加えて沢山の高評価、感想ありがとうございます!
今回も投下しますのでお付き合い……!
殺すチカラをどう活かすのか。それはきっと、俺たち3年E組にとって考えなくてはいけない課題だろう。それも来年も地球が存続するなら、優先度としては結構高い筈だ。
だからこうして戯れに思考を割く。
俺は、このチカラをどうしたいんだろう?と。
なりたいイメージはある。俺は、烏間先生や殺せんせー、雪村先生の様に目の前の相手を"見る“ことができる奴になりたい。
しかし、それはあくまでイメージでしかないのも事実。極端に言えば、人に憧れてるだけで建設的な目標ではない。
宇宙飛行士になりたい、消防士になりたい、プロ野球選手になりたい。そんな子供ですら持ってる夢がないのだ。
イメージは出来ている、目標もある、手本もある。しかし、それを踏まえた上で俺は"どうなりたい"はあるのに"何になりたい"と言う結論を出せていない状態はなんとも歯痒い物だ。
「夢……夢ねぇ」
そんな大層なもの、ないんだよなぁ。
自分で言うのもなんだが、俺ってかなり人間辞めてる部分あるしなぁ。弾丸を見て回避、殺せんせーにスピードで肉薄、思考速度で言えば数秒が数時間に感じるレベル。あんまり言いたかないが、はっきり言って普通じゃない。
以前、和解した時、父さんは自由に健康で生きて欲しいと言ってくれていたが、これに"普通"の範疇でとか、俺に普通とは違う部分はあんまり意識しないで欲しいという願いが含まれているのであれば申し訳ないところではあるがな。
まぁ、そんなことは一旦置いておいて。何が言いたいかと言うと、自慢じゃないが俺の身体のスペックは高い。球技大会の時の様にプロの野球選手になろうものなら易々とホームランを連発できるだろう。本気モードでピッチャーになっても人智を超えた豪速球を投げられるに違いない。
詰まるところ、俺は身体のスペックを活かしてスポーツ選手になるとかやっちゃいけないのだ。チカラをセーブすれば良いのかもしれないが、それは本気でも全力でもないので、スポーツマンシップに反するという物だろう。俺としてもあんまり好かん。
かと言って俺のスペックを他にフルで活かせる仕事ってなんだろう?思考力を活かして教師〜、殺せんせーや烏間先生、雪村先生に憧れたから〜とか言うには俺って教師に向いてない気がするんだよなぁ……。正確に言うなら、向いていないと言うより、性に合わないと言うべきだろうか。
「むぅ……」
腕を組んで考え込む。近々、進路調査もあるし、進学先を確定させるにはどうしても将来の夢に関しては真剣に考えざるを得ない。普通科に進むか、工業科に進むか。このたった二つの選択肢ですら今後の人生を分けてしまう。
中学で何処の高校を受けるか選んで勉強して、選んだ高校によって就職か進学か選び、高校と大学で学んだスキルによって就職の選択肢が決まる。そう思うと、〇〇育成ゲームってのは中々どうしてリアルに作られている様に思う。
「あれ、乃咲?」
腕を組んで悩んでいると、声が掛かる。
倉橋さんの次くらいに聞き慣れた女子の声だ。
「あ、おはよう。茅野」
「うん、おはよー。来てくれてたんだ?」
「そりゃあ、せっかく教えてもらえた訳だし、クラスの中でこの事知ってるのはお前と俺だけだからな。みんながどう過ごしてるか〜とかぶつぶつと語りかけてる訳よ」
「ありがとう。お姉ちゃんも喜ぶよ」
来たのは茅野だった。まぁ、それもそうだろう。俺が今いるのは雪村先生のお墓なのだから。
最近あったことのの報告や、今回学んだこと、将来どうするべきか〜みたいなのを報告がてら聞いて貰っていた。
彼女も墓前で手を合わせて目を瞑る。
そうすること数分、ゆっくりと手を下ろして顔を上げた。
「それで、今日はどうしたの?なんか悩んでそうだったけど」
最近、茅野まで鋭くなって来た気がする。
倉橋さんといい、目の前の彼女といい、俺ってばそんなに分かりやすいだろうか?ポーカーフェイスは得意………でもないか、半年前のババ抜きボロ負け事件からするに。
「いやさ、将来について考えてた。もう直ぐ進路希望調査あるじゃん。それでついね。俺って先生たちみたいになりたいけど、"先生"になりたいわけじゃないんだよなぁ〜って」
「そうなの?綾香ちゃんには良い先生してたと思うけど。勉強の意欲を取り戻させて、不登校も克服させちゃったんだから」
「教え方は殺せんせーとか、先人たちの真似だし、不登校を克服したのは、あの子の頑張りだから俺が誇ることじゃないよ」
「そういうところ。"俺が頑張った"じゃなくて、"あの子が頑張ったからだ"って言えるの結構大事な要素だと思うけどなぁ」
そうだろうか。確かに自分の頑張りを私のお陰ですねって真顔で真剣に言ってくる教師よりは良いだろうが。
でも、それもレベルによりけりだろう。殺せんせーに『私のお陰ですねぇ』と言われても多分、不快にならない。それはニヤニヤしながら揶揄うように言ってくる可能性はあるかも知れないけれど、俺たちの努力を自分の功績にしないってある種の信頼があるからだろうか。
「じゃあ将来の夢とかは?小さい頃のさ」
「"おとうさんみたいながくしゃさん"だったけど、正直に言って今はそうでもない。専攻して突き詰めたい分野とかないし、勉強する難しさと大変さが身に染みてるからな」
「むぅ……。そうなると難しいね……」
むむむ、と腕を組み、俺と似た様なポーズになって首を捻る茅野。人は考える時、自然と似たり寄ったりなポーズを取るものなのだろうか?と親近感を覚えながら口を開く。
「だから、将来を考えるのにさ、この教室で手に入れたチカラをどう使うのかって方向で考えてたんだけど、どうもピンと来なくて。身体能力を活かしてプロ〇〇選手とかは杉野みたいに真剣でもないから目指す気になれないし」
「そっかぁ……。確かに難しいね」
「まぁ、もうちょっと気長に考えてみるよ。時間も余ってるわけじゃないけど、少し考える程度なら問題ないだろ」
「だね。私も乃咲に向いてそうなこと考えてみるよ!」
「ありがと、是非そうしてくれ。自分にとってはそうでなくても、周りから見たら向いてそうってのはあるだろうし」
「おっけー。ちなみに乃咲ってこの後時間ある?折角だしこの前の喫茶店行かない?」
茅野からのお誘い。何か話したいことでもあるんだろうか?だとしたら聞いてあげたいところだが……。
「ごめん、今日は先約があるんだ」
「あっ……そうなんだ。倉橋さんかな?」
「……?いや、烏間先生とデートよ?」
少し表情を暗くする茅野。あんまりそう言うあからさまな機嫌の機微を顔に出さない彼女にしては珍しいと思いつつ、出て来た名前は倉橋さんだったので少し疑問に思いつつ首を傾げて今日のデート相手を伝える。
「烏間先生……?」
「そ、ビッチ先生の誕プレ選び。まぁ、烏間先生にその気があるかは分からないからそれとなく誘導するつもり」
「あ、あぁっ、そっか。この前誕生日だったもんね」
「そうそう。ビッチ先生にも世話になってるし、これくらいはね。ついでに烏間先生から色々と聞き出そうかと」
「あはは………。ほどほどにね?」
苦笑する彼女。俺が何をしでかすのか少し不安らしい。
まぉ、いいが。それはそれとして、そろそろ時間だし、烏間先生とのデート場所に向かいますかね。
「んじゃ、俺はそろそろ行くわ。喫茶店は今度の放課後にでも行こう。烏間先生が会議で時間取れないって日があるからさ」
「っ、うん。楽しみにしてるね!」
去り際に相手から誘って貰ったことは嬉しかった、是非日程を変えてでも一緒に行きたいという意思を表明するかの様に、今度はこっちから約束を取り付ける手管!これぞビッチ先生直伝のコミュ力つよつよ乃咲くんの新技である。
そして俺は手を振りながらその場を後にした。
「乃咲……。もしも私が打ち明けたら…………いや、出来ないよね……。不器用だけど、良い奴だもん。復讐なんて……」
背中に向かって伸ばされ、そして人知れず力無く下ろされた同級生の小さな手に気づくことが出来なかった。
待ち合わせ場所はデパート前。烏間先生はいつものスーツ姿で所在なさそうに立っていた。
「すみません、お待たせしました」
「いや、こちらも今来たところだ」
驚くなかれ。これが人生で初めてデートスポットらしき場所で口にしたデートの決まり文句であった。
「それに、お時間もとって頂いて」
「……問題ない。だが、本当に良いのか?」
「えぇ。国に報告するかは任せます。でも、烏間先生には知っておいて欲しかったんです。俺の身体や、血縁関係について」
俺の目的としては、この生真面目が服を着て歩いているかのような男に孤独な誕生日を迎えた金髪美人へのプレゼントを買わせることだが、恐らくは額面通りに誘っても断られると思ったので、とある情報で彼を釣ることにした。
そこで出す事にしたのが、俺の秘密についてである。
父さんは国からの要請で殺せんせーの研究をしている。その理由は俺の憶測が正しければ、触手に深く関わっている柳沢という男が父さんの兄弟であるということ。そして、柳沢は父さんの研究を欲しがっていたこと。それらを加味した仮説として、父さんが母さんを助ける為にしていた研究が触手の誕生に関わっているから、と言ったところだろう。
多分、これは仮説ではあるけど、限りなく正解に近い結論だと思う。なんなら九分九厘確信している。
「以前、夏休みの後半、南の島で俺がE組を抜けるって話をした時、先生は聞きましたよね?『キミは何者だ?』って。それに対する答えを自分なりに用意しました。もしかすると、俺がそう思ってるだけで、実際はそうじゃないって場合もあるかもなんで、そこはご容赦願いたいです」
シロ。イトナを利用して散々好き勝手したクソ野郎で、触手の弱点や特性を俺たち以上に把握している異常者。
アイツの正体があの時、トラックに引き摺られながら考えた通りに柳沢誇太郎なら、この仮説は正解であると言える。
「歩きながら話しましょうか。雑踏の中なら外部に漏れる心配は個室より少ないでしょう。学秀みたいな奴はそういないでしょうし、何よりただ聞いてる分には子供の妄想に過ぎませんから」
「…………分かった」
烏間先生が頷いたのを見て歩き出す。
横に並んで歩き、徐に口を開く。
「柳沢誇太郎。烏間先生なら名前は知ってますよね?」
「……あぁ」
「じゃあ、彼が乃咲新一の実の弟であるという話は?」
「………知っている。柳沢というのが父方の姓で乃咲と言うのはキミの母方の姓なのだろう?」
「その通りです。そこまで知っているなら、触手の開発に深く関わっている柳沢誇太郎と言う男が俺の叔父であると言うことも当然理解していますよね?」
俺の言葉に横まで烏間先生が頷くのを確認して、俺は言葉を続けた。一個一個、自分でも噛み砕いて腹落ちさせるように。
「ここからは俺の知ってる情報と殺せんせーから貰った忠告を組み合わせた話になるんですけどね。多分、俺って人間版殺せんせーなんじゃないかなって思うんです」
「……そんなことは……」
「烏間先生。何回も見てますよね、俺がとんでもないスピードで動いてるところ。鷹岡を一撃で片付けたり、ホテルの屋上で瞬間移動みたいなことをしたり、殺せんせーに蹴りをクリティカルさせたり。多分、俺が普通じゃない場面は何度も」
「そうだな……。キミの力は何度も見た」
「夏休み明け、倒れた時に父さんから聞いたんです。母さんのこと。遺伝疾患で身体が弱かったこと、それを直す為に研究して、直すための手術を施したこと。その成果は母さんには現れなかったけど、俺に遺伝して、本来母さんに見込める筈だった効果が出ていること。それが俺の異常な力の源であること」
俺の力は父さんの手術で遺伝子を強化された常人を遥かに越える代謝を持つ細胞によって齎されている。それは父さんの話からして間違いないだろう。そこに加えてシロの発言だ。
「それにシロは前に言いました。イトナを庇った俺、そんな俺を助けに来たイトナを指して『兄弟の絆、天然か人工かの差はあれど』って。加えてトラックで引き摺りながら俺のことを『人の皮を被った化け物』とか散々ね。言いたい放題でしたよ」
「っ………そんなことが」
「まぁ、そこは良いんです。でも、シロの言葉を額面通りに受け止めた上で父さんの研究や触手に関する一連の話を聞く限り、アイツの"天然"が俺を指しているなら、やっぱり俺の細胞は殺せんせーのそれに近いんじゃないかなって」
そこまで言って肝心な情報が一つ抜けている事に気が付いた。
「そう言えば、俺はシロの正体は柳沢だと思ってます。まずはこれを伝えるべきでしたね」
俺の言葉に烏間先生が驚いた様に目を見開いた。
「何故そう思った?」
「状況証拠でしかないんですけど、アイツ、俺と父さんに妙な敵愾心があるんですよ。加えて、父さんくらいしか知らない、俺の身体の秘密を知ってるみたいだった。多分、烏間先生も俺を見て訝しむことはあっても、確信までは出来なかった話じゃないですか?父さんの研究内容を知っていても」
「否定はしない……。普久間島でキミの常軌を逸した身体能力を見た時、資料で見た乃咲博士の研究内容が脳裏を過ったことがある。内容は身体強化と聞いていたので、当時はまさか、と少し引っかかる程度だが」
「そうなんです。父さんの研究を知ってるなら引っかかる程度のはずなんです。でも、アイツは確信していた。単なる身体強化なら親から遺伝するのは可能性が低いでしょうし、俺はそんな手術を受けられるほど長く入院したことはない。でも、アイツは俺が普通じゃないって知っていた。その理由も、母さんが受けたのが単なる身体強化じゃなくて、言うならば遺伝子の強化であることを知っていたから。遺伝子に直接手が加えられているのなら、息子の俺に影響があっても不思議じゃないと知っていたから、とするなら色々と納得出来てしまうんです」
俺がシロ=柳沢だと半ば確信している理由。
それについて烏間先生は否定も肯定もしなかった。たぶん、どちらも出来ないのだろう。この人というか防衛省がおそらく、そこまで把握できていないとするなら。
「父さん曰く、母さんから遺伝子を受け継いだ俺は、あの人に見込まれていた手術の効果が最近になって現れる様になった。多分、この半年で色んな経験をしたからでしょう。その結果、俺の身体が本来持っていたポテンシャルがほぼフルで使える様になった結果が、あの瞬間移動染みたスピードみたいなんです」
「……そうか。茶化すわけでもないし、実際にキミの能力を目の当たりにしているが、やはり、何処となくSF感があるな。同じ世界の話しとは思えん」
「ある日突然、月の7割が蒸発して、その犯人を名乗る宇宙人染みた生き物が国の防衛省の人に連れられてやって来て、自分たちの担任になるのも相当ですけどね」
「………違いない」
烏間先生はそう言うと薄く笑った。
そうすると、足を止めて俺の方へ向き直り、いつもの真っ直ぐな視線を向けて来た。いつもの温かくて誠意のある目だ。
「話してくれてありがとう。だが、良かったのか?この話、俺は口外するつもりはない。しかし、キミにとってはかなり重大な秘密の筈だ。進んで話したい内容ではなかっただろう?」
「確かにそうですけど、烏間先生やみんなにはいずれ話さないととは思っていたんです。みんなも聞かないでくれてますけど、薄々気にはなってるでしょうし。それに、烏間先生を信じてないわけじゃないんですけど、また殺せんせー暗殺の為に俺たちが狙われる可能性もある。もし、そうなった時は俺のことは後回しにしてでも、みんなを優先して欲しいって伝えたかったんです」
「それは…………キミが周りより大きな力を持っているから、ということで良いのだろうか?」
「はい。知っての通り、俺は弾丸くらいなら避けられますし、毒を盛られても動き回れる程度には頑丈です。トラックで引き摺られても、骨は折れたりしませんでしたから。だから、もし、本当に限定的で妄想に近い想定ですけど、俺か、俺以外かという状況になったら、迷わずみんなを助けてください」
本当はここまで言うつもりはなかった。
自分の秘密を話して、この話題は終わるつもりだったのに、気が付けば、こんなことまで話してしまっていた。
もしかすると、楽になりたかったのかもしれない。
自分がどんな存在なのかを一番信頼している人に知って貰いたくて、話して安心して、口が勝手に動いてしまった。
なんとなく、漫画とかでキャラクターが内心を周りに独白する時、そこまで話す必要あったのか?と思う様なことまで話してしまう気持ちが分かってしまった気がする。
「すまないが、断る」
「えっ……」
しかし、返って来たのは予想外の言葉だった。
「キミが何者であっても、俺には関係ない。どんなに身体が強くても、俺の教え子であることに変わりはない。人の皮を被った化け物だなんて以ての外だ。まして、まだ子供だ。2者のうち、どちらかを助けろと言われたのなら、俺は両者を助ける。例え不可能であっても断行する。絶対に忘れないでくれ」
烏間先生の目を見て、意識の波長を見て確信する。
この人、本気で言ってる。雰囲気や俺の言葉に対してその場凌ぎでそれっぽいことを言ってるわけではない。心の底から本心として言っている。それがひしひしと伝わって来た。
なんとなく思った。この人には勝てない。
別に勝ち負けを争っている訳ではないが、そう思う。そして、そう思えることが嬉しかった。憧れ、目指そうとしている姿は決して間違いでないのだと、言ってもらえている気がして。
やっぱりかっこいいな、この人。俺が女だったらジュンッってなってるわ。この際、男でも良いんじゃなかろうか。なんだか、烏間先生になら抱かれてもいい様な気がして来た。
脳裏に顔を出した俺の
「ありがとうございます。でも、俺たちだって4分の3は大人なんですから、守るだけじゃなくて、やばい時は頼ってくださいね。俺たちに出来ることだってあるはずなんで」
「そうだな……。キミたちの成長には驚かされてばかりだ。本当に俺だけでは手の打ちようがなくなってしまったら、キミに頼むこともあるだろう。その時は力を貸してくれ」
「はい、その時は全力を尽くします。殺さない程度にね」
「ふっ……。そうしてくれ。ひとまず、シロと柳沢は同一人物である可能性が高いことを念頭に置いて彼らの動向をなんとか追えないか探ってみる。キミも気を付けてくれ」
「ですね。何せ、父さんと殺せんせー。俺の知る限りトップレベルの能力を持ってる2人が警戒するべき人物として名前を出したくらいですから。出来る限り関わりたくないですしね」
一通り、話して起きたいことは話した。
あとは、どう本題に入るかだな。
「そろそろ昼時か。乃咲くん、ハンバーガーは好きか?嫌いじゃなければ下のMドナルドで食事でも」
えっ、やだ。惚れちゃう。ナチュラルに食事に誘われてしまった。恐らくはビッチ先生どころか、うちのクラスでは初じゃないだろうか、烏間先生に食事に誘われた生徒は。
しかし、しかし、だ。今回、さっきみたいな重たい話をわざわざこんな人混みのデパートでした理由は抜け駆けする為ではないのである。涙を飲んでここは本題を切り出そう。
「それも大変魅力的な提案なんですが、実は今日、烏間先生にわざわざこんな喧騒の中にお越し頂いた理由がもう一つあるんですよ。ぶっちゃけ、そっちが本題までありまして」
「………聞こう」
何やら真剣な顔をしてくれる。
そんな彼に俺は言い放った。
「ビッチ先生の誕生日、祝いませんか?」
「…………まさか、その為に集合場所をわざわざここへ?」
「はい」
「その本題から誘っても俺が来ないことを見越して、あんなキミにとって大切な情報を切ったのか?」
「えぇ」
「………………キミも大概お人好しだな」
「世話になってますからね」
俺がそう言い切ると彼は呆れた様に息を吐いた。
「……キミのその決断に免じて言わせてもらうが、イリーナが俺を憎からず思ってくれてることは流石に気付いている」
「はい」
「だが、ここは地球の命運が掛かっているプロの現場だ。本来まだ学生である君たちならまだしも、20歳を過ぎた大人が、色恋で刃を鈍らせるのなら……俺は奴に暗殺の最後尾に並び直してもらうべきだと考えている」
意外、と言うのも失礼だが気付いていたか。
だとすると中々のポーカーフェイスだ。見習いたい。
しかし、不憫なのはビッチ先生だ。鈍感堅物を落とす為にアレコレなれないことをしていたのに、本人は好意に気付いた上でスルーしていたのだから。
だけど、それはそれとしてある意味でチャンスだ。
色恋云々言ってるが、誕生日を祝う理由に色恋は必須の条件ではない。無論、匂わせてしまう行動ではあるだろうが、相手を真っ直ぐに見つめるこの人なら、別の方面から攻めれば彼女の誕生日を祝うだろう。
「烏間先生。ガキの俺にこんなこと言われる筋合いないでしょうけど、一旦、色恋云々は忘れましょうよ。誕生日を祝う理由に恋愛感情は必ず必要ってわけじゃないと思いません?」
「そうかもしれないが……。互いにプロ同士、公私の混同はしない線引きは必要だろう」
「公私の混同はそうですけど、誕生日って相手に日頃の感謝を伝える日でもあるじゃないですか。思い出してみてくださいよ、ビッチ先生がいて、何か助かったと思えることとかありませんでしたか?普久間島の時とか。それに、自他共に認めるE組の近接アタッカーの俺にワイヤー術を教えてくれてるのもビッチ先生ですし、戦力強化にも一役買ってると思いますよ?」
「………しかし、プロとして出来ることをやると言うのは当然のこととも……」
「烏間先生って接客業してる人達にお礼言わないタイプですか?コンビニの店員、ファミレスのウェイトレスとか、ある意味では医者とか整体師とか。自衛隊にだって救護班とかはいるでしょう?そう言う人たちにお世話になった時、それが彼らの仕事だから、と『すまない』とか『ありがとう』とか言わないタイプじゃないと思ってたんですけど。当たり前の上に胡座をかいてると酷い目に合うかもですよ?」
「……わかった、降参だ。キミは口が上手いな」
お手上げ、と言わんばかりに両手を上げる烏間先生。
結構こう言うリアクションするんだな、と意外に思いながら烏間先生を丸め込むことが出来た事実に一旦満足する。
が、唐突に脳裏をとあるセリフが過った。
倉橋さんと冗談混じりに話したあの言葉。
「あと、一応言っておきますけど、『今年が最初で最後だろうしな』とか言っちゃ駄目ですからね?『地球が存続するにせよ、終わるにせよ、来年の3月には任務は終わりだ』とかも言っちゃ絶対にダメです。たぶん、拗れるから」
「…………なぜ、俺の言いたいことが分かった?」
「なんとなくです。烏間先生と俺は似た者師弟とか言われてるらしいですからね。俺もこの前、倉橋さんの誕生日を初めて知った時に似た様なことを言って少し拗れかけましたから」
「キミも大概だな……」
烏間先生に言われたかないけど。
しかしまぁ、尊敬している人に似ていると言われて悪い気はしない。内容が内容なので誇れはしないが。
「分かった。約束しよう、イリーナの誕生日は必ず祝う。……俺とて、奴の誕生日を祝ってやりたくない訳ではない」
「良かった。なら、今日の俺のミッションは完了です。ビッチ先生曰く、『そういう贈り物は、相手をどれだけ考えていたか、見ていたのかの指標になる』らしいので、しっかり悩んで、考えてあげてくださいな」
「分かっている。もっとも、今日まで散々贈られてきたセレブ達からのプレゼントに金額で勝ることはないだろうがな」
「こう言うのは金じゃないっすよ………」
なんとなく、本気で鈍感なのか、ビッチ先生との距離を保つ為に気づかないふりをしていたのか分からなくなって来た。
もしかすると、めちゃくちゃ恋愛には鈍いけど、流石にビッチ先生からの想いに気付いたってだけなのかもな。
けどまぁ、ミッションコンプリートだ。
俺は俺で、折角デパートに来たんだし、プレゼントを選んでしまうか。一応、贈るのはハンカチにしようと思っているが……。
そこで俺はふと、思った。
誕生日は日頃の感謝を伝える日でもある。だと言うのに、俺は目の前の最も尊敬している人の誕生日を知らないな、と。
「そう言えば、烏間先生の誕生日はいつなんです?」
「8月14日だ」
なんでもないみたいに答えられた。
「いや、言ってくださいよ!?言ってくれればみんなでお祝いしたのに!さっき日頃の感謝云々言ってたのが説得力無くなっちゃうじゃないですか!!?恥ずかしいんですけど!?」
もうやだ。恥ずかしい。俺、どんな顔してこの人に説教垂れてたんだろう。泣けてくる。
「先生、何か欲しい物とかあったりしないんですか?」
「……ターゲットを葬れる戦力だろうか」
「どこに売ってるんですか、それ……」
「流石に冗談……という訳でもないが、今はキミたちの成長とでも言っておこう。教えれば答えてくれるキミたちのお陰で人を育てる面白さにハマっていると言っても過言ではないからな」
教師の模範解答の様な答えである。
ビッチ先生や殺せんせーではこうはいかないだろう。ビッチ先生はともかく、殺せんせーは内心で似た様なことを思いつつ、絶対に欲しい物で煩悩を出すに違いない。
「そう言うキミは確か3月12日だったか。最近の中学生は何を貰うと喜ぶものなんだ?」
「……誕生日の次の日に訪れる未来、ですかね」
「………そうか。ちょうど暗殺期限だったな」
「………………はい。happy birthday to deathとかにならない様に頑張ります。もし、烏間先生から何か貰えるのであれば、その時、俺に必要だと思った物が欲しいです。俺が欲しいと思った物じゃなくて、先生が俺に必要だと思った物をください」
「中々に難しいリクエストだが……考えておこう」
烏間先生に対し、ナチュラルにおねだりしてしまったが、別に良いだろう。そういう話の流れだったし。
「……未来というワードで思い出したが、そろそろ進路相談の時間だったな。キミは何か将来の夢とかはあるのか?」
「うっ……」
何気なく、思い出したみたいに言う烏間先生。
予想していなかったパンチに思わず言葉に詰まった。
「いえ……。理想はあるんですけど、具体的な職業なんかはまだ決まってないです。なんなら、高校すら工業高校にするか、進学校にするかって悩んでる所です……。今のところ大学で学びたいこととかもないし、それなら早めの自立を目指して少しでも就職に有利な工業高校を選ぶべきなのかなぁとか」
「そうか……。もしかすると、キミ自身の持っているスキルが多いが故に決めあぐねているのかもしれないな」
「かもしれませんね……。自分の才能や能力を活かせる環境ってのは幸せですから。ただ、厄介な事に、多分俺の持ってる才能とか異常に高い身体能力を一番上手く活かせるのって……俗に言う裏稼業だと思うんですよね……。それこそ殺し屋とか」
そうなんだよなぁ。それが一番俺を悩ませる部分だ。別に無法者になりたいわけではないが、堅気の世界で俺のチカラをフルで使おう物なら、爪弾きにされかねない。
無法者になりたいわけじゃない。いつだったか倉橋さんが言ってくれた様に、どんな力を学んでも、俺は俺だ。それが変わったりなんてしないだろう。だから、これはあくまで向き不向きの話だ。堅気として生きるより、裏稼業でチカラの制限なく暴れる方が向いてるんじゃないかなって、自分では思っている。
「……確かにキミは向いているか、向いていないかで言えば間違いなく前者だろう。だが、物の例えだとしても、殺し屋と言うのは早計じゃないか。その才能、大手を振って活かせる場所はこの国にだってある。自衛隊とか、そういう猛者の集まりだ」
「自衛隊……ですか」
「楽な道ではない。訓練はキツイし、逃げ出す奴もいる。制服は毎日ピッチリさせなければならないし、その為のアイロンがけは自分で行う。この時、使い終わったアイロンの中に水が一滴でも残っていたら大目玉を食う。連帯責任は大前提、一つのミスが仲間たちを巻き込んだペナルティーに変わるなどざらにある」
「………自衛隊、怖っ」
絶対に無理だわ。自分のミスが周りに飛び火するとか絶対に嫌だし、周りのミスが自分に飛び火するのも好ましくない。
舐めたことを言うが、自衛隊とかは合わなさそうだ。そもそも、辛く厳しい経験で自分を鍛えてまでお国に尽くしたいみたいな愛国精神は持ち合わせていない。
「だが、それ故に耐え抜いた者は大きな力を得る。厳しい鍛錬に耐えて完成した強靭な肉体と精神力、同じ経験を乗り越えた仲間たち。それは後生得難い財産と言えるだろう。この学校で差別同然の境遇の中、俺からの厳しい訓練に耐え、それでも笑い合っている君たちにならこの大切さが分かるだろう?」
「そう言われてみると確かに……」
「加えて、入隊した後は共通の訓練をこなしながらも専門の分野に向かってスキルを伸ばして行くことになる。様々な分野のエキスパートが揃ったチームは無敵だ。優れた殺し屋は万に通じて命を奪うが、我々は全員で万を越えて人々を守る。そんな中にキミの様な人材がいてくれるのは心強いがな」
ある種、勧誘の様にも聞こえる言葉だが、彼は俺にそう言う道もあるんだぞ、と示してくれているだけだ。
例え、人智を超えた力でも受け入れて重宝してくれる場所はある。だから、安易に裏に行こうとするな、と。
たぶん、彼は暗殺教室が始まってから色んな殺し屋と出会ったのだろう。殺せんせーを狙う為、それでいて俺たちの安全を守る為に面接としていたと聞く。そんな経験から言ってくれているのだろう。恐らくは、『そのスキルなら人を救えるだろう』と思ったこともあるに違いない。
「………それに万が一、キミが自衛官を目指すのなら、国はそれを無視は出来ないだろう。キミが試験を受けると言うことは、超生物の暗殺成功と地球の存続が確定したと言う事になる。そんな確かな実績と自衛隊出身の俺や本物の殺し屋であるイリーナ、加えて万能に近い超生物の指導を受けたと言う経歴は腐らせておくには余りに惜しい。自ら門を叩いているなら尚のことだ」
「その場合、俺はどうなるんですか?」
「状況にも寄るだろう。普通に上層部から目を掛けられているだけの自衛官になる可能性もあるし、経歴を買われて出自や経歴不問の部署に引き抜かれて叩き上げられるかもしれない」
そうか。実際にそうなるのかは分からない。そんな特別扱いされない可能性だってある。だが、ないとも言い切れない。
少なくとも力を活かせる人生を探すなら、そう言う進路を選んでみるのも考え方としてはありなのかもな。
「恐らくだが、キミが今考えていることは、チカラを活かせる環境についてなのだろう。それは間違いじゃないと俺も思うが、考え方を変えてみるのも一つの手だ。環境を整える前に、"自分のチカラを何に活かしたいか"だ。きっとそれがまず考えるべきことなのだろうと俺は思う」
「何に活かしたいか………ですか」
自分が何にチカラを活かしたいのかという問い掛け。
それに対する回答を俺は持っていなかった。
「極論、人を生かすのも、殺すのも同じ技術が使える。医学を人を生かす為に使えば薬になるし、殺す為に使えば毒になる。生かす技術で人を殺せるように、殺しの技術を生かす為に使うことだって出来るだろう。もしも、キミがチカラに悩んでいるのなら、そっちの方面で考えて欲しい。それだけの能力だ。活かせる先なんていくらでもある。それに何より、まだ中学生3年生。我々よりもずっと若いんだ。良く考え、良く悩むことだ」
「…………そうですね。もう少し悩んでみます」
「あぁ。相談であればいつでも乗ろう」
参った。いつの間にか進路相談になってしまった。
烏間先生、俺に口が上手いとか言っておきながら、本人も相当だ。気遣いもそうだが、最も強く憧れて、尊敬している相手だからか、話しやすかった。
どう活かすかの前に、何に活かしたいか。
まずはそれを見つけていこう。いつかこの人に『俺はこの道を選びます』と胸を張って宣言して、認めてもらえる様に。
「さて、遅くなったが昼食はどうする?」
「ご一緒させてください」
「分かった。好きなモノを頼んでくれ。今回は俺が出そう」
「よろしいんですか?」
「こう言う時は大人に格好つけさせてくれ」
「……それじゃあ、ご馳走になります。お礼は殺せんせーの触手ってことで」
「ふっ……、期待している」
その後、烏間先生とハンバーガーを食べ、ビッチ先生のプレゼント選びに移った。俺はハンカチを贈ることにしたが、烏間先生は思った以上に真剣に悩んでいたらしく、結局、その日のうちには見つからなかったらしい。
余談だが、烏間先生と別れた帰り際に少し足を伸ばして倉橋さん用のプレゼントも買っておいた。生き物好きな彼女は動物園か水族館かどっちが良いのか悩んだ結果、少し遠くなるがそれらが併設されたテーマパークのチケットを買った。
あとはこれをどのタイミングで渡すか、考えないとなぁ……。
あとがき
はい、あとがきです。
やばいです。圭一が烏間先生に落ちそうになってます。
倉橋さーん!はやくコイツをどうにかしてぇ!
そう言えば、ACが映像作品になるってマジすか?
果たしてどんな感じになるのか……楽しみですね!
次回、乃咲圭一、ヒロインより先に喘ぐ!?
今回もご愛読ありがとうございます!