加えて沢山の高評価、感想ありがとうございます!
今回も投下致します。
最後までお付き合いください……!
こんな話を聞いたことがある。
人を育てるには、まずは自分がやって見せ、次に言って聞かせ、続けて相手にやらせてみて、最後に褒めて上げなければ人は育たない、と。確か山本五十六さんの言葉だったか。
先生の真似事とは言え、こうして生徒と接していると、それを強く意識させられる。確かに、どんな風にやればいいのか、どんなことに気をつければいいのか、しっかり理解できているのか見てやって、出来てるのであれば褒めてやる。モチベーションの維持には大切なことだろう。
「先輩、なんでこの公式じゃなきゃいけなんですか?別にこっちでも良くないです?」
「考え方は間違ってない。確かにそっちでも計算して答えを出すことはできる。よく覚えていたし、よく考えたね。でも、それでもこっちの式を使わなきゃいけないのはあくまでこの公式の使い方を覚えるための章だからだ。クロールでのタイムを計測するのにバタフライするのは違うでしょ?」
「……それもそうですね」
「答えが同じなら何でもいい、みたいな考え方なら着眼点は素晴らしいんだけどね。型にハマったやり方で正しくこなせるかってのも実力を測る上では必要だからさ。それにこの公式の応用みたいなの、実は高校の範囲で出るんだ。今のうちに基礎が出来るようになれば後で楽できるよ?」
「なんで高校の範囲なんて知ってるんですか?」
「予習してるからね。ま、未来の自分への投資かな」
「ふーん……。楽をするために頑張るって奴?」
「そうそう。『なにこれ、さっぱり分からない』より『あっ、これやったことある』の方が気が楽だしね」
「頑張ります」
「程々にね。そこのページから終わったら一度休憩を取ろうか」
そういうと頷くことで返事をして彼女は集中した。
これが終わったら休憩というのが集中力を底上げしたのか、彼女の手の進みは思った以上に速い。この分なら、遅れを取り戻すのに時間は掛からないだろう。少なくとも、俺の時のように小学生くらいからやり直す必要はなさそうだ。
地頭は良いのだろう。投げかけてくる質問は鋭く、基礎が身に付いていればある程度は疑問に思っても仕方ないものばかり。時々、やたらと穿った見方をしていることもあるが、それは彼女が優秀な証拠だろう。教え甲斐があるってもんだ。
「あの、先輩。ここの応用なんだけど……」
「あぁ、そこムズイよね。そこの解き方のコツは楽しようとせずにまずは一個一個丁寧に分解して考え————」
「あっ、そこは危ないわっ!!」
綾香ちゃんに質問された部分を解説していると、職員さんの焦った声が聞こえて、顔を上げる。俺に質問していた彼女も同様に弾かれたように顔を上げてその視線の先をみた。
俺たちの目が向けられた先には傷んだ床。初日にさくらちゃんが落ちかけた場所とはまた別にまだあったらしい。
そして間が悪いことにちょうどそのデットスペースに楽しそうに丸めた新聞紙でチャンバラごっこしてる男児たちが。
その大した重量もないであろう足が元気よく床を叩いた瞬間、ミシッと音を立てて床が割れる音がした。
初日と同じように助けようとするが、流石にこの状況で普通に動いたのでは間に合わないのでゾーンに入る。
何もかもがスローモーションの様に緩やかに流れる世界の中でうっかり床を踏み抜いて更なる被害を出さないように心掛けながら、落ちそうになってる2人の子供達のお腹を抱き抱えるようにして後ろに下がり、ゾーンを抜けた。
「大丈夫かい?」
「うわぁっ!?俺ら飛んでる!?」
「すげぇ!?」
「この辺りは危ないからゆっくりね」
「「ありがとう!ファザコンのお兄ちゃん!」」
「ごぶっ……」
床に落ちそうになったことは頭から飛び、どうやら自分達の体が浮き続けている事実だけが彼らの頭の中に残っているらしいことに苦笑しながら床に下ろす。この辺は危ないから走っちゃダメだと教えると彼らは元気よく頷きながら走り去った。
思わず再度の苦笑を浮かべる。
「ありがとうねぇ……。この前の雨で雨漏りした部分が脆くなってるのかもしれないくて」
「腐りかけてるのかも知れませんね。カラーコーンか何かで危ない場所を囲えませんか?」
「この建物自体が脆くなりきってるから、それをやり出したら足の踏み場がなくなるって園長が。リフォームを依頼するお金もないからあの人が自分で補修してたんだけど、それでもやっぱり手が足らなくて」
「ふむ……。と、なると建物の増築よりまずは子供達が駆け回るこの床からどうにかする方がいいか……。律、千葉に伝えておいてくれるか?子供達の安全確保の為にさ」
『了解しました!』
「……なんというか、大人顔負けね。外で木材を加工してる子達も園長の自転車を改造してる子達も、勉強を教えてくれてるあなた達も。普通の中学生にはとても見えないわ」
「まぁ、俺らは中学3年生。2分の1成人式なんてとっくに終わって、4分の3は大人ですから。なにか一つの分野くらいは大人に勝つくらいの気概でいないといけませんから」
「大人びてるわねぇ……。いえ、この場合は大人ねと言うべきかしら……。本当に頼りになるわ」
「松方さんの脚の倍額は働かないといけませんからね。未熟な面が多くてサポート頂きたい点は多々ありますが、なにか出来ることがあったら遠慮なく言ってください」
「本当に助かるわ……。ありがとう」
職員さんはそう言うと、念の為に床の危ない部分に目印を付けるように養生テープを持って来て、その部分を囲んだ。
程なくして、律から話を聞いたらしい千葉が入って来て俺を見つけると近づいて来た。
「律から聞いた。確かに初日の打ち合わせ通りに床の補修は真っ先にやらないとな。ちょうど今回のリフォームで使う分の材料は加工したし、まずは床からやろう」
「だな。何か手伝えることはあるか?」
「力仕事枠は空いてるけど、乃咲は安全確保の為にみんなを見ていてくれる方が俺たちも安心できる」
「わかった。じゃあ、早速やろう。みんなを外に出すから中のことはよろしく頼むな」
「任せてくれ」
「片岡、千葉と話したんだけど、まずはこの建物の床の補修から始めることになった。子供達を全員外に出すから先導頼む」
「はーい。じゃ、指示出すわよ。女子は生徒さんたちの誘導、男子は机とか邪魔になりそうなものの撤去ね」
E組の仲間たちから『うぃーっす』と気の抜ける返事が返ってくるのを確認してから俺は自分の生徒の元へ戻った。
「ごめんね、放置プレイしちゃって」
「セクハラ?まぁ、先輩たちが話してる間にページは終わらせたんで別に気にしないでいいですけど」
「………長いこと放ったらかして別の女と話しててごめんよ〜!これからはこんなこと無いように気を付けるから今回だけは許しておくれよ〜!!なんでもするからさ〜!!」
「わざわざ誤解を生むような言い方にしないでください。あと、それからいま、なんでもするって言いましたね?」
「言葉狩りやん……まぁ、できるだけ無理のない範囲でね」
「その辺は弁えてますんでお気になさらず。ほら、机とかどかすんですよね?私も手伝いますよ」
「だーめ。それは俺たちの仕事だから。強いて言うなら、小さい子たちの誘導を手伝ってあげて欲しいかな。まだ俺たちに慣れてない子もいるだろうし、それなら俺らに比べてまだ付き合いの長いキミの方が安心するだろ」
「…………分かりました」
「おーい、倉橋さーん!うちの綾香ちゃんが小さい子どもたちの誘導手伝ってくれるって!」
「だから誤解を産みそうな言い方は……」
「ほんと?助かるよ!それから、あとで圭ちゃんはお説教ね」
「なんでさ」
「言わんこっちゃない……」
「私……たちE組女子のことは名前呼びしないのに……」
「えっ、そっちですか!?」
驚いたリアクションをしながらも、彼女は我らのクラハシエルに導かれて子供達の誘導に回っていった。
うむうむ、見目麗しい少女たちが並んで歩くと絶景かな。我、いとうつくしうていたる花は見て愛でて愉しむ侍故、この絶景をこの両の目に焼き付ける也よ。
「乃咲?そこで頷いてないで手伝ってよ」
「あ、悪い。今行くぞよ」
「ぞよ!?」
「語尾どうした!?」
おかしな古文を使った侍ごっこがつい表に出てしまった。うっかりうっかり。さて、気を取り直して頑張りますかね。
幸い、建物の中の物の移動には大した時間は掛からず、それに加えて、外はしっかりと晴れているが、風が運んでくる程よい冷たさの空気のお陰で青空教室をやるには適した環境だった。
「こっちがスズメ。んで、こっちがニュウナイスズメだね。見分け方としては鮮やかな栗色で黒の斑点がないのがニュウナイスズメ、こっちの少し濃い目の栗色で黒い斑点があるのがスズメだ。んで、あっちの電柱に止まってる脚が3本のカラスは八咫……」
「ねぇ、先輩どこから突っ込めばいいんですか?なんで極々当たり前のように野鳥を手のひらに乗せてるの、ていうか、最後の奴に関しては普通にUMAとかそう言う存在では!?」
折角の青空教室なので堅苦しい内容は一旦忘れて、外ならではの学びを感じて欲しい。そう考えた俺はその辺を飛んでいたスズメを呼んで手のひらに乗せて種類を解説や見分け方を解説していると、早速、我が生徒からのツッコミが来た。
「まあ、そういう奇形だったんじゃない?知らんけど」
「適当過ぎ!?先輩ってツチノコ見ても『太った蛇』くらいの認識でスルーしちゃうタイプですか?」
「流石にそんなことはないと思うけど……。それに、野鳥を手のひらに乗せるくらい珍しくないだろう。ほら、あそこにいる倉橋さんを見てくれ。当たり前のように野良猫が寄って行ってるし、足下には無数の鳩が」
「おかしい、絶対におかしいです!」
「んなこと言われても子供の頃からの体質?だし」
感情表現豊かになってる綾香ちゃんを微笑ましく眺めながら適当に騒いでいると、噂の倉橋さんがこっちに来た。
「ファザコンのお兄ちゃん、やっほー!」
「ファザコンのお兄さんすごーい!鳥さん触ってる!」
「ファザコンの兄さん、こっちのゆるふわな姉さんも動物に囲まれるんだぜ!2人一緒だとどうなんの!?」
「ぐふっ……。や、やぁ……」
彼女の連れて来た子供達からの洗礼。
正直にぶっちゃけよう。俺の授業に関心を示すようになってくれる前の綾香ちゃんより、この子達の方が手強いと。
「…………ファザコンなんですか、先輩」
「キミまで……。勘弁してくれ。まぁ、否定はしないけどさ。偉大な父に対するコンプレックスは男のサガって奴さ」
「偉大な父……?」
俺の溢した言葉に首を傾げる彼女。それとほぼ同時に職員さんの子供達に向けた優しげな声が響く。
「おやつの時間ですよー!」
その声を待ってました、と言わんばかりに子供達は我先にと駆け出して、俺たちはすっかりフリーになってしまった。
「ほら、綾香ちゃん。おやつの時間だってよ」
「それは流石にバカにしてますよね?」
「揶揄ってるだけさね」
試しに口に出してみたが、じとっとした目が返ってくるだけだった。しかし、子供達はおやつの時間とか言ってるし、ここらで休憩にするのも良いだろう。なんだかんだ、あの後から取れてないし、少しゆっくりしようじゃないか。
「んまぁ、少し休もう。倉橋さんもどう?」
「そうだね、私も休もうかな。小さい子たちって元気いっぱいだから、楽しいけど、少し疲れちゃった」
そう言いながら倉橋さんが俺の隣に腰を降ろす。
「…………」
「…………」
「…………」
しかし、だ。俺たち3人に共通の話題はあんまりない。倉橋さんとは色んなネタで雑談できるが、それだと綾香ちゃんが着いて来れないし、綾香ちゃんに振る話題はしっかり選ばないといけない。かと言って倉橋さんと綾香ちゃんに共通の話題があるわけでもない。俺たちは無言だった。
「…………なにしてるのさ。3人で固まって無言で」
「休憩中?」
「ふーん。私もご一緒していい?」
「どうぞどうぞ」
無言で対面していると不思議そうな顔をした茅野が凸ってきた。俺が頷くのを見ると彼女も腰を降ろした。
「………」
「………」
「………」
「………」
なんなんだ、この空気。誰も喋らねぇ。茅野、3人で無言でいるのを不思議に思ったなら適当に話題でも振ってくれよ!
と言うのは流石に理不尽か?しかし、こうしてこのまま無言なのはどうなんだ?何か話題でも振るか?
しかし、何がある?この4人に共通する話題なんてないし、なんと言うか、それぞれと2人きりでの無言はあんまり気まずくないのに、人数増えて無言になるとこんな気まずくなるのか!?
しかし、諦めてはいけない。俺は灰色の脳をフル回転させてこの場に相応しい話題を提供しよう。
俺はゾーンに入って一つ、結論を出した。年頃の女子が多いこの場でそれなりに無難な話題を。
「よし、女子会と洒落込んでこい——」
「「恋バナしようとか言わないよね?」」
「…………えぇ……?」
俺の電光石火の閃きですら、女子2人にはお見通しだったのだろう。全部言い切る前に言葉を潰され、その様子を見ていた我が教え子が少し引いた様子で2人に視線を向けた。
「なんで先輩の言いたいことが分かったんです……?」
「だって圭ちゃんだし」
「だって乃咲だし」
「………どんだけわかりやすいんですか、先輩」
「ぴぇん……」
うつてなし。諦めよう。これからしばらく無言で過ごす覚悟を決めた矢先のこと。可愛い可愛い我が教え子が言った。
「まぁ、私は構いませんけど」
「まじ!?」
青天の霹靂というか、なんというか。てっきりそう言う話題は一番バカにしそうなイメージがあった。意外だ。
「えぇ。そう言う経験がないって話すだけで済むので」
「……なんでぇ」
そう言うことだったらしい。なんとも小狡い躱し方を覚えたものだと感心しつつ、ぐぬぬと歯噛みする。
ここらで弱みの一つでも握れれば………ってのはいかんな。生徒にするべき思考ではない。俺は理事長とは違うのである。
「うーん。そういうことなら私もまだかなぁ」
「えっ、そうなの、カエデちゃん」
「あはは、そんな風に驚かれると少し恥ずかしいけどね。今のところはってところかな。なんとなく、良いなぁって思う人はいるんだけどね。まぁ、まだそこ止まりかな」
「ほぇ〜。茅野が気になる奴ねぇ」
「どんな人です?」
「………優しい……かな?どうだろ、少なくとも私はそう感じたかな。寄り添ってくれるというかさ」
「ふーん……。まぁ、茅野が良いなって思うなら間違いはないんじゃない?まぁ、無責任な言葉で悪いけど」
やっぱり渚とかなんだろうか?よく一緒にいるし、なんとなくカルマ、渚、茅野はセットなイメージがある。
あれ、でも最近はそう言う場面減ったか?ふとした時、倉橋さんが居るのはもう慣れっこだが、茅野もいることが多いな。もしかして渚と喧嘩でもした?いや、そんな雰囲気はないし、単純に女子で話しやすい倉橋さんがいるからってだけか。
「………ニブチン」
「ん?茅野なんか言った?」
「なんでもないよ?」
「そう?んじゃあ、倉橋さんは?」
「え、それ私に聞いちゃう?」
「ダメだったか?話の流れ的に聞いちゃったが………いやなら別に強制はしないぞ?少なくとも俺は」
「………圭ちゃんは聞きたい?」
「………俺?」
なんで俺に振るんだ?
ふと考える。あれか、俺が唯一参加してる男枠だからか。もしかして男子に聴かせられない内容だったり……?
いや、この考えは駄目だ。またキモいとか言われかねない。そう自分を落ち着かせた俺は条件反射で答えた。
「まぁ、気になるかな」
「どうして?」
「どうしてって……………」
どうしてだろう?反射に任せて答えたが、確かに聴かれてみれば一体どうしてなんだろう?
「む……?」
「まぁ、別に良いけどね。どうして気になっちゃったのか、分かったらで良いから教えて欲しいかな」
「分かった。考えてみるよ」
俺の言葉にひとまず納得してくれたらしい倉橋さんは頷くとゆっくりと語り始めた。
「出会いは1年生の頃かな。私が参加した勉強会でわからないところがあってさ、勇気を出して聞いてみたんだ」
「勉強会……やっぱり有名な名門校なだけあって椚ヶ丘って自主的にそう言うのもやってるんですか?」
「うん。うちらの学校は成績が全てって所あるから。部活で優秀な成績を残しても成績が悪ければ意味がない、みたいな」
「だな。登下校で参考書を開いて歩くのは当たり前、朝起きて、勉強して、飯食って、寝る。みたいなのがデフォルトだ」
「そうそう。だから、勉強でわからないところがあるって言うのは結構致命的なんだ。授業でも理解できず、塾でも分からないとかなったらもう悲惨。だから、そう言うのを少しでもなくすために勉強会とかをやるんだよ。私がその人と話したのはその時が初めてだったんだ」
懐かしそうに目を細める倉橋さん。まぁ、懐かしくなる気持ちは分からなくなかった。
あの頃は常に勉強勉強で成績が落ちることにひたすら怯えていた。それが今はそんな生活とは縁遠いのだから。
「その人のノートをたまたま見たんだけどさ。凄かった。端から端までびっしりコツとか書き込んで図解して分かりやすくしてて。成績が凄く良い人だったんだけど納得できたんだ」
「成績がいいのに納得……ですか?」
「うん。たまにいるじゃん、『なんでこの人がこんなに成績いいの?』とか『こんな人が私より上なの?』みたいな」
「確かに分からなくはないですね。ぱっと見で遊んでばかりの奴が成績良かったりすると自分の努力が虚しくなるというか」
「そうそう。でもさ、自分よりも成績が上の人が自分以上に頑張ってるって証を見つけてさ、思ったんだよ。頑張れる人って良いなぁ〜ってさ。それがきっかけかな」
「ほぇ〜。ちなみにそれって倉橋さんの好みとかに該当するの?こんな人が好き〜みたいなさ。なんとなくだけど……良いなって思うのと好みって似て非なるものじゃん?」
「圭ちゃん結構食いつくね?」
「………………あっ、ごめん。なんとなく気になって」
そういえばなんでだろう?なんだか最近変かもしれない。俺に似てる人にかっこいいとか言ってるのを見てモヤっとしたり、好みの異性を聞き出そうとしたり。
「好み、かぁ〜。私のタイプの
ふむ……。頑張ることが出来て、猛獣でも捕まえられそうな男性……。あれ、それって烏間先生にドンピシャじゃね?
いや、でも、出会いは1年生の頃って言ってるし違うか。となると、誰だろう?倉橋さんの理想に当て嵌まりそうな奴。
顎に手を当てて考える。
「ちなみにヒントはKち………Kかな」
「やっぱり烏間先生!!?」
「1年生の頃って言ってたよね!!?」
はて、このやりとりどっかでやった気がする。
内容はこんなでは無かったと思うが、確かに何処かで倉橋さんと似たようなやりとりをしたような……?
つか、真剣に誰だろう。出会いは1年の頃で今も良いなって思ってるってことは同級生だろう?そんで印象を良い状態に保ってられるってことは少なくともE組の外部の人間ではないだろう。差別とか倉橋さん嫌いだろうし。
その上で勉強会で教えられるくらい成績が良くて、成績が良い理由も説得力があって、猛獣も捕まえられそう?
猛獣も捕まえられそう……。そんな奴あるか?あっ、いや、喧嘩の腕っぷしとかそう言う実力も込みって表現か?世の女性は守ってくれそうな男が好ましいと言うし、そう言う意味では理にかなっているのではないだろうか?
勉強ができて、努力が出来て、腕っぷしも強い。そしてヒントはK。それに該当するのって………カルマ!!?
「………まじか…………なんかモヤっとする」
「……圭ちゃんのクソボケ」
「ん?倉橋さん、なんか言った?」
「なんでもないよ。ほら、女子はみんな話したんだから圭ちゃんも恋バナしてよ!圭ちゃんのタイプの女性とか気になるな〜!」
話の流れを変えるというか、誤魔化すように倉橋さんが俺に矛先を向けて来た。そして、それに残りの2人も便乗してくる。
「確かに。そういえばそう言う話って聞いたことないから気になるかも?綾香ちゃんは?」
「まぁ、多少は。それに女子に話させておいて1人だけ逃げるなんてこと、先輩はしませんよね?」
なんか逃げ場がなくなった。
まぁ、初めから逃げるつもりもないけどさ。
俺は空を見上げる。たまには思い出に浸るのも悪くないだろう。語らねばなるまい。恋と言えるかは分からないが、それでも俺にとっては大切だった思い出の一つを。
「初めに断っておくと、これは初恋と言えるかも分からない話だ。正直、誰にでも一度くらいは経験があるだろう、歳上に対するある種の憧憬だ。それでもいいか?」
「圭ちゃんの初恋……みたいな話、か。複雑だけど気になるかな。あの圭ちゃんが憧れた女の人って興味ある……かも」
「私も。正直、こんな風に素直に話そうとしてくれるとは思ってなかったから……。私も気になる。乃咲のタイプの女性」
「先輩にもそう言う感情はあったんですね。聞きたいです」
どうやら満場一致らしい。
それを確認して俺はゆっくりと思い出すように語る。
「俺のタイプの女性。多分、それは褒める時は褒める、叱る時は叱る、調子にならないように嗜める。それがバランス良くできる人なんだと思う。多分、俺には母親がいなくて、父さんも有名人で。基本的に肯定されて育って来たから……ある種、母性のようなものに飢えてるのかもしれない」
「そっか……」
「…………なんとなく、分かるかも」
「お母さんがいなくて……お父さんが有名人……?」
俺の生い立ちの方にも興味を持ったらしい綾香ちゃんにその辺はまた後で話すね、と告げて続ける。
「霞スミカと言う女性だった……。年齢だけで見れば2回り、もしかすると3回りは離れているかもしれない。それでも、俺は彼女に憧れた。褒められたくて、認められたくて。当時は必死だったよ。叱ってくれたのは彼女だけだった」
「…………ん!?」
「乃咲……」
「先輩にそんな過去が……」
「厳しい
「……その人は、乃咲を"見て"くれたんだね」
「かもしれない。直接顔を見たことはない。それでも、俺はあの人に憧れた。時々、凄く上手くいったとき。褒めてくれるんだ。そして、心配する時は心配してくれた。俺を叱ってくれた人も、俺の為に怒ってくれた人も初めてだったんだよ」
「(これってアレだよね。セレン・ヘイズさんの話だよね!?まさかのフロム!?圭ちゃんの初恋ってゲームのキャラ!?ゲームのキャラに圭ちゃんの初恋盗られた!?)」
「でも、別れは突然だった。いや、分かっていた。そうなるって……。でもさ、やっぱり辛かった。あんな風に別れるのは。もっと、一緒にいろんなことをしたかった。もっと褒めて欲しかった。まだまだ一緒にやりたかったよ」
「先輩………ッ」
「(倉橋さん、倉橋さん)」
「(……どうしたの、カエデちゃん」」
「(乃咲ってこんな悲恋経験してたんだね……)」
「(…………これ、ゲームの話だよ?)」
「はぁ!?」
「お、おう?どうした、茅野?」
「えっ、いやっ、なんでもない!(どう言うことなの!?)」
「(圭ちゃんの好きなゲームメーカーの作品に出てくるオペレーターのことだよ。まぁ、そのうちボロが出るんじゃない?)」
「(ちなみに、そのメーカーって?)」
「(フロムソフトウェア)」
「(まさかのフロム!!?にしても、ものすごい脳内解像度だよ!?綾香ちゃん涙ぐんでるじゃん!!?乃咲にうちらのこと聞いてみてもここまで事細かに答えてくれないよね!!?)」
「海上で何度も翔んだ。弾薬を打ち尽くしたMR-R102とエネルギーの切れたEC-O300をパージして唯一残ったレーザーブレードのEB-O305を振り翳し、プライマルアーマーを喪失しながらも何度も何度も衝突した。彼女を相手にシュミレーターで何度も練習した2段QBを吹かしながら……!」
「師弟の宿命の対決……ッッ!」
「(綾香ちゃん、気付いてなくない?もしかして結構引き込まれやすい?明らかにおかしいところあったよね?なんか武器の型番みたいなの言ってたよね、2段QBとかよく分からないこと言ってるよね、乃咲)」
「(うん……。あれをそんな装備だけでクリアできるなんて圭ちゃん相当な変態だよ……。武器構成的にホワイトグリントの再現機かな……。4のジョシュアの……)」
「(ちがう、そこじゃないよ、倉橋さん!!)」
「彼女が俺の前に立ちはだかった時の自分が間違えてしまったという罪悪感はいつしか快感に変わった。ブレードが当たる度、交差して機体を切り返す度に笑みが溢れるようになった。俺は……死闘と言える闘争を楽しんでしまっていた。自らの師、憧れと言える初めての女性と交わる感覚を……!」
「(しかもなんか表現が微妙に官能的……!)」
「閃光が舞った。この手で刃を握り、切り裂いた訳でもないのに、俺には確かな手応えがあった。……やったっ!それが撃墜したという確信なのか、勝利した喜びなのか分からなかった。でも、確かに言えることがあるとすれば………もう、この世に彼女はいないと言う事実だけで……。俺は打ちひしがれた」
「ううっ……!」
「最期の言葉はまだ覚えてる……。恩を仇で返したと言うのに、彼女は呆れた様な、満足したような声で『当然か、私が見込んだのだからな』って呟いたんだ。その時、俺は気づいた。ハッとしたよ。自分が今、誰を手にかけたのか」
「そんなっ……!!」
「声に気付いて振り返る。けどさ、そこにはもう……貴女はいなかったッ……!!ゆっくりと水底に眠るように沈んでいく桜を見送るしかなかった。硝煙と機体から上がる煙、アラームが鳴り響くコクピットの中で唖然とするしかなかった……」
「「(本当にゲームに対する感想だよね!!?)」」
俺の切なくも愛おしい大切な思い出を語り合えると同時に咳払いして、教え子を正面に捉えて口を開く。
「さて……長くなっだが、この経験や、俺が今日まで培って来た想いや成長することができた理由の総括としては……憧れた人は大事にしなさい。良いなと思ったら何処までも追いかけて、駄目だと思ったら追い越して、例え道を違えたのだとしても、その人を追いかけたことを、追いかけていた時に抱いていた敬意を忘れてはいけないよ。そして、いつか、キミが誰かに教える立場になったのなら、同じことを言ってあげて欲しい」
「……はいっ!」
元気よく返事をした綾香ちゃんに頷く。
なんか、倉橋さんと茅野が釈然としない様子で俺を見ていた。釈然としないと言うより、憮然とした様子というのが正解だろうか?まぁ、どちらでもいいが。
「よし、じゃあ、休憩もここまでにして勉強を始めようか」
俺の号令でそれぞれが動く。子供達もおやつタイムを終えて戻って来たらしく、倉橋さんと茅野はさっそくちびっ子たちに囲まれていた。綾香ちゃんもやる気はあるようで、メモ帳片手に俺を見ていた。
さて、次は何を教えようか。
そんなことを悩みながら俺はその辺を飛んでいた鷹と鷲と鳶を呼び寄せて、見分け方を説明し始めるのだった。
あとがき
はい、あとがきです。
圭一の初恋、まさかのスミカさんだった……。
ちなみに私の初恋はポケモン映画で見たラティアスです。対戦よろしくお願いします。同じ経験した奴は俺と友達な!
と、まぁ。異世界おじさん味のある恋バナを引っ張り出してきた圭一ですが、実は話した『好みの女性像』に関しては一切の嘘や誤魔化しはありません。
1、褒める時は褒める。
2、叱る時は叱り、ダメな時は止めてくれる。
3、母性を感じさせてくれる女性。
??「圭ちゃんは凄いよね。烏間先生にもナイフ当てられる様になって、それでもいつも頑張ってて」
??「……酷い熱だよ。なんでこんな状態で学校に来ようとするの!?なんで誰も止めなかったの!!」
??「あっ……。ふふふ、案外甘えんぼさんなんだねぇ」
おやおや……。うちのクソボケはいつ気付くのか。
「カルマか……なんか複雑……」とか言っとる場合ちゃうぞ!!
ゴホン、ご愛読ありがとうございます!