暗殺教室 不良児は認められたい   作:ZWAARD

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加えてたくさんの感想、高評価ありがとうございます!

今回も投下しますのでお付き合いください……!


123話 ゲームオーバーの時間

 

『がふっ……!?』

 

 通信機越しに圭ちゃんの苦しそうな声が聞こえる。

 毒にやられていた時よりも痛くて苦しそうな声に歯噛みする。今の私にはどうすることも出来ない。その歯痒さに震えた。だから、せめて祈るしかなかった。これまでなんだかんだで色んな壁を乗り越えてきた彼の強さを信じて。

 

「……乃咲なら大丈夫だって」

 

「………うん」

 

 私を励まそうとしてくれる声に曖昧に頷く。

 圭ちゃんの強さは分かってるつもりだった。でも、同時にその弱さも分かっているつもりだった。

 

 肉体的な弱さでも、腕っぷし的な弱さでもない。

 圭ちゃんは強い。基本的に私たちを平等に見てくれてる烏間先生ですら、その実力を特別評価してる程に。

 

 私が言いたいのは精神的な弱さと言うのだろうか。

 家族のことで悩んだり、環境で苦しんだり、憧れた人に認められる為に頑張ったり。弱さと言うのは少し酷な年相応さと言い換えることができるかも知れない、そんな一面。

 

 彼は私たちと歳が変わらないクラスメイト。そう、ただの同い年なんだ。特別心が強いわけじゃない。

 友達とはしゃぐ一面も、好きなゲームについて語る一面も、嫌なことから素直に逃げようとする一面もある、ただの男の子。痛いのだって嫌だし、苦しいのもきっと嫌なはずだ。

 

 まして、世界最高の殺し屋なんて相手に立ち向かうのが怖くない筈がない。きっと、こうしている間にも死神とだけじゃなくて、自分とも戦っているのかも知れない。

 

 だから、一刻も早くビッチ先生を助けたかった。

 彼に、逃げていいんだよ。と言うために。

 

「……あった、扉だ。しかも明らかに何かあります、みたいな機械が着いてやがる。竹林爆弾の出番だな」

 

「あぁ……」

 

 岡チンが頷きながら来た道を振り向く。

 

 そこには誰の姿もなく、それでも、この暗闇のずっと先で圭ちゃんが1人で戦っているのは聞こえてくる通信から分かってた。鈍い打撃音、荒んだ彼の声、笑う死神。二つの同じ声でも、その色が何となく違う気がする。

 

「……なぁ、やっぱり俺たち男子だけでも乃咲の救援に言った方が良くないか?アイツ、かなり苦戦してる」

 

「慌てたら思うツボだよ、一旦落ち着いて」

 

 メグちゃんが嗜める。それに彼が苦虫を噛み潰した様な顔をするけど、言葉を続ける。

 

「向こうに残った戦闘班はみんな強い。その中でも乃咲くんは特にね。そこに加えて磯貝くんとカルマくんもいたんだよ?死神が人数を使って勝てる相手なら……あの3人が一緒に戦わない訳がないでしょ?死神は……そんな彼らが脱出を優先させる相手。岡島くんだけじゃなくて、誰が行っても返り討ちに合うだけ。なら、私たちは私たちの役目を果たすべきよ」

 

「…………悪い」

 

「良いのよ。みんな心の中で少なからず思ってることだもの。誰かが言葉に出してくれた方がみんなもスッキリするでしょ」

 

 こう言う時、岡チンはみんなが何処かで思ってることを言ってくれるし、メグちゃんはそれを受け止めつつ、嗜めるようにやらなきゃいけない本筋を指差してくれる。

 恋愛どうこうに結びつけるつもりはないけれど、こんな時の2人は良いコンビをしてるように感じる。

 

「陽菜ちゃんは平気?」

 

 桃花ちゃんが覗き込む様に小声で聞いてくる。

 その質問の意図は考えるまでもなかった。

 

「本音を言うならそりゃ止めたいよ。危ないことして欲しくないし、例え足手纏いになったとしても、それでも、今からでも走っていって一緒に戦いたいよ」

 

 思い返す。彼は危ない目に遭いすぎる。

 鷹岡先生に殴られ、毒を盛られても無茶して、銃に撃たれて、過労で倒れて、トラックに引き摺られて、触手の間を潜り抜けて、今は世界最高の殺し屋と戦ってる。

 

「……でも、本人なりに色んなことを覚悟して残ることを選んだんだからさ。あの人はこう言う時、背中を押して貰える方が嬉しい人だから……。イトナくんの時もそうだったもん」

 

「倉橋………」

 

「だから、早くビッチ先生を助けよ?助けられれば、圭ちゃんが時間稼ぎする必要もない。逃げてって言ってあげられるからさ」

 

「……そうだよな、よし、さっさとビッチ助けて帰ろうぜ!あのファザコンも連れて安全な場所によ!」

 

「そうね……。三村くん、爆弾は?」

 

「おっけー。いつでもヤれるよ!」

 

「じゃ、少し離れて爆破。そのあと突入ね。私と杉野くんで前に出るから、岡島くんと三村くんは後ろを警戒しながら来て。潜んでるのが死神だけとは限らないから」

 

 フォーメーションを組み直し、メグちゃんが3本指を立て、三村くんに合図を送る。3、2、1、最後の指を折ると同時に爆発が起こって扉の取手を吹き飛ばす。

 ぎぃぃ、と重い音を立てる扉を杉野くんが蹴破ってメグちゃんがハンドガンを片手に先頭を切って突入した。

 

 その後ろに続いて私たちも部屋に入る。

 そして、そこで目的の人物を見つけた。

 

「なによ、遅かったじゃない、ガキども」

 

 両手をロープで繋がれて、疲弊した様子のビッチ先生がぶーたれながら、私たちに視線を向けていた。

 

「死神は?」

 

「……乃咲が相手してる」

 

「………そう、時間がないわね。さっさとあのガキ助けないとだし、早くこの拘束解いてちょうだい。ロープだし、その装備、ナイフ付いてるんだから切れるでしょ?」

 

 結構元気そうと言うか、太々しい様子のビッチ先生。

 でも、圭ちゃんからの忠告はみんな忘れていなかった。

 

「桃花、お願い。私たちは出口を警戒する」

 

「うん。ビッチ先生、ちょっと大人しくしててね」

 

 桃花ちゃんが言いながらハンカチを取り出す。催涙弾を砕いて中の薬液を染み込ませた即席のトラップ。

 

「ちょっ、なによそれ」

 

「クロロホルム」

 

「はぁっ!!?まっ、待ちなさいっての!!なんでそんな物騒なモン使うのよ!!?助けに来てくれたんじゃないわけ!!?」

 

「乃咲くんが死神に洗脳されてる可能性があるからって」

 

「の〜ざぁ〜きぃ〜!!そりゃ当然の心配だけど!!見てよ!?私の何処が洗脳されてるってのよ!?」

 

 必死に弁解するビッチ先生は確かに洗脳なんて受けてる様には見えなくて。私たちは顔を見合わせる。

 

「ん〜、でも、そう言う風に言えって洗脳されてる可能性もあるし、念の為に……ね?」

 

「トウカ!?」

 

 躙り寄る桃花ちゃんが止めるつもりが無いと察したのか、ビッチ先生が『や〜だ〜!や〜だ〜!』と駄々をこねる子供みたいに脚をバタバタと動かして精一杯の抵抗を見せる。

 

「ちょっ!?ビッチ先生、そんなカッコで暴れんな!!?」

 

 死神の趣味なのか、割と際どい格好で捕まってたビッチ先生は脚を動かすと、その裾、脚の付け根まで見えてしまいそうで、男子3人が顔ごと目を逸らす。

 

 これは本当に洗脳されてないんじゃない?なんて思いつつ、ふざけてる時間はないから、桃花ちゃんの背中を押そうと思ったその時……。男子3人がふと、パタリと倒れた。

 気付いたのは倒れる音が聞こえたと同時。まさか死神が来たのかと思わず振り返って破壊した扉の先を見るけど、そこには誰もいない。なんなら、まだ圭ちゃんと戦ってるみたいだった。

 

 じゃあ何が起きたのか、視線を戻すと、そこにはビッチ先生がいた。いつの間にかロープから抜け出し、立っていた。

 いつもなら、『縄抜けもできるの!?』なんてはしゃいで教えを聞きに行っただろう。彼女の足元に転がる、メグちゃんと桃花ちゃんの姿がなければ。

 

「ビッチ先生……なんで!?」

 

 莉桜ちゃんが聴く。凛花ちゃんも、有希ちゃんも状況が飲み込めずに居た。もちろん、私もそうだった。

 ただ、離れていたはずの男子3人と近くにいた筈の女子2人、みんな倒れていて、拘束されてたはずのビッチ先生が立っているのだから……何が起きたのかは明白だった。

 

「洗脳……。さて、私はどっちだったのかしら。アンタたちといた微温湯のような時間にこそ……私は洗脳されてたのかもね」

 

 小さな銃を構える。たまに見るいつもの小さなリボルバーじゃなくて、本当に無機質な見慣れた物とは違う銃。

 

「私が敵に回ってる可能性自体は良い目の付け所だった。だからこそアンタらは私を見つけて直ぐに麻酔弾を撃つべきだった。メグたちの判断ミスであり、私が裏切った可能性を考慮しながらも……洗脳なんて優しい表現で誤魔化した乃咲のミスね」

 

 そっか……。あの人は気付いてたんだ。

 

 多分、それでも私たちに素直にビッチ先生が裏切ったかも、なんて言っても動揺するか、信じきれなくて、虚を突かれるかもしれないって思ったから、洗脳って言葉を使ったんだ。

 

 有り得なくもない可能性を例に出すことで、最低限、そしてあり得るかもしれない事実を告げずに最大限警戒させる為に。

 その上で、今は死神と戦ってる。助けに来た相手が裏切ってるかも知れない可能性と未知の実力を持った死神相手に1人で立ち回る怖さの2つを背負って。

 

 前に比べたら……色んなことを話してくれる様になったけど、やっぱり大事なところでは遠慮されてる。

 それが優しさ、気遣いなんだろうけど、私たちが信頼されてない訳でもないんだろうけど、それが悔しい。

 

「乃咲は悪くないよ。うちらのミス。こんな人だったんだね、ビッチ先生……正直、幻滅したよ」

 

「あら、ならどう言う人だと思っていたの、リオ?」

 

「身勝手で、欲望に弱くて、男がいないと爆裂して死ぬ…………あれ、割とこんな人だったかも………?」

 

「そこっ!勝手に怖い設定付け足すな!!」

 

 ビッチ先生はいつも通りのリアクションをする。

 本当にいつも通りの反応で、思わず警戒を解きそうになるのが怖かった。警戒できないのが一番怖い。そんな言葉を思い出す。

 

「でもビッチ先生、1人でうちらとヤるつもり?一応毎日訓練してるんだよ?そら先生がプロなのも、訓練欠かしてないのも知ってるけど、人数差的に厳しいのは分かってるんじゃないの?」

 

「ふん、ガキが。偉そうな事言ってるんじゃないわよ。そのうちの半分は既に制圧されてるんだから。年季の違いを見せてあげる。越えた修羅場の数が違うってこともね」

 

 先生が銃を構えるより先に莉桜ちゃんが動く。

 

 残った私たちも同じように。でも、ビッチ先生の方が早かった。銃を構えたのは私たちが先。でも、先生は銃を構えずに脚を動かした。自分が座らされていたシーツを脚で手繰り寄せて、そのまま蹴り上げる。

 

 それで私たちの間には一枚の壁が出来た。布一枚の薄い壁。でもそれは、大した威力のないエアガンくらいしか遠距離攻撃の出来ない私たちには酷く分厚い壁で。

 発射された催眠弾は呆気なく砕けて、薬品を壁代わりになったシーツに染み込ませるだけだった。

 

「布は暗殺道具としては優秀よ。何処にでもあるし、上手く使えば目隠しにもなる。水分も吸ってくれるから、毒の類も吸い込んでくれるし……なにより」

 

 布が莉桜ちゃん目掛けて突進する。

 攻撃を防がれ、挙句にこんな形で反撃されると思わなかったのか、彼女は一瞬だけ身を強張らせてしまった。

 

 一瞬、それでもプロの殺し屋にとっては必殺の瞬間になる。

 

 顔目掛けて伸びる布を避け切れず、莉桜ちゃんの顔が布の奥にあるビッチ先生の腕に掴まれてしまった。

 

「相手が使った液状の毒を防げば、こうして反撃の武器になる場合もある。当たれば気絶する系の薬物はその臭いだけでも効果は期待できる。こうしてゼロ距離で嗅がされれば尚更ね」

 

 身体から力が抜けて倒れる莉桜ちゃんを地面にそっと寝かせてビッチ先生が私と有希ちゃんに目を向けた。

 

「それで……次はどっち?ユキコかヒナノか。どっちでもいいし、まとめて来ても良いわ」

 

 ビッチ先生は言いながら銃を構える。

 

 状況はかなり悪い。ビッチ先生の足元には気絶した仲間たちがいて、私たちの遠距離攻撃を殺せる布があり、銃もある。撃たれたらしい男子3人から血が出てないあたり、麻酔銃の類かも知れないけど、遠距離での攻撃手段があるのは強い。

 

 私たちは人数で勝ってるけど、遠距離攻撃の手段はない。

 虚を突ければチャンスはあるかも知れないけど、今の4倍は戦力が居たのに今はたった2人しかいない。たった2分もしないうちにこれだけやられたんだから、きっと、そんな隙は見せてくれないだろう。ビッチ先生もプロだもん。

 

「……倉橋さん。私が正面に立つから後ろからビッチ先生にスタンガンを当てに行ってくれる?」

 

「有希ちゃん……!?」

 

「あれが麻酔銃なら、貫通したりはしないと思うし……みんな1発で気絶させられたから威力もあるとは思うけど死んじゃったりはしないと思う。私が壁になるからトドメをお願い……」

 

「そんなっ、友達を盾にするなんて嫌だよっ!やるなら私が盾になるから、有希ちゃんがっ……!!」

 

「スタンガンは布越しでもダメージを与えられると思うけど……でも、その分、近づいて当てられなきゃ意味がないわ。なら女子のナイフ術でトップ3の倉橋さんが適任だと思う」

 

「っ………」

 

 ビッチ先生にも作戦は聞こえてる。それでも攻撃してこないのは絶対の自信があるからなんだろう。

 時間がない。少しでも先生の気が変われば、私たちは全滅してしまう。覚悟を決めないといけない。

 

 こんな時、圭ちゃんならどうするだろう……?

 

 多分、有希ちゃんと同じ作戦を立てると思う。なんだかんだ、盾役やりながら1人で仕留めにいきそうな気はするけど、でも、結局作戦は盾役が囮になって、その先にもう1人がトドメって形を取るのは間違いないと思う。

 

「………わかった、ごめんね。有希ちゃん」

 

「良いの。きっとこれが一番合理的だから……って乃咲くんなら言うんじゃない?」

 

 薄く笑う彼女に少しだけ肩をすくめる。

 まるで私が何を考えたのかをわかってるみたいな言動に思わず苦笑いして、スタンガンを構えた。

 

「覚悟は出来た?なら来なさい。イかせてあげる」

 

「……行きますっ!」

 

 有希ちゃんが銃を抜いて一歩前に出た。

 すかさず発射されるビッチ先生の催眠弾が私の前に立っていた有希ちゃんに当たる。

 

「う……うぅっ……!!」

 

 倒れそうになりながらも、彼女は引き金を引いた。

 パッパッと最後の抵抗として撃たれる弾がそれすらも予期していたビッチ先生のシーツに防がれる。砕けた弾から溢れ出した薬品が、シーツにシミを作った。

 

「………ッッッッ!」

 

 それでも、彼女はただでは終わらなかった。

 倒れながらビッチ先生に伸ばしたその手が、目隠し兼防御壁になっていたシーツを掴み、倒れる力を使って先生から剥ぎ取る。

 

「……やるじゃない。ユキコ」

 

 流石に予想外だったであろう、その隙を逃さない。

 有希ちゃんの影から飛び出し、ビッチ先生を仕留めに掛かる。

 

 ビッチ先生はかなり軽装だった。胸の谷間には何か隠してるかも知れないけど、それ以外に何かを隠してることは無いはず。格好はネグリジェで、さっき脚をばたつかせた時、脚の付け根には下着以外は何も見えなかった。

 

 胸に何か隠しているとして、多分、先生が取り出すよりも私が肉薄する方が速い。となると、一番警戒しなきゃいけないのはビッチ先生の麻酔銃。それさえ気を付ければなんとかなる……!

 

 もちろん、自信はない。実弾ではないとは言え、銃は銃であることに変わらない。それが向けられようとしてるのが怖いし、向けられるのも怖い。

 でも、有希ちゃんはそんな恐怖に耐えて私の盾になってくれた。圭ちゃんはそんな思いをしても鷹岡先生から解毒薬を奪おうとした。次はきっと私の番だ。

 

 ビッチ先生が烏間先生に意見したことで女子用の超体育着は男子の物ほどゴワゴワした部分はないけど、でも、防刃耐性もあるって烏間先生は言ってた。

 なら、受けるならそこを盾にするしかない。出来るかどうか分からないけど、今はやるしかない。

 

 薬の類が目や口から入らない様に片手で顔を防御しながらスタンガンを繰り出す。

 今まで一番早く繰り出せた突き。圭ちゃんや烏間先生が見たらきっと褒めてくれるに違いない渾身の一撃。

 

 繰り出した瞬間。ビッチ先生はふと、麻酔銃を手放した。

 

 まるで空中に置くようにそっと手を離した。

 

「……えっ」

 

 声が漏れた。呆気に取られた。ビッチ先生が、一体どうしてそうしたのか理解できなかった。

 私を仕留められたかも知れない武器。それを手放す選択肢がどうしてこの瞬間に出るのだろう?どうしてそれを選ぶんだろう?床に落ちていく麻酔銃がスローモーションに見える。

 

「………終わりよ」

 

 呆気に取られ、目を釘付けにされていた時、そんな声が嫌に近くから聞こえたと思ったら、目の前で閃光が弾けた。

 パァァァァン!と甲高い銃声の様な音が鳴り響き、目の前で爆発したかのような錯覚に陥った。

 

 実際は、ビッチ先生が猫騙しをしただけなのに、私はその予想外の行動によって緊張の糸を断ち切られ、崩れ落ちた。

 

 予想外だった。でも、知らないわけじゃなかった。

 見たことがあった。つい最近も見た。圭ちゃんがイトナくんを助ける為に使っていた技だ。

 

「クラップスタナー。元々はロヴロ師匠(せんせい)が渚と乃咲に教えたのよ?あの人の弟子である私が使えないと思った?」

 

「………ぁ」

 

 顔に布が被せられる。防御出来ずに無防備に顔に当てられたそれは、一番最初、桃花ちゃんがビッチ先生に使おうとしたクロロホルムの染み込んだハンカチだった。

 

 いつの間に回収してたんだろう……?

 

 霞む視界、前のめりに倒れる身体。

 ふと、身体が正面から支えられる。

 

「アンタらは良くやったわ。あとはプロに任せなさい」

 

 優しい声だった。先生の機嫌が良くなくて素直じゃない時、それでも私たちに折れてくれる時に出す、仕方なさそうな、それでいて満更でもなさそうな声。

 

 胸ポケットに入れていたモノが抜き取られる感覚があったけど、もう、私には抵抗する力はなかった。

 

 助けに来たのに裏切られて、戦って負けた。

 でも、やっぱり、この優しい声を信じたいなって思った。

 

⬛︎

 

⬜︎

 

⬛︎

 

 ジャラリと重たく擦れる音がする。

 ぼんやりとした脳裏を繰り返し流れ続けるのは死神の動きだった。全ての動きが合理的で、どんな動きにも派生でき、それでいて殺気がなく、あるのは穏やかな笑みと異様な気配。

 

 同じ顔、同じ声だからだろうか?それとも骨格レベルで似ていると本能的に感じ取ったが故だろうか。俺は一つだけ確信があった。自信過剰、身の程知らずと笑われても仕方ない自信が。

 

————俺にもできる(・・・・・・)

 

 感じた。そして思った。死神はきっと努力したのだろう。それこそ血の滲むような思いで必死に。

 だからこそ思ってしまったのかも知れない。同じだけ努力すれば、自分にもできる様になるのではないか、と。

 

 あの瞬間、死神と戦っていた瞬間。

 俺は奴の動きを見ていた。決して見切れていた訳ではない。でも、視えていた。身体が追いつかなかった、技術が追いつかなかった。それでも死神の動きは俺の中に焼き付いた。

 

 理解したと言ってもいいかも知れない。

 身体の動かし方、筋肉の伸ばし方、軸の回し方、目の配り方、気配のぼかし方、ワイヤーの操作方法。俺と対峙した時に使っていた死神の技術のカケラとも言えるモノを。

 

「あら、目が覚めたのね」

 

 薄らぼんやりと目を開けて周りを見渡すと、正面からビッチ先生が歩いてくる。ゆっくり足音を立てて焦らす様に。

 

「ビッチ……先生……?」

 

「聞いたわよ?随分と大活躍だったみたいじゃない。死神相手に大立ち回り、おまけに私の裏切りも見抜いてたんだって?」

 

「裏切り………本当に……?」

 

「えぇ。アンタは洗脳なんて言葉を濁したみたいだけど……それは判断ミス。優しさとは言えない。それを甘さって言うのよ」

 

 甘さ……。そうなのかもな。

 俺は、甘かったのか。

 

 ビッチ先生がここにいると言うことは、みんなヤられたのか。殺さないためにとか、そんなこと言ってる場合じゃなかったのか。仲間の安全も掛かっていたあの状況、やはり、殺すことになっても全力を出すべきだったのか?

 

「そこまで。あんまりイジメちゃ可哀想だからね。ほどほどにしてあげてよ、イリーナ。むしろその子は良くやったさ。僕らを相手に読み自体は大体当たってた訳だし、たった1人で僕を5分も足止めしたんだから。むしろ褒めてあげないと」

 

 『それが先生ってもんでしょ?』と軽口の様に言い放つ死神にビッチ先生は肩を軽く上げて返事をした。

 

「というか、随分遅かったね」

 

「ガキどもを運べってのはアンタの指示でしょ。こんな美女に男子まで運ばせて置いてよく言うわ」

 

「それもそっか」

 

 ……どうする。みんなが逃げられたかは分からない。いっそ、この鎖を引きちぎって今度こそ殺すつもりで暴れるか?

 

「あ、強引に拘束から抜け出して暴れるなんて考えもやめた方がいいよ。キミのお友達は今、虫を誘き寄せる為に生けてるからね。僕の指先一つで簡単に摘み取れること、忘れないでよ」

 

「………悪党ってのはどいつもこいつも似た様な言い回しが好きだな。鷹岡も似た様なことを言ってたよ」

 

「はは、そうかもね。でも、彼と違って僕はタイムラグ無しで殺せる。鉢植えで育てるキミより、生花としての彼らの方が粗末に扱えるからね。参考までに認識合わせだ。圭一、生花ってどんな字を書くか知ってるかい?」

 

「……生きてる花だろ」

 

生かしてる(・・・・・)花だよ」

 

 そのセリフだけでコイツの考えが察せてしまう辺り、なんとなく死神の思考パターンを理解し始めてるのかな。 

 

 みんなは生きてるんじゃなくて、生かしてるだけ。殺せんせーが来るまで、俺や捕まってるみんなが怪しい動きをするまでは殺すつもりはないが、逆を言えばいつでも機嫌と指先だけで殺せるから、抵抗はするなってことか。

 

「………悪趣味だな」

 

「やだな。人道的な方だよ?音楽聞かせて美味しく完熟させるバナナみたいに、友達の悲鳴を聞かされながら心を折られるよりはよっぽどマシだろ?」

 

 よくもまぁ、こんな脅し文句がすらすら出てくるもんだ。

 が、これ以上刺激しても良いことはないだろう。ご機嫌取りって訳じゃないが、余計なことは言わない方が良さそうだ。

 

「ま、元教師として、プロの殺し屋としてアンタの頑張りは認めるわ。狙われたら最後、何をされたか分からず殺されるって都市伝説になる様な伝説の殺し屋を相手に5分も時間を稼いだ。確かに無駄な努力ではなかったわよ。ね、死神。肉壁作戦で時間を稼がれてカエデを取り逃がしたんだもの」

 

「あはは。確かにね。でも、いいさ1人くらい。君たちのスマホはネットに繋げば、こっちの手に落ちた律さんが色々と妨害する。本体に繋げばクリーニングも出来るだろうけど、ここからE組の山までは遠い。僕が生徒のスマホを使ってターゲットを呼び出す方が圧倒的に速いさ」

 

 ……なんだ。いまの会話の違和感。

 茅野が上手く逃げられたなんて情報、出す必要あったか?

 

 そりゃあ、こうして捕まってる俺に隠す必要はない情報だ。でも、かと言ってわざわざ教えてメリットがある様な情報じゃない。むしろ、俺の反乱を想定するなら隠すべきだ。

 

「カエデ以外は全員捕まった。下手なことをしたら首が弾け飛ぶ首輪着きでお友達は全員、鉄格子の中にぶち込まれてる。アンタらの負けよ。無駄な抵抗は止めて起きなさい」

 

「僕としては1人2人くらい抵抗してくれた方が面白いし、楽なんだけどね。見せしめにする口実ができて。目の前で首が飛べば嫌でも大人しくなるだろ?」

 

 ……ビッチ先生の言葉選びはまるで、俺に状況を伝えようとしているみたいだった。『茅野は逃げた。みんなが危ないから下手なマネはしないで大人しくしてろ』って指示の様に聞こえる。

 

 だが、ただの中学生でしかない俺に分かるんだ。死神にだってニュアンスは伝わってるんじゃないのか。そんなことを思っていると死神が笑いながら言う。

 

「イリーナも酷いことするよね。助けに来てくれた生徒を返り討ちにするとかさ。彼らがどんな思いでここに乗り込んできたやら。もう先生には戻れないね」

 

「あら、私なりの優しさのつもりよ?アナタは激しすぎるもの。下手に痛がらせるより、優しくイかせてあげるのが元教え子に対する思いやりじゃなくって?」

 

 そうか。気づいてないか、或いはあえて泳がせてるんだ。

 ビッチ先生に逆らう意思があるなら、俺たちに便乗するだろう。でも、それをしなかったから、単純に信用してる可能性もあるし、そうじゃなければ、俺たちに今更出来ることがないからとあえて泳がせているか。

 

 どちらにせよ、打つ手がないか。

 

「さて。それじゃあ、作業に戻ろうか。いくよ、イリーナ。圭一に"教育"する前にターゲットを殺してしまおう」

 

「えぇ。そうね、死神」

 

 鎖に繋がれた俺には見送ることしか出来なかった。

 

 何も出来ない状態に項垂れてしまいそうになったその時、薄暗い部屋に明かりが止まる。

 光の差し込んでくる方へ視線を向けると、そこには何処かの映像を写すモニターがあった。

 

「………みんな……!?」

 

 突然動き出したモニターの中にはみんながいた。

 驚愕する俺を他所に、どこかにあるのであろうスピーカーが音を運んできた。

 

⬛︎

 

⬜︎

 

⬛︎

 

 かちゃ、かちゃ。淡々と繰り返される金属音は僕らを拘束する手錠の音。牢屋の外にいる死神は、ビッチ先生が僕らを牢屋に放り込んで行く姿をにこやかに見守っていた。

 

「ビッチ先生。圭ちゃんとカエデちゃんは何処行ったの?」

 

「乃咲なら別室で拘束中。カエデなら逃げ切ったわよ」

 

 茅野が逃げ切った。その言葉に思わず喜びそうになるけど、牢屋の外にいる人物を見てそうも出来なくなった。

 死神はただ笑っていた。怒るでもなく、言い訳するでもなく、ただ喜ぼうとする僕らを眺めて微笑む。

 

「……圭ちゃんをどうする気なの」

 

「もう1人の僕になってもらう」

 

 倉橋さんの言葉に短く答えた。

 でも、僕らはその意味がよく理解できなかった。

 

「彼、とんでもない原石だよ。才能なんて話じゃない。そもそも、多分、彼には才能がない。ずば抜けた集中力が作り出す人並外れた洞察力と思考力。どうすれば出来るか見て覚えて、実際の動かし方を考えて、出力する。俗に言う天才が一つの工程でやれるところを、彼は三つの工程でやってるんだろうね」

 

「なら、別に乃咲クンじゃなくても良くない?こと殺しの才能なら、渚くんの方がよっぽど才能あるよ。まさか、顔が似てるってそんな理由だけじゃないよねぇ」

 

「ははっ、それこそまさかだよ。顔と声が似てる程度なら、スケープゴートにでもして終わりさ。でも、彼には特異な能力があるからね。あのチカラを知ってるならどんな手を使っても支配下に起きたいと思うものじゃないかな?」

 

 チカラ……?乃咲の特異な……?

 予想してなかった単語が飛び出して思わずキョトンとする。そんな僕を見て、死神もキョトンとしていた。

 

「……あれ、もしかして知らない?知らないで僕の相手を彼に任せたの?それはなんとも……信頼されてると言うべきなのかな、圭一は。それとも、これだけ一緒に暗殺して来た仲なのに話して貰ってないキミたちが信頼されてないのかな」

 

「何を言って………」

 

「おかしいと思わないかい?触手の初速は僕の見立てだと時速600〜700キロ。そんな殺せんせーの動きを見切ってダメージを与えたり、話によるとイトナくんの触手を掻い潜ってクラップスタナーまで決めた。ちょっと裕福な家で生まれただけの普通の人間にそんなことが出来るだなんて本気で思ってるのかい?」

 

 その言葉に僕らは俯いた。

 

 乃咲は時々、異様に速く動いていた。目にも止まらないとか、そんなレベルじゃない。僕たちは何度も、乃咲が瞬間移動染みたスピードで動くところを見ていた。

 

 薄々疑問に思っていた。彼は何者なんだろうと。

 その質問に害意はない。ただ、一緒にいる仲間のことを知りたいだけの疑問。それでも、僕らは聞かずにいた。

 

 彼がいつか話してくれると信じていたから、と言うのもある。でも、それ以上にこの質問が何か、デリケートな部分に触れる気がして、聞いたら引き返せないような気がして、聞けずにいた。

 

「僕は知ってるよ、ざっくりかつ考察の入り混じったものだけど。それでも僕は彼が欲しい。だって……親戚、だからね」

 

「————はっ……?」

 

 再び飛び出す予想外の言葉にフリーズする。

 

 乃咲と死神。2人は確かによく似ている。声もそっくり。親戚と言われれば納得しかない。でも、予想外の言葉だった。

 

「これは本人にも伝えてないけど……倉橋さんは覚えてるかな、僕と初対面の時。散らかったおじいさんの荷物を集めてた時、茅野さんが僕に彼との血縁関係について聞いたこと」

 

「………うん」

 

「あの時、僕は言った。ある種、肯定したよ。『どっかで血が繋がってるかもしれない』って。つまりはそう言うことさ。かなり血の繋がりは遠いけど、僕らは再従兄弟なんだ」

 

「圭ちゃんの大叔父さんとか大叔母さんの孫ってこと……?」

 

「そいうこと。血縁的には……彼から見たら、おばあちゃんの兄弟の孫ってことさ。驚いたかな?」

 

「そんなこと………あるの………?」

 

「あるんだなぁ、これが。僕もびっくりしたよ。ターゲットについて調べてたら、自分とそっくりな中学生を見つけて、つい寄り道してみたら……まさか血縁者だったとはね」

 

 死神は本当に面白そうに笑っていた。

 

「でも、本当に面白いのは、彼を血縁者の中心に置いた時の相関図でね。これにはさしもの僕だって思わず引いてしまったよ。『うわぁ』なんて声が出たのは初めてさ」

 

「なんの話だよ!!?圭一がなんだって言うんだ!?」

 

「落ち着けよ、磯貝。ここで怒ったって仕方ねぇって!」

 

「あはは。んじゃあ、簡単な事情だけ話してあげるよ。端的に言うとだね……。乃咲圭一という少年自体、生まれながらにして触手に関わるべくして生まれたって言うのかなぁ。というより、彼がいることが、触手の誕生に繋がったって言うべきなのかなぁ」

 

「なんだよ……それ…………!!!?」

 

「教えてあげない。そうした方がキミらの疑念は強まって、圭一に帰る場所は無くなる。ま、キミが今後、あの子に会うことはないだろうけどね」

 

「どう言う意味だ!?」

 

「摘んだ花を植え直す奴はいないよ。僕はあの子を君たちに返すつもりは無いし、僕の顔を知った君たちをただで返すつもりもない。なんだ、象に踏まれたとでも思って諦めてくれ」

 

 僕らの友達と同じ声で、同じ顔で言う。

 同じ人物に見えるのに、中身は全く違う。

 

 ついさっき、別れたばかりの乃咲の不器用な笑い方や優しさが、なんだか酷く懐かしく感じた。

 

「でもさ、上手くいくもんかね。超体育着のことを知らなくて俺たちに大したダメージは与えられなかった上に、あのファザコンに5分も稼がれた。そんで茅野ちゃんまで逃してる訳だけど……アンタの計画って、そんなご大層なものかな?」

 

「そこは素直に認めるよ。予想外の出来事は多かったし、君たちは想像以上に強かった。けれど、キミたちは結果、どうなってる?牢屋にぶち込まれて、身動き取れなくなってるじゃないか。逃げた子も、ターゲットを殺したあとで摘み取ればいい」

 

 カルマくんは死神の言葉を笑う様に顎で指す。

 その先にあったのは監視用か、あるいは僕らに見せつけるためのモニターがいくつも。そんな沢山のモニターの中にそれは写っていた。うすらでかい犬が一頭。

 

「また、計算違いがあったんじゃない?」

 

「…………何故気付いた?」

 

 その顔から初めて笑みが消えた。

 確かに早すぎる。それでも、僕らにとっては嬉しい誤算だ。

 

「殺せんせー……!」

 

 全く擬態も変装も出来てないけど、殺せんせーが来てくれた。それだけの事実で僕らに希望が戻ってくる。 

 

「まいったな、かなり計画が狂ってしまった。仕方ない。イリーナ。プラン18だ。渚くんを使おう」  

 

「…………えぇ」

 

 間を開けたあと、頷いたビッチ先生は僕の襟首を掴むと無理矢理立たせて引き摺るようにして牢屋を後にする。

 

 2人に連れられて、エレベーターに乗り、ビッチ先生がいかにも捕まってます、と言うポーズを取った。

 

「渚くん。くれぐれも無駄な抵抗はしないことだ。キミの身動き一つで首無し死体が出来上がることを忘れずにね」

 

「………はい」

 

 後ろから首に手を回され、本当の意味で身動きが取れなくなった頃、エレベーターは目的地に辿り着いた。

 

「………っ、キミは————!」

 

 殺せんせーの驚愕の声が聞こえる。

 無理もない。僕らが攫われたと思って助けに来たら、自分の生徒とそっくりな男が人質を連れて現れたんだから。

 

「やぁ、初めまして。殺せんせー。状況は言わなくても分かるね。僕はキミを殺しにきた暗殺者だ」

 

「………えぇ。キミが噂に聞く『死神』ですね」

 

「そう呼ばれてるらしいね。ま、世間話は止そう。そんなくだらないことしに来たわけじゃないだろう?アンタの要求は生徒たちの解放かな。条件次第では飲んでもいいよ」

 

「その条件とは?」

 

「100億の賞金首」

 

「…………それは無理な相談です。私はまだ、この命で彼らに教えなければならないことが沢山ある。………キミもどうです?私の生徒になるつもりはありませんか?殺されるつもりはありませんが、平等に殺すチャンスを与えることはできる」

 

「お断りだね。僕の先生は1人だけだ。もっとも、何処で何してるか一切掴めないけどね。でも、そんなことはどうでも良い。100億を越える賞金を掛けられたマッハ20のモンスター。アンタを殺せば……今度こそ、僕を認めてくれる筈だ」

 

「罪のない、28人の中学生と引き換えに100億円。そんなリスクとリターンの噛み合わない成果を誇る不良児を……例え殺し屋の師匠であっても、教師が認めるわけにはいきません」

 

「なんだい、偉そうに」

 

「キミほどの殺し屋なら、もっと良い手段があったのでは。と思っただけです。我々に気づかれない様、準備を進めた手腕、イリーナ先生や私の生徒たちを攫うだけの技量。それだけ出来るなら、もっとやりようはあった筈だ」

 

「効率の話さ。70億もの人類と28人の中学生。どっちが重いかなんて比べるまでもないだろ?最速で効率的な選択肢を取る。それが僕の先生の教えさ。頑張った、工夫した、別の手を探した?そんなの結果が出なきゃ意味がない」

 

「教えた者が愚かだったのです」

 

「だからこそ、僕はここにいる」

 

 殺せんせーと死神の会話は舌戦とでも言うべき内容なのだろう。でも、僕は、この2人の会話は何処まで行っても平行線で、お互いに根本的な部分がズレている様に感じた。

 

「御託を並べるのはここまでにしようか。この女は返すよ。生徒たちを拉致った時点で既に用済みだ」

 

 ビッチ先生が雑に投げられる。

 殺せんせーの横に転がる様に倒れ込んだ彼女はいつの間にか、両手に手錠を付けていた。

 

「随分と乱暴ですね」

 

 ビッチ先生に視線を向け、死神に向き直る。

 死神の手には、サブマシンガンと人質の僕。

 

 先生が、銃口が僕に向くか向かないかを最大限に警戒しているのが伝わってくる。でも、本当に警戒しなきゃいけないのは、僕でも、サブマシンガンでも、殺せんせーでもない。

 

 喉を僅かに震わせようとした時、死神の拘束が強くなった。

 

「止めなさ————!?」

 

 その暴行を止めようと声を出そうとした時、グラッと殺せんせーの身体が斜めに傾く。

 もう、手遅れだった。一本だけ弾け飛んだ、殺せんせーの足。言わずもがな、やったのはビッチ先生だ。

 

「じゃ、さようなら。殺せんせー」

 

 ピッと気の抜ける音がした刹那、殺せんせーの足下が開いた。どこまでも続く様な奈落への落とし穴が。

 その時、思い出す。乃咲がそんなことを警戒していた。まさか、殺せんせー用の罠だったなんて。

 

「渚くん、ご苦労様。これでキミの役目も終わりだ」

 

「えっ……!?」

 

 声を出して遅れてやって来た浮遊感。

 僕は、死神に落とし穴へ突き飛ばされていた。

 

「にゅやあぁっ!!?」

 

 僕の下を落ちていた殺せんせーが抱き止めてくれる。

 

「知ってるよ、自分以外への攻撃に弱いんだろ?荷物を抱えたその状態で這い上がるのは不可能に近い。手を伸ばした瞬間に僕が渚くんを撃ち抜くからね。大人しく落ちてよ、殺せんせー」

 

 鋭く息を飲む殺せんせーに抱かれながら落ちて行き、殺せんせーを伝って落下の衝撃が襲い来る。

 

「大丈夫ですか、渚くん!」

 

「うん……でも、これで茅野以外みんな捕まっちゃった」

 

 僕らが落ちた先にあったのは、みんなが捕まってる牢屋。

 天井から殺せんせーが降ってきたのを見てみんなが言葉を失った。予想してなかったんだ。先生がしてやられるなんて。

 

「皆さんは無事ですか!?」

 

「僕らはね……。乃咲は別の場所に捕まってるみたい。逃げ切ったのは茅野だけだよ」

 

「やはりあの子の目的は乃咲くんか……!!」

 

 殺せんせーがここにいない乃咲への心配を顔に出したと同時、エレベーターが降りて来て、殺し屋2人が現れる。

 

「ゲームオーバーだね、殺せんせー」

 

 死神は朗らかに笑った。

 

 




あとがき

はい、あとがきです。

原作では意識の波長を読んで、同じ大きさの波長の波をぶつけることで相手を無力化できる段階の技ことを2代目がクラップスタナーと呼んでいましたが、当作では音を使って相手の波長に干渉し、怯ませる、無力化させる技術の総称をクラップスタナーとさせて頂いています。ご了承ください……。

はてさて、言い訳はこの辺りにしておいて、色々とぶち混んでみました今回の話し。死神の語った内容は果たして何処まで事実なのか。

それはまだ秘密ということで………。

今回もご愛読ありがとうございます!
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