加えてたくさんの高評価、感想ありがとうございます!
今回も投下しますのでお付き合いください……!
「全く……僕だって暇じゃないんだぞ。学園祭の準備とか、次期生徒会への引き継ぎ資料の作成とか、積みゲーの消化、積読の解消、父さんを飼い慣らす為の下準備などなど。分かってるのか」
クドクドと文句を垂れる学秀。今日は例の烏間先生考案の暗殺作戦の決行日である。
一応事前に連絡した上、コイツからもLINEの中に初期から入ってるスタンプで『オッケー!』と返事が来たのに加え、特別サービスで態々魔王城のと言う名の浅野家へ迎えまで行ってニッコニコのコイツをE組の校舎へ引っ張ってきた。
「めちゃめちゃウッキウキで烏間先生から手渡されたばっかりの超体育着を眺めてる奴に言われても……」
「つか、中盤から後半の内容につっこむべき?」
全員苦笑する中で当の学秀本人と言えば『うわっ、これ強化繊維だよな』とか『殴ると硬くなるこれってダイラタンシーか?この薄さ、動きやすさ、軽さで良く実用化できたな……』と、かなりのハイテンションで呟いてる。
早速着替えて、俺たちの前に戻ってくると飛んだり跳ねたりして国というか、世界最先端の特殊装備を堪能していた。
それをしばらく繰り返すと、満足したのかいつのも澄まし顔を浮かべて俺たちを見渡し、何かに気が付いたらしい。
「圭一。お前のだけ少し違くないか?」
「コイツのは専用装備なんだよ。スタンダードモデルと個人に合わせた特化モデル。どれを重視するべきかってことで、一番能力が高くて全部の分野でトップレベルの圭一に状況に応じてカスタムできるタイプが渡されてるんだ」
「なるほど。確かに個人特化より標準的なタイプの方が安価で済むだろうしな。専用装備を今後の標準にするなら、現在のスタンダードなモデルより圧倒的に優れた結果を出す必要があると。なら、能力が高い奴にモニターさせるのは当然か」
「そゆこと。まぁ、実際俺たちも専用装備は羨ましいなって思うけど、実際使ってると俺たちの標準型でも性能は充分すぎるし、自分が使いやすい武器とか装備するだけで能力を引き出すのも事足りるって最近の訓練で考え始めてるわ」
「だよなぁ」
みんなの視線をドヤ顔しながら受け止める。
前原に小突かれ、杉野に脇腹を刺され、吉田に踏まれたが、"専用装備"のおかげで痛くも痒くもないのである。ガハハ!
「んで?圭一はその装備になってから結果を出せてるのか?あのタコ、今だにピンピンしている様に見えるが」
痛い質問に肩を縮こませながら、みんなで殺せんせーを見た。作戦開始前であるにも関わらず余裕そうに顔を緑の縞々にして高笑いしている。その上、烏間先生を見つけると『烏間先生〜!今後も暗殺付き合いますから、私が生き残ったらケーキ奢ってくださいよ〜!』と元気に絡んでいる。
「……ふっふっふ………」
「あっこら。本人が一番気にしてるんだからやめたれよ」
「けどまぁ、確かに最近は前みたいな乃咲の暗殺見ないよな。みんなを誘って合同暗殺とか、殺せんせーを呼び出して決闘みたいな暗殺したりとか。ちょくちょく銃撃したりしてるのは見てるけどさ。決定的な暗殺は仕掛けなくなったよな」
「…………ちょっと考えてることがあるんだよ。まだ時期じゃない。その時が来たら殺しに行くから」
「計画はしてるのか。なんか手伝うか?」
「そうだなぁ。菅谷がメヘンディアートした時のこと覚えてるか?みんなの腕やらビッチ先生の肌が阿鼻叫喚になったアレ」
「あったなぁ……」
「あん時、菅谷のアイディアを見て対先生粉末って発想に思い至ったんだけどさ。結構な有効打になりそうだから、あれが欲しい。だから、対先生弾を擦り砕く作業を頼みたい。空いてる時間でいいから、気が向いた時にでも」
「また砂のリングでデスマッチか?」
「似た様なもん」
「おっけ、任せろ。他の暗殺にも使えるかもしんねぇし、菅谷に聞きながらやってみるわ」
「ありがと、前原」
「いいってことよ」
先生の殺害。今回、こうして学秀を連れてきたのも、俺たちが厳しい訓練を受けているのも、全てはその為だ。
「慣れないもんだな。友人が暗殺云々を語ってるのは」
「俺たちも最初はそうだったよ」
ぼんやりと呟く学秀に重ねて頷く。
暗殺だとか、地球滅亡だとか。フィクションの中かあるいは遠い過去、遠い場所での出来事だと思っていた頃が懐かしい。
「よし、定刻だ。皆、注目!!」
烏間先生からの号令に俺たちは傾聴した。
軍隊さながらの集団行動に学秀は呆気に取られた様にポカンとした表情を浮かべるが、郷に入って郷に従うことにしたのか、俺たちの真似をするみたいに烏間先生へ身体を向ける。
「これより、超生物撹乱作戦を開始する。作戦は先日話した通りだ。各々、持参したモノを適当な相手に配り、受け取ったら身につけろ。チームの編成は普段通り。浅野くんには磯貝くんのチームに入って貰う。乃咲くん、キミはワンマンアーミーとしてその時々や先々によって自分の思う最適な行動を取ってくれ」
「はいっ!」
「よし、それでは各位散開!作戦時間は10分、それまでに奴を殺せれば我々の勝利、殺せなければ超生物のケーキ代として俺の財布が薄くなる!頼んだぞ!」
「「「「了解です!!」」」」
俺たちは言われた通り、持ってきた秘密兵器というか、"お守り"というか。それを交換し合って作戦予定地に潜伏する。
5分後。烏間先生の合図と共に殺せんせーが俺たちの潜むエリアに入る。俺たちの暗殺と烏間先生から提示されたケーキバイキングという2段構えによって今回も殺されに来てくれた。
さて、俺は俺で自分の思う最適な行動を取ろう。
ワンマンアーミー。以前、体育祭の時に言い渡された俺の新しい役割。烏間先生の作戦下にありながら、作戦指揮の外に置かれた俺だけの俺1人の部隊。自分で考え、自分で動く。それを任せてくれた烏間先生の期待に応えられる様に。
「臭いによる撹乱?」
「そう、殺せんせーの嗅覚は鋭い。遠くからでも臭いで相手を嗅ぎ分けられたり、お前も参加したプリン爆殺の時みたいに匂いで品種を探したりとかな。それを逆手に取ろうってわけだ」
前原から今回の作戦の概要を聞く。
渡されたアサルトライフルのエアガンは持ち慣れない所為か、手の座りが悪い。この超体育着って奴も凄くてその上に肌寒いこの時期でも外気が気にならない程度に快適だが、いかんせん、軽すぎて服を着てるか思わず不安になる。
しかし、今回はそれだけじゃない。前原の着古しのジャケットやら、寺坂のシャツの切れ端やらをリボンの様に腕に巻いていた。恐らくはこれも臭い撹乱の布石なんだろうが。
「流石にバレるんじゃないか?服の切れ端と僕らの体臭では流石に体臭の方が強いだろう?」
「それを誤魔化す為に女子が使ってる香水とか使ったり、複数人の古着の残骸を身体に巻いてんの。俺たちが見つけた一瞬のスキなんて殺せんせーにとっては屁でもないんだろうけどさ、でも、俺たちはその一瞬に賭けるしかねぇんだからさ」
語る前原と真剣に頷く磯貝。素人目にも分かる特殊装備を身につけ、アサルトライフルをいつでも打てる位置に構える彼らをこうしてみると、本当に殺し屋とか訓練された特殊部隊なのだと実感させられる貫禄があった。
一言で表すなら、様になってるって奴だな。
『みんな、提案あんだけど』
「どうしたカルマ」
『折角臭いで個人を特定できない様に工夫したんだからさ、他部隊との連絡要員を1人だけ作って、そいつ以外はハンドサインで意思疎通しよう。姿を視認するまで誰か分からない状況を作る。原則、声を出すのは各部隊の連絡要員と乃咲クンだけ』
『こっちは異議無しだ。あっ、でも学秀は俺たちと連携取り慣れてないから、最後尾にはしないでおこう。前原、後ろからフォローしてやってくれ。前原と学秀もさっきのハンドサインルールからは除外な。保険でいざって時は律に連絡を頼もう』
「おっけー!」
『はいっ、お任せください!』
「だ、そうだけどお前はそれでいいか?」
「………僕は構わない。暗殺に関しては素人だ。キミらの指示に従うよ。基本、磯貝たちに追従し、みんなが射撃を始めたら精密に狙うのではなく、賑やかす様に乱射でいいか?」
「それで問題ない。じゃ、任せたぞ、浅野」
「圭一、カルマ。こっちは問題ない」
『了解。最後に乃咲クンは今回、どう動くつもり?』
『チャンスがあれば刺しに行くが、それは殺せんせーも警戒してるだろうし、フェイント掛けながらサポートに回る。俺が動く様に見せれば、それだけで抑止力になるだろ。それにちょっと試したいことがあるんだ。みんなはいつも通り、射撃する時はバイザーを忘れないでくれ。ちょっと危ないかも知れない』
『だ、そうだけどみんなは良い?』
『こっちは異議なし』
『僕らもだ』
『俺らも問題ねぇよ』
『私らも大丈夫』
「俺らも平気だ。圭一に任せるよ』
『だってさ』
『まかせてくれ。警戒しなきゃいけないのは何も近接攻撃だけじゃないっての見せてやる』
超体育着に備え付けられた通信機から聞こえる圭一の声。
自信あり気に語る圭一とそれに対して否定的な意見や言葉が出ないのはアイツが信頼されてる証か。
しかし、妙だ。どいつもこいつも、圭一が必ず何かをすると信じている様なリアクションばかりだ。
そもそも、部隊編成は5〜6小隊なのに、なんでアイツだけワンマンアーミーなんて立ち回りなんだ?
というか、そもそも。巨大プリンの時に見たあのスピードに人間が攻撃を当てられるものなのか?まぐれ当たりがあったとしても、そんなのが発生するならとっくに殺せんせーと呼ばれるあのタコは死んでるんじゃないのか?
謎は深まるばかりだ。
もともと、圭一があそこまで躍進できた理由を探る目的から始まったが、結局、圭一単体に対する謎に戻って来たぞ。
「俺たちの連絡係は片岡に頼めるか?」
「うん、大丈夫よ」
僕らの連絡係が決まった所で無線が入る。
『よし、時間だ。それでは暗殺……初め!』
烏間とか言う明らかに父さんと同等以上な体育教師の宣言と共に、何が凄まじい速度で僕らの頭上を通過した。
開始の合図がある暗殺とはこれ如何に。とか考える暇すらない。通過した何者かの正体などとっくに理解している暗殺者たちが、ソニックムーブで木の葉が散っていく方向に走り出す。
「ほら、行くぞ浅野!」
「あ、あぁ」
駆け出した前原に背を押されて走り出す。
が、駆け出した僕が見たのはこれまた呆気に取られる光景だった。何故なら、岡野と木村が跳んでいたからだ。
スタントマン、鳶職人、忍者。その動きを表現する言葉なら沢山あるだろう。しかし、自分と同い年の中学生の動きとはとても思えなかった。明らかに常人離れしてる。
「あれは……フリーランニングか?」
「あぁ。前回のテストのちょっと前に教えてもらったんだ。烏間先生直伝だぜ?」
「となると、パルクールと言った方がいいのか」
「……なんか違いあるか?」
「基本的には同じだが、フリーランニングはストリートの謂わゆる映え重視、パルクールは元々軍などで教えていた効率重視の動きらしい。以前、付き合いでフリーランニングの練習場に行った時に気になって調べたんだ」
「お前も相当手広くやってるよな……。でも、今回、フリーランニングは禁止な?お前なら沙汰なくやれるだろうけど、流石になんかあったら危ないからさ」
「流石に弁えてる」
弁えてはいるが……。こうも目の前で繰り返されるしなやかな身のこなしを見ていると、思わず自分と比べたくなる。
僕は負けず嫌いだと思う。圭一に絡むのだって、自分に並べる貴重な相手と言うのもあるが、そういう切磋琢磨に憧れの様なものがある。それは否定しようのない事実だ。
「……んでも、悔しいけど、今のお前の定義だと、やっぱり俺らのはフリーランニング止まりかもな」
「そうか?素人目だが、プロ顔負けだと思うが」
「ほら、あそこ見てみろ。烏間先生いるだろ」
走りながら指差された部分を見ると、そこには迷彩服を着込んだ烏間教諭がいた。木から木へ。枝のしなり、次に飛ぶ先の枝の位置。それらを把握しながら一切減速することなく、むしろどんどん加速している様に見えるその動きは圧巻だった。
「なんだろ。俺らのフリーランニングが立体移動なら、烏間先生のはパルクールで立体機動って感じかも」
「確かにあれは別格だな」
納得せざるを得なかった。悔しいことに、友達とやった程度の僕の技術はこの教室では児戯に等しい。
3年E組。うちの学校で落ちこぼれだの不良品だのと蔑まれる彼らではあるが、今年の彼らはやっぱり例年とは違う。
この特殊な環境に身を置いているから、というのはもちろん見逃せない事実だが、発想や行動力など明らかに人並み以上の能力を持ってる。浅野學峯という我が父ながら世界で見ても最高峰の教師の目指すモデルケースとして育てられた僕だが、父から教わった強さと彼らの強さはベクトルが違う様に思う。
勉強を始めとした知識や教養で彼らに負けるつもりはない。しかし、それ以外の強みで彼らに勝てるだろうか?
圭一は良い例だ。勉強という分野では僕に比肩している。前回も前々回も総合点自体は同点で、100点の数は僕が多い。しかし、アイツの方がほんの僅かに点数が良い教科があったのも事実だ。その証拠に僕が1位ではない教科もある。
赤羽だって似た様なもんだ。今のところ、テストの順位では僕より下だが、それでもA組の生徒を押し退けて2位。1位が2人だから3位という見方もできるが、それでも僕らの次に点数が高い。五英傑を退けてその順位なのは見過ごせない。
そんな勉強、教養という意味で僕と接戦をしている彼らだが、この教室においては彼らの方が圧倒的に成績が高いだろう。
最高速度がマッハ20。実際に攻撃を当てた時はそんな速度ではないのだろうが、それでも真っ向からダメージを与えたのはこの2人だけ。今、僕が見た人外染みた動きをする体育教師も、プロのフリーランナーも顔負けの身のこなしをする2人の同級生も、奇想天外な発想の暗殺作戦を考える者ですら、それが出来ていないと言う事実に驚嘆する。
理事長の……父さんの言う強さも理解できる。
事実、社会に出た時に自分の身を守り、周囲を導くという考え方なら僕が体現する、あの人の教育によるモデルケースとしての在り方は間違っていないと思う。
だが、この教室に触れてみて、それだけが強さではないのではないかと思い始めている自分がいることも否定できなかった。
『殺せんせー発見!岡島の設置したエロ本トラップに墜落!』
『よし!カルマと中村が持ってた殺せんせーの恥ずかしい写真を上からばら撒け!!精神攻撃を仕掛ける!』
「……………」
本当にこれも強さなのか……?
いや、
彼らに対する評価を改めたのに、再度、彼らの評価を改める必要性をなんとなく感じてしまう。
そのまま走り続けると、前方を行っていた岡野と木村が木の上で止まって振り返る、僕らにハンドサインを見せた。この先の開けた場所を指差して。
「この先に殺せんせーがいるらしい」
「流石に今のはわかった」
僕にもわかる様に補足する前原に頷いた。
超体育着に装備されてた望遠鏡を覗くと、確かにそこにはカブトムシの様なコスプレをして、顔をピンクに染めたうすらデカいタコが無数に散乱するエロ本の上に鎮座していた。
その直後、彼の上から無数の紙が舞い落ちる。
ひらひらと、花びらの様に落ちるその紙は写真だった。その中の一枚がたまたま目に入ったが、そこには妙にヒラヒラした女物の服を着て何かの行列に並ぶ直立したタコの姿が。
「うわ……」
「お前もそんなら声出すんだな……」
思わず出たドン引きする声に前原が苦笑する。
流石に引くぞ、僕でも。
「いや、あれをみて初見で引かない奴はいないだろ」
そんな時、僕の後ろから声が聞こえた。
僕の後ろにいた前原は隣にいるし、そう考えると、後ろに誰かがいるはずもなく、ましている気配なんて微塵もなかった。
思わず肩が跳ねそうになるのを抑えて振り返ると、しっかりフードを被り、顔を隠した男がいた。
男がいた、なんて抽象的な表現なのは背格好的にもそうだし、装備も男子用の物だったからだ。それでも、声からなんとなく、圭一であることは分かるのに、何故だか、そこにいるのが僕の知る乃咲圭一ではない様に思えてしまった。
「圭一だよな……?」
「そうだけど……。俺が陽菜乃にでも見えたか?」
戯けたように語るその男は確かに圭一だ。
しかし、異様なのはその気配だ。さっきまで声をかけられるまで気付かなかったと言うのに、気付いた今は目を離せない。自然と目がそこへ誘導される。ブラックホールのような、漫画で表現するなら圭一に向けて伸びる無数の集中線が見えるような、そんな異様な気配。殺気だってるって訳でもない。怒ってるって訳でもない。しかし、実態が微妙に掴めない。
なんと言うか、格が違う。
これまでこのクラスの奴らが見せてきた暗殺者としての一面は確かに驚きだった。特殊部隊、精鋭部隊、暗殺集団。そんな言葉が似合うようなコイツらの中でも一線を画しているように見える。圭一はこの1年で何者になろうとしているのだろう?
そんな疑問が脳裏を過ぎる中、圭一の口から名前が出た少女が嬉しそうに彼に振り向く。
倉橋陽菜乃。もともと性格もよく、容姿も優れていたことで本校舎にいた頃は〇〇狙いなんだろ?とか、〇〇って良いよなぁという男子の会話ではよく名前が上がっていた人物だ。
そんな人物が圭一に名前を呼ばれて嬉しそうに振り返って笑顔を向け、名前を呼んだ圭一もそう言えば彼女を下の名前で呼んでるし、何より、笑顔を向けられたと同時に纏っていた異質な気配を霧散させて不器用ながらも優しげな薄い笑みを浮かべた。
……まさか、この2人………?
いや、まさかな……。
「……学秀?」
「……なんでもない。お前も随分と殺し屋というか、特殊部隊然とした雰囲気が様になってるなと感心していた」
「そら自衛隊の第一空挺団の中でも更にトップの評価だった精鋭の烏間先生に鍛えられてるからな」
親友からのそんな回答に思わず納得した。
もともと、やる気があれば高いパフォーマンスが発揮できる上に、よっぽどじゃなければ一度始めたことは愚直に極めるタイプだった。例えばゲームなんかが分かりやすい。僕が提案した、コイツが初めてやるゲームの手つきはかなりおっかなびっくりって感じだな、逆に圭一から提案されて一緒にやるゲームに関しては手つきがえげつないし、手も足も出ないことはざらにある。
僕が見てきた、ライバルの乃咲圭一の1年の頃の能力値で高かったのは、勉強もさることながら、一番尖っていたのは、頭の回転の早さとその運動神経、身体能力だろう。
暗殺における圭一は、やる気があるから高いパフォーマンスが発揮できてるし、そもそもが能力の高い分野であり、なおかつ一度始めたら愚直に極める本人の性質も相まって、僕では想定出来ないような能力の向上が果たされているのかもしれない。
「それじゃあ、俺はもう行くな。できるだけ殺せんせーをあそこに留めて置くから、みんな作戦を意識して入れ替わりながら弾幕を張り続けてくれ。烏間先生、問題ないですか?」
『大丈夫だ。射手のシャッフルはこちらから指示する。それではメインプラン始動!』
「「「『『了解っ!』』」」」
返答と同時、圭一が飛び出した。
特に助走を付けることもなく、充分に加速するでもなく、力強く前に出した右脚で地面を蹴り抜き、跳躍しながら前方へ。
木村や烏間教諭の動きが焼きついたこの瞳すら置き去りにして、圭一は目にも止まらない速度で木々を縫うように駆けた。
「……なんだ……?あの動きは……?」
僕らの視界で見たら地面から斜め上へ跳んだ圭一は、そのまま木の幹を蹴ると、跳躍中に体勢を変えた。頭の向きは空ではなく、地面と平行になるように傾き、正面ではなく、彼が蹴った木から見て斜め前の木の幹へ跳躍し、同じように体勢を変えると今度は頭の向きを反対方向へ。
重力に逆らい、地面と平行になるように壁を走るみたいに、狭い空間で跳弾を繰り返しながら進む弾丸の様に、僕の友人は森の中を駆け抜けた。重力も足場もまるで何の縛りにもなっていないかの様に。空を駆ける稲妻みたいに。
「驚くのも無理ないよな……」
呟く前原に僕は頷いた。
「お前たちのが地形を選ばない
「マニューバーって……確か戦闘機とかが取る戦術的な機動だっけか。まぁ、確かにな。言えてる」
「……あの動き、他にもできる奴は?」
「流石にいねぇ。みんな訓練に全力だし、真剣に取り組んでるけど、アイツが一番シビアでストイックだよ。他にも色々あるけどその分だけ実力も高い。前に烏間先生が呟いてたんだけどさ、第一空挺団にいた頃にやってた頃と殆ど同じ内容の訓練までやらせてしまってるって。そら本職みたいにずっと訓練って訳じゃないけどさ。でもやっぱり乃咲はうちらの中でも精鋭だよ」
「どうりで……」
補足説明に納得した。
それと同時に思い出されるのは体育祭の棒倒しだ。
体格も重さも一回りは違う相手を4人も同時に相手をして完封していた圭一の動き。確かにそう言うことなら納得だ。
A組の生徒としてこう思うのは裏切りかも知れないが、成長できる環境という意味で、このE組以上の場所はこの学校にありはしないんだろうな、と彼らを見ていて思ってしまった。
「………ヌルフフフフ」
エロ本に塗れ、カルマくんたちにばら撒かれる恥ずかしい写真を回収しながらほくそ笑む。
彼らの作戦は極力聴かないようにしていたが、こうしてあからさまに私を呼ぶ為のトラップに引っかかって様子を見ていると子供達と烏間先生が何を狙っているのか凡そ理解できた。
こちらの嗅覚の鋭さを逆手に取り、射手を特定させない様に臭いで撹乱し、制圧射撃で私を殺すつもりなのだろう。
悪い手ではない。むしろこちらの習性を活かした素晴らしい作戦だ。加えて単純に衣服の交換に留めていないのだろう。複数の場所から同じ臭いがする。恐らくは古着の類をシャッフルして身につけることで、同じ臭いが複数箇所から発生している状況を作り出し、とっさの判断を鈍らせようとしている。
生徒たちは優秀に育った。しかし、分野ごとに警戒度を上げるべき対象にはやはり優先順位がある。
今回の様に射撃を主軸にした作戦なら、速水さん、千葉くん。それから乃咲くん、カルマくん、磯貝くん、片岡さんなどの面子だろう。特に乃咲くんはそのスペックの高さ、カルマくんは作戦立案能力をもって、各所の能力の底上げなどで警戒するべきポイントを増やしてくるのが厄介だ。
カルマくんは私の写真をできるだけばら撒く為に高所にいる。木の上からこちらをおちょくる為に写真を投げている……に見せかけて、実際は、一番高い位置から私やこの広間を取り囲む様に配置された生徒たちを俯瞰できる位置を取っていた。
一緒になって投げている中村さんも侮れない。彼女自身、暗殺で目立つことは少ないが、その基礎能力の高さは生徒たちの中でも上位だ。イタズラっ子2人組として揃って悪巧みしてる場面が多いことから、カルマくんと一緒になって写真投げに参加していても違和感はない。
カルマくんが上から烏間先生たちに情報を送りつつ、中村さんは補佐をすると言う動きができる布陣を自然に作り出している。彼らの動向にも気をつけなければなりませんね。
考えながら気配を探る。本当に囲まれているし、あちこちから同じ人物の臭いがする。臭いの発生源である本人の臭いの方が確かに強いが、それでもこれだけ入り乱れ、香水の臭いとかがしていると1発での判断は難しいところだろう。
しかし————。
「キミは分かりやすいですね、乃咲くん」
突出した速度で近付いてくる気配が一つ。ゾーンを使っているのなら遅く感じるし、普通に走るには速すぎる。木の枝が揺れる音からして烏間先生に習ってからずっと練習していたフリーランニングを存分に駆使していることでしょうと振り返る。
そして、絶叫した。
「にゅやぁっ!!?なんですか、その出鱈目な機動!?」
私の目が捉えたのは、地面に対して平行な体勢で木の枝ではなく、幹を足場に猛スピードで接近してくる教え子の姿だった。
揺れる銀髪、彼の握った両手のハンドガンから放たれる対先生弾を立体機動の速度で追い抜き、流れる様に弾幕を形成する。
重力を無視している様に見える、木の幹を足場にした八艘跳び。そこから繰り出される無数の弾丸。こんな戦術、
「追いかけ回してくる
「仮想敵が
私の目の前まで迫った乃咲くんは、そのまま得意の格闘戦に持ち込むことなく、そのまま跳躍した。私を飛び越える様に軽々3mは飛び上がると、ピンク色の雨を降らせながら通り過ぎ、再び木々の間に飛び込むと、例の変態的な機動に戻り、目にも止まらない速度で私を囲む様に跳び続ける。
「対先生弾!?」
落下してくるBB弾を避ける。
これまで、頭上から対先生弾で狙われたことはない。だが、実は当たるかはさておき、当たった時の威力は上から降ってくる方が高い。確かに頭の中心や彼らが知っているか分からないが、このネクタイの穴を狙えれば私を殺すことは出来るだろう。だが、頭上から狙えば、触れれば私の細胞を破壊するBB弾の性質も相まって、頭と心臓を同時に狙うことができる。
利点はそれだけじゃない。上から腕を破壊できれば、そのまま足も破壊できる可能性があるし、仮に攻撃が外れても、弾は私の足元にばら撒かれた状態となり、踏めばダメージを受ける足跡のフィールドに変わってしまう。
対先生弾の特性を熟知し、活かし切った戦術だ。
「にゅ……!」
上から降ってくる何かの気配を察知して身を逸らすと、再び対先生弾が降ってくる。パラパラと投げすぎない程度に、しかし、私の頭上を封じるには充分なくらいに。
乃咲くんではない。彼はまだこちらに来ていない。となると、残るのは上にいるあの2人。
そういえばいつの間にか写真は止んでいる。となると、乃咲くんが飛び出した辺りで既に散布を止め、中村さんあたりが乃咲くんの動きを観察。カルマくんがその意図を察して援護を始めたと言ったところか。
出会って間も無かった頃、場所も手段も問わない狙い方をしていたカルマくんがこうして誰かの援護をしているという状況には教師として喜びを禁じ得ないところではありますが、生き物として喜べない状況かもしれませんね。何せ、攻撃はまだまだ始まったばかりなのですから。
考えていると射撃が来る。
上からは落下してくる弾、前後左右からは射撃、足元には落ちている弾。見事に360度を包囲されている。
特に、地面からの攻撃はないと思っていたが、こうして不発に終わった攻撃を踏んだら足が破壊されるトラップにしてしまうのは無駄も隙もあったものではないと感じる。
加えて射撃も問題だ。
生徒たちの腕も上がっているが、何より臭いの撹乱が私の想像以上に厄介だ。何処からも似た様な臭いがするし、距離感的にも速水さん、千葉くんレベルの射撃技術が必須ではない点で射撃能力からの予測と臭いを併用した位置も難しい。
そしてこちらを狙う射撃は正確には私を狙っていない。私の方に撃ってるだけで、当てようとはしていない。
この状況には覚えがある。私がかつて過去最大レベルで追い詰められた、普久間島での暗殺。あれを踏襲している。
水圧の檻はないが、代わりに上下前後左右から触れたらダメージを受ける攻撃で私の退路を絶っている。
水なら触れれば少し機動力が落ちる程度だが、触手が壊された時の能力の減少はその比ではない。
万が一、カルマくんたちによる上からの攻撃を避けて上空に逃げようとしても、私が逃げる以上の速さで乃咲くんが強襲してくるだろう。彼の全力に耐えられる武器がない以上、一撃で殺されることはないだろうが、その時は私を掴み、対先生弾の散乱するあの地面に叩きつければ良い話だ。
完全防御形態も選択肢に入れられるが、これもタイミングによっては乃咲くんに無力化され、殺されるだろう。私と彼では反応速度は比較にならないほどに差があり、そして能力が高いのは彼であり、その最高速度は私をも凌駕しているのだから。
……打つ手はある。しかし、状況だけで見れば詰みに近い状況だ。臭いという面では嗅ぎ慣れない浅野くんのものが絶妙に判別の難易度を上げているし、どういう手品なのか、不思議なことにそこら中で臭いが増えて行っている。
射撃の合間を見て、さっきまで臭いが無かった場所へ視線を向けると、そこには木の枝に巻き付けられた色とりどりの古着があった。おそらく、機動力の高い子たちの仕業だろう。
明らかに木の上にあったり、生徒たちの背丈と同じくらいの位置にあったり、高低差に関係なく配置してある所為で注意を向けなければならないポイントが多くなり、こちらの判断力を削いで行く上に、位置と方角でダミーを覚えても、乃咲くんを筆頭に素早い生徒が古着の元へ移動して定期的に射撃してくるので、完全ノーマークには出来ないというイヤらしい程の徹底ぶり。
至近距離での攻撃が乃咲くんに一番適正があるのは間違いないが、あの超スピードでサポートに回ってもこんなにも手強いとは。予想を遥かに凌駕していた。
乃咲くんがやりがちな、1対1の暗殺も彼自身の能力の高さで油断ならないし、一瞬の隙が命取りになる。しかし、極論、彼にだけ注意していれば、彼が私を殺すには武器の性能が足らず、本気を出しきれない弱点のお陰でなんとかなる。
けれど、こうして大人数になると手数が段違いだ。周りへの配慮で彼もスピードを落として入るが、それでも超高機動であることには変わらないし、その上に生徒たちの射撃やフィールドにも気を付けなければならなくなってしまう。
警戒対象の増加、狭まってゆく足場、逃げ場のない空間、絶対的な追跡者、連携してくる暗殺者、優秀な指揮官。
間違いなく過去最大のピンチだ。
しかし、希望があるとすれば、この暗殺には制限時間があること。そして、ここまでの移動や現在に至るまでの攻撃で残り時間は1分未満。生き残れば私の勝ちだ。
「ウルトラハードですがねぇ……!!」
呟きながら回避行動を取り続ける。
こうしている間にも、上の2人、爆撃機紛いの乃咲くんの攻撃によって足場はどんどん無くなってゆく。
本当に手強くなった。
生徒たち一人一人、見違えるほどに強くなったし、こうして連携されるとしみじみ思う。
私の力が及ばなくなる程に成長した生徒たちの手で殺される日もそう遠くないのではないのだろうか、と。
その日が来るのなら、それでいい。
しかし、今はまだその時ではないだろう。
教えたいこと、伝えたいこと、一緒にやりたいことはまだまだ沢山あるのだから、ここで殺されてあげる訳にはいかない。
私は回転を始める。いつぞや、竜巻を起こした時の様に。
あの時は生徒たちの背中を少し強引になってでも押すために起こしたというのに、今は生徒たちに置いていかれない為に回転している。同じ行動でも、同じ理由ではない。生徒たちの成長を感じずにはいられなかった。
「くっ……!撃ち方止め!!」
射撃を中止させる烏間先生。
賢明です。この風の中真っ直ぐ弾丸を飛ばせるBB弾もエアガンもこの世に存在しない。
風は生徒たちに危害が及ばない程度に抑えている。私は契約で生徒たちに危害を加えないとしているが、生徒たちの攻撃を防御しないとは言っていない。ならば、これも契約の範疇です。
このまま1分回り続ければ私の勝ち。
しかし、それは流石に大人気ないというもの。ラスト数秒で止めて勝ち誇るとしましょうかね。
その竜巻で足下の対先生弾は一ヶ所にまとまった。
もはや歩いただけでダメージを負うフィールドではない。となれば、一番警戒しなければいけないのは乃咲くんですが、皆さんを気遣った速度で動く彼ならば躱せる。
顔を緑の縞々にして煽る体勢へ。
回転を止め、腕を組み、高笑いの姿勢へ。
……それが最大の油断だった。
「全員、伏せろっ!!」
鋭い声だった。聞きなれた声だった。かつての教え子に似た少年の怒鳴り声に近い指示の言葉。
次の瞬間、突風が通り過ぎた。地面に落ちていたはずのBB弾たちは襲い来る砂嵐の様にエアガンから発射された時以上のスピードで中空を通過する。
「なっ………!!?」
ピンク色の風が迫る想像を絶する光景に思わず素の反応が出た。流石に銃弾程の速度はないが、それでも1発1発が私の身体を破壊できる性質の弾丸。そう認識してしまうと、やはりゾッとする。それは生物の本能だろう。
ヒュンヒュンと風を切る音と共に通り過ぎるBB弾に身体が削られてゆく。致命的なダメージにはならない。しかし、生きながら身体を刻まれる光景は壮絶だった。呆気に取られた一瞬で回避するタイミングを失った。
砂漠では、時として砂嵐によって肉を削られて生き絶える生命がある。そんな彼らの気持ちが少しわかった。
「千葉!速水さん!今っ!!」
暴風の中で聞こえる、そんな声。
無数の臭いの中、本人がいる位置を肉眼で探し、そして手遅れを悟る。目が2人を捉えた頃には既に2人のライフルから精密な狙撃によって弾丸が飛翔していた。
本来なら、問題にならない弾速だ。
だが、そんな弾速であっても致命傷に変えてしまうチカラを私はたった今目撃して、同時に体験したばかりだ。
放たれた弾丸の後ろ。彼が現れた。
銀髪を揺らし、蹴り抜かんと右脚を引き絞った体勢で視界に死角からまるで滑り込むかの様に現れた。
「ッ……!!」
そして放たれる一閃。脚が振り抜かれる瞬間、空気がブレた。歪み、空気が白く濁った様に見えた瞬間、対先生弾が加速した。今度は本物のライフル弾すら目じゃない程の速度を持ったBB弾が圧力で形を歪ませながら向かってくる。
……躱せない。
今からではどんなに頑張っても避けることは出来ない。
それを悟ってしまった。
『ピーピー!タイムアウト〜!』
律さんの声がこの場に木霊したのは、彼の蹴りが発生させた銃声の様な音が私の耳に届くのと同時であり、そして……。
弾丸が私に到達するのとも全く同時だった。
あとがき
はい、後書きです。
今回はハイスペックパンピーの浅野から見た暗殺教室とか圭一への印象とか、烏間先生の立案した作戦の決行回になりました。
烏間先生が立案したのは『臭いでの撹乱』でした。
そこに対して岡島たちサポート班のトラップやら殺せんせー盗撮写真で気を逸らす案を出し、もともと射撃を活かすには〜で始まったことだったので圭一が近接戦ではなく、強襲爆撃機ばりのサポートに回ったっていうのが作戦開始までの流れです。
私の力量では、圭一視点だけだと側から見た圭一の動きとかを描写しきれないので、今後もこんな感じの話しを投下するかと思いますが何卒お付き合いください……!
ご愛読ありがとうございます!