暗殺教室 不良児は認められたい   作:ZWAARD

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加えてたくさんの高評価、感想ありがとうございます!

遅れてしまって申し訳ありません。
曜日感覚が完全にズレておりました………。

それにいつの間にやら評価者も200名を突破しており、総合文字数も100万字を突破致しました……!ここは一つ、調子に乗りつつお詫びと感謝を込めまして、明日も投稿させて頂きます……!

それでは今回もお付き合いください……!


116話 アフターの時間

 

「あっ、乃咲くんじゃないか!」

 

「っと……花屋の兄さん」

 

 今日も今日とでお仕事。生徒に教える内容もバッチリ頭の中で出来上がってるって状態でわかばパークを目指していると、俺のそっくりさんに呼び止められた。

 あ、いや。年齢的には俺が彼のそっくりさんと言うべきなんだろうか?まぁ、どっちでもいいか。

 

「その後はどうだい?お爺さんは大丈夫?」

 

「えぇ……とは言えませんが、あと1週間もしたら歩けるそうです。その間……定期的にあの人の経営している保育施設のお手伝いをするって形で一旦は納得して貰えました」

 

「そっか……それは大変だよね。乗り掛かった船だし、僕に何か出来ることとかないかな?微力ながら手伝わせてもらうよ」

 

「そこまでしてもらう訳にはいきませんって。まぁ……強いて言うなら、小さい子たちにウケそうな話題とかないですか?小さい子達が多いんで何かしら喜んで貰えそうなこととか」

 

「うーん。なら、マジックとかどうかな?小さい子たちからしたら魔法そのものだよ?」

 

 そんなことを言いながら彼は両手を出した。俺に見せた右手には100円が一枚。左手はなにもない。親指で徐にコインを弾き上げると、彼はそれを両手を交差させる様に目にも止まらないほど素早く動かしてキャッチした。

 

「どーっちだ?」

 

 そして差し出される、今度は握られた両手。恐らくはこのどちらかにコインがある、と言いたいのだろう。

 しかし、普段がマッハ20を追っている故か、花屋の兄さんには申し訳ないけどコインの在処は分かっている。

 

 このどちらの手にも100円はない。彼が見せた大袈裟な仕草。コインをキャッチするにしては大掛かりな動き。その中で彼は落下するコインを自分の袖の中に落としたのだ。

 

 一言で言えばHUNTER×HUNTERで見た奴だ。

 

 にしても卓越した動きだった。そうとう練習したのだろう。恐らくは客引きの為に少しでも興味を持ってもらう為か。花を使ったマジックとかもあるだろうし、技術はあるに越したことはない。

 

「んじゃあ、こっちで」

 

 しかし、気遣いを覚えた乃咲くんはここで当てに行くようなことはしない。せっかく子供達を喜ばせるネタを提供してくれたんだから、気持ちよく引っかかってやろうじゃないか。

 

「ざんねーん、どっもハズレ」

 

 花屋の兄さんはそう言うと手を開く。そこにはなんと、包装された飴玉が入っていた。しかも両手に。

 

「ええっ!?」

 

 思わず驚いた。コインを袖に入れたのは見えたが、飴を握る瞬間は見えなかった。ゾーンに入っていたのなら気づけたかもしれないが、これには不覚を取られたと言わざるを得ない。

 

 そのまま持っていた飴の片割れを俺に握らせると、兄さんはもう片方の包装を破いて口に放り込む。

 

「どうだい?驚いただろう?袖に予め飴を仕込んでおいて、コインをキャッチするタイミング、手を大袈裟に動かした時に手の内に移動させて、コインは掴んだと見せかけて飴を入れ替えるように袖の中へ落とす。視線誘導と緻密な動作が可能とする単純だけど魔法のような手品さ。参考になったかな?」

 

「えぇ。びっくりしました。兄さん凄いっすね。普通にマジシャンとして食っていけるんじゃないですか?」

 

「あはは……。花の売れ行きが悪くなったら考えてみるよ……」

 

 苦笑しながら目を逸らされた。この反応的に、もしかすると花屋としてはあんまり儲かって無いのかも。

 

 なんて話していると、あれよあれよと時間は過ぎて行っていたらしく、結構いい時間になっていた。

 

「すんません。俺はこの辺で。飴、ご馳走様です」

 

「うん、こっちこそ呼び止めてごめんね。またね」

 

 花屋の兄さんに一礼し、軽く手を振って俺は駆け出した。さっきの手品、あとで実践してみよう。緻密な動きと素早さなら一応は誰にも負けないだろうから。

 

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「………いい感じに仕上がってるなぁ」

 

 走り去る銀髪の少年の背中を眺める。つい数秒前に放り込んだ飴玉を噛み砕き、口元を緩ませる。

 青年は、自分に瓜二つの少年の一挙手一投足、その全てを観察していた。目の動き、体の揺れ、呼吸、腕を動かした時の筋肉の動き、言動などの全てを。

 

 視えていた。自分の手の動きとコインが何処へ消えたのか。それをさっきまでいた少年は一切の見落としなく目で追っていた。それもごく当たり前のように。自然体のままで。

 青年の作った引っかけにこそ捕まってしまったものの、もっと緊張して集中力が高まった状態であったのなら、最後のひっかけにすら気がつくことができたのだろう。

 

 自分と同じ顔、同じ声。そして、その潜在能力。

 自分と同じチカラを持つ人間がもう1人いれば。そんな思考を理解すると同時に青年はゆっくりと口を開いた。

 

「またね、圭一。すぐ会えるよ」

 

 銀の死神は嗤った。

 

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「先輩の昔話しが聞きたいです」

 

「いいわ。——昔話をしてあげる」

 

「語録はいいです」

 

「……っす」

 

 綾香ちゃんがこんなことを言い出したのには理由がある。何を隠そう、先日、なんでも言うことを聞くと言った時、結局その権利を使ってなかったことを思い出したのでなんか思いついたか、休憩中にふと聞いてみた。

 

 そしたら数秒考えた後、こんな答えが返ってきた。

 

 まぁ、振り返ってみると恥ずかしい話ばかりだが、俺の失敗談を聞いた彼女が少しでも何かを学んでくれるのであればそれに越したことはないだろう。教師としては。

 

「そんで、何が聞きたい?この乃咲圭一、やらかしと失敗の歴史はかなり深いぞ。歩く黒歴史と言っても過言じゃない」

 

「胸張って言うことですか、それ……。まぁ、そう言った話も聞きたいです。なんか、先輩って色々とできるじゃないですか。勉強できるし、たまに呼ばれて外で建築してる人たちの手伝いもしてるし、物事に対する考え方みたいなのも教えてくれる」

 

「まぁ、それが先生でしょう?」

 

「確かにそうなんですけど、先輩って押し付けるようなこと言わないじゃないですか。一番初めはそりゃあイラッとしましたけど、でも、基本的に強いることはないし、それをやるメリットとか、興味を持たせる為に工夫するとか手間暇惜しまずに」

 

「って言われても……。俺がやってもらったことをしているだけだよ?自分がして欲しかったことより、自分がして貰って助かったことをするのは当然じゃない?」

 

「そこです。自分がして貰ったってことは……先輩も何かしらで挫折したことがあるんじゃないかなって。お父さんが有名人とか、お母さんがいないとか、そう言う気になることをポロッと溢すんですもの。かなりプライベートなことなので無理強いはしないですけど、気になるじゃないですか」

 

「……まぁ、それもそうか」

 

 この前、俺が殺せんせーになんで教師になったのか気になったとの同じと思えば彼女の疑問も当然だ。

 

「俺の家は父子家庭って奴なんだ。母さんは俺を産んで直ぐに亡くなった。でも、父さんが頑張ってくれてるから片親の不便さってのとは無縁の生活だったけどさ。俺にとって父さんは色んな意味で偉大過ぎた。乃咲新一って知ってるかい?」

 

「それはもちろん。超有名じゃないですか……。ってまさか?」

 

「そう。お察しの通り、あれが俺の父さんだ。科学関係の番組ではほぼレギュラーだし、論文や研究かメディアに取り上げられる。そんな父を持った俺は地元だと軽い有名人だった。うんざりするくらいに。何せ、あの(・・)乃咲先生の息子だからな」

 

「……確かに。私も今、話を聞いた時、"あの乃咲先生の"って思っちゃいました」

 

「別にいいよ。今は気にしてないから。でも、当時はそうじゃ無かった。小さい頃からずっと乃咲先生のお子さんなら出来て当然って扱いをされた。それが誇らしかったのは事実だけど、成長するに連れて鬱陶しくなっていったもの事実だ。だってどんなに頑張っても"やっぱり出来が違うなぁ"で済まされるか、"流石、乃咲先生のお子さん"で片付けられて、俺自身の努力を褒めてくれる人は当時の俺からしたらゼロだった」

 

 この話をするのは何度目だろう。

 こうやって口に出して、誰かに説明するたびに嫌な思いをして来た。でも、今回は少し違った。

 

 父さんと和解して、昔の俺の周りにいた人に会って、殺せんせーや仲間たちのおかげで"こんなこともあったな"って恨み節のない素直な思いで口から自然に紡ぐことができた。

 

「周りからの期待が重かった。応えなきゃ、お父さんの息子って認めて貰えないって強迫観念に突き動かされるがまま色んなことに打ち込んだ。友達作って、身体を動かして、勉強して。ずっと1位だった。椚ヶ丘に入学するまでは」

 

「…………」

 

椚ヶ丘(うち)はさ、国内屈指の進学校ってだけあって県外からも受験して来るやつがいる。言ってしまえば、俺は井の中の蛙って奴だった。入試こそ主席だったけど、それは俺1人じゃなかった。俺と同等以上に優秀な奴がいたんだ」

 

「主席が2人いたんですか?」

 

「そう。んで、俺はそいつに呆気なく負けた。負けたつーか、自滅したんだけどさ。ずっと1位だったのが急に2位になって、色々と崩れた。当時、俺の周りには色んな奴がいたし、そいつらが口を揃えて『お前ならもっとできる』って言ってきたんだけど……ダメだった。結局、色々あって持ち直すことができなくて、あっけなく転がり落ちるみたいに最下位まで落ちた」

 

「主席から最下位に……」

 

「そう。グレて喧嘩に明け暮れて、主席だった頃に周りにいた奴らは殆ど誰も残ってなくて、学校で孤立して、変なあだ名が付けられて。そうしてるうちに3年生になった」

 

「……あれ、でも先輩って今は主席なんですよね?」

 

「…………ん?俺、そんなこと話したっけ?」

 

「他の人達が話してるの聞きました。あの坊主頭の……岡島さん?が『勉強なら乃咲なら間違いないだろ、学年主席だし。まぁ、変なこと教えそうだけど』って」

 

「あの右曲がりの変態が……っ!」

 

 岡島のやつ、あとで締める。

 なんだ、変なこと教えそうって。今のところは変なことなんて何一つとして教えてないぞ。失敬な。

 

「それで、どうしてそんなところから主席になれたんですか?学年最下位から主席って相当ですよ?」

 

「ゴホン、まぁ、あれだ。その相当があったんだよ。グレていた俺がまた勉強をする様になったのはとある人物に憧れたからだ。他人に興味を持ったと言えるかもしれない」

 

「興味………」

 

「まぁ。この人に褒められたい。認められたいって承認欲求だったけどね。でも、それがきっかけで俺はまた勉強するようになった。そして、勉強して、力を磨いて、それを真正面から受け止めてくれる人がいた。だから、今の俺がいる」

 

 俺の過去を話し出すこと何度目か。これまで何度も繰り返し話して来たこの忌々しかった話の中で今、気付くことがあった。

 これではただの一度も考え付かなかったこと。考えようともしなかったこと。目を逸らしていたことがあった。

 

「………先輩?」

 

「挫けてしまった時。全てが鬱陶しくて、煩く感じて堪らなかったあの時。周りは俺に手を差し伸べてくれてたんだな」

 

「………」

 

「頑張れ、とか、諦めるな、とか。もうこれ以上ないくらいに頑張った奴にとっては余計なお世話だ。むしろまだ頑張りきれてないだろって言われてるみたいで腹立たしかったけど……そうだよな。周りはそう言うしかないよな……」

 

 そう。ようやく思い至った。

 

 父さんと和解して、みんなに受け入れられて、自分なりに過去を呑み込んで、前向きになった今。自分の失敗を誰かに伝えたいと思って、過去を振り返って初めて気付いた。

 

 みんな手のひら返すみたいに居なくなったと思っていた。

 でも、考えてみれば、俺が彼らの手を振り払ったのだ。

 

 俺だって未熟な人間だ。それでもさっといなくなってしまった奴らを薄情だとは思う。それでも、きっかけは俺なんだ。

 

「ほんと、ガキなんだなぁ……俺。まさか生徒を教えるつもりで話して内容で自分が学ぶことになるとは……」

 

 思わず苦笑が漏れた。

 

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「挫けてしまった時。全てが鬱陶しくて、煩く感じて堪らなかったあの時。周りは俺に手を差し伸べてくれてたんだな」

 

「頑張れ、とか、諦めるな、とか。もうこれ以上ないくらいに頑張った奴にとっては余計なお世話だ。むしろまだ頑張りきれてないだろって言われてるみたいで腹立たしかったけど……そうだよな。周りはそう言うしかないよな……」

 

 彼の言葉は耳が痛いものばかりだった。

 私が受験に失敗した名門校。そこで今、主席を張っている人物が語り合えた自身の過去。私がせがんだ昔話。それは、想像以上に私と似ていた。細部は違えど、本当にそっくりだった。

 

 小さい頃から天才だと散々持ち上げられていた。塾に行かなくても勉強は出来たし、学校の成績もずっと1番だった。みんなが凄いと言ってくれたし、みんなが私の近くにいてくれた。

 そんな私が地元の難関私立中学を受験するのは、自然な流れだったと思う。同級生たちの中で唯一の受験進学。周りからの期待を背負って迎えた受験日、私は打ちのめされた。

 

椚ヶ丘(うち)はさ、国内屈指の進学校ってだけあって県外からも受験して来るやつがいる。言ってしまえば、俺は井の中の蛙って奴だった。入試こそ主席だったけど、それは俺1人じゃなかった。俺と同等以上に優秀な奴がいたんだ」

 

 井の中の蛙。それは当時の私を的確に捉えた言葉だった。先輩の言葉が私に向けられたものでないのは分かっていたけど、それでも、彼の自分語りは他人事のように思えなかった。

 

 できるつもりでいた。優秀なつもりだった。不合格通知を前に無様に崩れ落ちたあの瞬間までは。

 椚ヶ丘は超が付くほどの名門校だ。全国から受験生が集まり、卒業生はそのまま高等部に上がるか、別の名門校に進学できるという噂があるくらい。そんな噂が立つくらい、そこに通う生徒は優秀ということなのだろう。

 

 私はどうして思ってしまったのだろう。自分ならやれるって。塾に行ったわけでも、全国模試で優秀な成績をとったと言うわけでもない。自分のテリトリーの中しか知らない子供が。

 

「ほんと、ガキなんだなぁ……俺。まさか生徒を教えるつもりで話して内容で自分が学ぶことになるとは……」

 

 目の前に自嘲気な笑みを浮かべる男がいる。私の入れなかった学校に主席で入学し、挫折を経て再び主席になった男子。

 自分に問い掛ける。もしも、自分が椚ヶ丘に入れたとして、彼と同じ経験をしたとして、こんな風に笑えるだろうか。

 

 彼自身が自分をガキと称する言動を否定したくなる。数年前のことを振り返り、当時を思い出して自分が子供だったと未熟だった自分を見つめられる人間の何処が子供だというのか。

 自分はあと1年でこんな風になれるのか?所属する学校を抜きに考えて、こんな風に考えることができるようになるのか?

 

 自問する。

 

 彼との初対面の印象は悪かった。自分の行けなかった学校に通ってる奴ってのも、知ったような口振で説教してくるのも癪に触った。コイツとは仲良くなれないって思った。

 

 でも、そんな気持ちは長持ちしなかった。彼の授業は面白かった。強制してくることはなく、ただ、こちらの興味を引き続けるだけの授業は自然と頭の中に入って来た。

 

 先輩は言った。興味を持つことが大事なんだと。たった一文に興味を持つだけでも話は何処までも深掘りできるんだと実践してみせた。そして、その姿に少なからず感動した。尊敬すら抱いた。形だけ話を聞いてるだけのつもりだったのにあっと言う間に引き込まれてしまったから。 

 

 そんな彼に対する態度を改めた。たまに崩れてしまうけど、極力敬語を使うようにしたし、あたしって一人称も改めるように頑張ってみている。そんな私の努力を知ってか知らずか、彼はますます色んなことを教えてくれた。

 

 彼の教え方は分かりやすかったし、それを覚えなきゃいけない理由やついでに覚えた方がいい理由なんかを納得できる形で提示してくれるので勉強をする身にも力が籠る。

 いや、乃咲先輩の勉強方法は勉強と言うより、調べ物とかそう言う言い方のが適切なような気がする。

 

 そんな先輩だけど色んなことができるけど、完璧って訳じゃなかった。手のひらに野鳥を乗せて喜んだり、ゲームのキャラが初恋だったり、悪ノリしてダメ男みたいな言動をしたり。落ち着いた言動の割に年相応さがあるような気がした。

 

 その上で私は思った。私と先輩は似ている。

 

 受験が上手くいったか、失敗したのか。その違いはあれど、奇しくも私たちは似た様な道を辿った。

 周りの期待が重くて、周りの頑張れ、諦めるなって声が鬱陶しかったって部分も。他人事とは思えない。

 

 そして、彼の言葉は私に気づきをくれた。

 私の周りもそうなんじゃないのか。

 

 期待されていた。天才だのなんだのと同級生たちに持て囃されて、家族、親戚に応援され、学校の先生方にも背中を押されて、そして失敗した。無惨にも敗れてしまった。

 

 受験に失敗した私に色んな人たちが声をかけてきたが、掛けられた言葉は決まって『頑張れ』だの『次がある』だのばかり。自分なりに頑張っていた私はその言葉が嫌だった。

 だから手を振り払った。まるで頑張りが足らなかったと責められてらみたいで嫌で、私は周りの言葉を素直に受け止めることが出来なくなった。そしたらみんないなくなった。

 

 持て囃してきた奴らはみんな声をかけなくなった。教師たちは腫れ物を扱うようになり、両親は何も言ってこなくなった。うざがっていたはずなのに、いざ、そうやって声を掛けられなくなると周りが自分に対して興味を失ったのではないか、と感じられて寂しかったし、悲しかった。誰と話す時も目が合わず、目を逸らされ、こちらも逸らしてしまっていた。

 

 中学に上がると、同じ小学校からだけでなく、別の学校から進学してくる子もいて、当然ながら人間関係も変わる。

 私はそこで疑心暗鬼になった。私が受験に失敗した話が周りに広がるんじゃないかって気になって仕方なかった。

 

 周りがこっちを見てる時は噂されてる、名前が聞こえたら貶されてる。そんな被害妄想が頭を離れなかった。

 そして勉強にも身が入らなくなって、いつしか不登校になってしまった。どうしても行きたくなくなってしまって、1日だけ休むつもりが、休むことで気があまりにも楽になってしまったから。そのままズルズルと。

 

 結局、学校に行くか、お爺ちゃんの施設にいくか選ぶように迫られて、私はここに来ることを選び、そして先輩と出会った。

 

 そして今、自分の過去を振り返っている。

 先輩の過去を聞いて、自分の過去と似ていると感じて、見つめ直している。もしかして、私の周りも同じだったんじゃないのかって。受験に失敗した者に対してどんな言葉が掛けられる?まして、今の私よりも幼い小学生に。

 

「先輩はもし、過去に戻れたらどうしますか?その昔は周りにいたって人たちとどう接しますか?」

 

「ん〜。たぶん、多少は態度を改めるかもだけど、一切の蟠りは無しだってのは無理だな。確かに当時の俺の態度は悪かった。でも、別に手を出した訳でもないのに差別されて、イジメに近い環境で過ごすことになった。そんなアイツらに俺も罵詈雑言を浴びせた訳だし、やり直すってのは無理だと思う」

 

 先輩と私は似ている。だけど、違う点もある。私は確かに1人になった。孤立した。でも、イジメられてるわけでは無かった。

 先輩の言葉は、そう言う過去がなければやり直せる可能性もある、と言っているように感じられた。

 

 あくまで、私が感じてるだけ。彼本人にはそんな意図はないのかもしれない。自分だって今の状態が良くないのは分かってるつもりだった。だから、誰かに背中を押して欲しくてそう感じてるだけなのかもしれない。だから、都合よく受け取ってるだけなのかもしれない。

 

 でも、先輩の言葉は私の背中を押すのには充分だった。似たような過去を持ち、似たような思いをした彼。挫折を乗り越えた彼の言葉は、同じような経験をした私でも乗り越えられるかもしれないという勇気をくれた。

 

 だってこの人は私から目を逸さなかった。まだ1週間の付き合いで何を知っているというわけでもない。けど、それでも、この人は初対面の時から真っ直ぐに私の目を見た。そして今も目を見ている。真っ直ぐに見つめてくれている。

 

 失敗談とか黒歴史とか言ってるだけあって、時々、気まずそうと言うか、恥ずかしそうなところはあったけど、それでも私に伝える為に正面から見据えてくれていた。

 

 それが嬉しかった。できることなら、この人みたいなりたいって思った。伝えてくれたことに応えたいと思った。

 

「先輩は目を逸らさないでいてくれますか?」

 

 私の問い掛けに少し驚いたような顔をしつつ、彼は一瞬だけピタリと動きを止めた後、私の頭の上に手を置いて答えた。

 

「逸らさない。だから、俺と話す時は目を見てくれ。絶対に俺から目を逸らすことはしないから」

 

 その答えに安堵した。

 

 もちろん、希望的観測だ。現実はそこまで甘くないだろうし、こんな風に語る先輩が言葉以上の苦労をして来たのだって想像するしかない。でも、踏み出さない事には何も変わらないと、今、なんとなく思うことができた。

 

「………先輩、私、学校に行きます」

 

「…………………えぇっ!!!?」

 

 これまで見たことがない素っ頓狂な反応に思わず笑みを溢してしまった私は悪くないと思う。

 

「それから、気軽に女子の頭を撫でるのはセクハラです」

 

「ご、ごめん。流れ的に……!」

 

「………嫌とは言ってませんけど」

 

 先輩の目が泳いだが、これはノーカンにしてあげよう。

 

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 俺の言葉の何が彼女の琴線に触れたのか、正直に言えばさっぱり分からない。ただ、驚くほど俺の過去を真剣に聞いてくれたし、その果てに学校に行くことを決意してくれたのは嬉しかった。まぁ、今は、それを喜ぶとしよう。

 

「うぉぉぉ!!ファザコンの兄さんすげぇー!!」

 

「ぐぼっ……」

 

「圭一、いい加減に慣れろよ。毎回毎回吐血してたらキリねぇぞ。つか、"ぐぼっ"とかやる度に口からガチで赤いの吐き出してるけどこれなんだよ?」

 

「血糊」

 

「わざわざ仕込んでるのか!?」

 

「リアクションに命かけるのが芸人の仕事だろう」

 

「お前芸人志望だったか!?」

 

「おいおい、悠馬よ。そこは『なんでやねーん』だろ」

 

「それやったらいよいよ芸人なのよ……。つか、さり気なく俺も巻き込もうとするな」

 

「えぇ……?お笑いコンビ"磯乃"組もうぜ?」

 

「そのネーミングは方々から怒られるわ!」

 

 花屋の兄さんから教わったマジックを身体能力と暗殺で培った技術総動員で無理矢理再現して子供達に披露すると、あの人の言うとおり、結構受けが良かった。

 それ以外にも色んな場面で技術に助けられた。クラップスタナーの応用で泣き出した子たちの精神を落ち着かせたり、ヘリウムで膨らませた風船が木に引っかかった時は木登りの技術で、茅野主演兼監督の劇でアクションするとかは烏間先生から学んだ体術で。俺1人で厳しいことは仲間と連携して。

 

 俺たちがこの施設で奉仕活動を初めてから2週間目。松方さんとの約束の期限。俺たちは最終日でもいつもと変わらずに子供たちと接していた。だって最終日だからって特別なことをするのは自己満足にもならないだろうから。

 

「そんで、最終日だけど、各班の作業は?」

 

「終わってる。一昨日には終わって色々と点検も済ませた。保育班は?子供達とはどんな感じた?」

 

「打ち解けられた……とは思うけど、いざ評価されるとなると、緊張するもんだよな。少し不安だ」

 

 松方さんは烏間先生が迎えに行っている。あと十数分でどちらにせよ終わる。俺たちを秘密にして貰えるか、それとも訴えられ、殺せんせーもろとも世間に公表されるか。

 

「でもさ、なんだかんだ言っても楽しかったよね。遊びでやってたつもりなんて全くないけど、私たちのチカラってこんな風に使えるんだなぁって」

 

「だな……。俺たちも懲りたよ。チカラの責任って奴を考えさせられた。もう2度と、みんなにこんな迷惑かけたりしない。E組のみんなや先生たちだけじゃなくて、一般の人達にも」

 

「……だな」

 

 この2週間を振り返り、みんながそれぞれ考えて出した答えを告げる。特に岡島の実感の困った言葉にみんなが頷いた。

 

 その時だった。

 

「なんということでしょう!!!?」

 

 なにやら老人の驚愕する声が聞こえた。

 

「………」

 

「寺坂?」

 

 松方さんらしき人物に向かって歩き出す寺坂。

 彼の前に立つと奴は徐に頭を下げた。

 

「この前はすみませんでした」

 

 そんな寺坂に続いて岡島、木村が行った。そして、そんな彼らに続いてあの日、フリーランニングで下校したみんなが行き、俺たちも続いた。全員が頭を下げた所で悠馬が口を開いた。

 

「松方さん、申し訳ありませんでした」

 

「ッ、しゃ、謝罪を受け入れるかどうかはお前達の仕事次第じゃ。それよりこの異様に様変わりした建物について説明せんか!!たかが2週間ポッチでなにがあった!!?」

 

 入れ歯が飛び出しそうな勢いの松方さんに急かされて歩き出す。建築・技術班は各設備自分が関わった部分の説明。それ以外は保育に戻る。ちなみに、俺は綾香ちゃんが不在なので説明組に混ざることにした。

 

「先ずはこのデカい増築物!なんじゃこれは!!?」

 

「俺たちの学校の山から間伐したり、集めた廃材を再利用、加工して作りました。子供達の多さ的に手狭感がありましたからね。床も腐りかけてたりボロボロだったので全て張り替えてます」

 

「に、2週間で……?」

 

「凄かったんですよ、この子たち。まるで鳶職人みたいに休まず機敏に動き回ってあっという間でした」

 

「強度に関してもご心配なく。コンピューターで強度計算はぴったりですし、建築士の資格を持ってる人の監修も受けてします」

 

「で、出来すぎとる……」

 

 若干引いたような声音と顔色で表情筋をピクピクさせる松方さんの前を歩いて悠馬が施設の中を案外する。

 

「2階部分は大きく二つに別れてます。そのうちの一室はここ、図書館です」

 

「だだっ広いな……。それにこれだけの本を何処から?」

 

「時間と資材が限られてたんで単純な構造になってます。でも、その分視界が開けていて死角が殆どないので入室して一目で部屋の中の状況が分かるかと」

 

「本は近所の家で読まなくなった奴とか、図書館で廃棄予定だった奴を貰えんだ。子供達喜ぶかなって」

 

「………ぬぅ」

 

「次は室内遊技場です」

 

「し、室内遊技場じゃと!?」

 

 驚いた声を漏らしながら歩く松方さんの表情が子供達の楽しげな声を聞くと同時に僅かに和らぐ。

 この人は本当に子供が好きなのだろう。まぁ、そうでなければ明らかに割に合わない金額で子供を預かったりしないか。

 

 そんなこと思ってると、彼の顔がまた強張った。

 

「な、なんじゃ、これは!?」

 

 視界に広がるのはアスレチックやら回転遊具、ちょっとしたボルダリングが出来る壁に、床を隙間なく覆う柔らかいマット。

 

「大人ですら雨の日でも体を動かしたがるんだから、小さい子は尚更だと思いまして、図書室ともう一つは室内遊技場にしてみました。安全対策にネットやマットを入念に敷き詰めたと同時に雨漏りしない室内に遊具があるので腐食や鯖で脆くなるのは防げる様になりました。さっきの図書室の机も、ここも角張ってるところは面取りして安全シートも貼ってます」

 

「なんと………」

 

「爺さん、あの回転遊具覚えておいてくれな。あれが次の設備のキモになってっからよ!」

 

「まだあるのか!?」

 

「はい。それでは次はガレージです」

 

「が、ガレージ………」

 

 松方さん、ツッコミ疲れないのかな。

 さっきからめちゃくちゃいい反応してくれてるが、あんまりにも激しいツッコミをしていると心配になってくる。

 

「自転車は俺たちに驚いて転んだ拍子にフレームが歪んでしまいましたから。それにあの量をママチャリに積載するのは少し無理があると思ったので、前輪のカゴを巨大化させ、サドルの後ろにも同じ容量のカゴを起き、更に走行時のバランスを取る為、前輪を2輪に増設して3輪車形式に。荷物が多いとその分漕ぐ力も必要になるので電動アシスト型へ技術班で改造しました」

 

「どんな技術力をしとるんじゃ貴様ら!!?」

 

「なお、松方さんの思い出の入れ歯はベルに再利用しました」

 

「そんな匠の気遣いもいらんし!!」

 

「ちなみに、この自転車の電動アシストは上の回転遊具に備え付けられた発電機と接続できるので、子供達が遊べば遊ぶほど電気代が浮く仕組みです。それ以外にもいざとなったら緊急用のバッテリーとしても使えるでしょう」

 

「上手く出来すぎとる!!」

 

 ここらで松方さんの限界が訪れた。

 

「お前ら手際良すぎて逆にちょっと気持ち悪いぞ!!?訓練ってあれか、職業訓練センターとかそっち方面か!?」

 

 あながち間違いでもない様な気がするのが酷い。

 思えば、イトナから電子工作を、吉田から金属加工を、ビッチ先生から交渉術を、烏間先生から色んな体術を教わっている。それ以外でも、菅谷や岡島、三村なんかに教えを乞えば芸術関係も身に着くだろうし、竹林や奥田さんからは科学知識が得られる。

 

 職業訓練センターと言って差し支えないかも。

 

「……それに、第一、ここで一番重要なのは建築の仕事ではない。子供たちと心と心を通わせることだ」

 

 ここで冷静さを取り戻した松方さんが俺たちを見据える。

 その目は言外に、建築にかまけて子供達を蔑ろにしていたのであれば絶対に許さないと語っていた。

 

 真っ直ぐな瞳だ。おそらく、綾香ちゃんがグレなかったのはこう言う目をしている大人が近くにいてくれたからなのかな。

 

「いくら物を充実させても、お前達が子供たちの心に寄り添えていなかったのなら、この2週間ここで働いたとは認めんぞ」

 

 おっしゃる通りだ。そればかりは子供達を見た彼に聞くしかない。俺たちでは何も言えない部分だ。

 

 しかし、その時だった。

 

「あっ、おーい!渚ー!!」

 

 パタパタと元気よく走ってくる子がいた。

 さくらちゃん。尖具合で言えばここの子供の中でトップだった子。素直にお礼が言える子ではあったが、オブラートに包んだ言い方をしないのであれば曲者だった。

 

 しかし、そんな子が渚に満面の笑みでテストの答案を見せていた。近くにいる園長に目もくれずに。

 

「みてみて!95点!クラスで2位だったよ!」

 

 そんなさくらちゃんを撫でながら渚が褒める。俺たちがこの教室で学んでいることを簡単に伝えながら。

 

「2年も学校に行くことを拒んでいたこの子が……」

 

 流石にこれには松方さんも驚いたらしい。

 しかし、その驚愕は続く。さくらちゃんが入って来た方向からもう1人、入って来た。見慣れない制服に身を包んだ俺たちと同じくらいの女子。その姿をみて彼は目を見開いた。

 

「綾香……?その制服は?」

 

「おはよう、お祖父ちゃん。ちょっと学校に行ってた」

 

「なんと……綾香まで……!?」

 

 そうか、親戚ってそう言う繋がりか。確かに松方さん、孫とかいても可笑しくない年齢に見える。

 頭の中で妙に納得していると、綾香ちゃんが俺の前まで歩いて来た。何やら足が震えている。

 

 ここでトイレか?なんて野暮なことは聞かない。

 

「お疲れ様。どうだった、久しぶりの学校は」

 

「疲れたし、緊張した。なんとなく、自分のテリトリーじゃないって感じがヒシヒシとしてとにかく疲れましたよ」

 

 疲れたと言う割に、彼女の顔は明るい。

 

「その割に機嫌は良さそうじゃないか」

 

「……うん。学校に行ったらさ、話しかけてくれたんだ。昔の友達がさ。『大丈夫?』って。ただ心配そうに。私のことを貶めようとかそんな感じは全く感じなかった」

 

「そっか。これからも通えそう?」

 

「分かんない。教室にいる間も動悸が止まらなかったから。居心地いいとは思えなかった。でも……うん、頑張ってみる」

 

「無理しない程度にね」

 

 頑張ると決意表明してくれたところに水を指す様なら形になるが、それでも無理はしない様にという一言は付け加えなければならなかった。その結果、無理と無茶をしてかつての俺の様になって欲しくないから。

 

「………それだけですか?」

 

「……ほぇ?」

 

 綾香ちゃんが何故か唇を尖らせていた。

 何処か不満そうな目で俺を見る。

 

 一度だけ俺と目を合わせた後、彼女は渚とさくらちゃんのペアを見た。渚に撫でられてご満悦そうなさくらちゃんを。

 

「………セクハラなんじゃなかったか?」

 

「嫌とは言ってなかったじゃないですか」

 

 何やら気難しい教え子に観念して手を伸ばす。

 殺せんせーがやる様にゆっくりと手を動かし、撫でる。髪が崩れると怒られそうなのでゆっくり丁寧に。

 

「……学校には行きましたけど、それでもやっぱり私の勉強は遅れてます。先輩、これからも教えてくれませんか。勉強だけじゃなくていいんです。もっと、いろんなことを」

 

 後輩からの思いもよらないおねだりに驚く。しかし、断る理由はない。それに、一度関わって、目を逸らさないとまで言った以上、ここでほっぽり出すのは無責任だろう。

 少なくとも、彼女が同級生たちに追いつくまでは見る義務があると思う。加えて、彼女を教えることで俺自身にも学びというか、発見があった。今後もそう言うことがあるかもしれない。

 

 親は子に育てられる、なんて言葉があるが、なんとなく分かった気がする。もっとも、俺たちの間にそんな歳の差はないけれど。彼女を見ることは俺の成長にも繋がるだろう。

 

「あぁ。もちろんだ。嫌じゃなければこれからもよろしく頼むよ、綾香ちゃん」

 

「はい、乃咲先輩。よろしくお願いします」

 

 何気なく思う。

 俺はこれまで、自分より成績の悪い奴らを見下していた。E組の仲間たちは見下してないが、本校舎の連中のことは完全に下に見ていた。俺のことを散々見下していたからだ。

 

 でも、そうやって自分より成績が悪い奴らを見下すのって結局、アイツらや五英傑と同じだよな。

 

 そして何より、俺たちは合格したから今の学校にいる。合格した奴がいるなら、落ちた奴もいる。目の前の彼女の様に。成績が下だからって相手を見下すのは、この子を見下すのと同じじゃないのか?俺はそれで良いのか?

 

 夏休み明けの俺の態度、五英傑たちに投げてきた言葉。それらは、目の前の生徒に対して誇れる態度であったのか?君たちの落ちた学校に通ってる俺たちは3年でこんな風に成長できたんだぞって、姿を見せて納得してもらえる姿だったか?

 

 勉強ができるだけの、参考書がなければ何も出来ない頭でっかち。その上、自分より少しでも出来ない奴は見下す。そんな姿をこの子たちに誇ることができただろうか。

 

 撫でながらそんなやりとりをしてると、松方さんが咳払いした。そう言えば、この人の孫だったな、この子から手を離す。

 

「………クラス全員というには人数が足らない様だが、他の連中は何をしている?」

 

「みんな、子供達といます」

 

「………案内してくれんか」

 

「はい、こちらです」

 

 ほんの少しだけ松方さんの話し方が柔らかくなった。

 そんな彼の言葉に頷いて悠馬が変わらず賛同し、もともとの母屋へと移動する。そこでは、相変わらず子供に大人気な茅野を筆頭に劇をしているようだった。

 

 きゃっきゃ、わいわいと笑う子供達の顔を見て松方さんが今日で一番安心した様な顔を見せた後、なんとなく優しそうな目でそれでいて憎たらしそうに俺たちを見た。

 

「ふん……クソガキども……。文句の一つも出て来んわ」

 

「それじゃあ……!」

 

 みんなの顔が明るくなる。無事、仕事は果たせた。そんな安堵感を抱いたと同時、松方さんから予想外の言葉が出た。

 

「ただし、お前達に対する総評はまだだ。わしの問いに答えられたのなら、認めよう。お前達は責任を果たしたと」

 

「問い……ですか?」

 

「その通り。わしがお前達を許す条件を出した時、お前達の担任は言った。『生徒を健全に育てる為』と。そんなことを言われたら同じ教育者としては断れん。お前達の努力は見た。じゃが、お前達はこの2週間で何を学んだ?答えてみろ」

 

 松方さんが真っ直ぐに俺たちを見た。

 その瞳はなんとなく、俺たちと向き合ってくれてる烏間先生に似ている様な気がして、それと同時にこれは、俺たちが何を考えでこの2週間を探したのかという総決算である様に感じた。

 

 この場にいる大人の視線が俺たちに向く。

 ここの職員さんだけでなく、俺たちの監督役として迷惑を掛けてしまった烏間先生からの視線もあった。

 

 そんな中で、渚が口を開いた。

 

「……僕たちは自分たちの為に力を身につけました。名誉やお金の為、勉強するのは成績の為。ずっとそう考えていました」

 

「でも、この教室で身につけた俺たちの力はきっと、望めば手に入るようなものじゃなくて。だからこそ、使い道を考えなきゃいけなくて。そんな力だからこそ、誰かの為に使うって選択肢もあるんだって思い出したっす……」

 

「だから、もっと気を付けます。色々と、もう下手な使い方をしない様に。先生たちがくれた力は俺たちを助けてくれる。そんな力を今度は誰かを助ける為に使います」

 

 渚に続いて岡島と木村が言った。話によると先頭を走っていたらしい2人。彼らだけに責任がある訳ではない。だが、一番責任を感じていたのは彼らなのかもしれない。

 

 2人の言葉に満足したのかはわからなかった。

 しかし、松方さんは肩を小さく竦ませるとシッシ、とまるでさっさと去れと言わんばかりのジェスチャーを見せた。

 

「もとよりお前達の秘密なんぞに興味はない。ワシの頭はいつでも仕事で一杯だからな。わしは無事にここに帰って来た。お前らもさっさと戻らんか。…………大事な仕事があるんだろう?」

 

 ぶっきらぼうだが、温かい言葉だった。

 

 その一言で俺たちは本当にこの2週間の特別授業を経た松方さんたちわかばパークへの賠償を自力て完了できた。

 綾香ちゃんと週一で勉強を見る約束をして、俺たちは帰途に着いた。賠償の為の2週間だったが、思えば暗殺教室で身につけたチカラを身内以外の為に使った初めての体験。

 

 それは、自分の力の使い方やこれまでの考え方と向き合うのにとても大切な時間であったと言える。

 

 さて、しかし、現実は非情だった。

 そんな万感の思いでわかばパークを後にした俺たちを待っていたのは中間テスト。全てが終わったのはテスト前日。

 賠償中、自分たちの勉強に触れてこなかった俺たちは当然ながら激しい苦戦を余儀なくされてしまった。

 

 結果として、今回の中間テストの結果はこれまでの努力を鑑みても、とても悔しいものになってしまった。

 




あとがき

はい、あとがきです。

なんと言うか、やはりと言うか、うちの子は花屋の兄ちゃんに狙われております。果たして、彼らの絡みや衝突はどうなってしまうのやら……。

なんか、いよいよ彼の出番が近いと思うと物語も終盤に差し掛かって来てる感じがしますよね………。この調子で完結までよろしくお願いします!

今回もご愛読ありがとうございます!
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