暗殺教室 不良児は認められたい   作:ZWAARD

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今回も投下させて頂きますのでお付き合いください……!


125話 問い掛けの時間 

 

「しつこいね、キミも!!」

 

「マッハ20のモンスターを殺す訓練を付けてる身だ。当たり前だろうっ……!!」

 

 逃げる奴の背中を追いかける。

 道中に仕掛けられた罠の尽くを潰し、躱し、走り続ける。

 

「くそっ……!」

 

 悪態を吐きながら、ピュー!と音が滑る音が鳴り響く。

 どうやら死神が指笛を吹いた様だが、異変は直ぐに訪れた。タッタッタ!と軽やかな足音と口呼吸特有の荒い呼吸。

 

「バウッ!」

 

 奴が突っ切った十字路の左右の道から現れたのは、背中に銃を背負ったドーベルマン達だった。

 

「くっ……なんて卑怯なッ」

 

 ドーベルマンが6頭も。それも俺を見ても死に物狂いで吠えることなく、むしろ、脇目も降らず真っ直ぐに駆け寄ってくる。未だかつて、こんなことが一度でもあっただろうか。

 それを傷付けて通ることなどできるわけがないだろう。卑怯だ。死神の手口とはここまで残酷なのか。

 

「よぉ〜し、良い子だ……。俺はなぁ……犬が大好きなんだ。だから、ここは傷つける事なく、優しく通らせて貰うとしよう」

 

 口元が緩む感覚が伝わる。

 だめだ、やはりワンちゃんを見ていると笑みが抑えられん。よもや、戦場で微笑む日が来るとはな。

 

「キャウンッ!!?」

 

 真ん中を通ろうとすると、ドーベルマンたちが慌てた様に左右へ向かって道を開ける様に散った。

 人間で言うと直立不動という言葉が似合うくらいに背をピシッと伸ばしてお座りする彼らの頭を撫でながら通過する。

 

「まじかよっ……!?」

 

「さぁ、次はなんだ。シベリアン・ハスキーか、シェパードか、ピットブルか、はたまた王道を征く柴犬か……!」

 

「ここはドッグランじゃないんだぞ!?」

 

 吐き捨てる様に言いながらスピードは落とさない死神。奴の姿が乃咲くんにそっくりな所為か、ふと、いつしかのケイドロを思い出す。木々を蹴って跳躍しながら加速し、岩壁を平行に走り去った時は驚かされたものだ。

 

 確かに技術を始めとしたあらゆる能力は超一流なのだろう。だが、奴の後ろ姿はケイドロの時の乃咲くんと比べて必死さが足らない。逃げようとする気概は伝わるが、長く強者であり続けた故か、逃げに対する本気度が彼とは違う。

 

 走力はほぼ同等。距離は縮まらないし、広がりもしない。だと言うのに、あの時と比べて、追いつかないと言う気がしない。

 

「いつまで続けるつもりだッ?」

 

 死神の脚を目掛けて発砲するが、躱される。

 回避能力は高い。加えて、躱しながら、ポケットから爆竹をばら撒く様を見るに引き出しの多さは伊達じゃない。

 

「ふんっ……!」

 

 死神のばら撒いた爆竹が俺の走る速度も相まって高速で顔面に迫る。しかし、流石にこの状態からでは回避は間に合わないし、かと言って爆発をまともに食らうわけにもいかない。

 そう瞬時に判断し、自分のシャツを力任せに引きちぎって、爆竹を包むように投げて爆発の直撃を防ぐ。

 

「師弟揃って不意打ち耐性高すぎだろっ!」

 

「仕掛けるからこそ、標的の考え方、何処に気を付けているのかを考える。故に耐性も高くなると言うのは何もおかしいことはないだろう。殺し屋には必須のロジックではないのか?」

 

「言ってくれるねッッ!」

 

 追跡すること少し、俺たちの走る通路の先に一際明るくて、広い空間が広がっていた。反響音からして間違いない。

 恐らく、放流された川の水が貯まる先。通路は渡し用の張り板か、左右に広がる昇降用の階段に繋がるものだけのフィールド。

 

「観念しろ、死神。鬼ごっこは終わりだ!」

 

「さて、それはどうかな?」

 

 死神は走り続ける。減速することなく、張り板の上を駆け抜けるでもなく、その横、高さにして十数メートルはあるであろう、立坑へ向けて躊躇いなく跳んだ。

 

「逃がさん……!」

 

 その後ろを追いかけ、同じ様に飛び降りる。

 が、そこで異変が起きた。

 

「じゃあね、烏間先生」

 

「くっ……!?」

 

 先に跳んだと思っていた死神は空中に止まっていた。

 理屈を考えるより先に、それがワイヤーによるものだと気付いて落下しながらその姿を見上げる。

 

 それと同時、本日何度目かの銃声が響いた。

 それは俺や死神が持っていた銃より口径が小さいであろうことを伝える様に今日聞いた中でも一番控えめな音だったが、そんな銃声も続いた声の持ち主で自己主張が激しい印象へと変わる。

 

「なに偉そうに見下ろしてるのよ、アンタも落ちなさい」

 

 十数メートルは上。それでもその声はしっかり聞こえていた。まるであしらう様に言い放った、その女は俺に見せつける様に手に持った小さなリボルバーと、その弾薬が入っているであろう、箱を突きつけた。

 

「鉛玉のプレゼントとはよく言うけど、案外役立つもんね。いい贈り物だったわよ、カラスマ」

 

「イリーナッッッッ!?」

 

 ワイヤーを銃撃で撃ち抜かれ、俺の後を追うように落下し始める死神にイリーナは後ろ髪を靡かせながら言った。

 

「ファーストネームで気安く呼ばないでくださる?その顔、その声で呼ぶなら……ビッチ先生と呼びなさい」

 

 コイツも教師が板についてきたってことなんだろう。そんな風に納得しながら空中で受け身の体勢を整え、着地と同時、身体の方向を転換して上から落下してくる死神に回し蹴りを放つ。

 

「くぁぁぁぁっ!!?」

 

 流石に落下する中でこれを回避する手立てはないらしい。腕をクロスして胴体への直撃は避けたが、それでも蹴りの威力に負けて数メートルは吹っ飛んだ。

 水面で蹲り、踠く様にして立ち上がる姿を見てふと疑問に思う。確かにコイツは強い。手数、手札、それら確実に俺より上だろう。だが、それでも、感じてしまった、抱いてしまった疑問がある。ロヴロからの事前情報に比べて、少しばかり……。

 

「乃咲くんに銃を無力化され、イリーナにダメ押しされ、ようやくお前に一撃入れられた。だが、妙だな。噂に聞く完全無欠っぷりは感じられない。お前、本当に"死神"か?」

 

 投げかけた疑問。それに対して返って来たのはケタケタという笑い声と、奴の足下にプカリと浮かぶ……人の顔。

 まるで人の顔から頭蓋骨を抜いた様な、あるいは、顔から皮だけを剥ぎ取った様な"抜け殻"がそこにあった。

 

「黙って聞いてりゃあ、言ってくれるねぇ。烏間先生」

 

 聞こえる声は教え子そのもの。しかし、ゆっくりと上げた顔は教え子とは酷くかけ離れた様相だった。

 

「なんだ……その顔は……!!」

 

 顔がない。正確に言えば、皮膚が、鼻が、唇が。生きてる人間の肉感を一切感じさせない。剥き出しの歯と筋肉。髑髏と人面のちょうど中間の様な頭部の不気味な男がいた。

 

「顔の皮は剥いだよ。変装の技術を極める上で邪魔でしかない。僕は死神になる為に全て捨てた。自分の顔も、先生もね」

 

「………狂っている」

 

「好きに言いなよ。全てを犠牲に磨き上げた"死神"の技術でお前も殺して顔の皮を頂こうかッッ!」

 

「この教室から退室願おう。お前は生徒の教育に悪すぎる」

 

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「よしよし、怖くないからなぁ〜」

 

 烏間先生の後を追うことしばらく。

 まるで道を空ける様に左右の壁に背を預け、プルプルと震えながらピシッとお座りしている犬が6頭。しかも背中には機銃の様な物を背負った明らかに戦闘用に躾けられたドーベルマン。

 

 これは烏間先生に怯えたんだろうなぁ〜なんて思ってると、そのうちの1頭と目が合い、それに続いて続々と振り返るワンちゃんたちは『くぅ〜ん!』と甘える様な声を出して俺とカルマと悠馬に群がり、俺たちは揉みくちゃにされた。

 

 俺の体質か、あるいは俺を死神と間違えているのか、その両方か。悠馬たちから手を離し、一頭一頭撫でながら隙を作り、殺せんせーが背中の銃を外して行く。

 

「これって確か、ドーベルマンって犬種だよね?」

 

「うん。警察犬とか猟犬に選ばれることもあるくらい優秀な子たちだよ。攻撃的な印象を持たれがちだけど、しっかりストレスなく育ててあげれば温厚で優しく育つんだって」

 

「加えて、忠誠心も強く、賢く、フィジカル面も優秀な犬種です。それを6頭も仕込むとは……」

 

「万に通じてるって言葉は伊達じゃないってことか」

 

 忠誠心が強い割に死神でも屈服させた烏間先生でもない、俺に腹を見せて撫でられ待ちの体勢をとってるんですが。

 油断させてガブリっとかありそうだなぁ〜とビクビクしながら撫でてやると安心した様な、落ち着いた様な声をだした。どうやら、屈服した訳でも威嚇してる訳でもないらしい。

 

「乃咲の動物タラシは相変わらずね」

 

「………俺、ビーストテイマーにでもなろうかな」

 

「なろう系になろうってか」

 

「やかましいわ」

 

 犬たちから手を放し、再び歩き出す。

 あんまりやりたくないが、いざとなったらメロスも顔負けな脚力で蹴り抜いてやればみんなに被害は出ないだろう。

 本当にやりたくはないので、このまま大人しくしてくれればそれに越したことはないので、良い子でいて欲しいが。

 

「……烏間先生、大丈夫かなぁ」

 

 ふと、矢田さんが呟いた。

 そうだ。こうしている間にも先生は死神とやり合っている。道草食ってる場合じゃないか。

 

「心配はありません。彼は君たちが思っているより5倍は強い。日々の訓練、稀に有る強敵との戦闘の端々でそれは感じていたでしょう?普段は強い理性でその内面に秘めた暴力的な野生こそ彼の真価。烏間先生もまた、暗殺教室に惹かれてやって来た比類無き猛者なのです」

 

 猛者。そう言われるとなんとなくピンと来る。

 浅野理事長と烏間先生の違い。

 

 本人の言う、手段を問わず、目的の為なら躊躇わず、周囲を足場に立ち上がって自分1人でも生き残る者を浅野理事長が語る強者だとするのなら。

 その身一つであらゆる困難を薙ぎ払い、有言実行し、不可能であっても断行する、肉体と精神の強さを持つのが猛者。つまりは烏間先生なのかも知れない。

 

 なるほど。それが俺の中の強さの基準の違いなのか。だとすると、俺がなりたいのは後者だ。だから浅野理事長より、烏間先生の強さに惹かれるのかもしれない。

 

 しかし、そう考えた時、死神(アイツ)はどっちなんだろう。

 

 比類無き猛者と言うのは否定しない。だが、理事長の語る強者でもある様に感じる。だが……人間としての完成度とでも言うんだろうか。ほんの少し、技術の習熟に対して逆走するみたいに人間性が幼いというか、未熟な様な気がする。

 

「……乃咲くん。キミから見て、彼はどう写りましたか?」

 

 殺せんせーの問い掛け。それに対して俺は思ったより軽やかに、初めから答えを持っていた様に答える。

 

「もう1人の自分って言うのかな。見た目も声もそっくりだってのは置いておいて……殺せんせーとか烏間先生やみんなと出会わなかったら……俺はきっと、こうなっていたんだろうって言うか。父さんとすれ違ったままの自分が流れ着くであろう、可能性の末路って感じがする。なんとなく……だけど」

 

「………そう、ですか」

 

 犬たちと入れ替わるように戻って来た悠馬たちから再び肩を借りて歩く。殺せんせーは俺の答えを聞くと、振り向かずに呟く様に頷いて俺たちの先頭を再度歩き出す。

 

 再び考える。俺とアイツで何が違うのか。

 

 考え出すと同時、今日何度目になるか分からない銃声と激しい水音が俺たちのいる通路まで響いて来た。

 

「急ぎましょう。おそらく、この先にある立坑です」

 

 俺たちは歩くペースをあげた。

 

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 水飛沫を上げながら格闘を捩じ込む。

 見たところ、乃咲くんが弾き飛ばしてくれた銃以外に火器を持っている素振りはない。だからと言って油断も出来ないのが実に厄介だ。だから、距離を詰めて奴の選択肢を狭まる。

 

「強いなぁ……ッ!教えるキミがそれなら、圭一たちがあんなに優秀なのも頷けるよ。本当に手強い」

 

「お褒めに預かり光栄だ。だからこそ、教え子の仇を取るくらいしないと彼らに顔向けできんがなッ」

 

 拳を打ち込むが、まるで手応えがない。

 ひらり、ひらりと落ちる葉っぱでも殴っている様に拳は悉く空を切り続け、致命的な一撃には至らない。

 

 奴の腕からワイヤーとナイフが同時に飛び出す。どっちが本命か反射的に判断し、飛んで来たワイヤーを弾き飛ばして、蹴りを放つが、死神はナイフを盾にして防ぐ。

 

 決定打は与えられないが、こっちも貰わない。

 互いに攻め手が欠けていた。

 

「ねぇ、烏間先生。アンタはなんでそんなに強いんだい?そこまでの猛者が自然に生まれるとは考え難い。なにか、力を欲したきっかけでもあるんじゃないかい?」

 

「………お前には関係ない」

 

「あら、残念」

 

 死神は手を止め、語り掛けてくる。

 こちらにはその会話に応じる必要性がないので短く切り捨てると、アイツは肩を小さくしながら笑って言った。

 

「昔話をしよう。僕はね、何不自由なく生きられる大金持ちの家に生まれた。イリーナを誘ったあと、血煙を吸って、砂埃を被り、泥水を啜って、瓦礫の中で過ごしたなんて言ったけど、そんなのはビジネストークだ」

 

「なに……?」

 

 俺には理解できなかった。

 

 何不自由のない生活を送れる環境に生まれ、見たところ特に持病もない健康体でありながら、わざわざ殺しの道を選び、数千という屍の山を築き上げ、挙句に中学生を虐殺してターゲットを殺そうとする思考が。

 

「でもね、僕の父親は殺し屋に殺された」

 

「っ!?」

 

「色々と恨まれる商売してたしね。別に不思議じゃなかったし、家でも横暴だったから、死んでも別に悲しくなかった。その代わり、目の前で親を瞬殺した殺し屋の動きに……僕は思ったんだ。"なんて美しいんだろう"って」

 

 そう言うと同時に繰り出されるナイフを避ける。

 突き出されたナイフはそのまま動きを止め、刃先を地面に向けると今度は振り下ろされる。

 

 さらりと繰り出されるえげつない攻撃を辛うじて避けた。

 

「目の前で見るプロ野球選手の華麗なキャッチはそれだけで少年の進路を変えてしまうように、救急隊に助けられた子供がその姿に憧れて志すように、プロの仕事には人の心を動かすインパクトがある。僕の場合は——それが暗殺だった」

 

 死神はナイフを放り投げた。

 

「さっき、僕の話を聞いて"理解できない"って顔をしたろ。それ、身近にいる教え子に同じことを言えるかい?」

 

「……何が言いたい」

 

「圭一はアンタの強さに憧れたんだろう。父親とのすれ違い、周囲との軋轢、環境への不満。それらを拗らせている時に烏間先生。アンタって言う強者と出会った。別におかしい話じゃない。男の子なんだし、強い人に憧れるのは当然と言える。でもこれ、僕の話と本質的に何か違う部分あるかな?」

 

「お前は人殺し、彼はただの子供だ」

 

「でも、同じ暗殺者だ。そのただの子供を殺し屋に育ててるのはアンタだろう?現に今は狙っているターゲットも同じだ。憧れた人に着いていって殺し屋になった。加えて家庭環境も似ているし、なんなら再従兄弟として血の繋がりもある。僕と彼で何が違う?人殺しかどうかじゃない。もっと根本的な部分さ」

 

 奴の瞳の奥が問い掛けてくる。

 ただの時間稼ぎでもなければ、雑談でもない。心根の底から投げかけて来る様な問い。

 それに答えるよりも早く、死神は口を開いた。

 

「たぶん、何も違わない。タッチの差だったよ。僕が殺せんせーかアンタがあの教室に行くより先にあの子と出会っていたのなら、圭一は今頃、こっちにいた。何不自由ない家庭に生まれながら、殺し屋の道を選んだ可能性もあるし、これから選ぶ可能性もある。僕を"理解できない"の一言で切り捨てるなら、アンタは近い将来、あの子も切り捨てることになるだろう」

 

「そうか、アドバイス感謝する。だが、その心配は無用だ。あいにくと教え子を見捨てることを許さない同僚と寝返ったフリをして生徒を救おうとする不器用な同僚に挟まれている上、俺自身、教え子から手を離し、目を背けるつもりはない」

 

「……そうかい。どうやら教師の教え子に対する執着も僕らの相違点らしい。羨ましいよ」

 

 髑髏の様な顔にほんの僅か諦観の色が混ざったかと思うと奴は徐に自分の懐に手を入れ、1輪の真っ赤な薔薇を取り出すと、妙にゆったりした動きで俺に向かって山なりに放り投げた。

 

 奴の動きの一挙手一投足を見逃すまいと警戒し、目で追っていたことが災いし、投げられた薔薇を思わず視線で追いかけてしまった僅かコンマ数秒。死神は構えた。武道者の技を繰り出す構えではなく、警戒して姿勢を低くする構えでもなく、ただ、子供のお遊びの様に人差し指と親指で手をピストルの形にした、戦闘においてなんの実益もない構え。

 

 しかし、それは死神の見えざる鎌そのものだった。

 

 ピシュッとその指先から放たれた本当に小さな口径の弾丸が当たり、心臓の動脈の位置からツーと赤い液体が流れる。

 

 その液体の勢いは次第に勢いを増し、終いには噴射するように勢いよく足下に溜まった水を赤く染める。

 

 それに合わせて俺は脱力するように崩れ落ち、膝を付いた。

 

「指先から放たれた僅か10口径の弾丸は、普通に撃っても殺傷力はゼロに等しい。でも、死神の知識と動体視力、そして狙撃精度は服の繊維、肉体の凡ゆる隙間を通してその針で突いた程度の威力しかない弾丸を大動脈に届けることができる」

 

 死神は勝ち誇る様に、呟くように語る。

 

「身体の至る所に血を送る心臓の力はかなりのものだ。そこから送り出される血もまた同じだし、血管を隙間なく通る血液の圧力もまた同じだ。一ヶ所に空いた穴は自らの血を送り出す力と内部からの圧力で裂け、穴を広げ、動脈を破壊する。弾丸は血の噴出前に血流に乗って体の奥に押し流されるから凶器も分からない。"死神"にしか出来ない総合芸術さ」

 

 なるほど。確かに凄まじい技術だ。真似なんてできっこないし、初見で食らったのなら間違いなく即死だった。

 だがやはり、その技術を扱う本人は何処か未熟な様に思えてならなかった。わざわざ仕組みも原理も語る必要はない。それなのに、死体に成り果てる者を前に饒舌になる姿は……技術を褒めて貰いたいだけの子供の様に思えてしまった。

 

「……?」

 

 そこで死神は息を吐いた。

 なにか、不可解なものを見つけたかのような息遣い。

 

「これは……標的(タコ)の触手……!?」

 

 その声を皮切りに拳を突き上げる様に振り抜く。

 死神が見せた決定的な隙。その瞬間を差し込む様に放ったアッパーはぐにゃりと嫌な感触を拳に伝えながら、だが確かに奴の急所を抉った。やっておいてなんだが、同情する。

 

「うぐおおぉぉぉぉぉっっっっ!!!??」

 

 その悲鳴に安堵の息を吐いた。

 

「ようやく決定的な隙を見せたな。死神でも急所は同じで安心したぞ。そこは鍛えようがないからな」

 

 激痛に顔を歪める死神。

 金的は武道などでは反則扱いされるほど危険な行為だ。しかし、状況が状況で相手が相手だ。手段は選べん。

 

「タコの触手っ?そしてこの匂いはトマトジュースか……ッ、一体、いつから奴の触手を張り付けていた……っ!?」

 

「乃咲くんが拘束されていた部屋にはいる直前だ。あの時点でお前となんらかの形でやり合うことは想定していた。加えて、ターゲットは恐ろしく頭が切れる。お前がやったであろう殺し屋たちの状況を伝えたら、その技術の正体も看破し、『私が同じ空間にいれば守ってみせる』と断言した。まぁ、殺すターゲットに守られるのは癪だがな」

 

 伝えるべきことは伝えた。

 金的を受けて、それでも戦意を失うことなく俺を睨み、立ち続ける姿勢は流石だが、もう決着だ。

 

「覚悟はいいな、死神。俺の大事な生徒と同僚に手を出し、危険な目に合わせたんだ。相応の報いを受けてもらおうか」

 

「————くそっ、憎たらしいくらい強いなぁ……」

 

 ポツリと呟く死神に渾身の拳を叩き込んだ。

 骨すら砕け散らんばかりの音が響き、死神が数メートル後退するが、奴はそれでも立っていた。

 

 顔面を砕いた筈なのに、奴はそれでもふらふらと歩く。

 幽鬼の様に歩き、俺の横をチカラなく通り過ぎると、顔を上げた。その視線の先にあるのは、上から俺たちを見下ろす子供たち。

 その最前列に彼と同じ顔、同じ声をしていた少年がいた。感情の読めない顔で俺たちを——いや、死神を見ていた。

 

 2人の視線がぶつかり合うのが見てとれた。

 

「ねぇ、圭一。僕とキミで何が違った……?」

 

 消えそうな声で呟くと死神は倒れた。

 

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⬜︎

 

⬛︎

 

「なんつー戦いだよ……!」

 

 吉田が焦った様に言ったその言葉に返ってくる声はないが、皆が息を呑んで死神と烏間先生の戦いを見ていた。

 応援も歓声もない。俺たちの足下で繰り広げられる人類最強決定戦とでも言うべき争いをただ眺めていた。

 

 強い。烏間先生も死神も。

 

 最近、訓練中に烏間先生に攻撃を当てられる様になって来て調子に乗っていたが、こうして見ていると、俺たちを相手にしてる時、どれだけ加減してくれているのかが分かってしまう。

 

 2人の戦いに惹かれる様に、誘蛾灯に誘われる蛾のように手すりギリギリまで無意識のうちに近づき、全ての動きを網膜に焼き付ける様に、ただ夢中に彼らを穴が空くくらいに見つめた。

 

 ゾーンに入って全てを見逃すことのない様に見る。

 

「……圭ちゃん?」

 

「乃咲クン?どうかしたの?」

 

 だが、見逃しがあった。それも個人的には致命的な。

 

 俺の目は、尊敬してやまない烏間先生ではなく、死神の動きばかりを見ていた。集中力を上げたことで鋭敏になった視覚がまるで奴にだけフォーカスした高性能カメラの様にその他の景色をぼやけさせ、俺の目には曇りガラスの中で激しく動き回る死神しか写っていなかった。

 

 ボヤける視界、遠退いていく音。その中で唯一鮮明なのは……もう1人の自分と言える男だけ。

 実際に対面して技を食らった。その上で第三者として奴の動きを見ているからか、俺の理解は対面した時とは比ではない程に加速し、死神の術理とも言えるものを実感できるほどに吸収していった。一つの無駄もない合理的で芸術的な技術の塊を。

 

 手に取るように分かる。死神の次の手、それを選んだ理由、そこから派生できる無数の選択肢、それによって烏間先生が取らざるを得ないであろう動作、そこに繰り出せる次の一撃。

 

 烏間先生を殺す為の思考が分かってしまう。それは何とも苛立たしいことではあるのだが、それでも、死神という存在を、その技術、知識、能力の素晴らしさを同時に理解し始めているからか、得難い経験であるとも考えてしまっている。

 

 もしも、俺がもう少し幼かったのなら、あるいは烏間先生の強さよりも先にこの力を目の当たりにしたのなら、俺は殺し屋を志しただろう。それこそ、プロの試合を見た子供がプロ〇〇選手に憧れる様に無邪気に。

 

 そんな中、動きがあった。

 死神が投げた薔薇、徐で、それでいて妙に視線を惹かれる動き。それは、彼が得意とした手品の視線誘導そのもの。

 そんな誘導に釣られた烏間先生が見せた僅かな隙。瞬きをしただけで見逃してしまいそうな程の刹那の瞬間。

 

 死神は手でピストルを作った。子供がスパイごっこでもするみたいに。俺が意識を飛ばされた時に見せた動きで。

 

「っ、すっげぇ」

 

 思わず声が漏れた。指先から発射された数ミリの弾丸、服と肉体の凡ゆる隙間を潜り抜けて血管に亀裂を入れる離れ業。心臓からの血流と血圧によって内側から動脈を破裂させる死神の一撃。

 それがどれだけの業なのか。それがどれだけの血の滲む様な努力の末に辿り着く領域なのか。間違いなく、凡人では片足を突っ込むとか夢のまた夢。そこにそんな領域があるとは誰も見つけられず、気付きもしないだろう。

 

「殺せんせー!乃咲の様子がおかしいよ!!」

 

「圭一、どうしたんだよ!?」

 

「乃咲くん、乃咲くんっ!!」

 

 だが、その一撃は殺せんせーから伸びた触手に阻まれる。

 殺せんせーが含んでいたトマトジュースを勢いよく吹き出し、血に見せかけていたそれは死神の油断を誘い、奴はそれに見事に掛かってしまった。

 

 烏間先生の容赦ない金的が死神を襲った。

 

「ゔぉえっ……」

 

「わわっ!?圭ちゃん!!!?」

 

 死神の視点に入り込みすぎた弊害か、その痛みを鮮明に想像してしまい、思わず身震いし、気持ち悪くなって嘔吐く。

 やばい。あれはやばい。普通に潰れるだろ、あんなの。思わず集中がぶっ飛んで死神にだけフォーカスしていた俺の視界は元の形にもどり、心配そうに俺を覗き込む仲間たちに気付いた。

 

「ご、ごめん……。死神って俺に似てるからか、アイツの視点で色々と考えてたら……あの金的の威力まで鮮明にイメージしてしまって…………ゔぇっ…………。内臓を潰された様な、中身を無理矢理上に押し込まれた様な、股間というより、お腹の少し下が痛くなるあの感じが……………ゔぅぇ……」

 

「ちょっ……、思い出せないでくれ……。男でアレに耐えられる奴いないだろ………ゔっ………」

 

 俺の言葉に男子連中が顔を青くした。

 そんな中、倉橋さんと並んで不思議そうな顔をしていた茅野が不思議そうに頬を掻きながら溢す。

 

「………そんなに痛いの?」

 

「やられたら相手をぶっ殺してやるって思わず考えるくらいには……。男なら一回はされたことあると思うけど……女子同士の喧嘩ではしないの?金……あ、いや、マン的?」

 

「えっと……私はしたことないし、されたこともないかなぁ。っていうか、わざわざ言い直してマン的とか言わないの」

 

「……まぁ、デリケートな所だし……。男子に女子の痛みが分からない様に、女子にも分からない男子の痛さがあるってことで一旦この話題やめようよ、圭ちゃん」

 

 倉橋さんの微妙な顔で一旦思考を切り替え、俺は再び視線を足下の2人に向け直す。決着が着く寸前の戦いの最後を……もう1人の自分の敗北をこの目でしっかり見届ける為に。

 

 俺たちが意識を戦いに向けた時、既に烏間先生は拳を固め、振り抜いた後だった。

 かなり離れてる筈のここまでその凄まじい打撃音が聞こえてくる。到底、人を殴ったとは思えない、常人が喰らえば死に至るであろう烏間先生の拳を食らった死神は数メートル後退する。

 

「おい、嘘だろっ!!?あれをまともに入れられて立ってられるのかよ!?」

 

 けれど、死神は終わらない。それでも奴はフラフラになりつつ立っていた。今にも倒れそうなのに、糸の繋がったマリオネットの様にゆらゆらと烏間先生の横を通り過ぎて死神は顔をあげた。

 

「っ……マジかよ」

 

 その顔をみた誰かが呟いた。

 明らかに普通ではない、肌色のない顔。剥き出しの歯と筋肉が髑髏のような印象を与えるその顔を。

 

「………ぁ」

 

 そんな中で、目があった。

 死神の朧げな目が俺の視線とかちあった。

 

「………乃咲を見てる…………?」

 

「圭ちゃん……?」

 

 口が動く。目があったからか、俺と同じ顔だからか、ただ似ているから分かるのかは解らない。でも、特に読唇術が使えるわけでもないのに、俺には、奴の動いた口がどんな言葉を紡いだのか、理解できた。理解できたからか、俺の口が動いた。

 

「「俺とお前(僕とキミ)で何が違った?」」

 

 そこまで口を動かして水に沈む様に倒れる死神。

 奴の問い掛けに対して俺は……答えを持っていなかった。

 

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 答えを持っていない。それでもあそこで立ち止まり続ける訳にはいかないので俺たちは階段を降り、烏間先生に合流する。

 ビッチ先生は一足先に烏間先生と合流していたらしい。彼女は俺たちが現れると少しばかりバツが悪そうに、居心地悪そうに表情を動かした。

 

「そんな顔すんなよ、ビッチ先生。俺らを助ける為に色々頑張ってくれたんだろ?最初はビビったけど、感謝してるよ」

 

「…………確かに私は助けるために動いた。でも、死神と出会った時に彼に怯えたのは事実よ。真っ向からアイツを否定しなかったのは間違いなく私の保身が理由だわ」

 

「そんなの当たり前じゃない?うちらだって世界最高の殺し屋なんかが突然現れたら怖いもん。でも危険を犯して助けてくれたんじゃん。気にしないでよ、ビッチ先生」

 

 みんながビッチ先生に言葉をかける。

 1人、また1人と声をかけるもビッチ先生の顔は険しいものが氷解するように柔らかいものに変わって行く。

 

「貴女の機転がなければもっと我々は苦戦していたでしょう。もしかしたら……茅野さんが脱出出来ず、我々も時間をロスした可能性がある。イリーナ先生。生徒たちを守ってくださり、ありがとうごさいました」

 

「…………でも、やっぱり謝っておく。ごめんなさい」

 

「だーかーらー!謝られる理由がないっての!!」

 

「そーそ!いつもみたいに偉そうに踏ん張り返って高笑いしてくれよ、その方がビッチ先生に似合ってるって!」

 

「「「「ビッチ!ビッチ!ビッチ!」」」」

 

 ビッチコール。汐らしく謝っていた彼女はそんな俺たちを見て目を見開いたあと、ワザとらしくため息を吐いた。

 

「仕方ないわね。いいわ、今回みたいなこともあるし、これからは私からも特別授業をしてアゲる。異性の口説き方だけじゃくて、自分の身を守り、相手の懐に飛び込む為の話術もね」

 

「……そうですね。私も今回の件で反省しました。もう一度、誓いましょう。キミたちから目を離さないと。烏間先生、政府へ1つ、要求をします」

 

「……分かっている。生徒たちの安全を担保する為の要求、なにがあっても通してみせる。この教室の責任者は俺だ。いざとなったら銃を突き付けてでもな」

 

 殺せんせー、烏間先生が言う。

 確かに、似た様なことがこう何度もあるのは俺たちとしても命がいくつあっても足らないだろう。

 

「烏間さん。死神のアジトとおぼしき施設、発見しました!」

 

「……わかった。死神は拘束してあるが、更に拘束を増やし、移送しろ。洗脳技術も持っているらしいから、目が覚めても極力会話するな。分かったな?」

 

「はいっ」

 

 どうやら防衛省の人たちも到着していたらしい。

 烏間先生の指示で鵜飼さんたちが死神を担架に乗せて運ぶ。

 

 それを見送っていると、烏間先生が口を開いた。

 

「……幼少期の体験だそうだ。殺し屋を目指すきっかけになったのは。自分の親を殺した暗殺者を見て憧れたらしい」

 

「俺には信じらんねぇよ。自分の顔まで剥いでバケモンみたいな姿になってまで殺しを極めたいなんて思うのか?」

 

 仲間の言葉が俺にも刺さる。

 確かに分からない。俺はそこまでしたくないと思う。だが、それでも死神の技術を美しいと思ってしまったのは事実だから。

 

「……影響を与えた者が愚かだったのです。これだけの才能、正しく使える道だってあった筈なのに」

 

 殺せんせーが自重げに呟いた。

 

 珍しいこともあるもんだ。殺せんせーはなんだかんだ、相手を否定する様なことは滅多にしない。叱り、怒ることはあっても明確な否定をするのは珍しいと思う。

 

 それも、鷹岡やシロのように対面した相手ではなく、死神の話に出て来た顔も名前も分からない相手を否定した。

 普段なら、その影響を与えた"先生"って奴にも何処か同情的になりながら、何かしらフォローの言葉を言っていただろうに。

 

 しかし、影響を与えた者の所為。それは確かに否定はできない。それでも、俺は一つ、言いたいことがあった。

 

「道を間違えたのは自業自得だ。影響を与えた奴がいるのは間違いないだろうけど、それでも、最後に選んだのはコイツなんだ。だから、全て死神の言う"先生"の所為にするのは間違いだ」

 

「……それは、彼がそう選ぶような環境をその"先生"が作ったんだとしてもキミはそう思うのですか?」

 

「人が環境を作るんじゃなくて、環境が人を作るんだと俺は思う。少なくとも俺はこの15年の人生でそう考える様になった。"先生"がコイツが道を誤る環境を作ったなら、"先生"を育てた環境がその人物をそう作ったんだ」

 

「……………それは、あまりにも過酷な考え方です」

 

「でも、コイツは選んだ。だったら、教えた奴が悪いって言うんじゃなくて、その選択を含めて認めよう。だから死神は強くなったんだ。選んだ道で頑張って強くなったって認めることが、今の俺たちがこの男にできる唯一の"見る"ことなんじゃないか」

 

「……………………そう、ですね」

 

 殺せんせーは俺の言葉を聞いて言葉を詰まらせながら頷いた。

 運ばれる死神を見送って俺は息を吐いた。

 

 とりあえず、終わった。無事に。

 あとは皆んなに俺のことを話さないとな。

 

 殺せんせーもふざける気分ではないのか、来ていた犬の着ぐるみを脱ぐと、いつもの服に袖を通した。

 

 そんな中でふと、烏間先生が水の中から何かを拾う。

 それは一本の真っ赤な薔薇だった。

 

「イリーナ。改めて誕生日おめでとう」

 

 それをビッチ先生に差し出す。

 彼女はそれを目を白黒させて見た。

 

「な、なによっ、急に!?」

 

「生徒たちからの花束は奴に叩き落とされたと聞いた。本数は減ってしまっているが、生徒たちに差し向けられた訳ではない。俺の意思で敵を倒して手に入れたモノだ。"それ"ならお前のお眼鏡に叶うだろうか?」

 

 ビッチ先生は明らかに動揺した。

 それでも、彼女はゆっくり息を吐いて一言。

 

「————はい」

 

 はにかみながら、ビッチ先生はそれを受け取った。

 

 烏間先生も烏間先生で安心した様に息を吐く。

 そんな時、ドーベルマンたちが一回吠えた。

 

 どうやら死神を追いかけるのではなく、俺の方に駆け寄って来たらしい。荒い息を吐きながら、元気よく戯れてくる。

 

「おおっ、あの子達か。随分と懐かれてるな、乃咲くん」

 

 そんなワンちゃんたちを見て顔を綻ばせる男が1人。だれあろう、烏間先生である。彼は、さっきまで見せていた真剣な顔が嘘の様に別の意味で殺人的な微笑みを浮かべて、再度怯えの表情を浮かべ、背筋を伸ばしたお座りを披露するドーベルマンたちの頭を撫で始める。

 

 哀れ、ワンちゃんたち。死神に仕込まれたが故に強者には逆らわない、吠えないことを徹底されているのか、一切の抵抗を見せることなくされるがままだ。

 

 そんな光景を面白く思わない者がいた。だれあろう、ビッチ先生である。愛おしそうに眺めていた薔薇を胸の谷間に挟むと、犬に顔を向けて振り向きもしない烏間先生に頬を膨らませ、ズンズンとドーベルマンの横に並び、膝を折ると、手を犬の前脚の様な形にして一言。

 

「ワン」

 

 犬のモノマネをした。

 その姿に烏間先生は一つため息をついた。

 少し不安気なビッチ先生を一瞥すると仕方なさそうにもう一度ため息を吐いて、ビッチ先生の頭にポン、と手を置いた。

 

 瞬間、花が咲いたような笑顔を見せるビッチ先生。

 

 なんだかんだ、お似合いなのかもしれないな、この人たち。

 ようやく緊張の糸がほぐれて来た。

 

 しかし、それはそれとして————。

 

「かっー!みんね圭ちゃん、卑しか女ばい!!」

 

「あの女ぁ、俺たちの烏間先生に対して()高くなぁい?」

 

「処す?圭ちゃん処す?」

 

「山に埋めた後、川に流そう。倉橋さんはトラップ知識を使って……」

 

「こぇーよお前ら!!」

 

 俺と倉橋さんの嫉妬は吐き出さずにいられなかった。

 




あとがき

はい、あとがきです。

なんとか死神編も決着ですね。
でも、圭一にとって重たい話はまだ続きます。

とうとう、自分のことを話すタイミングがやって来てしまった圭一。
次回はそんな自分の立場に置き換えると胃が痛くなるようなお話です……。

ビッチ先生の視点が少し足らない気がするのでもしかすると、何処かで番外編としてビッチ先生視点も出すかも知れません。……たぶん、きっと、恐らく。

ご愛読ありがとうございます!
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