暗殺教室 不良児は認められたい   作:ZWAARD

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加えてたくさんの高評価、感想ありがとうございます!

昨日頂いた感想への返信はまだ出来ていませんが、全部に目を通させて頂いております。

昨日に続き、連投させていただきますのでお付き合いください……!


117話 アフターの時間 2時間目

 

 わかばパークでの賠償が終わった俺たちを待っていたのは、テスト前日まで勉強をロクにしていなこったという現実だった。しかしながら、そこにどうこう言うつもりはない。果たすべき責任を果たしただけだから。

 

 しかし、しかしだ。納得できないことだってある。

 

「くそっ………!」

 

 机に叩きつけそうになった拳を静かに降ろし、代わりに短く小さく吐き捨てる。そうしなければ気が狂いそうだった。

 

「圭ちゃん………元気だしてよ。圭ちゃんがそんな風になってたら、私たちも立つ瀬がないからさ」

 

「でも……っ、でもっ……!こんなのって……!」

 

「圭一。気持ちは………分からないでもないような気がするが、お前は充分やったって。2週間勉強せずにこんな成績、普通は取れないよ。だから元気だせって」

 

「そーそー。普通に嫌味っぽいぞ、乃咲」

 

「ねぇ、渚。もしかして乃咲ってかなり負けず嫌い?」

 

「そうかも……。茅野は聞いたことない?乃咲が修学旅行の新幹線でババ抜き6連敗したって話」

 

「……あぁ、そんな話してたっけ」

 

 俺を囲んで好き勝手なことを言ってくるクラスメイト達。

 周りは認めてくれる、頑張ったと。しかしながら俺としては不服でしかなかった。やれることはやった。だからこそ、もっと別のところで頑張っていれば、という気持ちが滲み出てくる。

 

「なんでっ、なんでまた学秀と同点なんだよ………っ!!」

 

「ちゃっかり主席キープしてるじゃねぇか。はっ倒すぞ」

 

 また学秀と同率同点の1位である。しかも今回は殺せんせーの情報によると俺とアイツの満点の数は同じ。前回の同点だが、満点の数で負けたという状況から見れば進歩している。しかし、それは同時に各教科で見れば負けてる部分があるってことだ。

 

「お前の理屈だと全教科満点以外じゃ満足できないんじゃ?」

 

「でもまぁ、凄いよな。乃咲もそうだけど、カルマも。1位が2人いるから2位を飛んで3位って考え方も出来るけど、素直に見たら学年2位だもんな、お前ら隠れて勉強しすぎ」

 

「まぁ、確かに成績は上がったけど、この成績で満足してたら、あのタコなら『1位じゃないからダメですねぇ』とかぬかすんだろうし、鼻を明かすにはまだまだだねぇ」

 

「そんなカルマに1位から教えておくと、1位をとっても『全教科満点じゃないからだめですねぇ』が飛んでくるぞ」

 

「ちぇ、厳し〜な」

 

「まぁ、その分、俺たちならまだまだやれるって期待されてるってことだし、いいじゃん」

 

「乃咲クンも随分とポジティブになったこと」

 

「色々とあったからなぁ」

 

 しかしまぁ、いつまでもクヨクヨしてる訳には行かないか。

 

「よし、切り替えよう。次がある」

 

「ま、そーだね。それに、本校舎の連中は内部進学の為の勉強、俺たちは高校受験の為の授業に切り替わる。同じ条件でテスト出来るのもこれが最後だし、それまでに刃を磨いて次は浅野くんもろとも殺してあげるよ、乃咲クン」

 

「カルマらしからぬ爽やかな発言だこと……」

 

「いや、いくら爽やかでも言ってること物騒すぎるだろ」

 

「まぁ、これがこの2人の距離感なんでしょ、知らんけど」

 

 それぞれが今回の反省を出し合ったところで悠馬が時計を見る。1限目はテストの返却だった。本当なら授業が始まる前にやるべきことがあったが、生憎と彼が会議に呼ばれていて不在だったので実行できずにいた。

 聞いた話によると、そろそろ戻って来るらしい。みんなで時計を確認して、無言で頷き合い、俺たちは職員室に向かった。

 

 俺たちが今回、迷惑を掛けてしまったのは松方さんたちだけではない。治療費や機密の漏洩。そういう監督面で色んな迷惑を烏間先生に掛けてしまった。そんな彼に謝らなきゃいけないと言うのは満場一致の意見だった。

 だから、俺たちは全員で職員室に向かった。学級委員で俺たちのリーダーの悠馬が代表して扉を開けると、烏間先生は机仕事をしているようだった。

 

「迷惑かけてすみませんでした。烏間先生」

 

「これも仕事だ。気にしなくていい」

 

 彼の返答はある程度は予想できていた。

 しかし、それだけでは終わらず、彼はパタンとノートパソコンを閉じると、俺たちを真っ直ぐに見据えた。

 

「この件で何か学ぶことが出来たか、というのは松方さんが聞いてくれたことで俺も君たちの考えを知っている。だが、それでももう一度、俺の言葉で聞きたい。暗殺にも、勉強にも、今回の件は大きなロスになったと思うが、そこから何か学べたか?」

 

 試す様な問い掛け。それに対する答えは持っていた。

 

「殺す力で世界を救える。学力で誰かを助けられる。先生たちがそうしてくれる様に、この教室で学んだチカラで誰かを助けられる様に、もう間違えないように気を付けます」

 

 悠馬が答え、みんなが頷く。

 みんな、思うことは同じだったらしい。

 

 答えを聞き、俺たちが頷くのを見た烏間先生がふっと笑い、職員室内の自分のデスクにいたビッチ先生が微笑する。

 

 だが、次に俺たちを出迎えたのは烏間先生からの思いもよらない一言だった。

 

「だが、"今の君たち"では高度訓練は再開できんな」

 

 言葉だけを聞けば俺たちではまだ役者不足と言われてる様に感じられないこともない文脈だ。

 けれど、この人が本当に無理だと判断したのならこんなまどろっこしい言い方はしないだろう。

 

「なにせ、このあり様だ」

 

 俺の予想に違わず、烏間先生は言葉を続けると、デスクの下に手をツッコミ、何やらボロボロのジャージを取り出した。

 

「……あっ、その股が破れてるの俺のだ」

 

「こっちの袖に妙な切れ目が入ってるのは俺のだな。ワイヤーの訓練中に切っちまった時の……」

 

 どうやら、俺と岡島のジャージだったらしい。

 先生はそれを一瞥すると廊下に向かって歩き出し、短く『持って来てくれ』と声を掛けると俺たちに振り向く。

 

「ハードになって行く暗殺と訓練に、もはや学校のジャージでは耐えられん。ボロボロになっていくジャージをみれば、親御さんにも怪しまれるし、何より君たちの安全を守れない」

 

 そこまで言い終わると同時、鶴田さん達が大きめのダンボールを持って職員室に入って来た。

 それをデスクの上に置いて開封すると、一人一人、俺たちの名前が順番に呼ばれ、その中にあったものを手渡される。

 

「……服と靴……?」

 

「その通り。防衛省(くに)からのプレゼントだ。今日を堺に君たちは、体も心もまた一つ、強くなる」

 

 烏間先生の目配せで、包装されていた袋を開けて、中のそれを広げてみると、まるで何処かの特殊部隊が来ていそうなデザインの上着とズボンが入っていた。

 

「先に言っておくぞ、それより強い体育着は地球上に存在しない。我々に用意できる最高の保護具だ」

 

 烏間先生にしては珍しく何処か得意気で、でも、その態度も納得できてしまうくらいの性能が秘められていると理解する。

 手に持った瞬間、その異常性の一旦を垣間見た。この服、びっくりするくらい軽い。手に持っているのに、重さを感じない。

 

「本日から、体育はそれを着て行うものとする」

 

「……なんか、特殊部隊の装備みてぇ」

 

 杉野の呟きにほぼ全員が頷いた。

 そんな俺たちの反応に満足したのか、烏間先生がこの新装備について細かく説明してくれた。

 

「それもそうだ。それには軍と企業が共同開発した強化繊維が用いられている。衝撃耐性、引っ張り耐性、切断耐性、耐火性。あらゆる要素が世界最先端の装備だ。極小数の限られた特殊部隊に配備される様な代物と言える」

 

 戦慄する。言ってしまえば、本来ならこの広い世界の中でも指折りの能力を持つ部隊にこそ配備されるべき最新装備。一般人に最新鋭の戦闘機の機密を公開しているようなものだ。

 

「そんなすげぇ装備を俺たちが付けていいんスか?」

 

「問題ない。ちょうど、性能テストのモニターを探していたからな。それに、キミらも世界を救う任務を背負った立派な特殊部隊だ。これを身につけるのに文句は言わせん」

 

 烏間先生からの力強い肯定に嬉しくなると同時に、先日の失敗に対する申し訳なさと、今後はもう間違えられないと言う思いで気が引き締まる。いくら性能テストのモニターとは言え、これを受け取るということは、俺たちはこれまでの自称特殊部隊ではなく、国から公認で特殊部隊になったも同然だ。

 

 なんだか、感激すると同時に恐れ多い様な気持ちが胸を締める中、いつの間にか隣にいた倉橋さんが一つ気づく。

 

「あれ?圭ちゃんのだけなんか違くない?」

 

 その声に視線が俺に向けられ、俺もまた周りの装備に目を向ける。そうすると、確かに違いがあった。

 

「俺のは長袖なんだな……」

 

「あっ、本当だ。なんで?」

 

 周りの装備は半袖だった。半袖にアンダーアーマーを付けて素肌を防護するタイプなのに対して俺のは長袖だった。

 

「これは、一応軍でも配備が検討されてる装備だ。ある種のコンペティションの様なものが行われていてな。内容としては主に2つ。皆に配布したのは性能に差がない採用検討型。それに対して乃咲くんのは拡張性を持たせることで特定の個人の能力補助に特化させることを目的にした試作型だ」

 

「試作型……!ロマンのある響きじゃねぇか!」

 

 確かにロマンのある響きだが、疑問は残る。

 試作段階のワンオフ機とか主人公属性モリモリでオタクとしては大好物なのだが、実際に自分に配備されると不安だ。

 

「なんでそんな更に特殊な装備を俺に?」

 

 俺の質問に対する答えはもともと待ち合わせていたのか、烏間先生は特に思考を巡らせる素振りもなく答えた。

 

「キミの能力の水準はかなり高い。特に近接戦に強い。だから、キミのそれは近接戦に強く調節されている。目的としては、個人の得意分野に特化させた装備を作るメリットがコストに見合うのかという調査と、採用検討型との差別化が出来るのかという模索だ。そう言う意味で、近接能力が頭一つ抜けているキミ以上の適任はいないと判断した」

 

 烏間先生から下された嬉しい評価。

 しかし、だ。実際に軍に配備される可能性がある試作品の実験テストだと思うと少しだけ荷が重い。

 

 そんな俺の心情を知ってか、烏間先生は続けた。

 

「キミのチカラは実際のところ俺に迫る勢いで伸びている。自分で言うのもなんだが、精鋭部隊出身の俺とほぼ同等だ。なにより、ターゲットに一番ダメージを与えているのはキミだ。少しでも可能性が上がるのなら、願ったり、叶ったりだろう」

 

 烏間先生とほぼ同等。本人からのそんな評価に震えそうになる。言葉を濁して伝えることはあっても、彼は口八丁で他人を褒めることはしないだろう。

 嬉しいものだ。なんとなく、頑張って来た甲斐があったと思ってしまう。烏間先生に特殊装備を与えて貰える程に俺は高く評価して貰っていたと言う事実が嬉しくてたまらない。

 

「それには、追加で色々と装備がつけられる様になっている。あんまり追加し過ぎると機動性は落ちるだろうが……必要だと感じるものがあったのなら、遠慮なく言ってくれ。最新鋭の装備を地球を破壊する超生物相手に使用した場合の多様な運用データの収集の為、と言えば上の連中も動くさ。可能な限り手配しよう」

 

 なんとも心強い限りである。

 しかし、言われてみると納得だ。確かに最新鋭の装備を地球を壊す化け物相手に安全に試すことが出来るというのはこれ以上ないくらい理想的な状況だ。俺たちの安全を守ろうとしてくれてる烏間先生と防衛省を始めたとした国の中枢の利害がここに来て一致した結果、この装備が送られたわけか。

 

 まぁいい。防衛省とか国とかの企なんざ興味はない。この装備はシンプルに烏間先生からの期待と信頼の証として大切にしよう。いつか、期待に応えられるように。

 

「ヌルフフフフ……。なにやらカッコいい装備を持っていますねぇ。どうやら帰ってくるタイミングが少し悪かったようです」

 

 その時、いつの間にか何処かへ出かけていたらしい殺せんせーがちょうどよく帰ってきた。

 

 これはタイミングが良いのか悪いのか。

 しかし、新しいチカラを貰って、俺たちは決意を新たに殺せんせーに向き直り、彼に向かって宣言した。 

 

「殺せんせー。誓うよ。俺たちのこの『チカラ』は誰かを守る目的意外で使ったりしないって」

 

「——えぇ。満点の答えです。明日からは普通の授業に戻りましょう。……ですが、一つだけ。その"誰か"に皆さん自身も含めること。自分を大切にしない生徒に暗殺者たる資格なし。これは揺るぎません。いいですね?」

 

「……はいっ!」

 

⬛︎

 

⬜︎

 

⬛︎

 

 烏間先生からのプレゼントを受け取った後、俺たちは早速、殺せんせーにその力を見せつける様に暗殺を仕掛けた。

 まぁ、暗殺と言ってもせっかくの新装備の性能の確認と殺せんせーに対するある種の決意表明だ。新しい『(ちから)』をどんな風に使うのか。それを見せる為の。

 

「————って可能ですか?」

 

「問題ない。すぐにでも作らせるから少し待っていてくれ」

 

 殺せんせーは俺たちの答えに満足して顔に紅い丸を浮かべて背中を押してくれた。そんな俺たちはたっぷりとこの新装備に慣れる為に烏間先生監修のもと、色んなことを試してみた。

 

 実際に使ってみると、その性能に驚かされる。持って見て軽いのは分かっていたが、身につけるとそれをより強く実感する。一周回って服を着てるか不安になるくらいに軽い。

 そして、この付属の靴は中にバネでも入ってるんじゃないかってくらいによく跳ねる。その癖、これも軽い。服とズボンと靴の総重量が普段のジャージよりも軽いのだ。

 さらに驚くのが、この服の迷彩能力。特殊な繊維に反応する揮発性の高い専用塗料を使うことで一時的に色が代わり、即座にどんな場所でも迷彩能力を発揮できる。

 

 おまけに、あの後渡された付属装備もある。

 本物のナイフ、そしてスタンガン。軍隊での運用を前提にしているだけあって、付属の装備もかなり危険だ。

 

 しかし、本来、殺せんせーの暗殺において必要ない筈のナイフやスタンガンを前もって撤去、あるいはあの場で回収しなかったのは、烏間先生からの信頼と……もしかすると、今後使う機会があるかもしれないという危惧なのかもな。

 

 一通り、新装備を試した頃にはすっかり放課後。

 みんな解散することになり、俺は早速、烏間先生に俺の装備への追加要望を出しに行っていた。

 

 みんなで決めた呼称、『超体育着』はこの時点で超性能だが、俺のモノは烏間先生が近接戦に特化させたというだけあって、みんなと共通のナイフ、スタンガンに加えて、袖口に対先生ワイヤー、袖やズボンに投擲用の小型ナイフが着いている。

 

 が、それだけでは俺が最も得意とし、最も適性のある攻撃は繰り出せない。何せ、全力になった俺のゾーンから繰り出される一撃に耐えられる武器がないという問題については今だに何一つとして解決できていない。

 ある種の妥協策として、ワイヤーを学んでいるが、それもあまり芳しいとは言えない。素直に耐久力のある武器を作ることも視野に入れるべきだと考え、それとなく烏間先生に伝えたい要望の中に混ぜておいた。あとは待つしかない。

 

「あっ、圭ちゃん。烏間先生とのお話終わった?」

 

「あぁ。これから帰るところ」

 

「なら、一緒に帰ろ?」

 

「ん、分かった。鞄持ってくるから待ってて」

 

 職員室から出ると、倉橋さんが待っていてくれた。

 普段なら矢田さんたちと帰ってるのに、俺を待っているというのは珍しいな。なにか話したいことでもあるのか?

 

 思いながら鞄を持ってくると、いつの間にかビッチ先生が彼女と合流し、何かを話し込んでいた。

 

「お待たせ、ビッチ先生も帰りっすか?」

 

「まぁ、教師の仕事とか言ってもテストは終わったばっかり、授業の準備も大してやることはない。書類仕事もあるわけじゃないからね。今日はもう帰ろうと思ってたのよ」

 

 この人の本業は殺し屋だし。教師をやってくれているが、それでも正式な教師と言うわけでもないから、書類仕事関係があんまりないのもある意味で当然か。

 

「ほぇ〜」

 

「あっ、ビッチ先生も途中まで一緒に帰ろうよ〜」

 

「流石にガキどもの乳繰り合いに割って入るほど見境を無くしたつもりはないのだけど、お邪魔じゃないのかしら」

 

「邪魔なんて思ってないよ。ね、圭ちゃん」

 

「えぇ。両手に花で帰れて光栄ですとも」

 

「言うようになったわね、ガキンチョの癖に」

 

 俺のことを生意気そうに見て笑い、俺たちの脚はゆっくりと帰途に着く。帰り際の話題は自然と超体育着について移って行く。俺たちの中で今、一番ホットな話題だもんな。

 

「えっ、女子の体育着のデザインはビッチ先生のなの!?」

 

「そうよ、カラスマの奴と来たら女心を一切分かってないんだもの!男子のゴツい奴と丸っ切り同じデザインで作ろうとしてたのよ!?流石にアレは無いわよ!」

 

 彼女はギャイギャイ言いながら何処からか取り出したスケッチブックにデザインパターンを3つ書き出した。

 男子のデザインと同じ①が烏間先生の初期案。フリルの付いた水着みたいな③がビッチ先生の案。そして、今の女子のデザインの②が2人の案を統合させた折衷案らしい。

 

 つか、絵が上手い。優れた殺し屋はよろずに通じると言うだけある。殺せんせーに埋もれてしまいがちだが、この人も大概の事に精通しているよな。出来ないのは力仕事くらいなものだろう。

 

 ……………もっとも、精通してる、というより、精通させる側という方がこの人にとっては嬉しいのかもしれないが。

 

「にしても、初期に比べて防御力は落ちるような……」

 

「え〜?でも可愛いよ?」

 

「男ってこれだから……。服は露出があるのを好む癖に、装備とかそういう話になると急に防御力がどうこう言い出すんだもの。まぁ、あの堅物は本当にその辺興味あるのか微妙だけど……。本当に女心が分からないんだから……っ」

 

 何やら、ビッチ先生がネガティブに入ってしまった。

 そんな姿から何か察したのか、倉橋さんが声をかける。

 

「ねぇ、ビッチ先生。そう言えばこの前、誕生日だったんだよね?烏間先生烏間何かプレゼント貰えた?」

 

「……………ふっふっふ……」

 

 その時かけに彼女は肩をすくめて笑った。

 この笑い方は知っている。来るべき決戦に向けてウッキウキで石の材質まで選んで使ったリングを悟空にせこいとか言われて明らかに傷付いた反応をしたセルと同じだ。

 

「つまり貰えなかった、と………」

 

「うちらも奉仕活動中であげられてなかったもんね」

 

「だな………」

 

「ほんと……どいつもコイツも……。最近はロヴロ師匠(せんせい)とも連絡取れないし、孤独だわ……」

 

 ごめん、先生。なんなら、忘れていたまである。

 流石にこれだけ世話になっているというのに、この扱いは少し可哀想だ。同情もあるが、普久間島の時とか、英語の授業だけでなく、技術面でも色々と教わっているのだ。感謝の意を示す為にも何かしらは贈りたい。

 

「ビッチ先生。なんか欲しいものとかありますか?まぁ、世界中の男を落としまくってる先生が満足出来そうなもの、用意できる自信はありませんけど」

 

「乃咲、随分とストレートに聞いてくるじゃない。オトコってこういう時、サプライズしたがるものじゃない?」

 

「サプライズで贈ったものが必ず喜ばれるとは限らないですからね。どうせなら何か有用に使えるものが良いでしょう?」

 

「それもそうだし、有難い気遣いだけど、オンナとしては、相手が一生懸命に考えてくれたプレゼントが嬉しいものよ?ねぇ、ヒナノ?一生懸命にプレゼントを選んでくれるってことは、それだけソイツが自分のことを考えてくれてるってことだもの」

 

「そ、そうだね……。私もそうなら嬉しいな。プレゼントで大事なのってモノより、そう言う部分じゃない……?」

 

「……なるほど。それもそうか。んじゃ、プレゼントは俺が選んでみますよ。センスない奴でも怒らないでくださいね?」

 

「ふふっ……。その時は大人の女の意見をたぁ〜っぷり聞かせてあげるから覚悟なさい?」

 

「へいへい……」

 

 まぁ、2人の言う通りかもしれない。小さい頃の誕生日、父さんにまだそこまで激しいコンプレックスを持ってなかった頃。トメさんにプレゼントを買いに連れてって貰った。

 旦那様から好きなものを選んで良いと〜とかそんな現金を渡して好きなものを買えって感じじゃなくて、なんでも良いから、本人から渡して欲しかったと思ったことがある。

 

 きっと、それに似た感覚なのだろう。

 

 仮にそうなら、このまま放置というのも忍びない。仕方ない、一肌脱いでやるとしますかね。

 烏間先生にビッチ先生のプレゼント買いに行くのを普通に誘っても断られるだろうし、話の流れというか、できる限り自然に学校から連れ出さねば……。

 

 烏間先生の興味を引けそうな話題なら幸いにもいくつか持っている。流石に先生も俺の身体能力については知っているだろうし、それを餌にすればきっと食い付いてくる筈だ。

 

「そんじゃ、寄り道しないで帰りなさいな」

 

「はーい。じゃあね、ビッチ先生、また明日〜」

 

「また明日」

 

「はいはい、また明日〜」

 

 学校の山を降り終えると、ビッチ先生と烏間先生の車が止まってる所に着いたので、そこで先生と別れる。

 

「ビッチ先生、烏間先生からプレゼント欲しかったんだよね。素直に伝えられない所とか、可愛いところあるよね〜」

 

「まぁ、面倒臭いとも言うけどな……。でも、世話にはなってるし、今度烏間先生けしかけてみるわ」

 

「おっ、言葉の割に圭ちゃんがやる気だ〜!」

 

 コロコロと笑う倉橋さんと並んで帰る。

 本当にビッチ先生が好きで尊敬しているのだろう。彼女も今度、先生用のプレゼントを用意すると言っていた。

 

 そこでふと、気になった。

 

「そういえば、倉橋さんって誕生日いつ?」

 

「今月の23だよ?」

 

「ふ〜ん……」

 

 今月の23。つまりは10月23日。そして今日は10月14日。

 

「…………あと10日もないじゃねぇか!!?」

 

「わっ!!?びっくりしたぁ………」

 

 思わず叫んだ。あと9日しかねぇ。

 なんじゃそりゃ、全然知らなかったぞ。

 

「倉橋さん、そう言うのはせめて2週間前には言っておこうよ。言ってくれれば前もって色々準備できるのに」

 

「…………え、お祝い、してくれるの?」

 

 なにやら、キョトンとした顔。

 なんだろう、そんな驚くことか?

 

「いや、そりゃあするだろ。世話になってるわけだし………。俺にとって倉橋さんは大事な人の1人だ。それに……万が一、祝うのも最初で最後になるかもしれないから」

 

 俺の言葉に彼女の顔が曇る。

 なにか、琴線に触れてしまったのか、顔に悲しい色が差し、意識の波長を見るまでもなく、動揺していた。

 

「……………最初で最後って……?」

 

 恐る恐ると言った様子で絞り出すみたいな声で投げられた質問に、彼女が誤解しない様に言葉を絡んで答える。

 

「倉橋さんの誕生日を祝うのは今回が初めてだ。できるのなら、これからも誕生日の度に祝いたい気持ちはある。でも、地球は今年度で終わるかもしれない。今年、春を迎えられなきゃ、もう祝いたくても祝えないから」

 

 答えると、彼女はハッと表情を変えたあと、気まずそうに頬をパリパリと掻いて、今度は引き出す様に言った。

 

「………そうだよね。地球、終わるかもしれないんだった」

 

「悪い、誤解させるつもりはなかったんだ」

 

「本当だよっ、私の勘違いだったけど、最初で最後って言われた時、凄く悲しかったんだからね……?」

 

「悪かったって。倉橋さんが嫌じゃなかったらこれからも毎年祝うよ。嫌じゃなかったらな」

 

「なんで2回言ったの?」

 

「嫌がられたら立ち直れない……」

 

「圭ちゃんって結構な豆腐メンタルだよね」

 

「俺は豆腐メンタルじゃない」

 

「そうかなぁ……?」

 

「あぁ。俺は朧豆腐だ」

 

「ますます脆いじゃん……!!?」

 

 実際、内心嫌がってるのに顔だけ笑った状態で誕生日を祝われてるとか、祝ってる側も、祝われてる側も地獄だろう。

 うん。泣く。俺だったら泣きじゃくる。それはもうワンワンと。つーか、今の俺は意識の波長で嘘発見器みたいなことできちゃうから、そんな反応されたら一撃で理解できちゃう可能性あるし、そうなったら立ち直れないかもしれない………。

 

 しかし、それはそうとして誕生日か。

 何かプレゼントでも贈らないとな。

 

「倉橋さんは何か………あー。なんでもない」

 

 思わず、なにか欲しいものはないか聞いてみようと思ったが、寸前で踏み止まる。さっきビッチ先生に欲しいものを一生懸命考えてもらう方が嬉しいと言われたのを思い出した。

 

「どうしたの?」

 

「いや、何が欲しい?って聞きそうになった」

 

「……あ〜。なるほどね」

 

 苦笑する倉橋さん。あはは、と少しだけ乾いた笑いを浮かべてポリポリと頬をかく彼女に問いかける。

 

「倉橋さんもプレゼントは考えて欲しい派?」

 

「まぁね。でも強いて言うならあんまり高いものは受け取りづらいかな〜ってところかな?」

 

「あんまり高くないもの、ね。分かった参考にするよ」

 

 高くないってどのへんなんだぜ。5千円くらいまでならセーフだろうか。あんまり安くてもその辺のお菓子の詰め合わせくらいしか贈れないだろうし。うーむ。悩みどころである。

 

 倉橋さんの好きなタイプは猛獣も捕まえられる人だったな。それに、生き物なら基本なんでも好きって夏休み中に言ってた気がするし、動物園のチケットとかで喜んでくれるだろうか。

 

 ペアチケットでも渡してあげれば親友の矢田さんとか修学旅行1班の女子たちと楽しく過ごせるだろう。

 うん、ナイスアイディアである。そうしよう。

 

「はぁ〜ぁ、にしても、圭ちゃんの言葉は本当に心臓に悪かったよ……。烏間先生と圭ちゃんって師弟なだけあるって言うか、似てる部分あるし………。なんかなぁ、あの人もいつか似た様なことやりそうで心配だよ」

 

「いや、流石に烏間先生もそこまでは…………あ〜………。いや、言いそうだな。ビッチ先生とかに何かが罷り間違ってプレゼントを贈るとかなった時に、『祝いたいのは本心だ。恐らくは最初で最後の誕生祝いだしな。任務を終えるか、地球が終わるか、2つに1つ。どちらにせよ、あと半年もせず終わるんだ』とか」

 

「………うわぁ………。なんか言いそう。いくら先生でもそこまで鈍感じゃないだろうし、『色恋で鈍る刃なら、ここで仕事する資格はない』みたいなこと言いそうかも。ビッチ先生の気持ちを知った上で。あえて厳しい言葉を投げそうというか」

 

 2人で烏間先生の言いそうなことを考えて、お互いに顔を合わせてその様子を想像してみる。

 

「「…………うわぁ」」

 

 容易に想像できる。烏間先生がそこまで言って、キレたビッチ先生が勢いで校舎から飛び出して行くところまで。

 俺たちは顔を合わせてこれ以上ない程に明確なイメージが浮かんでしまった俺たちは同時に苦笑した。

 

「とりあえずなんとかしないとな」

 

「だね……」

 

 烏間先生がやべー発言をする前になんとかしないと。

 まぁ、俺が似た様な発言をしでかしたのは置いておこう。

 

 思いながら歩いていると、俺たちの前には生徒の一団がいた。もっとも、見知った顔の集団だが。

 

「あっ、噂をすれば学年1位が来たよ」

 

 見知った顔1号。赤い髪のカルマが薄ら笑いを浮かべながら俺を見て手を振っていた。それに気付いたその他の面子が俺に目を向ける。なんだか居心地悪い。

 

「げっ、乃咲……!?」

 

「どうも、ゲゲゲの乃咲ですが」

 

 どうやら五英傑とまたトラブってるらしい。

 Toラブってるならいいんだけど、トラブルは止めてほしいな。こいつら面倒だし。勘弁してくれ。

 

「んで、今度はどうしたん?」

 

「いや、コイツらがさ。今回本気を出してないみんなを煽ってるみたいだったからさ。成績が下の者は発言権がないとか」

 

「あ〜……」

 

 なんとなく言いたいことがわかった。

 多分、今回成績を落としてしまったみんなを煽ってたところにカルマが遭遇して成績したの奴がなんも言えないなら、お前ら俺には何も言えないよねぇーとかやったんだろう。

 

 コイツ、口は悪いけどやっぱりこう言う時に周りをフォローすることは忘れないよな。俺がみんなを挑発した時もそうだったし。カルマは気遣いが上手いところがある。

 

「なぁ、学秀を除く五英傑たちよ」

 

「な、なんだよ」

 

「もう成績が上とか下でマウント取るの止めない?」

 

「はっ……?」

 

 別に聖人になるつまりはないが、もはや、成績によるマウントに意味がない様な気がしてきたのだ。

 今回、綾香ちゃんという生徒を受け持って思った。彼女は一度の失敗で色々と糸が絡まってしまって苦労していた子を今の俺は知ってるし、俺自身、失敗が縺れてしまった口だ。

 

「成績なんてのは如何に学校の勉強に興味を持てたのかという一つの指標に過ぎん。上の順位の奴に勝ちたいって努力する、努力した結果として良い順位につけたって結果を誇りはしても、ひけらかして見下すべきではなかったんだ。俺も、お前らもな」

 

「圭一?」

 

「俺らはここに入試で合格して入った。俺たちが合格したということは、当然ながら落ちた奴もいる。成績が下だって理由で見下すのは彼ら、彼女らを見下すのと同義だ。あの子たちの努力を否定して良い奴なんていやしない。俺らだって努力してここに入ったんだからな」

 

「べ、別に落ちた奴らの否定なんかしてねぇよ……」

 

「そうか?なら、お前ら、今の自分を彼らに誇れるか?通いたくても通えなかった奴らに、いまの成績が下の奴らを見下してる姿を見せて、これがお前らの通いたかった学校に入学した奴が3年間で成長した姿だぞって言えるのかよ?」

 

「……………それは……」

 

「お前らはそのまま高等部に行くだろうけど、外部入試だってある。もしかすると、そこには中学の入試で落ちたけど、高校こそはって再度挑戦する奴もいるかもしれない。そいつらに成績が下の奴らを見下して下品に笑ってる姿を見せて誇れるか?」

 

「下品………か………」

 

「俺ですらテスト2回で最下位から主席になった。他の奴らは3年頑張った。3年頑張って通った狭き門の先で見るのがお前らなんだぞ?胸を張れるか?椚ヶ丘で一足先に揉まれた俺たちはこんだけレベルが高いんだぞって、言えるのか?」

 

 俺ってある意味では教師に向いているのかもしれない。教えるのが上手いわけではない、説教臭いという悪い意味で。

 だが、まぁ、必要なことだろう。俺自身の考え方を整理する為にも。彼らにほんの少しだけ考えてもらう為にも。

 

 まぁ、それはそれとして言うべきことは言っておく。

 今のは間違いなく俺の本音ではあるが、それはそれとして競うことは否定するつもりはないし。

 

「さて。説教はここまでにして宣戦布告といこうか。どうせ次もバトルになるんだろうからな。E組とA組が同じ条件でテストできる最後の機会だし。俺は次も1位になる。学秀にもカルマにも、お前らにも負けない。お前らも成績で偉ぶりたいならせめて1位取れよ。五英傑だとかそんな仲良小好じゃなくて、1位の学秀を囃し立てるんじゃなくて、お前らが主席を取りにいけよ」

 

「ッ、そんなこと言われなくたって……!」

 

「今回は確かにお前や赤羽に負けたけど、それでも点数自体は上がってるんだ!前回から!僕らは敗北から学んでる!」

 

「だからなんだ。負けたことには変わらないだろ。威張ってないで悔しがれよ、そもそも成績が下の奴らを見下すよりやるべきことがあるんじゃないのか?次で最後だ。次で勝てなきゃお前ら中学生生活では永遠に俺らに勝てないんだぞ。次に負けたらもう終わり、そう言う気持ちで悔しがれよ。次は絶対に負けないって、泣くまで悔しがって負けたら後がないって努力して勝つ。それが敗北から学ぶってことなんじゃないのか?」

 

「ッ………圭一」

 

 綾香ちゃんと察して学んだこと意外に今日までの自分を振り返って、51位から1位になるまでの自分がやったことを語る。

 なんだかんだ、成績で見下すのと勝負して勝った時に優越感に浸るのは俺的には別腹だからな。

 

 まぁ、早い話、そんなに見下したいなら先ずは1位になって名実ともにこの学校のトップになるべきじゃない?1位未満に甘んじてる癖に何偉そうに見下してるんだよって話。

 

 まだ、トップになった。俺ってスゲェー!!って優越感に浸ってる方がよっぽど健全だし、素直に認められると言うものだ。学秀とそれ以外の五英傑の違いはそこだろう。うちの面子がなんだかんだ、学秀を認めてるのは、見下してる態度を明確に表に出すことが少ないからだ。

 

 ……コイツらなりに努力しているのは否定しないけどな。

 

 しかし、それはそれ、これはこれ。

 

「さて。口論はこんなもんでいいか?偉そうに成績を誇る前に間違ったところの復習でもするべきじゃない?」

 

 最後に否定しようもないことを言ってやると学秀を除いたメンバーがバツの悪そうな顔して吐き捨てた。

 

「い、言われなくても!!見てろよ、乃咲、赤羽!!次はお前らに絶対に勝ってやるんだからなっ!!」

 

「ハハハっ、やってみなよ。俺もこっちのファザコンもそう簡単には負けないし、何より、俺たちだけに警戒してると足下掬われちゃうよ?この前の体育祭みたいにサ」

 

「チッ……クソッ!」

 

 悔しそうに舌打ちして4人が歩き出す。

 しかし、学秀だけはこの場に残っていた。

 

 なにやら奥歯を噛み締める様な凄く苦い顔をして、俺の目を正面から真っ直ぐに見据えると、奴は言った。

 

「圭一。次は……負けないっ」

 

「……えっ」

 

 予想していなかった言葉に呆気に取られていると、学秀はそのまま先に行った4人に合流して去って行く。

 

「……どうしたのかな、浅野くん」

 

「さぁ……?次は負けない、とか。学秀らしくねぇような……。点数は同点、満点の数も一緒。アイツが俺に負けたと感じる要素なんて殆どないんだから、『次も負けない』って言いそうなもんだけどなぁ。プライドの高いアイツなら」

 

 俺たちは去って行く彼らの背中を見送った。

  

 こうして波乱の中間テストを乗り切った俺たちは新しいステージに進む事になる。まるで今日までの事件が前座にすぎないと言う様に。より激しい陰謀の渦に引き摺り込まれることになる。

 

 それを、この時の俺たちは知らなかった。

 




あとがき

はい、あとがきです。

次回、烏間先生とデートです……!
いや、ヒロインより先に男性教師とデートする主人公とは……。
誰でも良いからコイツをぶん殴ってくれ………。

ご愛読ありがとうございます!
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