暗殺教室 不良児は認められたい   作:ZWAARD

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加えてたくさんの感想、高評価ありがとうございます!

今回も投下しますのでお付き合いください……!


119話 贈り物の時間

 

——1ヶ月前、某国某所にて。

 

「……祭り、ねぇ……。ターゲットからのお誘い有難いが、生憎と今は仕事で日本国外だ。今回は遠慮させて貰う」

 

『そんなこと言わずにぃ……!私が迎えに行きますから!!このままだと烏間先生も会議だとかで誰もきてくれないんです!!』

 

「無茶を言うな、仕事中だ……」

 

『うぅ……。仕方ありません……。今回は諦めます。2学期もぜひ殺しに来てください……』

 

「言われずともだ」

 

 ターゲットからの電話を切る。

 奴に番号を教えた覚えはないのだが、一体何処で嗅ぎつけてくるというのか……。考えるだけ無駄か。

 

 無駄に考えてもカロリーを消費するだけだと悟り、頭の中を切り替える。数日前のカラスマからの連絡で、地球を滅ぼすモンスターとそんな怪物を狙うあの教室の生徒たちが繰り広げた暗殺劇と外部からの妨害と攻撃に立ち向かった話の一部始終を知った。

 

 潮田渚という、あの水色の髪をした少年はどうやら、俺が教えた技を実戦で成功させて見せたらしい。

 

 加えてもう1人。技を授けた乃咲圭一という男子も良く仕上がっているとか。度々、暗殺の経過についての報告をカラスマから聞くが、どうやら相当気に入っているらしく、毎回必ず2回以上は名前が出てくる。

 

 暗殺の才能を秘めた少年と屈強な戦闘者に喰らい付く少年。この2人だけではない。あの教室は中々に粒ぞろいだ。いる者だな、どこの国にも才能が。このまま日本に置いておくには惜しい人材ばかりだ。

 

 まだ幼くも才能を開花させつつある少年少女たちを思って笑みが溢れる。別に子供好きになったつもりはないが、それでも才能ある若者というのは見ていて面白いと感じる辺り、俺も教育者なのだろう。

 

 次はどんなことを教えようか。

 そんなことを考えようとした矢先のこと。

 

「……………」

 

 目の前から気配を感じた。

 サクサクと音を立てて携帯栄養食を齧る銀髪の青年がごく自然に、まるでそこにいるのが当たり前みたいに、景色に溶け込む様に立っていた。手を伸ばせば届く程の距離で。

 

「なっ………!?」

 

 思わず飛び退く。長年培った経験から出た回避行動。一切の存在を感じさせなかったその人物への恐怖を身体が考えるより先に感じ取っていた。

 しかし、飛び退きながら、思考は混乱していた。振り向きざまに飛び退いたその時に見えた顔には覚えがあった。

 

 ついさっき、名前を思い浮かべたばかりの少年と瓜二つだった。生き写しと言っても過言ではないだろう。

 

「何時から……いやっ、何故キミがここに……っ!!?」

 

 そんな言葉が飛び出すと共に冷静な思考がそれを否定した。なぜなら、目の前の男は少年ではなく青年という言葉が相応しい。俺の脳裏を掠めた少年とは違う。

 だが、それにしては似過ぎている。少なくとも、ほとんど面識のない相手ならば2人の区別なんて付かないだろう。

 

「————生まれた時から、私はいつもキミの隣に」

 

 その声もまた、同じだった。違いがあるとするのなら、何度か聞いた少年のそれよりも穏やかな点だろう。

 言い表すことすら出来ない凄まじい殺気を放ちながら、纏う雰囲気は穏やかで、その声音は不思議と聞いていて安心した。

 

 恐怖と安堵が同居する異質な内心に掻き乱され、身体はピクリとも動かない。その間にも男は動く。

 ゆっくりと、まるで子供と遊ぶ様に握った拳から人差し指と親指を突き立て銃の形を作るとそれを敵意無く俺に向けた。

 

「畏れるなかれ、『死神』の名を」

 

 言葉を聞き終えると同時、全てが終わった。

 チクリとした胸の痛みと共に噴き出る熱い血液。どくどくと流れ出る体温と微睡む様に消えて行く意識。

 

 何をされた……?手が届く距離ではなかった。かと言って銃の類は持っていない様に見える。俺は一体、何をされたのだ?

 

 そんな問いに答える声はなく、完全に崩れ落ち、意識が闇に溶け入ると全く同時、そこにいた筈の青年の気配は霧散する様に消えてなくなってしまっていた。

 

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 俺たちはビッチ先生の遅めの誕生会を開催しようと画策していた。その為、俺は先日買ったプレゼントを渡すついでにビッチ先生を校舎から引き離す様に誘導、誘導した先にいる接待班で足止め、その隙に調達班がみんなからのプレゼントを購入、同時並行で調理班に何か軽く摘めるものを作って貰い、仕上げに烏間先生からのプレゼント攻撃をするって作戦だ。

 

 ちなみに、調理班のお陰で校舎にはいい匂いが漂っている。これは流石にごまかしようがないので、考えていた保険を発動させることを念頭に入れる事にした。

 

「はい、これ、プレゼントです。誕生日おめでとうございます、ビ……イリーナ先生」

 

「辛うじて呼び直した感の強いお祝いありがとう。にしても……へぇ〜。綺麗なハンカチじゃない。白に嫌味にならない程度の金色のライン。結構上品なデザインね。センスあると思う。ちなみに、これにした理由を聞いても?」

 

「ビッチ先生って基本的に白いスーツじゃないですか。加えて金髪。だから、なんとなく白と金ってビッチ先生っぽいなぁ〜って。色合いも悪くないし、側から見ると上品そうに見える所とかそっくりじゃないっすか」

 

「舐め腐りおって、このクソガキ!!」

 

「わーい!ビッチ先生がキレたぞ!襲われる前に逃げろ〜!」

 

「そんなガキっぽかったっけアンタ!?待ちなさいよ!?嘘だから!怒ってないから!!戻って来なさい!プレゼントまでくれてお祝いしてくれたの、この教室ではアンタだけなのよ〜!!誰も構ってくれないから寂しいのよ〜!!」

 

 案外寂しがりやだよな、この人。

 俺は煽りながらプレゼントを渡し、ビッチ先生との距離を離しすぎない程度にキープしながら職員室から遠ざける。

 

「こちら死神ファザコン。胸盛、応答せよ。ビッチビチビチの誘導に成功。これより作戦ポイントへ向かう」

 

『こちら胸盛、了解。ゆるふわクワガタ、悪いけど私の引き継ぎお願い。あのファザコンを殺して私も死ぬっ!!』

 

『こちらゆるふわクワガタ、了解。程々にね?』

 

『こちら女たらしクソ野郎。椚ヶ丘の母がアップルパイを完成させた。流石に時間がないしな。誕生日ケーキとはいかなかったけど、一応、みんなで頑張って作ったぜ!』

 

「こちらファザコン了解。時にペチャパイ各位へ。これはゲームのセリフなんだが、アップルパイの中にはアップルが入ってるけど、ペチャパイの中には何が入っているんだ?」

 

『こちら変態終末期、その中には何も入ってないぞ、オーバー』

 

「了解した。任務に戻る」

 

『…………乃咲、岡島ぁ……。覚えてなさいよっ……!』

 

 女子の一部から顰蹙を買ったところで目的地に到着。校舎の裏側、木陰の涼しい良さげなポジションに誘導し、俺はビッチ先生を置き去りにする勢いで木の上に駆け上がる。

 

「木を垂直に駆け上がるんじゃないわよ……ぜぇ……ぜぇ……。しかも足早すぎ………」

 

 息を切らしているビッチ先生。そんな彼女に木陰から小柄な女子が飛び出した。ゆるふわクワガタこと倉橋さんである。

 

「ビッチ先生捕まえた!みんなしゅーごー!」

 

 その合図と共に木陰からみんなが飛び出す。この場にいない一部のメンバーはクラス全員と殺せんせーからのカンパで集まった金でプレゼントを買いに行った。

 

「ビッチ先生、フランス語教えてよ」

 

「メグ……?あぁ、アンタ、外国で仕事したいんだっけ?」

 

「あっ、ずるい!ビッチ先生、こっちでこの前みたいにピアノ弾いてよ!みんなで歌うからさ!」

 

「ちょっと待てよ!こっちに脳殺ポーズくれって!写真とか絵のモデルにしたいからさ!」

 

「えっ!?ちょっ、何よ、急に私モテモテじゃない!?」

 

 困惑した様子で接待班を見渡すビッチ先生。ここで予めみんなから了承を取っていた情報を先生に開示する。

 

「先生、この前誕生日だったじゃないスか」

 

「え、えぇ。そうね」

 

「みんなでも何か祝いたいな〜って話した結果、今日いろいろと決行することになりまして。ほら、校舎ではいい匂いしてたでしょ?それも仕込みの一貫です」

 

「あ……通りで……。て言うか!それ堂々と話す!?アンタにはこの前、色々とレクチャーしたばかりよね!?」

 

「だって、みんなでコソコソ準備して、あともうちょいで!って所でバレるの一番がっかりするじゃないですか。だったら最初から話して楽しんで貰う方が俺らの精神衛生的にも、隠れてコソコソされるビッチ先生的にもいいんじゃないかな〜って」

 

「あっ、でもフランス語教えて欲しいのは本当ですよ?ビッチ先生ほど濃密に外国語に触れた人って中々居ないし、経験談が独特で聞いてて飽きないですから」

 

「そーそー。ビッチ先生のピアノ上手いし、聞きたいのだって嘘じゃねぇーぜ?今度、E組の思い出を映像アルバムにしてみるからさ、そん時にでもBGMとして使わしてくれよ」

 

「被写体としてはビッチ先生ほどレベルの高い奴いねぇからな……。俺らも構って欲しいのは本心だぜ?」

 

「な、何よ、随分と素直じゃない……?」

 

「それだけビッチ先生の誕生日をお祝いしたいんだよ、みんな。ここにいないみんなはプレゼント買いに行ってるし、圭ちゃんも色々動いてくれたんだから。私たちにもうちょっと付き合ってよ、ビッチ先生」

 

「し、しょうがないわね!上等よ!乗ってやろうじゃないの!!片っ端から付き合ってやるからせいぜい、発情しないことね、クソガキ共!!こうなったらすんごいの期待するんだから!!」

 

「「「「ビッチ!ビッチ!ビッチ!ビッチ!」」」」

 

 鳴り始めるビッチコールを木の上から見下ろしながら、ひとまず作戦はなんとか上手くいけそうだな、と安心。

 それはそれとして、ビッチをひたすらコールしまくるのはそれはそれでどうなんだろうか。

 

 まぁ、いいか。みんなと先生が楽しそうだし。

 

「のぉ〜ざぁ〜きぃ〜?」

 

「ひぇっ!?」

 

 背後から殺気がしたので振り返る。いつぞやの岡島風の全裸ネクタイの怪異を思い出すから勘弁して欲しいんだが。

 しかし、ある意味では俺の嫌な予感は外れなかったらしく、そこには悪い笑みを浮かべた茅野が手をワキワキさせていた。

 

「捕まえた!!」

 

「ギョワァァァァァ!!?」

 

 馬乗りされ、油断していた脇腹を物凄いテクでくすぐられる。

 生まれてこの方、くすぐってくる様な友人はいたことがない為、俺のくすぐりに対する耐性はゼロである。

 

「茅野っ、まっ……!ここ、木の上っ……!!?」

 

「どーせ乃咲なら落ちないでしょ!喰らえ!日頃の恨み!!毎回毎回ペチャパイだとか貧乳だとか胸盛とか、絶壁とか茅野平野とか、モロヘイヤって言うかモロに平野ですよね?とか、アイアンウォールとかザ・ウォールとか、大黒壁だの言って!!気にしてるんだぞぉ!!シンデレラバストって言え!!」

 

「だって!反応が面白いからっ、貧乳弄りした時のお前って結構素の反応じゃぁぁぁぁぁぁ!!?やめて!くすぐらないで!お嫁にいけなくなっちゃうぅぅぅぅ!!!」

 

「圭ちゃーん?お嫁なら私が貰うからこの際しっかり制裁されるんだよ〜?あとカエデちゃーん?ほどほどにね〜?あんまり際どいことしちゃダメだよ〜?怒るからねぇ〜?」

 

「…………倉橋の奴、あんな威圧感ある笑顔できるんだな。笑顔で青筋立ててやがる……怖いなぁ」

 

「いや、大半は乃咲がクソボケかますからでしょ。こっちとしては茅野っちが異様に乃咲と距離が近い方が気なるけど」

 

「アァァァァァァッッッッン!!!」

 

「おい、乃咲の奴が聞いたことのないタイプの悲鳴あげてるぞ。どっから出してるんだ?あの南国の鳥みてぇな声」

 

「なんかこの話を書いてる人が色々と悩んでる葛藤が乃咲くんの口から出ちゃってるだけみたいよ?高校編やるかやらないか、なんかあったルートを仕上げるか〜とか色々あるみたい」

 

「何言ってるの、不破さん……?」

 

 茅野に蹂躙されること数分。流石にみんなも俺たちから興味を失ったのか、木の下ではビッチ先生を中心に人集りが出来ていた。ノリノリでキーボードを弾く先生とそれを囲んで楽しげに歌うみんなの姿はほのぼのしていて平和的だ。

 

「はぁ〜っ、はぁ〜っ………。乃咲っ、観念した?」

 

「したからもう許して……。貧乳は最高ですぅ……」

 

「よろしい……。あんな乳袋、あっても邪魔なだけなんだからっ……!走ると揺れるし、揺れると痛いらしいし」

 

 らしい、と実感のこもってない感じの話し方がなんとも悲しい。哀愁すら感じる。天は二物を与えずとは言うが、おっぱいなんてもんは2つで1つなんだから、それくらいこの子に装備させてくれたって良かっただろうに。

 

「……むっ、またみょーなこと考えてるでしょ?」

 

「いえ。そんなことはございません!!だからっ、お願いっ、もうやめて……。これ以上されたら帰ってこれなくなっちゃう。色々と大事なものを失ってしまう……」

 

「まったく………。過剰な貧乳弄りさえなければ手放しでいい奴だって褒めてあげられるのになぁ〜。勿体無いよ、乃咲」

 

「別にいいよ、いい奴になりたいわけじゃないし」

 

 徐々に息も整う。なるほど、くすぐりが拷問になるのも頷ける。あれは普通に死ねると思うわ、俺。

 あんまり茅野を怒らせると今回みたいにくすぐられるかもしれないことを留意しつつ弄るとしよう。

 

「……ねぇ、乃咲。なんでビッチ先生の誕生会のこと話したの?こう言うのって秘密にしてた方が嬉しくない?」

 

 同じく落ち着いたらしい茅野が聞いてくる。

 まぁ、それも当然の疑問だった。

 

「早い話、"らしくない"ことをするからだな」

 

「らしくないこと……って?」

 

「今回の誕生会のラストは烏間先生から本人が選んだプレゼントと俺たちのカンパで買ったプレゼントを渡してもらうって算段だけどさ。茅野、烏間先生がナチュラルに『誕生日おめでとう、これ、プレゼントだ』って祝うところ想像できる?」

 

「………なるほどね、流石に想像できないかも。それをやろうとする人ならそもそも誕生日の時点でやってるだろうし」

 

「そうだろ?なのに烏間先生が唐突にプレゼントを渡してくるってシチュは少し考えれば不自然だと思うはずだ。仮にその場では喜ばせることが出来ても、それで後から実は俺たちが仕組んだことで〜とかバレたら多分だけど面倒な事になるぞ。ぬか喜びだったんだからな。ビッチ先生って男を落として暗殺して来た人だから、そこはプライド高いだろうし、修羅場になりかねん」

 

「それで先に『今日はこう言う趣旨で動いてますよ〜』って提示しとくわけかぁ。烏間先生が"らしくないこと"をしても怪しまれないようにする為に………。うん、納得」

 

「それに先んじて烏間先生がしそうな失言は予め『こう言うこと言っちゃダメ一覧』を倉橋さんと一緒に作って渡してある。少なくも嫌な思いをする誕生日会にはならない筈だ」

 

 とりあえず手は尽くした。先日一緒にデパートに行った時はプレゼントを見つけられなかった烏間先生だが、今日はしっかりと準備して来ているらしい。あとは天に任せるだけだ。

 

 悠馬たちはどうなってるだろう?プレゼント調達班からの任務完了の知らせはまだ来ていない。

 

「……乃咲って人に気を使うの上手いよね」

 

「さっき貧乳弄りされてブチギレてた人に言われても……」

 

「それは乃咲が悪い。気にしてるんだからっ。でも、それはそれとしてさ、お姉ちゃんのお墓を教えた時とかもさ。普段の貧にゅ………シンデレラバストに対するノンデリからは考えられないくらい気を使ってくれてたし」

 

「もっと褒めてくれても良いんだぞ?」

 

「そういうところ、私はいいと思うよ?」

 

「素直に褒められると照れるんだが……」

 

 案外、素直に褒めて来た茅野に照れていると、ふと、気配を感じたので顔を動かす。俺たちのいる枝の下へと。

 するとそこにはニコニコと笑顔を浮かべて俺たちに視線を向けている倉橋さんの姿があったのだった。

 

「楽しそうだね、圭ちゃん」

 

「………茅野、俺、なんかやった?倉橋さんが何処となく怒ってる様に見えるのは気のせいだろうか?」

 

「……………鈍感」

 

「いや、何が………」

 

「楽しそうだね、圭ちゃん」

 

「あっ、はい、ごめんなさい………」

 

 倉橋さんの威圧感が半端ない。

 その迫力に思わず謝る以外の行動を取れなかった。

 

「木の上で女の子に馬乗りされながら退かすでもなくイチャイチャ。みんなを見下ろしながらイチャイチャするのは楽しい?」

 

「そんなことは……。茅野が退けてくれないし」

 

「その割に今は全く無抵抗だよねぇ?実はさり気なく上に乗ってるカエデちゃんの感触を楽しんでるんじゃないの?圭ちゃんのエッチ、ムッツリスケベ、バーカ………」

 

「か、茅野。倉橋さんの語彙力が下がってるから、そろそろ降りてくれ。なんかIQも下がってる気がするし」

 

「そ、そうだね」

 

 茅野を退かして木から降りる。彼女の目の前に立ち、さて、どうやって弁解しようかと考えたその時、何気なく思った。俺か彼女に何か弁解するべきことあるのか?と。

 

 考えるまでもなく、俺と茅野でじゃれ合うこと事態で倉橋さんに何か迷惑をかけることはないだろう。

 だがしかし、現に倉橋さんは何処となく不機嫌そうだ。さっきまではむしろ俺にしっかり制裁受ける様に言ってたくらいなのに。この数分でどんな心境の変化があった?

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

 3人で向き合って無言が続く。

 そんな中で救いの糸でも垂らすみたいに電話がなったのでこれ幸いとわざとらしく『あっ電話だぁ〜!』とか言いながら出る。

 

『もしもし、こちら貧乏委員。無事に任務達成、現在帰還中。継続してビッチビチビチの足止め求む』

 

「ファザコンりょうか————ひゅっ!!?」

 

『……?圭一、どうかしたのか?』

 

「な、なんでもにゃっ……!!?」

 

 悠馬との電話中、何やら頬を少し膨らませた倉橋さんが脇腹を突いてきた。ツンツン、コチョコチョと。

 むすっーっとした顔で俺の前で少し屈むと両手を大袈裟に広げて人差し指を突き立て、無防備な脇腹目掛けて小鳥が餌を啄むかのようにツンツン、コチョコチョ。変な声が出る。

 

『どうした、具合でも悪いのか?』

 

「なっ、なんでもないっ……くぅ……!?けっ、結局、何を買ったひょうっ!?……ゴホン。何を買っちゃっ!!?」

 

『は、花束だけど……マジでどうした?』

 

 倉橋さんに脇腹を責められてると素直に答えようとした時、茅野がメモ帳をカンペの様に差し出し、指示を見せてくる。

 曰く、『余計なことを言ったら、もっとくすぐる』と。いや、鬼か。愚痴るくらい良いだろうに。

 

 つか、待て。待つんだ茅野。なんで俺の後ろに回る?なんで態々強調する様に後ろから俺の目の前に手を出して人差し指を突き立てる?待て、なんでそれを脇腹付近まで下げる!?なんでそれを近づける!?待て!?なんでそんなことを!?

 

「くっぅ……あっ………あぅ……ふあっ……!?」

 

『け、圭一!?どうした!?』

 

「な、なんでもない……。こ、この辺にヒャなやっ!?なんてあっ、あったかぁぁぁ……っ!?」

 

『それがさ、聞いて驚けよ。実は暇がなくて言いそびれてたんだけどさ、お前にめっちゃそっくりな花屋がいるんだよ!お前、実は双子だったりしないかってレベルでさ!』

 

「はふぅ……。あ、あぁ。その花屋の兄さんなら俺も知ってるぞぉぉぉっ……!同じ顔してて不思議だけど結構気の良いぃぃっ!!?まてっ!そこはダメだっ!?くっぅ……!?」

 

 脇腹の上。もはや腹と言う1文字が抜けてしまった位置に言っても2人の手は止まらず、肩の内側。つまり脇に2人の指が左右で突き刺さり、変な声が出た。

 

『………あ〜。その、なんだ。悪い、邪魔したな』

 

「まてっ!悠馬!誤解なんだっおぅっ!?」

 

『ひ、避妊はしろよ〜』

 

 ブツっと電話が切れる。訳分からんことを言い残して電話を切りやがった親友の名前を叫ぶ。

 

「悠馬ぁぁぁぁっ!!?」

 

 しかし、帰って来るのはツー、ツーという無機質な音だけ。

 そんな俺を捕食者たちは見逃さなかった。

 

「アァァァァァァッーーーー!!?」

 

 容赦のない攻めに俺は陥落し、地に伏した。

 敗北し、達してしまった哀れな子羊を2人の狩人が何処かヤバい笑みを浮かべながら見下ろす。

 

「……ねぇ、カエデちゃん。圭ちゃんってこんなに脆かったんだね。私の手で悶える圭ちゃんは普段の姿とは似ても似つかなくて、烏間先生と渡り合えるくらい強い筈の人を指先一つでこんなにしてる時……なんか、その、下品な言い方かも知らないけど……弱ってる圭ちゃんを見て……凄く唆られちゃった」

 

「………うん。気持ち分かるよ。普段はデリカシーない癖に、欲しい時は凄く親身に、真摯に自分を見てくれる人があんな風に身を捩って、それでも逃げられなくて情けない声を出しながらビクビクしてる所を見たら……なんか、こう、変な気分になってきちゃったかも……。意地悪したくなるって言うかさ」

 

「こ、この鬼畜どもぉぉぉ……っ!」

 

 拝啓、天国のお母さん。

 あなたの息子は今、貞操の危機を迎えているかもしれません。とても可愛らしいゆるふわ系女子と色々心配している女子に脇腹と脇を蹂躙され、ビクビクと情けない声を上げてしまいしました。女子って怖いんですね。女の怖さって奴をあなたから教えていただきたかったです。

 

「……まだ磯貝くんたちが帰ってくるまで時間あるよね?」

 

「だねぇ……。どうする?カエデちゃん。やっちゃう?」

 

「そうだね、貧乳弄りへの恨みを今日で晴らすつもりでこの際、色々やっちゃおっか。おーい!みんな〜!今なら乃咲に日頃の恨みを晴らせるけど、やりたい人いる〜?」

 

「待ってくれ…………。日頃の恨みって俺はそんなに悪いことしてないと思うんですけども………?」

 

「あー。実はうち、茅野ちゃんに対する貧乳弄り聞くたびに地味に傷付いてたんだよねぇ〜。あんまり大きくないから」

 

「あ、それ分かる〜。んで、こう言う奴に限って『胸は大きさじゃない、誰のものなのかが重要だ』とか言うんだよねぇ」

 

「まぁ、乃咲くんの貧乳弄りは行きすぎてるところあったし、良いんじゃない?この際、煮湯を飲ませても」

 

「俺たちも恨みって程じゃないけど、この前の超体育着を貰った時、乃咲だけ専用装備だったのちょっと羨ましかったよな?」

 

「それ、ちょっと思ってた。烏間先生の理屈とか乃咲の実力とか込みなら納得なんだけどさ、それでも良いなーってなるよな」

 

「だよなぁ、それに、いつの間にか女子と仲良くなってるのも許せねぇよな。倉橋だけじゃなくて、いつの間にか茅野とも距離近いし、この前の奉仕活動の時の綾香ちゃんともなんかスゲー仲良くなってたよな。ギルティじゃね?」

 

「勉強できて、運動できて、少なくとも1クラス分くらいは友達がいて、仲の良い女子がいて、慕ってくれる歳下の後輩女子もいて、烏間先生からも一目置かれてて、家柄も良い……。なぁ、こうしてみると、コイツリア充すぎねぇ?」

 

「もしかして、カラスマの鈍感ってアンタから移ったわけじゃないわよね、乃咲?子が親に似る様に、親も子に似ることもあるっていうし、師弟関係ならそう言うのもあるわよね……。もしかして、私の悩殺が失敗してるのって……」

 

「まてっ!それは流石に言い掛かりだっ!!?」

 

「問答無用っ!行くわよガキども!!この死神鈍感ファザコン野郎に色々とぶつけてやりなさい!!」

 

「「「「おーうっ!!!」」」」

 

 お母さん。僕がそっちに行くのもそう遠くないかもしれません。首を長くして待っていてください。

 追伸、そっちに雪村先生と言う方がいたら仲良くしてください。くすぐり死を迎えようとしている息子より。

 

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「はぁい、烏間てんてぇ〜。これみんなのカンパで買ったプレゼントでしゅ……。ビッチ先生に渡しておくんなましぃ」

 

「の、乃咲くん……?何があった……?」

 

「……真っ白になった」

 

「…………………………………………………………………………………………………………………そうか。気を確かにな」

 

 ビッチ先生へのプレゼントも無事に買い終わり、今日のメインイベントを迎える寸前の今、僕らはひと足先に職員室の窓の外から乃咲が烏間先生にみんなからのビッチ先生へのプレゼントを渡すのを見守っていた。

 肝心のビッチ先生は職員室の廊下で倉橋さんに宥められながら、乃咲が職員室から出るのを今か今かと待っている。

 

 そんな時、乃咲はフラフラと歩きながら、ドアから出る……ところで、ドアの横の縁に思いっきりぶつかった。頭から。

 外にいる僕らにも聞こえてくる程のゴチン!という鎮痛な音に僕らは思わず目を逸らし、烏間先生も声を出した。

 

「大丈夫かっ!!?」

 

「僕は大丈夫ですぅ、はぁい、すみまてぇーん」

 

 右へふらふら、左へうろうろ。乃咲は覚束ない足取りで職員室を出る。その背中を見守っていた烏間先生が乃咲が退出するのを見届けると、扉が閉まると同時に頭を抱えていた。

 

「あちゃー。これは少しやり過ぎたかもね」

 

「みんな容赦なさ過ぎだよ。後半なんて乃咲半泣きになりながら息もできずに痙攣してたじゃん」

 

「いや、一番ノリノリだったの茅野ちゃんと倉橋さんじゃんか」

 

「………なぁ。さっき圭一に電話した時、アイツなんかすげぇ悶えてる声出してたんだけど、何やってたんだよ、お前ら……。俺らが帰って来た時なんて圭一の奴、白目剥きながらピクピク痙攣してたんだけど。ひっくり返ってセミファイナル寸前のセミみたいな感じになってたけどさ。何したんだ?」

 

「「「「天誅……?」」」」

 

「なんで疑問系!!?」

 

 僕らが帰って来た時には乃咲は既にあんな感じだった。

 磯貝くんの質問に、ビッチ先生接待班のみんなが口々に答える。なんでも、貧乳組全員を敵に回しそうな発言を無線でしたらしく、茅野から報復を受け、そこに倉橋さんが参加し、みんなが遊び出したとか。ある意味で自業自得。

 

 しかし、そんな乃咲の犠牲もあってビッチ先生は退屈しない時間を過ごすことが出来たと言う。

 

「みんな〜戻ったよー!あとはビッチ先生のタイミングで職員室に入るだけ!圭ちゃんも……ほら!しっかり回収できたし!」

 

 倉橋さんが小脇に乃咲を抱えて戻って来た。

 凄い。体の小ささでは僕も人のこと言えないけど、倉橋さんの体の何処に乃咲を小脇に抱えられるだけの力があるんだろう?

 

「の、乃咲……?強かに頭打ってたけど大丈夫か……?」

 

「大丈夫よぉ〜。クラハシウム充電中につき〜拙者は無敵モ〜ドらよぉーん?上質ビルドは打たれ強いのだよぉ〜」

 

「なんかダメそう」

 

「いや、お前と倉橋が率先してやったんだけどな?」

 

 何が起きたのか見ていない僕らは想像しかできないが、乃咲はよっぽど過酷な経験をしたのだろう。

 僕は彼の冥福を祈る事にした。……まぁ、死んではいないんだけどさ。やりずらいからさっさと戻って欲しい。

 

「っ……と、ビッチ先生が来たぞ」

 

 僕らは視線を職員室に向けた。

 窓の外にいる僕らに気付いて睨まれると同時に隠れる様に身体を窓枠の下へ滑り込ませる。

 

「来たわよ、カラスマ」

 

「……あぁ。今日は大人気だったな」

 

「乃咲とヒナノが色々と画策したみたいよ。アンタもそれに乗っかってるんでしょうが。話は聞いてるわよ」

 

「否定はしない。だが、お前の誕生日を祝ってやりたいのは本当だ。……悪かった。祝うのが遅れた。こっちの花束は生徒たちからだ。受け取ってやって欲しい」

 

「……ったく、立派な花束だこと。安くないでしょうに」

 

「彼らもそれだけ祝いたいという事だろう。半年前は学級崩壊していたのに、随分と懐かれたな」

 

「………えぇ。ほんと。生意気なクソガキなことには変わらないけど、思いの外に今は先生の真似事をするのも言うほど嫌じゃないと感じてる自分がいるのは認めるわ。1年前じゃ考えられなかったことよ。何が起きるか分からないものね」

 

「…………そうだな。それは俺もそう思う。月が蒸発し、それをやったと暴露する超生物と知り合い、それを殺す為に中学生へ暗殺術を教え、本物の殺し屋と肩を並べて教師をする。こんなことになるなど考えた事すらなかった」

 

「でしょうね。ましてその中学生が一番ターゲットを追い詰めてるし、派遣された同僚はその中学生に負けてクビになって逆恨み、金を盗んで子供に毒を盛るわ、殺し屋を差し向けるわ。どこの誰も想像しなかったでしょうね」

 

「違いない。彼らと過ごすこの1年間はまだ、半年しか経っていないが……それでも鷹岡の起こした一連の事件が一番の衝撃だったかもしれん。同僚として責任は俺にもあるが、それでも、我々の都合で巻き込んだ子供たちを狙うなど言語道断だ」

 

「あの時はどうなることかと思ったわね。けど、アンタが気にすることじゃないでしょ。ガキども、アンタのこと好きだもの。あのホテルにいた3人の殺し屋は子供だけじゃ突破出来なかっただろうし、同僚として責任を感じてるんなら、尻拭いしてやってるんだし、充分に責任を果たしたでしょ」

 

「……あぁ。だが、俺だけではあのホテルに乗り込んだ時。エントランスで詰んでいた可能性は大いにある。あの時、結果的に子供たちは何もしなくても助かったのかも知れないが、それでも俺の責任を果たせたのは……イリーナ。お前のお陰だ」

 

「なっ、なによっ、らしくない。誰かの差金?乃咲とかヒナノあたりからなんか言われた?もっとどっしり構えてなさいよ、それとも誕生日祝いのリップサービスか何かかしら!?」

 

「らしくないのは自分でも理解している。乃咲くんからの差金であるのも否定しない。だが、その彼に誕生日は日頃の感謝を伝えるのだってイベントの趣旨だと説得されて、これを機に伝えようと思った。そして、さっきも言った様に、お前の誕生日を祝いたいのも本心だ。————これを受け取ってくれ」

 

「な、なに、これ……随分と小さな箱ね……。でもその割にやたらと丁寧にラッピングされてるし……」

 

「さっきの花束は子供達から。そして、これは俺からのプレゼントだ。生憎と、VIPを殺して回っていた女アサシンの喜びそうなプレゼントは思い浮かばなかった。悪いが多少気に食わなくても勘弁してくれ。急なことで気の利いた物は準備出来なかった」

 

「へ、へっへ〜!あ、あのカラスマが私にプレゼント……。その、えっと、あの、開けて見てもいい?」

 

「構わん。だが、大っぴらに携帯はするな」

 

「それってどういう……………って何よ、これぇ!!?やたらと丁寧なラッピングの下になんかすんごい物騒な物入ってるんだけど!!?なにこれ、私のレミントンと同じ弾薬………?」

 

「そうだ。お前がいつも持ち歩いている、小型の拳銃。常日頃から持ち歩いている辺り、それはいざと言うときの切り札兼護身用のアイテムなんだろう。アサシンが日頃身につける物で、実用的で、あっても困らない物で思い付くのはそれだった」

 

「……あ、呆れた。もっとこう……出て来たとしても熊のキーホルダーとか、そういう奴だと思ったのに」

 

「………………ちなみにだが、銃の普及している国で弾丸をプレゼントするのは、『目標に向かって真っ直ぐに跳びますように』と言う意味が込められている…………らしい」

 

「取ってつけたような説明ありがとう………って、そんくらい知っとるわ!!本場の人間舐めんな!?」

 

「言っただろう。お前が喜ぶ様な物を俺は知らないと。次回は希望があればそれを贈るし、ないのなら、また俺なりの物を贈らせて貰う。だから、今度は祝って欲しいのならそう言え。目の前で『happy birthday』なんて鉢巻を靡かせるのではなくな」

 

「ちょっ!?アンタ気付いてスルーして……って、えっ、聞き間違いかしら。それとも耳がイカレた?アンタの言い方だとまるで来年も祝ってくれるみたいに聞こえるけど……?」

 

「そう言っている。もっとも、超生物暗殺という大任を終わらせない事にはそんな未来も訪れない。来年も誕生日を祝う為にも、イリーナ。お前には期待している。これからもよろしく頼む」

 

「ッ〜〜〜、わ、わかったわよっ!その代わり、次にこんな色気のカケラもないモノ贈って来たら暴動起こすから覚悟なさいっ!そもそも、次の誕生日を祝われる前に、アンタの誕生日で脳殺してやるんだからっ!!」

 

 生憎と、僕らは壁に背中を預けている状態なので、いま、2人がどんな仕草でどんな表情で会話してるのかは分からない。

 でも、聞こえてくるビッチ先生の素直じゃない言葉の数々に思わず笑みが溢れる。口下手な烏間先生が彼なりに精一杯感謝を伝えようとしてるのはしっかり伝わった。

 

 今、後ろで慌ただしい足跡を立てるビッチ先生の顔はきっとニマニマしているのだろう。あるいはニマニマしそうになってるのを必死に押さえつけようとして面白い顔をしてるかのどっちかであるのは想像に難くない。

 

「ん…………あっ、あれ……?」

 

 背中で僕らが普段お世話になってる大人たちの微笑ましいやり取りを聞いていた仲間の1人が妙な声をだす。

 誰あろう、乃咲であった。彼は持ち前の銀髪を揺らしながらキョロキョロと周りを見渡し、倉橋さんの小脇に抱えてられてるのを理解すると飛び退くように距離をとり、キョトンと言う。

 

「クラハシウム接種した後から記憶がない……。頭ぶっけて、倉橋さんに回収されてから何かあった!?」

 

「むしろそこまで正気あったのかよ!!?」

 

 乃咲がキョトンとする最中、彼の後ろにちょっとやばい笑顔を浮かべた女子が2人いたのだけど……黙っておこう。

 

 

⬛︎

 

⬜︎

 

⬛︎

 

「なによっ、なによ!なんなのよっ!!」

 

 熱くなる顔を風で冷やす様に早歩きで山を下る。

 むしろ早歩きになっているせいで身体が熱を持って更に熱くなってることにすら気付かない程に私は昂っていた。

 

 なんなのよ、カラスマの奴!!こっちからのアピールを知っててスルーしてた癖にっ、なんであんな歯の浮くセリフが言えるわけ!?あんな真っ直ぐにこっちを見て、あんなに素直に感謝してくるだなんて聞いてない!!

 

 あのガキ共も、あの妖怪鈍感堅物口足らずも!なんで今日に限ってあんな素直なのよ!?

 素直に祝ってくるし、ガキどもだって最初は野次馬して覗く気満々だったくせに気配まで消して隠れ出すし!!

 そりゃあ、窓の外で聞き耳立ててたのは気付いてたわよっ!でも!あんな風に祝われたら怒るに怒れないじゃないっ!!

 

 プンスカしながら山を下り終え、車に着く。ドアを開けようとすれば、嫌でもさっき貰ったプレゼントが目に入る。

 

「…………ほんと、どうすりゃあ良いのよ」

 

 考えたこともなかった。確かに仕事の為に作ったコネで堅気とも縁はある。でも、まさかこんな平和な国の中学生に誕生日を祝われるなんて考えもしなかった。男なんて何人も取っ替え引っ替えして来たのに、あんな鈍感堅物口足らずに祝われただけであんなに嬉しくなるなんて思わなかった。

 

 花束は立派だ。こんなプレゼントを子供だけで思いつくとはあんまり考えられないし、誰かの入れ知恵はあったのかも知れないけど、でも、あの子達が贈ってくれた精一杯のものだと分かる。

 

 問題はこっちの弾薬の方だ。なんなの、この色気のカケラもないプレゼント!似た様なプレゼントを貰ったことがないわけじゃない。有名なガンスミスが作った名銃だとか、日本のヤクザからは美術品として刀を貰ったこともある。

 

 しかし、だ。銃は普通に実用性がある、刀の方は私の腕じゃ大した威力は出ないだろうけど、素人目に見ても立派なもので。決して美術品としての価値しかないわけじゃない。実用性と美術品としての価値が両立されたプレゼントだった。

 

 それに対して、あの堅物からのプレゼントは弾丸。美術品としての価値なんて無いに等しいし、使えば無くなる。残るとしたら、箱くらいだけど私の愛銃の弾薬なんだから同じ箱は拠点にいくらでもあって、いつか埋もれるだろう。

 

 色気はないし、使えば無くなるし、いくら私が殺し屋だからとはいえ、これは流石にないだろう。

 受け取った時、そんな文句が出そうになった。いや、部分的には口から漏れていたのだが、それでも堪えた。

 

「………次も期待していいのよね…………?」

 

 そう。堪えた。それが出来たのはひとえに、アイツが"次"を匂わせて来たからだ。異性とデートする時、好印象を与える方法として"次"を匂わせるというテクニックがある。

 アイツがやったのはそれに近い。だが、あの堅物がそんな小細工をできるとは思えない。だからこその不意打ちだった。次があると期待させられてしまった。

 

 嬉しかったのだ。次も祝ってくれるつもりがあると言うことが。この色気のカケラもないプレゼントを眩しく見せるほどに。

 

 箱を握り締める。中身が火薬なので、こういう表現は適切かは分からないし、かなりアレな言い方なのは理解しているが、この無骨なプレゼントが暖かく感じた。

 

「次があればの話だけどね」

 

 そんな時、聞き慣れた声がした。

 今回の小賢しくも、それでいて、それでも嬉しかった誕生会を企画した教え子の1人。なんとなく気に入り、ポケットに入れてしまったハンカチを贈ってくれた生意気な少年。

 

「なによ、乃咲。急に冷たいこと言うじゃない?」

 

 声のした方に振り向く。しかし、そこには誰もいない。

 イタズラ?考えながら周りを見る。しかし、銀髪の少年の姿はどこにも無い。最近、ますます能力が伸びてるけど、乃咲の奴、こんな気配消すの上手かったかしら?

 

 そんなことを思った瞬間。隣からサクっとクッキーか何かを喰む音が聞こえる。気付かなかった。いつの間に隣に?

 

 今度こそ、その姿を捉えるべく顔を向ける。

 そして、後悔した。殺し屋のスキルとは言え、成長は成長。能力を伸ばした教え子を褒める先生の真似も偶には悪くないかと思っていた頭の中を恐怖が満たした。

 

「残念。僕は圭一じゃないよ。もっとも、じゃあ誰だ?なんて聞かれても答えられる名前はもう捨てたけどね」

 

 そこには顔のない化け物がいた。

 もちろん、顔がないと言うのは比喩だが、そう確か言い表せない程に目の前の男には掴みどころがなかった。

 気配のぼかし方が尋常じゃない。目の前にいるのにいない様に感じるとかそんなレベルじゃない。

 

 目の前に居るのに居ない、居ないはずなのにそこに居る、笑いながら怒ってる様に見えるし、怒りながら笑ってる様に見える、泣きながら困ってる様に見えるし、困りながら泣いてる様に見える、泣きながら怒ってる、泣きながら笑っている。

 人の表情を表す言葉はいくらでもある。しかし、私が思いつく限りの表現を列挙しても足らない。無数の意味で矛盾した気配。無数の感情を巧みに入れ替えて様々な気配を同居させているみたいな、そんな雰囲気。

 

 そう、人の気配は喜怒哀楽で変わる。そんな感情の混ざった気配を雰囲気などと言ったりする。であれば、コイツは雰囲気をコントロールするのが上手い。目の前の男は雰囲気を操作して自分を掴ませない様にしていた。

 

「……じゃあ、アンタは何者?」

 

 震える声で問い掛ける。

 

「『死神』と君たちが呼んでいる男さ」

 

 短い答え。しかし、それは私に危機感を持たせると共にもう、手遅れなのだと悟らせるには充分だった。

 

「イリーナ・イェラビッチ。同じ殺し屋として提案しよう。僕に協力してくれないかい?」

 

 そんな問い掛けと共に気配がハッキリと現れる。

 そうしてようやく"顔"が見えた。朗らかにそれが当たり前だと、笑顔が自然体なのだと感じさせる程に静かで理知的で、そして何処か他人を安心させる様な微笑みで私を見る。

 

 同じ顔をした教え子とは似ていない笑顔で提案に見せかけた脅迫を受ける事になるとは思わなかった。

 こんなに人を安心させる笑顔をしている癖に、答えはYESしか許さないと行動が語る。ヘソに冷たい感触が当たるまで、私は銃を突き付けられている事にすら気付かなかった。

 

 きっと、コレに狙われた者は死んでも気が付かないのだろう。極限まで懐に潜り込み、人畜無害な顔をしている者こそが最も危険で、自らの命を刈り取った死神なのだと。

 

「……良いわ。私だって命は惜しいもの。なんでも言ってちょうだい。あのタコを殺したってキャリアが手に入るなら、分け前だって要らないわ。精々上手く使って」

 

「ははは、そう来なくっちゃ。契約成立だ。これからよろしくね、イリーナ。じゃ、この盗聴器はもう要らないか」

 

 彼はそう言うと私の持つ花束を叩き落とし、花の中から黒い機械的な異物を取り出した。

 それが盗聴器であると理解すると同時に子供達がハメられたことを理解する。しかし、責める気にはなれない。プロである自分すら今、この瞬間ですら目の前の男が伝説の殺し屋だという事実を信じきれずにいる。

 

 私は無惨に地面に転がった生徒たちから渡された花束を尻目に死神へと視線を向ける。

 そこに私の見知った少年の小生意気な笑みはなく、誰でも受け入れるかの様な優しい微笑みがある。印象で言えば、後者の方が良いはずなのに、なんだか、あの生意気な顔が懐かしかった。

 

「さて、ターゲット殺害までに何人死ぬかな。ま、キミや烏間が余計なことをしなければ芽吹いたばかりの花々を散らすこともないだろう。期待しているよ、イリーナ」

 

 優しい声と優しい笑み。

 だと言うのに、コイツにイリーナと呼ばれるのはなんだか、やるせない違和感が拭いきれなかった。

 




あとがき

はい、あとがきです。

いよいよ彼が本格的に動き始めました。
銀の死神と本物の死神はどんな絡みを見せるのか……。
次回にご期待ください。

最近、ガンブレの新作をやったからか、つい、懐かしいセリフを混入させてしまいました。後悔はしていない……!

約10年ぶりの新作ですからね!(モバイルを除く)え、New?知らない子ですね……。

ご愛読ありがとうございます!
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