理事長と二代目の会話が難しすぎる……。
とりあえず投下しますのでお付き合いください……!
「ふむ。流石にあの烏間先生からの推薦なだけあるというべきか、それとも流石世界最高の殺し屋と言うべきか。服の上からでも分かる、よく鍛えられている」
「ほう、目の動きも素晴らしい。私の値踏みにドン引きしながらこちらの動きに合わせて体の向きを微調整している。常に私を正面に捉え、いつでも手を伸ばせる必殺の間合いを保っているね」
「素晴らしい。その一言に尽きる。見たところ服に妙な膨らみもないことから丸腰であることは間違い無いが、それはそれとして、腕を伸ばせる距離感ではあるのだが、些か遠い。間合いとしては半歩程度だが、半歩遠いと腕を伸ばした時に肘が伸び切る間合いだ。それでは隙が出来る。と、なると、本命は拳による打突ではなく…………飛び道具。例えば仕込み銃、とかだろうか」
何この人怖いんだけど……!?
これ新手の圧迫面接だよね!?なんで間合いの取り方から仕込み銃なんて発想に辿り着くんだよ、カタギが!!?
笑ってない、目が笑ってないよこの人!!
雰囲気はにこやか、声も明るい、なのに目がすわってるんだよ!そりゃ圭一も魔王呼びするよ!あの裏社会の猛者を高笑いしながら薙ぎ倒せるレベルになった子も怯えるよ!!
だってこの人、戦闘力とか殺意とかそういうのとは別ベクトルの化け物だもん!!
「そちらこそ……。そこらに飾ってあるトロフィーの一つ一つが大体の教師が人生で1度でも表彰されたら大成功と評されるレベルの賞ばかりだ。日本だけでなく、海外のものもあるようだ」
「……最近の殺し屋はそういった教育関係にも熱心ということですか」
「今の私もまがりなりにも教育者ですので。良い教師になろうと思えば、形から入るとなるとやはり表彰関係は調べる上で必ず通る道かと。わかりやすい指標ですからね」
「なるほど、教育熱心であると同時、勉強熱心というところですか。その情熱はいったいどこから出てくるのでしょう?」
観察するような視線が刺さる。なんというか、ジッと見られるというより、ねっとりと獲物を選定してるような感じだ。ハッキリ言えば居心地が悪い。それと同時に興味深くもあった。"先生"や僕とは違うタイプの教師と間近で接する機会だもの。
彼の過去はここにくる途中で調べた。この椚ヶ丘中学校がまだ彼の私塾であった頃、教え子の一期生に起こった悲劇。
一般的な人間なら、学校で子供になんて教えているのたろう?教育ってどんな感じなんだろう?と考えたら何を想像する?
単に国語や数学のような授業の内容じゃない。もっと道徳的な部分。人には優しくしなさい、困っていたら助けてあげなさい、暴力は良く無い、イジメは言語道断。一言で言えば、優しい良い人になりなさい。そんな教育を想像するだろう。
しかし、この学校は違う。他者を踏み躙ってでも立ち続けなさい、本当に人に優しくする余裕があるのか考えなさい、イジメる側になってでも生き残りなさい。良い人よりもまず、自分だけでも生き残れる強い人になりなさい。そんな印象だ。
「強いて言うなら、教え子に強くなって欲しいから。でしょうか」
「ほぅ」
僕には彼の気持ちはわからない。教え子を失ったことなんてないし、考えたくも無い。だから、そこに関して知ったようなことは言うべきでは無いだろう。
しかし、それはそれとして共感できる部分もある。僕だって同じ経験をしたら似たようなことを考えるかもしれないし、どちらか一方しか選べないなら圭一や雪村さんにはイジメられるくらいなら、イジメる側になって欲しいと思う。
優しさは他人を救う。だけど、自分を締め付ける。本当に優しい人たちで溢れるような世界であるのなら、気になったら助ける、助けてもらったから助ける、そんな持ちつ持たれつが生まれるだろう。
でも、残念ながらそうではない。優しさは利用され、気遣いは踏み躙られ、助けて助けられてというやりとりはある種のパイプにしかならなくて。そんな世界を僕は見てきたし、どちらかと言えば、僕は利用し、踏み躙る側だった。
だから、彼の教えには一定共感できる。
「では、死神さん。あなたの思う強さとは?」
「下地、です」
「下地。なぜそう思うのか質問よろしいですか?」
でも、強さとは手段であって目的じゃない。
目的になったとしても、それは小目標だ。大きな目標を目指す上で経由する数多い中間地点にすぎない。
「生徒に何をして欲しいのか。将来的にどうなって欲しいのか。正直、その辺について私たちが口出ししても意味はありません。最終的に選ぶのは生徒です。なら、我々にできることがあるなら、生徒が選べる選択肢を増やしてやることではないでしょうか?」
「生徒たちが自分の選択肢を広げるために必要なチカラ。それが強さだと仰るのですね」
「えぇ。もちろん、強くなることを目標にする人を否定はしません。例えば武力。世の武術家たちはそう言った人種が多いのも事実です。でも、僕は強いから武術家を目指しなさいというより、それだけ強いなら人を守れる道もある、と警察官や自衛官、ボディーガードとか、そういう道も示した上で彼らに好きな道を選んで欲しい」
「……なるほど、学力と武力と思考力。そのどれもが末尾にチカラという文字が入る。力を表現する言葉は、強い、あるいは弱い。これら3つは物事を判断したり、選ぶ上では重要な要素だ。それを育むというのなら、それは確かに下地と言えるでしょう」
やはりここでも脳裏をよぎるのは教え子1号だ。
我ながら、あの子はよく育ったと思う。その気になれば他人を踏み躙れる程に強く、裏社会にも人脈は伸び、かと言って横暴であることもなく、周りを見下しているわけでも無い。
もし、本当にもしもの話だが。圭一が将来的に取り返しのつかないことをしでかしたとしたら、それをやれるだけのチカラを与えてしまった者として責任を取らなければならないかもしれない。けど、その取り返しのつかないことをやらかすのにもやはり、強さという下地は必要な訳だ。
そして、その下地をどんな風に使うのか、その方向性を示して育んでいくのが教師の仕事なんじゃないかと思う。
「今年のE組の教師は豊作だ。今どき、そこまで考えて生徒と接することができる者はそういないでしょう」
「………試験は合格、と言うことでしょうか?」
「えぇ。よろしくお願いします」
その一言にふぅ、と息が漏れた。
疲れた、と言うより怖かった。
この人の視線は確かに僕の体付きや身だしなみに向けられていたが、本質はずっと目の奥へ向けられていた。
その眼力が鋭くなったのは、やはり強さの定義についての話題だった。彼にとって強さとはそれほどまでに大切なことなんだろう。
「雪村先生、殺せんせー、烏間先生、そしてあなた。今年のE組は本当に教師に恵まれている」
「結果的にそれだけの人材が集まったのは、それこそ理事長先生の用意した下地があったからこそでは?」
「さて……どうでしょう」
彼は窓の外へと目を向けて深いため息をついた。
「少し愚痴を聞いていただけますか」
「はい」
「私は、働きアリの法則を応用した教育をこの学校で敷いています。働き者と怠け者、E組には怠け者という役を与え、徹底的に差別させることで働き者に優越感を与え、自らの地位を維持するモチベーションに繋げる目的です。現に、この方法で我が校の偏差値は全国でもトップを維持している」
「……合理的な方法だとは思います」
「そうでしょう。凡ゆる自体は事前に想定したのですから。これまで大事に至るようなこともなく、この学校は経営できていた。精々の予想外があるのなら、暗殺を始めとした明らかな非日常が舞い込んできた程度です」
「………耳が痛い」
「責めているわけではありません。私が言いたいのは、そうして入ってきた暗殺に関する要素が生徒を育てる上で優秀なファクターであることが多い点なのです」
「………今年のE組教師は豊作。そういう意味ですか」
「理解が早くて助かります」
彼は懐からお茶菓子を取り出すと、僕に手渡して勧めつつ、自らの口にも無造作に放り込んで、お菓子と交換するように自らの内側に溜まっていた愚痴を口から吐き出した。
「ある程度、意識した人事とは言え……我が校の教師陣の質がね」
「質……」
「これはこの学校の頭である私の責任でもあるのですが……。生徒に危機感を持たせる為、教師陣にもE組には相応の扱いをするように指示を出しているとは言え、大人が中学生を見下して本気で優越感に浸っている姿は中々に見苦しいものです」
それは確かに言えるかもしれない。
実際にこの目で見たわけでは無いので悪様に言えないけれど、圭一から聞いた話だとかなり悪質だ。
「あなた方の爪の垢でも煎じて飲ませたいものです」
「それは……」
「本当に他愛のない愚痴ですのでお気になさらず」
話してみて、なんとなく伝わってくる。
この人に対して感じた、ある種の化け物を見る感覚。
浅野學峯。この学校の長であり、間違いなく日本どころか世界規模で見てもトップレベルで優秀な教育者。
1を聞いて10を知る天才でありながら、そのまま無量大数を見上げ、まずは100を目指す秀才であり、その道程から学び、後進を導く指導者。なんとなく、そう見える。
人を指導する方法には、2種類あるらしい。
自身の経験から教え子に伝えるティーチング。
自身と教え子のフィードバックを伝え合って生徒にあった力と分野を伸ばしていくコーチング。
学校の先生が教室でやっているのはティーチング。
個人授業が売りの塾でやってるのがコーチング。
E組の生徒の成績の伸びがいいのは、殺せんせーによる授業によるティーチングのあとで個人にあった問題を作り、話し合いながら教育をするコーチングの2つの手法で弱点を補い合っているからなのだろう。
この浅野學峯という男の恐ろしい部分は、ティーチングをしながらコーチングと同等の成果を出している部分だ。
確かに限界はある。故に、A〜Eの間には成績である程度の格差がある。それでも、従来のE組ですら、全国レベルでみたらレベルは高い部類なのだ。それを仕組みだけで達成してしまうとは。仕組みによる効率化は企業間でも重視され始めている分野だ。先見の明もあると。
僕の彼に対するある種の恐ろしさは、"先生"に抱いたものに似ている。おそらく、教育者という土俵で遥かに格上だと理解しているからこその得体の知れなさをそのように感じていたのかも知れない。多分ね。
ただ、僕が思うに、この人の目指す教育の果てにあるというか、根元にあるのは強さは力強いという意味ではなく、強靭な生徒というニュアンスに近いような気がする。
他人を踏み躙ってでも生き残る、いじめる側に回ってでも生きる。どちらにも共通なのは、生き残るという目的。確かに他者を足場にするのにも、いじめるのにも強さは必要だ。そう言う意味で、強さも根元にあるかもしれない。でも、同時に生き残るという目的にはしぶとさ、つまりは強靭さが必要だ。
なら、言い方を変えよう。浅野學峯という教師の教育の根本にあるのは、共存している強さと強靭さだ。
どんな場面でも生き残れる強さと強靭さを持ち合わせた生徒を育てる。それこそ、彼の過去から現在まで調べて今、会話した僕の思う彼が根幹として願っている生徒への想いだろう。
はたして、本人はそれに気付いているのか。
いや、僕が言うべきことではないか。すくなくとも、これらは僕が勝手に考えて勝手に察したことにすぎない。出会って間もない者の口から聞いても、軽い綺麗事にしか聞こえないだろう。
「さて、何はともあれ、これからよろしくお願いします。名前は……流石に死神というのもね」
「では、七志乃で」
「…………………よもや、ななしのごんべいと?」
「生憎、名乗れる名前はとうに捨てましたので」
「……………なるほど。こうして話してみると、確かにあなたは裏世界で生きた人間なのですね。朗らかな笑み、思わず共感したくなる優しい口調。この短い時間でも、思わず忘れてしまいましたよ」
「光栄です」
理事長から手を差し伸べられたので、握り返す。
目指している場所や、考えは違えど同じ教育者としては尊敬できる人物であるに違いないだろう。
こうして僕はE組の非常勤講師に就任したのだった。