暗殺教室 不良児は認められたい   作:ZWAARD

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加えてたくさんの高評価、感想ありがとうございます!

今回も投下しますのでお付き合いください。



127話 デートの時間

 

 みんなに俺のことを話して、受け入れて貰えて、校舎裏でひたすらに俺の性能テスト(笑)をした翌日。

 

「……どうしたもんかなぁ」

 

 俺は悩んでいた。何を隠そう、そろそろ倉橋さんの誕生日だと言うのに、折角買って置いたチケットを渡せてない。

 誕生日について聞いてから直ぐ死神の事件があった所為もあるのだが、その後、渡すタイミングを見つけられずにいる。

 

 登校中も、朝練中も同じことを考えていた。

 しかし、あんまり練習に身が乗らなかったので早めに切り上げて俺は重たい足取りで制服に着替えると、教室に戻る。

 

「あっ、圭ちゃん。おっは〜!」

 

「おっは〜」

 

 古い。流石にその挨拶は古くないか、倉橋さん。

 つか、悩みのタネというか、悩みのタネを渡すべき相手がいきなり現れてしまった。いっそのこと選択肢を書いたカードを数枚用意して、彼女に引いてもらった奴を実行するのが一番楽な気がして来た。

 

「……圭ちゃん?何か悩み事?」

 

 その言葉に教室内にいたクラスメイトたちの視線が集まった。

 今度は何事だ、と言外に語っている視線が痛い。

 

 しかし、まぁ、あんまり気負うことでもないのかな。

 たかがプレゼント渡すだけだし。

 

 俺は少し考えて制服のポケットにしまっていた財布を取り出す。バリバリバリ!とマジックテープを剥がして中に入れていた物を取り出す。

 

「倉橋さん、はいこれ。誕生日プレゼント。生き物好きだったよなぁって思って動物園と水族館が一緒になってるテーマパークのチケット買ったんだ。あんまり高く無いし、アクセサリーみたいな重いプレゼントでもないでしょ?」

 

「………えっ!?」

 

 驚いた様な声を出して俺が渡したチケットを受け取る。

 プレゼントと俺の顔で視線が行ったり来たり。まだ誕生日じゃないよ?と言いたそうな顔に先んじて言葉を出す。

 

「誕生日、今週末だろ?折角だし、誕生日に行ける様に前持って渡しておこうと思ってさ」

 

「あ、ありがとうっ!そっかテーマパークのチケット……。うんっ、行くの凄く楽しみだよ!」

 

 彼女の顔が満面の笑みになる。

 うん、なんだか俺がやらかす度に泣かせてしまっているが、倉橋さんは天真爛漫に笑っている方が似合う。

 

「そっか、喜んで貰えてよかった。んじゃ、矢田さんとか誘って楽しんで来てよ。土産話待ってるからさ」

 

「………………えっ…………?」

 

 受け取ってもらえたことに安堵して、任務完了。こう言う時の決まり文句まで伝えたところで倉橋さんの表情が曇った。

 ……どうしたんだろ。数秒前まで眩しいくらいの笑顔を浮かべていたはずなのに、突然の曇り模様に少し困惑する。

 

 そんな時である。

 

「はいちょっとお前こっちこーい!」

 

「ぶげっ」

 

 前原に首根っこを掴まれ、男連中に無理矢理廊下に連れ出された。夏祭りでも似た様なことあったよなぁ〜なんて思い出す。

 あの時は我ながらどうかしていた。浴衣だけを褒めて倉橋さんを褒めないとか流石におかしいだろ。

 

 などと思っていると最後尾を歩いて来た菅谷がガラガラと扉を締め、それを確認した前原が俺を壁際に立たせると、ドン!と壁に手を突く。所謂、壁ドンという奴である。

 

「おぉぅ………」

 

 されると迫力あるな、これ。

 思わず感嘆の声を漏らすと前原がキレた。

 

「お前さぁ!ほんとさぁ!なんであんな感じの渡し方しておいて『自分は行きません』オーラ出すのかなぁぁぁッ!」

 

「いや、だって気の置けない友達と一緒に行った方が楽しいじゃん?折角なら楽しんで欲しいし、女子連中で言った方が気が楽だろう?むしろ、こう言うの男子に渡されて一緒に行こうぜ?とかやられたら怖くない?俺が女子なら警戒するわ」

 

「ないとは言わないけども!!でもっ!この場合はそれで正解なのっ!!女子の言葉に出してない真意を感じ取れッ!」

 

「感じ取って空回りとか一番ダサくない?そう言うムーブが失敗した結果が俗に言う勘違い系だと思うんだよ」

 

「それでも積極的に行くべき時もあんだよっ!それにっ!!異性が気の置けない友達になるかはこの際置いておくとして、倉橋がお前とじゃ楽しめなさそうとか思ってるのか?」

 

「……………そうだったら怖いじゃん?」

 

「変な所で日和るんじゃねぇよ!!グイグイ行け!もっと!積極的にっ!!それにお前、倉橋の立場になって考えてみろよ!『好きそうだから』って自分のことを考えて買って来てくれたプレゼントだぞ!?それもテーマパークのチケット!!お前が貰う立場だったら『折角だし一緒に〜』とか考えないのか!?」

 

「……む、それは確かに……」

 

「だろ?それと同————」

 

「でも俺が行くとしてもガンダム店とかだしなぁ……。流石に………。なんならそのあとプラモ屋めぐりとかしたいし……」

 

「そこまで考えなくていいのっ!この鈍感野郎ッ!んじゃもういっそのことシンプルに考えろ、倉橋と行きてぇの、行きたくねぇの、どっち!!?」

 

「そら、行きたいけど……」

 

「だったら伝えてこい!!お前の渡し方は『俺以外の誰かと行って来てね、俺は行かないから』って言ってる様なもんだぞ!?傷付くだろ、同じことされたら」

 

「………そうだな」

 

「そもそも、なんで動物主体のテーマパークだったんだ?」

 

「それはほら、生き物好きだし、彼女……。猫撫でてる時とか『猫撫でてる私可愛い!』じゃなくてしっかり猫を可愛がってるのが伝わってくるし、そう言うところ良いな〜って思うし、だから生き物に好かれるんだろうし。そも、生き物が好きじゃなかったら、俺たちの歳の女子が虫とか捕まえないだろうしさ。だから、こう言う所なら喜んでくれるかなって」

 

「そう言うところ!!」

 

「………どこ?」

 

「どうして動物のテーマパークを選んだのかとか、この際しっかり伝えてこい!『とりあえず動物好きなんだろ、ほら、チケットやるから行ってこいよ、俺以外の友達と』って見えるんだよっ、お前のさっきの言動は!!」

 

「いや、そんなつもりは……」

 

「だからっ!お前にそんなつもりがなくてもそう見えるの!!あんまり詳しく知らねぇし、言いたくないけど!お前、言葉足らずな部分が親父さんに似てるんだよっ!!結局、言葉足らずのすれ違いだったんだろ、お前らは!!」

 

 そう言われるとぐうの音も出ない。

 ……そうか。俺の言動は側から見るとそうなるのか。

 

 父さんもこんな気分だったのだろうか。

 

「分かったら今直ぐ倉橋の所に戻ってちゃんと誘って来い!!下手に言葉を選んだりしないでシンプルに!ストレートに!!」

 

「は、はいっ!」

 

 前原の有無を言わさぬ命令。

 それに深く頷く男連中。

 

 半ば突き出される様に直ぐ隣にあった扉を開けて教室に放り込まれる。すると、何故だか顔を赤くしながら慌てた様に姿勢を正す倉橋さんと、壁に耳をくっつけている女子が視界に入る。

 まぁ、そりゃああんだけ大声で話してたら聞かれるか。つか、前原なんてほとんど怒鳴ってたんだから、壁に耳をつけてまで聞くこともないだろうに。

 

 まぁ、いい。

 俺は俺で倉橋さんにしっかり伝えよう。下手に言葉を選ぶことなく、シンプルに思っていたことを。

 

「倉橋さん。さっきはごめん。別に一緒に行きたくないとかじゃなかったんだ。ただ、女子同士の方が楽しめるんじゃないかなって思っただけで、本当に他意はなかったんだ。あんな顔させるつもりは本当になかったんだ。ごめん」

 

「い、いいよっ、そんな思い詰めた顔しないで!その、圭ちゃんがどう言う意図だったのかもある程度察してたし、廊下での話し声も聞こえてたからさ!そんな深く気にしないでよ!」

 

「ありがとう。それで、さっきあんな渡し方して置いてムシの良い話かも知れないけど、倉橋さんが良ければ俺と——」

 

 ふと思った。誕生日に……と言うか、女子と2人きりで出かける。それってよくよく考えなくてもデートってやつなんじゃないだろうか?夏休みの頭、杉野にも言われたっけ。

 そう考えると、なんか恥ずかしくなる。大丈夫か、これ。本当に言葉にして良い内容なのか、これ。

 

 考えて、考えて、俺は前原大先生の言葉に従うことにした。

 言葉を素直に伝えると言うのは他ならない、目の前の彼女から言われたことだし、下手に気遣って選んだ言葉で逆に傷つけてしまったのがさっきの出来事である。

 

 だから、シンプルに言葉を選ばず伝えた。

 

「デート、してくれないか」

 

「————ほぇ……?」

 

「えっ」

 

「えっ……?」

 

「えっ………!?」

 

「「「「「えぇぇぇぇ〜〜ッ!!?」」」」」

 

 クラスどころか、廊下を走る音と共に、前原たちが覗いてるのとは別の扉がガラッ!と開き、殺せんせーとビッチ先生も驚愕の絶叫ハモリに何故だか混じっていた。

 クラスメイトたちのこの反応、やっぱりオブラートに包むのを放棄しすぎたか?肝心の倉橋さんと言えば俯いてフリーズしてるし。もしかしなくてもやらかしたか?

 

 流石に不安になって前原大先生に視線を送る。

 

 が、彼らから答えが返ってくるより先に袖を引かれた。

 クイクイ、と控えめな引き留めに視線を戻すと珍しく耳まで赤くなってる倉橋さんが俯きがちに、けれど確かに視線を俺から逸らすことなく、一言。

 

「——よろしく、お願いします………」

 

 小動物の様にコクンと頷いて了承をくれた。

 これは成功なのだろうか、と今度こそ前原たちに視線を向けると、そこから覗いていた男連中全員、鼻を押さえながら親指を立てていたので、どうやら間違いはなかったらしい。

 

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 そして、Xデーを迎えた。

 

 その後、放課後になってから『あんな大勢の前で言われて無理とか言えないじゃん?』みたいな感じで改めて断られることなく、無事、約束は成立。

 

「け、圭一に女友達!!!?」

 

「ほげぇぇぇぇっ!!!?」

 

「しゃ、写真はないのかっ!?」

 

「それよりアンタ!まさかそんなイベントに小学生の頃の財布を持っていくつもりじゃないよねぇっ!?」

 

 倉橋さんにオッケーを貰ったその日に、念の為に祖父母には週末いないことを伝えた。女子とテーマパークに行くことを伝えたら、祖父がひっくり返り、祖母が腰を抜かし、家がしっちゃかめっちゃかになった。しかし、あくまでリアクションでそうなっただけなのか、2人が病院に掛かることがなくて良かった。

 

 しかしながら、着ていく服だとかに色々と指摘を受け、財布を買い換えるハメになった。乃咲くん、遂にマジックテープ卒業である。まぁ、古い方は大事にとっておけば良いしな。

 

 などと思いながら、弁当を作り、レジャーシートなどなど詰め込んだ鞄を肩から下げて家を出た。いかんせん、早く起き過ぎた上に2度寝も出来ず、手持ち無沙汰だったのだ。

 朝から昼用の弁当を使っていると、起きて来たばあちゃんに見つかり、『新ちゃんといい、圭一といい、なんだかんだ似たもの親子よねぇ』と目を細めてうんうん頷かれたのだが、父さんも母さんと出掛ける時に弁当作ってたんだろうか。

 

 まぁ、いいか。その辺はどうでも。

 

 待ち合わせは駅前となっているが、こので俺はふと思う。相手に気を遣わせない待ち合わせとはどんなものだろう。

 よく、『お待たせ〜。ごめんね、遅くなった』『うんん、いま来たところだから気にしないで』みたいなやり取りがあるが、これって相当リスキーではないだろうか。

 

 だって、待つ側にしてみれば相手を待たせない為に早めに来てるわけだ。しかし、少し遅く来た側は相手を待たせてしまった、と少なからず思ってしまうだろう。

 このデートの定番みたいなやり取りに見せかけた気の使い合いを防ぐ手立ては……そう、ただ一つ。

 

「……………」

 

 人混みに紛れ、気配を消し、相手が現れたタイミングであたかも『今着きましたが?』みたいな顔で登場することである。

 俺は死神から見て学んだ気配遮断と集中力を掛け合わせて完璧に人混みに身を潜め、倉橋さんが現れるのを待った。

 

 そうして待つこと数分。倉橋さんが現れた。

 ……おかしいな、待ち合わせまで1時間はあるんだけど。

 

 なんて思いながら俺も人混みから出る。

 

「あっ」

 

 声が聞こえた。見つけて思わず声を出してしまったみたいな小さな声。それを耳が受け止めるのと彼女が駆け出すのはほぼ同時。走らなくても良いのに、と思いながらこっちも小走り。

 顔に朗らかな笑顔を浮かべ、肩から下げた少し大きめな袋を揺らしながらパタパタと走る倉橋さん。その私服は南の島で見た者に軽く上着を羽織ったモノだった。

 

「おはよっ!圭ちゃん」

 

「おはよう、早いな、倉橋さん」

 

「そっちも早くない?まだ1時間前だよ?」

 

「倉橋さんもね」

 

「楽しみで早く来ちゃって。家にいてもソワソワして落ち着かなかったからさ。いつもより早く起きて悶々としちゃった」

 

「俺も似た様なもんかな。手持ち無沙汰で弁当とか色々使って持って来たんだ。こう言うの、ピクニックとかの定番だろ?」

 

「………えっ!?圭ちゃんの手作り!?」

 

「あぁ。トメさん直伝だ」

 

 鞄を軽く持ち上げてアピール。

 

「「「ギシャァァァァァ」」」

 

「なんか鳴き声聞こえたけど!!?」

 

「パンデモニュウムだからな」

 

「それ理由になるのかな……?あれだよね、圭ちゃんが復帰初日に持って来たり、この前の体育祭でお父さんとメイド服を着た人と無言の真顔で一緒に食べてたあの………」

 

「見た目はグロテスクたが、味は保証する。気になるなら崩して食べれば良いしな。あれでいてカリッとジューシーなんだ」

 

「崩す絵面が地獄絵図だよっ!!?ていうか、なんで平然と料理に生命が宿るのかな!?」

 

「俺に聞くな、トメさんに聞いてくれ」

 

「今日作ったのは圭ちゃんでしょ!?」

 

「まぁまぁ、そう慌てなくてもパンデモニュウムは逃げないからさ。世の中には知らない方が良いことってあると思う」

 

「すっごい不安!!」

 

 結構キレのあるツッコミをしてくるので思わず楽しくなってボケ倒してしまった。倉橋さんがぜぇぜぇと息を切らしている。

 

「あーもう……。圭ちゃんって時々タガが外れたみたいにボケることあるよね。退屈しないよ、一緒にいて……」

 

「俺も倉橋さんと一緒にいるの好きだぞ」

 

「っ……はぁ、そういところだよ」

 

「……………………?」

 

 倉橋さんが珍しく呆れた様にため息を吐いた。

 しかし、どう言うことなのか理解が追いつかない。

 

 思わずキョトンとしていると、ため息顔から笑顔に切り替えつつ、それでいて苦笑しながら言った。

 

「にしても驚いたよ。そう言うのって女子がやらない?」

 

「この時代、あんまりその辺関係ないんじゃない?ま、それに俺がやりたくてやったことだから…………ってもしかして、ファミレスとかの方が良かった?」

 

「そんなことないよ。私も考えとしては同じだったし……ほら、こっちもお弁当とかレジャーシート持って来たんだ。でも、2人で持ち物被っちゃったね」

 

「別に良いんじゃね?この時期、草の上でも土の上でも、レジャーシート一枚じゃ座るのに冷たいかもだし二重で敷けばさ。それになんだかんだ、婆ちゃんとトメさん以外の手作りって久しぶりだから俺も嬉しいよ」

 

「……えへ、そう言われると嬉しいかな」

 

 はにかみ笑いを浮かべる倉橋さん。

 うん、なんかこうしていると本当にデートしてるみたいだ。あ、いや、一応はデートではあるのか。

 

 デート、ねぇ。俺には縁がないとばかり思ってたけど、まさか女子と2人でテーマパークに行く日が来るとはなぁ。人生なにがあるか分からないもんだ。

 

 今後、彼女とか出来たらこんなことも増えるのだろうか。

 

 まぁ、そもそも彼女が出来るって未来自体が想像できないが。そもそも、昔、A組でエリート気取ってた頃はそれなりにモテたけど、今はそんなこともないしな。

 

 ………そう言う意味で、倉橋さんはどうなんだろ。

 俺に気が有ったりするのだろうか。あんな誘い方してOK貰えたし、普段の態度的に嫌われてることはないと思うし、かなり好意的に接してくれてるのは分かるけど、果たしてそこに恋愛的な意味はあるのかな。

 

 なんだかんだ、彼女とも色々あった。

 

 修学旅行で手(袖)を繋いだり、2人だけで虫取りに行ったり、悪戯とは言え同じ布団で寝たり、殺せんせーの陰謀でツイスターゲームとかポッキーゲームとか相手の好きな部分を言わされたり、俺がやらかした時は心配して叱ってくれた。

 

 こうして思うと結構、倉橋さんと色々あったな。

 

「あれ、圭ちゃんどうしたの?」

 

「いや、なんか倉橋さんとも色々あったよなぁ〜ってさ」

 

「え〜、なにそれ?」

 

「ナイショ。別に悩みってほどじゃないしね。ほら、折角早く揃ったんだし、早く行こ。動物たちが逃げちゃう」

 

「大惨事だよそれ!?」

 

 倉橋さんの元気のいいツッコミを聴きながら俺の脚は意外に軽やかに動き、目的地まで辿り着くのだった。

 

「あっ、そうだ。倉橋さん。一枚だけ写真いいかな」

 

「ほぇ?そんなの何枚でも良いけど、どったの?」

 

「じいちゃん達に女友達と出かけるって言ったら、めちゃくちゃオーバーなリアクションと同時に写真をせがまれちゃってさ」

 

「あはは……。気にしなくて良いよ。一緒に取る?折角だし、ツーショットの方が喜んでくれそうじゃない?」

 

「じゃ、そうしよっか」

 

 倉橋さんから了承を貰って1枚パシャリ。

 早速、祖父母のLINEに送信した。

 

「ついでに父さんにイタズラするか。女友達とデートなうって」

 

「………なら、普通に彼女とってことにしたら?せっかくのイタズラなんだし、その方が驚くと思うよ?」

 

「いやいや、倉橋さんはそれで良いのかよ」

 

「ばっちこい!」

 

「えぇ……?」

 

 結局、倉橋さんの提案通りにイタズラした。

 

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 荷物をコインロッカーに預け、身軽になった俺たちは早速パンフレットを片手に動物たちを見ながら歩き回っていた。

 そろそろ涼しくなって来たし、ロッカーも通気性が良かったし、何より保冷剤もガッツリ入れて来たので弁当も心配はないだろう。俺たちは人混みに紛れて不規則的に色んなところを回った。普段は中々見ない動物を見るのは楽しかったけど……。

 

「………ねぇ、倉橋さん。俺ら、動物に見られすぎじゃね?」

 

「…………うん。さっきのライオンなんて圭ちゃんが近いた時にお腹出してたよね。わざわざ目の前まで来て」

 

「蛇の前まで行けば……」

 

「通り過ぎるまで追いかけられ」

 

「ゴリラの前に行けば……」

 

「横一列に並んでお辞儀をされて」

 

「シャチのショーを見にいけば……」

 

「うちらの前で停止してイベントが壊れる……」

 

 今日あったことを2人で列挙して項垂れる。

 そして俺たちは悲しい事実に行き当たる。

 

「俺らって、もしかして動物園を楽しむのに向いてない?」

 

「言わないでよ……。折角考えないようにしてたのに」

 

 ベンチで2人揃って項垂れる。

 そして今、こうしている間にも、俺たちの足元にはカラス、スズメ、ハトなど多種多様な鳥たちが集まっていた。

 

「変だなぁ……。前はこんなんじゃなかったのに」

 

「それな。俺も小学校の遠足で行った動物園は普通に楽しめたんだけど……。ここまでじゃなかったなぁ」

 

「どうする?ここまで来るとある種の才能だよ……。2人で動物園とかそう言うトレーナーに就職でもしちゃう?」

 

「いっそのこと殺せんせーを殺した賞金で動物園でも開くか。倉橋さんが園長で俺は清掃員な」

 

「そこは副園長じゃないんだ?」

 

「園長の陰口を叩く輩を掃除するんだ」

 

「そんな清掃員って言うか、掃除屋!?」

 

「大丈夫だ。殺しても証拠は残らない。ついでに餌代も浮く」

 

「駄目っ、そういう変なの動物に食べさせちゃ可哀想だもん」

 

「そっちかよ!?」

 

「冗談だよ〜」

 

 ボケにボケで返されてしまった。なかなかやるじゃないか、倉橋さん。この子の場合、何割か本気で思ってそうだけど。

 殺せんせーを殺した後……かぁ。仮に成功したとして、そのあとの俺は何をやってるんだろう?

 

 このチカラを人の為に使うことを選ぶのか、あるいは普通の人間として一般社会に溶け込んで生きるのか。

 賞金で何をしようとか確かに夢のある話だけど、やっぱり一番気になるのはその後の自分が何をしてるのかだよな。

 

「……ねぇ、圭ちゃん?」

 

「ん?なんじゃらほい?」

 

「もし、もしもだよ?私が本当に動物園やりたいって言ったら……猛獣とか捕まえて来てくれる?」

 

「なんじゃそりゃ……。んでもまぁ、倉橋さんの為ならやぶさかでもないかな。人間に慣れてるってのあるだろうけど、ここの動物たちの様子とか見てたら楽勝な気がして来た」

 

「そっか、私の為なら……かぁ。えへへ」

 

 何やら嬉しそうな笑みを浮かべる倉橋さん。

 ぶっちゃけ、賞金手に入ったらその辺も普通にお金で解決できるんじゃね?とか思わなくもないけど。

 しかもなんで猛獣って指定なんだろ。小動物とかでも人気は出ると思うんだけどなぁ……。

 

 ………あれ、でも、確か、倉橋さんの好みの男って——。

 

 綾香ちゃんに色々教えていた時のことを思い出す。確か、茅野と倉橋さん、そして俺の好みのタイプを話した時、彼女がそんなことを言っていた。あの時は猛獣も捕まえられる様な腕っぷしの強い奴って意味だと思ってたけど、まさか言葉通りの意味だったのだろうか?

 

 ……だとしたら、どうして彼女は俺に聞いたんだろう?

 

 倉橋さんの言葉は……言葉通りの意味だったのか。それとも、"そういうこと"なのだろうか?

 

 ………………いや、深読みしすぎか。

 これでは単なる勘違い系男子である。

 

「よしっ!圭ちゃん、良いこと思いついたよ」

 

「……ん?あぇ、どうしたん?」

 

「動物たちが私たちに着いてくるなら、逆に着いて来てもあんり問題なさそうな所に行けば良いんだよ!」

 

 がばっ!と立ち上がった倉橋さんは自信満々にそう言うと俺の手を引いて歩き出した。

 ちょっと困惑しながら後を追うと、無数の人々が何やら黄色い絨毯の上に立っている光景が目に入る。

 

 しかも、なにやら、その黄色い絨毯は蠢き、ビヨ゛!と鳴き声を出している。どうやら、ヒヨコの触れ合いコーナーらしい。

 鳥の鳴き声って結構鼓膜に響くよなぁ……。それもこれだけ沢山いると尚のこと。うるさいとまでは言わないけど。

 

「ここならうちらの足元に何がいてもおかしくないよね!動物園特有の楽しみ方が出来て一石二鳥!」

 

「鳥だけにってか」

 

「そ、そう言う意味じゃないよっ!」

 

 親父ギャグかとチャチャを入れたら、慌てて否定された。

 少し恥ずかしそうなのがグッドだ。

 

 しかし、そんな感じで話しているうちに俺たちの足下にはあっと言う間にヒヨコたちが群がり、囲まれてしまった。

 足下でピヨピヨしてる様子はなんとも愛らしいものだが、ふとした頃には足の踏み場も無くなってしまった。

 

 黄色い海、突如として出来上がった陸の孤島。というか、孤島になってしまった俺と倉橋さんは身動きが取れない。

 

「倉橋さぁぁぁんッ!動けないんだけどぉぉぉぉッ!」

 

「だぁぁってぇぇぇぇっ!ここまでになるなんて思わなかったんだもぉぉぉんッ!周りに人いるんだからっ、そっちにも分散すると思うじゃぁぁぁぁんッ!」

 

 ヒヨコたちの鳴き声にかき消されないように大声で会話する様は側から見ていて滑稽だろうさ。

 おい、そこ、カメラを向けるんじゃない。見せもんじゃあねぇぞ。そっちの親御さんも『凄いねぇ、あのお兄ちゃんとお姉ちゃん』ってお子さんに見せないでください。こんなの例外中の例外だからっ、これが当たり前だと思って育ったらその子が可哀想だからっ!つか、係員さんも助けてくれっ!

 

「誰かぁぁぁぁぁっ、助けてぇぇぇっ!」

 

 拝啓、天国のお母さん。

 

 貴方の息子はヒヨコに囲まれて周囲に助けを求めています。自分がある種の強化人間だと自覚し、そんじょそこらの相手には負けないとか思ってましたが、人類最強の烏間先生に追いかけ回された時に助けを求めたのが1回目、まさか2度目の救助要請がヒヨコに囲まれたことが原因になるとは思いませんでした。

 聞けば、お母さんも良く動物に好かれて囲まれていたと聞きます。どうか、この様な状況になった時の対処法を教えてください。ロケットパンチよりそっちが知りたいです。

 

 …………なんて現実逃避していたら流石に係員さんが助けに入ってくれた。ほんと、ありがとうございます。

 

 何十羽いるか分からないヒヨコに混ざってカラスとかトンビとか混ざってたのに、ヒヨコたちは1匹たりとも連れて行かれなかったのが唯一の救いである。

 

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 俺たちは再び並んでベンチに腰を降ろした。

 彼女の作って来てくれた弁当を頂いたり、俺が作って来たパンデモニュウムを彼女がしっかり食べてくれたり。楽しかった。

 

 しかし……。

 

「あ〜。楽しかったけど疲れたぁ……」

 

「だねぇ〜。まさかこんなになるなんて」

 

 その後も、諦めずに色んなところを回った。

 しかしながら、どこに行っても何かしらの生き物がいるこのテーマパークでは、周りの目を集めることは避けられなかった。終始、動物たちだけでなく、人々から注目されていた。

 

 やっておいてなんだが、一番圧巻だったのは、巨大なアクアリウムエリアである。多種多様な魚達が泳ぐその水槽の前に俺たちが立つと、彼らは種別問わずに集合し、水槽に頭を擦り付けながらパクパクと口を動かし、俺たちをガン見していた。

 

「いや、本当、どうしてこうなった……。いや、楽しかったけども。なんか想像してたのと違う……」

 

「圭ちゃんは元々動物に好かれやすかったもんね」

 

「いいハンターってやつは動物に好かれちまうんだ」

 

「その理屈だと私も良いハンターになれちゃうね」

 

「本当だよ。倉橋さんから動物に好かれるフェロモンでも出てるんじゃないの?これがクラハシウムか」

 

「それを言うなら圭ちゃんも相当じゃない?女タラシに動物タラシ。そう言うフェロモンでも出てるでしょ」

 

「この際、動物は認めるけど、女はタラシてないぞ」

 

「あっ、そんなこと言っちゃうんだ?」

 

「だって事実モテないし……」

 

 なんかさっきまで似た様なこと考えてたなぁ。

 でも、本当に女タラシは風評被害だと思うのよ。

 

「そう?そう思ってるの、案外本人だけかもよ」

 

「だってなぁ?最近まで不良やってたし、夏休み明け初っ端から全校生徒を体育館のステージで見下す発言してたし。モテる要素ってなくないか?それこそ学年主席って肩書きくらいしか」

 

 実際、その肩書きを持ってるのが俺じゃなくて悠馬や前原ならモテるだろう。あのルックスに加えてエリート扱いされるうちの学校でトップの優良物件って証明みたいなもんだし。

 

 でも、俺の場合はルックスは並くらいだと思うし、主席って肩書きが霞むほどに悪名が広がりすぎている。それに加えてE組の中でもかなり情けない部分見せてるし。

 

 親父が構ってくれないって泣きギレして八つ当たり、毒を盛られて無理を通して黒幕の所まで言ったけど、結局は俺の頑張りは空回りだったし、なんだかんだ殺せんせーを追い詰めてるって言っても同じだけ失敗してチャンスを流してる訳だし。

 

「あはは、圭ちゃんの中ではそうなのかもね」

 

「その『あはは』は何言ってるのコイツって意味だよな、流石に学習してるぞ。茅野もよくそんなこと言うし」

 

「うーん。時々そう言う意図が入ってるのは否定しないけど、でも、圭ちゃんは少し卑屈だと思うな」

 

「そう?」

 

「そうだよ。よく言えばストイック、悪く言えば卑屈ってところ。確かにとっつき難い時代もあったけど、今はそんなでもないし、むしろ話しやすくなったよ?」

 

「不良やってた時代に比べれば、だろ?」

 

「それもそうだけどね。でも、私はしっかり圭ちゃんにもモテる要素あると思うよ?」

 

「例えば……?」

 

「まずは頑張り屋さんな所かな?やりすぎな部分があったのは本当だよ?でも、目標の為になりふり構わずに頑張るところ、私は良いなって思った。勉強も、暗殺も。圭ちゃんが烏間先生に放課後訓練付けて貰った頃から実はこっそり見てたんだからね?」

 

「………俺が吹っ飛ばされるところとかも?」

 

「うん、何回も転ばされて、ナイフを叩き落とされても向かっていくの誰にでもできることじゃないし、カッコよかったよ?」

 

 なにそれ恥ずかしい。1人で手も足も出さずに負け続けてた所を見られてた宣言されるのは少し心に来るぞ。

 

「あと、基本的に有言実行なところ。理事長先生の妨害とかで出来なかったこともあったけどさ、そのあとはしっかり宣言通りに1位になったし。イトナくんの時も俺がやるって言ったらきっちり彼を無力化してたし、死神の時も時間を稼ぐって言って本当に稼いじゃうんだもん」

 

「でも、どの場面でも俺にもう少し力量があればもっと良い結果になったと思うし……。言って実行するだけなら誰でも出来ると思う。口に出して文句がつけられないくらいの結果を出す奴がカッコいいんじゃん」

 

「でも誰よりも結果を出してるじゃん」

 

 なんだろう、誉め殺しか?俺、倉橋さんに殺されちゃうのか?なんかやたらと褒められるし、否定してもすぐにフォローが飛んでくる。なんか、照れるぞ。ここまでされると。

 

「あとは……誰にでも優しい訳じゃないけど、本当に必要な人には寄り添おうとするところかな」

 

「そんなことしたか……?」

 

「無断バイトしてた磯貝くんを助けて、前ちんの為に仕返しして、律と話し合って、A組に行ったあと竹ちゃんにE組に戻る為の協力もしてあげたんでしょ?イトナくんから触手を取った時ももっとやり方があったんじゃないかって悩んで、綾香ちゃんを学校に行けるようにしたじゃん」

 

「確かに一部は助けたって言っても良いかもだけどさ……」

 

「なら素直に受け取るべきだよ。圭ちゃんは腕っぷしとか強化人間云々で『俺はそれなりに強い!』ってなってるところ以外で自己評価って言うか、自分がやったことへの評価が低すぎるよ。貧乳っていうか、胸とかそう言う部分に対してデリカシーがなさすぎる部分があるけど、本当に言っちゃダメなこととか言わないし、そう言うところに救われた人もいるんじゃないかなって」

 

 そうだろうか。彼女の言う通り、確かに誰かを助けたこと自体はあるのかも知れないが、誰かを救ったなんて仰々しいことはしたことがないと思う。

 そも、それらしい場面を振り返っても……偉そうな言葉を並べ連ねて説教してる様子しか頭に浮かばない。

 

「……はぁ。圭ちゃんのそう言う部分、好きだけどちょっと嫌だなぁ。誰でも出来るわけじゃないことを当たり前みたいに考えて他人を助けるのは良いことだけど、それを指摘されてからの『俺、なんかやっちゃいました?』はもう流行らないよ」

 

「……………まぁ、言われてみると俺のムーブはそれなのか」

 

「自覚があるようでよろしい。自分がやったことをちゃんと考えて、自覚するのって責任を持つ第一歩だと思うの。だから、圭ちゃんにはその辺自覚して欲しいかなぁ」

 

「はい、ごめんなさい」

 

 なんか割と真っ当なお説教をされてしまった。

 自分のやったことを考えて自覚することは責任を持つと言うこと。確かに倉橋さんの言う通りだと思う。

 そう思うと、確かに俺の今までの言動は責任感に欠けていた様に思う。そうか……。烏間先生の様なカッコいい大人計画の為にももう少し、言動に気を付けてみるか。

 

「けど、私はそう言うところも込みで圭ちゃんが好きだけどね」

 

「お、おう………。ありがと」

 

 圭ちゃんが好き。その部分でやけに心臓が跳ねた。

 正直、嬉しかった。そう言う部分が好きとか、圭ちゃんの良いところだよ、とは何回か言われたことがある。

 でも、そういう部分的な所にフォーカスしたものでなく、そういう部分を含めて俺が好きと言われたのは初めてだった。

 

 エリート気取ってモテてた頃。血迷って告白して来た子もいた。その時、正直に言えばこっちも緊張してドキドキはしていたけど、嬉しさがあったかどうかは正直な所は覚えていない。

 だか、今の倉橋さんの言葉はその時にされた告白以上にドキっとさせられたし、嬉しかった。別に告白された訳でもないのに。

 

 だって、倉橋さん。なんでもないように、いつも褒めてくれる時みたいに笑ってる癖に顔がほんのり赤いんだもん。こんなの向けられて、ついドキッとしない男がいるわけがない。

 

 でも、勘違いはしない。何故なら彼女はそう言うことを言うか言わないかなら、言うタイプだと思うから。

 

「圭ちゃん、顔赤いよ?」

 

「……倉橋さんこそ」

 

「あははっ、そうかも。やっぱり恥ずかしいや。でも、やり返せたからこれでドローだよね?」

 

「やり返すってなんのことよ……?」

 

「普久間島で肝試しした時。圭ちゃん、女子ランキング使った時に私に投票したって教えてくれたとき、誉め殺しして来たもん」

 

 言われて、そんなこともあったなと思い出す。

 でも、それはそれとして悔しかったので反撃に出た。

 

「え〜?でも、ヒント出したのに倉橋さん答えなかったじゃん。顔真っ赤にして『知らないっ、圭ちゃんの馬鹿!』って。だから俺は倉橋さんとは言ってません〜」

 

「あっ、それズルい〜!!」

 

 普久間島、か。なにかと思い返すことの多い単語だ。それだけ色んな意味で俺たちの中では大きな出来事だったと言える。

 色んな意味で。A組に行くか悩んでいて、その時間は決して無駄ではなかったが十全に楽しめなかった感は否めない。

 

 ……その中の、一番最後の肝試し。

 殺せんせーの暗躍でゲスいカップル成立狙いのイベントになっていたが、それでも、あの時。俺がA組に行くことをきっぱり切り捨てていたらどうなっていたんだろう。

 最後のポッキーゲーム。みんなを裏切る自分にそんな自覚はないと区切りをつけて自分から折らなかったらどうなってたのかな。本当に最後にキスとかしたんだろうか、倉橋さんと。

 

 いや、ポッキーを吊るしてた紐があるから直接ではないからセーフ理論も………いやそこまでいけば通用しないか。

 

 思わず視線が彼女の唇に落ちた。

 ………やばい。これはよくない。

 

 視線を外す。流石にこれは気持ち悪いだろ。

 

「………今、見てたでしょ」

 

「………………………あぁ」

 

「女の子、そういう視線に敏感だからね?」

 

「……………………そうか」

 

 父さんの口調が出る。指摘されて思わず緊張したらつい出てしまった。もしかして、あの人も緊張して口走ってたのか!?

 

「圭ちゃんってムッツリ?」

 

「否定できません」

 

 いや、しかしだ。とあるK1が言っていた。『男が変態で何が悪い!』と。別にそれで良いんじゃないのか?

 って、もはや何を考えてるのか思考が渋滞していて分からなくなって来た。けれどそれも仕方ないだろう。

 

「……………………ねぇ、圭ちゃん」

 

「はい、なんでしょう」

 

「……………肝試しの続き………する?」

 

 これはどう言う意味だろう……。

 いや、どう言う意図なのかを考えるべきか。

 

 単に揶揄われてるのか。それとも本気なのか。

 押すべきなのか、それとも退くべきなのか。

 

 一瞬の逡巡。しかし、彼女はそれを許さない。

 スクっと立ち上がると倉橋さんは身体とスカートを翻して俺に振り返る。いつの間にか沈んでいた夕陽に負けないくらい赤い顔で、逃がさないと言わんばかりに、俺の両肩を上から押さえつける様に両手を乗せ、顔を近付けた。

 

「く、倉橋さん……。俺の負け。だから一旦落ち着こう。顔とか色々と近いし、流石の俺もここまでされると勘違いするというか………。健全な男子には刺激がねぇ……?」

 

「——勘違いしていいよ。勘違いじゃないから」

 

「それってどう言う………」

 

「私は圭ちゃんが好きだよ。女の子として、男の子の乃咲圭一くんが好き。そうじゃなきゃ、デートなんて誘われてOKしないし、イタズラとは言え男の子の親に送る写真で彼女ってことにしたら。なんて言わないよ」

 

 言葉を失った。シンプルに驚いた。嬉しいだとか、胸が高鳴ったとか、それ以前にここ最近でもトップレベルで驚いた。なんなら、自分の生い立ちに着いて聞いた時並の衝撃を受けた。

 好き、好き……。あの倉橋さんが……?よっぽどじゃなければ誰にでも優しくて分け隔てないあの彼女が?

 

 いや、嬉しいんだ。確かに嬉しい。

 また鼻の先で顔を真っ赤にしてそんな子が好きと言ってくれている。これは俺の勘違いでもなく、"告白“なんだろう。

 

 ここまでされたら勘違いしようがない。いくらなんでも流石にそこまで鈍くない。いや、もしかすると倉橋さんから見たら充分に鈍いクソボケなのかもしれないが。

 

「なんて言うんだろ、本当はここで言うつもりなかったんだ。でも、なんて言うか、言っちゃった。自分でもよく分からないけど……言うなら今しかない!とかそういうタイミングでもなかった気がするけど、でも、意識したら勝手に口が動いちゃったんだ。勢い任せだったけど……気持ちは本当」

 

 倉橋さんの目は潤んでいるのに、どこか覚悟が決まった様な光を宿していた。こんな場面で使う表現ではないけれど、獲物を定めた猛禽類の様な印象すら受ける。

 勢いに任せて勝手に口が動いたという言葉にきっと嘘はない。でも、気持ちも言葉もそれだけ真剣に伝えてくれてることが伝わって来た。そんなことも慮れないほど愚かなつもりはない。

 

「……圭ちゃんは……?」

 

 向けられた問い掛けは刃物の様だった。

 今まで異性の中では一番親しい友達と漠然としか考えていなかった俺にとって、倉橋さんからの告白は不意打ちだった。

 

 ……いや、嘘だ。異性として意識したことなら何度もあった。今日だって何回も考えさせられた。

 

 俺にとって、その問い掛けが刃に思えてしまうのは……。心の底から倉橋さんと恋人になると言う未来を考えていなかったからだ。"いいなぁ"、"可愛いなぁ"と漠然としたことしか考えてなかったからだ。だからこそ、俺たちの関係を変えてしまうその選択がある種の断頭台に見えてしまうのだろう。

 

 彼女との関係は心地が良い。

 でも、俺の選択一つでそれが崩れてしまうかも知れない。

 

 今までラブコメなんて真剣に見たことなかったけど、今になって後悔している。モテる癖に鈍感で曖昧で中途半端な答えしか出さない主人公にイラつくからと言って嫌厭していたが、今なら感情移入できる気がする。

 

「俺は————」

 

 なんだか酷く、喉が渇いた。

 




あとがき

はい、あとがきです。

ついに引き返せない所まで来た感がありますね。
圭一についに言ってしまった倉橋さん。果たしてそれに対する圭一の答えとは……!

それはそれとして恋愛描写はもっと頑張りたいところ……。感情の移り変わりと機微を察するとか道徳3のワシには難しいぞい……。

まぁ、とりあえず圭一は一回殴られてどうぞ。

つか、120話以上やってるのにヒロインと殆ど進展してなかったとかマジ……?
ご愛読ありがとうございます!

おまけ

「!?」

「oh……シンイーチ?ドシタン?キューニ、チェアーからスベリオチテェ?ナンカアッタンカ?」

「あ、あぁ……。すまない。予想外の出来事に思わず。どうやら息子に春が訪れたらしい」

「ハル……?oh……!スプリング!ワカサ爆発デスネェ!」

「と言うわけですまないが帰国する」

「………………oh………!?」

「あの子の3者面談も近いと先輩から連絡があったし、相手の家族構成、世帯年収、過去3代に渡り犯罪歴の調査、学校での生活態度……。やることが多すぎる」

「オヤバーカデスネェ。ああっと!伝え忘れてマシタ!レイのハナシ、ケイイーチにも伝えておいてチョンマ〜ゲ!チミとケイチャーンの子供なら、いつでもwell camでぇす」

「分かった、伝えよう。と言うわけでジョン。私は失礼する」

「ハイハ〜イ!マタイラッシャイマセ〜!」

——息子からイタズラされた新一〜続く〜——
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