加えてたくさんの感想、高評価、誤字修正ありがとうございます!
今回も投下しますのでお付き合いください……!
「イトナ。上空からの様子は?」
「今のところは周囲に罠らしいものはない。ぱっと見、ただの二階建てのプレハブ小屋ってところだ。周辺に人影はない。いるとしたらあの中だろうな」
定刻少し前、俺たちは指定された場所を偵察していた。イトナがガジェットで周囲の偵察をしている間に最終準備を整える。
「千葉。見たところ外に階段があるみたいだが、こう言う場合って内側にも階段ってあったりするものか?」
「そこに関してはなんとも言えない。だが、安全の観点から普段使い用の階段と非常階段があるパターンは想定できる。案外、外にあるのは非常階段で〜ってのは念頭に置いた方が良いかも」
建築系に明るい千葉に意見を求めると、注意するべき点が明確になる。あんまり大きな建物ではない。居たとしても人数は多くないと思うが、それも階ごとに人がいるなら話は別だ。
「ってことは……中に階段があった場合、上から増援が来るかも知れないってことだね。どうする?二手に別れる?」
「速水の言う通りにしよう。周囲に人が居ないのは確認できた。二手に別れれば、中で待ち伏せされてても挟み撃ちに出来る。相手の人数によっては危険な作戦だけど……、正面から突撃してあの階段から降りて来た奴らに挟まれるよりは良い」
速水さんの言葉に悠馬が頷く。
「だな。振り分けはどうする?」
「圭一とカルマを中心に二手に分けよう。圭一班が2階、カルマ班が1階だ。律、連絡役を頼めるか?」
重大な役目が俺とカルマに回ってくる俺たちは一つ返事で了解したが、肝心の連絡役になる律と言えば……。
『え?嫌っす、死神さんに逆らうとかやってらんねぇ〜。つか乃咲さん、このサイトとかどうすか?クリックするだけで100万円が請求される企業さんと繋がれる優れモンっすよ』
「まじかよ、俺の律ハッキングされたっぽいわ」
『はぁ?誰がお前のだよ、私は死神さんのもんだし〜』
「いや、それは言葉の綾……」
『け〜』
なんだコイツ。どうなってるんだか……。
ハッキングされた結果、こうなってしまったのか、死神がこうなる様にハッキングしたのか。気になるところである。
『いいこと思い付いたし。乃咲さんのアドレス使って要らないものとか買っちゃお〜』
「おいバカやめろ。せめて要るものにしろ」
「そこじゃねぇだろ、バカ」
『しらねぇ〜し』
液晶にお尻を掻く律が小さく表示されると、某通販サイトを開き、何やら勝手に手続きを進める。
全く操作してないのに勝手に入力されていく情報。どうしたもんかと考えているととうとう、この中から信号機を選んで下さいという典型的な奴が表示され、それを危なげなく解答する。
あと一個、『私はロボットではありません』に同意して次へ進めば登録完了というところでぴたりと律が止まる。
残った良心で止めてくれたのか、あるいは正気に戻ったのか。律はその画面から動こうとしない。
何事かとちょっと様子を見守っていると、スマホから凄く情けないというか、アホくさい声が聞こえた。
『あー……。乃咲さん、チェックしてください』
「誰がやるか、ポンコツが」
どうやらロボットではありません、はしっかりAIにも作用するらしい。意外な所で引っかかったことへの驚きと、馬鹿な要求をしてくることへのツッコミからつい言葉を選ばす本音が漏れる。
『ポンコツ……っ!?ひ、酷いです、乃咲さんっ!』
「あれ、正気に戻った?でも酷いよ乃咲」
「な、今まで聞いた中でトップレベルで冷たい声だったよな。心底思ってるのが伝わってくる感じの」
「あーあ、乃咲クンが律を泣かせた」
「乃咲さいてー」
『ううっ、乃咲さんが私をポンコツっ…………誰がポンコツじゃボケェ!おめぇら死神さんに頼んでぶち殺…………うっっ、うっ、うぅっっ!に、逃げて下さい、皆さん………!』
「おい、なんか律がハッキングに抗ってるぞ」
「悪の人格を押さえつけようと抵抗してるキャラクターみたいになってんな……。律の為にもさっさとビッチ先生助けてここから離れよ?律本体は無事だろうし、そこに行けば治るかも」
「つか、さっきまで普通にハッキングされてたのに正気に戻るとか乃咲のポンコツ呼びどんだけダメージデカかったんだ……?」
律も大変そうだ。あとでポンコツ呼びしたことは謝っておこう。流石に言い過ぎだと思う。
しかし、それはそれとして恐るべきはこの短時間で律を掌握しかける死神の技術だ。万に通じると言っているが、まさか本当にハッキングとか出来るなんてな。
事態は俺たちの思う以上に深刻なのかもしれない。
「今回、律は当てに出来なさそうね。でもトランシーバーアプリでも連絡は取れるし、一先ずはそれで代用しましょう」
「だな。俺とカルマでそれぞれ先頭を進む。それぞれの階でクリアリング出来たら連絡、一階に集まろう」
「異議なし。じゃ、そっちは任せるよ。乃咲クン」
「そっちも気をつけろよ、カルマ」
俺たちは二手に別れて動き出す。
念のため、階段の裏に爆発物がないか確認して、階段を登りながらハンドサインでみんなに銃をいつでも撃てる様に指示を出す。そう言えば、こう言う作戦で指示を出す役に回るのは久しぶりだ。ここ最近は悠馬に任せてたもんな。
みんなが抜いたのを確認して、扉の横に立って、中の様子を探る。ゾーンに入って聴覚を尖らせるが、人の呼吸や衣擦れの音はない。この階に人はいなさそうだ。
しかし、だからと言って確認しない訳にはいかないので、集中力を視界に全振りして人を認識次第にゾーンに入って敵を無力化できる体勢を取りつつ扉を開ける。
アクション映画のワンシーンの様に銃を構え、中に入り、右、左、上、下とクリアリング。誰もいない、何もないことを確認してからみんなを呼ぶ。
監視カメラ位しかおかしな点はない。
「……誰もいないみたいだな」
「あぁ。人が隠れられそうな物陰の類もない」
みんなで中を捜索し、人っ子1人いないことを確認する。
これだけの人数で探して誰もいないのだから、死神が隠れてるってこともないだろう。
『乃咲クン、こっちはクリア。そっちは?』
「こっちも異常はない…………。……ん?」
集中力を上げた視界に一つ引っ掛かる。
この階の中心。なにか違和感がある。
『どうした?』
「……いや、人はいない。そう言う意味ではこっちもクリアなんだが床に違和感がある。千葉、ちょっと来てくれ」
「あぁ。どこだ?」
呼ぶと直ぐに来てくれたので、千葉を引き連れて違和感があった場所に向かう。決してみんなを俺より前に行かせないようにしながら件の場所に辿り着く。
パッと見た感じでは違和感はない。だが、よくよく見ると、床に薄い縦線の様な物が見える。ゾーンに入って視力をあげて漸く気付くレベルの違和感だが、そこにだけ。
よくよく見ると、その縦線を囲む様に四角形の線が床を薄っすら走っているのが俺には分かった。
千葉にその線について話すと、彼は構えていた銃のグリップの底で調べる様にその図形の中を叩く。
すると、床の下からは打撃音が鈍くくぐもって反響するような音が聞こえる。
「妙だな」
「何か分かったのか?」
「普通、こう言うプレハブは鉄骨で下から板を支えて床にするもんだ。だから、床を叩いて空洞がある音が聞こえるのはおかしくないんだけど……なんか、音が遠くに響いていくって言うより、閉じ込められてるみたいな響き方をしてる気がする」
「…………ふむ」
千葉が引き続き床を叩く。
今度は視力ではなく聴力を強化して彼の言うことを確認してみる。すると確かに逃げ場のない音がその場で響いてる様な気がする。あくまで言われてみると、ってくらいだが。
「乃咲の話を聞いて落とし穴でもあるのかと思ったけど……。考えてみれば、2階から1階に落とす様な落とし穴をわざわざ仕掛けるとは思えないし、何より、この響き方は下にもう一枚板があるって感じだ。多分、俺たち用の罠じゃないと思う」
「……そっか。悪い、サンキューな千葉。助かった。カルマ。これから合流する。待っててくれ」
『了解。にしてもやっぱり変だね。わざわざ俺たちを呼び出したってのにビッチ先生とか死神はおろか、人の気配が全くない。精々が監視カメラが動いてる程度。十中八九、死神はこっちを見てるんだろうけど、何もしてこない』
「あぁ……。不気味なくらいに人気がない」
カルマの言葉に同意しながら歩く。
ここに至るまで、俺たちをどうこうする為の仕掛けは何一つとして見当たらなかった。ならば、何故、奴は俺たちをここへ?
思考を巡らせながらカルマたちの待つ一階へ。
そう言えば、中に階段らしいものはなかった。もしかすると杞憂だったのか?みんなで階段を降り、仲間たちがいる扉を開け、中に入ろうとした時。ふと気付いた。
ついさっき、ゾーンに入って見つけてなければ気にならなかったであろう床の不自然な直線。
今回は普通の視野でも目を凝らせば見える。そこに線というか、溝みたいなものがある事に気が付いた。
なんだろう、これ。
気を取られながら中に入る。この小屋が何年ここにあるのかは分からない。でも、築年数によっては地震でヒビが入ることも珍しくないだろう。ドアの金属部分にそってひび割れた結果、あんな溝になったってことだろうか?
考えながらカルマたちに一声かけて部屋を散策する。4つの辺をなぞる様に部屋の中を一周したが、亀裂らしい亀裂は入り口のアレしかない。少し不自然だ。
そう言えばさっき、『乃咲の話を聞いて落とし穴でもあるのかと思ったけど』と千葉が溢していた。
まさか、このフロア全体が巨大な落とし穴だとでも言うのか?そんなことがあり得るのか?でも、それらしい溝は一つだけだ。
俺は念の為に備え付けのナイフを持ち、床を叩く。姿勢を落とし、柄の頭でコンコン叩きながら床を進む。
そんな様子を見ていた仲間たちも何か気付いた様で、俺に倣うように各々が銃やナイフで床を叩き始める。
「っ、乃咲!」
「こっちも!」
「この下もだ!」
次々に報告が上がり出す。
このフロア全体に散らばる様に立っていたみんなが異変に気が付いたらしい。この床の下に空洞がある。
さっきみたいな音が跳ね返ってくる様な響き方ではなく、遠くへ響いていく様な音。間違いなく、この下には何かある。床の下をぶち抜いて空洞にするに足る何かが。
「っ、全員!この部屋から————」
『中々に鋭いね。見誤っていたよ、まさか仕掛けに気付くとは思わなかった。それに一ヶ所に固まらずに等間隔で散らばる油断の無さ。流石によく訓練されてるね。お世辞抜きに驚いた』
咄嗟に退避指示を出そうとした時、自分の声が自分の声で掻き消される。言葉を同じ声で被せて遮られる経験なんてそうそう無い。だが、それは俺の行動が遅かった何よりの証拠だった。
『みんな壁から離れた方がいいよ。擦り切れたりしたら痛いじゃ済まないからね。嫌だろう?自分の体が大根おろしみたいになるのは。それから圭一、キミの発想は素晴らしかったけど、一手間違えたね。キミは1階に着いた時点で違和感に気付いたらのなら、まずはみんなに伝えるべきだった』
「くそっ……!」
『まぁ、でも卑下することはないよ。キミが気付かなければキミたち全員、何が何だか分からないままだっただろうし』
思わず床を殴り付ける。死神の言葉が始まるとほぼ同時、壁が上に向かってズレた。いや、実際にはこの俺たちがいる床が沈んで行ってるのだろう。剥き出しのコンクリの壁がズレていく。
みんなで背中を預かる様に集まり、周囲を警戒する。
次は何が出てくるのか。身構えているとそれはあっさり現れた。壁が一辺なくなり、代わりに現れたのは鉄格子。
仄暗さを演出するみたいなオレンジの電球に照らされてこのもはや牢屋とも言える部屋の外には2人の人影があった。
「やっ、さっき振りだね。E組のみんな。どうだい?驚いてくれたかな?一人一人捕まえるのは予想外のリスクがあるかもだから一網打尽にした方が手っ取り早いと思ってね。部屋全体を昇降式の監獄にしたんだ。ちゃんとキミたちの為に作ったんだよ?」
ドッキリ大成功!みたいなプラカードを出しそうな声音で語る死神。なんとなく、その情緒は俺たちと大差ない様に思う。
これが演技なのか、素なのかは分からない。でも確実に言えるのは、そんな軽いネタバラシ感覚で言っていいほど軽い仕込みではないだろう。このトラップは。
「び、ビッチ先生っ!」
倉橋さんと矢田さんが死神の後ろにいるビッチ先生に呼び掛ける。両腕を繋がれ吊るす様に拘束されてる先生。
彼女たちの声に先生はピクリとも反応しない。気絶しているのかと思いビッチ先生を観察する。
腕や足に痣の様な物が見える。
……だが、その割に顔は綺麗だ。多少汚れてるが、腫れてるような部分は見当たらない。先生が顔を庇ったのか?
いや、だとしたら腕がもっと傷だらけでもいいんじゃないのか?相手はあの死神だぞ?いくら女を殴るとはいえ、あんな細腕でその一撃をあんな軽傷で済ませられるか?
「安心して。彼女は無事だよ、人質は多いに越したことはないからね。だからあまり粗末に扱うつもりはないよ。イリーナも、君たちもね。お察しの通り餌になって貰う。これだけ極上の蜜を用意したんだ。さぞ大きな獲物が釣れるだろうさ」
微笑む死神。だが、流石に慣れて来た。こうして檻に閉じ込められて警戒心を出すきっかけに出来た。
目の前の男は正真正銘の死神。ロヴロさんをして万に通じると言わしめた世界最高の殺し屋、つまりは大量殺人犯なのだと。
「本当に?ビッチ先生も今は殺すつもりはないの?」
「まぁね。奴が大人しく来るなら誰も殺らない」
無造作にビッチ先生の頭を掴み持ち上げる死神。
その動作に違和感があった。気絶しているビッチ先生は確かに無抵抗だろう。なすがままにされてもおかしくない。だが、気絶してる割に軽々と持ち上げられすぎな様に見える。
人間は眠っている間、身体の力が抜ける。力が抜けると身体は重くなる。創作物で肩を貸してる相手が気を失うと支えてる側がガクッと体勢を崩してしまうのは突然重たくなったことで支えられなくなるからだ。
人の体はそのくらい重い。加えて頭と言うのは人体でもかなり重い部位だ。気絶してる人間の頭を片手で軽々と持ち上げると言うのは相当な膂力がないと出来ないと思う。最も、相手は死神だ。その"相当"である可能性は捨てきれない。でも、そうでないのなら、ビッチ先生は気絶してない可能性がある。
つまり、寝てるフリ。狸寝入り。割といろんな言い方があるが、あえて別の言い回しで、現在考えられる可能性を挙げるなら……裏切っているかもしれないってのが妥当か。
やっぱり考えたくない可能性だが、考慮はしないと。
「くそっ!ここから出しやがれ!」
「大人しく思惑通りに流されてたまるかよ!!」
みんなが壁を叩きまくる。
しかし、ついさっき同じことをしてしまった。だから、死神には俺たちの意図なんて見え見えなのだろう。
奴は嘲笑う様に腕を組みながらその様子を眺めていた。
「子供だからってビビり過ぎだろう。安心してよ、流石に僕もこの檻を開けずに通ることは出来ないし、リスクがある。だから…………そうやって壁の奥の空洞を見つけて脱出を試みるってのも今の段階では止める手立てはない」
「っ……!竹林っ!こっちだ!こっちに空間のある音がした!」
「いいよ、好きにしなよ」
「奥田さんっ!」
「はいっ!煙幕投げます!」
壁にスムーズに爆弾を設置する竹林と、煙幕を投げる奥田さん。2人の連携で死神の視界が遮られ、同時に退路が出来る。
「はははっ!いいね、そう来なくっちゃ!」
死神は、こんな時でもその笑みを崩すことはなく、まるでサーカスを見てはしゃぐ子供の様な無邪気な笑顔を浮かべ続ける。
無論、この男に対して警戒を解くつもりはない。だが、毒気を抜かれるのは事実だ。本当にもう1人の自分と相対してるような錯覚に陥る。コイツの考えてることが全く分からない。
俺たちは爆弾で出来た風穴を使って牢獄から抜け出し、走り出す。薄暗い通路、あからさまなスピーカー、なんの目的で作られたか分からない道。加えて追ってくるのは世界最高の殺人鬼。
「くそっ、飛んだサイコホラーだぞ」
「加えて、その殺人鬼はクラスメイトと瓜二つと来た。ゲームなら乃咲に追われてるって勘違いして、トゥルーエンドで乃咲とは別人だったってオチがつくタイプのホラゲだろうな」
「愚痴ってても仕方ない。作戦通りに動くぞ」
『やぁ、E組のみんな。聞こえてるかな?』
散開しようとしたところでスピーカーから声が聞こえる。
『正直、君たちが竹林くんの爆弾で逃げてくれて嬉しかった。これだけの人数の訓練を受けた殺し屋を相手にできる機会はそうないからね。人質にするだけじゃ勿体無いと思っていたから』
嬉しかった、勿体無い。それは明らかに人質が逃げた事に対する感想ではない。まるでゲームで経験値を沢山落とすモブに向けるような声と言葉。別に倒さなくてもレベルは上がるし、経験値は積めるけど、予想外に沢山、出て来てラッキーみたいな雰囲気を隠し切れていない。
『未知の大物の前の肩ならしだ。君たち全員に……僕のスキルを高める相手をして貰う。ちなみに親切心で教えておくと、この施設は僕の眼球の虹彩認証でしかロックは解除されない仕組みになってる。つまり、君たちは逃げたいのなら、僕を倒すしかない。いつでも殺しにおいで……じゃ』
親切なのか、投げやりなのか。ただ、さっきまで顔を見ていた時に比べると声音は無機質な様に感じる。
「……本当にゲーム感覚ね」
「あぁ……。どうする?」
「……予定通り、別れよう」
「ねぇ、提案なんだけどさ。あの人、虹彩認証って言ってたけど、こんなに瓜二つならワンチャン乃咲くんで突破出来ないかな?少しでも可能性があるなら脱出班に入れたほうがいいんじゃ……?それなら死神とも戦わなくて済むかも!」
「それは難しいだろう。虹彩は指紋と同じく個人を断定できるくらい他人と違いが出る。更に言えば、導入費だって安くない。となると、そっくりさんで潜り抜けられる可能性は無い物ねだりに等しいと言って良い。そんな博打より、確実に結果を出せる戦闘に参加させるべきだ」
「俺はイトナくんの考えにさんせー。どんなに強くても相手は人間だし、触手を見切れる乃咲クンが壁になってくれるならみんなの安全もある程度は保証できる」
「そうだな……。俺も矢田さんの意見も試す価値はあると思った。でも、やっぱり賭けになるのは間違いない。自分で言うのもなんだけど、俺は戦闘班にいた方が役に立てると思う」
そう。確かに矢田さんの意見は俺も考えた。
ワンチャンあるのでは?と。だが、やっぱりワンチャン程度に賭けるには俺と言う戦力は大きいと思う。自分で言うなと言われるかもしれないが、勉強、暗殺という分野ならともかく、戦闘という分野で俺より強い奴はこのメンバーにはいない。
矢田さんも納得してくれたのか引き下がる。
「でも、死神と戦わない案自体が最善なのは間違いない。矢田さんの意見みたいに必要そうならバンバン意見してくれ。各班、臨機応変に行こう。ただ、救出班は念の為にビッチ先生を見つけたらまずはクロロホルムを使うこと。来る前に言ったように洗脳されてるかも知れないから初手で無力化する」
「少し乱暴だけど……」
「乱暴だが、安全を担保する為だ。僕は賛成だな」
「…………うん。分かってる……やるよ」
初手からクロロホルムで眠らせる。乱暴なことが苦手な連中は躊躇うだろう。俺だって知り合いにはやりたくない。でも、仲間の安全のために心を鬼にするのは必要なことだ。
「杉野、岡島、三村。頼んだぞ」
「おうよ……」
救出班の男子組に一言告げて彼らを送り出す。
「脱出班。死神は虹彩認証とか言ってたが、恐らく竹林爆弾なら問答無用で吹き飛ばせる筈だ。脱出経路を確保できたら足の速い奴を何人か脱出させて校舎までダッシュ。律を復旧させて先生たちに連絡。残りは救出班と戦闘班の案内。だけど、まずは自分の身を優先しろ。これが第一だ」
「分かった。そっちも無茶すんなよ?」
「可能な限りそうする」
脱出班を送り出し、そして残った戦闘班に視線を向ける。
不安そうな奴も居れば、ある程度、覚悟が決まってる奴もいる。そりゃあ無理もないだろう。これからマジもんの大量殺人犯と戦うんだから。俺だって怖い。
「俺たちは死神の足止めだ。実際……奴が何処から来るか分からない以上、脱出班の別働隊として動くしかないかも知れない。基本的に先頭は俺、最後尾はカルマで行こう。茅野は俺たちが奴と接触したら走って他の班に連絡頼む。律が掌握されてる以上、スマホのアプリも使えない可能性がある。カルマはそれで大丈夫か?かなり危険な役目を頼む事になるが……」
「危ないのはそっちも同じでしょ。お互いサマだよ」
「……悪いな、2人とも」
「悠馬が気にすることじゃない。それよりお前は真ん中だ。俺とカルマの中間だからしっかり頼むぞ」
「任せてくれ……!」
「相手は何処から来るか分からない。みんな俺とカルマの間にいること。正面だけじゃなくて天井とかにも気を配ってくれ」
一通りの指示を出し終える。みんなが頷いてくれたところで俺たちも歩き出す。未知の強敵への第一歩を今————。
「そんな忍者みたいなことはしないよ。言っただろう。キミたち全員、僕のスキルを上げるための実験台になって貰う。騙し討ちは簡単だからね、ここはあえて正々堂々、正面からいかせて貰うよ。その方がキミらの心も折れるだろう?」
カツン、カツン。正面から足音が響く。
一応、既に別れた班とも通信は繋がってる。今のところ向こうに異常はない。律が俺たちのスマホを完全に掌握したか、あるいは完全に音もなく刈り取られるかしなければ、この音が俺たちの後ろから聞こえてくることはあり得ないだろう。なにせ、まだ別れて1分も経ってないんだから。
正面にだけ意識を集中していると、それが正解だと言わんばかりに奴は堂々と俺たちの正面から現れた。
カツン、カツン。足音なんて簡単に消せるだろうにあえて居場所を知らせる様に、まるで俺たちを威嚇する様に。わざとらしい甲高いヒールの様な足音が薄暗い通路に響く。
「なんで……?正面からわざわざ……!?」
その呟きが俺たちの全てだった。
不意打ちの方がリスクはない。その方が俺たちを一網打尽に出来て楽なはず。だって、さっき本人がそう言った。
それなのに、技術を高める為にわざわざ……?
呆気に取られる。そして続け様に戦慄した。
目の前の男には姿がなかった。気配はある。それなのに姿というか、雰囲気が掴めない。人はコミュニケーションを取る時、相手の表情や声音から雰囲気を掴む。どんなことを考えてるのか、思ってるのか、感じてるのか。それを頼りに話題を選ぶ。
だが、この男は異質だ。声も表情も笑っている。それなのに何一つとコイツのことが分からない。
例えるなら、大きな釜でこの世のあらゆる感情を混ぜ合わせて煮込んだ時の湯気、と言ったところだろうか。
実際にそんなものを見たことはないし、考えたこともない。だが、あえて言語化するなら、目の前の男はそんな湯気そのモノだと俺は表現するだろう。
事実、俺はそう感じている。
手を伸ばしても、この手はその体に触れることなくすり抜けてしまうだろう。そんな確信すらあった。
だからこそ、咄嗟に叫んだ。
「逃げろ!!」
俺の怒鳴り声に弾かれた様にみんな顔を上げ、まずは作戦通りに茅野が走り出す。何度もこちらを振り向きながら。
だが、彼女以外のメンバーは半身退きながらも逃げ出すことを躊躇していた。それも当然だ。もとより戦闘班として残ったのがこのメンバーなのだから。その判断は間違ってない。
間違ってはいないが、この状況、この局面での躊躇いはミスだ。このままでは命取りになる。
これまで散々色んな奴と出会った。学校に君臨する大魔王、不良時代には鉄パイプとか振り回すヤベー奴、今年に入って元精鋭の暴力教師、ハニートラップの達人、腕力で強化ガラスを割る奴、やばい毒使い、銃の名手、誰より尊敬できる強者に、誰より俺たちを見てくれている超生物。
そんな色んな奴らと出会った中で今、俺の中の何が最も強く警鐘を鳴らしている。経験がコイツとの関わりを拒んでいる。
今逃げ出さなければ手遅れになるという絶対的な確信。それが俺の口を勝手に動かし、再度怒声を上げる。
「聞こえなかったか!今直ぐにここから離れろ!!」
再度響いた俺の声。それでも躊躇うみんなの背中を引っ張ったのは、俺と真反対の位置にいたカルマだった。
「行くよ、みんな」
「っ、けどよ!」
「わっかんないかなぁ……!俺らじゃ勝てないから乃咲クンが残るんじゃん!1人でも逃げて先生たちに知らせなきゃ何ないのに、俺らがこんな風に固まってるのは時間の無駄だよっ!みんなで行って返り討ちになるより、一人一人相手して1秒でも稼がないと!下手に援護しても邪魔になるだけだ……!」
「……行こう。カルマの言う通りだ」
「……くそっ……!!」
後ろでみんなが走り出す。
足音が遠ざかる中、死神は焦りもしないで悠々と歩く。
「随分と友達思いなんだね、圭一。僕は知ってるよ、キミが瞬間移動染みた機動力と尋常じゃない膂力を持ってること。ずっと観察してたからね。でも、その選択は合理的じゃない。それだけの力があるなら、キミ1人で脱出する方が先生たちに連絡するって作戦は容易くクリアできただろ」
「……見てる合理性の違いだ。俺1人で脱出することが出来ても、先生たちに連絡して、彼らが到着するのには時間が掛かる。その間にみんなが殺されたら話にならない」
「だからキミ1人で残って足止めかい?健気だね……。でも自分でも言ってたじゃないか。いざとなったら自分の身を優先しろって。自分で出した命令を破るのは感心しないなぁ」
「俺は腕っぷしだけなら強い方だ。あの教室でならな。それはみんなも認めてくれてる。だから、仮にお前にやられたとしても、『乃咲を倒したヤバイやつなら逃げるしかない』ってみんなが考えてくれるかも知れない。それなら、俺が残るべきだろ。痛い思いをするのが俺1人で済むならな」
ナイフと銃を抜く。俺用に調整されたこの超体育着に備えられた装備を活用して何処までやれるか。
対先生用に色々と烏間先生に装備の製作をお願いしているが、まだ完成したものは手元にない。つまり、この装備は元々対人戦を想定しているであろうままの状態だ。殺せんせーではなく、人間相手なら有効打になる一撃は必ずある。
「本当に健気だね。それにその自己評価も自信過剰とは言うまい。確かにあの教室でならキミは最強だ。でも、ま、実際のところ、キミが残るのは想定内だ」
「へぇ。どうしてだ?」
戦闘態勢を取った所で会話に乗っかる。
さっきから、コイツの話に乗ってるのは少しでも会話をして時間を稼ぐ為だ。話している数秒でみんなが逃げるか、救出できるなら安いもんだ。対峙してる俺からしたら緊張を緩められなくて窮屈この上ないが。
「キミは少なからず自分の力を自覚している。聞いてるよ?殺せんせーに一番ダメージを与えてる上に、イトナくんの触手を見切ってクラップスタナーを決めたんだって?普通じゃない。戦闘力なら人類で見てもキミはかなり上位だ。そりゃあ、それだけの実力があればみんなを守ろうとするよね。強くて、厳しくて、それでも優しい烏間先生に憧れてるなら」
「…………」
「だからこそ、あえてキミの正面に現れた。不器用で、優しいキミなら率先して残り、必ず僕の足止めをすると信じたからね」
「優しくなんてない。合理的に考えただけだ」
「合理の前に不って文字が抜けてるよ。でも、僕には好都合だ。人質は沢山いる。若い芽を摘み取って開花まで愛でるのも花屋としては悪くない選択だろう?キミをその一輪にするよ、圭一」
笑う。何処までも朗らかに、無邪気に。
敵意を感じさせない微笑みで得体の知れない何かだった男がようやく姿を顕す。全身が黒。銀髪をフードで隠し、地下道の薄明かりの中で黒いコートを翻すその姿は……俺たちを摘み取らんとする、死神そのものだった。
あとがき
はい、あとがきです。
圭一vs死神。ある意味で死神対決が繰り広げられる展開になってしまいました。
果たしてそっくりさん同士の戦いはどんな結末を迎えるのか……!
今回もご愛読ありがとうございます!