暗殺教室 不良児は認められたい   作:ZWAARD

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加えてたくさんの高評価、感想ありがとうございます!

今回も投下しますのでお付き合いください……!


126話 乃咲の時間

 

 死神事件解決後、俺たちは泥の様に眠った。

 やっぱりみんな疲れていたんだろう。次の日の授業はみんな遅刻寸前で現れ、疲れが抜け切っていないのか、授業に身が入ってないのは誰の目から見ても明らかだっただろう。

 

 烏間先生は今後、暗殺に俺たちE組の生徒と協力者を巻き込んだ場合、報酬は支払われないこととする、という文言を依頼書に追加するべく、朝から一日中留守にしている。

 

 授業も終わって放課後を迎えた俺たちは、今日くらいは自主練はしないで帰ろうか、なんて話をしていたのだが、その前に俺はみんなに話さなければいけないことがあった。

 

「みんな、少し良いか」

 

「どうした?」

 

 教壇に立ってみんなに声を掛けると、全員の視線が俺に向いた。目の前にいた前原が口を開くが、きっとみんな薄々勘づいているだろう。俺がここに立ち、みんなを呼び止めた訳を。

 

「色々と話しておきたいことがある。死神が言ってた事について。俺と殺せんせーと言うか、触手の関係について」

 

 そこまで言うと、みんな席に着いた。

 今日までみんな俺が力を使う場面を見た奴もいただろう。本当なら、死神の事件が終わったその場で聞きたいこともあったかも知れない。でも、自分から聞き出す様なことをしなかったのは、みんなからの俺への信頼の現れだと俺は考えている。

 

 なら、せめて自分から切り出すべきだと思った。

 

「……話してくれるの?あの人が言ってたこと」

 

 前原の隣で岡野が言う。

 だから、頷いた。

 

「話せる所までなら話す。中には俺も知らないことや、口止めされていることもあるから話せないこともある。でも、俺にできる範囲で全て話したいと思ってる」

 

「……乃咲、無理してない?」

 

 茅野が心配そうに言う。それには首を横に張った。

 

「俺が話したいと思ったから。できればみんなに聞いて欲しいし、知って欲しい。ずっと、いつか話さないとって思ってたことだからさ、無理とかはしてない」

 

「………そっか、圭ちゃんが話したいって思ってくれるなら、私は聞きたいな。みんなは?」

 

 倉橋さんの問い掛けにみんな首を縦に振った。

 満場一致って所だ。ひとまず安心した。

 

「みんなありがとう。長くなるかもだけど付き合って欲しい。さて……それじゃあ話させて貰うけど。何処から話せばいいか」

 

「じゃあ、一問一答方式にしよう。お前はその方が話しやすいだろ、圭一。無理に短くまとめる必要はないからさ」

 

 悠馬が形式をまとめてくれた。

 正直助かる。どこから話せば良いのか少し悩んでいた。自分について話すべきか、まずは俺のルーツについて話すべきか。

 

 悠馬の言葉にみんな頷くと、静まり返った教室の中で茅野が授業でそうするように挙手をした。こんな感じで進みそうだな。

 

「はい、茅野」

 

「うん。じゃあ聞くけど……乃咲と触手ってどんな関係?」

 

「茅野ちゃんの質問に補足すると、死神がね、牢屋で俺らが捕まってる時に言ってたんだ。乃咲クンと触手は密接な繋がりがあるって。乃咲クンは触手に関わるべくして生まれて来たとか、乃咲クンがいるから触手があるとか、なんとか」

 

「わかった。ありがとう、茅野、カルマ。それに対する答えは持ってる。一言で言えば当たらずとも遠からずってところ。正確に言えば、触手が生まれるきっかけは俺の両親なんだよ」

 

「どういうこと?」

 

「殺せんせーが人工的な存在だってのはみんなも察してるし、本人もいつだったか認めた。だけど、本当に大事なのは殺せんせー本体より触手の方なんだよ。イトナが着けたり取ったりしてるし、触手を生み出したのが人間だってのも察してるだろ?」

 

 追いかけると頷きが返ってくる。

 なので言葉を続けた。

 

「人工的ってことは作った奴がいる。その触手の誕生に関わっていた、とある研究をしていたのが俺の両親だ。両親の研究が触手に派生したってのが多分、正解なんだろう」

 

「乃咲博士と乃咲のお母さん?でも、それがどうしてアンタが触手に関わるべくして〜なんて言われ方すんのよ?この時点では乃咲本人が出てくる要素なくない?」

 

「そこが少し複雑な話なんだ。俺の母さんは生まれつき遺伝疾患を持ってたらしくて、長く生きられないって言われてたそうなんだ。それを治すために父さんは科学の道に入ったらしい。その為のアプローチが人体強化だったんだけど、この研究が触手開発のベースになってるらしい」

 

「人体強化………。SFな話だな」

 

 吉田が遠い目をしながら口を開く。

 しかし、それを意外な人物が否定した。

 

「そんなことはない。俺が触手を持っていた頃、シロに"調整"を受けていた。その中には身体強化も入っている。世間的には公表されていないだけで、案外、ありふれた技術なのかもしれない」

 

「……まぁ、イトナがそう言うならあり得るか。俺たちの中で一番そういう所に近かったのはお前だもんな」

 

 イトナの口から出た人物の名前に思わず顔を顰める。

 しかし、そこは一旦後回しだ。

 

「んで、父さんの身体強化は遺伝子を少しだけ強く作り直すってアプローチだったんだ。新陳代謝を上げることで効率的にエネルギーを作り出して細胞を強靭にして、根本的な解決と母さんの弱り切った体を回復させる目的だろうな。でも、それは母さんには見える形で現れることなく、父さんの研究は公的には失敗とされ、その研究を手放し、その後に母さんは俺を妊娠した」

 

「研究を手放した……。話の流れ的に、それを引き継いだ奴が触手を作ったってことなの?」

 

「そうなる。身体強化の研究には父さんと他にも携わっていた者がいる。その人物の名前は柳沢誇太郎。おそらく、俺たちがシロと呼んでいる男の正体であり、触手の開発者にして父さんの弟、つまりは俺の叔父に当たる人物だ」

 

「ッ」

 

 一瞬、茅野の波長が乱れた。

 何かあったんだろうか……?

 

「……それ、アンタは知ってたの?最初から」

 

 狭間さんから鋭い質問が飛んでくる。

 そうだ。そこはきっと一番大事な部分だろう。

 

「知らなかった。触手のことも、両親のことも、俺自身のことすらも。ざっくり概要を聞いたのが夏休み開けの俺が倒れた時だ。入院してる間に父さんから聞かされた。その後で、イトナの事件の時にシロと会って話ぶりとか知識を見てなんとなく確信した。"コイツがそうなのかな"って」

 

「……まぁ、そうよね。それ知ってて今まで振る舞えてるなら親とのすれ違いで倒れたりしないか」

 

「そう思って貰えると有難いけど、その後は知ってて話さなかったのは事実だ。だから、みんな、ごめん。身内が迷惑を掛けた」

 

「ちょっ、やめろって!それってお前悪くねぇじゃん!」

 

 頭を下げると慌てて止められる。

 そんなことは分かっている。傲慢な言い方をするが、俺は悪くない。でも、それが筋って奴だと思う。だって少なくとも、身内が世界的に迷惑を掛けているのは事実なのだから。

 だから、筋を通して、みんなに声をかけられて顔を上げる。この件をいつまでも引き摺るつもりはないから。

 

 身内が迷惑を掛けた分はこれから返して行く。

 

「ありがとう。でも、謝っておきたかったんだ。俺自身が聞き齧っただけだから、俺の頭なんて下げた所であんまり意味がないんだろうけど。これからも一緒にやっていく仲間としてのケジメだと思って受け取ってくれると嬉しい」

 

「お前、ほんと妙な所で頑固だし、律儀だよな」

 

「だね、割と損な性格してると思う」

 

 苦笑してくれるみんな。

 そうやって受け止めて貰えると本当にありがたい。

 

「茅野からの質問に対する回答をまとめるなら、"直接的な関わりはないけど、触手の前身は父さんの研究で母さんはその被検体、俺こと乃咲圭一はその子供"って感じになる。……答えとしてはこれで良いかな?」

 

「うん……。ありがとう、大変なんだね、乃咲も……」

 

「俺は別に大変じゃないよ」

 

 茅野の労いに俺も苦笑する。

 

「乃咲、一ついいか?」

 

「なんでも言ってくれ、イトナ」

 

 イトナが挙手したので水を向ける。

 

「俺がシロの所にいた時、奴はお前を化け物と言っていた。それは……お前が時々見せる瞬間移動に関係あるのか?」

 

 その言葉に一旦、みんな静かになった。

 分かっている。それも、俺が答えなきゃいけない部分だ。

 

「質問に答えるなら"ある"。みんなも何回か見てると思う。俺が瞬間移動染みた速度で動いてる場面を」

 

「…………うん。普久間島の時とか分かりやすかった。ホテルで撃たれた時、乃咲は模擬弾だったとは言え、銃弾を避けてたし、何より、鷹岡が投げた薬をまるっきり反対方向、それも走っても間に合わない距離だったのにキャッチしてた」

 

「それだけじゃねぇ。イトナを俺らで連れ回してた時、吉田のバイクからぶっ飛ばされたコイツをお前は受け止めた」

 

「その通りだ。みんなが挙げてくれた場面全てで俺は力を使っている。きっと気になっていただろうに、聞かずにいてくれてありがとう。それについてもこれから話したいと思う」

 

 みんな息を呑んだ。

 ここまでで既に結構ヘビーな話をしている。

 もっと刻んで話すべきだったかも知れないが、その場を逃すとズルズルと引きずってしまいそうだから、覚悟を決める。

 

「話しは少しだけ戻るんだけど……母さんが身体強化を受けたって話はしたよな?で、効果は出なかったと」

 

「それで失敗した研究をシロが引き継いだんだよね?」

 

 渚の言葉に俺は首を横に張った。

 

「実を言うと、母さんに効果が出なかっただけで、成功はしていたんだ。紛らわしい話だけどな」

 

「どう言うこと……?」

 

「母さんはその時既に身体がボロボロだった。回復なんて見込めないレベルで。だから、分かりやすく目に見える回復と言う形で効果が現れなかったんだ。でも、それから15年後に遺伝子改造による身体強化で見込めるはずだった効果が俺に現れたことでその事実に父さんも気付いたらしい」

 

「………まさか、その効果ってのがあの瞬間移動か?」

 

「そうなる。でも、一つ言っておきたいのが、あれは別にテレポートとかそう言う超能力的な代物じゃないんだ。原理は殺せんせーと同じ。早く動いてるだけなんだよ」

 

「マジかよ……」

 

 みんな唖然としている。というか、シンプルに言えば引いていた。そらそうだ。俺だってクラスメイトが急にこんなことを自白し始めたらそういうリアクションをしたかも知れない。

 

「新陳代謝の向上でエネルギーの生産と細胞の生成が効率化されて常人以上の身体の強度を持った……ってのが父さんの理屈。筋肉ってのはリミッターが掛かってるモンだけど、俺の場合、そのリミッターの上限がみんなより高いみたいなんだ」

 

「あ、筋肉のリミッターって聞いたことある。本当は人体の筋肉ってとんでもないチカラが出せるって」

 

「そう。そのリミッターの上限値が高い上にある程度、自由にリミッターを外せるのが俺なんだ。父さんが話してくれた、自分から楽しそうに名乗ってロケットパンチの練習をしてたって言う母さんの言い方に習うなら、俺は強化人間ってことになる」

 

「……圭一、お前……なんて顔してるんだよ」

 

「……そんなに酷い顔してるか?」

 

「あぁ……。かつて見たことないレベルでドヤ顔してる」

 

「思い詰めたみたいな話し方してるくせに、強化人間って言葉あたりから顔がドヤってるからアンバランスなことになってるな」

 

「つか、乃咲の母ちゃんすげぇな。自分から強化人間名乗った上にロケットパンチの練習とか肝が座りすぎだろ」

 

「まぁ。俺がシロに化け物扱いされる理由としてはこんな所だ。『強化人間から生まれた天然の強化人間が乃咲圭一である』それが端的な事実かな」

 

「……そうか。すまない、話しずらいことを聞いた。自分や母親を強化人間とか言うのはそのテンションでも内心ではあまり気持ちのいいものじゃなかっただろ」

 

「そら全く気にならないって言えば嘘になるけど……まぁ、母さん本人が喜んで自称してたくらいだし。父さんもそれを引き継いでるから深く気にする必要はないよ。強いて言うなら、両親が結構な天然で驚いてるくらいだ。家族の中で唯一天然じゃない俺がしっかりしないとな」

 

「「「「「……えっ?」」」」」

 

「……?」

 

「えっと、あはは。まぁ、そうなんじゃない?乃咲の中では」

 

「……なぁ、コイツも相当な天然だよな?」

 

「言わないで置いてやれって。本人がポジティブに考えてるんだからそれで良いだろう」

 

 ドイツもコイツも聞こえてるけどな。

 失敬な話だ。俺みたいなキレ者を捕まえて天然とか。

 

「はい、しつも〜ん。強化人間TYPE-ファザコン(F)・モデル:死神の乃咲クン」

 

「!」

 

「お、おい!カルマ、いくらなんでもその言い方はっ!!!」

 

「良いの良いの、どうせこう言う弄り方した方が喜ぶだろうし」

 

「はいっ、TYPE-F・モデル:死神です!」

 

「…………はぁ。なんで今日一で嬉しそうな反応すんのかな。もういいわ、勝手にしろよ。天然強化人間死神ファザコン」

 

『乃咲さんの天然な部分と天然の強化人間を掛けた言葉遊びですね、前原さん!』

 

「……………はぁぁぁぁぁ」

 

「律、あんまり解説はしないであげて」

 

 なんか不名誉なニュアンスが感じ取れないこともないが、良い響きである。強化人間TYPE-F・モデル:死神。

 いっそのこと銀の死神とか呼ばれるならそっちを名乗ろうかな。そう言う型番みたいなのロマンあるよなぁ。

 

「その瞬間移動みたいなのっていつから使える様になったの?乃咲クンなら使えるなら初めから暗殺で使ってたんじゃない?というか、不良時代から喧嘩で使うと思ってさ」

 

「………使えるようになったのは今年からだ。兆候自体はあったんだけど、明確に……中二っぽい言い方をするとチカラに目覚めたのは、カルマ、お前が殺せんせーに暗殺を仕掛けた時だ。渚も居ただろ?あのショッキングなシーンにさ」

 

「うん……。あれは側から見たら忘れられないよね」

 

「そこに関しては悪かったよ……。でも、あの時?」

 

「なんで言えば良いんだろ、今の能力になるまで段階があったんだ。体感時間が何倍にも感じた、世界がスローモーションに見えた、その世界で少しだけ周りより少しだけ早く動ける様になったって具合で。イトナの触手を捌けたのも、弾丸を避けられたのも、この力があったからだ」

 

「……そう言えば、カルマが来た辺りから偶に様子が変になることあったよな、お前。話しかけたら、今何時?とか悪いぼーっとしてた、とかそんな返事が多くなった時期があった」

 

「あっ、言われてみると確かにあったね、それ。あれってそういうことだったんだ?」

 

「そういうことだ。高速移動できる様になったのは、イトナが転校して来た時だな。攻撃が倉橋さんに迫った時に"やばい、倉橋さんが危ない"って思ったら使えるようになった。それから鷹岡が来て、アイツに殴られて殴り返した時に使ってから徐々に自分の意思で使える様になった。完全に制御できる様になったのは普久間島でガストロに撃たれた時だ」

 

「……そうだったんだね」

 

「夏休み明け、俺が倒れたことあっただろ?あの時の過労の原因も6割はこのチカラだ。丁度メンタル不調だったのもあるが、周りより早く動けるってのは周りより早く考えられるってことで、それは周りより多くのエネルギーを使うこと。だから、疲労が蓄積されやすかったってのが殺せんせーの見解だ」

 

 そこまで話すとみんな神妙な顔で頷いた。

 理解した上でそんな顔になってる者、理解仕切れないがあまりにぶっ飛んだ話でそんな顔をしている者で別れてるだろう。

 

「まとめると、『チカラを使える様になったのは今年に入ってから。制御できる様になったのはつい最近』って所だ」

 

「……オッケー。じゃ、続けて質問。多分、俺たちにとって一番大事な話だと思う。俺たちって言うか、極論地球にとって、だね。乃咲クンさ、その能力……暗殺で使わないわけ?」

 

 カルマの言葉にみんなハッとした様に顔を上げた。

 

「多分、能力はそれなりに使ってはいたんだと思う。それこそ、南の島で殺せんせーを蹴り倒した時とかにさ。あの時、殺せんせーは無防備な状態でモロに乃咲クンの攻撃を受けてた。普段から避けた筈なのに。ってことは、乃咲クンって殺せんせーより速いってことなんじゃない……?」

 

 流石に鋭い。彼の目が細められるタイミングで俺は口を開く。

 

「結論から言えば"使った"。お前の予想通り、タイマンで殺せんせーを追い詰められたよ。全力を出せば俺の方が圧倒的に速いくらいだった。殺しかけたよ」

 

「……それで、今も殺せんせーが生きてるってことは」

 

「あぁ。失敗した。俺の攻撃は届かなかった」

 

「ど、どう言うこと……?だって乃咲くんの方が速いなら、殺せんせーが避けても当てられるんじゃない?」

 

「………早過ぎた(・・・・)んだね?」

 

 カルマの言葉にハッとする者、キョトンとする者の2パターンに別れる。俺が聴く側だったら後者にいただろうな。だってそれに気づかずに攻撃したんだから。

 

「カルマの言う通りだ。俺が仕掛けたのは復帰した後のケイドロを授業でやった日だよ。対先生ナイフより頑丈な対先生マチェットを使ってトドメを刺そうとしたが、マチェットは振り下ろした時に摩擦で溶けて、攻撃として成立しなかった」

 

「あぁっ……!?確かに言ってたわ、マチェット溶けたって」

 

「普通は服も燃えるんだろうけど……多分、俺の体が動く力で埃とか空気とかそう言うのを身体の周りだけ吹き飛ばしてるんだろうなぁ〜って思うことにしてる。詳しいことは知らん」

 

「そこだけえらく雑だなおいっ!!?」

 

「まぁ、ご都合主義って奴よね。中の人もそこまで深く考えてないんだろうし、そこは大目に見てあげましょ」

 

「不破さん……?」

 

 また不破さんが"なにか"と繋がっている。

 しかし、彼女がそんな調子なのはいつも通りだし、深く考えるのは無駄だろう。俺は一つ咳払いして言葉を紡ぐ。

 

「俺の全力に耐えられる武器がない。だから、俺の全力で殺せんせーを殺すのは無理だ。その後もちょくちょく先生にちょっかい掛けてるけど、決め手に欠けてる。最近、ビッチ先生にワイヤーを教わったのはそれが理由だ」

 

「そっか……。もう、色々試した後なんだね」

 

「………あれ、でもさ。だったらどうして死神に負けたの……?殺せんせーより速いなら、それこそ人間相手には負けなくない?それこそ瞬間移動で避ければ負けなかったよね?」

 

「そこに関しては情けない話し、俺の実力不足だ。まず第一に俺は力を制御出来るようになったけど、使いこなせてる訳じゃない。広い場所でなら何度も使ってるけど、あんなジャンプしたら天井に届き、数歩歩けば壁に当たる様な狭くて風の逃げ道がない場所で使ったことがなかったから、加減が分からなかった」

 

「窓が割れた教室、外、コンサートフロア……。確かに広いし風の逃げ場も無くはないか」

 

「第二の原因は、能力……殺せんせーがゾーンって名前を付けてくれたんだけどさ。人に対して鷹岡と触手持ってた頃のイトナ以外に攻撃手段で使ったことがなかったから、これも加減が分からなかったんだ。だから、対人戦で実績がある鷹岡に使った時と同じくらいの力を出したんだけど、普通に負けた」

 

「ゾーン……。集中して覚醒してるのゾーンに入るとか言うもんな。でも……そうか、それでも死神には勝てなかったのか」

 

「第三の原因……というか、これが俺が負けた一番の理由なんだけど、シンプルに俺が死神より弱かった。有効打は全く入らなかったよ。そも、俺が負けた理由なんて"俺が強ければ負けなかった"の一言で済むしな」

 

 死神は強かった。どれだけの努力を重ねたらあそこまでに至るのか。アイツの思想には共感できないが、それでも、あの強さ、それを手に入れる為の努力、よろずの技術を身につけるストイックさは尊敬できる。

 ある意味、俺の中での死神の評価は鷹岡と同じカテゴリーだが、対極だ。今にして思えば2人とも何処か幼稚な部分がある大人だったが、なりたくないし尊敬できないのが鷹岡なら、なりたくないけど尊敬できるのが死神だと思う。

 

「素直に実力不足って言っちゃうんだな、お前は……」

 

「そりゃあな……。同じ顔で同じ声で、そんな奴にボコボコにされたんだから認めざるを得ないだろ。烏間先生の足元にすら及んでいないんじゃないかって自信がなくなりそうだし」

 

「烏間先生と言えば、烏間先生にはゾーン?使わないのかよ」

 

「使ったこともある。なんなら、烏間先生の動きを観察して盗む時はフル活用してる。模擬戦も相手の動きを見切る練習としては烏間先生は最適だからな。でも、流石にナイフのテストでは使わないよ。それじゃあどれくらい身についたか分からないし」

 

 そこまで答えるとみんな黙り込んでしまった。

 きっとまだ色々と言いたいことはあるだろう。もしかするとそれを整理しているのかも知れない。

 

 だから、みんなが答えを出すのを待つ。

 

 それから少し経って、渚が手を上げた。

 

「……乃咲は、殺せんせーの正体について知ってるの?」

 

 今日何度目になるだろう。その核心をついた質問にみんなが固唾を飲んだ。緊張した面持ちの視線が俺に向く。

 だが、俺はそれに対して首を横に振った。

 

「知りはしない。でも、ある程度、察してる部分はある。でも、それはみんなも薄々気付いてることだろ」

 

「……そっか、ごめん」

 

「いや、謝ることじゃないだろ。それに、まだ言えてないこともある。本人に口止めされてるから」

 

「それって殺せんせーについて?」

 

「あぁ。あの人が赴任して来て間もない頃に問い詰めたことがあるんだ。その時、『たった数日で気付いたことに敬意を表して教えてあげましょう』って、とある情報を貰った。みんなに教えるのは口止めされてるから言えないけど」

 

「……いいのか、それは話して」

 

「口止めされてるってことを口止めされてはいないからな。でも、中身までは話せない。殺せんせーは約束を守ってくれてるから、俺もそこは守る。だから……もし、気になったのなら、本人に直接聞いてくれ」

 

「……いや、いいよ。そこまで分かれば。圭一なりに自分しかも持ってない情報があるって伝えてくれたんだろ。今はそれで満足しておくよ」

 

「……悪い。でも、俺が持ってる情報は以上だ。まだ何か他に気になることとか、言いたい事がある奴はいるかな?」

 

 俺の言葉に対する返答はまだない。

 俺が問い掛けてから2秒、3秒。そしてポツリと呟く声が聞こえた。心の中で予想していたうちの一つの言葉が。

 

「………ズルいわよ」

 

「不破……」

 

 堪えきれなかった様子で呟く不破さん。近くにいた菅谷が思わずと言った様子で彼女の名前を呼んだ。

 それと同時、彼女は勢いよく立ち上がる。机の中から取り出したJUMPを半ば叩きつけるようにしながら。

 

「なによ強化人間って!!そんな設定リアルで持ち出すの反則でしょ!!?生い立ちとか!力が覚醒するに至るまでの経緯とか!!割としっかりJUMPしてるのズルいわよっ!!」

 

「さっきまで大目に見てあげましょ、とか言ってた癖に」

 

「渚くんシャラップ!!」

 

「そーだそーだ!!不破の言う通りだ!ファザコンの癖に!!」

 

「なんだ強化人間って!?お前はただのボンボンのおポッチャマだろうが!!調子乗んな死神ファザコン!!」

 

「今更んなこと気にすると思ってんのか、こちとらマッハ20の超生物と頭に触手生やしてた奴とビッチな殺し屋に、人類最強の体育教師が居るんだぞ!んなことより死神との血縁関係の方が気になるわ!こんなことで一々引くわけねぇだろ!」

 

 前原がツッコミを入れながら温かい言葉を掛けてくれる。

 正直、救われた気分だ。割と変なテンションで話していたが、頭の中に拒絶される恐怖があったのは確かだ。

 わざわざ深く考えて不安を積もらせない為にも、今日はあんまり深く考えないように意識して会話していたから。

 

「つか、んなことより自称強化人間の使い道考えるべ。はぇんだろ?あのタコより。一回このファザコンがどんなもんなのか見てみんべ。その方が作戦も立てやすいだろ?」

 

「寺坂良いこと言った!よし、乃咲!校舎裏来いや!!」

 

 杉野に手を掴まれ、寺坂組が進路を作り、校舎裏のグラウンドに連行されそうになり、慌てる。

 

「ちょっ!?そう言うノリになるのか……!?」

 

「いいじゃんいいじゃん、だって圭ちゃんが話してくれたから、私たちにとっては戦力爆上がりしたのと同じなんだよ?確かに色んな縛りはあるかもだけどさ、色々出来ることが増えたのが嬉しいんだよ。大事なことを自分から話してくれたこともね」

 

 後ろから倉橋さんに押される。

 教室の後ろの扉から出て来たカルマに杉野とは反対の腕を掴まれ、半ば捕まった宇宙人の様に引き摺られながら、後者裏に向かうのだった。

 

 ……いや、捕まった強化人間か。

 

 なんて内心でジョークを溢しながら。

 

⬛︎

 

⬜︎

 

⬛︎

 

 皆に引っ張られ、出ていく乃咲を後ろから見送る。

 教室に残ったのは数人だけ。ただ彼らに続く意思が無いわけではなく、ただ少しだけ遅れてしまっただけ。

 そんな僕らの中で前原くんが呟いた。誰も否定しない、否定できない、心のどこかで思ってた言葉を。

 

「……俺さ、不破がズルいって言った時、ドキッとしちまった。心の中で考えない様にしてた本音を当てられた気がしてさ」

 

「仕方ないんじゃない……?急にあんな話が出て来て動揺してたんだよ。それに、アンタは乃咲のフォローしてたじゃん。別に心の底からズルいって思って嫉妬したって訳でもないんでしょ?」

 

 そんな前原くんをフォローする様に岡野さんが言う。

 それでも、どこかやりきれないような顔の前原くんに僕は声を掛けた。こんな時、殺せんせーならなんて言うのか思い出して。

 

「前原くん、乃咲の話し……嫌だった?」

 

「それはねぇ。なんだかんだ、アイツが自分から話してくれたことは嬉しいんだ。毎回、あんな話を内心で抱え込むのが乃咲だろ?だから、そこは安心してる。でもさ、ズルいって、本心で思っちまったことがさ、なんか嫌だ」

 

「でも、乃咲のことが嫌な訳でもないんでしょ?それってどうして?ズルいって思うなら、まずは矛先は相手に向くと思うな。それでも腹が立ってる訳でもなさそうなのはなんで?」

 

 僕の質問に前原くんは答えた。

 間を空けず、答えを持っているみたいに。

 

「だってアイツ、頑張ってたじゃん。最下位から1位になって、訓練にも誰より真面目に参加して、一番結果を出してた。乃咲の話だと、ゾーン?を制御できる様になる前からさ。アイツなりに自分で出来ることをひたすらやってたんだと思う」

 

「なんでそう思うの?」

 

「乃咲さ、俺たちの質問に対して全部、答えを持ってたんだよ。特に能力関係の話になった時にさ、『加減が分からない』とか『詳しいことは知らん』って言っても『やったことないから分からない』って一回も言わなかったんだ。俺たちが『やれたら良いな』って思うことは全部試してたんだよ。これで『やったことない』とか『やりたくない』って言われたら別だったかも知んないけど、やれることやった奴に文句なんて言える訳ねぇじゃん」

 

 前原くんは当たり前の様に言った。

 

「そもそも、俺らがやべぇ時、乃咲はいつも最前線にいるじゃんか。イトナの時も、鷹岡の時も、今回の死神も。苦労してるとこも、頑張ってるとこも、みんなの為に身体張ってるとこも見てんのに、文句付けられるほど図太くねぇっていうかさ……。だから、ズルいって思っちまったのが嫌だったんだ」

 

 言いながら最後に俯いた前原くんの肩を隣で聞いてた磯貝くんがポンと叩き、彼と顔を合わせた。

 

「そんなのみんな同じだ。ズルいって心のどこかで感じて、でも、圭一なりに出来ることをやって、頑張って、苦労して、最善の為に無茶してる姿を見てるから、アイツに嫌な言葉が飛ばなかった。でもさ、いの一番にフォローしたのお前じゃん。俺でもなく、カルマでもなく、倉橋でもなく、茅野でもなくさ。だから必要以上に暗い雰囲気にならなかったんだと俺は思う。だから、そんなちょっと思ったくらいで気にする必要ねぇって」

 

「磯貝……」

 

 幼馴染からの励ましに前原くんが顔を上げる。

 

「ちょっと待て!そんなの入らんて!!俺をなんだと思ってるんだお前らッッ!?ンァァァァァァッッ!!」

 

 何やら壮絶な乃咲の悲鳴が聞こえた。外で何やってるんだろう、みんな。残っていたメンバーの顔に困惑と苦笑の花が咲く。

 そのタイミングで、岡野さんが声を掛けた。

 

「分かったらさっさと行こ?アンタが言い出しっぺみたいなもんなんだからさ、ちゃんと最後までムードメーカーしなさいよ」

 

「……ああっ、分かってるよ!」

 

 バシン、と割と強めに背中を押されるも、頷きながら出ていく前原くんに教室に残っていたメンバーが続く。

 

「渚、殺せんせーみたいだったよ」

 

「……うん、ちょっと意識してみた」

 

「そっか。なんか、渚って先生とか案外似合いそうだよね」

 

 茅野がそう言い残して出ていく。

 教室に残った僕は、ポツリと呟いた。

 

「……先生、か」

 

 そう言えばもう直ぐ進路相談だ。

 そろそろ真面目に考えないとな、なんて思いながら、茅野に言われた言葉がちょっとだけ嬉しかった。

 




あとがき

はい、あとがきです。

圭一の告白回……というか、自分に対する自己深刻みたいな感じの回でした。不破さんに変なものが乗り移ったのは気の所為です……。
ただ、圭一がみんなからの質問に『やったことない』とか『やる気ない』みたいな言動をしていたら、E組のみんなに払拭しずらいすれ違いが生まれたかも知れません……。

《おまけ》

「いやぁ、まさか君たちとカラオケに来る日が訪れるとは……」

「んまぁ、そういう日もあるだろ。な、花屋の兄ちゃん」

「そうだね、圭一。んじゃ、早速歌おうか。折角同じ声が2人いるわけだし、ハモリながら歌ってみる?」

「おや、それは楽しみですねぇ。キミたちがどんな歌を選ぶのか」

「それでは、圭一と2代目で感情込めて歌います。聞いてください。BUMP OF CHICKEN『カルマ』」

「かひゅ……」

 その後、see saw『君は僕に似ている』など教え子コンビが熱唱したことにより、殺せんせーは廃人と化した。

〜殺せんせー曇らせカラオケ—完—〜
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