加えてたくさんの高評価、感想ありがとうございます!
今回も投下しますのでお付き合いください……!
「息子に恋人が出来たと聞いたんだが……」
「…………あー。うん、ごめん、アレ半分嘘」
「……そうか」
俺の言葉に父は肩をガックリと落とした。
手に持っていたてんこ盛りの赤飯をリビングの方まで置いてくると、軽く咳払いしながら再び俺の前に戻ってくると徐に口を開いた。俺が今まで言われたことのない言葉を伴って。
「………おかえり、圭一」
「…………うん、ただいま」
初めてだ。父さんにこうやって出迎えられるの。
なんとか言葉を捻り出して俺は満足そうに頷いた父の背中を追うことなく、手洗い場に向かい、手を洗って、うがいして、先に父が座っていたダイニングテーブルの対面に座る。
「それで、半分嘘とは」
「続けるのか、この話」
「無論。苦節14年初めて聞く息子の恋バナに私はワクワクしている。その為に酒とつまみも買って来た」
「……恋バナって程でもないというか、恋バナかすら危うい」
「ほぅ」
どうやら聞く気満々らしい。
俺の言葉に頷くと、食事に手をつけることなく何処からか取り出した酒とつまみを開けて口に放った。
「父さんにメッセージを送った時はまだ友達だった」
「そうだったのか。しかし、お前がただの友達を彼女と偽るとも思えないが。どちらかと言えば、そういう嘘は騙す相手よりあの写真の子にも悪いと思うタイプだろう?」
「実際そうだった。でも、彼女からの提案でさ。折角イタズラするなら友達とかより恋人とかの方が驚くんじゃないって」
「効果は覿面だったな。それはもう驚いたとも。少し調べさせて貰ったが過去3代に渡って犯罪歴はないし、特別困窮してる訳でもない。善良な両親に育てられた善良な女の子だろう」
なんでそんなこと調べてんのこの人。
それは流石に怖いぞ。親バカというかバカ親と言うべき。そんな一昔前の良家の跡取りの縁談じゃねぇんだから。
ってそうか。この人自体が元々は一昔前の良家の跡取りか。
和解してから聞いた話だと、元々はそれなりに大きい会社の社長をしていた父を持った地元だと有名な家の長男だったな。
「なるほど、外堀から埋められた訳か。しかし、半分嘘ということは私に写真を送った後で何かあったのだろう?」
「………告白された」
「しかし、良い返事を出来なかったと見える。おおかた、相手に対する感情が友愛か恋愛か自分の中で答えを出せなかったのだろう?お前の言葉から察するに、答えは保留中と言ったところか」
「よく……分かるな?」
「分かるさ。私も似た様な経験がある」
「そうなのか?」
驚いた。二重の意味で驚いた。
父さんに言い当てられたことも、この人が似た様な経験をしたと言うのも予想外で。驚く以外のリアクションが分からない。
「私と圭……お前の母さんの馴れ初めは話したことがあるな?」
「あぁ……。じいちゃん達からも聞いてる。元々幼馴染で、身体の弱かった母さんにずっと父さんが付き添ってくれたって」
「それを肯定するのは些か恥ずかしいが、ざっくりはその通りだ。互いに初恋で、それが実って一緒になった。しかし、その道程で思い悩むことも確かにあった。それは圭と俺……私の関係はなんなんだろうってことだったよ」
父さん、一人称は俺なんだな。
多分、テレビとかそう言うところに出るから普段から意識して一人称を変えているんだろう。ちょっと驚きだ。
「私の幼少期はかなり捻くれていてね。実家の教育もあって周りを低脳と見下す嫌な子供だった。圭はそんな私と話が合う唯一の友達でね。家にも居場所があるとは言い難い環境だったから、思春期に差し掛かった頃、彼女を異性として意識する上で疑問に思ったんだ。これは本当に恋と言うやつなのか。これはただの依存なのではないかと」
この人から飛び出す恋と言う文字。それはなんとも不似合いで、聞くとこっちが小っ恥ずかしくなるけど、話してる本人は真剣なので茶化す気にはなれず、頷いて続きを促す。
「事実、誇太郎……お前から見た伯父に言われたことがある。『兄さんたちの関係は共依存だ』とね」
叔父。俺がシロの正体と考えている人物か。
だが、なんとなく、気持ちが分からないわけではない。
身体が弱くて思うままに動けない母さんにとって、父さんは寄り添ってずっと一緒にいてくれる得難い相手だった。
子供の頃から自身の努力と才能で周囲を寄せ付けないほど優秀だった父さんにとって母さんは得難い理解者だった。
それは確かに共依存に見えるだろう。
「しっかりとした教育を受けさせて貰ったと言う意味で、柳沢の家はまともな家庭だったのかも知れない。皮肉なことに私が生きているのがその証明だ。だが、子供としては、耐え難いものだった。出来て当たり前という父、そんな父に従うことしかしらない母。親に肯定される近所の子供が羨ましかった」
その気持ちは分かる気がする。
俺の場合、それを向けてくるのが両親ではなく、周りの大人だった。何せ、当の親は方や忙しくて家にいない、方や亡くなっているという状態だったのだから。
運動会の徒競走で1位になった子が親に褒められて、撫でられてるのを見るのが羨ましかったっけ。
「……すまない。あぁはなるまいと思っていたのに、お前に同じ気持ちをさせてしまっていた」
「今更謝るなって。今も昔も父さんが俺のために忙しくしてたのは知ってる。それでも割り切れない部分があったし、それですれ違ったのは確かだけど、今はもう整理が着いてるから」
「………そうか」
俺の言葉に一回だけ頷いて目を細め、遠くを見ると、気を取り直した様に父さんは話を続けた。
「話を戻すが……私は圭にある種の母性を求めていたのだと思う。子供にとっての一番の理解者は親であるべきだ。そして自分の親への感情をそれなりに小さい頃から割り切っていた私にとって初めて出来た理解者に甘えていたのだろう」
「………それは仕方ないんじゃないのか。俺だって拗らせてた時、頑張りを認めて、褒めてくれる奴がずっと側にいてくれたなら。きっとその相手に甘えて————」
父さんの立場と過去の自分を重ね、もし、そんな相手がいてくれたのならと言う妄想をして、気が付いた。
そんな相手がずっと側にいてくれたのなら、俺はどんな感情を抱くだろう?と。俺はきっと好きになる。だが、ふと客観的に自分を見た時に思うはずだ。これは依存なんじゃないかと。
「そう言うことだ。甘えて、好意を自覚して、自分を客観的に見つめた時に悩んだんだ。これは依存であって、好意ではないんじゃないのかと。弟の言う通りなのでは?と」
なんでだろう。人懐っこい母さんと基本的に寡黙な父さんという組み合わせだからなのか、ストレートに好意をぶつけてくる母さんを前に1人無言で悩む父の姿が簡単に幻視できた。
「………好きではあるが、恋愛感情なのか分からない」
「その通り。きっと今まさにお前が体験してることだろう?」
「そうだな………」
「私も正直驚いてる。なんと言うか、似なくて良いところばかり似るものだな。容姿は間違いなく圭似だが、内面は私に似た様だ。嬉しいやら、悲しいやら」
俺たちは思った以上に似ているのかもな。
環境が人を作り、そこで育った人間が環境を作ると、やはり自分が育った環境に似るのだろう。そして、そこで育てば形作られる人間性も似てしまうのはある意味では必定と言えるだろう。
というか、もしも俺に異性の幼馴染がいれば、間違いなく父さんと同じ様な道を辿っただろう。
生憎といるのは男の幼馴染だけだ。最近は疎遠だけど。
「そんで、父さんはどうして依存じゃなくて恋愛感情だって思ったんだ?」
「いや、改めて思い直すとかそんなことはしていないぞ」
「………は?」
続きが気になって質問すると返ってきたのは意外な答え。普通、こういう話って『私も若い頃はこうだった。でも、こうすることで切り抜けることができた』って決意を新たに踏み出したことで全て上手く行った〜みたいな教訓話しになるもんじゃないのか?と言うか、そういう流れだったよな?
「別にそれでも良いかと思った。依存であろうと恋慕だろうと、私は誰よりも圭が好きだった。そこにさえ自信が持てれば良いかとふとした時に思い至り、それで納得した」
「……………………参考にならねぇ」
いや、確かにそれは俺の中にはない考え方だった。そう言う意味では参考になった。しかし、陽菜乃には悪いが、俺は誰よりも好きだ、なんて言えるほどの感情を持っているとは思えない。
確かに好きだ。
確かに大切だ。
でも、誰よりもとは言えない。まだ彼女の両親の方が陽菜乃を大切に思っているだろう。そも、誰よりも好きとか、誰よりも大切だとか、何を基準に言っているのだろうか。
「難しい顔をしている」
「誰よりも好き、大切なんて何で言い切れるんだ?って俺の中の合理性を求める部分が騒いでる」
「お前のそういう部分は圭に似たな。あれも妙に冷めた所があったよ。我が妻ながら一番敵に回しちゃいけないタイプだった」
それはなんと言うか意外なことを聞いた。
俺の中の母さんのイメージはなんつーか、自分を強化人間と名乗って憚らない天然で、でも動物に好かれやすい優しい人って感じだったから。そういう部分もあったんだな。
確かに父さんが見舞いに来てくれた時、そんな話を聞いた様な記憶もあるが、改めて聞いても想像できないな。
「それで、私が一番彼女を思ってると断言できる理由が知りたいんだったかな?」
「……あぁ。実際、あるもんなのか?」
俺の質問に父さんは遠くを見つめた。
懐かしそうに目を細め、一つ一つ思い出す様に口を開いては言葉を紡ぐ。科学者、乃咲新一のルーツを。
「私は圭と一緒にいる為に学んだ。彼女を助ける為に勉強した。続けた。そして結果的に科学者になった、ハーバードを主席で卒業した、その後も努力を続けて世界規模で遺伝子工学の権威と言われるまでになることができた。彼女と共にいる為に積み重ねたモノが世界屈指の評価を受けた。だからこそ、私は言い切れる。世界で誰よりも彼女を愛していると」
父さんは言い切った。愛だとか合理的とは言えない言葉を合理的な結果で証明した。彼女を世界で一番愛している。それを証明せよ、という問題に対して母さんの為だけに世界に認められる結果を出すことで答えを提示した。
それは素直に尊敬できる。
同じ男としては、惚れた女の為に世界から認められるというムーブはスタンディングオベーションすべき内容だ。それをやってのけたのが自分の父親であると言うのも誇らしい。
だが、やっぱり参考にはし辛い。
自分の気持ちが依存であっても相手のことが好きなことに変わりないと開き直りました、相手と一緒に生きる為に始めて、何年も続けた努力が世界から認められました。
文字列にして3行。こんな風にまとめるのは簡単だ。でも、実行するのは決してそうは上手くいかないだろう。
俺は知っている。自分と瓜二つの世界最高、その一角を。
あの日、死神の技術の一端に触れた俺は自主練の中にアイツの技術の習得を目的とした反復練習を組み込んだ。
ゾーンに入り、自分の動きをよく考えて洗練して、彼の技術の再現とまではいかないものの、それでも同じ技を使えると言っても良いレベルに成長させることができた。
だからこそ、俺は知っている。死神の技術の高さ、俺との実力の開き、世界最高がどれだけ高い壁なのか。
俺に何が出来る?
そも、陽菜乃を誰よりも好きだと自信を持って言えない奴が、彼女に抱いてるのが恋愛感情なのかすら答えられない奴が、まして告白への返事を保留する様な奴がどうして彼女の為に世界最高を名乗れるだけの努力ができると思うのか。
「………まぁ、なんだ。これはあくまで私の話だ。お前もそうするべきとも言わないし、惚れた相手の為にできることなんてのは自分で考えるべきだとも私は思う」
俺の内心を知ってか知らずか彼は言う。
「結局のところ、お前がどう思い、何がしたいかだ。恋人と何がしたいかではなく、相手の為に何がしたいか。それは一体どうしてなのか。それを見つめ直すと良い。それが相手への感情を理解するのに一番合理的な手段だろう」
「………陽菜乃の為に何がしたいのか、どうしてか」
「……陽菜乃ちゃんと言うのか。まぁ、そこは置いておくとして。どうだい?何もこれからの事だけを考える必要はない。これまでのことでも良い。なにか、その子の為にやったこと、その理由をお前なりに考えてみろ」
「俺が彼女の為にやったこと……。ちょっと考えてみるよ」
「……あぁ。今度は正真正銘の彼女を紹介してくれるのを楽しみにしている。例えば、その相手が写真の子じゃなくてもね。お前がその子を選ばなかったとしても、私はお前を応援するさ。私や圭にとって一番大事なのはお前だ」
「……そうか。ありがとう、父さん」
一言だけ礼を言うと、父さんは少し照れくさそうにしながら柿ピーを口に放り込んだ。
アンタが無駄に炊いた赤飯があるから摘むのは程々にして欲しいんだが、まぁ、今回は俺が頑張るかぁ。
赤飯、あんまり好きじゃないんだけどなぁ……。
程々に冷めた茶碗を持ち上げ、いざ食べようとすると、父さんは改めて俺を見た。何処か申し訳なさそうに。
「そうだ。圭一、忘れていた」
「ん?」
「私が日本に帰って来た、もう一つの理由だ。あんな話をして早々にこんな話をするのもどうかと思うんだが……」
なにやら少し言いづらそうに言い淀む父。
なんだろう?何かあったのだろうか。理事長から父さんに何かしらの連絡が行ったとか?最近は不良らしいこともしてないし、まだ何もやってないんだけど。そんな言われ方すると不安だ。
「お前の進路について」
「……あー」
やばい。そう言えばそんな話もあった。
父さんにもその辺を話しておかないといけないんだよなぁ。ただ、将来の夢はおろか、まだ行きたい高校すら決まってないと言ったら流石に怒られるか?
「行きたい高校とかは決まっているのか?」
「えっと……その、特には……。一応私立だけど、特待生枠あるらしいから、椚ヶ丘に外部受験で入り直す……とか?」
口から出まかせである。
もっとも、去年までの進路調査表に書いていた内容も入っているので、完全に出まかせという訳でもない。特待生とかも狙えなくないハードルだとも思うし。咄嗟に出た内容としては上々か。
「実は大学時代の同級生がアメリカの方で経営している高校がある。お前の話をしたら是非、我が校に〜と勧誘を受けてしまってな。海外で学ぶ経験は得難いものだし、お前さえ良ければと」
「………色々と突っ込みたいけどちょっと待て。海外って日本と新学期が始まるタイミング違うよな。確か8月とか9月とか大体夏から秋に掛けてだったと思うんだけど……。それ受けたら俺、日本の同級生とは1年くらい遅れることにならない?そんな実質高校浪人みたいなの嫌だぞ?」
飛び出して来たのは予想斜め上も良いとこなお話し。
いや、小学校も中学校も父さんが話を持って来ていた。そう言う意味では進学先を紹介されるのは予想できたことだ。
だが、しかし、だ。まさかの留学?流石に予想外過ぎる。投げられたボールが突如発生した上昇気流で成層圏までぶっ飛ばされるのを眺めている気分だ。
「そこに関しても向こうから提案を受けてる。あっちの試験を受けることになるし、ハードルもそれなりに高いが指定された点数以上を取れれば今年の1学期から入学した子たちと同じ学年で来年の4月から通って良いとのことだ」
「実質的な飛び級じゃん!?出席日数とか単位は!?」
「付与してくれるらしい。もっとも、さっき言った通りハードルは高い。少なくとも、向こうの高校1年生で習う範囲は網羅していなければ基準値を超えることは不可能だ。その場合、この話はなかったことになる。もっとも、留学したいのであれば、日本の同級生より遅れはするが、向こうで普通に受験するのもアリだ」
「きょ、極端な話だなぁ」
なんじゃこりゃ………。
父親に恋愛相談して、恋バナして、進路の話ししてたら唐突に飛び級勧められたぞおい。ここまでカオスな会話あるか?
「無論、これはあくまで選択肢だ。私はお前に将来を強いることはしない。好きに決めるといい」
「いや、そら有難いけどさ……。なんの話してたら日本の1学生をそんな待遇で勧誘するのかなぁ」
「友達付き合いとして彼の学校に言ったら、生徒の話になり、そう言えば来年はうちの息子が高校生だ、という話をしたら日本の学生に興味が出たらしく、流れで息子自慢をしてやったら、お前に興味を持ったらしい」
「いやいや……。それだけで?」
「椚ヶ丘学園はお前が思う以上に大きなネームバリューがある。先日の体育祭でお前が薙ぎ倒していた留学生たちだって椚ヶ丘と提携関係にある学校から来ていたんだぞ?あの浅野先輩が関わっているだけあって、海外の提携校もレベルは高い。なにより、ジョン……この話を持って来た友人は私と同級生なだけあって、浅野先輩を良く知っているからね」
それ、椚ヶ丘のネームバリューではなく、魔王の悪名が轟いているだけではないのだろうか。
「最下位から首位に登り詰めた話をしたら『ワォ!魔王キャッスーを攻略したのですかぁ!』と興奮していた」
「海外から見ても魔王の城なんかい!」
「そうらしい。中でも、先輩がお前に目を掛けてくれている話をしたら震え上がっていたよ。『大変デース!シンイ〜チとケイチャンの子供がシューベルトでぇーす!はや〜く助けてあげてくださぁ〜い!』と心配していたよ」
「その上手いのか下手なのか分からない日本語に突っ込むべきか?それともシューベルトの魔王だったら俺死ぬじゃんって突っ込むべき?ってか、あってるよな、シューベルトの魔王って言いたいって解釈であってるよな?」
「たぶんな」
父さんが薄く笑いながら酒を飲む。
なんて言うか、愉快な人なんだな、ジョンさん。
あ、いや、そもそもジョンさんに限らず父さん周りの人は大体愉快な人だったりするのだろうか。
目の敵にしてくる弟、病院の院長やってる同級生、魔王やってる先輩、魔王に怯える教員、息子の体育祭に普段着ないメイド服を来てくる家政婦、ロケットパンチを練習する強化人間、マッハ20のタコ、暗殺者やってるファザコンの息子。
すごいラインナップである。
新一と愉快な仲間たち。
「とは言え、さっきの話もある。好きな道を選びなさい」
「……いや、陽菜乃はあんまり進路に関係……なくない?」
「そうだろうか。将来を真剣に考えるなら必須では?」
「いやいやいや。いくらなんでも正式に付き合ってるわけでもないのにその辺を加味して将来見据えるのは重いだろ」
「私が学生の頃は加味して考えていだが?」
「初恋相手とゴールインした人は言うことがちげぇわ……」
「まぁな」
「………」
半年前の俺にこの光景を見せてやりたいもんだ。
なぁ、圭一。お前は半年後には父親と和解して、恋バナして、恋愛相談して、進路について話し合って、惚気を聞かされて。その上、倉橋さんから告白されるんだぞ。なんて聞かされたら、当時の俺はどんな反応するのかな。
多分、信じて貰えないし、『倉橋さんキープしてんのかお前』って殴られるかな。それとも真っ白になって終わりかな。
倉橋さんを陽菜乃呼びしてるって知ったら絶対にテンパるだろうな。マジかよ、とか呟いてそのままフリーズだ。
「お前たちが殺せんせーを殺せたのなら、来年の春から私は本格的に海外で活動することになるだろう」
「……そうなのか?」
なんとなく、半年前からでは考えられない今の状況に思いを馳せていると、父さんがまたも神妙な顔で語り出す。
「かつて圭を……妻を救えなかった研究を再開しようと思う」
「へぇ。なんでまた」
何が飛び出すかと思えばこれまた意外な話題。
父さんは一度捨てたモノには執着しないタイプだとばかり。
「圭一。お前に感化されたからだ」
「……………ほぇ?」
理由を聞いてみたら、続けて飛び出る意外その2。
陽菜乃とのデートを経て、俺は何にもしてないつもりなんだけど〜みたいな無責任ムーブを止めようと思ったばかりだが、こればっかりはマジで心当たりがない。
こういう心当たりがないってのが無責任さの現れなのかな。
「覚えているかい?この前、お前が倒れた時。私は暗殺という危険の多い舞台から降りて欲しいと転校を持ち掛けた」
「……あ、そう言えばそんなことあったな」
言われて思い出す。あの辺の会話ならしっかり覚えている。父さんと言葉を交わすことが新鮮で、しっかり脳に焼き付いてる。
「お前は言った。"事件の渦中にいるのに放り出すのは無責任だ、俺はそんなことしたくない"と私に真っ直ぐに」
言った。確かにそんなことを言った覚えがある。
「あの時、私は自分が恥ずかしかった。元はと言えば私の研究だった。誇太郎に譲り、そこから派生したとはいえ、元々は私の研究だったと言うのに……政府から協力要請があった時、私は『なぜ自分が』と思ってしまった。全てアイツが勝手にやったことだろう?何故私が尻拭いを?なんて考えたよ」
自嘲するような父の言葉に俺はリアクションを返せなかった。彼の言葉に対して意外だ、と返せば良いのか、元々絶縁した家族の尻拭いなんて普通は嫌だろう、と同意すればいいのか。
「だが、お前の言葉でハッとした。始まりは私だったのに、何を他人事のように考えているのかと。子供の言葉に気付かされたよ。彼女を救えなくて投げ出した挙句、その研究が元となって地球が……子供の未来が奪われてしまう可能性が生まれた。父親として、科学者としてそれで良いのか?と考え直してみた」
「……そうか」
「あの研究で救える命だってあるかも知れない。だから、私は続ける。いつか本当に誰かの命を救えた時こそ、私は圭に胸を張って報告できる気がするんだ。やりきったぞ、と」
語る父の姿は、何処か将来を語る青年の様だった。
いや、きっとそうだったのだろう。
彼が何歳頃から母さんの為に動いていたのかはわからないが、少年だった頃に抱いた夢を、母さんを救えなくて挫折した夢を、それでも誰かの命を救えるのなら、と再び見つめたのだから。
中年と言っても良い年齢の父親が自分の夢に着いて語る姿を見ていると、将来の夢と言うのは大人になって終わるものではなく、大人になっても追い求めるのもなのかな、と思わされる。
「…………だが」
え、まだ続くのか?
良い感じに纏まりそうになった話だが、どうやらまだ続くらしい。口から出そうになった言葉を飲み込む。
「これまで蔑ろにしていたお前との親子の時間も大事にしたいとも思っている」
「………俺の為だったってのは理解してるし、そこまで、それも改めて思い詰めた考え方しなくても」
「それは私が言い訳に使って良い言葉ではないんだ。自分の過去、お前にしてしまったことを改めて考えて感じたんだ。多少貧しくとも、不自由であっても、私はもっとお前との時間を大切にするべきだったと」
言葉は口から出てくれなかった。
相変わらず手に持ったままの赤飯を眺める。
赤飯が祝い事の場で出されるのは、昔は米が高級だったことと、赤という色が邪を払うと信じられていたから、赤米を炊いて神様に備え、災を払い、魔除けを〜という願掛けだったとか。
俺自身、赤飯があまり好きじゃないのもある。だが、確かに高級なモノなんて食べられなくて良いから、一緒にいて欲しかったと思う部分もある。子供の贅沢な我儘だがな。
「さっき言った通り、お前は好きな進路を選んで良い。好きに選んだ道で人様に迷惑を掛けない程度に好きに生きて、できるなら長生きして、満足して笑って死んでくれること。それが私と圭の一番の希望であることは変わらない。だが、もし、お前が良いと言ってくれるなら、着いて来て欲しい」
「…………」
「無論、お前が日本に残るのならそれで良い。その時は私がこっちに残って研究を続けられる環境を整えるだけだ。だが、それでも私がお前に親らしいことをしてやれる時間はあまり残っていない。社会に出て一人前だと言うのなら、短く見積もると今から高校卒業までの3年と少しだけってことになる。もっと長くなっても歓迎だが、せめて高校卒業までの3年だけでもいい。一緒に暮らして、親らしいことをさせて欲しい。これまで寂しい想いをさせた分を取り返す機会をくれないだろうか」
親らしいこと、か。
それを言うなら、俺は子供らしいことをしたのかな。自分が無駄に悟ったフリをして『お父さんは忙しいから我儘はダメだ』とか良い子ちゃんしてなかったら。こうはならなかったんじゃないのかな。自分で言うのもアレだが、昔の俺は中途半端に賢かったし。何も父さんが悪いわけじゃないんだ。
「その姿勢だけでも充分親らしいことしてると思うぜ、父さん。ぶっちゃけ海外に行って〜とか即答出来ないけど、俺なりにもっと色々と悩んでみるよ。親子らしいことなら俺もしたいからさ」
「……そうか。良かった」
父さんは俺の答えを聞くと、安心した様に頷いた。
その姿にこちらも頷き、俺たちはようやく食事を始めた。
思えば、父さんと同じ食卓に着くのはこれで何回目なんだろうな。辛うじて両手では数えられないくらいだと思うが。
これから、こういう時間を増やせればな、と思った。
まぁ、同時に考えなきゃいけない重大事項が増えたなぁ〜と、多少なりとも気が重くなってしまった感は否め無いが。
あとがき
はい、あとがきです。
圭ちゃんと新ちゃんが同じ食卓を囲んでる珍しいシーンでした。もう番外編こみで130話以上やってるのに、父親と主人公の食事シーンがここに来て初めて出るという……。
察している人もいるかもですが、圭一の恋愛観が育っていないのは家庭環境にこそ要因があったり……。
さて、圭一の進路はどうなってしまうのか。
細かい部分へのツッコミは生温かく見てもらえると嬉しいです……!
それでは、今回はここまでと言うことで。
ご愛読ありがとうございます!