていく必要がありそうだ。あんまり進んでコミュニケーションを取ろうとするタイプではないようだが、話しかければ答えてくれる、会話をする気がない子じゃないだけやりやすいか。

 

「椚ヶ丘ってあの私立校だよね、中高がエスカレーター式になってる。頭のいい人達しかいけないエリート校」

 

「別にそんなことないよ、エリートとか言っても学校の大半は四六時中参考書を眺めてる頭でっかちだから。勉強ができるのと頭が良いのは少し違うかな」

 

 どんな風に教えるべきか考えていると、予想外に口を開いて質問を投げて来た。良い兆候だと思って答える。

 しかし、どうやら俺の答えは彼女にとってあんまり好ましいものでは無かったのか、俯き、絞り出すような声で言った。

 

「じゃあ、あたしはその参考書がなければ何もできない勉強ができるだけの頭でっかち以下ってこと……?」

 

「そこまで言ってないけど……なんかあったの?」

 

「あたし、椚ヶ丘を落ちたんだ」

 

 ポツリと溢したその言葉に自分の失態を突かれる。

 しまった。そんなことこれっぽっちも想定してなかった。

 

 椚ヶ丘を落ちてしまった元受験生。そんな相手に今の発言は完全にアウトだろ。悪意は無かったが皮肉ってしまった。

 

「どうせ、今みたいにあたしのこと馬鹿にしてるんでしょ。見た感じ、アンタ余裕そうだもん」

 

 否定はできない。事実、俺はこの子が落ちた学校に受かっている。それも主席というこれ以上ない形で。

 それに対して『そんなことない、俺だって必死に勉強した』とか言ってもそれはきっと『お前の努力不足だ』と言ってるように取られかねないだろう。少なくとも俺だったらそう捉える。

 

「……勉強は嫌いかい?」

 

「好きじゃない。だって無駄でしょ。三角関数とか、ペリーが何年に何に乗って来たとか、リトマス試験紙が何色に変わったら何々だとか。普通に生きてて使う場面あるわけ?」

 

「まぁ、否定はしないかな」

 

「マジレスするけど生きてく上で必要な知識って小学6年までで習う内容で足りると思わない?なのにみんな必死こいて勉強して馬鹿みたいじゃん。誰が、いつ、何処で、何に使うのか答えてみなさいよって話しよ。答えられる?無意味でしょ」

 

 すごいスレてるな……。それにこれは勉強が嫌いっていうより学ぶ行為に対して興味を待てないってのが正しいか。

 

「明確な答えは俺も持ってないし、答えられないかな。そういう意味だと……まぁ、キミの言う通りじゃない?読み書きできて、四則計算ができれば理屈上は生活できると俺も思うよ」

 

 彼女の言葉を部分的に認めると、綾香ちゃんは勝ち誇ったような表情で得意げに口を開いて見せた。

 

「でしょ?ほら、勉強なんてやるだけ無————」

 

「でも、使わないって言い切れるの?」

 

 けれど、言葉が全て紡がれる前に俺が遮る。

 彼女の言いたいことは分かる。俺だって腐っていた時期にそういう風に考えたことが無いわけじゃ無い。

 でも、それを否定してしまうのは殺せんせーの暗殺に対する第2の刃を磨いてる俺たちを否定するのと同義だ。

 

 それに、誰が言わなければならない。精々、この子との付き合いは2週間だ。だったら、憎まれ役を買ってでもこの子の考えを否定しなければならない。じゃないと、よっぽどのきっかけがない限り、かつての俺のように腐りっぱなしになってしまう。

 

「キミの言葉を引き合いに出すなら……三角関数は建築関係の仕事で使われている。これを学んだ人がいるから、この建物があり、キミの家がある。ペリーがどうこうも日常会話で使うことはないだろうが、それがなければ現代日本の成り立ちを説明はできないし、リトマス紙の使い方を知ってる人がいるから科学は発展して来たんだ。無駄と無意味を吐き違えちゃいけない」

 

「……なんなの、急に偉そうに。ちょっとマジレスしただけじゃん。そんなに目くじら立てること?」

 

「少し気になっただけ。キミのそれはマジレスじゃなくてただの屁理屈でしょう?やらなくていい理由を探してるだけだ」

 

「っ、できる人には分からないよ!」

 

 机を叩いてそんなことを言われる。

 周りの視線が集まる。彼女は声を荒げたことにハッとして、周りの小さな子たちになんでも無いと笑みを作りながら言うと睨む様に俺に向けて視線を投げる。

 

 どうやら、周りが気遣えない子ではないらしい。

 すかさず小さな子へのフォローをするあたり、周りを見ることは出来ているようだ。

 

 見た感じ根っからの陽キャというか、明るいキャラクターでは無いのだろうが、それでも誰かに目をつけられて嫌われ、虐められるようなタイプではない。となると、不登校の理由はイジメとかではなく、本当に勉強に対する意義の抱き方なのかもな。

 

 ……まぁ、償いの為の触れ合いでこうして相手を怒らせてる俺に周囲の状況判断がどうとか言われたく無いだろうが。

 

「…………ふむ」

 

 思わず考える。恐らくは受験に失敗したことがきっかけだったのだろう。それは見ていて分かる。

 しかし、それを俺にどうにかできるかと言えば答えは否だ。何故なら彼女が落ちた学校に入学できている時点で俺というか、俺たちからの言葉は彼女にとって勝者の余裕にしか写らないだろう。そして、俺も受験に失敗したことはないからその慰め方もしらない。尽く相性が悪いな、今回は。

 

 しかし、だからと言って『はい、やーめた』なんて無責任なこともできるわけがない。少なくとも、プロとして自分たちのしでかした失敗の責任を取るためにここにいるのだから。

 

 考えろ。彼女の言葉から分析しろ。

 ゾーンに入る。思考が加速し、時間が止まる。その数分で交わした言葉を思い出し、彼女の思考の傾向を掴む。

 

 何処か諦めたような話し方をしている。

 勉強は好きじゃないと言ったが、嫌いとは言ってない。

 思えば、勉強した範囲を聞いた時は普通に答えてくれた。

 彼女の口から一番多く出た単語はマジレス。

 勉強を無意味とする彼女の根拠は、『これは何に使えるのか』とそもそも知識を何に活かせるのか考えなければでない意見だと俺は思う。

 

 これらを総合的にまとめるなら……。『学ぶ意欲はあるが、深く考えた時に何に使えるのか分からないから勉強を好きになれず、興味を失いつつあるから何となく諦め混じりになっている』と言ったところか。

 

 分からない話では無い。野球がしたいのにソフトボールのルールを教えられても、その教育の意義が分からないのと同じだ。そこにある野球とソフトボールは似て非なるものであるという認識を持つこと。そもそも野球とはなんなのかを考えて欲しいなんて気持ちに気付けるわけがない。

 

 だけど、幸いなことに彼女には追求しようとする姿勢自体はある。そうでなければたかが学校の授業で習う部分を引用して何に使うの?なんて疑問は出てこないだろう。そう考えれば、やりようはあると思う。少なくとも、勉強とか追求とかそういう行為全面的にやる気がなかったバカタレよりマシだ。

 

「キミはマジレス……要するに追求することは好き?」

 

「別に……。気になることは気になる。それだけだし」

 

 ようは、気になることを放置したく無いってところか。その姿勢がまだ失われてないなら、あとは俺の頑張り次第か。

 

「よし、決めた。綾香ちゃん、今日は自習でいいよ」

 

「………は?」

 

「もちろん、気になることがあったら聞いてくれて構わない。でも、本格的な授業は明日からにしよう。1日だけ時間をちょうだい。明日、中学2年生の定番の"走れメロス"をやろう」

 

「………なんなの。そんなことされたってあたしは変わらないよ。それに明日来るなんていってないし」

 

「来なかったらギャン泣きする」

 

「はっ!?」

 

「もうワンワン泣く。周りが軽くドン引きするくらいキミの名前を呼びながらギャン泣きする」

 

「どんな脅しよ!?」

 

「ふはははっ!歳上男子の泣き脅しは怖かろう。周囲の俺への好感度が死ぬ変わりに小さい子たちからのキミへの好感度も落ちることだろう!知らぬ間に周りからの評価が不名誉な方向に転がる恐怖を味わうといいわ!」

 

「泣き脅しってなによ!?普通泣き落としでしょ!?」

 

「ザキロスは激怒した、必ず、かの邪智暴虐の……」

 

「邪智なのはアンタのほうじゃないの!」

 

「そんだけツッコミ倒せるなら、体調不良とかも心配なさそうだね。んじゃ、明日を楽しみにしていておくれ。ハードルは上げすぎない程度に。具体的には50cmくらいで」

 

「ハードルひっく!?」

 

 この子、結構元気だな。やっぱり勉強に対する憂鬱さが不登校の根幹なのかもしれない。

 不登校の解決なんて視野には入れてないが、それでも、学ぶことは無意味じゃ無いことを伝えられればいいな。

 

 そんなことを思考の片隅で考えながら、俺は並行して明日の授業の流れを組み立てるのだった。

 




あとがき

はい、あとがきです。

綾香は捏造です、申し訳ありません……。

ついでに言えばわかばパーク編は少し長くなりそうです。オリジナル回が2〜3話くらいになるかなぁ……?アフターの時間に漸く着手出来たところです……。

と、まぁ、こんな感じでぐだぐだやっていきますが、何卒お付き合いください……!

ご愛読ありがとうございます!

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